2017年08月15日

No.267 偉大なるマルグリット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.267   17.08.15配信
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週末は、おうちで映画鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
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★ 人にはいろんな側面があるもので ★

作品はこちら
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タイトル:『偉大なるマルグリット』
製作:フランス/2015年
原題:Marguerite 

監督・共同脚本:グザヴィエ・ジャノリ( Xavier Giannoli )
出演:カトリーヌ・フロ、アンドレ・マルコン、ミシェル・フォー、
   クリスタ・テレ、ドゥニ・ムプンガ、シルヴァン・デュエード
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■STORY&COMMENT
1920年、フランス。パリ郊外にあるマルグリット・デュモン男爵夫人の邸宅では、貴族達が集まって、チャリティーのサロン音楽会が開かれていた。トリを務める主役のマルグリットは、衣装にもオリジナルで凝って堂々の登場をするが、実はひどい音痴だ。出席する貴族たちは真実を伏せて拍手喝采する。知らぬは本人ばかりなり。

ある日、このサロン音楽会に忍び込んでいた、辛辣な批評をすることで知られる新聞記者のボーモンは、この音痴に驚きながらも、大金持ちのマルグリットに近づくため、「心をわし掴みにする声」と大絶賛の評を寄せる。
この批評に喜び、自らボーモンに会いに行ったマルグリット。新しい友人ができたことをきっかけに世界が広がり、本格的に歌を学んで、パリでリサイタルを開きたいという希望を持つようになるが……

マルグリットの音痴はどこでバレるのか、ひょっとして音痴でもリサイタルは大成功してしまうのか。そんな風に先行きが気になり、単純に筋を追う楽しみがたっぷりある作品。そして同時に、マルグリットをはじめとする、登場人物たちに抱く印象が、ストーリーが進むにつれ少しずつ変わっていって、人のいろんな側面を観察できるところも面白い。

「お金持ちの貴族が音痴のくせに自分だけいい気分で歌っちゃって」とマルグリットを最初は意地悪な目で見てしまうのだが、マルグリットが純粋に歌を愛し、オペラを愛して、嬉々としてオペラの登場人物になりきった写真を撮っているところなど見ていると、ただただかわいらしく、応援する気持ちになってしまう。
そんな気持ちの変化は、はじめは利用したくて皮肉を込めた絶賛記事を書いたボーモンにも表れる。

マルグリットの夫ジョルジュは、妻の音痴を陰で皆が笑っているのが恥ずかしく、音楽会の日にはいつも車が故障したことにして歌の時間には遅れてくる。さらに、妻の歌やオペラごっこに辟易して、浮気中。事なかれ主義の貴族なのだろうと眺めていると、この人もだんだん変わってきて、最後には冒頭とはまったく異なった印象を残してくれる。

マルグリットに忠実な使用人マテルボスは、オペラ写真撮影、音楽会の準備と献身的につきあい、歌を学びたい、リサイタルを開きたいという彼女の夢の実現にも、影に日なたに精一杯協力する。しかしこの人も最後にはまったく別の側面が見えて、ちょっと苦い。

ラストは、「フランス映画」らしく、観客に「ああ、この後どうなったのだろう!」と思わせてその後を託す。それがいつまでも続く鑑賞後の余韻となっている。

■COLUMN
結末がわかっていることを前提に話したい、そうしたらもっと語れることがあるのに、と思う映画があるが、これはそんな映画のひとつだ。
上にも書いたように、最後まで観ると、登場人物の印象も変わるし、最後まで観た頭でもう一度最初から観たならきっと思うところも違ってくるかもしれない。「ネタバレ」できないのはちょっと不便だと思う。

結局、マルグリットが自分は歌が壊滅的に下手である、と気づくのか否か、は観てのお楽しみとして、ただひとつ言えることは、結末まで観ても、果たして真実を告げる方がよいのか、それとも自分が信じているように楽しんで歌を続ける方がよいのか、それは簡単に決めることができないということだ。
本人にとって、という意味でも、周りにとって、という意味でも、何がよいことなのか、断言することは難しい。この後どうなったのだろう。と同時に、どうするのがよいのだろう。と、ああでもない、こうでもない、と考え尽くせる映画だ。

歌が題材だけに、全編に散りばめられた音楽、そして1920年パリのアーティストたちの退廃的なムードなど、ストーリー以外の楽しみの面もしっかり用意されている映画だが、その中で、あれはどうやっていたのだろう、と特に思うのは、マルグリットの下手な歌だ。
演ずるカトリーヌ・フロ本人が本当にあれを歌っていたのか、耳をふさぎたくなるキャンキャンとした音痴っぷりは、誰がどうやってつくりこんだのか。歌を下手に歌うのって案外難しいもので、上手に下手さを出さなければなかなか表現できないものじゃないかと思う。
「どの辺でどう音を外しているからこの壊滅的な下手さが出てる」なんてところも含めて、いろいろに考えを巡らせたくなる要素だ。

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★DVDなど

『偉大なるマルグリット』DVD ¥3,280
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2016年12月25日

No.266.16 言い訳号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.266.16   16.12.25配信
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と、はじめてみたものの、今回はなかなか配信できないことの言い訳をぎっしりつめた言い訳号。
映画作品の紹介もなし。ごめんなさい。

前回の配信から半年経ってしまって、2016年も暮れようとしてる。
こんなに配信できないなら潔くやめてしまったらいいんじゃないかとも、よく思うのだけれど、映画を観てああでもないこうでもないと書きつけられる場所を持っておけることは自分でもうれしく、何もわざわざやめることもないんじゃないかね、と思う。しかし配信はなかなかできない。時は過ぎていく。
本日は、なんでそんなことになってしまっているのか、言い訳をさせていただく回である。

2012年の秋頃から、なーんだか長距離を歩けないという事態になった。ちょっと歩くとすぐに足が棒になる。
病院では、筋肉がすぐに疲れる自己免疫疾患の可能性が高いと言われるが、検査をしても「そうだ」と言い切れる結果が出ず、今に至るまで結局診断には至らず、治療法もない。

四肢の筋肉がすぐに疲れてしまい、階段をのぼったり長距離を歩いたり急いで歩いたりすると、足を前に運べないような疲労感に襲われる。腕の調子が悪い日には、じゃがいもの皮をむくだけで腕立て伏せをしたかのように腕が疲れる。
そして、全身がとにかく疲れる。午前中は比較的よいのだが、時間が遅くなればなるほど体がだるくなって、夜にはほとんど起きていられないから、夜型だったのが、今やすっかり朝型に。たいしたことをしなくても毎日ギリギリまで体力を使ってしまうから、最低9時間くらいは眠れなくとも寝転んでいないと体がもたない。

さっぱり配信ができないことの主な理由はこの体の状態なのだが、脚や腕の筋肉がすぐ疲れる病気だからといって、家でDVDで映画を観て座ってパソコンでメルマガを出すことが、なんでできなくなるの? と、読者諸氏は思うかもしれない。思うよね。

発症直後の頃に比べると今はだいぶ歩けるようになっているが、依然困っているのが、「活動できる量がとにかく少ない」ということだ。「時間がない」とも言い換えられる。
たとえれば、病気になる前の活動できる量を100とすると、今は40くらいしかない状態。(活動する量なので睡眠と休息はすでに抜いて考えている)
日々のやることというのは、食い扶持を稼ぐ仕事、やらなきゃ生活が滞るような家事など、必要度Aクラスのもの、友人とお茶を飲むとか、日常的な趣味とか、仕事用の勉強とか、必要度Bクラスのもの、時間があればやりたいような旅行や大型レジャーのCクラスのもの、とまあ、その人なりにいろんな優先順位があると思う。
活動量が元気なときの4割くらししかない今、その中に必要度Aのもの(ほとんどは仕事)を詰め込むと、もう活動の余地は残らない。
だから、仕事と睡眠と休息だけを繰り返すのに必死で、たまに仕事がひまになって、40の中に仕事以外のものを入れられるようになったら、必要度Aの中でずっと積み残しているもの(たとえばたまには自分で料理をしようとか、部屋が荒れているから掃除をしようとか)をやって、だいたい休日は終わる。
もうちょっと余裕が出たら、友人とお茶を飲む時間と体力ができるかも。映画も観られるかも。だが、メルマガを書くところまでたどり着くには、相当なヒマが必要で、2016年の後半は特に、仕事だけでほとんど毎日40をフル稼働していて、映画を観るというところにもまるで至らなかった。

病気で映画が観られないわけではない。しかし、日々の生活の中で映画を観るということを取り入れることが極めて困難な場合、結局それは「できない」と同義だよ、と私はよくいじけてみる。

そうして仕事ばかりの生活を4年も続けていると、自分の幅がどんどん狭くなる。自分でもいろんな場面でそれを自覚する。映画はしばらく観ていないと、なんていう映画が世の中にあるのかもわからないし、知らない俳優、監督も増える。「どうせ観られない」といじけている身には、情報だけには触れておこう、なんていうのもわりと辛くて、映画にどんどん疎くなる。
読書も、サッカー観戦も(テレビ観戦含め)、芝居を観ることも「毎日の40」の中に入れられないものは、私からどんどん縁遠いものになる。

そんなこんなで、仕事しかしていなくて、好きな映画を語ることも、面白かった本を人に教えることもできなくなっていることは、自分でもさみしいし、ちょっとした劣等感にもつながっている。
病気を治す手立てがない以上、この状態はあと何年も何十年も続くだろう。つまらんことだなあ、と思う。つまらん人間のまま、ただ40の中に仕事を詰め込んでただただ暮らすんだろうと思う。
そんな中で、すっぱりメルマガをやめてしまうのもひとつの手だけれど、でもいつか、また、映画を観て、あることないこと、じゃない、あれやこれやと思うことを書いて配信することがたまーにでもできたら、いいよね、と思う。この場所を残しておくことは、私の小さな希望なのだ。


というわけで、長々書いたが、これでもだいぶん手短に説明した、私がさっぱりメルマガを書けないことと、そのくせしつこく廃刊や休刊にはしないことの、言い訳である。
読者の皆さま。もしも気が向いたら、映画を観てメルマガを書くということを、もーうちょっと定期的にやれるのを、待っていてくださればとてもうれしい、です。


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2016年06月19日

No.266 パレードへようこそ

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欧 州 映 画 紀 行   No.266  16.06.20配信
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★ 闘い抗う人々に拍手を ★

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タイトル:『パレードへようこそ』
製作:イギリス/2014年
原題:Pride 

監督:マシュー・ウォーチャス( Matthew Warchus)
出演:ベン・シュネッツァー、ジョセフ・ギルガン、フェイ・マーセイ、
   ジョージ・マッケイ、ドミニク・ウェスト、アンドリュー・スコット、
   ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、パディ・コンシダイン、
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■STORY&COMMENT
1984年サッチャー政権下のイギリス。
炭坑の閉鎖に抗議して、炭鉱夫のストライキが長期化していた。そのニュースを見ていたゲイのマークは、デモなどで警察・公権力と闘う自分達と重ね合わせ、敵が同じ者同士、支援しようと、ゲイ・パレードで募金活動を行った。
本格的に活動をスタートさせようと、支援組織LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)を立ち上げて仲間の参加を募るが、集まったメンバーは9人だけ。さらに、寄付金を送ろうと全国炭坑労働組合に電話をしても、「レズビアン&ゲイ」と名乗ると相手にされない。
そこで、炭鉱に直接電話をしてみたところから、ロンドンのLGSMメンバーと、ウェールズの炭鉱町ディライスの人々との交流が始まり、事が動き出していく。

「男らしさ」が大事にされる炭鉱夫の集まる組合。はじめはLGSMの支援を受けるか否かで紛糾、混乱する。
このあたりの偏見を打ち破るのに難航するのかな、と思ったが、最初の障壁は、下世話な好奇心の助けも含めて、メンバー達が会って話をしているうちに案外すんなりと打ち解けて、数人だけがどうしても受け入れようとしない、という格好。こんなに早く仲良くなってしまって、物語としてはどうするんだ、と心配になったほど。
実話だというから、最初のとっかかりが実際にはもっと大変だったのかもしれないけれども。

物語としてどうしたかというと、ひとつには、LGSMと炭鉱組合という団体同士のメインストーリーの脇に、個人の事情とその解決・成長が描かれるサイドストーリーがちょろちょろと用意された群像劇的しかけをしたこと。

ゲイゆえに家族と仲が悪く、実家のあるウェールズをどうしても訪れられなかったゲシンや、保守的で過保護な家庭から自立できずにいたジョーの他、炭鉱町では概ね中年の女性たちがゲイやレズビアンに寛大で、LGSMのメンバーに感化されてどんどん活動的になってゆく。それに引きずられて、ダンスの得意なLGSMメンバーから習って女性にモテるようになる炭鉱夫も出てくる。
と、異世界の人が出会うことによる人の変化や成長が、そこかしこに見られて飽きが来ない。痛快と言ってもいい。

そしてもうひとつは、そうして個人の交流の中で育まれた友情も、外からの様々な圧力で、一筋縄ではいかない現実を見せること。社会現象として世の中で様々に取り沙汰されるストライキが大本にある以上、外からの好奇の目も、世の流れによる絡め取られも、避けられはしない。

炭鉱という産業がその後どうなったのか、2016年にいる私たちは悲しい事実をいくつも知っている。しかしそんな知識の気取りはどうでもよくなるほどに、逆境を生き抜き、行動を続ける人々のさわやかさに、拍手を送りたくなる作品だ。

