2012年07月27日

No.249 フランス、幸せのメソッド

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欧 州 映 画 紀 行
            No.249   12.07.26配信
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 無理解と不寛容と住む世界の壁の向こうに ★

作品はこちら
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タイトル:『フランス、幸せのメソッド』
製作:フランス/2011年
原題:Ma part du gâteau 英語題:My Piece of the Pie

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:カリン・ヴィアール、ジル・ルルーシュ、オドレイ・ラミー、
   ジャン=ピエール・マルタンス、ラファエル・ゴダン
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■STORY&COMMENT
長年働いていた工場が倒産し、失業してしまったシングルマザーのフランス。
ショックのあまり自殺未遂騒ぎを起こしてしまう。工場の仲間や家族に支えら
れ、奮起してパリで家政婦の仕事に就くことに。働く先は、羽振りの良い金融
トレーダー、ステファンの家。
大金持ちの金融屋で独身貴族のステファンと、工場労働者で3人の娘を一人で育
てるフランス。価値観も住む世界も違うけれど、しだいに妙にウマが合って……

いったい、誰だ。こんな脳天気な邦題つけたヤツは。

この映画では最終的に誰も幸せになんかならないし、むしろ世の中が無理解と
不寛容とでできていることを噛みしめるような作品だ。その噛みしめたところ
から、観客が心のなかで、無理解はほんとうに無理解で終わるしかないのか、
幸せには一筋縄ではいかないいろいろな形があるんでないのか、などと考える
ことは可能だし、たとえばフランスの達観したような笑顔でストップするラス
トの画から、希望を見出すことも、作り手の希望を受け取って欲しいとのメッ
セージを読み取ることもできる。
だがしかし、厚かましくもタイトルで表現することじゃあないだろう。

と、まあ文句はここまで。

ステファンというのは実に鼻持ちならないヤツで、お金は持っているから気前
はいいが、「人の心」ってものをさっぱりわかっていない。で、「わかりやす
い悪役」かと思いきや、そういうわけじゃなく、フランスのなんでも素直にぶ
つかっていく人柄に触れて、ステファンのキャラクターは、ちょっとずつ変化
していく。もしくは、観客には変化が訪れているように見える。
ステファンのように「人の心なんて知ったことか」な人も、金融界の上っ面の
人間関係に心を疲弊させてたりするわけで、出会うはずのなかった「住む世界
の違う」人が出会ったことによる素敵な化学変化が起きるのか……なんてワク
ワクとその後の進展を見守っていると。

そううまくはいかないんだ。

途中から事態は急展開。ああ、世界の両極端の住人はやっぱり理解し合えない
のか。世界で分ける大きなパイを、取り分多く持っていった者が全てを動かす
のか。

ネタバレせぬよう、皆までは言うまい。
「住む世界は違えていた方が平和だ」、「大金持ちと親しくなれるなんて浅は
かな夢を抱くフランスはバカだ」、「それでも連帯は美しい」
いろいろなメッセージを受け取る、もしくは自分のなかから呼び覚ますことが
できる作品だ。
各場面、細かい心の動きがよく伝わってくる、ていねいな描き方が終始心地よ
い。

誤解のないようにつけ加えておくと、決して重苦しい作品じゃない。コミカル
な場面がふんだんにあって、どの登場人物も人間くさくて、楽しめる一品。
私にとっては『しあわせの雨傘』『美しき運命の傷痕』なんかが印象的だけ
ど、カリン・ヴィアールという女優さんはずいぶん器用なんだなあ、とこれを
観てさらに印象を新たにした。

■COLUMN
セドリック・クラピッシュという監督さんは、かなり好きで、新しい作品がやっ
てくるとだいたい観ている。脚本も自分で書くことが多い映画作家で、どうし
ても物語の筋やら会話やらに重点を置いて観てしまう私としては、脚本のファ
ンなのかもしれない。

毎度毎度、コミカルに、でも人間心理を掘り下げるように描く作品群は、私の
好きなタイプの典型と言っていい。外国の作品だと、ヴィヴィッドにその風俗
や社会状況がわからないこともあって、こちらが気づけない細部があるだろう
と思うけれど、この人の作品は、ちょっとした喜劇を描いていながら、割と社
会状況を意識した内容が多いように思う。

