2021年08月09日

No.274 パリのどこかで、あなたと

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欧 州 映 画 紀 行
                No.274   21.8.9配信
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★ 描かれなかった物語に思いを ★

作品はこちら
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タイトル:『パリのどこかで、あなたと』
製作:フランス/2019年
原題:DEUX MOI 英語題:Someone, Somewhere

監督・共同脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:フランソワ・シヴィル、アナ・ジラルド、カミーユ・コッタン、フランソワ・ベルレアン、シモン・アブカリアン
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■STORY&COMMENT
がんの免疫治療を研究する女性メラニー、ネット通販の物流倉庫で働く男性レミー。二人とも30歳くらい。隣同士の建物に住み、ちょうどベランダは隣り合っていて、近所や地下鉄で何度もすれ違っているが、お互いまったく認識していない。
メラニーは前の恋人と別れてから、いくら寝ても眠くてしかたがなく、仕事に支障をきたしている。レミーは「労働環境改善」のもとにロボットが導入されて同僚が解雇され、自分だけ昇進することへの罪悪感を抱えて不眠症に。地下鉄で急に倒れてしまう。
二人はそれぞれ心理セラピストのもとに通い始める。

地下鉄で隣同士に座っていたり、一方は眠気を抑える薬、一方は眠れる薬を求めて薬局のカウンターで隣同士で相談していたり、何本もの鉄道が見えるベランダから毎日同じ景色を眺めていたり、そんな二人を観客は「神の視点」で眺める。
そして、孤独の中でもがいたり諦めたりしながら、偶然にも同時期にセラピーを受けるようになった二人を、「友達になったらきっとわかり合えるだろう」「出会えたらきっといい関係になるんじゃないの?」「早く出会って!」「気づいて!」と、おせっかいな応援を始めることになる。
セラピーを続けるうちに明かされていく過去や事情や思いを知るにつけ「ああ、絶対出会うべきなのに」と観客はやきもきし、当事者二人はちっとも気づかない。

すでに恋人同士だったり、恋人になりそうなところまでいったけれど、離ればなれになってしまって、その後いろんな偶然やら誰かの意地悪やらですれ違いを重ねる物語は定番ではあるが、はなっから知り合ってもいない二人にやきもきする物語は、たぶんあまりない(私が知らないだけかも)。

何もことが起こっていないのだから、「やきもき」といっても、心拍数が上がったり下がったり、手に汗を握ったり、そんな振れの大きいものではない。
静かに、二人それぞれの人生での葛藤を見つめ、「ここで出会えたらどんな会話になるかな」「ここでお互いに挨拶したら?」無数の可能性を巡らせながら、また先を観る。

ひとつのストーリーを映し出すひとつの映画にも、そこに映し出されなかった物語が無限にある。ストーリーが終わった後にも、その続きが無数に連なる。当たり前といえば当たり前だが、改めてそんな思いを強くする。決してひとつきりではない、描かれなかった物語を思い起こさずにいられない作品だ。


■COLUMN
トンネルをくぐり、時には地上に出て、何本もの路線が交差する地下鉄。無言の乗客が大勢乗る車内。せわしなく人が行き交う駅。
大都会の慌ただしい乗り物から、主人公の二人はそれぞれのアパルトマンへ帰っていく。ベランダからは、郊外列車や国際列車が走るのが見える。そのベランダからカメラが遠ざかっていくと、建物の背後、小高い丘にはサクレ・クール寺院がずっしりと控えている。

冒頭の映像の数分で描かれるパリの景色だ。ルーブル美術館やオルセー美術館、ノートルダム寺院のあるセーヌ河畔のような観光と文化の共存する華やかさではなく、凱旋門やシャンゼリゼ通りのように豪奢な広がりではなく、サクレ・クールという観光名所がありつつ、だいぶん庶民的でだいぶんがやがやとしたあたり。庶民的な下町とはいえ、たくさんの隣人に囲まれながら、お互いに知ることはなくひしめき合って人が暮らしている。

クラピッシュ監督自身、『猫は行方不明』『PARIS-パリ-』に続く「パリについての3作目」と話している(https://fansvoice.jp/2020/12/10/someone-somewhere-interview/)。
2人の日常を眺めていると、本当にその街、そのあたりの空気を一緒に触れたかのような気になる。観光で訪れるようなパリとはちょっと違う、日常のパリに入りこんだかのようだ。

それは、風景をうまく映し出しているからだけでなく、スマホを使った手軽な出会いなど、仕事に人生に悩みながら生きる若い人たちの暮らしを丁寧に描いて見せる、ドキュメンタリー性も大きな要因だろう。

二人ともいきつけにしているアラブ食料品店(コンビニ的に夜遅くまでいろいろなものを売っている店)は、こだわりのある店主が、お客に合わせてどれを選んだらいいかアドバイスをしてくれて、近所にあったら面白そうだと思う。うまいこと高い物も買わされてしまいそうだけれど。(魚沼産の米を勧めたりしているから、相当マニアック?)
この店がどこまでリアリティがあるかは別として、人情味のある個人店と、レミーが働く無機質な物流センターと、その差が象徴的だ。二人の好みが合うことを示す符号でもある。

『猫は行方不明』との関連を思い起こさせる、二人をつないでくれそうな行方不明の猫が登場し、同作以来クラピッシュの常連となったマダム・ルネも、ちらりと登場している。マダム・ルネは、撮影後の2019年6月に100歳で亡くなった。クラピッシュ作品に彼女が映ることがもうないと思うととても寂しい。


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★DVDなど

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2021年07月31日

No.273 冬時間のパリ

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.273   21.7.31配信
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★ 変わりゆく姿を丁寧に ★

作品はこちら
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タイトル:『冬時間のパリ』
製作:フランス/2018年
原題:DOUBLES VIES 英語題:NON-FICTION

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)
出演:ジュリエット・ビノシュ、ギヨーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、
   クリスタ・テレ、ノラ・アムザウィ、パスカル・グレゴリー
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■STORY&COMMENT
編集者のアランは、本の売り上げが落ちる中、ブログやSNS、電子書籍など、デジタル化戦略に取り組む悩ましい日々。部下と不倫中。

