2008年07月24日

No.180 アーネスト式プロポーズ

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欧 州 映 画 紀 行
             No.180   08.07.24配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 作り物である幸せ ★

作品はこちら
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タイトル:『アーネスト式プロポーズ』
製作:イギリス・アメリカ/2002年
原題:The Importance of Being Earnest  

監督・脚本:オリヴァー・パーカー(Oliver Parker)
出演:ルパート・エヴェレット、コリン・ファース、フランシス・オコナー、
   リース・ウィザースプーン、ジュディ・デンチ
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■STORY&COMMENT
オスカー・ワイルドの戯曲『まじめが肝心』を映画化したコメディ。
田舎の貴族ジャックは、架空の弟「アーネスト」という放蕩キャラクターを作
り、アーネストの不始末を口実にたびたびロンドンに出かけていた。
ロンドンではアーネストとして社交界を渡っていたジャック。令嬢グウェンド
レンと恋をしプロポーズし承諾されるも、彼女はアーネストという名の人と結
婚するのが運命なのだというから、さあ困った。
一方、ジャックの友人アルジーは、ジャックが後見人をつとめる令嬢セシリー
に、「アーネスト」をかたって近づくが、今度はセシリーもが、「アーネスト」
と結婚するのが運命だと言い出す。

毎日、暑い。
インターネットを通じてお届けするメルマガだから、バカンスを北極圏で過ご
している人もいるかもしれないし、南半球で暮らしていて極寒だという方に宛
てている可能性もある。だから、皆が共感してくださるわけじゃないだろうけ
れど、とにかくここ東京は暑い。
私は基本「とても寒がり」なので、暑いのは平気な方だ。人が暑いと言いはじ
める頃「やっとちょうどいい気温になったー」とはしゃぐ。が、すごく暑いと、
人並みに暑くてバテる。別に私は格別暑さに強いわけではなかったのだ、と梅
雨が明けると毎年思い知る(ということは毎年忘れるのだ)。

そんな年中行事、暑がる己を思い知る今日この頃、難しいことは考えたくない。
バカみたいな設定、お気楽なハッピーエンド、信じられないようなとんとん拍
子の展開。この暑さでへばった頭にはちょうどいい。

小気味よいセリフの掛け合いが楽しい。字幕に反映されていなかったり、文化
的な知識が足りなくて、わかってないところも多いだろうところがもったいな
いとも思う。
偽名が引き起こすドタバタ、結婚に反対するグウェンドレンの母、真相を知っ
て怒る女性陣、難題は次々とやってくるが、その都度、もしくは最終的に、あ
り得ないくらいにきれいに解決する潔さ。現実の生活ならば、そうはいかない
だろう、と思うから、つまり現実には応用きかず。ここから何かを学び取る必
要はまったくなし。反省とも教訓とも無縁だ。
笑って、くだらなーい、と声を上げ、上映時間を満喫したらそのまま忘れてい
い。そのお気楽さって、実はとても貴重だと思う。

原作の戯曲にほぼ忠実に作られているが、映画オリジナルのシーンにジャック
とアルジーの歌がある。怒った女性陣をなだめるためのデュエット。どっちか
というと下手なところが情けなくてチャーミングだ。舞台では表現できない貴
族のお城やその広々とした庭もみどころ。そして、私が個人的に気に入ってい
るのが、ジュディ・デンチ演ずるグウェンドレンの母の、出てくる度に変わる
派手な帽子。いい味だ。

頭を空っぽにできる笑劇は、本国ではどんな季節に向くのだろう。じっと太陽
と芽吹きを待つ長い冬の間か。それとも季節に関係なく浮き世の煩わしさを追
い払うのか。
もちろん日本でだって、季節に関係なく憂さ晴らしにいい。でも私は、バテた
胃に優しい素麺のごとく、沸いた脳にも心地よく吸収できる真夏が向いている
と思えて仕方がないのだなあ。

■COLUMN
幼い頃、ギャグマンガを読みながら、「なぜこんな風に笑って世を過ごせない
のだろうか」と涙するややこしい子どもだった。
大人になってもう少し気晴らしのしかたはうまくなったとは思うが、三つ子の
魂百まで。作り物の世界への憧憬は変わらない。

そのせいか、例えば「今やってる映画、何観ようかな」とリストアップしたと
きに、「実話をベースにした」などと言われると、「観たい度」の星1つ減る。
もちろん、実話ベースの作品で大好きなものもたくさんある。このメルマガで
も取り上げている。
結局は、一つひとつの作品の質であり、一つひとつの作品に対する好き嫌い。
だから、「好きなタイプ・ジャンル」の話であり、どう宣伝されると観たいな、
と思うか、という次元の話なのだけれど。

予告編などで、「実話を元に」「実際に起こった真実の物語」などと言われる
作品は多く、ということは、そう言われると観たくなる人が多いんだろう。
なんでかなあ。

私は、実話を元にすると、実話の範囲内でしか物語を作れないから、つまんな
いじゃん。それよりは、物語として美しい(ばかばかしい、面白い、くだらな
い、悲しい、緊迫した、etc.)世界を構築する方がいいじゃないかと反射的に
思う。
私とは違って、実話の方が本当に起こったことだから説得力がある、と反射的
に思う人が多い? でも、物語の中の説得力って、本当に起きたかどうかとは、
また別のところにある。
私はだから、実話がベースの場合も、その実際にあったエピソードが物語の世
界としてきれいに成立していれば、たいてい気に入る。エピソードの報告みた
いにしか感じられないと、「だから実話ってつまんない」とむくれる。
本当は「実話であること」には罪はないのだが。

原作者のオスカー・ワイルドは、この作品を「ファルス的」「空想的で荒唐無
稽」「ノンセンス的で、シリアスな興味の的になるものをもっていない」と言っ
たそうだ。
荒唐無稽であっても、劇中での「リアルさ」を作りだしてしまう力、そして、
何らの教訓を見いださなくても(もちろん見いだしたっていいのだけれど)、
その物語の世界の存在自体が面白い。
幼少の私なら、なんでこんなに楽しくトントンと皆幸せにならないだろうかと、
涙しただろうか。

大いなる作り事の世界に、逃げ込ませるのも、逃げ込むのも、実は人類の英知
かな、と、この夏の盛りに思うのだ。


参考資料
『岩波講座 文学 5演劇とパフォーマンス』
http://www.amazon.co.jp/dp/4000112058/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

■DVD INFORMATION
アーネスト式プロポーズ
価格:¥ 3,152(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0012QE124/ref=nosim/?tag=oushueiga-22


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感想やリクエスト、昨日の献立など、どうぞお寄せください。

編集・発行:あんどうちよ

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2008年07月17日

No.179 パリ、恋人たちの2日間(新作)

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欧 州 映 画 紀 行
                No.179   08.07.17配信
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★ 旅に出たら、好きな人が別の人に見えてくるって、あるでしょう ★

作品はこちら
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タイトル:『パリ、恋人たちの2日間』
製作:フランス・ドイツ/2007年
原題:2 Days in Paris 

監督・脚本:ジュリー・デルピー(Julie Delpy)
出演:ジュリー・デルピー、アダム・ゴールドバーグ
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■STORY&COMMENT
ジュリー・デルピーが、監督・脚本・主演・音楽・編集・製作をこなした作品。
アメリカで暮らすフランス人写真家マリオンは、アメリカ人の恋人のジャック
とヴェネツィア旅行に行ってきた。その帰り、猫を預けておいたパリの両親の
もとにカップルは2日間滞在する。
言葉は通じない、マリオンの昔の恋人らしき男が次々登場、だんだんジャック
は不機嫌になって……。