『百貨店大百科』では傾いたデパートの再建をテーマに、『猫が行方不明』
はちょっと孤独で心を閉ざしがちな都会の「カタカナ職業」女性が、地域の人
たちとの交流やネットワークに楽しさを見出し『スパニッシュ・アパートメ
ント』
では、ひとつになるヨーロッパを描き出す。

どれも経済ニュースやひょっとしたら「白書」やらのネタになりそうなもので、
一人ひとりの身近な生活に影響を与える「社会」をつねに考えているのだろう。
その分、私などは、改めて考えるとずいぶん身につまされることも多い。『ス
パニッシュ・アパートメント』の続編『ロシアン・ドールズ』では、しがない
ライターになった主人公が、世の変化に合わせて英語で書かなくちゃならなく
なっていて、しがないライターで英語のできない私はビクビクするわけで。

仲間の手助け、人と人との力の合わせ方、なんかも、クラピッシュが「それで
も信じている」というものなんだろう。『猫が行方不明』でご近所のネットワー
クで主人公が変わることも、『百貨店大百科』でも、デパートの再建案の基本
は従業員が家族であり仲間でありして職場を活性化することだった。
この『フランス、幸せのメソッド』では、内容としては少ないけれど、要のと
ころで効くのは「フランスが勤めていた工場の仲間の力」だ。

みんなで力を合わせたり、人とうまいことつき合うのが下手だから、一人マイ
ペースの時間をつくりやすいフリーランスをやっている私は、こういうのもひ
じょうに身につまされる。ピンチのときに助けてくれる仲間、何はともあれ味
方になってくれる仲間……、私には未知の領域。

社会の閉塞がいろいろ言われているけれど、こんな社会を生き抜いていくには、
そうだね、ご近所、職場、など、物理的に近いところにいる人の力が、確かに
必要なのかもしれない。むむ、この先、どうする? 己を省みて己の明日を思
う私だ。


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2012年05月22日

No.248 君を想って海をゆく

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欧 州 映 画 紀 行
               No.248   12.05.21配信
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★ 寛容ははるか彼方か ★

作品はこちら
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タイトル:『君を想って海をゆく』
製作:フランス/2009年
原題:Welcome 

監督・共同脚本:フィリップ・リオレ(Philippe Lioret)
出演:ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、オドレイ・ダナ、
   デリヤ・エヴェルディ、ティエリ・ゴダール、セリム・アクグル
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■STORY&COMMENT
フランス北端の街カレ。4000キロを歩いてここにたどりついたイラク国籍の17
歳ビラルは、クルド難民だ。家族と共にロンドンに移住した恋人に会うため、
密航を試みるが失敗。カレの難民キャンプに足止めされてしまう。それなら、
泳いで渡ろうと、ビラルは、市民プールで水泳指導をしているシモンに出会い
コーチを受けることにする。
やがて、ビラルの目的に気づいたシモンは思いとどまるよう説得するが……。

「題名に偽りあり」の典型。いや、ビラルは恋人のミナに会うため、ドーバー
海峡を渡ろうとするんだから、確かに「君を想って海をゆく」わけだけど、タ
イトルがそれでは、恋愛映画みたいじゃないか。

この映画のテーマは、難民をめぐる寛容や不寛容についてだ。国を追われては
るばるやってきた難民たちを、やっかいもの扱いし、収容キャンプのような場
所に隔離し抑圧する行政と、そこで起きていることをよく見ず考えず、関わり
たくないと思うふつうの市民たちの実態、そして、うっかり1人の難民と関わっ
たばかりに、その実態を見て悩み、行動に移さざるを得なくなった主人公シモ
ンの心の変化を描くものだ。

「めんどうなことには関わりたくない」ごく普通の中年であるシモンの心の変
化には、おおまかにいって(かなりおおざっぱないい方だが)、2種類ある。
両方人との交わりに関することだが、1つは愛情について。妻のマリオンと離
婚調停中であるシモンは、結婚の失敗で心が荒んでいる。ビラルの純粋に恋人
を想う気持ちに影響されて、愛することの大切さを思い出し、硬直していた心
が少しずつほぐれていく。
もう1つは、他人を助けることについて。難民になど関心を持っていなかった
シモンが、実際に1人の少年と真正面から関わって、少なくとも自分のできるこ
とはやろうと考える。