女優のセレナは、アランの妻。人気テレビドラマのシーズン4を続けるかどうか考え中。アランの浮気を疑うが、実は自分も長く不倫している。

作家のレオナールは、旧知のアランに新作を見せるが、出版できないとの返事を聞きショックを受ける。実はセレナの不倫相手。

政治家秘書のヴァレリーは、社会貢献できる仕事に夢中。出版できないと落ち込む夫がなぐさめてほしがっていて鬱陶しい。

と、このようにストーリーを説明すると、なんだかとんでもないどろどろ不倫ストーリーに見えるだろう。原題を直訳すると、ダブルライフ(の複数)。別の生活を持ちながらお互い秘密を抱え込んでいる泥沼のイメージ。
いや、しかし、そんなことはないのだ。こっそり不倫しあっている状況は、まあ、フランスの大人の映画でよくあるところ。そのことで世界や友情や生活が崩壊したりはしない。

この作品の肝は、世の中の変化を丁寧に見つめて切り取っているところだと思う。渦中でもがく人とその周囲のかしましさを、静かに精緻に映し出す。
アランは老舗出版社の編集者だが、SNSの書籍化や既刊の電子化を迫られ、本をつくって生き残れる時代ではないという流れにさらされている。
フランス映画らしく、友人同士が集まって飲み食いしながら交わされる、読み物が本からネットにうつっていくこと、映画が配信になっていくこと、紙から電子媒体に替わっていくことetc. そんなあれやこれやの議論は、ちょっとややこしいこともあって、「今なんて言ったの?」とリモコン片手に戻しながら堪能した。私もちょっとひと言言いたいな、なんて思いながら。

問題がフランスも日本も共通で、同じ議論のネタを抱えているあたりも、今風の変化のひとつだろう。
登場人物が、出かける前にいくつものデバイスを充電ケーブルから取り外して忙しくカバンに詰め込んだり、パーティ中のスマホを嫌がられたり、なんて日本でもありがちなシーンには、デジタルで「地続き」になったグローバルな世相が見える。

レオナールをずっと担当してきたアランだが、彼の作品を古くさいと感じていて、女性の描き方も気にくわない。だから出版にも消極的なのだが、おそらくこれは、アランの好みだけでなく、世の中の流れや変化とも連動していることなのだ。
レオナールはいつも私小説的なものばかり書く作家だが、モデルにされた元妻がネットで怒りを表明し、野次馬たちがサイン会にやってきてそれを批判してみたり。古典的な小説を書くレオナールもネット社会が生み出す「創作のあり方」の変化にさらされている。
でも結局、彼の小説は話題になったりと、なにが流行るかわからないあたりも変化のひとつだろう。

複数のダブルライフの問題も、文化のデジタル化も、某かの決着がつくような、つかないような。
私たちは変化にさらされたり、自らが変わったり、変わるを余儀なくされたりして、そしてこれからも生きていくんだろうなあ、そんなことを思った。

■COLUMN
ずいぶん時間があいてしまったが、去年の大晦日に「なにかリクエストくださいねー」と投げかけたところ、「ジュリエット・ビノシュって最近はどんな感じ?」というのと、セドリック・クラピッシュの『パリのどこかで、あなたと』を挙げていただいた。
ジュリエット・ビノシュが出演している、気に入ったこちらを今回は取り上げた。クラピッシュの新作は、次回配信できるようただいま準備中。

彼女の日本での最新作品は、今年の5月に公開された『5月の花嫁学校』だろうか。私は未見だが、1967年のアルザスを舞台に、夫の死をきっかけに女性の自由な生き方を模索する「花嫁学校の校長」を演じているそうだ。これも今回の『冬時間のパリ』に通ずるような、時代と自分の変化を考えられる作品なのかな、と思う。

ビノシュは1964年生まれ、現在57歳。実年齢に比べて若い役をよくやる印象がある。この作品で演じたセレナには幼い子供がいる。30代か40代前半くらいの設定なのだろう。以前に取り上げた是枝裕和の『真実』でも、小さな娘がいる設定だった。

顔や雰囲気がやわらかくて、貫禄ある中高年に見えないということ、また幅広い年齢を演じるだけの力もあるということだろう。これからは老人役もやるようになるだろうか。それも楽しみだ。
『冬時間のパリ』に照らしてみれば、年齢をもとにああだこうだということも、いろいろと人の考えが変化した今の風潮には合わなくて、軽々しく口にすることではないかもな、と私はちょっと及び腰でこれを書いている。

最近の主演作『私の知らないわたしの素顔』は、若さを失って悩む中年女性の話だ。年下の恋人に振られたことをきっかけに、SNSで年齢とポートレートを偽り元恋人の友人に近づいたら、恋に落ちてしまって……。ロマンスかと思いきや、どんな結末に連れて行かれるかわからないサスペンスタッチのストーリーだった。ピンと張り詰める緊張感が好きな人におすすめ。

さて、最後にもうひとつ。
『冬時間のパリ』という邦題は、前項でもふれた通り原題には似ても似つかない。ことさら冬が関係するわけでもないのだが、おそらく、同監督の『夏時間の庭』からの連想だろう。この作品は原題が『夏時間』だから妥当だが、両作品が特に関係しているわけではないし、冬時間の方はちょっと無理矢理ではないかなと思う。共通点といえばジュリエット・ビノシュが出ていることくらい? 確かに今回のビノシュのカラフルなセーターやロシア風の帽子など、冬ファッションはとても素敵だけれど。

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★作品を観るには

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2020年10月02日

No.272 真実

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欧 州 映 画 紀 行
                No.272   20.10.02配信
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お久しぶりでございます。前回の配信から1年以上、世の中はすっかり様変わりして、見通しが難しくなっています。読者の皆さまは、変わりなくお過ごしでしょうか。
久しぶりに配信しようとしたら、「まぐまぐ!」は休刊扱いとなっていて、
「メルマ!」はサービスそのものが終了していました。というわけで、メルマ!でお読みいただいていた方には、ご挨拶もせずじまいでしたし、まぐまぐ!でお読みの皆さまにも、どのくらいきちんと届くのやらわかりませんが、気が向いたのでまた配信してみます。次がいつになるかはわかりません(すみません、苦笑)。

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★ 周到に、重層に折り重ねられたテーマを、あくまでも軽く、軽やかに ★

作品はこちら
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タイトル:『真実』
製作:日本・フランス/2019年
原題:La Vérite 英語題:The Truth

