2012年10月11日

No.251 ミケランジェロの暗号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.251   12.10.11配信
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★ 「完全なる悪」にならない塩梅 ★

作品はこちら
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タイトル:『ミケランジェロの暗号』
製作:オーストリア/2010年
原題:Mein bester Feind 英語題:My Best Enemy

監督・共同脚本:ヴォルフガング・ムルンベルガー(Wolfgang Murnberger)
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、ゲオルク・フリードリヒ、
   ウーズラ・シュトラウス、マルト・ケラー、ウド・ザメル
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■STORY&COMMENT
1938年、ウィーン。画廊を営むユダヤ人のカウフマン家は、ミケランジェロの
素描を隠し持っていた。ムッソリーニがイタリアの至宝と取り戻したがり、ナ
チスはそれを差し出すことを外交の切り札にしようと企む。
カウフマン家の息子ヴィクトルと、兄弟同然に育った使用人の息子ルディとの
長年の関係が、ユダヤ人ヴィクトルとナチス党員ルディとの関係となって、ド
ラマティックな「至宝のミケランジェロ争奪戦」となる。

幼なじみの親友同士が敵対者となって、ミケランジェロを巡った冒険活劇が繰
り広げられる。ナチスとユダヤ人の対決という緊迫の中から「ウソでごまかす、
ウソをごまかすシチュエーション」を生み出して、ときにシチュエーションコ
メディのような状況を見せながら、あっちに転びこっちに転びの、ハラハラと
するテンポのいいドラマになっている。

正直なところ、ホロコーストをこういうエンターテイメントのネタにしてもい
いんだろうか、という背徳感がつきまとって、心底楽しめないところもあるの
だけれど、それよりは、シーソーゲーム的な展開に、この後どうなるんだろう、
という気持ちが勝つ。
それだけに、終盤で訪れた「そこでもう1回逆転があるのか」というところは、
もうちょっと引っぱって、しつこくしてもよかったんじゃないかと思う(観て
ない人にはなんのこっちゃ、ですね)。
と、考えると、物語が動き出す前、前半の回想シーンは、もう少し短くして、
早めに「テンポのいいドラマ」にする方がよかったんじゃないのかな、とも。

こういうことって、二度以上観ないとわからないことも多い。そういう意味で
も、機会があったらもう一度観てみたい。
特に後半は「続きは?続きは?」と急かしたくなって、私のような臆病者は、
「怖いよう」と度々ディスクを止めながらの鑑賞になるようなサスペンス。そ
んなストーリーを欲しているときにぜひ。

なお、『ミケランジェロの暗号』という邦題からは、美術作品に隠された暗号
を読み解く知的ミステリーのイメージも漂うが、ミケランジェロの作品自体に
は隠された某かは特になく、インテリ諸氏のプライドと好奇心をくすぐるよう
な知的・謎解き要素はあまりない。

■COLUMN
エンターテイメントとして、痛快に「面白かった」といえるには、いろいろな
条件があるものだと思う。
上に書いた、「ホロコースト」をこうやって消費してもよいのか、考えてしま
うことも、エンターテイメントを成り立たせることを阻む要因だし、良い・悪
いという単純な構図以外のところでぐじぐじしてしまうこともそう。そして、
あまりにも単純過ぎてばかみたいになってしまうと、やっぱり「面白い」と言
いたくなくなってしまう。

ナチス党員となって、カウフマン一家を苦しめるルディはもちろん悪役だけれ
ど、小さい頃から、家族同然に過ごしたヴィクトルとルディは、どこか腐れ縁
的な友情を抱きながら敵対する。それが、原題(と英語題)の「マイ・ベスト・
エニミー」の由縁だろう。

カウフマン一家がルディとその親によくしていたことは本当で、ヴィクトルと
ルディが兄弟のように仲よく育ってきたのもきっと本当だ。
しかし、裕福な人を使う側が、使われる側の屈折に気づかないなんてことはよ
くある話で、ヴィクトルは小さい頃から仲よくしてきた友人と心底から思って
いても、ルディの側から見れば、どんなによくしてくれても「使用人の息子」
以上にはなれないことが屈辱でもあったのかもしれない。

そんな立場の人が、時代の雰囲気を感じとってナチス党員となり、社会でのし
上がっていこうとするのは、当然のなりゆきでもあるだろう。
その辺りの葛藤や屈折をもう少し絡めて、ルディを本当に悪役扱いしてもいい
のか、観客が悩むくらいのめんどくさい話になるのもいいんじゃないかと、私
は思うけれど、だけどもそうしてしまったら、痛快なエンターテイメント性は
失われてしまうし、これでちょうどいいのかもしれない。

ただ、作品の随所に、ルディを手放しでつまはじきにできないような要素は散
りばめられていて、作り手の意図としても、きっと、「完全なる悪」としたく
ないところがあるのじゃないかと思う。
結末も、完全な悪ではなくベスト・エニミーだよ、という救済になってるよう
に私には感じられる。だからといって、「時代が二人を引き裂いた」なんてい
う湿っぽい社会性からも周到に遠ざけられ、痛快さを保っている。

うん、ヴィクトルとルディの関係性を、ああでもない、こうでもないと考えな
がら書いていたら、わかってきた。
いろいろ引っ掛かかるところはあったんだけども、小難しくもならず、頭がか
らっぽな勧善懲悪にもならず、映画的リアリティとして、ちょうどよいバラン
スで作られている作品なのだろう。

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★コメントくださった方へご返信
Tanno さま
「見たい気になった」とのお言葉、ありがとうございます。
「みてもつまんないよ」という映画はやっぱり取り上げないわけで、
その映画が「タイプ」である人には、ちゃんと「みたい」と思ってもらえるよ
うに!と願いながら書いているので、何よりのお言葉です。
みたい作品を見つけるのに、今後とも役立てていただければ幸いです!

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