2014年06月14日

No.261 危険なプロット

================================================

欧 州 映 画 紀 行
             No.261   14.6.14配信
================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ あやしくミステリアスに、不遜に ★

作品はこちら
------------------------------------------------------------
タイトル:『危険なプロット』
製作:フランス/2012年
原題:Dans la maison 英語題:In the House

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、
   エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウアー
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
高校のフランス語教師のジェルマン。生徒達に作文の宿題を出すが、「ピザを食べてテレビをみた」「親に携帯を取り上げられた」……、真面目に取り組む気持ちもなく内容もくだらない作文の山に辟易としていた。しかし、クロードという生徒の作文だけは違う。しっかりとした文章構成、文末に「続く」とまで書かれ、先の気になる内容、ジェルマンはクロードの文才に惹かれ、個人授業をするようになる。
クラスメートの家庭に入り込み、生活を皮肉に観察し、やがて家庭の秘密まで暴き、家庭の中を少しずつ引っかき回していく様を書いていくクロード。ジェルマンは文才を伸ばしたいというだけでなく、続きが読みたい欲望にもかられて、クロードとの物語づくりにのめり込んでいく。


ジェルマンが初めて読んで驚くクロードの作文は、数学が苦手な同級生ラファエルの家に宿題を手伝いに行った日のことが書かれている。

夏のあいだ、彼の家を眺めていて一度入ってみたかった、数学の宿題はもちろん口実だ
入ってみたいと想像していた家の中を歩き回り、観察する
彼の母と顔を合わせて、「中産階級の女の香り」と皮肉る

同級生やその母親を皮肉な目線で見て、うそをついて入り込んだことを臆面もなく表明する。そんな不遜な内容だ。
しかし、不遜だからこそ、読む方はつい惹かれる。「続く」の一言に、楽しみにさえしてしまう。

そして、善良でごく普通の生徒であるラファエルと、ブロンドの美しいクロードという対照的な様子も、あやしさを醸し出し、眺める者に居心地の悪さや何かが起こるかもしれないという思いを起こさせる。美しい上に、人の心を見透かすかのようなクロードの目線も気持ちがざわつく。

「続く」の後に提出された二度目の作文では、

ラファエルに合わせて、いかにも若者の会話をしてみたこと
インテリアに熱中するラファエルの母の俗っぽさを描き、体型を「中産階級の曲線」と表現したり

と、皮肉な視線は続き、

続く作文では、バスケが好きでどことなく脳天気な父親が登場。仕事で関係しているために中国に詳しいことを会話のはしばしにはさむ、通俗性が描かれる。

どこにでもある普通の家庭、脳天気でこぢんまりとした通俗的な生活を、斜に構えた皮肉な目線で描いていく。
教師であるジェルマンも、観客も、そんな通俗的な普通の家庭を小バカににした目線に、どことなく共感し、その背徳からも、もっともっと読みたいと思ってしまう。だいたいこんなフランス映画を喜んで観る輩は、少なからずそんな意地悪な目線を持ってるんだと思う、うん。

そしてとある事情からラファエルの家に遊びに行けなくなって、「あの家に入らなければ書けない」と家に上がり込むことになぜか執着するクロード。その目的のわからない執着もあやしく感じられる。

どこまで深く入り込んでいくのか、どこまで辛辣に目線を向けるのか、そしてそんな風に他人の家に入り込んで、どうしても作文を書きたいクロードの目的は……と、不遜に背徳的に観客の目をそらさせない、あやしわがたまらなくおもしろい作品である。

■COLUMN
人間というのはなんと言葉に支配されて生きているのだろう。

この作品で、ずっしりきたのはそのことだ。

クロードが書いた作文の内容は、クロードによる朗読に合わせて映像化されて描かれるが、結局のところ、作文に書かれたことが真実なのか否かは、わからない。クロードとジェルマンが話し合い、作文を練り直す過程で、ああでもないこうでもないと、内容が変えられるシーンもあって、明らかにフィクションと知らされるところもあるが、実際のところ、クロードとラファエル家族に何があったのかは、ミステリアスに放置されるままだ。
ひょっとしたら最初から最後までフィクションかもしれないし、最初は本当のことが書かれていたけれど、だんだんフィクションが混じったのかもしれない。

うすうすそれを感じていながらも、ジェルマンはクロードの作文に書かれたことを本当のことと受け取り、ラファエルを見ていて、クロードの作文で表現された世界の中で、ラファエル一家を認識する。

実際に見たわけでないことも、言葉で聞かされてイメージを作り出し、それはやがて自分自身の現実の世界に影響を及ぼしていく。
この作品のラストの状況も、果たして、クロードの紡ぎ出す「言葉」がなかったら、こうなっていなかったのではないか。

実際に見ないことも言葉では表現できて、他者の経験を私たちは共有できる。形に見えないものも、言葉は表現できて、その言葉を使ってさらに私たちは形で表せないことを思考できる。
しかし、気づくと、言葉で紡ぎ出した、現実とは少しずつ違った世界を見て、世界をそれとして行動していることがあるかもしれない。

言葉の背徳とあやしさを考えたくなる作品でもある。

---------------

★DVDとブルーレイ
『危険なプロット』(初回限定版)筒スリーブケース仕様
¥ 3,036
http://amzn.to/1lknyGJ

価格は2014年6月14日現在のアマゾンでの価格です。
短いURLにしていますが、アマゾンの商品ページにつながります。
アフィリエイトリンクです。

★本日のメルマガ、気に入ったらクリックを! コメントもぜひ。
http://clap.mag2.com/caemaeboup?B261

---------------

筆者へのメール
enaout@infoseek.jp
感想、質問、リクエストなど、なんでもお待ちしております。

編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://oushueiga.net/about.html
twitter: http://twitter.com/chi_yo_an

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2014 Chiyo ANDO

---------------
タグ:フランス
posted by chiyo at 22:05| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画メルマガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする