欧 州 映 画 紀 行
No.259 13.12.22配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
★ それぞれがそれぞれに抱えて生きているそれぞれ ★
作品はこちら
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タイトル:『クリスマス・ストーリー』
製作:フランス/2008年
原題:Un conte de Noël 英語題:A Christmas Tale
監督・共同脚本:アルノー・デプレシャン(Arnaud Desplechin)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルシヨン、アンヌ・コンシニ、
マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、イポリット・ジラルド、
エマニュエル・ドゥヴォス、キアラ・マストロヤンニ、ロラン・カペリュート、
エミール・ベルリング、フランソワーズ・ベルタン
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■STORY&COMMENT
フランス北部、ベルギー国境に近い街ルーベ。子供たちは独立し、仲よく二人で暮らす夫アベルと妻ジュノン。子供は4人いたが、長男のジョゼフが白血病を患い、家族の誰も適合しなくて骨髄移植ができず、7歳で亡くなるという悲劇があった。40年ほど経ったいま、今度はジュノンが白血病を宣告される。子供や孫たちは、骨髄が適合するかの検査を続々と受けることに。そして、いろいろと折り合いが悪くバラバラだった家族は、クリスマスに、そして母の病に向けて、久しぶりに実家に集まってくる。
劇作家として成功する長女のエリザベート、ファミリーの問題児であるアンリ、繊細で優しい末っ子のイヴァン。アンリは昔から母ジュノンと折り合いが悪く、双方共に嫌いだと言ってはばからず、6年前の金銭トラブルから、エリザベートの頼みでアンリは一家から追放されている。エリザベートの息子ポールは、精神を病んでいて、昔から内気で繊細だったイヴァンは、自分にはポールの気持ちがわかると力になりたい様子。
ジョゼフが骨髄移植を受けられずに亡くなったことが影を落としているのか、各人の憎しみやわだかまりが家族に渦巻いている。そして今新たに、母の白血病と、骨髄移植の適合者はいるのか、という不安とプレッシャーがかかり……という状況。文字にするとずいぶん粘度の高いドロドロのように思えるけれど、それがそういうのとは違うのだ。
はじめは、こんな問題児が家族にいたらそりゃあ大変だろうなあとアンリを見て思うけれど、エリザベートの頑なさも、しばらく眺めていると、あれはあれで窮屈だし、ちょいと行き過ぎているんじゃないかい? と思えて、子供の好き嫌いをはっきり口にするジュノンもすごいが、それに普通に応じているアンリもそれはそれですごいと思う。
はじめて家族と顔を合わせて、「病気、悪いんですか?」とあっけらかんと尋ねる、アンリの恋人も肝がすわっているというかマイペースで、アンリの骨髄なんか移植したらよくないんでは?と本人に尋ねる父アベルも相当だ。
端から見ていれば、一人ひとりが、それぞれ少しずつ(大幅にと言ってもいいけれど)逸脱していて、それでうまくいっていないけれど、かといって壊滅状態ではない。
「皆が本心を隠して仲良しの振りをしている」のであれば、それは前述の粘度の高いドロドロになるのかもしれない。しかし、この作品では、受け止めたくないものは受け止めたくない頑固さで、それぞれ自分のスタイルと意志を貫いて、それぞれが抱え込むドロドロが、各自の中だけにあって他と混ざり合わないために、全体がドロドロにはならないのだ。
何度か、登場人物達が観客に向かって、自分の状況や考えていることを説明する演出シーンがあるけれど、それもこの作品世界を象徴している。それぞれちょっとずつ逸脱した頑固な個人が、孤独と負のあれやこれやを抱えながら、前を向いて生きていく。
果たしてこの家族が仲直りをするか、ジュノンの治療は成功するのか、そういうあれやこれやが解決することを期待して観てはいけない。大きな事件も小さな事件も、それぞれ個人の生きているうちに起こってそれぞれが抱えていく事柄。そしてそれが、ものによっては家族や知人で共有するものになるときもある。そんな一場面を切り取った作品だ。
■COLUMN
ちょっと前の作品。公開当時観たいなあと思いつつ、そのままになってしまっていたのを、レンタル店に行ったら見かけて思いだした。「クリスマス」などシーズン物の扱いをされる映画は、こんな形で後々にも再会できるからいい。
今年(にはじまったことではないけれど)は、メルマガからも、そもそも映画を観るということからも、すっかり遠ざかってしまった1年だった。その主な原因は健康に恵まれなかったことであり、それは今後もしばらく続きそうで、メルマガを続けて行こうか、一度区切りをつけて身軽(というか気軽の方が合っているかな)になろうか、迷った日々でもあった。
年の暮れも押し迫り、たまたま時間と体力に余裕ができて、「何とか今年のうちに1回くらいは出そう」「クリスマス物なんだからクリスマス前に出そう」と、こうして1本書いてみれば、やっぱり映画を観てああだこうだと何かを書くのは楽しくて、こういう場所があるのなら、わざわざそれを手放すこともないよなあとも思う。
健康に恵まれなかったといっても、あまりわかりやすい類の体調の崩し方ではないこともあり、体調そのものだけでなく、今の自分の状況を人に理解されないということに自分で勝手に悩んでいたりもした。
(たとえば、仕事で出張に出かけているくせに、誰かに誘われると「体調が悪くてあんまり外出ができない」と断ったり←意味わからないでしょー(笑))
この『クリスマス・ストーリー』には、それぞれ自分では重大で、苦しいことだけれど、端から見たら「そんな風にしなくてもいいのに」「もうちょっと歩み寄ればいいのに」と思えるようなことを、頑固に抱え続けている人々がたくさん出てくる。彼らを見ていると、理解されようとか考えることは要らないなあと思う。
自分の状況は自分のものであって、それを正確に把握される必要はないし、「意味わからない」と思われようが「なんじゃそりゃ」と思われようが、私は私でそれぞれ抱えているもののなかでできることをしていくしかないわけで、周りは、理解しなくってもいいから、ある程度受け止めて「ふーん」としておいてくれるならそれでいいや、なんてことを思ったのだ。
デプレシャン作品は、「フランス映画っぽいフランス映画」であって、ここに見られる人間関係はお国柄といってしまえばそれまでだけれど、心の持ちようとして、この作品からヒントをもらえてような気もしている。
あまりにも発行間隔が空いてしまって、廃刊措置を講じられない程度に、書けるときには書いていくつもりです。来年もよろしくお願いいたします!
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