2012年10月05日

No.250 パリ20区、僕たちのクラス

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欧 州 映 画 紀 行
               No.250   12.10.04配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ それ以上でも、それ以下でもなく ★

作品はこちら
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タイトル:『パリ20区、僕たちのクラス』
製作:フランス/2008年
原題:Entre les murs 英語題:The Class

監督・共同脚本:(Laurent Cantet)
出演:フランソワ・ベゴドー(原作と共同脚本も)
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■STORY&COMMENT
様々な民族が混じり合って暮らすパリ20区。中学校の教室。様々な出身国、民
族の生徒たち24人のクラスで、教師フランソワは担任兼フランス語教師。新学
期がはじまったこのクラスで、毎日の生徒の反発、相互理解、いろいろある1年
を追う。

この作品、いい加減に風の噂を捉えていて、ドキュメンタリーだと思いこんで
いた。だいぶ前にWOWOWで録画をしておいたのを、何となく観だしたら、
「あれ、これはドキュメンタリーじゃないよな」と(生徒の成績について引き
継ぐ様子を映すところや、カメラの近さなどから)。観ながら手元のiPhoneで
検索したところ、フィクションであり、自分の教師体験をもとに書かれた小説
が原作で、その原作者のフランソワ・ベゴドーが主役の教師フランソワ役をやっ
ているらしいことがわかった。
だから、ドキュメンタリー並みに「学校現場の現状」を捉えていることは確か
で、観る人が「ドキュメンタリー?」と錯覚してくれるならそれが狙いでもあ
るんだろう。
実際、物語っぽくない、伏線もなんにもない、とりとめのない会話を淡々と映
し出し、地元の中学校で希望者を募って、7カ月のワークショップを通じて選ば
れたという生徒役は、白目剥いて寝ていたり、おしゃべりしていたり、ごくご
く自然に悪気のない不真面目な生徒たちを演じていて、本当に中学校のクラス
を覗いている気分になる。

教師モノというと、「熱血」「反発する生徒を粘り強く導いて最後は心を開か
せる」「自由を礼賛する教師が抑圧された生徒たちを解き放つ」など、とにか
く熱さを思い浮かべるけれど(私の教師モノのイメージは大昔の金八先生かロ
ビン・ウイリアムズの『いまを生きる』あたりで止まっているので、ひょっと
したら今は違うのかもしれない)、この作品はもっとクールダウンしている印
象だ。
いや、フランソワだって、退学処分を受けそうな生徒を擁護したり、書き言葉
としてのフランス語を正しく使うことに意味を見出せない子どもたちに、身近
なこと、自分のことを書かせて、「正しいフランス語」を使って表現すること
を一生懸命工夫して教えたり、実に誠実に仕事ぶりだなあと思う。

誠実に「フランス語教師」という仕事をしようとする人のやり方を淡々と映し
出し、生徒には反発やら退学危機やらが訪れるけれど、涙涙で打ち解けたり、
職を賭した熱意により職員会議を説得したり、というような場面はない。
ときにはちょっと失敗もしながら、誠実に真剣に自分の仕事をする人のその現
場を表現した、それ以上でもそれ以下でもない。それ以上熱くもそれ以上冷た
くもない、そんな物語だ。

私のこの説明で、観たくなっていただけるか、今書きながら、「そりゃあ難し
いかもなあ」と思っているところだけれど、他の作品ではなかなか味わえない
クールな観察ができるフィクション。新鮮な気持ちで楽しめる作品だと思う。

■COLUMN
「学校の教師というのは、お給料はあまりよくないけれど、自分の時間はとれ
る職業。収入が低くても自分の時間がほしい人が就く」と、フランス語の個人
レッスンをしてくれていた女性に教えてもらったことがある。彼女自身、外国
人にフランス語を教えながら(資格を持っているので)、中学校か高校で英語
を教えてもいた。そのかたわら、自分自身の学術研究も続けていて、その話を
聞いた頃、アメリカで研究をするための奨学金をとろうとがんばっている最中
だった。

この作品の原作者で主役であるフランソワ・ベゴドーは、2年間実際に中学校で
フランス語教師を勤めていて、そのかたわら(かどうかわからないけれど)執
筆活動をはじめて、ヒットした三作目『教室へ』がこの映画の原作だそうだ。
そんなプロフィールから、「作家になりたくて、執筆時間のとれる教師をして
いたのかな」なんて勝手な想像をしてしまう。日本だと予備校教師とか塾の先
生なんかにいそうなイメージ。

フランソワがどういうつもりで教師をやっていたか、はどっちでもいいことだ
けれど、この極めてドキュメンタリーっぽい作品の、メイキングや、フランソ
ワ自身の教育に関する考えや、実際のフランスの学校現場がどうなのかってい
うことには興味がある。
たとえば、作品中、教員の成績会議に、生徒代表として、2人の生徒が出席して
いる。そんな試みがほんとにされているのか、それに近いものは実際にあるの
か、知りたいところだ。実際にはないのなら、原作者の理想が反映されている
んだろうし、その辺の考え方も聞いてみたい。

また、演じた中学生たちが参加した7カ月のワークショップでは、どんなことを
したのか、ドキュメンタリーと見紛うばかりの自然な演技・態度を、生徒役た
ちがどうやって身につけていったのか、そんなことにも興味がある。

私は、映画作品やそれをつくった人について、舞台裏を知りたいとか、実際の
人柄を見てみたいとか、人に比べて思わない方だけれど、この作品ばかりは、
さまざまな次元・場面で「ちょっと、それ実際はどうなのよ」と思わされた。
なかなか評するのが難しい、やっかいな作品なのだけれど、「好奇心を刺激す
る」という点では間違いないと思う。

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タグ:フランス
posted by chiyo at 09:51| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 映画メルマガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今日は。ご無沙汰しています。
成績会議に学級委員が立ち会うのは、もうパリの学校では普通に行われてることらしいですね。このブログにも書かれています。
http://frenchcodeblog01.blog107.fc2.com/blog-entry-379.html

また次回のメルマガも楽しみにしています〜。
Posted by chat bleu at 2012年10月06日 22:17
chat bleuさま。ご無沙汰しています。
ありがとうございます。

特殊な事例ではなくふつうに導入されているのですね。密室で決めるのではなく情報を公開することが大切だという考えなのでしょうか。面白い制度だと思います。
日本だと、他の同級生に成績がバレるなんて、と反発がありそうですけど。

次のメルマガも近いうちに出せるようにします〜!
Posted by chiyo at 2012年10月06日 22:33
私もちょっと前に自分のブログでこの映画について書いてみました。どこからスタートしようかなと迷いながら書いたのですが、このブログの内容を読んで「あ!!!」という感じがしました。よく書けているなと感心しました。
Posted by いちご at 2012年11月17日 07:44
いちご さま

コメントありがとうございます。
この映画、面白いのですが、これについて何か書こうとと思うとなかなか難しいものですよね。
いちごさまのblog「人と映画のタペストリー」も拝読いたしました。さまざまな文化の映画が取り上げられていて、ラインナップだけでも参考になります。これだけのものをふだんからご覧になっていたら、ニュースなど世界のできごともずっと深く見ていらっしゃるのでは…、なんて思いました。
いただいたメールにも後ほどご返信申し上げます。
Posted by chiyo at 2012年11月18日 19:12
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