監督・脚本:是枝裕和(Kore-eda Hirokazu)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、
   リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、
   マノン・クラヴェル、アラン・リボル、
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■STORY&COMMENT
フランスの大女優ファビエンヌのもとに、アメリカで暮らす娘リュミールがやってくる。ファビエンヌが自伝『真実』を出版したお祝いというが、事前の原稿チェックができなかったことに不満を持っている様子。できあがった『真実』を読んだリュミールはファビエンヌに文句を言うが…。
自伝と家族の再会をきっかけに、それぞれが過去と向き合っていく物語。


映画の始まりは風に揺れる木々の映像。濃い緑の群れに色づいた葉を持つ樹木も混じる。枝のすきまからは車の行き交う道路が見える。そんな開放感のある映像に、インタビューを受けるファビエンヌの声がかぶり、カメラは室内へ。記者の質問に苛立ち気味で、お茶を口に入れ「ぬるい」とひと言。いかにも大御所といった姿だ。

この映画、ほとんど事前情報なしに観始めた。「是枝裕和監督が、カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュを使ってフランスで映画を撮った」くらいの知識しかなく、だからカトリーヌ・ドヌーヴが女優役であることも知らなかったのだが、そんな状態で観ても、インタビュアーの質問から「女優」であり、受け答えの雰囲気から「大女優」であることがわかる。
他の女優のことをきかれて「あの人、まだ生きてる? お葬式に出なかったかしら」などと発言しているのは、大女優の自由さなのか? 認知症の問題? などと、緊張感のある雰囲気から想像を膨らませてみる。

そこへ、「英語を話す」家族づれがやってきて、フランスの国民的大女優というどっしりした世界に、何かがかき混ぜられる風が入りこむ。その辺りで、「家族の物語なんだね」と理解しはじめる私。
美しい映像で目線をつかみ、情報をぐっと詰めて仕立てた状況を観客に伝えて、物語に引き込む冒頭。私の好きなタイプの作品! と身を乗り出す。

『真実』と題された自伝に、真実が書かれていないとリュミールは母を責める。しかし、物語が少しずつあばいていくのは、「真実」はこれと指させるものなのか、子どもの頃の記憶は本当に正しいのか、実はあやふやなものかもしれないという現実だ。
親子の葛藤や行き違い、家族のつながり、突き詰めて掘り探れば、いくらでも重く痛いものになりがちなテーマであり、現実世界で私たちの誰もが抱え込む類のやっかいなあれこれだ。しかし、ここでは、あくまでも軽く、軽やかに物語は進んでいく。
重く繊細なテーマが、軽やかに繰り広げられる空気が心地よく、ずっとここに浸っていたいと思わせてくれる。


■COLUMN

ファビエンヌの映画撮影現場のシーンが多く、映画製作の世界を垣間見られるのもこの作品の魅力だ。
ファビエンヌが目下取り組んでいるのは、どうもB級映画らしいSF作品『母の記憶に』。これが劇中劇として差し込まれ、母と娘の関係は二層構造で描かれる。調べてみると、SF作家ケン・リュウの短編『母の記憶に』がベースとなっているとわかった。ケン・リュウ自身も、『真実』にはアソシエイトプロデューサーとして参加している。

不治の病で余命2年となった母が、娘の成長を見守るために、宇宙船に乗って経過する時間を短縮し、7年ごとに娘に会いにくる、という設定だ。ファビエンヌは、73歳になった娘を演じている。この劇中劇においても、「嘘」と「真実」、そして母と娘の関係というテーマが挟まれ、何年も若いままの姿でいる母親役を担う新進気鋭の女優との共演には、リュミールがこだわる「真実」との関係もあるらしいことが示唆される。
決してややこしくはないのだが、物語の中の要素が重層的に絡み合い、感情も知的好奇心もくすぐってくれて楽しい。

原作を読んでみたが、ほんの数ページのショートショートだった。「劇中劇」だから、作品のほんの少しの部分しか触れられていないのだと思い込んで観ていたが、原作が劇中劇の中でむしろ膨らませられていると思うくらいに、元は短い作品。原作を読むと、劇中劇として描かれたこの映画作品も完成を観たいと、よけいに思った。(現実の世界では『Beautiful Dreamer』というタイトルで短編映画になっているらしいけれど)

そんなこんなで、一度観た後に、周辺の調べ物をした後に、もう一度通して観て、新しい何かを発見してみたいと思う作品だ。


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2019年06月29日

No.271 おかえり、ブルゴーニュへ

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                 No.271   19.6.29配信
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★その後もずっと続く人生に ★

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タイトル:『おかえり、ブルゴーニュへ』
製作:フランス/2017年
原題:Ce qui nous lie 英語題:Back to Burgundy

監督・共同脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:ピオ・マルマイ、アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル、
   ジャン=マルク・ルロ、マリア・バルベルデ
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■STORY&COMMENT
フランス・ブルゴーニュ。10年前に「世界を見たい」とワイン生産を行う実家を飛び出したジャンが帰ってきた。父が末期だと知らせを受けたのだ。
再会を喜ぶ妹のジュリエット、「母の葬儀にも来なかったじゃないか」と怒りながら屈折ぎみに迎える弟のジェレミー。各々の反応を見せながら久しぶりに3兄弟が揃うも、まもなく父は亡くなってしまう。
残されたワインの仕事、そして畑や在庫を売却しない限り払えない相続税。家族はどうなっていくのか……。

予告編を観て、「相続税をどう払うか」を中心に据えたコメディかと思っていた。しかし、この映画は、なにか「中心となる話」があっていろいろなエピソードが展開するという「円」の構成ではない。各々の抱える感情のひだが、次々と重なり、そこにさらに状況やエピソードがつくり出す思いが重なり、そんな風に、どこまでも重なり合っていく「層」の構成だった。相続税の問題は、物語の終わりまで、ずっとその底に流れ続けるエピソードのひとつだ。
ついでにいえば、くすっと笑うシーンは多々あるが、コメディではなく人間ドラマという方がイメージに近いだろう。

そんな訳で、「この映画は、こういう話」と紹介することが難しい。

オーストラリアでワインを生産するジャンは、妻との間に問題を抱えていた。父の抜けた実家を手伝いながら、このまま帰る場所がなくなるかもしれないと落ち着かない。
家業を継ぐジュリエットは、プレッシャーにつぶされそうになっている。
裕福な妻の実家から婿養子のように扱われるジェレミーは、その状態にイライラしっぱなし。