■COLUMN
古いものも含めて、ここのところちょっとイギリスの映画を意識して観ていた。なぜかというと、「宣伝」のためである。

この春から、私の夫が「紅茶」の通信販売を始めたのだ。ティーブレンダーさんと組んで開発した、誰でも手軽においしく入れられるオリジナルブレンド紅茶を売る「犬猫紅茶店」。
なんで犬猫? と興味を持たれた方は、
http://dogcat-teahouse.shop-pro.jp/?mode=f2
この辺りをご参照いただければ幸いです。

私たち夫婦は、大学の「紅茶倶楽部」という紅茶をいろいろ飲み歩くだけというサークルで出会い、我が家の食卓にはつねに紅茶があった。そんな夫婦だ。
私の方はそれほど紅茶に詳しくもこだわってもいないが、そんなに高くなく、気取ることなく、おいしい紅茶が飲めたらいいな、とはいつも思っていて、犬猫紅茶店の紅茶は、まさにそんな紅茶だと思う。この事業が何とか続いて、私もこの紅茶を飲み続けられたらいいなと思っている。

というわけで、紅茶といえばイギリスの映画でしょう。と、何か紅茶の出てくるイギリス映画はないかな、なんて思っていたわけで。

この『パレードにようこそ』にも紅茶は出てこないにしろ、マークの部屋には、かわいいティーポットがちらりと写ったり、生活の中に紅茶が根づいていることはわかる。
しかし「イギリス映画=紅茶」というイメージは、いわゆるイギリスの上流階級が優雅に茶器をテーブルに広げて楽しむステレオタイプに支えられているもので、はたと気づくと、そんな古き良きブリティッシュの文化を見せるイギリス映画というものがあまりないのだなと思う。

じゃあ今のイギリス映画ってどんなものが描かれるんだろうというと、この作品に出てくるような、労働者から体制、階級への反発、マイノリティの闘いだろうか。最近観た『キングスマン』というスパイ映画、というかブラックユーモアとパロディ(オマージュ?)満載のおバカ映画で頭を空っぽにして楽しめるものだったが、この中でも、貴族趣味にいつまでもこだわるスノッブな貴族への、底辺から這い上がってくる者の逆襲がスパイスとして使われていた。

私の印象に残る「紅茶」が効果的に使われていた映画といえば、『シーズンチケット』(昔、このメルマガでも取り上げた。 http://oushueiga.net/back/film045.html )。
今回再見をしたかったがレンタルでも配信でも見つからなかったため、うろ覚えだが、この作品中の誰からも相手にされない不良少年が、自分の最高の思い出として語る言葉だ。
「スタジアムで父と一緒にサッカーを観てた。寒くて震えていると父がコートを掛けてくれて、ハーフタイムにはミルクたっぷりの温かい紅茶を買ってくれる。砂糖は二つ。あったかくておいしかった」

紅茶の象徴する物理的・精神的両面での温かさとおいしさをこんなに素直にわかりやすく表現している映画は他に知らない。ちなみに、父親にひたすら殴られて育った少年には、本当のところ家族の良き思い出など何もなく、友人から聞いて気に入っている話を自分の思い出として語ったのだ。少年が知ることのない「家族の温かさ」は、紅茶に託されて語られた。
そしてこれも、家は貧しく親からは暴力を振るわれ、学校からもドロップアウトした少年が好きなサッカーチームの試合を観たいと世の中と闘う物語だ。

イギリス映画で優雅に紅茶を飲むシーンなんかにかこつけて、紅茶の宣伝ができるかな、なんて私の浅ましい考えは打ち壊されたが、それは同時に、果たして私の好きな「紅茶」とはそういう「ハイソなブリティッシュネス」のイメージと同時にあるものなのか、というテーマにも突き当たることだった。

前述の通り、私はおいしい紅茶じゃなきゃ飲みたくないが、そんなに高いお金を出す気はないし、たまには優雅なティーパーティも素敵だけれど、やっぱり基本は気取らず気軽に気負わず紅茶をガブガブとやりたい。
だから、階級の格差に苦しめられる人々や、世間や体制と闘い抗う人の手に、紅茶がさりげなく持たれているような、そんなイギリス映画がもっともっと観られたらなあと、そしてそれをうちの紅茶片手に観たいもんだと、そんな風に思っている。

犬猫紅茶店 http://dogcat-teahouse.shop-pro.jp/
犬猫紅茶店広報室(blog) http://inunekotea.com/

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★DVDなど

『パレードへようこそ』DVD ¥2,963
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(iTunesストアでは標準画質で¥300でした)

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2016年01月28日

No.265 彼は秘密の女ともだち

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            No.265   16.01.28配信
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★ 女性とは。女性性とは。 ★

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タイトル:『彼は秘密の女ともだち』
製作:フランス/2014年
原題:Une nouvelle amie 英語題:The New Girlfriend

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、
   ラファエル・ペルソナーズ、イジルド・ル・ベスコ
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■STORY&COMMENT
クレールは、子供の頃からいっしょに過ごしてきた親友のローラを亡くして哀しみに暮れていた。残された夫のダヴィッドと生まれて間もない娘を護ると約束したクレールが、二人の様子を見に家を訪ねると、そこにはウィッグををつけ、ローラの服を着て赤ん坊をあやすダヴィッドの姿が。
「このことはローラも知っていたこと。女性の服を着たい」と打ち明けられ、戸惑うも、女装するダヴィッドを「ヴィルジニア」と名づけて、夫には内緒で「女同士の友情」を育んでいく。

ダヴィッドを演じるのは、現在のフランス映画には欠かせないロマン・デュリス。だんだん女装(特にメイク)がうまくなってはいくものの、ちょうどよい塩梅の「どうみても男性の女装姿」を、化けすぎずによく表現している。ダヴィッドとして普通の男性としてふるまうときと、ヴィルジニアになっているとき、その違いは、服装やメイクだけでなく、ちょっとしたしぐさにも表れる。眺めていて、女性っぽさというのは、そういうところから見えるのね、と改めて気づいたりも。

クレールは一度は理解して仲よく女友達として出かけたりするとはいえ、夫にダヴィッドと浮気しているのではないかと疑われて釈明することになれば、
「女装よりもゲイのがマシ!」とゲイだとごまかすことにして、結局女装のことは言い出せず、本当に受け入れることは、簡単には進まない。

「女装」をめぐるコミカルなドラマかとなんとなく思っていたが、後半から物語はだんだんと、男女のアイデンティティ、愛の形、重いテーマがずっしりと横たわるようになる。
どこに着地するのだろうと気を揉んで観ていたら、ラストは「ああそうなるんだ」と、宿題をつきつけられた気分だった。

■COLUMN
もう昨年のことになるが、近所の名画座で、この映画と『ボヴァリー夫人とパン屋』の二本立てが上映されていて観た作品だ。二本とも面白く気に入ったのだけれど、今回この作品の方を取り上げたのは、DVDリリースがもうすぐらしいから。

この二本立てを観に行ったのは、なんとなく「ファブリス・ルキーニが主演してるらしいボヴァリー夫人…」が目当てで、あまり事前に情報を仕入れていなかった。
その状態でこの作品を観ていたら、ふと、「これってペドロ・アルモドバル監督だっけ?」と錯覚しかけた。性別をめぐるテーマや、死から物語がはじまる展開、葬儀のシーンなどは『オール・アバウト・マイ・マザー』を彷彿とさせ、『トーク・トゥ・ハー』を連想させるシーンもある。

私は細かいところまではわからないけれど、オゾン監督はわりと他の映画の引用をわかりやすく入れ込んでくることがあり、両監督の作品をよく知っている人なら、もっといろいろと引用や目くばせを見つけることができるんじゃないだろうか。

そんな男/女、同性愛/異性愛、その固定観念を疑ったり、その境界を考えたり、なんてテーマの作品といっていいと思うが、いや、だからこそなのかもしれないが、「女性」の描き方が平板なんじゃないかなとも思う。

クレールとヴィルジニアの女同士の買い物は、あまりにもステレオタイプの女同士の買い物だし(もちろん、物語としてあそこにステレオタイプすぎる女同士の買い物が入ることが必要なのはわかる、が)、ヴィルジニアにつき合ううちに、だんだんと華やかな雰囲気になっていくクレールの描き方も、いい意味に普通でとっつきやすい姿のクレールの方が、友達になれそうな感じがするのに、きらびやかさが女性の「是」なのかと思う。(子供の頃から、ブロンドのローラの横で引き立て役のようにも見えたクレールの変貌というのが、物語として面白いことはわかる、が)

昔から洋服にあまり興味がなく、いわゆる「女同士の買い物」がいまいち得意ではない私は、それが「女性」なのかねえ、なんてちょっとすねてしまうのだ。
自分自身の女性性や男性性に、考えを向けざるを得なくなる、そんな作品。


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2015年10月11日

No.264.48 ご無沙汰特別号

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               No.264.48   15.10.12配信
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ご無沙汰しております。配信しなくっちゃ、しなくっちゃと思いながら、なかなか体勢が整わず、前回の配信から早5か月近く、ひょえーー。
半年配信しないと、「まぐまぐ」さんから休刊だったか廃刊だったかの扱いにされてしまうので、取り急ぎ、時間稼ぎ…じゃなくご挨拶がてら特別号の配信です。(「メルマ!」の規則はわからない)

私の近況といえば、最近引っ越しをいたしまして、ずいぶん長い間過ごしていた街を離れて、新しい生活がはじまりました。といっても同じ東京都内、電車で15分くらいの距離なので、生活ががらりと変わったというわけではありませんけど。

かつて配信した中で、引っ越しにまつわるお話はなかったかしらんと、考えてみましたが、ちょっと思いつかず。ただ、ラストが引っ越しシーンで、その引っ越しシーンが、キラキラとまだ見ぬ未来への期待に満ちていた映画を1本思いだしました。いきなりラストから語るというのも少々無粋ですが、このメルマガの記念すべき0号『猫が行方不明』の回です。

当時、「まぐまぐ」でメルマガを始める場合は、「ウェブサイト」を開設して、そこに、配信するメルマガのサンプルとなる原稿を掲載して、承認を受けるというシステムでした。2004年当時は、ブログなんてお手軽なものはありませんでしたから、「ゼロからできるホームページ」的な本を最初の10ページくらい読んで、サイトを作ってなんとか承認にこぎつけたのです。私のサイト作りの知識はそこで止まっています。

なので、この号はメルマガの最初の原稿ではありますが、一度も配信はしていないものです。
今読むと、ずいぶんとカタいというか、どう書いたらよいのか緊張して書いている感じがひしひしと伝わってきて、とても居心地が悪いですね。
あれやこれや、時が経つうちに、人生全体にずいぶん捨て鉢になってきたこの頃、愛する街を記憶にとどめたいなんて、もう言えないだろうな、そんな初々しさも。

小ネタとしては、今ではフランス映画の大スターとなったロマン・デュリスがまだ無名の頃、ちゃらいドラマーの役で登場しています。
そして、この映画ができた頃、この原稿を書いた頃には、想像もできないほどに、ITのサービスが進んだ現在、監督のセドリック・クラピッシュのInstagram(写真投稿のSNS)はおすすめですよ。
https://instagram.com/cedklap/


今週の作品はこちら
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タイトル:「猫が行方不明」
制作国:フランス/1995年
スタッフ
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ギャランス・クラヴェル、ジヌディヌ・スレアム、ルネ・ル・カルム
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■STORY
パリ11区の古いアパルトマン。クロエはゲイの友達と部屋をシェアして暮らしている。メイクアップ・アーティストと肩書きはカッコイイけれど、仕事の内実は理不尽にこき使われる下働きだ。そんな彼女も今年は3年ぶりに夏のバカンスを楽しめる。目下の心配事は、旅立つ前に、飼い猫“グリグリ”を預かってくれる人を見つけなくてはならないこと。人づてに聞いて見つけた猫好きの老婦人マダム・ルネにグリグリを預け、いざ、海へ。楽しいバカンスを過ごしてパリへ戻ってみると…、グリグリが行方不明! 気っ風のいいマダム・ルネも、「猫に逃げられるなんてはじめてだ」とすっかり意気消沈してしまっている。マダム・ルネのお仲間の老婦人部隊、近所の若者衆が動員され、グリグリ探しがはじまる。

■COMMENT
「いなくなった猫を探す」。シンプルな物語だけれど、そこに表れる微妙な心理がおもしろい。

今まで何の交流もなかった近所の人々といっしょに行動をするうちに、クロエには見慣れた風景が少しずつ違って見えはじめる。周囲にいろんな人がいることや、自分が案外孤独を抱えていることに気づくのだ。職場でも、プライベートでも、何かが足りないような気がしている人、自分自身のちょっとしたことに気づけないでいる人は、自分自身を含めてまわりにたくさんいるのでは? だから、見ている側はクロエや彼女のまわりの人物にに感情移入もできるし、「こういう人いるいる」と楽しむのもいい。ユーモアあふれる会話には思わず吹き出すことも。

私はなぜだか、猫探し友だちとなった老婦人が、用事もなくクロエに電話してしまいクロエに煙たがられるシーンに、共感を覚えた。老婦人は新しい友人に何となく話したかっただけ。笑っちゃうような、笑い事では済まされないような、もどかしさを孕んだ共感。おばあさま方から見たら充分に今どきの若い人である私には、それをうるさがるクロエの気持ちも身にしみてわかってしまうのだ。

舞台となったパリ11区、下町風情のあった地区がファッショナブルに変貌していく途上の風景は、観光旅行とはまた違ったパリの街を垣間見られる。「地上げ」で次々と住民が追い出されたり、いつかの日本の都会の風景にも似ている。
原題“Chacun cherche son chat”(“シャカンシェルシュソンシャ”早口言葉っぽい)は「皆それぞれ自分の猫を探している」の意。見る人も自分の探しものに気づくことができるやもしれない。果たしてグリグリは見つかるのか、は見てのお楽しみ。