ジュリー・デルピーと言えば、国際列車で偶然出会った男女が、意気投合して
ウィーンの街を一日限りの恋人のように歩く『ビフォア・サンライズ 恋人ま
での距離(ディスタンス)』、そして10年後2人がパリで再会する『ビフォア・
サンセット』が思い浮かぶ。(共演イーサン・ホーク)
この2作、話は面白いけれど、街の撮り方が私はどうにも好きになれなかった。
どこがどうと、うまく説明できないんだけれど、とにかく風景の映像が好きじゃ
なかった。恋人が1日とか2日とか短い期間、街を歩くという設定、これらの
2作を思い浮かべるもので、またあの映像の感じかな〜と、心配しながら観た
けれど、街を自然に捉えていて好感が持てた。撮る人が別なんだから、違って
いて当たり前なのだけれど。

旅に出ると、慣れ親しんでいたはずの人が、急に違う面を見せて別人に見えて
きたりする。数年前に話題になった「成田離婚」なんていうのも、その手のも
のかもしれない。
好きな人が別人に見えて孤独になる、そんな瞬間がたっぷりつまった2日間を
送るカップルは、交際2年。この作品ではそこに、国籍の違いという文化衝突
が加わって、話はややこしく、観客にとっては面白くなる。

文句ばっかりたれる態度の悪いタクシー運転手、昔の恋人でも友達づきあいを
するのは普通で、その上当時の話をしゃべりまくるデリカシーのなさ。
アメリカ人のジャックからすると信じられない事態が続く上、滞在先はマリオ
ンの実家。やたらあけすけな両親の相手もしなきゃならなくて、頼りのマリオ
ンは、両親を煙たがってケンカしても、そこはやっぱり故郷。微妙にチャンネ
ルが変わって、「そこのうちの子」にぴたりとおさまってしまう。ふだん見せ
ない別のマリオンに、ジャックには見えるだろう。

マリオンにしたって、「ヨーロッパはテロが起きる」と、偏見丸出しのジャッ
ク、普通に昔の友達に接しているだけなのに、嫉妬深いジャックに疲れはじめ
る。
楽しくロマンチックなはずだった旅行の最後に訪れる危機。カップルはどうこ
れを乗り越えるのか、それとも我慢しきれず壊してしまうのか。
大人になると、情熱だけで関係を決められなくなる。それが果たしていいこと
か、悲しいことなのか。いろんな見方のできる作品。

■COLUMN
正直なところ、すごーく気に入った作品という訳じゃない。ただ、観た後いろ
いろ考えてしまって、これだけひきずるっていうことは、考えていけば何かあ
るということだな、と題材にした。

旅先で好きな人の違う面が見えてくるところ、相手の親や友人に囲まれて所在
ない孤独を味わうこと、国籍の違いとふるまいの違いを、ついつい結びつけて
考えてしまうこと。などなど、「あるよなー」と共感するところがたくさんあっ
て、面白い。
ただ、じゃあ、そういう細かいこと一つひとつが重なって、どんな物語になっ
てるんだろう、というと、ピンとこない。このシーンが面白かった、あのシー
ンがツボだった、あそこは笑えた、あの下りは身につまされた、等々はたくさ
んあるけれど、物語としてまとまる高揚感が感じられない。

たぶん、そこが私が手放しで気に入ることのできないところで、物足りなさが
残る。しかしそれは、作り物っぽくない自然さがあるということでもある。
(キャラクターはかなり作り物っぽいけれど)
マリオンの両親役は、ジュリー・デルピーの本当の両親が演じている、なんて
ところも、その一要素かな。

あるインターナショナルカップルが、彼女の実家を訪れて、もめたり妬いたり
寂しくなったり、すったもんだ。
親のこと、昔の友達のこと、これからの二人のこと、二人の思い出のこと、旅
のこと。いろんなことが、きゅっとまとまることとなんか無縁に、あっちから
こっちから、己のなかから湧いてくる。

だから、全体として何だった、物語としてきれいに組み立てられていた、など
がなくても、あそこがよかった、あのシーンは笑えた、ああいうことかるかも。
そんな楽しみ方できっとよかったのだろう。いろいろ考えていたら、そんな結
論に達した。
うーん、難しく考えすぎ?

ところで、作品のひとつ豆知識というか豆情報。
ヨーロッパのどこの国の映画を観ても出てる印象のダニエル・ブリュールが、
ここでもちらっと出演。びっくりした。カメオ出演かと思ったら、エンドクレ
ジットでは主演カップル2人の後、3番目に登場していたから、通常出演(?)
なのだろうか。ブリュールファンにもおすすめ。
ダニエル・ブリュールについて。よかったらバックナンバーをのぞいてみてく
ださい。
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film172.html

■INFORMATION
東京での上映はそろそろ終わりのようです。
角川シネマ新宿と恵比寿ガーデンシネマで7月18日(金)まで。
札幌、佐賀、長崎などで19日(土)より。
その他、全国巡回予定。詳細は公式ページで。
http://paris-2days.com/
http://paris-2days.com/theater.html(上映劇場情報ページに直接)

参考
ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)
価格:¥ 3,440(定価:¥ 3,980)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00092P62Q/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

ビフォア・サンセット
価格:¥ 1,500(定価:¥ 1,500)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000FQW0RA/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

ビフォア・サンセット / ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 ツインパッ
ク (初回限定生産)
価格:¥ 5,934(定価:¥ 6,980)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00092P62G/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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感想やリクエスト、日常の愚痴など、どうぞお寄せください。

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2008年07月12日

No.178 ソフィー・マルソーの愛人〈ラマン〉

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欧 州 映 画 紀 行
              No.178   08.07.12配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

前号で、次の配信は7月12日(木)などと寝ぼけたことを言ってしまいました。
どうも6月のカレンダーを見ていたようで。
間違いついでに、
今回は変則的に、土曜、12日付けでお送りする「欧州映画紀行」です。

★ 軽いラブコメで悩みを吹き飛ばそう ★

作品はこちら
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タイトル:『ソフィー・マルソーの愛人〈ラマン〉』
製作:フランス/2003年
原題:Je reste! 英語題:I'm Staying!

監督:ディアーヌ・キュリス(Diane Kurys)
出演:ソフィー・マルソー、ヴァンサン・ペレーズ、シャルル・ベルリング
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■STORY&COMMENT
パリの豪勢なアパルトマンで暮らすマリ・ドーは、夫ベルトランとの関係に悩
んでいる。大手ゼネコンに勤める彼は、出張ばかりで妻にも息子にも無関心。
たまの休日には自分の自転車トレーニングにつき合わせるだけ。
そんな生活に嫌気が差していたマリ・ドーは、ある日、映画館で一人の男性と
出会う。しだいにその男性・アントワーヌに惹かれていく彼女だが……。
夫婦の危機と変化を、ちょっとひねって描くラブコメディ。

こういう三番煎じだか冗談だかわからないようなタイトルは、劇場未公開作品
と決まっている。確かに「フランス映画」好きな客にアピールするには、いさ
さかチープで軽すぎるかもしれない作品。劇場公開するのは難しかったろう。
でも、私は嫌いじゃないな。ばかばかしくもチャーミング、軽ーく元気にして
くれる。蒸し暑い夜にさらりとDVDで観るのに向いている。

