2019年05月25日

No.270 アクトレス 〜女たちの舞台〜

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欧 州 映 画 紀 行
               No.270   19.05.25配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 不安定な心持ちが心持ちそのままの形でやってくる ★

作品はこちら
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タイトル:『アクトレス 〜女たちの舞台〜』
製作:フランス・ドイツ・スイス/2014年
原題:Clouds of Sils Maria

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、
   クロエ・グレース・モレッツ、ラース・アイディンガー、
   ジョニー・フリン、ブラディ・コーベット
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■STORY&COMMENT
国際的に活躍するフランス人女優のマリア・エンダースは、列車でチューリッヒに向かっている。かつて無名だった自分を舞台『マローヤのヘビ』に抜擢してくれた、恩人である劇作家の代理で賞を受け取るためだ。
授賞式後、『マローヤのヘビ』のリメイクへの出演オファーがくる。マリアが若い頃に演じた役は、売り出し中のハリウッド女優に決まっており、マリアは、相手役の中年女役を打診される。


映画は、列車のシーンから始まる。マリアの個人秘書・ヴァレンティンが、揺れる車内で電話を受けている。列車の揺れで、画面も大きく揺れる。走行音がうるさく、電話での会話がうまく聞こえない。電波が不安定で、電話が切れる。1本切れば、次々と着信し、よく聞こえない通話が繰り返される。

私は、ストーリーを何も知らず、「オリヴィエ・アサイヤス監督でジュリエット・ビノシュ、Amazon prime で無料かー」という程度の動機でこの映画を選び、上記のシーンを観た。
そうしたら、この最初ですっかり引き込まれ、揺れる画面の落ち着かなさ、聞こえない、ぶちぶち切れる不安定さ、どこか不穏な空気が全体から伝わってきて、あらすじを何も知らないから、「何が起きるの? ひょっとしてこの秘書が何か企んでいるの?」とぞわぞわしながら観ていたのだ。

何かすごく不穏なことが起こるかも、という私のぞわぞわは的外れなのだが、冒頭のシーンの揺れから騒音からひしひしと伝わる不安定さが、この映画の全体のトーン、テーマといってもよいと思う。

列車内で、件の劇作家ヴィルヘルムの突然の訃報がもたらされ、授賞式もどこか落ち着かずに進む。

かつて若々しさを前面に出して出演した作品に、今度は追い詰められ破滅する中年女の役をと言われ、女優として老いや衰えの到来を予感し始めるマリア。セリフをさらえば、劇中の中年女の追い込まれ様に自分自身が重なる。

作品の解釈をぶつけたり、若い世代の役者やアーティストを紹介したりして、自分なりの感性で秘書の仕事をしようとするヴァレンティンとマリアのすれ違い。
「円熟」のマリアに対する、奇行や目立つ発言もあり注目を浴びてときめく、若い共演相手ジョアン。

自分が何をしたいのか、この先どうなるのか、これでいいのか、このままじゃだめなのか。
女優という華やかな職業とその周りの世界が描かれているが、世界の誰もが、それぞれが立つ場所で、迷い、悩み、不安に陥ることだ。
はっきりと言葉で説明できないもやもやも含め、いろんな不安定さを、そのままの形で作品から心にダイレクトで伝える。そこに、よい悪いの価値判断はない。繊細で上品な作品だと思う。

■COLUMN
揺れてうるさい列車から、落ち着かない授賞式とパーティの喧噪へ。そして第二部に移ると、画面に広がるのは、どこまでも広い山岳風景だ。

息の詰まる場面から思わず深呼吸したくなるこの場所は、ヴィルヘルムが執筆に使っていた山荘のあるスイスのシルス・マリアである。マリアは、役作りのためここを借りるのだ。

風にそよぐ木々、眼下に広がる湖、どの方角にも連なり構える山々。そんな雄大な景色に心洗われるようだが、この景色も、物語の展開によって、冷たく映ることもあれば、おどろおどろしく映ることもある。

山の天気のように変わりやすいこの印象は、ひょっとしたらこの作品自体の印象にも似ているのかもしれない。
私が受け取ったのは、迷いや不安満載の中で生きる人々の感情とその揺れだったが、今順風満帆で生きている人には、登場人物の迷いは滑稽な喜劇に映る可能性もある。年齢でも受け取るものは異なるだろう。

観終わったあと、作品について話すと、それが立場や状況の違う人なら、まるで印象が異なる。そんなことが起きるかもしれないと思う。
タイプの違う人、年齢の離れた人、バックボーンの異なる人と、話すネタにしてみたい作品でもある。


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