■COLUMN
「猫が行方不明」でも、「この店は、前は楽器店だったのよ」などと言いながら街を歩くシーンが登場するが、街はいつも姿を変えている。しょっちゅう歩いて見慣れた街なのに、ある日「あれれ、こんなとこにこんな店あったっけ」と思うことがしばしばだ。そしてその次に来るのは「前、何だっけ?」。
なくなった店が、何十年も続いていたおそば屋さんだったりしたら、「おじさん、やめちゃったのねー」と感慨にも浸れる。だが、その記憶もなじみつつある新しい風景に駆逐されてしまうかも知れない。ここ2年で4軒目だね、なんてところなら、間違いなく、前の店を覚えてはいない。
そんなことを繰り返しているうちに、感覚が鈍くなり、何ヶ月かで入れ替わる風景など、最初から記憶にとどめなくなる。忘れたのではなく、最初から目に入れてすらいない。よくも悪くも街は次々変化する。変化は止められなくても、自分が愛する街なら、記憶にくらいはきちんととどめておきたい、と思う。

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2015年05月17日

No.264 100歳の華麗なる冒険

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欧 州 映 画 紀 行
               No.264   15.05.17配信
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★ 百年の荒唐無稽 ★

作品はこちら
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タイトル:『100歳の華麗なる冒険』
製作:スウェーデン/2013年
原題:Hundraåringen som klev ut genom fönstret och försvann
英語題:The Centenarian Who Climbed Out the Window and Vanished

監督・共同脚色:フェリックス・ハーングレン(Felix Herngren)
出演:ロバート・グスタフソン、イヴァル・ヴィクランデル、
   ダーヴィッド・ヴィーベリ、ミア・シャーリンゲル、
   イェンス・フルテン
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■STORY&COMMENT
スウェーデンの田舎町。アランは老人ホームで100歳を迎えた。ホームの職員たちが忙しく誕生日パーティーの準備をする中、一人部屋で考え事をするアランだったが、ふと思い立ち、部屋の窓から抜け出してあてのない旅をはじめる。
行き着いたバスターミナル。風体のよくない若者にスーツケースを持たされるが、発車ベルに急かされてアランはそのままバスに乗ってしまう。しかし、このスーツケース、どうも大変なシロモノらしく、ギャングに追われる身に……

いやいや、賛辞としての「荒唐無稽」がたっぷりつまった楽しい映画だった。何度も声を出して笑ってしまった。

消えたスーツケースを追って、少々頭の足らないギャングたちが、アランの行方を必死に探し回る、その展開と交互に、アランが生まれてからこれまでの人生を振り返るシーンが挟まれていく。
はじめは、「100歳になって認知や判断が遅くなったおじいちゃん」くらいに思っていたところが、その人生を振り返るや、スペイン内戦、第二次世界大戦、東西冷戦、現代史のあらゆる重要なシーンに、ひょんなことからひょこひょことひょうひょうと顔を出す仰天な人生なのだ。

ギャングとの追いかけっこにしろ、アランの生涯にしろ、そこで繰り広げられるユーモアは、かなりブラックだ。だから観客を選ぶ作品だとも思うが、私は、ここまで荒唐無稽にスケールを広げてくれるおかげで、散りばめられたブラックなシーンを楽しく笑い飛ばせた。

原作本はスウェーデンでミリオンセラー、40ヵ国以上で800万部売れた新人作家の小説だそうだ。日本でも売れ行きが好調で、翻訳しているのは、難解な作品の翻訳を好むという、あの柳瀬尚紀氏だというから、原作本も読んでみようかと思っている。
映画の中では、時間の進みがおかしくないかなと思われるところがあって、それが映画用に短縮した結果なのか、それとも、そのくらいのゆがみはユーモアの一部として描かれていたのか、気になるところもあるから。

■COLUMN

ブラックユーモアが満載と言ったが、スウェーデン語がわかったら、もっともっとブラック度はきついのではないかと想像する。

それが、ただの悪ふざけに終わっていないのは、アランが生まれてからの100年の歴史を振り返るという設定が、観る者の知的好奇心を刺激することが大きいだろう。
今ここにある時代とダイレクトにつながっている現代史は、無条件に人の行いの愚かさや哀しさに思いを馳せやすい。当のアランはまったくそんなものは纏っていないし、時の権力者の描かれ方は滑稽そのものなのだが、100年の歴史絵巻にはそこはかとないペーソスさえ感じられる。
観客は、繰り広げられる歴史に、自分の中にある知識や感情を何となく重ねて、そこに哀しみや皮肉を見て、時に教訓さえ引き出すことができるかもしれない。
うまく作られた物語装置だと思う。

テンポよく進む悪ふざけたっぷりのコメディにガハハと笑いつつ、知的好奇心をくすぐられながら、自分なりに思う歴史の哀感に浸れる、お得な一本だ。

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★DVDとブルーレイ、原作本

『100歳の華麗なる冒険』DVD ¥3,051
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『100歳の華麗なる冒険』Blu-ray ¥3,754
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原作本『窓から逃げた100歳老人』¥1,620
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2015年01月07日

No.263 ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区

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欧 州 映 画 紀 行
             No.263   15.01.06配信
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★ 難しきヨーロッパ、楽しきヨーロッパ ★

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タイトル:『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
製作:ポルトガル/2012年
原題:Centro Histórico 英語題:不明

監督:アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)
   ペドロ・コスタ(Pedro Costa)
   ビクトル・エリセ(Víctor Erice)
   マノエル・ド・オリヴェイラ(Manoel de Oliveira)
出演:イルッカ・コイヴラ
   ヴェントゥーラ、アントニオ・サントス、
   リカルド・トレパ
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■STORY&COMMENT
ヨーロッパの名監督4人によるオムニバス作品。

EUには、指定された1年間、集中的に各種文化プログラムを展開する「欧州文化首都」という事業がある。2012年、ポルトガル北西部の小さな町「ギマランイス」が指定都市となり、この事業の一環として制作された映画である。
ギマランイスは、1143年にポルトガル王国が誕生した際の初代国王アフォンソ1世の生地で、最初の首都、ポルトガル発祥の地と呼ばれる。謎の邦題はここからつけられたらしい。

ギマランイスは、古都らしい趣きのある街並みが旧市街に残されていて、これは世界遺産にも登録されている。
この町の文化事業の一環で作られた映画であれば、雰囲気ある街並みをふんだんに使った作品となりそうなものだが、そうはいかない。それが「ヨーロッパ」らしさでもあるだろうか。

1話目は、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督による『バーテンダー』。向かいのよく流行っているカフェが気になる、古くさいカフェの主人の物語。一言の台詞もないけれど、どことなくおかしさが漂う。この作品には、カフェのある古い街並みが見える。
私は知らなかったが、カウリスマキ監督は長年ポルトガルに住んでいるのだそうだ。

2話目は、ポルトガルのペドロ・コスタ監督の『スウィート・エクソシスト』。4つの中で最も不思議な作品。監督は、ギマランイスをテーマにいかにギマランイスで撮らないかにこだわったといい、シーンの大半は、精神(おそらく)病院のエレベーター。移民の男が、兵士(の亡霊)と語り合う会話劇だ。独裁体制を終わらせた1974年のカーネーション革命がテーマになり、ポルトガルと一人の貧しい男の歴史を振り返るような内容だ。ポルトガルの歴史をもう少し知っていたら、楽しめそうなのだけれど。

スペインのビクトル・エリセ監督の『割れたガラス』が3話目。かつてはヨーロッパ第2の紡績工場として発展したが今は「割れた窓ガラス工場」と呼ばれる工場跡地で、その工場で働いていた人々が自身の人生や工場での体験を語る。
4つの中では私はこれがいちばん好き。「ポルトガルでの映画のテスト」とされ、オーディションのように「普通の人々」が何でもない普通の人生の一コマを話す。人にはそれぞれ色んな人生があるという当たり前のことが、ズドンと響いて、この「オーディション(カメラテスト)」から、さらに新しい映画が作られたら、ぜひ観てみたいと思う。

4話目にはポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラが登場。『征服者、征服さる』は、ギマランイス地区への観光客へのガイド風景が描かれる。
町の一角にあるカフェから、狭苦しいエレベーターで内なる声を聞き、往時の人生を眺める旅から、明るい外の世界、しかも「観光」というわかりやすい風景に一気に連れ出される、きれいな4話構成だ。ただの観光風景にならないユーモアが「町を描く」作品としてうまく締められている。

■COLUMN
メルマガを書くことはもちろん、映画を観ることからもすっかり遠ざかってしまっているこの頃。
「メルマガもそろそろ新しいのを書きたいな、何かいい映画はあるだろうか」とレンタル店へ向かったが、棚を見ても、何を観たらよいのかさっぱりわからないのだ。頻繁に観ていたときなら、タイトルで「ああこれこれ」と内容やら出演者やら、どこか情報が頭に残っていてピンとくることもある。公開時に話題になっていたことを思いだすこともある。しかし最近は、映画公開の話題からも離れてしまっていて、ぼんやりとした情報も頭に残っていない。

とりあえず「ミニシアター」の棚で見つけたこの作品、観たことのある監督名が並んだ「オムニバス」(ペドロ・コスタ監督だけは初だったが)、EUの文化事業で撮られたという「欧州っぽさ」が、すっかりご無沙汰したメルマガ筆者の映画リハビリにはいいんじゃないかと選んでみた。

このチョイス、ギマランイスという未知の町を知ることになり、そしてだからといってその町の風景をふんだんに見せられるわけじゃない「ヨーロッパ映画」の非単純さ、そしてそれについてあれこれ考えることができたという点で当たりだった。
ただ、軽く流して楽しめる簡単な作品ではないことは事実。ああだこうだと考えすぎたところもあって、「リハビリ」のレベルには少しハードだったともいえる。ストーリーでぐいぐい引っぱって行かれる作品を観た方が、「リハビリ」にはふさわしかったかもとも思う。

ともあれ、この作品、そうそうたくさん町が映っているわけでもないのではあるが、やっぱりこの舞台(テーマ)の町を強く意識させる、そのギマランイスという町を知るのにもよし、オムニバスの楽しみ、4つの個性ある作品から、ウマの合う監督を探すのにもよし。
そして、この作品全体で、私が最も気に入ったのは、てんでバラバラに見える4作品が、最後の『征服者、征服さる』を観て、グレン・グールド演奏のなぜか知らないが『イタリア協奏曲』がかかるエンドロールに入ると、うまい流れを見せた4作品に思えて、心がスルッと開放される気になるところ。

理屈抜きで楽しみたいときには向かないけれど、小理屈をこねたいときには、ぜひ。

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★DVD
『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
¥ 3,427
http://amzn.to/1BtSSPB

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2014年09月06日

No.262 風にそよぐ草

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欧 州 映 画 紀 行
               No.262   14.09.06配信
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★ タイトルに込められた意志とは ★

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タイトル:『風にそよぐ草』
製作:フランス・イタリア/2009年
原題:Les herbes folles 英語題:Wild grass

監督・脚本:アラン・レネ(Alain Resnais)
出演:サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、アンヌ・コンシニ、
   エマニュエル・ドゥヴォス、マチュー・アマルリック
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■STORY&COMMENT
マルグリットは靴屋で楽しい買い物をした帰りに、バッグをひったくられた。その、お金が抜かれて捨てられていた財布を拾ったのは、初老の男性・ジョルジュだ。ジョルジュは、中にあった自家用機操縦免許証の写真を見て、その
「マルグリット・ミュイール」という女性に惹かれ、人となりを勝手に妄想しはじめる。
電話帳で調べて直接連絡しようか、警察に届けようか、いろいろ考えあぐねて警察に届け、マルグリットからは、お礼の電話がかかってくる。すっかりいろいろな妄想をしていたジョルジュは、「お礼だけ」の事務的な電話にがっかりして無礼に電話を切ってしまう。それを後悔して今度は手紙を届けることにして……

今年亡くなった、アラン・レネ監督の作品。そんなに多くの作品を観ているわけではないけれど、作品ごとにスタイルやトーンが変わって、面白い映画作家だと思っている。
それだけに、今度は何をやってきているんだろうと、身構えながら観てしまう作家でもある。
この『風にそよぐ草』も、真面目にやってんだか、人をからかってんだか、なんだろう、これは。という「なんだかちょっと変わった作品」というのが、第一印象。

まず、脇役が豪華すぎる。
ジョルジュが財布を届けたときに応対して、その後ジョルジュの行きすぎた行動を注意しにくる警官がマチュー・アマルリック。マルグリットの親友の同僚がエマニュエル・ドゥヴォス、物静かで美しいジョルジュの妻がアンヌ・コンシニ。こんな豪華な役者を使ってるんだから、重要な絡み方をするんじゃないかと、邪推してしまう。邪推する方が悪いんだけれど。

その上、この皆60年代の生まれである脇役が、マルグリット役のサビーヌ・アゼマとジョルジュ役のアンドレ・デュソリエ(二人とも40年代生まれ)と同じ世代のように描かれては、フランス映画をよく観る者にとっては人間関係の把握が難しい。どうもアラン・レネさんは、ご自分の奥様であるサビーヌ・アゼマがものすごく若い人だと思っているフシがある。

ジョルジュには、どうやら前科があるらしいことがほのめかされるが、詳しいことは明らかにされない。そんなジョルジュが、財布を拾った相手にストーカーじみた行動をしはじめるのだから、何か恐ろしいことになるのかと思いきや、はじめは困っていたマルグリットも何だか気になるようになってしまう、その物語展開も、人を食ったように思えて「真面目にやってんだろうか、いやそりゃあ真面目にやってるんだよね」と、気になるから原作の小説も読んでしまった。