そのマリオンは難民支援のボランティアをしていて、その活動に興味が持てな
いシモンとのあいだに溝があった。ある映画情報サイトのあらすじ欄では、ビ
ラルのコーチを引き受けるのは離婚調停中の妻に認めてもらえるのではないか、
と思ってのこと、とあったけれど、そういうわけじゃないと、私は思う。
「レッスン料を払うなら教えるよ」というごく普通のコーチのスタンスから、
その熱心さに、ビラル個人に興味を覚え、その背景や実情を見て、考えるよう
になったということじゃないのかなあ。たぶん、水泳には興味があるけれどそ
れ以外のことには興味がない「仕事人間」から、しだいに変化したのだろう。

原題の「Welcome」とは、シモンの家にビラルがいるのを見て、警察に通報する
隣人の家の玄関マットに書かれた文字である。

■COLUMN
このメルマガ、だらだらと書いていたわけだけど、その書いている途中に、た
またま観た映画も、少し時代は違うが、難民と彼らへの不寛容が描かれていて
(こちらの作品については近日中にblogでご報告するつもり)、地続きにいろ
いろな背景のある国があるヨーロッパでは、よそから逃れてきて滞留する人々
はつねに「今ここにある問題」なのだと思った。もちろん日本だって同様の問
題がいつだってあるのが。

圧政や戦争から逃れてくる人に同情することはできても、実際に役立つように
手をさしのべることは簡単なことではない。シモンの妻のように、ボランティ
ア活動という形で、自分の時間や体を使うことができる人はなかなかいない。
そして、その活動が当局によって禁止されるとあれば、それでもやろうという
人はさらに少なくなる。
このカレでの難民の問題は、事実にもとづいているらしいが、まずは国の政策
に寛容さがなくなりつつあるということだろう。そして、「レジスタンス」の
伝統を誇りに思うフランスでも、逃げてきた人々に手を貸すことは難しい。

「寛容さ」などと上から評しているけれど、同情だけではない本当に役に立つ
何かを、難民に対してできるかと考えれば、私にも無理じゃないかと思う。カ
レのように取り締まられる難民が大勢いる街にいたとして、やはり見て見ぬふ
りをしたり、「私にはなにもできないし」とため息をつくだけの一般人となる
だろう。
見知らぬ異国の人々に寛容でありたいと願っても、その実現はずっと遠い。

地続きに人が移動し、圧政や戦争だけでなく失業や貧困からも逃れて人がやっ
てくるヨーロッパでは、今、経済危機によって、各国はEUに加盟する隣人への
寛容な手続きを求められている。個人の具体的な行動ではなくとも崩壊しそう
な国を自分の国が経済支援することを認めなくてはならないこともあるだろう。
ギリシャ人だって大変かもしれないが、うちだって大変。
大半の市民の考えはそんなだろう。私でもきっとそんな反応だろう。
それなりに苦しくて追い詰められている人が、より追い詰められている人を支
えていく、そんな社会になっていくんだろうか、出口はどちらに? 糸口はい
かに? と答えの出ないことを考えさせられる、ここ数日だ。


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2012年03月29日

No.247 ソフィアの夜明け

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欧 州 映 画 紀 行
               No.247   12.03.29配信
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★ どこかで見たような、しかしどこにもなかったような ★

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タイトル:『ソフィアの夜明け』
製作:ブルガリア/2009年
原題:Iztochni piesi 英語題:Eastern Plays

監督・脚本:カメン・カレフ(Kamen Kalev)
出演:フリスト・フリストフ、オヴァネス・ドゥロシャン、
   サーデット・ウシュル・アクソイ、ニコリナ・ヤンチェヴァ
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■STORY&COMMENT
ブルガリアのソフィア。38歳のイツォは木工技師。アーティストとしては挫折
中で薬物から抜け出すべく治療を受けている。ある日、トルコ人家族が若者グ
ループに集団で襲われているところを助けに入った。その一団には、しばらく
会っていなかった17歳の弟ゲオルギの姿が見えた。
閉塞感たっぷりの日常のなかでもがく人々が、そこに風穴をあける何かを見つ
け出せるのか。淡々と小さな変化を追う物語。

