2012年05月22日

No.248 君を想って海をゆく

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欧 州 映 画 紀 行
               No.248   12.05.21配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 寛容ははるか彼方か ★

作品はこちら
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タイトル:『君を想って海をゆく』
製作:フランス/2009年
原題:Welcome 

監督・共同脚本:フィリップ・リオレ(Philippe Lioret)
出演:ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、オドレイ・ダナ、
   デリヤ・エヴェルディ、ティエリ・ゴダール、セリム・アクグル
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■STORY&COMMENT
フランス北端の街カレ。4000キロを歩いてここにたどりついたイラク国籍の17
歳ビラルは、クルド難民だ。家族と共にロンドンに移住した恋人に会うため、
密航を試みるが失敗。カレの難民キャンプに足止めされてしまう。それなら、
泳いで渡ろうと、ビラルは、市民プールで水泳指導をしているシモンに出会い
コーチを受けることにする。
やがて、ビラルの目的に気づいたシモンは思いとどまるよう説得するが……。

「題名に偽りあり」の典型。いや、ビラルは恋人のミナに会うため、ドーバー
海峡を渡ろうとするんだから、確かに「君を想って海をゆく」わけだけど、タ
イトルがそれでは、恋愛映画みたいじゃないか。

この映画のテーマは、難民をめぐる寛容や不寛容についてだ。国を追われては
るばるやってきた難民たちを、やっかいもの扱いし、収容キャンプのような場
所に隔離し抑圧する行政と、そこで起きていることをよく見ず考えず、関わり
たくないと思うふつうの市民たちの実態、そして、うっかり1人の難民と関わっ
たばかりに、その実態を見て悩み、行動に移さざるを得なくなった主人公シモ
ンの心の変化を描くものだ。

「めんどうなことには関わりたくない」ごく普通の中年であるシモンの心の変
化には、おおまかにいって(かなりおおざっぱないい方だが)、2種類ある。
両方人との交わりに関することだが、1つは愛情について。妻のマリオンと離
婚調停中であるシモンは、結婚の失敗で心が荒んでいる。ビラルの純粋に恋人
を想う気持ちに影響されて、愛することの大切さを思い出し、硬直していた心
が少しずつほぐれていく。
もう1つは、他人を助けることについて。難民になど関心を持っていなかった
シモンが、実際に1人の少年と真正面から関わって、少なくとも自分のできるこ
とはやろうと考える。

そのマリオンは難民支援のボランティアをしていて、その活動に興味が持てな
いシモンとのあいだに溝があった。ある映画情報サイトのあらすじ欄では、ビ
ラルのコーチを引き受けるのは離婚調停中の妻に認めてもらえるのではないか、
と思ってのこと、とあったけれど、そういうわけじゃないと、私は思う。
「レッスン料を払うなら教えるよ」というごく普通のコーチのスタンスから、
その熱心さに、ビラル個人に興味を覚え、その背景や実情を見て、考えるよう
になったということじゃないのかなあ。たぶん、水泳には興味があるけれどそ
れ以外のことには興味がない「仕事人間」から、しだいに変化したのだろう。

原題の「Welcome」とは、シモンの家にビラルがいるのを見て、警察に通報する
隣人の家の玄関マットに書かれた文字である。

■COLUMN
このメルマガ、だらだらと書いていたわけだけど、その書いている途中に、た
またま観た映画も、少し時代は違うが、難民と彼らへの不寛容が描かれていて
(こちらの作品については近日中にblogでご報告するつもり)、地続きにいろ
いろな背景のある国があるヨーロッパでは、よそから逃れてきて滞留する人々
はつねに「今ここにある問題」なのだと思った。もちろん日本だって同様の問
題がいつだってあるのが。

圧政や戦争から逃れてくる人に同情することはできても、実際に役立つように
手をさしのべることは簡単なことではない。シモンの妻のように、ボランティ
ア活動という形で、自分の時間や体を使うことができる人はなかなかいない。
そして、その活動が当局によって禁止されるとあれば、それでもやろうという
人はさらに少なくなる。
このカレでの難民の問題は、事実にもとづいているらしいが、まずは国の政策
に寛容さがなくなりつつあるということだろう。そして、「レジスタンス」の
伝統を誇りに思うフランスでも、逃げてきた人々に手を貸すことは難しい。

「寛容さ」などと上から評しているけれど、同情だけではない本当に役に立つ
何かを、難民に対してできるかと考えれば、私にも無理じゃないかと思う。カ
レのように取り締まられる難民が大勢いる街にいたとして、やはり見て見ぬふ
りをしたり、「私にはなにもできないし」とため息をつくだけの一般人となる
だろう。
見知らぬ異国の人々に寛容でありたいと願っても、その実現はずっと遠い。

地続きに人が移動し、圧政や戦争だけでなく失業や貧困からも逃れて人がやっ
てくるヨーロッパでは、今、経済危機によって、各国はEUに加盟する隣人への
寛容な手続きを求められている。個人の具体的な行動ではなくとも崩壊しそう
な国を自分の国が経済支援することを認めなくてはならないこともあるだろう。
ギリシャ人だって大変かもしれないが、うちだって大変。
大半の市民の考えはそんなだろう。私でもきっとそんな反応だろう。
それなりに苦しくて追い詰められている人が、より追い詰められている人を支
えていく、そんな社会になっていくんだろうか、出口はどちらに? 糸口はい
かに? と答えの出ないことを考えさせられる、ここ数日だ。


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