そしたら、これが驚くほど原作に忠実。いくつか省かれているシーンはあるけれど、突き放されたような結末も、前科のほのめかし方も原作通りだった。

ちょっと変わった恋愛を、切なく描くというには、心理描写がわかりにくい。
日本のプロモーションでは、中年の男女にふいに訪れた素敵な恋愛のように宣伝されていたようだけれど、それもちょっと違う。
邦題にはさわやかな風が吹いているけれど、原題は(直訳すれば)「狂った草」。生い茂った雑草を意味する。映画の冒頭には、アスファルトの割れ目から生えている草が映し出され、本来なら生えない場所からどうしようもなく生えてくる様子は、どうしようもなくわき出してしまう感情や、正しい場所に収まって生きられない人生を、表しているようだ。

原作は、「できごと」くらいの平板なタイトルであり、かなり原作に忠実に作っているのに、このタイトルだけは大幅にトーンを変えた、そこには作り手の意志表明を感じる。

結末をどう解釈するのか、これはたぶん観る人によって違う。普通じゃない
「狂った」恋愛は、考え始めれば底なし沼に沈んでいくような悲劇性と、他人事だからなんだか笑ってしまう喜劇性が同居していて、「○○な映画を観た」とすっきり言えない落ちつかなさがある。
だけどその分、いつまでもいつまでも、ああでもないこうでもないと考えてしまう、尾を引く映画である。

■COLUMN
上の原稿が長くなったので、少しだけ。
アマチュア飛行家であるマルグリットの操縦する飛行機から眺める草原のグリーン、空のブルー、町の映画館のネオン、場面ごとにメインテーマが異なって見せているところも面白い。「美しい」映像というよりは「面白い」と私は感じた「映像美」である。

決して全体の統一感がないというのではなく、いろいろなスタイルとトーンで映画を作り続けたレネの「スタイル」らしく、舞台の背景やセットが変わって場面が転換するように、個々のシーンを、異なるトーンとスタイルで作り込んでいる。何度も観ればその度に発見がありそうだ。

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★DVD
『風にそよぐ草』
¥ 4,213
http://amzn.to/WtkmE1

価格は2014年9月6日現在のアマゾンでの価格です。
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2014年06月14日

No.261 危険なプロット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.261   14.6.14配信
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★ あやしくミステリアスに、不遜に ★

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タイトル:『危険なプロット』
製作:フランス/2012年
原題:Dans la maison 英語題:In the House

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、
   エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウアー
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■STORY&COMMENT
高校のフランス語教師のジェルマン。生徒達に作文の宿題を出すが、「ピザを食べてテレビをみた」「親に携帯を取り上げられた」……、真面目に取り組む気持ちもなく内容もくだらない作文の山に辟易としていた。しかし、クロードという生徒の作文だけは違う。しっかりとした文章構成、文末に「続く」とまで書かれ、先の気になる内容、ジェルマンはクロードの文才に惹かれ、個人授業をするようになる。
クラスメートの家庭に入り込み、生活を皮肉に観察し、やがて家庭の秘密まで暴き、家庭の中を少しずつ引っかき回していく様を書いていくクロード。ジェルマンは文才を伸ばしたいというだけでなく、続きが読みたい欲望にもかられて、クロードとの物語づくりにのめり込んでいく。


ジェルマンが初めて読んで驚くクロードの作文は、数学が苦手な同級生ラファエルの家に宿題を手伝いに行った日のことが書かれている。

夏のあいだ、彼の家を眺めていて一度入ってみたかった、数学の宿題はもちろん口実だ
入ってみたいと想像していた家の中を歩き回り、観察する
彼の母と顔を合わせて、「中産階級の女の香り」と皮肉る

同級生やその母親を皮肉な目線で見て、うそをついて入り込んだことを臆面もなく表明する。そんな不遜な内容だ。
しかし、不遜だからこそ、読む方はつい惹かれる。「続く」の一言に、楽しみにさえしてしまう。

そして、善良でごく普通の生徒であるラファエルと、ブロンドの美しいクロードという対照的な様子も、あやしさを醸し出し、眺める者に居心地の悪さや何かが起こるかもしれないという思いを起こさせる。美しい上に、人の心を見透かすかのようなクロードの目線も気持ちがざわつく。

「続く」の後に提出された二度目の作文では、

ラファエルに合わせて、いかにも若者の会話をしてみたこと
インテリアに熱中するラファエルの母の俗っぽさを描き、体型を「中産階級の曲線」と表現したり

と、皮肉な視線は続き、

続く作文では、バスケが好きでどことなく脳天気な父親が登場。仕事で関係しているために中国に詳しいことを会話のはしばしにはさむ、通俗性が描かれる。

どこにでもある普通の家庭、脳天気でこぢんまりとした通俗的な生活を、斜に構えた皮肉な目線で描いていく。
教師であるジェルマンも、観客も、そんな通俗的な普通の家庭を小バカににした目線に、どことなく共感し、その背徳からも、もっともっと読みたいと思ってしまう。だいたいこんなフランス映画を喜んで観る輩は、少なからずそんな意地悪な目線を持ってるんだと思う、うん。

そしてとある事情からラファエルの家に遊びに行けなくなって、「あの家に入らなければ書けない」と家に上がり込むことになぜか執着するクロード。その目的のわからない執着もあやしく感じられる。

どこまで深く入り込んでいくのか、どこまで辛辣に目線を向けるのか、そしてそんな風に他人の家に入り込んで、どうしても作文を書きたいクロードの目的は……と、不遜に背徳的に観客の目をそらさせない、あやしわがたまらなくおもしろい作品である。

■COLUMN
人間というのはなんと言葉に支配されて生きているのだろう。

この作品で、ずっしりきたのはそのことだ。

クロードが書いた作文の内容は、クロードによる朗読に合わせて映像化されて描かれるが、結局のところ、作文に書かれたことが真実なのか否かは、わからない。クロードとジェルマンが話し合い、作文を練り直す過程で、ああでもないこうでもないと、内容が変えられるシーンもあって、明らかにフィクションと知らされるところもあるが、実際のところ、クロードとラファエル家族に何があったのかは、ミステリアスに放置されるままだ。
ひょっとしたら最初から最後までフィクションかもしれないし、最初は本当のことが書かれていたけれど、だんだんフィクションが混じったのかもしれない。

うすうすそれを感じていながらも、ジェルマンはクロードの作文に書かれたことを本当のことと受け取り、ラファエルを見ていて、クロードの作文で表現された世界の中で、ラファエル一家を認識する。

実際に見たわけでないことも、言葉で聞かされてイメージを作り出し、それはやがて自分自身の現実の世界に影響を及ぼしていく。
この作品のラストの状況も、果たして、クロードの紡ぎ出す「言葉」がなかったら、こうなっていなかったのではないか。

実際に見ないことも言葉では表現できて、他者の経験を私たちは共有できる。形に見えないものも、言葉は表現できて、その言葉を使ってさらに私たちは形で表せないことを思考できる。
しかし、気づくと、言葉で紡ぎ出した、現実とは少しずつ違った世界を見て、世界をそれとして行動していることがあるかもしれない。

言葉の背徳とあやしさを考えたくなる作品でもある。

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★DVDとブルーレイ
『危険なプロット』(初回限定版)筒スリーブケース仕様
¥ 3,036
http://amzn.to/1lknyGJ

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2014年04月20日

No.260 タイピスト!

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            No.260   14.4.20配信
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★ タイプ早打ちはスポ根で ★

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タイトル:『タイピスト!』
製作:フランス/2012年
原題:Populaire 英語題:Populaire

監督・共同脚本:レジス・ロワンサル(Régis Roinsard)
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、
   ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ
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■STORY&COMMENT
1950年代フランス。田舎で親の勧める縁談を蹴って都会に出てきたローズは、時の花形職業“秘書”の面接を受ける。採用されたものの、ドジで不器用、決して秘書向きとは言えないローズは1週間でクビの危機に。雇い主のルイは、雇い続ける条件として、タイプの早打ち大会出場を提案する。ローズの唯一の長所・「1本指でタイプの早打ちができる」ことに注目し、ローズと組んでタイプの競技大会で優勝する野望を抱いたのだ。
初出場であっさり敗退したローズだったが、その後、ルイは“雇い主”兼“鬼コーチ”と化して、厳しいトレーニングが始まる……

ルイのローズへの特訓ぶりは、スポ根のそれ。そしてコーチと選手の間に恋が芽生えて、あんまり細かいこといっちゃあ野暮野暮、頭を空っぽにして笑って楽しもうよ、という正統派のスポ根&ラブコメディである。

レジス・ロワンサル監督は、たまたま観たタイプライターの歴史に関するドキュメンタリーで、早打ち大会の様子を見て、興味を持って調査をしたのだそうだ。大きな競技場で観客を集めて行われた大会の記録や、実際の出場者に聞いた、出場へのプレッシャー、ライバルに鋭い視線を向けて威嚇したことなどから、当時の興奮を再現したという。
そんな取材によって描かれた「タイピング大会とその出場者の生活」は、厳しいスポーツの訓練そのもの。皆がラジオにかじりついて地元の出場者の戦況を見守ることも、社会進出する女性のアイコンとして、優勝者がマスコミにもてはやされ人気者になって、なんて構造も、オリンピックで活躍したスポーツ選手のようだ。

原題「Populaire」は、タイプライターメーカーの名前であると同時に、熱しやすく冷めやすい大衆から受ける儚い人気の有り様への、皮肉が少々含まれているのかもしれない。

秘書の面接に行くのに、ばっちり可愛らしくおしゃれをしていって、「秘書っていうのは、髪をひっつめメガネをかけて地味な格好をしていないと採用されない」なんてウワサに慌てふためく(でも、一人だけ可愛らしいから、ルイはうっかり採用しちゃったわけだけど)、ローズが次々と繰り出す50年代ファッションも楽しい。

■COLUMN
2013年の夏に東京で公開された映画。最近は映画館に映画を観に行くこともめったになくなった私が、ちょっと時間ができたしと、友人を誘ってウキウキと観に行こうとした、思い出の(!?)作品だ。
当日、私は体調を悪くしてしまって行けなくなってしまったのだが、ネットで座席をすでに予約してしまっていたから、「お願いっ、私の分も楽しんできて!」と友人を送り出して観られずじまい。DVD化を待ち望んでいた因縁の(!?)作品でもある。

観てきた友人は、感想を詳しく話してくれて、「いい映画を紹介してくれてありがと〜」と言ってくれて一安心だった私だが、そうしていい感想も聞いたこととも相まって「観に行けなかった映画」の評価は、観ないうちにむくむくと膨れあがり、大作品になっていた。

今回、実際に観てみたら、予想以上に「おバカ」な映画だった。それはもちろんいい意味で、観に行けなかったから何となく「いい(つまり《良心的な》)作品」に膨れあがっていたイメージは、実際の作品のはちきれるポップさに壊された。可愛らしくシンプルにマンガチックに、ささやかな幸せと感情の機微がが散りばめられていた。

ほんとは、桜が咲いてぽわーんと暖かくなって、口元がゆるむ頃に観るのがぴったりの映画のように思う。ちょっと季節が遅れて、ゴールデンウィークももうすぐ、むしろ初夏に近いこの頃だけど、連休近きぽわわんとした空気の中で、ぜひ、ポップな正統派スポ根ラブコメを楽しんで!

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★DVDとブルーレイ
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2013年12月22日

No.259 クリスマス・ストーリー

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欧 州 映 画 紀 行
            No.259   13.12.22配信
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ それぞれがそれぞれに抱えて生きているそれぞれ ★

作品はこちら
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タイトル:『クリスマス・ストーリー』
製作:フランス/2008年
原題:Un conte de Noël 英語題:A Christmas Tale

監督・共同脚本:アルノー・デプレシャン(Arnaud Desplechin)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルシヨン、アンヌ・コンシニ、
マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、イポリット・ジラルド、
エマニュエル・ドゥヴォス、キアラ・マストロヤンニ、ロラン・カペリュート、
エミール・ベルリング、フランソワーズ・ベルタン
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■STORY&COMMENT
フランス北部、ベルギー国境に近い街ルーベ。子供たちは独立し、仲よく二人で暮らす夫アベルと妻ジュノン。子供は4人いたが、長男のジョゼフが白血病を患い、家族の誰も適合しなくて骨髄移植ができず、7歳で亡くなるという悲劇があった。40年ほど経ったいま、今度はジュノンが白血病を宣告される。子供や孫たちは、骨髄が適合するかの検査を続々と受けることに。そして、いろいろと折り合いが悪くバラバラだった家族は、クリスマスに、そして母の病に向けて、久しぶりに実家に集まってくる。

劇作家として成功する長女のエリザベート、ファミリーの問題児であるアンリ、繊細で優しい末っ子のイヴァン。アンリは昔から母ジュノンと折り合いが悪く、双方共に嫌いだと言ってはばからず、6年前の金銭トラブルから、エリザベートの頼みでアンリは一家から追放されている。エリザベートの息子ポールは、精神を病んでいて、昔から内気で繊細だったイヴァンは、自分にはポールの気持ちがわかると力になりたい様子。
ジョゼフが骨髄移植を受けられずに亡くなったことが影を落としているのか、各人の憎しみやわだかまりが家族に渦巻いている。そして今新たに、母の白血病と、骨髄移植の適合者はいるのか、という不安とプレッシャーがかかり……という状況。文字にするとずいぶん粘度の高いドロドロのように思えるけれど、それがそういうのとは違うのだ。