ベルトランは、典型的にイヤな夫。仕事ばかりで家庭を振り返らないなら、妻
を自由にさせていたらいいもんだが、息子が小さいことを理由に働かせず家に
縛り付ける。息子が気にくわないことをすれば「しつけが悪い」と怒る。
休みには自分の趣味の自転車に無理矢理つきあわせ、マリ・ドーの役目は車で
併走、食糧補給、怪我の手当だ。
「出世欲の塊」みたいな態度には同僚からも不評を買い、出張先では日常的に
浮気にいそしむ。

まあ、なんでこんな凡庸な男にわざわざヴァンサン・ペレーズを使うかね、と
不思議に思う前半だが、当然ながら、このままのベルトランじゃないから有名
俳優を使うし、映画なのである。

不満が爆発しそうなマリ・ドーに新しい出会い。平凡な主婦のラブ・ロマンス
でも始まるかな、と思うと、そう単純ではない。マリ・ドーの恋人にならんと
するこのアントワーヌ。ただの恋人じゃないらしい、どうも何かの企みがある
らしく、三角関係の始まる後半からは、「どんな話」とジャンル分けするのも
難しくなってくる。

誤解を招くこと承知で言ってしまえば、スピーディーなんだか雑なんだかわか
らない展開。つっこみどころはそりゃあたくさんある。
でもね、不幸がぺっとり張り付いたようなマリ・ドーに、こうやって笑顔が戻
るなら、いいか、と。凡庸で醜悪なキャラクターも、こうやって変化するなら
それもいいか、と。展開のあら探しはしない方が勝ち(って、何の勝負だかわ
からないけれど)だと思う。

何かに悩んでいて、難しいテーマやリアルな人間ドラマは今ちょっと、てな人
にはおすすめ。
前半のマリ・ドーの悩みを見れば、自分の悩みなんてひょっとしたら小さいも
のなんじゃないかと思え、後半のあっけらかんとしたコメディ展開には、悩み
なんてこんなふうに、ポンポンポンと、何とかなっていくもんじゃないかと思
える。ところどころの小ネタギャグには、他愛なく平和に笑えるしね。
ぜひお試しを。

■COLUMN
上にも書いたように、ベルトランは少なくとも初めのうちはひどく俗で凡庸で
横暴だ。
「家庭を振り返らない」「妻に働かせない」「出張先ではCAと浮気」
嫌な夫の記号のオンパレードだ。こういうのは洋の東西を問わない、わかりや
すい記号なんだろう。
さらに、ベルトランのキャラクターを表す記号には、ひょっとしたら日本人だ
からいまいちイメージできないものもあるのかな、というものもある。

例えば、家でも車のなかでもひたすら流すジャック・ブレルの歌。ジャック・
ブレルといえば、往年のシャンソン歌手でフランスの国民的スターだ(本人は
ベルギー人なのだけれど)。どーんと真っ直ぐに歌い上げる歌声を、そりゃあ
毎日流されたらイヤになるってもんだが、「ジャック・ブレルをいつも流して
いる」には、きっと独特のイメージがあるんだと思うんだ。日本だったら何に
あたるんだろう。美空ひばり? グループサウンズ? 
固有名詞の喚起するイメージは、他の何にも代え難い力があって、このあたり
の細かいキャラクターのあり方は、捉え切れてないんだろうなー、と歯がゆく
もなる。

一緒にサイクリングを楽しむならまだしも、マリ・ドーを併走、食事・水分補
給でさんざんつきあわせる自転車も、「ベルトラン像」を創る重要なアイテム。
「社長が自転車好きだから取り入るために始めた」設定は、どこの国でもわか
りやすい「凡庸」だが、自転車が趣味って、日本だったら個性的でかっこいい、
健康的というイメージにもなりそうだ。
実際に自転車に凝り始めると、フレーム(タイヤとかハンドルとかペダルとか
ついていない骨組みのみ)にウン十万だとか、理解しがたい高額の趣味になる
から、家族はいろいろ大変だろうけれど、「イメージ」の問題としてだ。

自転車競技は日本よりヨーロッパはずっと盛んだし歴史もある。ということは、
その競技でウンザリしてきた女どももずっと多いということにもなる。
「趣味が自転車」も、「保守的で自分の世界に没頭する輩」という符号になっ
ているのかもしれない、という気がする。

ところで、この時期、フランスではツール・ド・フランスの真っ最中。「自転
車競技観戦好き」の夫のおかげ、この時期は、毎夜毎夜、ツール・ド・フラン
スの生中継がテレビを独占している。
私だって自転車は割と好きだが、3週間、毎晩、何時間も自転車と山と田舎道
を眺めるのにはちょっぴり閉口ぎみ。
「家族をほったらかす自転車好き」のイメージを想像したのは、そのせいかも
しれない。どうか話半分に。
(彼の名誉のためにつけ加えておくと、ちょっとばかしテレビの視聴時間が長
いだけで、横暴でも、家族を無視しているわけでもないんですが)

■DVD INFORMATION
ソフィー・マルソーの愛人〈ラマン〉
価格:¥ 3,072(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001947CFW/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2008年06月26日

No.177 題名のない子守唄

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欧 州 映 画 紀 行
             No.177   08.06.26配信
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★ 何の話かわからない、サスペンスを楽しむ★

作品はこちら
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タイトル:『題名のない子守唄』
製作:イタリア/2007年
原題:La sconosciuta 英語題:The Unknown

監督・共同脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)
出演:クセニア・ラパポルト、ミケーレ・プラチド、
   クラウディア・ジェリーニ、ピエラ・デッリ・エスポスティ、
   アレッサンドロ・ヘイベル、クララ・ドッセーナ
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■STORY&COMMENT
北イタリアのトリエステに、一人の東欧系の女性がやってきた。名はイレーナ。
何者なのか、何をしに来たのか、誰もわからない。やがて彼女は家政婦として
ある家族、貴金属職人のアダケル家に近づいていく。訳ありげなイレーナの正
体? この家族との関係は? この先には何が待ち受けるのか……。

DVD版ではなくなっていたけれど、劇場で観たときには、本編が始まる前に
「日本の観客の皆様へ」とトルナトーレ監督の署名入りで、「この作品には意
外な結末が隠されています。後から観る人のためにどうか結末を話さないでく
ださい」とかなんとか、正確な言葉は忘れたけれど、お願いのメッセージが表
示された。
バカ正直なところのある私は、観てる間、特に物語も後半になると、「仰天の
結末ってこれ?」「驚愕の事実ってこれのこと?」と、いちいちびくびくと意
外な結末探しをしてしまった。あんな警告をしなくても、ネタバレを話す人は
話すし、話さない人は話さないし、あんまり意味なかったんじゃないのかなあ。
それとも、私みたいに、いちいち「え、これのこと? これのこと?」と観て
もらうことを期待したのか。だとしたらまんまと術中にはまったことになる。

そうしてびくびくと観るのもあながち間違いではないかも、と思うのは、この
物語が、誰だかわからない女のなんだかわからない話を眺めることに、少なく
とも前半は主眼があるから。
女はこの家族に何か復讐を企んでいるのかも知れない。
この家族の何かを探っているのかも知れない。
ひどい性的な思い出らしき回想シーンが、短く、フラッシュバックのように、
ところどころに挟み込まれる。そんなところからも、このイレーナは、かつて
自分をひどい目に逢わせて男へ復讐を考えているのでは? と想像させる。

だが、アダケル家に入り込んだ彼女は、幼い娘テアにもすっかりなつかれ、ど
んどん信頼を勝ち取っていく。家族をむしろ幸せへと導いているかのように。
果たして彼女の目的は何だろう。観客は頭フル回転で、この宙ぶらりんサスペ
ンスを楽しむ。もしくは、考えずにわからなさに身を任せて楽しむ。

そんな訳だから、どんな話なのか、これ以上は言わない。確実に何かを企んで
いるらしき見知らぬ女のサスペンスだ。
しかし、しかし。ラストについて一言だけ。物語の帰着としてあのラストは必
要なんだろうなと思いながら、うーーん、私はどこか納得がいかない。そう、
なるもんかなあ。私はそうはいかないと思うぞぉ。ぐじぐじ。
観た方、どう思ったか、ぜひ教えてください。

■COLUMN
世間の評価とは対照的に、ジュゼッペ・トルナトーレ作品は、これまでどうも
相性が悪かった。
名高き『ニュー・シネマ・パラダイス』も、どこで心を動かしてよいやらピン
とこない。この作品、好きな人は「これをわからない奴は人としておかしい」
てな具合ですごんでくるから、あまりおおっぴらにわからん、というのもはば
かられ、「苦手なんだーなんとなく、、、」と下を向くことにしている。今よ
りもっともっととんがっていた若い頃に観たせいかもね、とも思う。が、こち
らも評判高き『マレーナ』も、どこでピンときてよいやらわからなかったとき
には、やっぱりこの監督とは相性というものが徹底的に違うのだ、という結論
に達した。

そんな結論を出しておきながら、この『題名のない子守唄』を観てみようと思っ
たのは、前出2作にピンとできなかったのは、「男の子の物語」だったからじゃ
ないか、という気もしていたから。
その勘は当たったのかもしれない。この監督が女性を主人公にすることは珍し
いらしいが、これまで女性を描かなかったことを意外に思う。女性の悲しみと
か、女性ならではの意地悪な視点とか、女性だからこその身勝手さとか、そん
なものがたくさん盛り込まれているこの作品には、するっと入り込むことがで
きた。

その分、女として、辛いモノつきつけられたな、という痛さは刻まれるけれど、
うまいこと、心をえぐってくれる刺激はある意味で心地よい。
そして同時に、男だ女だ、を超えた、今、この時代を見つめる社会性があるこ
とも、作品に引きつけられた理由であると思う。

昔からのトルナトーレファンにとって、この作品はどうなんだろう。その辺り
の感想も、ぜひ送ってください。

■INFORMATION
・DVD
題名のない子守唄
価格:¥ 3,152(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00147TURM/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

来週7月5日は、配信をお休みします。
7月12日(木)に再開予定です、
が、場合によるともう1週お休みする可能性もあります。
よろしくお願いいたします。

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感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

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2008年06月19日

No.176 ONCE ダブリンの街角で

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欧 州 映 画 紀 行
              No.176   08.06.19配信
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★ 音楽の出会いに、言葉も背景も要らない ★

作品はこちら
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タイトル:『ONCE ダブリンの街角で』
製作:アイルランド/2006年
原題:Once 

監督:ジョン・カーニー(John Carney)
出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ
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■STORY&COMMENT
ダブリンの街角で、穴のあいたギターで歌うストリートミュージシャン。ある
日、男の前に花売りの女が現れた。チェコ移民である彼女は、昼休みに楽器店
でピアノを弾かせてもらうのが楽しみ。
彼女のピアノを聴いて気に入った男は、自分のオリジナル曲をセッションしな
いかと誘う。

失恋をひきずって掃除機修理を営む実家でくすぶっているミュージシャン志望
の男と、貧しいが音楽の才能のある東欧移民の女。この二人の出会いの物語だ
と思っていたから、映画も早いうちからさっさと二人が出会っちゃったのには
ちと驚いた。
それぞれの孤独と閉塞を描いて、その状況を観客が心に刻んで、運命の人と出
会って、互いの人生が変わる、なんてタイプの物語だと思っていたから。

この物語は、二人の出会いや恋よりも(そもそもこの二人にある関係は、恋な
んだか友情なんだかその間なんだか、はっきりとしない)、音楽の出会いを描
いたものだ。
女はストリートで歌う彼の音楽が好きで話しかけた。男が彼女を好ましく思う
のも、ピアノを聴いてのこと。音楽と音楽の出会いなら、詳しい背景も要らな
い。前提とか、状況説明とか、意味すらどちらでもいい。そこに音があって、
それがサイコーだと思う。それでいい。

彼を演ずるのは人気バンドのリーダー、彼女を演ずるのは、そのバンドがチェ
コツアーを行ったときに知り合ったチェコの若きシンガーソングライター。や
たら揺れるカメラで二人の様子を捉えたこの映画は、その時の音楽家二人の出
会いを再現したドキュメンタリーとも言えるだろう。
主人公の名はわからず、最後まで一人の男と一人の女のままだ。

とは言っても、人間を描いてないということではない。互いに惹かれているけ
れど、恋には発展しない二人の姿はいじらしく、一撃で一目惚れできる音楽と
は対照的に、ぐずぐずと繊細な関係を描いているところはおしゃれだ。この後
を、観客の想像力にゆだねる辺りも。

全編にちりばめられたメロディアスなロック(だと私は思った)を楽しみなが
ら、ちょっと温かい気持ちになれる小品だ。

■COLUMN
アイルランドはダブリンが舞台の映画。上に書いたように、ドキュメンタリー
なタッチが味つけになっていて、ということは、オールロケ。男が歌うストリー
トはダブリンのホントのストリートで、海辺はホントにダブリン市民の憩いの
場で、スタジオはホントに街中のスタジオだ。
ロケ地マップが作品公式ホームページに載っていた。
http://oncethemovie.jp/ (About Ireland をクリック)

ダブリンを眺められる機会はうれしいのだけれど、欲を言えば、もっと、登場
人物がフレームに入っていないところで、意味なく(ないことはないんだろう
けれど)風景を映してくれるところが多いと、映画鑑賞で現地に行った気にな
る我がメルマガとしては、さらにうれしい。

そのアイルランド、イギリスの影響が濃いんだなあと、この映画でつくづく思っ
た。
まず、ストリートで歌う男は、恋人にふられてこのダブリンでくすぶっている。
くすぶっているとは言っていなかったけれど、そういう風情だ。まるで、ダブ
リンが農村部で何もないところであるかのような雰囲気で。
ダブリンって首都でしょー。背景に見える街並みも活気があるよー。と私は思
うのだけれど、やっぱりロンドンに出ないといけないらしい。きっと、殊に音
楽をやりたいなら、CDを出したいなら、ということだろうけれど、ちょっと不
思議だ。

そして、映画のスタイル。この作品が音楽に縁が深いから、ということもある
けれど、セリフが消え、ずっと音楽がならされて、画面は風景のように登場人
物の行動が映し出されて一定の時間の経過を表す、イギリスの映画(特に青春
映画)で多用されるシーンがたっぷりだ。(わかるかなあ、この説明で。この
演出方法に名前が付いているのだったら、誰か教えてください)
知らずにそのシーンだけ観たら、間違いなく「イギリス映画」だと思う。

イギリスと、同じではないけれど、文化も経済も近くてとても似ている。だけ
れどきっと、同じと言ったらすごーくお怒りになるんだろう。そんなアイルラ
ンド、いつか行ってみたいなあ。

■DVD INFORMATION
ONCE ダブリンの街角で デラックス版
価格:¥ 3,032(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0016XF4OW/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2008年06月13日

No.175 女と男のいる舗道

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欧 州 映 画 紀 行
             No.175   08.06.12配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 私の人生は、自由を持った私が作っているのか ★

