2008年08月21日

No.184 君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956

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欧 州 映 画 紀 行
              No.184   08.08.21配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 拝啓、「自由の国」より ★

作品はこちら
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タイトル:『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』
製作:ハンガリー/2006年
原題:Szabadság, szerelem 英語題:Children of Glory

監督:クリスティナ・ゴダ(Krisztina Goda)
出演:イヴァーン・フェニェー、カタ・ドボー、シャーンドル・チャーニ、
   カーロイ・ゲステシ、イルディコー・バンシャーギ、
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■STORY&COMMENT
1956年のハンガリー動乱と、数週間後のメルボルンオリンピックでのハンガリー
水球チームの活躍を背景に描く人間ドラマ。

1956年、共産党独裁政権とソ連支配に反発し、自由を求める革命運動がブダペ
ストでは盛り上がっていた。学生運動の女性闘士ヴィキに、水球の花形選手カ
ルチは心を奪われた。
家族と友情を大切にして水泳に専念し、政治とは距離を置いていたかったカル
チだが、ヴィキとともに秘密警察AVOが市民を殺害する現場を目撃し、革命に
参加しようと考える。しかしそれは、オリンピック出場を控えたチームを捨て
ることでもある。ヴィキへの愛、祖国への愛と、水球選手としての誇りの間で
揺れるカルチだが。

エンドクレジット、多くの血を流して自由を獲得したことを悲しみ、そして讃
える詩が流れ、その中のワンフレーズに「自由の国に生まれた者には理解も及
ぶまい」とある。
映画を観て、ちっとも知らなかったハンガリーの歴史を知り、自由を求める人
の勇気に感心していたところ、軽いショックだった。そうか、私は感動してい
ろいろ見知った気になっていたけれど、まだまだ甘いか。その通りかもな。

政治にいくら興味がないと思っても、政治の動乱は時に否応なく人の普通の生
活を壊し、戦いたくなんかなくても武器を手に取らなきゃいけない時がくる。
幸いなことに自由の国に生まれた私は、そんな目にあったことはない。今後も
そうならないことを願っている。
ヴィキは、勇敢な革命の闘士がすっかり板についているように見えるけれど、
自由のある社会に生まれ暮らしたなら、彼女はそんな面は一度も見せずに違う
人生を歩んだろう。だから、カルチの前にいるとき、「普通の」女性の顔がの
ぞくときがとても辛い。

ヴィキのように最前線で戦う人も、戦わずともラジオにかじりついて故国を思っ
た人も、カルチの母のように、国の動向よりも息子のつつがない成功を祈る人
も、スポーツ選手として今できることに集中する人も、皆それぞれに、精一杯
に誠実に生きている。
誰が正解でもない、どの誰の言い分にも一定の正しさがある。

1956年のハンガリーは、経緯に諸説あり、人によって受け取り方も様々なのだ
そうだ。多くの人にとってまだ「新しい」記憶でもあり、とてもデリケートな
テーマであるらしい。
この映画は、そのデリケートなテーマに解釈を与えているのではない。
生活がこわされ、大切なものがつぎつぎに失われてゆく状況に置かれた人々の、
その一人ひとりの悲しく力強い思いを、この作品は、ただひたすら、ていねい
に描く。

なるほど、自由の国に生まれた私には、自由のとてつもない尊さも、そのため
に戦った人たちの思いも、ついに真には理解しないかもしれない。しかし、こ
の映画は、時を超え国境を越え文化を超え、自分の大切なものを奪われまいと
戦い、耐え、祈る人々の心を、強く伝えている。そこから何かをくみ取ること
ができるのは、世界にとっても個人にとっても、きっと大きな一歩なのだ。

街の記憶に忠実にブダペスト中でロケが行われた。デモ隊が練り歩いて渡る橋、
人々が集まる広場、そこに本物の風景があることが、よりいっそうの説得力を
持っていた。

■COLUMN
この作品の軸となるもう一つの史実、メルボルンオリンピックでの水球準決勝
ハンガリー対ソ連の流血事件。
ソ連の支配下にあった共産圏の国々では、もともとソ連に対する反感が強い。
映画の中、オリンピック前での試合シーンがあり、露骨なソ連びいきの審判と
もめ(これが事実なのかは知らないが、似たようなことはあったのだろう)、
試合後カルチはソ連に刃向かうなとネチネチと秘密警察に脅されている。

オリンピックではそんな因縁の戦いが、当事国だけの因縁ではなくなる。ハン
ガリー動乱はその映像が世界に配信され、動乱を鎮めるためにハンガリーに侵
攻したソ連が世界的な非難を浴びていたからだ。会場はハンガリーびいき、イ
ライラしたソ連の選手がハンガリーの選手を殴り、殴られた選手は顔を負傷し
流血、選手・観客ともヒートアップ。試合は残り1分を残して中止となり、4
対0でハンガリーの勝利が決まった。これが、この作品が素材とするオリンピッ
クの流血事件だ。

祖国がめちゃめちゃに破壊される状況下、戦い勝利したハンガリー選手が素晴
らしいことはもちろんだが、政治の対立をスポーツの場に持ち込まれ、観客を
皆敵にまわさざるを得なかったソ連の選手も、一種、被害者であると思う。
北京オリンピックでも、ロシアの選手とグルジアの選手がお互いの健闘を称え
合うところが報道されていた。その様子はそれ自体、政治とは別にあるスポー
ツの美しさを表しているけれど、そもそも、対立する二国の対戦として注目さ
れるようなことがなくてもよかったのだ。

水球というスポーツは、あんまり見たことがないのだけれど、この映画で見て
みたくなった。水の中の格闘があんなに激しいとは、面白いやら恐ろしいやら。
水球シーンの撮影には工夫をこらし、リアリティを出すため、選手役にはシド
ニー、アテネで金メダルをとった本物の代表選手を起用しているそうだ。きっ
と水球ファンが見ても、違和感なく物語に入り込めたんじゃないだろうか。

北京オリンピックでも、ディフェンディングチャンピオン・ハンガリーチーム
はメダル争いに残っている。22日には準決勝でモンテネグロと戦う。この映画
を観ると水球もますます面白く観られそう……とはいうものの水球の試合って
放送するかなー。一度落ち着いて観戦してみたい競技である。

■DVD INFORMATION
君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956 デラックス版
価格:¥ 3,197(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0017UE0PS/ref=nosim/?tag=oushueiga-22


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編集・発行:あんどうちよ

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ラベル:東欧
posted by chiyo at 23:34| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画メルマガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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