そんな一人ひとりが抱える問題が、ちょっとずつほぐれていく様子に観客が寄り添う群像劇ともいえるし、ワイン生産の1年を追うドキュメンタリーの要素も持つ。ブドウの熟れ具合を吟味しながら、収穫時期を日単位で決める様子、その収穫時期が大きくワインの質に影響すること、ブドウ摘みのアルバイトを大勢雇い、宿泊場所を提供して最終日には大々的に打ち上げをする収穫、熟成時のテイスティング。ゆっくり経過する時間とともに眺めるワインづくりの実際は、どの描写も興味深い。ワイン生産を映画の素材だけに終わらせず、その仕事に重いリスペクトを払って見せているところがなんだか嬉しくなる。

問題や悩みがほぐれ解決していく様子をみて、すっきりしようと思ったら、それはちょっと失望につながるかもしれない。
でもそれは、決して、観た後「もやもやする」ということではない。彼らの人生は、これからもずっと続いて、その先でも悩みや苦しみは出てきて、その都度悩んで解決して、泣いたり笑ったりして続いていくんだろう。そんなある種の確信に近い感情だ。
移りゆくブドウ畑の1年を観て、繰り返す季節のイメージに引きずられるのか、過去から未来へと、大地が人々を結ぶ様子が連想されるのか。
解決するからいい。うまくいったからいい。そういうことではなく、そこにあることがそれだけで素晴らしい。そんな気持ちになれる。


■COLUMN

セドリック・クラピッシュ監督の作品は好きで、このメルマガで取り上げるのも6作目だ。
観終わって、いつもの作品とちょっと感覚が違うなあと思った。
作風が違うというほどではない。何かがほんのちょっとだけ違うかなーー、というくらい。

何日か考えていて、こんなことかなー、と思ったのは、観た後に、今観たものより、その後のものに気持ちが向かうということだ。物語が終わって振り返ることより、この先の彼らに意識が向かう。
これまでの作品だったら、あのシーンがおかしかった、このシーンがかっこいい、と復習をしたくなるのだが、それよりもここまでに描かれなかった「この先」を想像したくなる。
上に書いた「彼らの人生は、これからもずっと続いて」の思いだ。

物語の「大団円」のすっきりさよりも「この先、その向こう側」、よくも悪くもずっと続いていく仕事、暮らし、そんなものに意識が向かう。
それは私が年をとって「人生」ってものにからめとられて受け止め方が変わったのか、監督が年をとって描写方法が少し変わったのか。
年齢の問題にするのは安易に過ぎるかもしれないが。

「相変わらず」なところは、音楽がイイというところ。
私はそんなにサウンドトラックを好んで聴くほうではないが、クラピッシュ作品のサントラはいくつか持っている。
この原稿もサントラをかけながら書いた。おすすめ。
(リンク等は下を参考に)


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『おかえり、ブルゴーニュへ』Amazonビデオ(ネット配信)¥400円〜
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『おかえり、ブルゴーニュへ』DVD ¥2,972
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2019年05月25日

No.270 アクトレス 〜女たちの舞台〜

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               No.270   19.05.25配信
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★ 不安定な心持ちが心持ちそのままの形でやってくる ★

作品はこちら
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タイトル:『アクトレス 〜女たちの舞台〜』
製作:フランス・ドイツ・スイス/2014年
原題:Clouds of Sils Maria

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、
   クロエ・グレース・モレッツ、ラース・アイディンガー、
   ジョニー・フリン、ブラディ・コーベット
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■STORY&COMMENT
国際的に活躍するフランス人女優のマリア・エンダースは、列車でチューリッヒに向かっている。かつて無名だった自分を舞台『マローヤのヘビ』に抜擢してくれた、恩人である劇作家の代理で賞を受け取るためだ。
授賞式後、『マローヤのヘビ』のリメイクへの出演オファーがくる。マリアが若い頃に演じた役は、売り出し中のハリウッド女優に決まっており、マリアは、相手役の中年女役を打診される。


映画は、列車のシーンから始まる。マリアの個人秘書・ヴァレンティンが、揺れる車内で電話を受けている。列車の揺れで、画面も大きく揺れる。走行音がうるさく、電話での会話がうまく聞こえない。電波が不安定で、電話が切れる。1本切れば、次々と着信し、よく聞こえない通話が繰り返される。

私は、ストーリーを何も知らず、「オリヴィエ・アサイヤス監督でジュリエット・ビノシュ、Amazon prime で無料かー」という程度の動機でこの映画を選び、上記のシーンを観た。
そうしたら、この最初ですっかり引き込まれ、揺れる画面の落ち着かなさ、聞こえない、ぶちぶち切れる不安定さ、どこか不穏な空気が全体から伝わってきて、あらすじを何も知らないから、「何が起きるの? ひょっとしてこの秘書が何か企んでいるの?」とぞわぞわしながら観ていたのだ。

何かすごく不穏なことが起こるかも、という私のぞわぞわは的外れなのだが、冒頭のシーンの揺れから騒音からひしひしと伝わる不安定さが、この映画の全体のトーン、テーマといってもよいと思う。

列車内で、件の劇作家ヴィルヘルムの突然の訃報がもたらされ、授賞式もどこか落ち着かずに進む。

かつて若々しさを前面に出して出演した作品に、今度は追い詰められ破滅する中年女の役をと言われ、女優として老いや衰えの到来を予感し始めるマリア。セリフをさらえば、劇中の中年女の追い込まれ様に自分自身が重なる。

作品の解釈をぶつけたり、若い世代の役者やアーティストを紹介したりして、自分なりの感性で秘書の仕事をしようとするヴァレンティンとマリアのすれ違い。
「円熟」のマリアに対する、奇行や目立つ発言もあり注目を浴びてときめく、若い共演相手ジョアン。

自分が何をしたいのか、この先どうなるのか、これでいいのか、このままじゃだめなのか。
女優という華やかな職業とその周りの世界が描かれているが、世界の誰もが、それぞれが立つ場所で、迷い、悩み、不安に陥ることだ。
はっきりと言葉で説明できないもやもやも含め、いろんな不安定さを、そのままの形で作品から心にダイレクトで伝える。そこに、よい悪いの価値判断はない。繊細で上品な作品だと思う。