作品はこちら
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タイトル:『女と男のいる舗道』
製作:フランス/1962年
原題:Vivre sa vie 英語題:My Life to Live

監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)
出演:アンナ・カリーナ、サディ・レボ、ブリス・パラン、
   アンドレ・S・ラバルト
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■STORY&COMMENT
若くして結婚、子どもをもうけたが離婚したナナ。女優となる夢を持っていた
が、レコード店のバイトでは自活できない。一度行きずりの男と寝て金を得た
のをきっかけに、プロの娼婦の道へと入っていく。

ストーリーはいたってシンプル。女優になりたいと言いながら、結局堕ちてい
くしか道がない、悲しい話だ。
ただ、その伝え方が、シンプルなのかシンプルじゃないのかわからない。たぶ
ん、シンプルか否かという問題設定がおかしいということになるんだろうが。

12章に分かれた構成は、時系列には並んでいるのだけれど、何となく時間の経
過を感じさせず、ナナの日常をスケッチし、ランダムに捉えたような印象が残
る。
その12のスケッチは、各章はじめに、例えば「10 舗道 ある男 幸福は楽し
くない」という具合に、おおまかな内容まで並んでいるから、観る方としては、
何が起こるかというのは大事な問題ではなくなくなる。
だから、主演のアンナ・カリーナの表情やしぐさ、警句的セリフが、やたらと
頭に残る。その印象の残り方は、目で観たもの聞いたものが残っていると思え
ば、シンプルともいえるし、ストーリーとは別の細かいところが残ると捉えれ
ば、ややこしいともいえる。

コケティッシュなボブの黒髪が印象的なナナ=アンナ・カリーナは、時折、演
技をしていない素の状態かと思わせる表情を見せる。それがまた抜群に観客に
強い印象を残す。
この撮影の頃は、アンナ・カリーナと最も親密な状態だったといわれるゴダー
ルが、演技しているときもしていないときも、愛する女をひたすら映し続けた
のか(それを後にアンナ・カリーナが怒ったという話もあるらしい)、考えは
じめると、ここに描かれたのはナナの人生なのか、アンナの女優という仕事を
している人生がどこかに同時に示されているのか、ああ、これもどんどんシン
プルじゃなくなってくる。

ゴダールのモノクロ映画は、部屋に流しておくとそれだけでなんとなくひとつ
のインテリアになるところも魅力だと思う。
部屋に流して、ああでもない、こうでもない、と考えているだけで、なんとな
くインテリになった気になれる効果もある。

いやいや、皮肉じゃなく。いろいろ解釈して観るのって、楽しい。
その解釈のひとつを、COLUMN欄で↓↓。

■COLUMN
去年の暮れ辺りから、我が家はちょっとした伊坂幸太郎ブームだ。ふだんあま
り小説なんぞ読まない夫が、なぜだか気に入って買い込んできて、全作品そろ
えたって具合ではまだ全然ないけれど、買っておいてあるものは私も読むので、
集中していろいろ読んだ。
そんなブームの一環で読んだ『死神の精度』。ここには、このゴダール映画で
「哲学者」が語る「微妙な嘘は誤りに近い」というセリフの引用が何度か出て
きていた。ちょうど読み終わって頭も温かかった頃に、他のDVDを見つけ出そ
うと、DVDの山をあさっていたら、ぽっとりと目の前にこれ『女と男のいる舗
道』を録画したディスクが落ちてきた。録画したことも忘れていたのだけれど、
これは、今観て、そして書けっていうことだな。と、今週のメルマガの題材と
なった。

今回は『死神の精度』がきっかけで観てみたわけだけれど、この小説から連想
すれば、ああ確かに、悲しい運命が待ち受けるナナは、1週間、死神が張り付
いていたのかもしれないな、と、伊坂幸太郎の「好きな映画だから引用した」
以上のものを感じ取った。(小説を読んでいない人には何のこっちゃですね)

そして、この映画を最初に観たのはずいぶん前だと思うけれど、そのときには
(おそらく)、思ってもみなかった捉え方を私はした。

ナナの悲しさは、「自由なんだから、すべてに責任があると思う。右を向くの
も、不幸になるのも、タバコを吸うのも、私の責任。人生は素敵だと思えばい
い」と言う本人の自覚とは逆に、ちっとも自由になんかなれていなかったこと
のように思う。
自由を求め女優になりたいと思い、自分の責任で自分の人生を決めていると信
じていながら、実は、流されて堕ちていくシステムにきれいにはまっているだ
けだった、そしてナナは最後までそのことに気づいていない。このことがいち
ばん、やりきれなくて悲しいことなんじゃないかと、今は思う。

前出『死神の精度』の、死ぬ人も死神自身も、見渡すことのできない大きなシ
ステムのなかに組み込まれている世界観に似ている。

ゴダール、に限らず、そして映画に限らずどんな作品も、いろんな見方がある、
けれど、まあこんなゴダール作品は特に、いろーんな見方ができる。そのうち
の一つの見方・考え方だ。
私も、たまたま今じゃなければそんな風に考えなかったかもしれない。
でも、今は「システムに組み込まれる」見方が気に入っている。
『女と男のいる舗道』二回目以降の人、初めての人、そんな面から観てみるの
も、おすすめですよ。


■INFORMATION
・DVD
女と男のいる舗道
価格:¥ 2,250(定価:¥ 2,500)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000F4LD9S/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

・参考図書
死神の精度 (文春文庫 (い70-1))伊坂 幸太郎
価格:¥ 550(定価:¥ 550)
http://www.amazon.co.jp/dp/4167745011/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

・バタバタやワタワタはずいぶんと収まりました。
が、かわりにクタクタです。
そんな訳で、来週か再来週か、どこかで、観る時間と書く時間があってもお休
みしようかと画策中です。
メルマガがこなかったら、ああ、あの人クタクタだ、と思っていてください。

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タグ:フランス
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2008年05月22日

No.174 僕のピアノコンチェルト

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欧 州 映 画 紀 行
             No.174   08.05.22配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 天才の悩みは、案外普遍的? ★

作品はこちら
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タイトル:『僕のピアノコンチェルト』
製作:スイス/2006年
原題:Vitus 

監督・共同脚本:フレディ・M・ムーラー(Fredi M. Murer)
出演:テオ・ゲオルギュー、ブルーノ・ガンツ、ジュリカ・ジェンキンス、
   ウルス・ユッカー、ファブリツィオ・ボルサニ
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■STORY&COMMENT
頭脳もピアノの才能も秀でたヴィトスは、小さい頃から天才・神童と呼ばれ、
周囲を驚かせ、期待させてきた。飛び級で上の学校に通い、奇異な目で見られ
るヴィトスは、両親の期待も周りの対応もしだいに息苦しくなってくる。田舎
で職人をやっている祖父だけが理解者だ。
そんなある日、マンションから落ちてしまい、事故の後遺症で高いIQもピアノ
の才能もなくなり、ごく普通の男の子になってしまう。

昨秋に映画館に観に行って、そんなに期待していなかったのに、私の好みどん
ぴしゃで驚いた。「んふっ」て声出しながら口角が上げてくれるユーモアがあっ
て、適度に荒唐無稽で、適度にハラハラさせてくれて、適度にハッピー。観た
後、「よかったよー」て言ったのだけど、いまいち反応がよくなかったなあ。

