2011年01月28日

No.240 オーケストラ!


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欧 州 映 画 紀 行
               No.240   10.01.28配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 私の忸怩たるエッセンスを載せ、願いよ、届け ★

作品はこちら
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タイトル:『オーケストラ!』
製作:フランス・イタリア・ルーマニア・ベルギー・ロシア/2009年
原題:Le concert 英語題:The Concert

監督・共同脚本:ラデュ・ミヘイレアニュ(Radu Mihaileanu)
出演:アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、
   ミュウ=ミュウ、ドミトリー・ナザロフ
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■STORY&COMMENT
ロシアの名門オーケストラ・ボリショイ交響楽団で、かつて天才指揮者と言わ
れていたアンドレイは、今や楽団の掃除係。30年前、共産主義政権がユダヤ人
演奏者を排斥する決定をしたことに反対して、職を追われてしまったのだ。
ある日、掃除中に、2週間後の演奏会に急遽ボリショイ交響楽団を招きたいとい
うパリからのFAXを見つけたアンドレイは、楽団を追われた仲間を集めて、「ボ
リショイ交響楽団」をよそおってパリへ演奏しにいく計画を立てる……

軽ーく軽ーく笑えるネタが連続して流れるその底に、がつんと重い「事情」が
横たわる、重さと軽さを両方を観客にプレゼントしながら、最後はすーっと昇
華して感涙を誘う。由緒正しいヨーロッパスタイルの映画だ。

ユダヤ人の大追放が、音楽家として職場を奪われることになったことは、映画
の最初には明かされない。そのせいもあって、悲壮感とは無縁に、どうもうだ
つの上がらない人たちが、偽楽団をしたててるよ、というスピード感のあるコ
メディとしてすんなり物語の世界に入れる。

救急車の運転手、のみの市の商売人、音楽の仕事を追われて行き着いた先の仕
事には、さしてまじめに取り組めなくて落ちぶれている昔の仲間達。彼らを探
し出して、説得するところから始まり、その都度降りかかってくる困難を何と
かはねのけはねのけ、いや、それが苦労話ではなく、全部笑い話で何とかして
いく。
シチュエーションコメディというのとは少し違うのだろうけれど、その都度は
まり込む困難、難題のシチュエーションそれ自体を観客は笑い、それを何とか
する(または何とかなっちゃう)様子を見て吹き出す。

最終的にパリに行くことができて、演奏も成功することは、言ったところでネ
タバレとはならないだろう。そのための過程を楽しむ作品だから。
人が集まったら今度は出国できるか怪しく、パリまでたどり着いたら、急ごし
らえ楽団員たちは遊びやら商売やらでリハーサルに現れない、などなど、次か
ら次へと難題が現れ、笑いながらもハラハラがやまない。
アンドレイがぜひ共演したいと願うヴァイオリンのソリスト、アンヌ=マリー・
ジャケが、いったい何者なのか、という謎解き要素も途中くわわって、最後ま
で、落ちないスピード感で引っぱって行かれる。

ハラハラした分も、バカ騒ぎに笑った分も、全部最後のチャイコフスキーに凝
縮されて、「ああよかったね、よかったよ」と、無意味に隣の観客と笑い合い
たい気分になる。たとえ、一人で鑑賞していてもね。

■COLUMN
いっちばん最初の印象は、正直言って、
「楽しくていい映画、でも真剣に感動するにはリアリティがないよねー」
だった。
だって30年も音楽から離れていた人たちが急ごしらえで集まっても実際はさー、
(その他、出国方法などあり得ないことはいろいろ!)と思ったのだ。

だけれど、DVDの特権をフル活用し、クライマックスの演奏シーンをもう一度再
生していて考えが変わっていった。

確かに、この映画で起きたことが実現可能かという意味では、そうじゃないだ
ろう。
でも映画のリアリティには、その事が本当に起こるらしいリアリティもあれば、
その結末を本気で喜べるか、とか、共感できるか、とか、自分のこととして入
り込めるか、など物語としてのリアリティもある。その作品の持つパワーといっ
てもいいだろうか。
そういう意味で、「楽しくていい映画、そして真剣に感動するだけのリアリティ
がある」。

30年もの間、政府によって仕事を奪われる重く苦しい事態を下敷きにするこの
作品は、「願いのかたまり」だと思う。自身もルーマニアからの亡命者である
監督は、むくわれない多くの人の過去と現在と未来が、少しでもよい方向へ向
くようにと、願いをこめているんじゃないか。

笑いとユーモアで吹き飛ばしたかのように見えても、決して吹き飛ぶことはな
いやるせなさを、ほんの少しでも揮発させようという願い、祈り。

「自分がこうしたい、こうなりますように」ではなく、他者に向ける願いや祈
りは、ともすると無私のものと思われやすい。だが、災害や事故、戦争など、
遠くの見知らぬ誰かに向けるものにしろ、近しい誰かに向けるものにしろ、そ
こには必ず、自分の思いや自分の事情が載せられるものだ。
自分の境遇との重ね合わせ、共感、仲間意識、傍観者でしかいられないことへ
の焦り、あの日うまく話せなかった後悔、贖罪、償い、心配、期待……etc.

自分のエッセンスを載せた願いや祈りは、現実にはあり得ないような、夢のよ
うな話にこそ、託しやすい。そうあったらいいなと信じたい気持ちと、願い祈
る気持ちが相乗効果で膨らむからだ。
ユーモアも笑いも、それ自体として楽しく面白く、夢のような展開と結果もそ
れ自体として楽しくうれしく、だが同時に、そんな展開だから自然に願いと祈
りをぶつけ信頼できる装置でもある。

あり得ない夢のように、みんな楽しく笑えますように。願いと祈りを託せるリ
アリティをもった映画は、作り手の願いにさらに観た人皆の願いを載せて、大
きな願いのかたまりになる。
おぞましい過去から続いた今と未来が、よい方へ向きますよう、忘れてはいけ
ないことが忘れ去られることのないよう。

人の思いを載せられる映画は、他愛ない笑い話の連続でも、実現不可能なあり
得ない展開でも、人の心のリアリティが、ある。

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編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/about.html
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