はじめは、こんな問題児が家族にいたらそりゃあ大変だろうなあとアンリを見て思うけれど、エリザベートの頑なさも、しばらく眺めていると、あれはあれで窮屈だし、ちょいと行き過ぎているんじゃないかい? と思えて、子供の好き嫌いをはっきり口にするジュノンもすごいが、それに普通に応じているアンリもそれはそれですごいと思う。
はじめて家族と顔を合わせて、「病気、悪いんですか?」とあっけらかんと尋ねる、アンリの恋人も肝がすわっているというかマイペースで、アンリの骨髄なんか移植したらよくないんでは?と本人に尋ねる父アベルも相当だ。

端から見ていれば、一人ひとりが、それぞれ少しずつ(大幅にと言ってもいいけれど)逸脱していて、それでうまくいっていないけれど、かといって壊滅状態ではない。
「皆が本心を隠して仲良しの振りをしている」のであれば、それは前述の粘度の高いドロドロになるのかもしれない。しかし、この作品では、受け止めたくないものは受け止めたくない頑固さで、それぞれ自分のスタイルと意志を貫いて、それぞれが抱え込むドロドロが、各自の中だけにあって他と混ざり合わないために、全体がドロドロにはならないのだ。

何度か、登場人物達が観客に向かって、自分の状況や考えていることを説明する演出シーンがあるけれど、それもこの作品世界を象徴している。それぞれちょっとずつ逸脱した頑固な個人が、孤独と負のあれやこれやを抱えながら、前を向いて生きていく。

果たしてこの家族が仲直りをするか、ジュノンの治療は成功するのか、そういうあれやこれやが解決することを期待して観てはいけない。大きな事件も小さな事件も、それぞれ個人の生きているうちに起こってそれぞれが抱えていく事柄。そしてそれが、ものによっては家族や知人で共有するものになるときもある。そんな一場面を切り取った作品だ。


■COLUMN
ちょっと前の作品。公開当時観たいなあと思いつつ、そのままになってしまっていたのを、レンタル店に行ったら見かけて思いだした。「クリスマス」などシーズン物の扱いをされる映画は、こんな形で後々にも再会できるからいい。

今年(にはじまったことではないけれど)は、メルマガからも、そもそも映画を観るということからも、すっかり遠ざかってしまった1年だった。その主な原因は健康に恵まれなかったことであり、それは今後もしばらく続きそうで、メルマガを続けて行こうか、一度区切りをつけて身軽(というか気軽の方が合っているかな)になろうか、迷った日々でもあった。
年の暮れも押し迫り、たまたま時間と体力に余裕ができて、「何とか今年のうちに1回くらいは出そう」「クリスマス物なんだからクリスマス前に出そう」と、こうして1本書いてみれば、やっぱり映画を観てああだこうだと何かを書くのは楽しくて、こういう場所があるのなら、わざわざそれを手放すこともないよなあとも思う。

健康に恵まれなかったといっても、あまりわかりやすい類の体調の崩し方ではないこともあり、体調そのものだけでなく、今の自分の状況を人に理解されないということに自分で勝手に悩んでいたりもした。
(たとえば、仕事で出張に出かけているくせに、誰かに誘われると「体調が悪くてあんまり外出ができない」と断ったり←意味わからないでしょー(笑))

この『クリスマス・ストーリー』には、それぞれ自分では重大で、苦しいことだけれど、端から見たら「そんな風にしなくてもいいのに」「もうちょっと歩み寄ればいいのに」と思えるようなことを、頑固に抱え続けている人々がたくさん出てくる。彼らを見ていると、理解されようとか考えることは要らないなあと思う。
自分の状況は自分のものであって、それを正確に把握される必要はないし、「意味わからない」と思われようが「なんじゃそりゃ」と思われようが、私は私でそれぞれ抱えているもののなかでできることをしていくしかないわけで、周りは、理解しなくってもいいから、ある程度受け止めて「ふーん」としておいてくれるならそれでいいや、なんてことを思ったのだ。

デプレシャン作品は、「フランス映画っぽいフランス映画」であって、ここに見られる人間関係はお国柄といってしまえばそれまでだけれど、心の持ちようとして、この作品からヒントをもらえてような気もしている。

あまりにも発行間隔が空いてしまって、廃刊措置を講じられない程度に、書けるときには書いていくつもりです。来年もよろしくお願いいたします!

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★DVD
『クリスマス・ストーリー』(DVD)¥ 3,573
http://amzn.to/1cmC2HG

価格は2013年12月22日現在のアマゾンでの価格です。
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2013年08月23日

No.258 ブラック・ブレッド

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欧 州 映 画 紀 行
             No.258   13.8.23配信
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★ きゅうきゅうとした生活に苛立つ人に ★

作品はこちら
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タイトル:『ブラック・ブレッド』
製作:スペイン・フランス/2010年
原題:Pa negre 英語題:Black Bread

監督・脚色:アグスティー・ビジャロンガ(Agustí Villaronga)
出演:フランセスク・クルメ、ノラ・ナバス、ルジェ・カザマジョ、
   マリナ・コマス、セルジ・ロペス
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■STORY&COMMENT
1940年代、内戦直後のスペイン・カタルーニャ。少年クレットとその父が荷馬車の事故で死に、クレットの友だちのアンドレウは、クレットが息絶えるのを目撃する。
警察の捜査では殺人事件とされ、左翼運動に関わっていて、以前から目をつけられていたアンドレウの父ファリオルが容疑者となる。
追及を逃れるため父は身を隠し、母は工場で働いて生活費を稼がねばならず、アンドレウは祖母の家に預けられることとなる。
貧しくも、大好きな父と母と、ささやかに夢を見ながら暮らしていたアンドレウだが、大人の事情や目論見に巻き込まれて……

WOWOWで放送されていたものを観たのだが、「スペイン内戦かー、かなり重い社会派ドラマなのかなー」と怖ごわ観てみた。

冒頭から、目をつぶりたくなるような殺人シーンがいきなり始まるけれど、クレットが息絶える前に、アンドレウに「ピトルリウア……」と謎の言葉を残して、さっそくミステリーに引き込まれるから、「これはテンポのいいサスペンスかな」と思って身を乗り出す私。
やがて、祖母の家に預けられ、葉っぱの間から陽の光がこぼれるような森の中、いとこたちと学校に通うアンドレウの姿は、親が窮状にありながらも、少年の夏休み映画のような雰囲気さえ醸し出す。いとこの一人、大人びた少女・ヌリアがアンドレウを気に入った様子には、少年と少女の出会いの夏休みみたいな印象もあった。

が、田舎の村が抱える秘密、大人たちが隠してきた事情、ヌリアの生きる術、そんなものが少しずつ少しずつ明らかになるにつれ、「かなり重い社会派ドラマ」よりさらに思いもしない方向に、重く重く、湿っぽく社会や人間の矛盾、業、辛さをつきつけられることとなった。

というわけで、前置きのような話ばかりが長くなってしまったが、わかりやすくて爽快な物語を欲している時、ドキドキハラハラを楽しみたい時におすすめできる作品ではない。
観終わったらずぶんと沈める時間と心のよゆうがあるときにどうぞ。

「スペイン内戦」ときけばその土地のその時代の特殊な物語と思ってしまう。もちろんそういう部分はたくさんあるし、時代状況への知識や感覚が十分でないために、いまひとつ理解ができていないのだろうなと残念に思うところも多い。
だが、この作品で胸に迫ってくるのは、どこの時代でもどんな境遇でも多かれ少なかれ共有できる大人のもがく姿だ。

社会をよりよくしようと理想を胸に抱き、同時に、医者になりたがる息子(アンドレウ)に将来を手に入れさせようと、貧困から何とか這い上がろうとする父の生き方は、貧乏なアカのバカなやり口と笑うこともできよう。しかし、何かしらやりたいことを持ちながら、何かしら理想とする生き方を持ちながら、生活するためにはその通りには動けぬきゅうきゅうとした気持ちを抱いた人なら、誰もが思い当たる葛藤の生き方だ。

きゅうきゅうとした思いを持ちながら日々を暮らす人には、その源は何か、理想とは何だったのか、思いを馳せるきっかけとなる作品だろう。

■COLUMN
原題の「Pa negre」は、黒パン、ブラック・ブレッドを意味するカタルーニャ語だそうだ。この作品は、内戦後、スペイン国内で長く弾圧されたカタルーニャ語でつくられた映画だ。さらに、国内の映画賞をとり、カタルーニャ語作品としてはじめて、アカデミー賞外国語部門スペイン代表に選ばれた作品だという。

スペイン語とカタルーニャ語の違いがわからないために、きっと作品の大事なポイントをたくさん見逃してしまっているだろうことも気になるところ。
カタルーニャ語の名前が多いせいか、キャストのカタカナ表記も、調べるところによって違っていて、何がより実際の音に近いのか、よくわからないので、このメルマガでは作品の日本語公式サイトの表記に合わせた。
カタルーニャ語であることが大切な作品ならば、そうした表記にはできる限り気に掛けたいと思う。が、普通の(といっていいのかさえわからないが)スペイン語の知識もないから、できる限りのことはほとんどないのだけれど。

というのは、横道にそれた話だが、その公式サイトの情報によれば、当時のスペインでは、パンの色が階級別に分かれていて、都市部か田舎かでも違っていたそうだ。大麦、トウモロコシ、キビ、ドングリなど、小麦以外に混ぜモノをした黒色のパンは、貧者の食べ物であり、精製された小麦粉を作った白パンは地主など富裕層しか食べられなかった。
本作のなかにも、アンドレウがおやつを食べさせてもらうのに、白パンを食べようとして怒られる場面がある。

黒パン=貧しい、田舎
白パン=お金持ち、都会
という図式は、子どもの頃に『アルプスの少女ハイジ』で覚えたように思う。都会からハイジがおばあさんのために白パンをお土産にするのだけれど硬くなってしまっていて、なんてエピソードはなかっただろうか。

そんな風に、パンの色を決められる人生は悔しい。
食べ物で目に見えぬ階級が露わになることは、「ルール化」されていないだけで現代にだってある。
興味深いのは、最近はむしろ、お金があって健康に気を遣う人は、そんなのっぺりと精製されたものを避けて、雑穀の入った田舎パンを好んで食べることだ。きっと技術の進歩によって、昔の黒パンと今の黒パンでは、食べやすさもおいしさもまったく違うのだろう。玄米や雑穀米を好んで食すことも同じだ。

昔のように、白は誰、黒は誰、と決められるのではなく、現代では、選択肢について、持つ者と持たざる者がいる。好みや気分や健康への気遣いに応じて、白でも黒でもおいしさや健康面で選択肢を持っている人と、経済的に、あるいは健康面やグルメ面での知識に乏しい選択肢を持たない人だ。

黒パンを食す層と白パンを食す層との間に対話を持つことは、以前は難しかった。アンドレウのように、黒パンの世界から白パンの世界へ向かう選択肢が目の前にやってくる人はほとんどいなかった。
その断絶は、今も変わらないのではないかと思う。
いろいろな色やタイプのパン・ご飯を好きに選べる世界と、画一的なひとつの穀物加工製品のイメージしかない世界と。

生きる世界ってなんだろう。そんなことも考える作品だった。

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★DVD
『ブラック・ブレッド』(DVD)¥ 3,009
http://amzn.to/17880CZ

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2013年06月27日

No.257 屋根裏部屋のマリアたち

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欧 州 映 画 紀 行
            No.257   13.06.27配信
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★ 慣れきった世界から飛び出すと ★

作品はこちら
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タイトル:『屋根裏部屋のマリアたち』
製作:フランス/2010年
原題:Les femmes du 6ème étage 英語題:The Women on the 6th Floor

監督・共同脚本:フィリップ・ル・ゲ(Philippe Le Guay)
出演:ファブリス・ルキーニ、サンドリーヌ・キベルラン、
   ナタリア・ベルベケ
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■STORY&COMMENT
1962年、パリ。ジャン=ルイ・シュベールは、証券会社を経営する中年男。会社も住まいも祖父の代から受け継いで、ずっとそこに住み、そこで仕事をしている。ある日、先代から仕えていたメイドが妻のシュザンヌと折り合いが悪くて辞め、新たに若いスペイン人マリアがメイドとしてやってきた。その頃パリの上流家庭では、内戦の影響もあって大勢働きにきていたスペイン人が勤勉と評判だったのだ。
建物の最上階、屋根裏部屋には使用人が住む風習がまだ残っていた頃。シュベール家の住む建物の屋根裏部屋には、マリアをはじめ、近隣で働く同郷のスペイン人メイドが、仲よく共同生活をしていた。

半熟卵が完璧にゆでられていれば一日機嫌のよいシュベール氏。3分半きっかり、完璧に半熟卵をゆでるマリアの仕事ぶりにすっかり気をよくし、妻には内緒で高額の給料に承諾、彼の中でマリアの存在がどんどん大きくなっていく。

マリアが気にかかる彼は、スペイン人メイドたちが共同で使うトイレがつまっていると知れば、自腹で修理を頼んでやり、心にもかけなかった「スペイン内戦」について知ろうとする。
メイドたちの間では、ムッシュー・シュベールはすっかり人気者になって、親から継いだ会社と住まいから出たことのないシュベールにとっては、この新しい仲間との時間が楽しく大切なものとなっていく。

彼の変化は微笑ましく気持ちがいいのだけれど、観ていると心配になってくるんだなあ。いくらシュベールが心底親切心からメイドたちと関わってなにくれと世話をしても、所詮、住む世界が違う。子どもの頃からの習慣も、常識も、感覚も何もかも違う。
急速に仲よくなって楽しいときには目に見えなかった、あらかじめの断絶が、今露わになるか、今にお金持ちのだんなさまから無邪気に貧乏人を傷つける言葉が出てくるかと、いちいち心配が沸いてくる。
何不自由なく暮らしていた資産家が、ふとしたことで目を向けた弱者たちへの優しいまなざしが、決して計算ずくのものではなく、本心から向けられた美しいものだとわかるから、よけいに観ていると心配になってくるのだ。

マリアに抱く中年のかわいらしい恋心も、それが純粋な気持ちだとわかるからよけいに、それ以上深入りしたら傷つくよ、とハラハラする。

果たして私の心配がどうなるか、は、ぜひ自分の目で見届けて。
多少体調の悪い時に観ても、鑑賞後にぐったりしてしまうようなことはない、ということだけつけ加えておこう。

■COLUMN
気圧の変化で風が生まれて空気が流れるように、物語はなにがしかの不均衡がそこにないことには、動き出さないものだ。だから、何らかの形でバランスのとれない「ギャップ」が存在することは、映画作品の常だ。

そのなかでも、この作品は「ギャップ」を面白く見せてくれていると思う。
資産家と使用人というわかりやすいギャップ、そしてそのギャップを超えて別世界の人が関わり合う面白さはまずこの作品の肝だけれど、それだけでなく、たとえば夫婦間のギャップがある。

シュベール氏の妻シュザンヌは、夫の女の好みをすっかり勘違いしていて、いわゆる「セクシー美女」が近づいていることに的外れな心配をしている。夫婦の間の勝手な思いこみが生み出すギャップだけれど、こういうことって、夫婦に限らず、恋人、友人、いろんな人間関係でよくあることなんじゃないかな。あの人は自分のこういうところを気に入っているに違いないってのが、実際はそうでもなかったり。
自分の身の回りの人間関係を点検したい気分になる。

シュペール氏にとって、心地よい居場所がずいぶん違っていたというのも自分自身の認識のギャップだろう。祖父の代から同じ家でずーっと住んできて、そういうもんだと思っていたけれど、フロアを屋上に移して、メイドたちとわいわいやりながら、小さな自室を持ててはじめて、自分の居場所とはこういうものだったと感じる。

そして、自分の居場所を見つけ、新しい仲間たちを持った楽しさでまわりが見えなくなっているとはいえ、そういう変化に、家族や周囲の人たちがついてこられないことにシュペール氏自身さっぱり頓着しない、意識のギャップも、はたで眺める観客にとってはとても面白い。

ギャップのあれこれは、埋めたりもできるし、そのままにしておいてもそれを行動の原動力にすることもできる。ふと穴があいて、人生の中に流れ込んで、動き出した風に乗ることを気分よく見せてくれる作品でもある。

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★DVD
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2013年05月10日

No.256 最強のふたり

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欧 州 映 画 紀 行
             No.256   13.05.10配信
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お久しぶりでございます。
あまりにも配信がないので「まぐまぐ!」さんにも二度ほど、配信しないと廃
刊にするぞと怒られ、だからというのではないのですけれども、4カ月ぶりくら
いの配信でしょうか。確かに間があきすぎですね。
もう少し、頻度を高めるように頑張りますが、基本は「ポツポツとたまに配信」
となりそうです。ごめんなさい。

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★ よき化学変化のバランスは ★

作品はこちら
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タイトル:『最強のふたり』
製作:フランス/2011年
原題:Intouchables 英語題:Untouchable

監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
     (Eric Toledano, Olivier Nakache)
出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、
   アンヌ・ル・ニ、オドレイ・フルーロ
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■STORY&COMMENT
パラグライダーの事故で、首から下が麻痺してしまったフィリップ。大富豪で
ある彼は、使用人を雇い、生活の介助を受けながら暮らしている。新しい介護
人を募集したところ、面接には多くの資格者の中に混じって、失業手当をもら
うために面接を受けたアフリカ系の青年ドリスがいた。
まったく採用される気のない態度のドリスに興味をもって、フィリップは気ま
ぐれに彼を採用する。介護の経験はなく、鳴っている電話をそのまま差し出す
気づかいの抜けたドリスだが、周囲の腫れ物にさわるような態度にうんざり気
味のフィリップはドリスを気に入って、仲の良い友人同士になっていく。

ずいぶんヒットしたらしい作品。皆さんもうご覧になったかしら。DVDの発売か
らもちょっと時間が経ってしまって、今さら感もあるし、私が特に何かコメン
トすることももうないよなあ、と思うのだけれど、だって私はー昨日観たんだ
もん。
すがすがしくて、嫌みがなくて、みんなが気持ちよくなれる作品で、そういう
万人受けするものは、毒のなさが物足りなくなることもあるけれど、フィリッ
プの偏屈ぶり(と、特筆するほどのものでもないか)と、障害者だからと言っ
て遠慮しないドリスのジョークが、小気味よさを補っている。

基本的には、「ボーイ・ミーツ・ガール」じゃないが、世界の違う二人の出会
いの物語。育ってきた環境がまったく違い、趣味も異なる、暮らす世界の違う
二人が出会って化学変化を起こす(どこか鬱屈していたフィリップが外に開か
れていくにつれ、当の二人以外の周りの人たちも少しずつ変わっていったり)。
この映画がヒットするということは、そんな物語が、多くの支持を受けるのだ
なあと改めて思う。出会った二人の変化の様子を眺めるのは心地よく、自分自
身にも何かの突破口が開かれる気分にしてくれる。
そして、そんなにも親しくウマが合う人に会えることへの、多くの人の憧れも
感じる。もちろん私自身も。

何となく、お金はあるけれど障害があってモノトーンな暮らしだったフィリッ
プに、新しい風と彩りが吹き込まれた、という視点から考えてしまいがちだけ
れど、貧しい暮らしの中で複雑な家庭環境に苦しみ、刑務所に入っていたドリ
スが、世の中や世間の人に受け入れられていく物語でもある。よき「化学変化」
は、どちらかに偏るアンバランスではきれいには起きないものなのだろう。


■COLUMN
実話にもとづく話と冒頭で書かれ、作品の最後には、モデルとなったふたりの
映像がはさみこまれる。
何となくこの実話の強調がしっくりこない感じがして、ちょっと調べてみた。
しっくりこないというのは、「事実は小説より奇なり」みたいな大きな出来事
が起こったわけではなく、事実であることを強調することにあまり意味を感じ
なかったから。ひょっとしたらもともと人々に知られている人がモデルになっ
ているということが重要なのかな、という気がした。

調べた結果、といってもWikipedia程度で作品プロフィールはすぐに探すことが
できた。フィリップのモデルであるフィリップ・ポッゾ・ディ・ボルゴ氏が介
助人のアブデル・ヤスミン・セロー氏とのことを本にしたため、それをきっか
けにテレビのドキュメンタリー番組で2度ほどふたりが取り上げられ、そのドキュ
メンタリーをこの作品の監督が観たことをきっかけに、映画制作されたらしい。
だから、フランスでは有名人ではなくとも、「ああ、この人たちテレビでみた
ことあるー」くらいの人ではあるのかもしれない。
もともとの本も、現在では映画の1シーンを表紙に飾って売られている。

そのドキュメンタリー番組の引用をところどころはさみながら、最新の映像や
インタビューを交えたドキュメンタリー番組も新たにつくられ放送されたよう
だ。
『最強のふたり』が完成し、モデルとなったふたりがシャンゼリゼの劇場に作
品を観に行って(劇場の前では取材陣がおおぜいカメラを構えて撮影タイムが
ある)、出演者と会談する様子や、フィリップの家のブドウ畑、祖父の住んで
いた屋敷などが登場するその番組の動画は、合法的にアップされたものかどう
か確認ができなかったけれど、以下のURLで観られる。
https://www.youtube.com/watch?v=pvvVORUCVLg

おそらく、作品全体が「実話」なのではなく、要所要所のエピソードを入れつ
つ、きれいにオチのつくコメディにしたのだろうと思う。そして、きっとモデ
ルであるフィリップ・ポッゾ・ディ・ボルゴ氏もそのようなものを望んだのだ
ろう。

最後に1つ。話は変わるが、この作品のことを考えていて、少し前に読んだ本
のことを思い出した。脳性麻痺患者であり小児科医である作者が、自らの経験
から、身体について、介助し/されることや幼い頃から受けてきたリハビリに
ついて綴ったものだ。身体の持つ/感じる「官能」という視点から書かれた刺
激的な本だった。
『リハビリの夜』熊谷晋一郎
http://amzn.to/1468Ahs

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『最強のふたり』(DVD)¥ 2,952
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2013年01月10日

No.255 君のいないサマーデイズ

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欧 州 映 画 紀 行
              No.255   13.01.10配信
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★ まぜこぜの人間模様を間近に眺める快楽 ★

作品はこちら
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タイトル:『君のいないサマーデイズ』
製作:フランス/2010年
原題:Les peties mouchoirs 英語題:Little White Lies

監督・脚本:ギョーム・カネ(Guillaume Canet)
出演:フランソワ・クリュゼ、マリオン・コティヤール、ブノワ・マジメル、
   ジル・ルルーシュ、ジャン・デュジャルダン、ロラン・ラフィット
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
毎年そろってバカンスに出かける旧知の仲間たち。家族がいれば配偶者や子ど
もたちもいっしょに。恋人がいればいっしょに。そんな彼らだが、今年の夏は
仲間の一人が交通事故で重傷を負って入院してしまった。
「少しでもそばにいたい」「でも集中治療室で面会できるわけじゃない」など
など意見が分かれ、「じゃあ1カ月の予定を半分にしよう」との折衷案で、海辺
へ繰り出す……。

前回、年末にとりあげたギョーム・カネ監督作品、引き続き。
昔はね、同じ監督の作品は1年、少なくとも半年は取り上げない、なーんて縛り
をつくってこのメルマガやってたもんですよ。最近じゃ、同じ監督だろうが同
じ国の作品が続こうが、出すことが第一! 

おまけにバカンス映画ということで、季節外れではあるけれど、とても気に入っ
たから、ぜひ取り上げたいと思った。
と思ったものの、ちょっとこれで書くのは難しい。ストーリーらしいストーリー
はないし、群像劇で登場人物の関係がわかりにくいところも多い。ネットで検
索してみると「何がいいたいのかわからなかった」「あの結末はなんだ」といっ
た文句も見かけた。まあ、その意見もよくわかる。おまけに2時間30分以上とい
う観はじめるのに覚悟のいる長さ。
その長さに怯んだ私だったけれど、「半分ずつか3回に分けて観ればいいか」と
再生ボタンを押して、いやいや、全然中断なんてしようと思わず一気に観ちゃっ
たんだ。

レストラン経営で成功したマックスは、バカンスの別荘や食費を提供して皆を
招待する形になっているが、しじゅう「仕事人間」特有のイライラを振りまい
ている。そのイライラには実は、数日前にヴァンサンから「君の手が好きだ」
とゲイのような(本人はゲイではない、と言っているが)告白を受けたせいも
含まれる。マックスとヴァンサンはケンカでもしたのかと、仲間たちは気にし
始める。
マリーは、どうやら事故で入院中のリュドとつきあっていたことがあるらしい。
しかし今は、いろんな男をとっかえひっかえの生活だ。
エリックは、恋人のレアが来ないことを皆には「仕事が忙しくて遅れてる」と
説明するけれど、実はうまくいっていないらしい。
アントワーヌは崩壊危機の恋人からのメールを皆に見せて「他の人には内緒」
と相談しまくっている。

それらのちょっとしたイライラや隠しごとは、夏のバカンスのバカ騒ぎにかき
消されたり、いつまでもくすぶっていたり。バカンスを過ごすうちに解決され
るものもあれば、なあなあになっているものもあるし、ひょっとしたらより悪
く着地したか?というものもあって、一方できっといい方に向かっていくんだ
ろうな、と希望を指し示して終わるものもある。
何かがはじまって、何かが終わって、という整然とした物語とはかけ離れてい
るから「何がいいたいの?」という感想も出てくるだろう。

でも、じたばたしてる人間たちの姿を間近で眺めているのが私にはとても心地
よい。整然としないからこそ、彼ら一人ひとりに愛着がわく。
彼らが何をしている人なのか、関係性がわかりづらくて入り込みづらいという
感想も見かけたけれど、長年の友人関係って、仕事を何しているとか、今誰と
つき合っているとか、そういうことをいちいち気にしないというか、そのこと
でいちいち関係が変わらないものじゃないだろうか。そんな関係性を、これま
た間近で眺めているのが楽しかった。
苦くて辛いものもあるのだけれど、最後に集った彼らの一人ひとりを見て、自
分のなかの何かが洗われたように、彼らと等しい涙を流したように、錯覚でき
る作品だった。

■COLUMN
この作品を観ていて思いだした映画がある。『愛する者よ、列車に乗れ』とい
うパトリス・シェロー監督の1998年の映画だ。

カリスマ性のあった画家が死去し、その遺言に従って葬儀に赴く縁者たちが、
列車の中、葬儀の会場でと、いろいろに人間模様を展開する。ぐちゃぐちゃと
した群像劇で1本通ったストーリーがなく、登場人物の関係を把握するのが難し
く、でも観ていると最後に不思議な開放感と高揚感につつまれる作品だった。

DVDが発売されたらすぐ買いたいくらいには好きなのだけど、やっぱりこの作品
も「訳わからん」といわれて評判はよくなかったように思う。というわけで
DVDが出ることはないんだろうなあ。テレビで放映していたのを録画したものは、
あのDVDがごっちゃりと入っている棚にはあるはず、だけど。

……話がそれた。
この作品を思い出したのは、上述のように作品スタイルや観た後の感じが似て
いること。もう一つは、テレビで放映されたこれを観ていたら、出演者のクレ
ジットに「ギョーム・カネ」と出てきて、「え、どこに出てたの?」と慌てて
戻して確認したことの印象が妙に強く残っていたからだ。
結局「ヒッチハイクの若者」という、今の状況を第三者に説明してわかりやす
くするシーンをつけ加えるために作られたようなチョイ役で出演していて、そ
のころ彼はまだ駆け出しだったのだろう。私がテレビで観たそのときには、す
でに主役を張る有名俳優だったから、驚いたのだ。