確かに考えてみれば、この作品を好む人って、特定しづらい。派手な映像迫力
を好む人にはいかにも地味すぎ、人生を深く見つめて哲学したい諸兄にはバカ
バカしく、感涙のカタルシスを味わいたい乙女にはインパクトが足りない。で
も、そうした典型例にははまらず、その間、間、を縫うように、人生の不可思
議や、ちょっとした感情移入やら、スイスの大空やら、映画にあり得るいい要
素が少しずつ入っていて、バランスのいい作品なんだ。

「天才少年」というキャラクターが、ありそうでなさそうな、なさそうだけど、
ひょっとしたらありそうな、絶妙なストーリーを可能にしている。こんなこと
が本当にあったら、と楽しい希望を抱きたくなる。

そして、これが何よりこの作品のポイント。12歳のヴィトス演ずるテオ・ケオ
ルギューは、本当にピアノの神童で、すでにコンサートも開いている少年だ。
作品中、披露するピアノは、すべてテオが実際に弾いているもの。戯れにポロッ
と弾くものから、レッスンで弾くものも、すべて本物の演奏だから、ピアノ映
画としての説得力が抜群だ。

俳優が弾くフリをして音をつけると、そのついた音は、ふつうの上手な演奏に
なるけれど、ここで聴けるのはヴィトス=テオの、けっこう個性とクセのある
演奏。怒って弾くとき、乗って弾くとき、イヤイヤ弾くとき。音も動作も表情
も伴ってその場合場合で演奏が変わる。「ロシア風演奏」の物まねなんてこと
もしてくれる。

演技ができる人に、ピアノを弾くフリを練習させるより、ピアノを弾ける人に、
演技の練習をさせる方が、ずっと早いんだと、ちょっとした真理に行き当たっ
た気分だった。

■COLUMN
いわゆる「天才もの」には、たいがい天才ならではの苦悩が描かれていて、そ
れを眺めていると、ああ凡人でよかった、とほっとしたりする。
この作品のヴィトスも、学校が受け入れてくれない、親が過剰に期待して天才
児の親として過剰な責任感を持つ、どれも息苦しいことこの上なさそうだ。

しかし、よく考えてみると、親の期待が息苦しかった、なんてことはたいてい
の人が経験しているし、学校が窮屈だった人もたくさんいるだろう。ただ、凡
人だと、それはみんなそうよ、で片づけられてしまうだけ。
この映画を観ていて観客がヴィトスの気持ちがわかるのだって、ヴィトスの悩
みが特別じゃなくて、誰もが想像できる悩みだからだ。

天才だから薬におぼれた、天才だから奇行に走る。芸術家や前人未踏の業績を
挙げた学者やら、天才ならではのエピソードは世にあまたある。天才だからお
かしな行動に出る。と解釈しがちだけれど、案外、順番が違うかもしれない。

心の弱さから薬におぼれた、アルコールに耽溺した、理解できない行動に走っ
た、そんな人はいくらでもいるけれど、特に秀でた才能がなければ、そういう
(だめな、弱い、おかしな、かわいそうな、、などなど)人で終わる。ただ、
たまたま、天才と言われるほどの何か特徴的な才能を持っていれば、人は、
「天才だから常人には理解しがたい苦悩があってああなる」と物語を作ってく
れる。どこと特徴のない人は、悪癖は一刻も早く捨て去らなければならないけ
れど、天才ならば、世に貢献することで、何となく差し引きされて、悪癖を併
せ持っていてもよいというか、仕方ないようにされるんじゃないだろうか。

誰もが弱点や苦悩や悪癖を持つ。それを、その持ち主が何らかの天才だからっ
て、「天才故の」と軽々しく結びつけるのは、才能はないのに、まずは狂った
ふりして天才だと思いこむ若者と同じような順番違いかもしれない。
そりゃあもちろん、特殊な才能が引き起こす悩みもあるだろう。でもそれは、
他の人と同じように、なんとかして克服しようとする余地のある、人としての
普通の悩みであって、天才の悩みという特別のジャンルがあるわけではないん
じゃないかな。どうだろう。

■INFORMATION
・DVD
僕のピアノコンチェルト
価格:¥ 3,990(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0015XEYSA/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

・サントラCD
「僕のピアノコンチェルト」オリジナル・サウンドトラック
価格:¥ 2,267(定価:¥ 2,520)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000T2ICAE/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

・最近ちょっとオタオタしてます。
つきましては、来週は発行をお休みします。

再来週は、観る時間と書く時間があれば、出そうとは思っているのですが、
まだわかりません。しばらく発行がなかったら、
おお、あやつはオタオタしてるなー、と思っていてください。
よろしくお願いします。

---------------

感想・問い合わせ・リクエスト等、お寄せください。

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2008年05月15日

No.173 待つ女

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.173   08.05.15配信
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ちょっとバタバタしていましたので、
先週お休みしてしまいました。申し訳ありません。

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★ つながれない二人 ★

作品はこちら
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タイトル:『待つ女』
製作:フランス/2006年
原題:7 ans 英語題:7 years

監督・脚本:ジャン=パスカル・アトゥ(Jean-Pascal Hattu)
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、シリル・トロレイ、ブリュノ・トデスキーニ、
   ナディア・カシ、パブロ・ドゥ・ラ・トーレ
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■STORY&COMMENT
夫ヴァンサンが7年の刑に服して1年が経つ。メイテは週2回の面会を欠かさな
い。ある日、兄の面会に来たという男に声をかけられた。しつこく誘われるう
ちに、車で送ってもらったメイテは、その男と関係を持つようになる。しかし、
実はこのジャンという男、ヴァンサンの看守だった。

衣類を洗濯しアイロンをかけ、頼まれた差し入れのもを調達し、手を握り合う
だけのつかの間の逢瀬。二人とも互いが恋しい。
愛し合っている。7年が経つのを待っている。でも、塀の中に閉じこめられた
男は、いつか捨てられるかもしれないと恐怖があり、女も、いつか愛の形が変
化するのではないかと怖い。手は握れても、人目を盗んでキスできても、つな
がり合えない辛さは相当なもの。そして、「あの人とつながれない」悲しみに
は、「それなら誰でもいいのにつながれない」悲しみもぴったりと寄り添って
いる。
1年間、毎日一人の夜を過ごせば、誰かとつながりたい、誰かに触りたい、誰
かに触られたくなる。そんなところに謎のジャンがやってくる。

ネタバレといえばそうだけれど、この話はしないとこの映画について語れない
ので。
ジャンは、ヴァンサンに頼まれてメイテを誘惑した。らしい。らしい、という
のは、最後まで観ても、なんでジャンは頼まれてほいほいとそんなことをした
のか、どんな経緯でそうなったのか、ていう説明はないから。
レコーダーで性行中の音をとって、ヴァンサンはそれを聞く。それでメイテを
想う。屈折した愛情と欲望だ。事情を知ったメイテも、それを拒否できない。
ジャンの向こうに音を聞くヴァンサンを想いながら交わる。

官能ミステリーみたいにパッケージには書いてあって、屈折したプレイをにお
わせていたけれど。屈折なんてみんなちょっとずつしてるものだから、そこに
スポットをあてることに私はあんまり興味ない。この映画の面白さは、そうい
う変態性ではなくて、欲望と心理と葛藤とが入り混じった描写にあると思う。

そして、ヴァンサンが、なぜ7年の刑になったのか、間男の役回りのジャンが
くり返し「本当に愛している」と言ったのは、どこまで本当だったのか、はっ
きりとはわからない、不親切な設計がまたよい。人はこういうのを指して「フ
ランス映画」と代名詞的に使ったりするのではないか。

