欧 州 映 画 紀 行
No.273 21.7.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
★ 変わりゆく姿を丁寧に ★
作品はこちら
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タイトル:『冬時間のパリ』
製作:フランス/2018年
原題:DOUBLES VIES 英語題:NON-FICTION
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)
出演:ジュリエット・ビノシュ、ギヨーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、
クリスタ・テレ、ノラ・アムザウィ、パスカル・グレゴリー
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■STORY&COMMENT
編集者のアランは、本の売り上げが落ちる中、ブログやSNS、電子書籍など、デジタル化戦略に取り組む悩ましい日々。部下と不倫中。
女優のセレナは、アランの妻。人気テレビドラマのシーズン4を続けるかどうか考え中。アランの浮気を疑うが、実は自分も長く不倫している。
作家のレオナールは、旧知のアランに新作を見せるが、出版できないとの返事を聞きショックを受ける。実はセレナの不倫相手。
政治家秘書のヴァレリーは、社会貢献できる仕事に夢中。出版できないと落ち込む夫がなぐさめてほしがっていて鬱陶しい。
と、このようにストーリーを説明すると、なんだかとんでもないどろどろ不倫ストーリーに見えるだろう。原題を直訳すると、ダブルライフ(の複数)。別の生活を持ちながらお互い秘密を抱え込んでいる泥沼のイメージ。
いや、しかし、そんなことはないのだ。こっそり不倫しあっている状況は、まあ、フランスの大人の映画でよくあるところ。そのことで世界や友情や生活が崩壊したりはしない。
この作品の肝は、世の中の変化を丁寧に見つめて切り取っているところだと思う。渦中でもがく人とその周囲のかしましさを、静かに精緻に映し出す。
アランは老舗出版社の編集者だが、SNSの書籍化や既刊の電子化を迫られ、本をつくって生き残れる時代ではないという流れにさらされている。
フランス映画らしく、友人同士が集まって飲み食いしながら交わされる、読み物が本からネットにうつっていくこと、映画が配信になっていくこと、紙から電子媒体に替わっていくことetc. そんなあれやこれやの議論は、ちょっとややこしいこともあって、「今なんて言ったの?」とリモコン片手に戻しながら堪能した。私もちょっとひと言言いたいな、なんて思いながら。
問題がフランスも日本も共通で、同じ議論のネタを抱えているあたりも、今風の変化のひとつだろう。
登場人物が、出かける前にいくつものデバイスを充電ケーブルから取り外して忙しくカバンに詰め込んだり、パーティ中のスマホを嫌がられたり、なんて日本でもありがちなシーンには、デジタルで「地続き」になったグローバルな世相が見える。
レオナールをずっと担当してきたアランだが、彼の作品を古くさいと感じていて、女性の描き方も気にくわない。だから出版にも消極的なのだが、おそらくこれは、アランの好みだけでなく、世の中の流れや変化とも連動していることなのだ。
レオナールはいつも私小説的なものばかり書く作家だが、モデルにされた元妻がネットで怒りを表明し、野次馬たちがサイン会にやってきてそれを批判してみたり。古典的な小説を書くレオナールもネット社会が生み出す「創作のあり方」の変化にさらされている。
でも結局、彼の小説は話題になったりと、なにが流行るかわからないあたりも変化のひとつだろう。
複数のダブルライフの問題も、文化のデジタル化も、某かの決着がつくような、つかないような。
私たちは変化にさらされたり、自らが変わったり、変わるを余儀なくされたりして、そしてこれからも生きていくんだろうなあ、そんなことを思った。
■COLUMN
ずいぶん時間があいてしまったが、去年の大晦日に「なにかリクエストくださいねー」と投げかけたところ、「ジュリエット・ビノシュって最近はどんな感じ?」というのと、セドリック・クラピッシュの『パリのどこかで、あなたと』を挙げていただいた。
ジュリエット・ビノシュが出演している、気に入ったこちらを今回は取り上げた。クラピッシュの新作は、次回配信できるようただいま準備中。
彼女の日本での最新作品は、今年の5月に公開された『5月の花嫁学校』だろうか。私は未見だが、1967年のアルザスを舞台に、夫の死をきっかけに女性の自由な生き方を模索する「花嫁学校の校長」を演じているそうだ。これも今回の『冬時間のパリ』に通ずるような、時代と自分の変化を考えられる作品なのかな、と思う。
ビノシュは1964年生まれ、現在57歳。実年齢に比べて若い役をよくやる印象がある。この作品で演じたセレナには幼い子供がいる。30代か40代前半くらいの設定なのだろう。以前に取り上げた是枝裕和の『真実』でも、小さな娘がいる設定だった。
顔や雰囲気がやわらかくて、貫禄ある中高年に見えないということ、また幅広い年齢を演じるだけの力もあるということだろう。これからは老人役もやるようになるだろうか。それも楽しみだ。
『冬時間のパリ』に照らしてみれば、年齢をもとにああだこうだということも、いろいろと人の考えが変化した今の風潮には合わなくて、軽々しく口にすることではないかもな、と私はちょっと及び腰でこれを書いている。
最近の主演作『私の知らないわたしの素顔』は、若さを失って悩む中年女性の話だ。年下の恋人に振られたことをきっかけに、SNSで年齢とポートレートを偽り元恋人の友人に近づいたら、恋に落ちてしまって……。ロマンスかと思いきや、どんな結末に連れて行かれるかわからないサスペンスタッチのストーリーだった。ピンと張り詰める緊張感が好きな人におすすめ。
さて、最後にもうひとつ。
『冬時間のパリ』という邦題は、前項でもふれた通り原題には似ても似つかない。ことさら冬が関係するわけでもないのだが、おそらく、同監督の『夏時間の庭』からの連想だろう。この作品は原題が『夏時間』だから妥当だが、両作品が特に関係しているわけではないし、冬時間の方はちょっと無理矢理ではないかなと思う。共通点といえばジュリエット・ビノシュが出ていることくらい? 確かに今回のビノシュのカラフルなセーターやロシア風の帽子など、冬ファッションはとても素敵だけれど。
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