なかなか観られる機会は少ないと思うけれど、『愛する者よ、列車に乗れ』、
この『君のいないサマーデイズ』を気に入った人はきっと気に入るんじゃない
かと思う。

---------------
★DVD
『君のいないサマーデイズ』(DVD)¥3,182
http://amzn.to/VEv840

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2012年12月28日

No.245 唇を閉ざせ

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.254   12.12.28配信
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★ 信じて立ち向かう。悲劇の8年後のサスペンス ★

作品はこちら
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タイトル:『唇を閉ざせ』
製作:フランス/2006年
原題:Ne le dis à personne 英語題:Tell No One

監督・共同脚本:ギョーム・カネ(Guillaume Canet)
出演:フランソワ・クリュゼ、マリ=ジョゼ・クローズ、
   アンドレ・デュソリエ、クリスティン・スコット・トーマス、
   フランソワ・ベルレアン、ナタリー・バイ、ジャン・ロシュフォール
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■STORY&COMMENT
妻のマルゴと湖畔を訪れたアレックスは、突然何者かに殴られ、湖に沈められ
る。アレックスは奇跡的に助かるが、マルゴは惨殺死体で発見された。
その8年後、アレックスの元に、見知らぬ送信者からメールが届く。リンクには、
どこかの町の防犯カメラと思われる映像に映る少し年を重ねたマルゴの姿。ア
レックスは調査を開始するが、その頃マルゴの死体が発見された場所から新た
な死体が発見され、警察が疑いをかけたのはアレックス、そして、どうやら別
のグループもアレックスを狙っているようで……

「ふーん、ギョーム・カネの監督作品かー」と、録画をしておいたのがだいぶ
前。どんなストーリーなのか、サスペンスであることも何も予備知識なく観て、
予想外に夢中になった。サスペンスであることくらいはタイトルから気づいて
おけ、と振り返れば思うけれど。

妻が殺され、以来、孤独に過ごしてきた医師アレックス。謎のメールでもしや
マルゴは生きている? と8年の後にまた悪い思い出を引っかき回されて、それ
だけでなく、警察には疑われ、警察に疑われるように陥れる誰かもいる。
アレックスだけでなく、観客もさっぱり訳がわからず、アレックスといっしょ
に何が起きたのか知りたいと前にのめり、しだいに加速・加重していくチェイ
スからは、きゃんっ怖いと逃げたくなる。
寡黙なアレックスのキャラクターは、ひょっとしたら、本当はこの人は何かに
関わっていてミスリードしているんじゃ……なんて思わせる雰囲気もあって、
観応えに味をつける。
カーチェイスみたいな派手なものではなくて、高速道路や市場を走って走って
追っ手をまいて、という泥くさい逃げ回り方もいい。

なんでもない個人に起きた小さな(当人にしてみれば、まったく小さくはない
のだが)悲劇だと思っていたものが、大きな大きな社会の渦に絡め取られたも
のだったと、しだいに明らかになっていくスリリングなストーリーだ。予算を
かけた大作ドラマが盛んに放映され、華やかな映画の封切りも話題になる年末
年始だが、そんな時期に観ても壮大でドラマティックなサスペンスだと思う。

字幕で細かいセリフが反映されないこともあって、登場人物が誰が誰やら、人
物同士がどんな関係にあるのか、ちょっとわかりにくい。前半の方は、よく注
意して観ておくのがおすすめ。

■COLUMN
回想シーンが時折はさまれて、アレックスとマルゴのカップルは、子どもの頃
から仲が良くて、初恋(かどうかはわからないが)で結婚したらしい。

不鮮明な映像から「マルゴは生きている!」と思い、警察もなんだかわからな
い追っ手も的に回して、「マルゴを守るため秘密なら守らなくては」とばかり
に、一人逃げ戦うアレックス。
「8年の沈黙の後、何故にそんなに急展開を信じられるのだろう」と部屋でぬく
ぬくとリアリズムを弄ぶ私などは思ってしまうが(このあたりは、伏線もあっ
て後でわかるところもあるけれど)、小さい頃からずっとずっと一緒にいるか
らこそ、強く信じられるものがあるのだろう。

だから、サスペンスであると同時に、これは固く信じ合っている男女の愛の物
語でもある。昨今安易に使われるためになんだか使いづらくなってしまった
「絆」という言葉が、よく似合う関係だ。
そうしてこの作品をながめると、「いったい私はこんな風に人を信じ抜けるも
のだろうか。」なんて気持ちがわいてくるが、そこをどんどん考え出したら、
今度は己の心のサスペンスに入り込む。
よぶんなことは考えずに、作品の面白さに心をゆだねるのがよいのだろう。

……
頭を使わなくても面白い、自然と家族やパートナーのことを想う、年末年始に
ふさわしい一作。べつに12月〜1月の季節感ある物語ではないけれど、この時期
に滑り込みで取り上げることができてよかったかな、と思っています。
今年も、時間のできたときに「ちょろっと」ペースの配信しかできませんでし
たが、1年ありがとうございました。きっと来年もこんなペースだと思いますが、
よければおつきあいください。
それでは皆様、よいお年を!

---------------

★DVD
『唇を閉ざせ』(DVD)¥ 2,999(中古価格)
http://amzn.to/UolYLA

価格は2012年12月24日現在のアマゾンでの価格です。
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★コメントくださった方へご返信
渡辺 さま
大々的に宣伝されるハリウッドの大作と違って、ヨーロッパやその他の国の作
品には独特の味がありますよね。私もたまたま自分が観たもののことしかお届
けできないので、面白い作品がありましたら、どうぞこちらこそ、教えてくだ
さい!

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2012年12月24日

No.253 クリスマスのその夜に

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欧 州 映 画 紀 行
               No.253   12.12.24配信
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★ クリスマスは、苦かったり、甘かったり、しょっぱかったり ★

作品はこちら
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タイトル:『クリスマスのその夜に』
製作:ノルウェー・ドイツ・スウェーデン/2010年
原題:Hjem til ju 英語題:Home for Christmas

監督・脚本:ベント・ハーメル(Bent Hamer)
出演:トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ、フリチョフ・ソーハイム、
   クリスティーネ・ルイ・シュレッテバッケン、セシル・モスリ、
   サラ・ビントゥ・サコール、モッテン・イルセン・リースネス、
   ニーナ・アンドレセン=ボールド、ライダル・ソーレンセン、
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
部屋を飾りつけて恋人を待つ女、家族の食事よりもガールフレンドと時を過ごしたい少年、妻に追い出されて子どもにプレゼントも渡せないと嘆く男、その愚痴を聞きながら、自分はクリスマスも仕事なんてと妻に小言をいわれる医師……クリスマスイブを迎えたノルウェーの小さな町での群像劇。

ちょうどクリスマスイブということで、北欧からのクリスマスストーリ−を。
誰が主役というのではなく、深刻なものから、ありふれたものまで、いろいろな事情を抱えた人々のクリスマスの物語。それぞれの物語のシーンが、スケッチのように少しずつ差し込まれて進んでいく。それぞれの事情や登場人物同士の関係性は、そのスケッチが何度か重ねられて映画が進んでいくうちに、明らかになっていくから、ストーリー説明をしていくと、結局ネタバレのようになってしまう。

ということで、細かいストーリーはここではいわないが、「家族と過ごす『べき』クリスマス」をめぐって、故郷を目指す人、家に帰れない人、家族と過ごせない人、過ごさない人などなど。ちょっと苦かったり、甘かったり、しょっぱかったり、希望が見えたり、ため息が出たりと、いろんな味の情景が見える作品だ。
日本人にとっては、この「クリスマス」は大晦日やお正月に近くて、年末年始に観るとちょうどよいのではないかな。

監督のベント・ハーメルの作風は、『卵の番人』『キッチン・ストーリー』『ホルテンさんのはじめての冒険 』、ちょっとシュールだったり、温かいユーモアの中にもブラックで辛辣なところが隠れていたり、コメディではあるけれど、かみしめれば実は苦みが強かったり、なんてイメージを私は持っている。
上にも書いたように一味じゃない点はその通りだけれど、スケッチを重ねる群像劇である分、軽い風味で、さらりと観やすくなっていると思う。忙しさからすっと力を抜きたい年末に、ぜひ。

■COLUMN
年末年始というのは、毎年どうも苦手だ。
「年内にこの仕事だけは済ませなきゃ」だ、クリスマスだ、大晦日だ、お正月だ、と、本来のスケジュール(というものがあるのかわからないが)よりも、暦を優先しないといけない場面が短期間に集中する。

クリスマスとなれば、あー、今日は疲れたからお弁当でも買って適当に済ませておこう、ではなんだかよくないような気がするし(別に気にしなきゃいいんだろうけど)、年末は特にやりたくなくても部屋をきれいにしないと何か悪いことをしている気分になるし(年中そうじなんかしたくないといってサボっているんだけど)、大晦日は特に食べたくなくても蕎麦を食べないと早死にするらしく(違ったっけ?)、年末に3倍忙しくなろうとも、大晦日三が日くらいは仕事を休める体制にしないと文化的な生活ではない気がするし(フリーランスだから、スケジュールは自分で調整しないと)、人混みに突進してでもお正月の食材を買って食べねば、マメじゃなくなって先を見通せなくなるらしいし
(違ったっけ?)、なんでまたこのせわしい時に、いつもよりさらに忙しくなることをしなきゃあならんのだ、の気分でウツウツしてくるのだ。

時間にも気分にもよゆうのある時なら、キラキラしたディナーも、めったに使わないお重にいろいろ作って詰めるのも、きっと楽しいよ、なんで自分のよゆうよりもカレンダーに合わせないといかんのだ。
と愚痴りはじめて、毎年反省する。時間にも気分にもよゆうのある時なんて、なかなかないわけで、日付を理由にしてこそやれることがあって、無理にでも節目をつけることが必要なんだろうなあ、と。

そんなわけで、愚痴ってせわしなくも、平和な年末年始が今年も過ごせますよう……。ああ、年賀状にはまだまったく手を付けていないなあ。

---------------

★DVD
『クリスマスのその夜に』(DVD)¥3,501
http://amzn.to/WGpGz9

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2012年11月30日

No.252 未来を生きる君たちへ

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欧 州 映 画 紀 行
              No.252   12.11.29配信
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★ 復讐心のわき起こるときを散りばめて ★

作品はこちら
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タイトル:『未来を生きる君たちへ』
製作:デンマーク・スウェーデン/2010年
原題:Hævnen 英語題:In a Better World

監督・原案:スザンネ・ビア(Susanne Bier)
出演:ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム、
   ウルリク・トムセン、ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン、
   マルクス・リゴード
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■STORY&COMMENT
デンマーク。少年エリアスがひどいイジメに遭っている学校に、母を亡くして
祖母の家に引っ越したクリスチャンが転校してくる。イジメを目の当たりにし
たクリスチャンは、イジメの首謀者に報復して二度とやらないと約束させ、二
人は仲よくなる。
アフリカ難民キャンプ。エリアスの父アントンが医療活動に従事している。そ
こでは「ビッグマン」というならず者に妊婦の腹が切り裂かれて運ばれてくる
という事件が続発している。
やり過ぎの報復を学校からたしなめられ、クリスチャンの父は復讐の連鎖は愚
かだと諭す。しかしクリスチャンは、やり返さねばだめだと反発する。
難民キャンプには、ならず者「ビッグマン」が運ばれてくる。アントンを慕っ
ていた難民達は、「あいつを治療するなんて正気か」と不満を叫ぶ。
一時帰国したアントンが、エリアスと弟、クリスチャンを連れて遊びに出かけ
ると、ヤクザ者に絡まれる。クリスチャンは相手の素性を調べて、やり返すべ
きだと説得しようとする。

原題は、「復讐」という意味だそうだ。
イジメへの報復、大勢をふみにじったモンスターのような人間への憎しみ、絡
まれたらやり返せとまっすぐな目で見つめるクリスチャン。さらに母の死に関
してクリスチャンが抱えているらしき父へのわだかまり、別居状態のエリアス
の両親。場所を変え、形やスケールを変え、さまざまな復讐心や憎しみ・恨み
の気持ちが登場し、「私たちはどうすればよいのか」という普遍的なテーマが
展開する。

スザンネ・ビア(以前はビエールと表記されていたが)作品は、以前にも『し
あわせな孤独』『アフターウェディング』を取り上げたことがある。この監督
の作品は、必ず大きな問題をつきつけられて考え込まされることになる、体調
の悪いときには観たくないタイプの映画だ。そして、その考え込むことという
のは、観客一人ひとりが元から持っている考えや経験や気持ちを揺さぶってく
るからで、結局映画の方では面倒なものをつきつけるだけつきつけて、つきつ
けっぱなし、ということが多い。
そのやり方を「ずるい」と感じて、またメロドラマばりの設定に辟易して、1回
観ると当分いいやと思う、そんな映画作家でもある。だが、決して無視できな
いやっかいな作品をつきつけてくる……以下ループ。

今回も、憎しみという気持ちをどうするのか、報復は憎しみの連鎖に過ぎない
のか、じゃあ泣き寝入りすることが賢いのか、クリスチャンの父がいうように
復讐することは愚かな戦争を始めることにつながるのか。重い普遍的なテーマ
が並び、仲よくなった少年二人の仲を切り裂くような出来事が起こったときに
は「こんなに重苦しいところに行っちゃってどうするんだ」と信じられない気
持ちになった。