■COLUMN
揺れてうるさい列車から、落ち着かない授賞式とパーティの喧噪へ。そして第二部に移ると、画面に広がるのは、どこまでも広い山岳風景だ。

息の詰まる場面から思わず深呼吸したくなるこの場所は、ヴィルヘルムが執筆に使っていた山荘のあるスイスのシルス・マリアである。マリアは、役作りのためここを借りるのだ。

風にそよぐ木々、眼下に広がる湖、どの方角にも連なり構える山々。そんな雄大な景色に心洗われるようだが、この景色も、物語の展開によって、冷たく映ることもあれば、おどろおどろしく映ることもある。

山の天気のように変わりやすいこの印象は、ひょっとしたらこの作品自体の印象にも似ているのかもしれない。
私が受け取ったのは、迷いや不安満載の中で生きる人々の感情とその揺れだったが、今順風満帆で生きている人には、登場人物の迷いは滑稽な喜劇に映る可能性もある。年齢でも受け取るものは異なるだろう。

観終わったあと、作品について話すと、それが立場や状況の違う人なら、まるで印象が異なる。そんなことが起きるかもしれないと思う。
タイプの違う人、年齢の離れた人、バックボーンの異なる人と、話すネタにしてみたい作品でもある。


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2019年04月20日

切り崩した感情貯金

《あなたは多分、子供の時に豊かな感情をお持ちだったはずです。(中略)あなたはそもそも豊かな感情をお持ちだったから、「これ以上はもういいや」と思って、感情の豊かさを維持したり増やそうとはしなかった。豊かな貯金量を崩して使い続けるということをした結果、感情で自分を支えることが出来にくくなって、「やらなくちゃ」と思う頭の論理だけで支えるようになったから、「つらい」になるのです。》

『橋本治のかけこみ人生相談』という本を読んでいたら、「ああ、これって私のことだわ」と身につまされてしまった。
相談者の状況は私は似ていない。社会人になりたての会社員の《いわゆるいい大学からいい会社に入って、労働環境もわりとよい。しかし、会社が嫌でたまらない。考えてみると、大学・大学院時代も「つらいなあ」と思うだけで日を過ごしてきた。なんでこんなにつらいんでしょう。》という主旨の相談だ。

めちゃくちゃ努力をしなくてもなんとなくいろんなことができてしまった相談者に対し、そういうことができたのは豊かな感情があったからで、それが枯渇に向いたのは、成績が悪くなったわけでもないのに受験に怯え続けた頃のことだと、橋本はいう。怯えるのは自分の豊かな感情がなくなりつつあると感じた結果なのだと。

相談者ではない私には、この指摘が的を射ているのかどうかは知らない。ただ私には思い当たることがたくさんあった。

事情はこちらの記事に詳しいが、数年前から私は、とにかく疲れて活動量がものすごく少なくなる状態にあって、毎日毎日、やらなきゃならないことを乏しいキャパのなかに押し込めて、自分のキャパを越えそうな仕事やらイベントやらが迫ってくると、「ちゃんとやれるか」とひたすら怯える生活を送っている。

そうして、とにかく「やらなきゃ」と頭で自分を追い込んで、少し時間に余裕ができたときでさえも、その「やらなきゃ」の気持ちばかりで焦り、好きなこと(好きだったはずのこと)も「やれるか」と怯えながら義務感でこなしている。

そうか。私は豊かな感情という貯金を切り崩しながらなんとかやってきて、もうそれがなくなっちゃったのかもしれないなあ。そう思い当たったのだ。
じゃあ、どうすれば?

《あなたがなくしてしまった、あるいは新しく増やすことが出来なかった最大の感情は、「なにかを好きになる、好きになれる」というものです。物であっても、人であっても、行為であっても、「自分はこれが好きだ」と思えれば、幸福感が生まれます。人間にはそれが必要なのです。(中略)つらい」の反対には「好き」があって、「好き」と思える感情がなくなると、「つらい」になるのです。》

橋本は相談者に対して、なにかを好きになるという感情を取り戻すことを勧める。

別の相談者で「好きなことが見つからない。見つける方法を教えて」という人に対し、《ではどうすれば、「なにかを好きになる」ということが可能になるのでしょうか? あなたの胸の中は、なにかの理由でしっかりとガードされっ放しで、自分の外側にあるものを受け入れることが出来ないでいるのです。(中略)なにかを好きになるためには、自分の方に「それを受け入れる土壌」を作ることが必要です。カチンカチンなった自分の心を耕して、もっと柔らかいものに変えるということです。そのためには、あまり役に立たないことをアレコレ考えるのをやめることが必要です。》とアドバイスを送る。

ああ、そうだね、倒れる前にちゃんとやらなきゃ、とにかくやらなきゃ、で、なんだかいろいろでカチンカチンになっているのかもしれない。
感情は枯渇し心はカチンカチン。ああ、大変。

つまらないことをアレコレ考えずにボーッとしろと橋本はいう。自分では気づいていないかもしれないその緊張をぼんやりして解こうという。

私は幸いなことに、好きなことはわりといろいろあったのだ。
だから新しく見つけなくても、ボーッとしてそれを思い出せばいいのかもしれない。
ボーッ
ボーッ
ボーボーッ

心の習慣というのは知らないうちに自分を支配しているもので、感情貯金再開への道は長そうだ。
自信はないけれど、でも、ちょっとは心がけてみようか。
ボーッ

posted by chiyo at 12:05| 東京 ☁| Comment(2) | 身辺雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月18日

No.269 好きにならずにいられない

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.269   18.7.18配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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★ 外から見たイメージと、内実に目をこらして見える姿と ★

作品はこちら
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タイトル:『好きにならずにいられない』
製作:アイスランド・デンマーク/2015年
原題:Fúsi 英語題:Virgin Mountain

監督・脚本:ダーグル・カウリ(Dagur Kári)
出演:グンナル・ヨンソン、リムル・クリスチャンスドウティル、
   シグリオン・キャルタンソン
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■STORY&COMMENT
アイスランド、レイキャビク。43歳、太った独身男のフーシは母親と二人暮らし。空港で荷物係として働いているが、飛行機に乗ったことはない。趣味は第二次世界大戦のジオラマづくり。職場では同僚のイジメにあっている。
女っ気のないフーシを案じ、母とその恋人が誕生日にダンスレッスンのチケットを贈った。「少しは外に出た方がよい」と。嫌々会場に向かい、レッスンは受けずに車で好きな音楽を聴いて時間をつぶすフーシだったが、ダンス教室帰りの女性シェヴンに吹雪だから車で送ってほしいと頼まれる。シェヴンに勧められ、フーシは次のレッスンには参加するとうっかり約束してしまう。シェヴンとの出会いで動き出すフーシの人生は……

