欧 州 映 画 紀 行
No.272 20.10.02配信
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お久しぶりでございます。前回の配信から1年以上、世の中はすっかり様変わりして、見通しが難しくなっています。読者の皆さまは、変わりなくお過ごしでしょうか。
久しぶりに配信しようとしたら、「まぐまぐ!」は休刊扱いとなっていて、
「メルマ!」はサービスそのものが終了していました。というわけで、メルマ!でお読みいただいていた方には、ご挨拶もせずじまいでしたし、まぐまぐ!でお読みの皆さまにも、どのくらいきちんと届くのやらわかりませんが、気が向いたのでまた配信してみます。次がいつになるかはわかりません(すみません、苦笑)。
「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、レンタルや配信でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
★ 周到に、重層に折り重ねられたテーマを、あくまでも軽く、軽やかに ★
作品はこちら
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タイトル:『真実』
製作:日本・フランス/2019年
原題:La Vérite 英語題:The Truth
監督・脚本:是枝裕和(Kore-eda Hirokazu)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、
リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、
マノン・クラヴェル、アラン・リボル、
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■STORY&COMMENT
フランスの大女優ファビエンヌのもとに、アメリカで暮らす娘リュミールがやってくる。ファビエンヌが自伝『真実』を出版したお祝いというが、事前の原稿チェックができなかったことに不満を持っている様子。できあがった『真実』を読んだリュミールはファビエンヌに文句を言うが…。
自伝と家族の再会をきっかけに、それぞれが過去と向き合っていく物語。
映画の始まりは風に揺れる木々の映像。濃い緑の群れに色づいた葉を持つ樹木も混じる。枝のすきまからは車の行き交う道路が見える。そんな開放感のある映像に、インタビューを受けるファビエンヌの声がかぶり、カメラは室内へ。記者の質問に苛立ち気味で、お茶を口に入れ「ぬるい」とひと言。いかにも大御所といった姿だ。
この映画、ほとんど事前情報なしに観始めた。「是枝裕和監督が、カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュを使ってフランスで映画を撮った」くらいの知識しかなく、だからカトリーヌ・ドヌーヴが女優役であることも知らなかったのだが、そんな状態で観ても、インタビュアーの質問から「女優」であり、受け答えの雰囲気から「大女優」であることがわかる。
他の女優のことをきかれて「あの人、まだ生きてる? お葬式に出なかったかしら」などと発言しているのは、大女優の自由さなのか? 認知症の問題? などと、緊張感のある雰囲気から想像を膨らませてみる。
そこへ、「英語を話す」家族づれがやってきて、フランスの国民的大女優というどっしりした世界に、何かがかき混ぜられる風が入りこむ。その辺りで、「家族の物語なんだね」と理解しはじめる私。
美しい映像で目線をつかみ、情報をぐっと詰めて仕立てた状況を観客に伝えて、物語に引き込む冒頭。私の好きなタイプの作品! と身を乗り出す。
『真実』と題された自伝に、真実が書かれていないとリュミールは母を責める。しかし、物語が少しずつあばいていくのは、「真実」はこれと指させるものなのか、子どもの頃の記憶は本当に正しいのか、実はあやふやなものかもしれないという現実だ。
親子の葛藤や行き違い、家族のつながり、突き詰めて掘り探れば、いくらでも重く痛いものになりがちなテーマであり、現実世界で私たちの誰もが抱え込む類のやっかいなあれこれだ。しかし、ここでは、あくまでも軽く、軽やかに物語は進んでいく。
重く繊細なテーマが、軽やかに繰り広げられる空気が心地よく、ずっとここに浸っていたいと思わせてくれる。
■COLUMN
ファビエンヌの映画撮影現場のシーンが多く、映画製作の世界を垣間見られるのもこの作品の魅力だ。
ファビエンヌが目下取り組んでいるのは、どうもB級映画らしいSF作品『母の記憶に』。これが劇中劇として差し込まれ、母と娘の関係は二層構造で描かれる。調べてみると、SF作家ケン・リュウの短編『母の記憶に』がベースとなっているとわかった。ケン・リュウ自身も、『真実』にはアソシエイトプロデューサーとして参加している。
不治の病で余命2年となった母が、娘の成長を見守るために、宇宙船に乗って経過する時間を短縮し、7年ごとに娘に会いにくる、という設定だ。ファビエンヌは、73歳になった娘を演じている。この劇中劇においても、「嘘」と「真実」、そして母と娘の関係というテーマが挟まれ、何年も若いままの姿でいる母親役を担う新進気鋭の女優との共演には、リュミールがこだわる「真実」との関係もあるらしいことが示唆される。
決してややこしくはないのだが、物語の中の要素が重層的に絡み合い、感情も知的好奇心もくすぐってくれて楽しい。
原作を読んでみたが、ほんの数ページのショートショートだった。「劇中劇」だから、作品のほんの少しの部分しか触れられていないのだと思い込んで観ていたが、原作が劇中劇の中でむしろ膨らませられていると思うくらいに、元は短い作品。原作を読むと、劇中劇として描かれたこの映画作品も完成を観たいと、よけいに思った。(現実の世界では『Beautiful Dreamer』というタイトルで短編映画になっているらしいけれど)
そんなこんなで、一度観た後に、周辺の調べ物をした後に、もう一度通して観て、新しい何かを発見してみたいと思う作品だ。
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