が。
終盤、なぜか「母を亡くして傷ついて人を信じられなくなった少年の再生の物
語」に集約して、難民キャンプでの報復や、やられたらやりかえすべきなのか
といったテーマはどこかに行ってしまう。

正直なところ肩すかしくらったようで「何だそれ」という気持ちなのだけれど、
その分、未来を感じられる登場人物の変化に涙して解放される気分は得られて、
スザンネ・ビア作品を観た後特有の、「なんかイヤなものを観てしまった」感
がなく、某かが解決されて気分の高揚する満足感がある。

今までの傾向から勝手に身構えた私が悪いかもしれない。
傷ついた少年の心が、誰かを信じて生きる力を取り戻したことに喜びながら、
今度は観客側が、周辺にあったやっかいで普遍的な問題を考える力を持とうよ、
とそういうことかな。

やっかいな問題をつきつけることと、映画としての収まりのよさと、バランス
をとった結果がこの作品なのかなあ。ちょっと納得いかないんだけどね。

■COLUMN
上記コメントが長くなりすぎたので、コラムはほんの少し。

エリアスと仲よくなりそうな転校生として自身も標的になりそうになり、いじ
め集団の首謀者に対して行うクリスチャンの報復行為は、けっこうヘビーな暴
力沙汰。もちろん映画のなかでも親が呼び出されて騒ぎになるわけだが、日本
だったらもうちょっと大騒ぎになって、問題行動を起こす生徒として監視され
るくらいじゃないか、あるいはもうこの学校には通えないとか。
さらに、町のヤクザ者の素性を調べて報復するクリスチャンの行為は、子ども
のいたずらは軽く超えたレベルのもので、もうちょっと大事になってもおかし
くないんじゃないかと思うが、そうはならない。

外国人たる私は、デンマークがこうした社会体制なのか、これは映画のなかの
できごと、作り手の発想と若干のご都合主義が入ってのことなのか、わからな
い。
根拠はないけれど、それぞれ半々なんじゃないかな、と思っている。

タイトルが「復讐」であり、数々の復讐したくなる行為を散りばめた作品では、
その次に作り手と観客は必然的に「ゆるし」について考えていくことになる。
クリスチャンのやったことを「取り返しのつかないこと」にせず、再生、やり
直しを静かに促していくのは、数々の散りばめた復讐したくなる行為への直接
の答えを出すわけではなくとも、数々のゆるしを必要とする行為を散りばめ、
寛容について考えさせてくれることだとも思う。


---------------

★DVD
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2012年10月11日

No.251 ミケランジェロの暗号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.251   12.10.11配信
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作品はこちら
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タイトル:『ミケランジェロの暗号』
製作:オーストリア/2010年
原題:Mein bester Feind 英語題:My Best Enemy

監督・共同脚本:ヴォルフガング・ムルンベルガー(Wolfgang Murnberger)
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、ゲオルク・フリードリヒ、
   ウーズラ・シュトラウス、マルト・ケラー、ウド・ザメル
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
1938年、ウィーン。画廊を営むユダヤ人のカウフマン家は、ミケランジェロの
素描を隠し持っていた。ムッソリーニがイタリアの至宝と取り戻したがり、ナ
チスはそれを差し出すことを外交の切り札にしようと企む。
カウフマン家の息子ヴィクトルと、兄弟同然に育った使用人の息子ルディとの
長年の関係が、ユダヤ人ヴィクトルとナチス党員ルディとの関係となって、ド
ラマティックな「至宝のミケランジェロ争奪戦」となる。

幼なじみの親友同士が敵対者となって、ミケランジェロを巡った冒険活劇が繰
り広げられる。ナチスとユダヤ人の対決という緊迫の中から「ウソでごまかす、
ウソをごまかすシチュエーション」を生み出して、ときにシチュエーションコ
メディのような状況を見せながら、あっちに転びこっちに転びの、ハラハラと
するテンポのいいドラマになっている。

正直なところ、ホロコーストをこういうエンターテイメントのネタにしてもい
いんだろうか、という背徳感がつきまとって、心底楽しめないところもあるの
だけれど、それよりは、シーソーゲーム的な展開に、この後どうなるんだろう、
という気持ちが勝つ。
それだけに、終盤で訪れた「そこでもう1回逆転があるのか」というところは、
もうちょっと引っぱって、しつこくしてもよかったんじゃないかと思う(観て
ない人にはなんのこっちゃ、ですね)。
と、考えると、物語が動き出す前、前半の回想シーンは、もう少し短くして、
早めに「テンポのいいドラマ」にする方がよかったんじゃないのかな、とも。

こういうことって、二度以上観ないとわからないことも多い。そういう意味で
も、機会があったらもう一度観てみたい。
特に後半は「続きは?続きは?」と急かしたくなって、私のような臆病者は、
「怖いよう」と度々ディスクを止めながらの鑑賞になるようなサスペンス。そ
んなストーリーを欲しているときにぜひ。

なお、『ミケランジェロの暗号』という邦題からは、美術作品に隠された暗号
を読み解く知的ミステリーのイメージも漂うが、ミケランジェロの作品自体に
は隠された某かは特になく、インテリ諸氏のプライドと好奇心をくすぐるよう
な知的・謎解き要素はあまりない。

■COLUMN
エンターテイメントとして、痛快に「面白かった」といえるには、いろいろな
条件があるものだと思う。
上に書いた、「ホロコースト」をこうやって消費してもよいのか、考えてしま
うことも、エンターテイメントを成り立たせることを阻む要因だし、良い・悪
いという単純な構図以外のところでぐじぐじしてしまうこともそう。そして、
あまりにも単純過ぎてばかみたいになってしまうと、やっぱり「面白い」と言
いたくなくなってしまう。

ナチス党員となって、カウフマン一家を苦しめるルディはもちろん悪役だけれ
ど、小さい頃から、家族同然に過ごしたヴィクトルとルディは、どこか腐れ縁
的な友情を抱きながら敵対する。それが、原題(と英語題)の「マイ・ベスト・
エニミー」の由縁だろう。

カウフマン一家がルディとその親によくしていたことは本当で、ヴィクトルと
ルディが兄弟のように仲よく育ってきたのもきっと本当だ。
しかし、裕福な人を使う側が、使われる側の屈折に気づかないなんてことはよ
くある話で、ヴィクトルは小さい頃から仲よくしてきた友人と心底から思って
いても、ルディの側から見れば、どんなによくしてくれても「使用人の息子」
以上にはなれないことが屈辱でもあったのかもしれない。

そんな立場の人が、時代の雰囲気を感じとってナチス党員となり、社会でのし
上がっていこうとするのは、当然のなりゆきでもあるだろう。
その辺りの葛藤や屈折をもう少し絡めて、ルディを本当に悪役扱いしてもいい
のか、観客が悩むくらいのめんどくさい話になるのもいいんじゃないかと、私
は思うけれど、だけどもそうしてしまったら、痛快なエンターテイメント性は
失われてしまうし、これでちょうどいいのかもしれない。

ただ、作品の随所に、ルディを手放しでつまはじきにできないような要素は散
りばめられていて、作り手の意図としても、きっと、「完全なる悪」としたく
ないところがあるのじゃないかと思う。
結末も、完全な悪ではなくベスト・エニミーだよ、という救済になってるよう
に私には感じられる。だからといって、「時代が二人を引き裂いた」なんてい
う湿っぽい社会性からも周到に遠ざけられ、痛快さを保っている。

うん、ヴィクトルとルディの関係性を、ああでもない、こうでもないと考えな
がら書いていたら、わかってきた。
いろいろ引っ掛かかるところはあったんだけども、小難しくもならず、頭がか
らっぽな勧善懲悪にもならず、映画的リアリティとして、ちょうどよいバラン
スで作られている作品なのだろう。

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★コメントくださった方へご返信
Tanno さま
「見たい気になった」とのお言葉、ありがとうございます。
「みてもつまんないよ」という映画はやっぱり取り上げないわけで、
その映画が「タイプ」である人には、ちゃんと「みたい」と思ってもらえるよ
うに!と願いながら書いているので、何よりのお言葉です。
みたい作品を見つけるのに、今後とも役立てていただければ幸いです!

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2012年10月05日

No.250 パリ20区、僕たちのクラス

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欧 州 映 画 紀 行
               No.250   12.10.04配信
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作品はこちら
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タイトル:『パリ20区、僕たちのクラス』
製作:フランス/2008年
原題:Entre les murs 英語題:The Class

監督・共同脚本:(Laurent Cantet)
出演:フランソワ・ベゴドー(原作と共同脚本も)
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■STORY&COMMENT
様々な民族が混じり合って暮らすパリ20区。中学校の教室。様々な出身国、民
族の生徒たち24人のクラスで、教師フランソワは担任兼フランス語教師。新学
期がはじまったこのクラスで、毎日の生徒の反発、相互理解、いろいろある1年
を追う。

この作品、いい加減に風の噂を捉えていて、ドキュメンタリーだと思いこんで
いた。だいぶ前にWOWOWで録画をしておいたのを、何となく観だしたら、
「あれ、これはドキュメンタリーじゃないよな」と(生徒の成績について引き
継ぐ様子を映すところや、カメラの近さなどから)。観ながら手元のiPhoneで
検索したところ、フィクションであり、自分の教師体験をもとに書かれた小説
が原作で、その原作者のフランソワ・ベゴドーが主役の教師フランソワ役をやっ
ているらしいことがわかった。
だから、ドキュメンタリー並みに「学校現場の現状」を捉えていることは確か
で、観る人が「ドキュメンタリー?」と錯覚してくれるならそれが狙いでもあ
るんだろう。
実際、物語っぽくない、伏線もなんにもない、とりとめのない会話を淡々と映
し出し、地元の中学校で希望者を募って、7カ月のワークショップを通じて選ば
れたという生徒役は、白目剥いて寝ていたり、おしゃべりしていたり、ごくご
く自然に悪気のない不真面目な生徒たちを演じていて、本当に中学校のクラス
を覗いている気分になる。

教師モノというと、「熱血」「反発する生徒を粘り強く導いて最後は心を開か
せる」「自由を礼賛する教師が抑圧された生徒たちを解き放つ」など、とにか
く熱さを思い浮かべるけれど(私の教師モノのイメージは大昔の金八先生かロ
ビン・ウイリアムズの『いまを生きる』あたりで止まっているので、ひょっと
したら今は違うのかもしれない)、この作品はもっとクールダウンしている印
象だ。
いや、フランソワだって、退学処分を受けそうな生徒を擁護したり、書き言葉
としてのフランス語を正しく使うことに意味を見出せない子どもたちに、身近
なこと、自分のことを書かせて、「正しいフランス語」を使って表現すること
を一生懸命工夫して教えたり、実に誠実に仕事ぶりだなあと思う。

誠実に「フランス語教師」という仕事をしようとする人のやり方を淡々と映し
出し、生徒には反発やら退学危機やらが訪れるけれど、涙涙で打ち解けたり、
職を賭した熱意により職員会議を説得したり、というような場面はない。
ときにはちょっと失敗もしながら、誠実に真剣に自分の仕事をする人のその現
場を表現した、それ以上でもそれ以下でもない。それ以上熱くもそれ以上冷た
くもない、そんな物語だ。

私のこの説明で、観たくなっていただけるか、今書きながら、「そりゃあ難し
いかもなあ」と思っているところだけれど、他の作品ではなかなか味わえない
クールな観察ができるフィクション。新鮮な気持ちで楽しめる作品だと思う。

■COLUMN
「学校の教師というのは、お給料はあまりよくないけれど、自分の時間はとれ
る職業。収入が低くても自分の時間がほしい人が就く」と、フランス語の個人
レッスンをしてくれていた女性に教えてもらったことがある。彼女自身、外国
人にフランス語を教えながら(資格を持っているので)、中学校か高校で英語
を教えてもいた。そのかたわら、自分自身の学術研究も続けていて、その話を
聞いた頃、アメリカで研究をするための奨学金をとろうとがんばっている最中
だった。

この作品の原作者で主役であるフランソワ・ベゴドーは、2年間実際に中学校で
フランス語教師を勤めていて、そのかたわら(かどうかわからないけれど)執
筆活動をはじめて、ヒットした三作目『教室へ』がこの映画の原作だそうだ。
そんなプロフィールから、「作家になりたくて、執筆時間のとれる教師をして
いたのかな」なんて勝手な想像をしてしまう。日本だと予備校教師とか塾の先
生なんかにいそうなイメージ。

フランソワがどういうつもりで教師をやっていたか、はどっちでもいいことだ
けれど、この極めてドキュメンタリーっぽい作品の、メイキングや、フランソ
ワ自身の教育に関する考えや、実際のフランスの学校現場がどうなのかってい
うことには興味がある。
たとえば、作品中、教員の成績会議に、生徒代表として、2人の生徒が出席して
いる。そんな試みがほんとにされているのか、それに近いものは実際にあるの
か、知りたいところだ。実際にはないのなら、原作者の理想が反映されている
んだろうし、その辺の考え方も聞いてみたい。

また、演じた中学生たちが参加した7カ月のワークショップでは、どんなことを
したのか、ドキュメンタリーと見紛うばかりの自然な演技・態度を、生徒役た
ちがどうやって身につけていったのか、そんなことにも興味がある。

私は、映画作品やそれをつくった人について、舞台裏を知りたいとか、実際の
人柄を見てみたいとか、人に比べて思わない方だけれど、この作品ばかりは、
さまざまな次元・場面で「ちょっと、それ実際はどうなのよ」と思わされた。
なかなか評するのが難しい、やっかいな作品なのだけれど、「好奇心を刺激す
る」という点では間違いないと思う。

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