「単調な日々を送る純情な大男が初めて経験する恋の物語」
作品の公式サイトを見ると、ひと言でいえばそんなまとめになる。邦題のつけ方もそれっぽい。
でも、観ている間も、観終わってからも、「これって恋愛映画なの?」という疑問が、私の頭のなかでぽこぽこ湧いている。
そもそも、フーシの送る日々が、そんなにもモノトーンなのかというと、そうでもないと私には思える。職場でのイジメは問題だが、それ以外のところ、共通の趣味を持つ友人がいて、ヘビメタという好きな音楽があり、毎週通うエスニック料理の店がある。大きな変化はないかもしれないが、単調だなんだと他人からとやかく言われる筋合いはない。

おそらくこの違和感は、「つまらない日々」→「女性との出会い」というストーリーを聞いたときに、前者がモノトーンなら、後者が彩りあふれる世界、前者が陰なら後者が陽という、ついつい二つに分けてしまうイメージが、実際の作品と合わないせいなのだろうと思う。

初めて出会った日、快活で明るく見えたシェヴンは、実は不安定な心を抱えている。落ち込んでいるときと、気分が上向いているときの差が激しい。仕事も続かない。
フーシの恋愛は、二人で楽しく出かけるだけではない。いろいろ振り回されて、なんとか彼女の力になろうともがく期間の方がずっと多い。
でも、恋愛というか、人と深くつき合うということは、そんなものなのかもしれない。

外から見れば40を過ぎても恋人もなく寂しいだけに見える人生。外から見ればひょんなことからデートする相手ができて浮かれているように見える人生。どちらも、仔細に見れば、いろんな事情と感情がある。

寂しい一人の状態から、人生が躍動する世界へ。そんなわかりやすさは皆無。しかし、ひとつのできごとをきっかけに確実に少しずつ変わっていく人の暮らしを、ていねいに描いた作品なのだ。

■COLUMN
ここ東京は毎日暑い。ただただ暑い。
暑いものはこれ以上要らない。北国の映画を観てみよう。そういえばサッカーのワールドカップでも、「人口33万5,000人、新宿区と同程度の人口で代表チームが活躍するとは!」と話題になっていた。
という不真面目な理由で観たアイスランドの映画だが、上記のように思いがけず考え込むことになってしまった。暑い暑いと目の前(身の回り)の現実にしか意識がいかないところ、よい刺激になったと思う。

暑いから少しでもひんやりしそうなアイスランド映画という短絡的な発想だったが、吹雪のシーンや雪に包まれた屋外のシーンは、それを目にしたからといってちっとも涼しい気分にはならない。短絡はしょせん短絡であるという現実もつきつけられた。
吹雪は別の次元の世界に見えるし、外が吹雪くなか、家のなかのシーンにはむしろ温かさを感じる。

暑い国で涼しいと感じたいのなら、暑さのなかで涼しさを放っているものでなくてはリアリティのある涼しさは得られない。今ここでリアルに涼しいと思えるシーンを挙げるなら、夏の高原の涼しい風であり、うちわ片手に耳に入る風鈴の音であり、山深い土地の川のせせらぎ…、夏という現実のなかに、合間にするりと吹き込んでくる涼しさである。
遠い国の吹雪は遠い国の吹雪で、今この国の暑さと混ざり合うこともリンクすることもない。

なんてことも思う。要するに今ここは暑いのだ。

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★DVDなど

『好きにならずにいられない』DVD  ¥ 3,268
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『好きにならずにいられない』amazonビデオでの配信 ¥400〜
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2018年01月21日

No.268 ロックンロール

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欧 州 映 画 紀 行
             No.268   18.01.21配信
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★ ありがちな教訓は期待しないこと ★

作品はこちら
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タイトル:『ロックンロール』
製作:フランス/2017年
原題:Rock'n Roll

監督・共同脚本:ギョーム・カネ(Guillaume Canet)
出演:ギョーム・カネ、マリオン・コティヤール、ジル・ルルーシュ、
   カミーユ・ロウ、イヴァン・アタル、ジョニー・アリディ
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■STORY&COMMENT
ギョーム・カネ、43 歳。有名俳優として順風満帆の人生だと思っていた。しかし、雑誌のインタビューでは「年齢を重ねてきたこと」を話題にされ、共演する若い女優からもすっかりおっさん扱いされていることに落胆し、変革を起こそうとする。
定時に家に直行していたのを、夜遊びを盛んにしてみたり、服装を「ロック」にしてみたり、まだまだ「イケてる」ことを示したいが、家族や事務所は困惑し、指示通り演技をしないギョームに、撮影現場は大混乱を起こし……

本人が本人役で出演し、パートナーの女優マリオン・コティヤールと息子、友人の俳優たちも本人役で出演する、ドキュメンタリー風に見せたフィクション。

オスカーもとったマリオン・コティヤールに置いていかれ気味に見えるところ、なんとなくお坊ちゃん的なところなんかは、実際にそういうイメージを抱かれがちなところを利用して、「ありそう」と思わせて、「さあどこまでほんとかな」と遊び心を押し出す映画だなあ、なんて観ていたのだ。

それも決して間違いではない。
乗馬好きなおとなしいおっさんと見られるのがいやで、革ジャンを着てみたり、クラブで遊び回ってドラッグをやってみたり。お約束ごとじゃない、型にはまらないタイプになってみようと、脚本無視の演技をしてみたり。
やっていることは小学生か中学生の反抗期のようで、微笑ましいやら、めんどくさいやら、なのだが、老けるのがいやでボトックスに手をそめてマリオンに心配されると、そこは子どもにはない悲哀があったり。
華やかな世界に身を置く俳優も、いろいろ悩むんだねえ、なんてありそうな、でもなさそうなリアリティを楽しんでいた。

奇行を続けに続け、なかなか「元の自分、そのままでいいじゃん」ということに気づかないギョーム、容姿もだんだん変わっていって、終盤に近づくにつれて、「いったいこの物語、どこにどう落とすんだろう」と、落ち着かなくなってくる。

ラストに向かい、ありがちな教訓やら、お約束やら、収束する着地点やら、そんなものはどこかにぷうと吹っ飛んでいく。ここでこうして語っている私もなんとなくバカっぽく見えてくるバカバカしさとくだらなさで、走り抜けていく。決してありがたい教訓なんか望めない展開を、ぜひ楽しんで!