ブルガリアの映画というのは、ここで取り上げるのがはじめてだと思う。「ブ
ルガリア」らしい景色を観ようと思うならば、あまりおすすめはできないだろ
う。ローカルな特色よりも、とりあえず今日明日食べることには困っていない
けれど、自分の置かれた状況にも自分自身にも納得できずにいる「現代の都会
の閉塞感」が画面の大半を占めているからだ。グローバルに共通の景色だ。
ただし、それは、たとえばパリのエッフェル塔やロンドンのタワーブリッジな
ど、その都市といったらコレというような観光名所を知らないために、アイコ
ンとなるようなものが映りこんでいても「ソフィアだ」と認識できないだけか
もしれないけれど。

アートの世界でうまくいかない、薬物から抜け出すのが辛くてつい昼間からビー
ルを飲んで、恋人ともなんだかうまくいかないイツォ。家ではうるさくいわれ、
気が進まずとも仲間の集団に入らなくてはやっていけないゲオルギ。外国人を
襲う若者集団が裏では右寄りの政治家に操られているということなども含めて、
ストーリーや要素というのは、正直にいって、どことは定かでないけれどどこ
かで見たような気がするようなものでもあった。

そうは言ってもなんだか「ああ二番煎じ」と切って捨てられはしない魅力がこ
の作品にはあって、それは何だろうなあと考えていたんだけれど、「ああこれ
だ!」という答えには出会わない。
「こういうことなのかもしれないなあ」というものを言えば、
ひとつには、イツォが助けたトルコ人家族の娘ウシュルに惹かれていったり、
イツォとゲオルギが少しずつ家族らしく交わっていくなど、どうしようもない
閉塞感からに風穴があいていく希望がすがすがしいということ。ただ、閉塞感
に満ちた映画というのは、たいていそこから生まれゆく希望が描かれるもので、
決定的な理由ではないだろう。だから、より大きな要素は次のところにある。

描いている日常風景が、とても自然で、会話シーンもことさらに物語の展開を
進めるようなものではない。日常のごくありきたりのシーンが多い。ドキュメ
ンタリーを撮るかのように、たまたま切り取った日常の風景に、どこにでもい
る誰かがいるような印象を受ける。
その自然なシーンを度々目にして、登場人物の事情が少しずつわかっていくに
つれ、なんとなく映画のなかの彼らに話しかけたくなるんだな。家でのごちゃ
ごちゃに嫌気がさしている若いゲオルギにも、ついビールを飲んでるイツォに
も、異国での出会いに両親から理解を示してもらえないウシュルにも。「それ
はさー」なんておせっかいをして介入したくなってしまう。

そんな自分の日常に重ね合わせられる感覚、話しかけたくなるリアルさが、
「どこにでもある映画」にはならなかった理由かなー。

■COLUMN
自意識過剰といわれそうだけれど、自分の生活が映画のように(ここでいう映
画というのは、この作品に近いような、ドキュメンタリーのように何でもない
日常を切り取った映像)誰かに見られていたらどんな感想を持たれるんだろう、
と思う。

だいたい私も現代の閉塞感のなかで何かが違う、何とかしたいと思いながら何
もできずにいる脆弱な都会人で、私のような生活は誰にとってもろくなもんじゃ
ないだろうと思うけれど、人と話すと、私にとっては何でもないことが「いい
なあ」と言われることだったりする。
それは、全部を見ないでたまたまある部分を切り取って見るからでしょ。内情
もいっしょに見たらそんなことないでしょ。なんて当人は思うこともある。早
い話が、「あたしだってラクしてばっかりじゃないのよ、のほほんとしてるばっ
かりじゃないのよ」と小さく憤慨しているのだ。
だから、もうちょっとありのままの生活を人が見たなら、どう思うんだろう、
と考えるわけだ。

そう考えはじめると、不思議なもの。
「いいなあ」と無責任に(と当人は思うわけだ)言われるのがちょっぴり心外
だからこそ、映画みたいにもっと私の冴えない生活が他人にさらされたらその
つまらなさがわかってもらえるだろう、と発想していたのが、「つまらない」
と思われるより、ほんのちょっとでも、部分的でも「いいなあ」と思われると
ころがないかなあ、と考える。