最後はどこかせつなくて、誰がというんじゃなくて、3人が3人ともせつなく
て。ああでもなし、こうでもなしと、考えさせてくれる良作だった。


■COLUMN
本を読むと、3行で「あ、これだめ」て思うことがある。1行のときもあるか
な。図書館で適当に借りてきた本ならそこでやめるけれど、お金を出しちゃっ
たとか、誰かに勧められたとか、とても評判がよくてそれがだめだと思ったら
自分がバカかもしれないとか、まあ、そういうときは、がんばって、読む。ミ
ステリーなんかで一応先が気になって読めるってこともある。

そういう場合、感想を聞かれると「んー、一応先が気になるからねー、最後ま
で読んだしぃ、面白いっちゃあ面白いけどお、文章がだめっ」と、最後に早口
に全否定みたいな感想になる。
3行読んで、「お、いいね、いいね」て思ったけど途中で気に入らないところ
がいっぱい出てくることはあっても、3行読んでだめだったものが、行を重ね
るにつれて持ち直すことはない。

こうしてメルマガを続けてきて、時間がなかったり気分的にあーんまり乗らな
いときにも、がんばって映画を観るなんてことも増えて、そりゃあとにかく、
観た映画の本数がたくさんになった。

で、その経験で、できるようになったことと言えば。3分観れば、だいたい、
その作品が好きかどうかわかるようになった。
本が字(言葉)だけでできているのに対し、映画は、背景の景色がきれいとか、
役者がとにかく美男子だとか、かかってる音楽だけは天下一品だとか、他の要
素もいっぱいあるから、最初の3分の比重は、最初の3行ほどではない。けれ
ど、最初に「だめ」て思ったものが、メルマガで取り上げてもいいな、と思う
程度に「よかった」と思えることは、やっぱりほとんどない。
それを私は一種の「語り口」だと思っている。おそらく、カメラの動き、対象
の映し出し方、フレームの切り方なんかで、好き嫌いを直感できるんだろう。

この作品、「ハズレかもしれないけど、一応」と半信半疑だった。でも、観は
じめたら。
タイトルや俳優の名前が1分半くらい。Tシャツにアイロンをスチームで、折
り目までつけてしっかりかける女を真横から映し、正面からに視点が移って、
奥の部屋へ向かう女を見やる。戻ってきた女はシャツに香水をふりかけ、その
香りを確かめると、満足そうに小さく笑みを浮かべ、大きなナイロンの袋に衣
類を詰め、画面はその袋の所帯じみた花柄が支配する。
その3分弱で、「お、これぜーったいアタリ」て思ってうれしかった。

そのアイロンがけが、何を意味するんだろうと、頭から思いっきり気がかりに
させてくれて、映画の中に自然に入り込める。しかも、アイロンも、そのかけ
方も、部屋も、リアルな生活感がある。
監督は、ドキュメンタリーのシリーズを撮っていたそうで、生活の細かなとこ
ろまで、一見執拗に、でも自然に映し出すのは、きっとドキュメンタリー的な
観察なのか、なんて思った。

上に書いた、冒頭のシークエンスを文章で表してみたいと思って、この作品を
取り上げたようなところもある。幸せな直感を与えてくれた、最初の3分だっ
た。

■INFORMATION
・DVD
『待つ女』
価格:¥ 3,441(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0011UGY08/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

・引き続き、ちょっとワタワタしてます。
来週はたぶん普通に発行しますが、
その先、またぽつぽつ休むかもしれません。
よろしくお願いいたします。

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2008年05月01日

No.172 サルバドールの朝

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欧 州 映 画 紀 行
              No.172   08.05.01配信
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★ 大事な人を、もがれる痛み ★

作品はこちら
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タイトル:『サルバドールの朝』
製作:スペイン・イギリス/2006年
原題:Salvador

監督:マヌエル・ウエルガ(Manuel Huerga)
出演:ダニエル・ブリュール、トリスタン・ウヨア、
   レオナルド・スバラグリア、ホエル・ホアン、レオノール・ワトリング
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
1970年代初頭、フランコ独裁政権下のスペイン。自由を求めて多くの若者が活
動していた。その流れに乗って、青年サルバドールも仲間と一緒に反体制活動
に加わった。
警察にマークされ、銃撃戦となったある日、彼のはなった弾で警官が死に、自
身も重症を負った。警官には他の銃弾も撃ち込まれていたが、捜査ではその事
実は隠され、警官殺しの罪は重く、サルバドールには死刑の判決が下された。
減刑を求める声も高まるが、執行の日は刻々と近づき……

たまたまだけれど、スペインの辛い歴史の映画が二度続いた。前回は、1940年
代、内戦で人の心も土地も荒廃していた。そして、そこからさらに独裁政権と
いう試練が訪れたスペインだ。この映画では独裁政権も末期の頃だが、カタルー
ニャ語(バルセロナ辺りで話される言葉)が禁止されているなど、内戦の頃か
ら続くスペインの悲しい側面が散見される。

公開当時、私の母が観てとてもよかったと話していて、「えー、意外だなー」
とピンとこなかった。だいたいどんな映画でも観れば楽しむ人ではあるが、当
時私は、この映画を、死刑になる時を映し出す苦しい映画、さらに政治的な要
素が加わっているとイメージしていたので、母の好みとは違うんじゃないかと
思ったのだ。

今回、観てその違和感が解けた。
これは、死に行く者をじっと見つめた物語。要素はまったく違うけれど、苦し
みへの寄り添い方はどこか難病の映画に似ている。
だから、サルバドールが何をしたか、よりも、死刑が決まった後の、サルバドー
ルと家族、弁護士、しだいに親しくなった看守との関わりがクライマックスだ。
自分にとって大事な人が、もがれるように連れ去られる痛みを、じっくりと時
間をかけて描く。
死刑を描くセンセーショナルでも、声高に訴えるメッセージでもなく、大切な
人が今に旅立ってしまうこと、激しい苦しみに突き落とされること、そして、
大切な人たちを遺して去らなければならないこと、とてもとても根源的なとこ
ろをずーんとズームして描く。

苦しくて辛い物語だけれど、人のつながりの強さを見せてくれる物語でもある。
いや、そのつながりが強いが故に、悲しく辛い、てこともあるのだけどね。

■COLUMN
主演のダニエル・ブリュール。『グッバイ、レーニン』とか『ベルリン、僕ら
の革命』とか、ドイツの面白い映画でこの俳優を知って、ドイツ若手ナンバー
ワンなんだな、と思っていた。
ドイツの映画だけじゃなくて、フランス映画『戦場のアリア』でドイツ人将校
役を、イギリス映画『ラヴェンダーの咲く庭で』では漂着したポーランド人ヴァ
イオリニストを演じていた。
なんだかどこの国の映画を観ていても出てくるなあ、と思っていたら、今度は
スペイン映画でスペイン人の役と聞いてびっくり。

で、ここでようやく調べてみた。
母がスペイン人、父がドイツ人、生まれはバルセロナで育ちはケルン、現在の
拠点はベルリン、毎年夏休みは母の故郷バルセロナで過ごし、ドイツ語もスペ
イン語も母語とのこと。本名はDaniel Cesar Martin Bruhl Gonzalez Domingo
(発音記号っぽいのは省略)。長いなあ。

これじゃあ、今までスペインの映画に出ていなかった(のかどうか、ちゃんと
は調べていないけど)のが不思議なくらいか。
きっとこれからも、国境を軽々と飛び越えて、ヨーロッパの俳優として活躍し
ていくんだろう。「ヨーロッパ」を「ひっさげて」アメリカに行ったりさー。

