『橋本治のかけこみ人生相談』という本を読んでいたら、「ああ、これって私のことだわ」と身につまされてしまった。
相談者の状況は私は似ていない。社会人になりたての会社員の《いわゆるいい大学からいい会社に入って、労働環境もわりとよい。しかし、会社が嫌でたまらない。考えてみると、大学・大学院時代も「つらいなあ」と思うだけで日を過ごしてきた。なんでこんなにつらいんでしょう。》という主旨の相談だ。
めちゃくちゃ努力をしなくてもなんとなくいろんなことができてしまった相談者に対し、そういうことができたのは豊かな感情があったからで、それが枯渇に向いたのは、成績が悪くなったわけでもないのに受験に怯え続けた頃のことだと、橋本はいう。怯えるのは自分の豊かな感情がなくなりつつあると感じた結果なのだと。
相談者ではない私には、この指摘が的を射ているのかどうかは知らない。ただ私には思い当たることがたくさんあった。
事情はこちらの記事に詳しいが、数年前から私は、とにかく疲れて活動量がものすごく少なくなる状態にあって、毎日毎日、やらなきゃならないことを乏しいキャパのなかに押し込めて、自分のキャパを越えそうな仕事やらイベントやらが迫ってくると、「ちゃんとやれるか」とひたすら怯える生活を送っている。
そうして、とにかく「やらなきゃ」と頭で自分を追い込んで、少し時間に余裕ができたときでさえも、その「やらなきゃ」の気持ちばかりで焦り、好きなこと(好きだったはずのこと)も「やれるか」と怯えながら義務感でこなしている。
そうか。私は豊かな感情という貯金を切り崩しながらなんとかやってきて、もうそれがなくなっちゃったのかもしれないなあ。そう思い当たったのだ。
じゃあ、どうすれば?
《あなたがなくしてしまった、あるいは新しく増やすことが出来なかった最大の感情は、「なにかを好きになる、好きになれる」というものです。物であっても、人であっても、行為であっても、「自分はこれが好きだ」と思えれば、幸福感が生まれます。人間にはそれが必要なのです。(中略)つらい」の反対には「好き」があって、「好き」と思える感情がなくなると、「つらい」になるのです。》
橋本は相談者に対して、なにかを好きになるという感情を取り戻すことを勧める。
別の相談者で「好きなことが見つからない。見つける方法を教えて」という人に対し、《ではどうすれば、「なにかを好きになる」ということが可能になるのでしょうか? あなたの胸の中は、なにかの理由でしっかりとガードされっ放しで、自分の外側にあるものを受け入れることが出来ないでいるのです。(中略)なにかを好きになるためには、自分の方に「それを受け入れる土壌」を作ることが必要です。カチンカチンなった自分の心を耕して、もっと柔らかいものに変えるということです。そのためには、あまり役に立たないことをアレコレ考えるのをやめることが必要です。》とアドバイスを送る。
ああ、そうだね、倒れる前にちゃんとやらなきゃ、とにかくやらなきゃ、で、なんだかいろいろでカチンカチンになっているのかもしれない。
感情は枯渇し心はカチンカチン。ああ、大変。
つまらないことをアレコレ考えずにボーッとしろと橋本はいう。自分では気づいていないかもしれないその緊張をぼんやりして解こうという。
私は幸いなことに、好きなことはわりといろいろあったのだ。
だから新しく見つけなくても、ボーッとしてそれを思い出せばいいのかもしれない。
ボーッ
ボーッ
ボーボーッ
心の習慣というのは知らないうちに自分を支配しているもので、感情貯金再開への道は長そうだ。
自信はないけれど、でも、ちょっとは心がけてみようか。
ボーッ