そうすると、この生活を誰かがカメラを回して見ているとしたら、と考えるこ
とは悪いことじゃないように思える。ちょっぴりでも、ある一面でも「いいな
あ」と思ってもらえるような生活にしたいな、と上向きに考えられるから。

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メルマガ版ではこの欄を入れないで配信してしまったっ……
★DVD
『ソフィアの夜明け』¥ 3,024
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2012年01月19日

No.246 しあわせの雨傘

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              No.246   12.01.19配信
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★ きっと現実にはならないんであろう「リアリティ」 ★

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タイトル:『しあわせの雨傘』
製作:フランス/2010年
原題:Potiche 

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、
   ファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアール、
   ジュディット・ゴドレーシュ、ジェレミー・レニエ
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■STORY&COMMENT
1977年、フランス、地方のとある町。スザンヌは、雨傘メーカーを経営する夫
のロベールと暮らすブルジョワ主婦。優雅な毎日だが亭主関白な夫におとなし
く従うだけの日々には納得できていないところもあった。そんなある日、工場
でストライキが起こり、ロベールと労働者側の対立がエスカレートし、ロベー
ルは心臓発作で倒れてしまう。急遽代理で経営者となったスザンヌは意外にも
労働者たちのハートを掴み、業績を大幅に改善させることに成功する。そんな
矢先に、ロベールが退院して……

とーっても小気味よいコメディだった。

赤い「これこそジャージ」みたいなジャージでジョギングして、出会った森の
動物たちをネタに詩を書くのが趣味だったスザンヌが、夫の病気をきっかけに
どんどんと会社を動かしていくのかと思えば、そう簡単にはコトは進まず。あっ
ちに傾きこっちに傾きのストーリー展開も楽しく、「保守的」に見えた人が実
はさにあらず、「進歩派・革新派」に見えた人がこちらはこちらでさにあらず、
そんな皮肉めいたキャラクターの現れ方も面白い。

これは人にもよるかもしれないが、ロベールにしろ、息子と娘にしろ、左翼の
市長パパンにしろ、誰一人憎まれるような悪人でも、かわいそうにと同情され
るような人にもならないところもいい。ぐじぐじしなくてすっきり笑える。
スザンヌの世間知らずらしい天真爛漫さも、嫌みがない。
そして「いやいやそんなことないだろう」と眺めながらも、あれ、ひょっとし
たらこんなことも現実に起こるかな、と一抹の思いがかすめるような、「ほど
よく」大げさな展開が、私は好みだ。

原題の「Potiche」は実用性のない飾り用の花瓶や壺のことで、転じて「お飾り
の妻」の意味なのだそうだ。そんなアイデンティティがなく、娘からも「ママ
みたいになりたくない」なんて言われていたスザンヌが自分自身の力で生き生
きとできる居場所を作っていく。これを小気味よく感じるのは私が女性だから
なのかもしれない。男性陣は皆どこか情けなさを醸し出すのは、オゾンの好み
なのか。
「男女の違い」をことさら言うのは、ほんとは私の信条ではないのだけれど、
この映画に関していえば、男性が見ても引っかかりなく楽しめるのかな、てと
ころが興味ある。よかったら、男性の感想を聞かせてください(もちろん女性
からの感想もね)。


■COLUMN
ありそうでなさそう、いやないだろうけど、あるかもしれない、いやいや……、
そんな絶妙なリアリティをもつ物語が私は好みだ。上に書いた「ほどよく」大
げさ、というのも、そのひとつ。いやそんなことにはならないだろう、と思う
けれど、ああ、そうなったら面白いよね、いいよね、という心地よい大げさ。

と、書いて考えたのだけれど、よく人は、自分にとって面白いか面白くないか
を「リアリティ」という言葉を使って表すように思う。軽々しく「人」と一般
化したらいけないかもしれないが、少なくとも私はそういうことがある。
ここでいう「リアリティ」というのは現実になるかどうかの可能性ではなく、
ドラマとして、「作り事のお話として」どれだけそれを本気で信じられるか、
というような意味だ。
現実っぽいかどうか、ではなく、それをいかに信じられるか、つまり、ストー
リーの展開にどれだけ引き込まれるかどうか、というような意味。だったら最
初からそういえばいいのだろうけれど、それを「リアリティ」という言葉に託
したくなるのは、ひとつには「引き込まれた」ていう個人の主観っぽい言い方
より、「ドラマの持つリアリティ」なんて言う方が、客観的でちゃんとしてそ
うだから。
もうひとつは、そうやって引き込まれる展開というのは、ひとつひとつのセリ
フ、その応酬、俳優の声や表情、などなど、物語を積み重ねていくあいだに、
取りこぼさず、その都度本当らしさを守りながら、作品を進めていって生み出
されるものだからだ。
こう言って、こう答えて、こんな顔になって、だから、この結果になる……、い
ちいち納得するというより、いちいち引っかかることなく、するりと心に入っ
てくる。

