欧 州 映 画 紀 行
No.275 23.4.29配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
↑「ビデオ鑑賞」というのもなんとも古い表現になりましたねえ。
めったに出さないけれど、たまに配信するので、よければおつきあいくださいませ!
★ すべてが終わった後にも物語は動き出す ★
作品はこちら
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タイトル:『幸せなひとりぼっち』
製作:スウェーデン/2015年
原題:En man som heter Ove 英語題:A MAN CALLED OVE
監督・脚本:ハンネス・ホルム(Hannes Holm)
出演:ロルフ・ラッスゴード、イーダ・エングヴォル、 バハール・パルス、フィリップ・ベリ
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■STORY&COMMENT
スウェーデンのとある町。59歳のオーヴェは頑固で偏屈。愛妻に先立たれ、43年間勤めた鉄道会社をクビになり、自殺を決意する。首を吊ろうとしたところに、向かいにペルシャ人の若いファミリーが引っ越してくる。その大騒ぎで首吊りどころではなくなり、自殺は失敗。その後も自殺を企てるごとにジャマが入って成功しない。そうこうしているうちに、向かいの一家との交流が始まって……
アマゾンプライムのリコメンドに出てきて、まったく予備知識なく観始めた。
映画は花屋で店員に難癖をつけるオーヴェのシーンから始まる。「2束70クローナなら1束35クローナだろう」。店員が2束セットの値段だと説明してもくどくどと文句を続ける。ああ、めんどうなおじさんだ。
地区のルールを守らない近所の住民に文句をつける。ぶつくさ何かをつぶやきながら、ゴミの分別をやり直す。ああ、小うるさいつきあいたくないおじさんだ。
「まだ59歳だし他の仕事をしては?」と職場でクビを言い渡されるシーンでは「え? 59歳? 75歳じゃないの?」と思う。日本の感覚だとそれくらいに見える。
そんなオーヴェが自殺しようとしては、向かいに越してきた妊婦パルヴァネ一家にいろいろとジャマをされては成功しない。ジャマをされたといっても無視して自分の計画を遂行すればいいものの、「規則を守っていないから注意しなくちゃ」「駐車がうまくできないから代わりにやってやる」とか、オーヴェ自身のおせっかいや妙なこだわりで自殺が頓挫しているわけで、悲壮感よりも喜劇調で物語は進む。
この作品の魅力は、パルヴァネや夫のパトリック、2人の子ども達と、なぜだか交流が進む中、それと平行してオーヴェが自分の人生を振り返る、二重のストーリーにある。新しい出会いが偏屈なおっさんを変えるのかな、という期待と、一体妻はなぜ死んだのか、なぜオーヴェは今こんな具合なのか、それが少しずつ解き明かされていくミステリー要素に、観る者の気持ちは高まる。
最終的には今進行中の物語と、過去を振り返る物語が少しずつ絡み合って、ハートウォーミングな結末にたどりつく。向かいの子ども達がなんでこの偏屈なオーヴェになつくのかね、という疑問はぬぐえないが、きっと理屈ではないのだろう。
人と人が関わることで、何かの力が働いて、虚構でも現実でも構わない、物語が動き出すこと。そのすがすがしさを眺めるのが、私たちは気持ちがよいということなのだろうと思う。
■COLUMN
オーヴェは、あるエリアに同じようなつくりの一軒家がたくさん並び、倉庫やゴミスペース、住民専用の歩道を共有するタイプの集合住宅に住んでいる。
おそらく、こちらの記事に書かれている「Radhus」というものだ。
https://sverigeyoshi.hatenablog.com/entry/2017/02/25/051332
住民が自治会のようなものを組織して、ゴミやペットや車の通行などのルールを取り決めているようだ。そのルールが守られているか、ゲートなどが故障していないか、点検して回るのがオーヴェの日課だ。
このRadhus以外の環境で、この作品が成り立つイメージはあまり持てない。
マンションのような1棟の建物ではない、いろいろな一軒家が集まった地区会でもない、こういう集合住宅のあり方が、オーヴェの再出発の物語をつくり出したようにも思う。
ストーリーとは別に、何気なく異国の普通の暮らしを目にできるのも、映画の楽しみというもの。
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