■COLUMN
パートナーのマリオンと比べられて、劣等感と焦りを抱くギョーム・カネが本人役。自ら脚本・監督も、という内容を聞いて、イヴァン・アタルの『僕の妻はシャルロット・ゲンズブール』を思い出した。
シャルロット・ゲンズブールと、実際に彼女の夫であるイヴァン・アタル、それぞれ本人役を演じる作品だが、このときイヴァンは、ジャーナリストという設定だった。
(メルマガのバックナンバー:http://oushueiga.net/back/film015.html

そしたら、この『ロックンロール』には、イヴァン・アタルがちゃんとイヴァン・アタル役で出演し、兄弟のアラン・アタルとともに、ギョームが出演する映画のプロデューサーという設定になっていた。
実際の作品ポスターを背景に、『僕の妻はシャルロット・ゲンズブール』の話をするというシーンもあって、「あれのギョーム版をやろう」というところからはじまったのかもしれない。アラン・アタルは現実に、この『ロックンロール』のプロデューサーである。

昨年亡くなったときには、大統領もコメントを出したフランスのロックスター・ジョニー・アリディも出演し(ギョームがロックな生き方について教えを請いにいくのだ)、華やかな芸能界の内実を垣間見せる作品だが、日本だったら、業界の闇を探られかねない、ドラッグのシーンやらは、もっといろいろ慮った感じにつくられるのだはないかと思う。

もちろん、どちらの国でもフィクションだと受け取ってもらえるだろうが、日本であればもっと漠然としたイメージを気にするのではないかと。「冗談です。つくり話です」で、済まないことが出てきてしまうのではないかな。
そんな風に想像することも、「空気を読む」ことに加担しているといえば、そうなのだが、お国柄を考える作品でもあった。

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★今回取り上げた『ロックンロール』は、開催中の「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」に参加している作品です。
1月19日(金)〜2月19日(月)まで、オンラインで長編12本、短編14本を観ることができます。短編の視聴は無料、長編は1本1.99ユーロ。長編を全部観られるパックは7.99ユーロ。

AmazonビデオやiTunesでも1本200円でレンタルできます。この作品1本を観るなら、その方が便利でお得です。購入しても500円だそうです。

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iTunes
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enaout@infoseek.jp
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2017年08月15日

No.267 偉大なるマルグリット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.267   17.08.15配信
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★ 人にはいろんな側面があるもので ★

作品はこちら
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タイトル:『偉大なるマルグリット』
製作:フランス/2015年
原題:Marguerite 

監督・共同脚本:グザヴィエ・ジャノリ( Xavier Giannoli )
出演:カトリーヌ・フロ、アンドレ・マルコン、ミシェル・フォー、
   クリスタ・テレ、ドゥニ・ムプンガ、シルヴァン・デュエード
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■STORY&COMMENT
1920年、フランス。パリ郊外にあるマルグリット・デュモン男爵夫人の邸宅では、貴族達が集まって、チャリティーのサロン音楽会が開かれていた。トリを務める主役のマルグリットは、衣装にもオリジナルで凝って堂々の登場をするが、実はひどい音痴だ。出席する貴族たちは真実を伏せて拍手喝采する。知らぬは本人ばかりなり。

ある日、このサロン音楽会に忍び込んでいた、辛辣な批評をすることで知られる新聞記者のボーモンは、この音痴に驚きながらも、大金持ちのマルグリットに近づくため、「心をわし掴みにする声」と大絶賛の評を寄せる。
この批評に喜び、自らボーモンに会いに行ったマルグリット。新しい友人ができたことをきっかけに世界が広がり、本格的に歌を学んで、パリでリサイタルを開きたいという希望を持つようになるが……

マルグリットの音痴はどこでバレるのか、ひょっとして音痴でもリサイタルは大成功してしまうのか。そんな風に先行きが気になり、単純に筋を追う楽しみがたっぷりある作品。そして同時に、マルグリットをはじめとする、登場人物たちに抱く印象が、ストーリーが進むにつれ少しずつ変わっていって、人のいろんな側面を観察できるところも面白い。

「お金持ちの貴族が音痴のくせに自分だけいい気分で歌っちゃって」とマルグリットを最初は意地悪な目で見てしまうのだが、マルグリットが純粋に歌を愛し、オペラを愛して、嬉々としてオペラの登場人物になりきった写真を撮っているところなど見ていると、ただただかわいらしく、応援する気持ちになってしまう。
そんな気持ちの変化は、はじめは利用したくて皮肉を込めた絶賛記事を書いたボーモンにも表れる。

マルグリットの夫ジョルジュは、妻の音痴を陰で皆が笑っているのが恥ずかしく、音楽会の日にはいつも車が故障したことにして歌の時間には遅れてくる。さらに、妻の歌やオペラごっこに辟易して、浮気中。事なかれ主義の貴族なのだろうと眺めていると、この人もだんだん変わってきて、最後には冒頭とはまったく異なった印象を残してくれる。

マルグリットに忠実な使用人マテルボスは、オペラ写真撮影、音楽会の準備と献身的につきあい、歌を学びたい、リサイタルを開きたいという彼女の夢の実現にも、影に日なたに精一杯協力する。しかしこの人も最後にはまったく別の側面が見えて、ちょっと苦い。

ラストは、「フランス映画」らしく、観客に「ああ、この後どうなったのだろう!」と思わせてその後を託す。それがいつまでも続く鑑賞後の余韻となっている。

■COLUMN
結末がわかっていることを前提に話したい、そうしたらもっと語れることがあるのに、と思う映画があるが、これはそんな映画のひとつだ。
上にも書いたように、最後まで観ると、登場人物の印象も変わるし、最後まで観た頭でもう一度最初から観たならきっと思うところも違ってくるかもしれない。「ネタバレ」できないのはちょっと不便だと思う。

結局、マルグリットが自分は歌が壊滅的に下手である、と気づくのか否か、は観てのお楽しみとして、ただひとつ言えることは、結末まで観ても、果たして真実を告げる方がよいのか、それとも自分が信じているように楽しんで歌を続ける方がよいのか、それは簡単に決めることができないということだ。
本人にとって、という意味でも、周りにとって、という意味でも、何がよいことなのか、断言することは難しい。この後どうなったのだろう。と同時に、どうするのがよいのだろう。と、ああでもない、こうでもない、と考え尽くせる映画だ。