それはたとえば、とても個性的な登場人物が普通の人は言わない/やらないよ
うな突飛なことを言い出した場合も含む。それは、人物描写の積み重ねが、突
飛なことも「その人ならそういうことを言う/やるかも」「さもありなん、あっ
たら面白い」に感じさせて生まれるリアリティだ。

フィクションのリアリティは、必ずしもそれが現実に起こるかどうかではなく、
そう信じさせてくれるか、そうなったら面白いと思えるか、が基準になると思
う。
私だけじゃなく、そういう意味でフィクションについて「リアリティ」を使う
人って、注意して観察するとけっこういるんじゃないかと思うんだけどな。


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2012年01月12日

No.245 フェアウェル さらば、哀しみのスパイ

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欧 州 映 画 紀 行
                No.245   12.1.12配信
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お久しぶりです。そして、
あけましておめでとうございます。
忘れた頃にちょろりと配信する不定期配信となっておりますが、
きっと今年もそんなペースで、よろしくお願いいたします。

★ 時代の大きなうねりのなか、ちっぽけな個人と個人 ★

作品はこちら
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タイトル:『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』
製作:フランス/2009年
原題:L'affaire farewell 英語題:Farewell

監督・共同脚色:クリスチャン・カリオン(Christian Carion)
出演:エミール・クストリッツァ、ギョーム・カネ
   アレクサンドラ・マリア・ララ、インゲボルガ・ダプコウナイテ、
   デヴィッド・ソウル、ウィレム・デフォー
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■STORY&COMMENT
1981年、ブレジネフ政権下のソビエト連邦。
KGBの幹部・グリゴリエフ大佐は、国家の中枢に身を置きながら、西側諸国に置
いて行かれている国の状況に危機感を抱いていた。国をよくするためには現体
制の打破が必要だと考え、重要機密を西側へ提供する。そのメッセンジャーと
なったのは、なぜか単なる民間人。フランスの家電メーカー技師としてソ連に
赴任していたピエールだ。ピエールは、はじめはいやいややりつつも、国を動
かす機密を手にすることに興奮を覚え、またグリゴリエフの人となりにも惹か
れてゆき…。
“フェアウェル事件”は、ソビエト連邦を崩壊させたきっかけの一つともいわれ
る実在のスパイ事件。

私はこのスパイ事件は知らなかった。ふつうの人が知ってるような有名な事件
なのかどうかもわからない。まったく予備知識がないことも幸いしたか、「こ
の先どうなるの? どうなるの?」とときには、怖くてちょっと止めながら観
ていた。少し大げさだけど。怖がりなんだな。
どこまで忠実に描いているのか、正確なところはわからないが、この作品の結
末が事実なら、「事実は小説より奇なり」というにふさわしい史実だろう。

西側と東側の対立、冷戦という大きな背景がある。そのなかでソ連を裏切りス
パイ行為を働く大佐がいて、そこに巻き込まれるフランス人青年がいる。とて
つもなく大きな大きな話なのだが、観ていて惹かれるのは、少しずつグリゴリ
エフとピエールが友情を育てていく、ごくごく小さな個人の交じり合いだ。ピ
エールはグリゴリエフの身を心から案じて亡命を勧め、家族のリクエストにも
応えてクイーンのミュージックテープやらシャンパンやら、頼まれては西側の
物資を届け、情報と物資の受け渡しの場は、グリゴリエフにとっても誰にも言
えない思いを語る場所になっていく。

