2018年07月18日

No.269 好きにならずにいられない

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.269   18.7.18配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 外から見たイメージと、内実に目をこらして見える姿と ★

作品はこちら
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タイトル:『好きにならずにいられない』
製作:アイスランド・デンマーク/2015年
原題:Fúsi 英語題:Virgin Mountain

監督・脚本:ダーグル・カウリ(Dagur Kári)
出演:グンナル・ヨンソン、リムル・クリスチャンスドウティル、
   シグリオン・キャルタンソン
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■STORY&COMMENT
アイスランド、レイキャビク。43歳、太った独身男のフーシは母親と二人暮らし。空港で荷物係として働いているが、飛行機に乗ったことはない。趣味は第二次世界大戦のジオラマづくり。職場では同僚のイジメにあっている。
女っ気のないフーシを案じ、母とその恋人が誕生日にダンスレッスンのチケットを贈った。「少しは外に出た方がよい」と。嫌々会場に向かい、レッスンは受けずに車で好きな音楽を聴いて時間をつぶすフーシだったが、ダンス教室帰りの女性シェヴンに吹雪だから車で送ってほしいと頼まれる。シェヴンに勧められ、フーシは次のレッスンには参加するとうっかり約束してしまう。シェヴンとの出会いで動き出すフーシの人生は……

「単調な日々を送る純情な大男が初めて経験する恋の物語」
作品の公式サイトを見ると、ひと言でいえばそんなまとめになる。邦題のつけ方もそれっぽい。
でも、観ている間も、観終わってからも、「これって恋愛映画なの?」という疑問が、私の頭のなかでぽこぽこ湧いている。
そもそも、フーシの送る日々が、そんなにもモノトーンなのかというと、そうでもないと私には思える。職場でのイジメは問題だが、それ以外のところ、共通の趣味を持つ友人がいて、ヘビメタという好きな音楽があり、毎週通うエスニック料理の店がある。大きな変化はないかもしれないが、単調だなんだと他人からとやかく言われる筋合いはない。

おそらくこの違和感は、「つまらない日々」→「女性との出会い」というストーリーを聞いたときに、前者がモノトーンなら、後者が彩りあふれる世界、前者が陰なら後者が陽という、ついつい二つに分けてしまうイメージが、実際の作品と合わないせいなのだろうと思う。

初めて出会った日、快活で明るく見えたシェヴンは、実は不安定な心を抱えている。落ち込んでいるときと、気分が上向いているときの差が激しい。仕事も続かない。
フーシの恋愛は、二人で楽しく出かけるだけではない。いろいろ振り回されて、なんとか彼女の力になろうともがく期間の方がずっと多い。
でも、恋愛というか、人と深くつき合うということは、そんなものなのかもしれない。

外から見れば40を過ぎても恋人もなく寂しいだけに見える人生。外から見ればひょんなことからデートする相手ができて浮かれているように見える人生。どちらも、仔細に見れば、いろんな事情と感情がある。

寂しい一人の状態から、人生が躍動する世界へ。そんなわかりやすさは皆無。しかし、ひとつのできごとをきっかけに確実に少しずつ変わっていく人の暮らしを、ていねいに描いた作品なのだ。

■COLUMN
ここ東京は毎日暑い。ただただ暑い。
暑いものはこれ以上要らない。北国の映画を観てみよう。そういえばサッカーのワールドカップでも、「人口33万5,000人、新宿区と同程度の人口で代表チームが活躍するとは!」と話題になっていた。
という不真面目な理由で観たアイスランドの映画だが、上記のように思いがけず考え込むことになってしまった。暑い暑いと目の前(身の回り)の現実にしか意識がいかないところ、よい刺激になったと思う。

暑いから少しでもひんやりしそうなアイスランド映画という短絡的な発想だったが、吹雪のシーンや雪に包まれた屋外のシーンは、それを目にしたからといってちっとも涼しい気分にはならない。短絡はしょせん短絡であるという現実もつきつけられた。
吹雪は別の次元の世界に見えるし、外が吹雪くなか、家のなかのシーンにはむしろ温かさを感じる。

暑い国で涼しいと感じたいのなら、暑さのなかで涼しさを放っているものでなくてはリアリティのある涼しさは得られない。今ここでリアルに涼しいと思えるシーンを挙げるなら、夏の高原の涼しい風であり、うちわ片手に耳に入る風鈴の音であり、山深い土地の川のせせらぎ…、夏という現実のなかに、合間にするりと吹き込んでくる涼しさである。
遠い国の吹雪は遠い国の吹雪で、今この国の暑さと混ざり合うこともリンクすることもない。

なんてことも思う。要するに今ここは暑いのだ。

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