歌が題材だけに、全編に散りばめられた音楽、そして1920年パリのアーティストたちの退廃的なムードなど、ストーリー以外の楽しみの面もしっかり用意されている映画だが、その中で、あれはどうやっていたのだろう、と特に思うのは、マルグリットの下手な歌だ。
演ずるカトリーヌ・フロ本人が本当にあれを歌っていたのか、耳をふさぎたくなるキャンキャンとした音痴っぷりは、誰がどうやってつくりこんだのか。歌を下手に歌うのって案外難しいもので、上手に下手さを出さなければなかなか表現できないものじゃないかと思う。
「どの辺でどう音を外しているからこの壊滅的な下手さが出てる」なんてところも含めて、いろいろに考えを巡らせたくなる要素だ。

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2016年12月25日

No.266.16 言い訳号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.266.16   16.12.25配信
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と、はじめてみたものの、今回はなかなか配信できないことの言い訳をぎっしりつめた言い訳号。
映画作品の紹介もなし。ごめんなさい。

前回の配信から半年経ってしまって、2016年も暮れようとしてる。
こんなに配信できないなら潔くやめてしまったらいいんじゃないかとも、よく思うのだけれど、映画を観てああでもないこうでもないと書きつけられる場所を持っておけることは自分でもうれしく、何もわざわざやめることもないんじゃないかね、と思う。しかし配信はなかなかできない。時は過ぎていく。
本日は、なんでそんなことになってしまっているのか、言い訳をさせていただく回である。

2012年の秋頃から、なーんだか長距離を歩けないという事態になった。ちょっと歩くとすぐに足が棒になる。
病院では、筋肉がすぐに疲れる自己免疫疾患の可能性が高いと言われるが、検査をしても「そうだ」と言い切れる結果が出ず、今に至るまで結局診断には至らず、治療法もない。

四肢の筋肉がすぐに疲れてしまい、階段をのぼったり長距離を歩いたり急いで歩いたりすると、足を前に運べないような疲労感に襲われる。腕の調子が悪い日には、じゃがいもの皮をむくだけで腕立て伏せをしたかのように腕が疲れる。
そして、全身がとにかく疲れる。午前中は比較的よいのだが、時間が遅くなればなるほど体がだるくなって、夜にはほとんど起きていられないから、夜型だったのが、今やすっかり朝型に。たいしたことをしなくても毎日ギリギリまで体力を使ってしまうから、最低9時間くらいは眠れなくとも寝転んでいないと体がもたない。

さっぱり配信ができないことの主な理由はこの体の状態なのだが、脚や腕の筋肉がすぐ疲れる病気だからといって、家でDVDで映画を観て座ってパソコンでメルマガを出すことが、なんでできなくなるの? と、読者諸氏は思うかもしれない。思うよね。

発症直後の頃に比べると今はだいぶ歩けるようになっているが、依然困っているのが、「活動できる量がとにかく少ない」ということだ。「時間がない」とも言い換えられる。
たとえれば、病気になる前の活動できる量を100とすると、今は40くらいしかない状態。(活動する量なので睡眠と休息はすでに抜いて考えている)
日々のやることというのは、食い扶持を稼ぐ仕事、やらなきゃ生活が滞るような家事など、必要度Aクラスのもの、友人とお茶を飲むとか、日常的な趣味とか、仕事用の勉強とか、必要度Bクラスのもの、時間があればやりたいような旅行や大型レジャーのCクラスのもの、とまあ、その人なりにいろんな優先順位があると思う。
活動量が元気なときの4割くらししかない今、その中に必要度Aのもの(ほとんどは仕事)を詰め込むと、もう活動の余地は残らない。
だから、仕事と睡眠と休息だけを繰り返すのに必死で、たまに仕事がひまになって、40の中に仕事以外のものを入れられるようになったら、必要度Aの中でずっと積み残しているもの(たとえばたまには自分で料理をしようとか、部屋が荒れているから掃除をしようとか)をやって、だいたい休日は終わる。
もうちょっと余裕が出たら、友人とお茶を飲む時間と体力ができるかも。映画も観られるかも。だが、メルマガを書くところまでたどり着くには、相当なヒマが必要で、2016年の後半は特に、仕事だけでほとんど毎日40をフル稼働していて、映画を観るというところにもまるで至らなかった。

病気で映画が観られないわけではない。しかし、日々の生活の中で映画を観るということを取り入れることが極めて困難な場合、結局それは「できない」と同義だよ、と私はよくいじけてみる。

そうして仕事ばかりの生活を4年も続けていると、自分の幅がどんどん狭くなる。自分でもいろんな場面でそれを自覚する。映画はしばらく観ていないと、なんていう映画が世の中にあるのかもわからないし、知らない俳優、監督も増える。「どうせ観られない」といじけている身には、情報だけには触れておこう、なんていうのもわりと辛くて、映画にどんどん疎くなる。
読書も、サッカー観戦も(テレビ観戦含め)、芝居を観ることも「毎日の40」の中に入れられないものは、私からどんどん縁遠いものになる。

そんなこんなで、仕事しかしていなくて、好きな映画を語ることも、面白かった本を人に教えることもできなくなっていることは、自分でもさみしいし、ちょっとした劣等感にもつながっている。
病気を治す手立てがない以上、この状態はあと何年も何十年も続くだろう。つまらんことだなあ、と思う。つまらん人間のまま、ただ40の中に仕事を詰め込んでただただ暮らすんだろうと思う。
そんな中で、すっぱりメルマガをやめてしまうのもひとつの手だけれど、でもいつか、また、映画を観て、あることないこと、じゃない、あれやこれやと思うことを書いて配信することがたまーにでもできたら、いいよね、と思う。この場所を残しておくことは、私の小さな希望なのだ。


というわけで、長々書いたが、これでもだいぶん手短に説明した、私がさっぱりメルマガを書けないことと、そのくせしつこく廃刊や休刊にはしないことの、言い訳である。
読者の皆さま。もしも気が向いたら、映画を観てメルマガを書くということを、もーうちょっと定期的にやれるのを、待っていてくださればとてもうれしい、です。


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