でも、ひょっとしたら、と思うのだけれど。
私はたまたま、ドイツもスペインも同程度に映画でしか知らずに、日本から二
つの国の映画を眺めている。だから、ドイツで有名なダニエル・ブリュールが
スペイン映画でも評価をもらってるなー、と思う。でも、これってドイツの人
からしたら、「へー、彼、スペインの映画に出たの? ああ、お母さんスペイ
ン人だから、スペイン語いけるんだ。ふーん」てなもんだったりしないだろう
か。「外国でもなんか出たんだ」って。
スペインの人からすれば、「サルバドール演った俳優って、ドイツで活動して
たの? 意外?」て具合に、ドイツでの役者活動はそんなに振り返られなかっ
たりして。

ヨーロッパはひとつといっても、やっぱりそこに暮らしている人はどうしよう
もなく自国、もしくは自分の地域中心にものを見るだろう。だから、「ヨーロッ
パを代表する俳優」なんて、この極東の地ではありがたいコピーになっても、
やっぱり、ヨーロッパでは、ある時はドイツの俳優、ある時はスペインの俳優、
の方が自然でとっつきやすい、ていうことはないかなあ。

ダニエル・ブリュール、今度はどこの国の映画で、何人の役だろう。ちょっと
楽しみ。

上に登場した作品のなかで、前にこのメルマガでとりあげたもの
『グッバイ、レーニン』
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film032.html
『ベルリン、僕らの革命』
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film077.html
『戦場のアリア』
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film126.html


■INFORMATION
★DVD
サルバドールの朝
価格:¥ 3,198(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0012IU112/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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移動中、眠れない夜などに、どうぞ。http://a.mag2.com/0000131928/
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ひょっとすると来週、再来週あたり、休刊するかもしれません。
マガジンが来なかったら、「あー、あやつはバタバタしとるな」と
思っていてください。観る時間と書く時間があれば、発行します。

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タグ:スペイン
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2008年04月25日

No.171 パンズ・ラビリンス

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欧 州 映 画 紀 行
            No.171   08.04.24配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 幻想を持てることは、絶望か、希望か ★

作品はこちら
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タイトル:『パンズ・ラビリンス』
製作:スペイン・メキシコ・アメリカ/2006年
原題:El laberinto del fauno 英語題:Pan's Labyrinth

監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)
出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、
   ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル、アレックス・アングロ
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■STORY&COMMENT
1944年スペイン。内戦終結後も、フランコ政権に抵抗する人々がゲリラとなっ
て山中に潜んでいた。内戦で父を亡くしたオフェリアは、母の再婚相手のビダ
ル大尉のもとに来た。ビダルはゲリラを一掃しようとする冷徹な男。妊娠中の
母にも冷たい。
おとぎ話の好きなオフェリアは、残酷で冷たい現実から逃れ、空想の迷宮に迷
い込み、地下の国のプリンセスの生まれ変わりとして、「試練」に挑むことに
なる。

公開当時、「スペイン内戦下、少女が空想の世界に逃げ込む」という内容を聞
いて、それってビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』そのまんまじゃ
ん。二番煎じだったらつまらんのう。とぐだぐだ考えていた。「名画」だと思っ
ている映画だから、どうも引っかかるところがあったのだ。そんな訳で、いい
評判を聞いても、なーんとなく観る気にならず、気づけばDVDのレンタルが開
始されていた。時ってあっというまに過ぎていくなあ。

観てみたら、二番煎じなんてことは全然なかった。
懐中時計の使い方など『ミツバチのささやき』へのオマージュか、目くばせか、
と思わせるところもあるが、「幻想」部分がもっと物語にくいこんでいる点で、
まったく違う印象を持った作品だ。

この映画は、「ファンタジー映画」なのか「スペイン内戦を描くドラマ」なの
か、定義づけがしにくい、と言われるらしい。まあ、そうだろうね、だって両
方だもん。定義とかジャンル分けとかする立場じゃなくてよかった。

オフェリアの逃げ込んだ空想の世界は二重の意味で物語にくいこんでいる。
1つには、CG技術で「幻想の世界」を完全に映像として見せていて、その映像
そのものが作品の肝の一端となっていること。そしてもう1つは、その「幻想
の世界」は、そこで完結せず「現実の世界」に影響を及ぼしているということ。
だから、オフェリアの幻想は、果たして「幻想」だったのか、「現実」に起こっ
たことなんじゃないの? という解釈の議論も起こる。

『ミツバチのささやき』では、成長した主人公は、幻想と現実の折り合いをつ
けた(ように私には感じられた)。でも、この作品のオフェリアは、もっと深
く、「幻想の世界」にはまりこみ、「幻想の世界」が「現実の世界」を浸食し
ているように感じられる。
舞台は1944年だ。しかしこれを捉える現代、21世紀には、もう幻想の世界しか
逃げ込むところは本当になくなった、という絶望なのか。それとも、幻想のよ
うな世界をいつか迎えるだろう希望なのか。
どう捉えていいものか、しばし考えちゃったなあ。

★前に書いた『ミツバチのささやき』
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film023.html

■COLUMN
こういうの、きちんと作品を鑑賞する人には怒られるかもしれない。
このDVD、翌日観ようと思っていたのを、夜眠れなかったから、ベッドのなか
ポータブルDVDで観始めて、そのまま最後まで観てしまった。

なんだか、子どもが寝床で隠れて遅くまで本を読んでいるみたいに、夜のシー
ンとしたなかでこれを観るのは、思いの外合っていた。

守護神パンに言われて夜中にこっそり試練の旅に出るオフェリアが、見つから
ないかと、闇のなかでびくびくし、試練の旅のなかでうまくやれないのではと
ハラハラする。子どもがこっそり何かをすることと、布団にもぐって映画を観
る姿勢が、どこかでオーバーラップして、妙な具合にリアルに世界に入り込む。

オフェリアの幻想に唯一理解を示してくれた、お手伝いのメルセデスが、ゲリ
ラの支援するところでは、何度も何度も見てられないよと布団をかぶる。
ビダル大尉の拷問(実際には結局映像には出てこない)も、「きゅーん、怖い
よぉ」と毛布をつかんで目をふせた。

大半は、私が怖がりであることが原因だけれど、やはりこの状況が作りだした
ものは大きくて、この感じって、ふつうに映画館で観ていても、ふつうにテレ
ビで観ていても、得られなかったものだと思う。

映画館の大画面で観るのがいちばん、という人もいるけれど、私は不思議なこ
とに、そういうこと全然思わない。映画館で観るのは、もちろんいい。でもそ
れが常に最良の方法だとは思わない。
家で自分の好きな飲み物片手にリラックスして観るのもいいし、飛行機のなか
で偶然観たら、やたらと心に沁みたってこともあるだろう。
映画館のスクリーンで観ることを前提として、作り手は作っているんだから、
映画館が作り手の意図を最もくみ取れるという意見もあるらしいけれど、作り
手の意図とやらが、観る側の心の在りようとか、都合とか、思いこみを含めた
感情のブレに、つねに優先する理由なんてない。(勝手に作りかえるとか、リ
メイクするとかいうのは、別の話ですよ)

なんて気張ってみても、要するに「好きずきでしょ」てとこに落ち着くのかな。
ふだんとちょっと違う環境で観てみると、映画ともちょっと変わった出会いが
できるかも、そんなことを思った深夜のこっそり映画鑑賞だった。

■INFORMATION
★DVD
パンズ・ラビリンス 通常版
価格:¥ 2,953(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0012EGL4M/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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