監督のクリスチャン・カリオンの作品は、『戦場のアリア』という作品を観た
ことがある。このメルマガでも紹介した。主演はピエール役のギョーム・カネ。
http://oushueiga.net/back/film126.html
第一次世界大戦中、塹壕を築いて戦うスコットランド軍、フランス軍と、ドイ
ツ軍が、クリスマス・イブに1日だけ休戦して兵士同士が友情を交わす物語だ。
国と国の戦いという大きな流れのなかで、たまたま1日実現した吹けば飛ぶよう
な、小さな人と人との交流。そんなテーマが好きな監督なのだろうか。

グリゴリエフもピエールも、国とは別の次元でしばしば「裏切り者」とののし
られる。グレゴリエフは反抗期の息子に「体制派」であることをうざがられ、
そして浮気がバレてますます息子に嫌われる。ピエールは、危ないことに首を
つっこまないでくれと願う妻からののしられる。
国を背負った大きな裏切りのなかに、身近なところでの、しかしそれを咎めら
れればひしひしと痛い裏切りが描かれる。

国と国との戦い、対立、国への裏切り、それらよりも個人のが尊いとか、大切
だとか、比較しているわけではないだろう。
ただ、小さな個人の交流の向こうに大きな流れを見ると、その悲しい現実は、
ずんと重くさらに悲しく伝わってくる。


■COLUMN
グリゴリエフ大佐を演じたのは『アンダーグラウンド』や『ライフ・イズ・ミ
ラクル』などで知られるエミール・クストリッツァ監督。新作が公開されれば
必ず観に行く私のお気に入りの監督の一人だ。自作には必ずちらっと出演して
いる人だが、他の人の作品で主役を演ずるとは何をやっているんだろうと驚い
たが、調べたら、私が知らないだけでちょくちょく映画出演はしているようだっ
た。

もともと大佐の役にはロシア人の俳優が決まっていたらしいが、実話であるた
めに、ロシア政府もいい顔をせず、ロシアの参加が全面的に不可能になっての
キャスティングだったという。
もともと演ずる予定だった俳優を私は知らないが、「ソ連」の「大佐」といっ
たら、いかめしく、オーセンティックな雰囲気が似合うように思う。クストリッ
ツァの容貌はそれからかけ離れていて、当初の予定とは作品の雰囲気はずいぶ
ん変わったのではないかと想像する。
余談になるが、「クイーン」を知らなくてうまく発音ができないシーンでは、
クストリッツァ本人がオーバーラップして、「クイーンを知らないクストリッ
ツァ」にちょっと笑ってしまった。

キャスティングにケチをつけているわけではない。
全体としてよくはまっていて、新たにこの映画をリメイクして他の誰かが大佐
役をやると言われたらピンとこないと思う。
友情が生まれて以降の大佐とピエールが語り合う様子は、人生の先輩・兄貴分
と弟分という風情で、本当にこの友情がいつまでも続くようにと願わずにいら
れない、美しい光景だった。

そして、クストリッツァ監督がかなり好きで、ギョーム・カネという俳優をけっ
こう好む私は、この美しい光景に、ついうっかり、監督と俳優が映画論を交わ
しているところを夢想してしまうのだ。あまりいい観方ではないけどね。

キャストについてつけ加えれば、『戦場のアリア』に出演していた俳優たち、
ダイアン・クルーガー、ベンノ・フユルマン、ゲイリー・ルイスもカメオ出演
している。

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『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』¥3,683
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2011年10月04日

No.244 エリックを探して

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欧 州 映 画 紀 行
               No.244   11.10.03配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 人生を変えるために必要なものとは? ★

作品はこちら
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タイトル:『エリックを探して』
製作:イギリス・フランス・イタリア・ベルギー・スペイン/2009年
原題:Looking for Eric

監督:ケン・ローチ(Ken Loach)
出演:スティーヴ・エヴェッツ、エリック・カントナ、
   ステファニー・ビショップ、ジェラルド・カーンズ、
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
プレーはもちろん、その言動でもファンや敵を多く作ったサッカーの大スター
エリック・カントナとのコラボレーションによるコメディ。
イギリス・マンチェスター。郵便配達員のエリックは、二度の結婚に失敗し、
二度目の妻の連れ子である二人の息子にはバカにされきっている。彼の楽しみ
は職場の仲間たちとバーでひいきのマンチェスターユナイテッドの試合を観る
こと。部屋には往年のスター選手エリック・カントナのポスター。日頃のグチ
をカントナのポスターに向かってブツブツとなえるしょぼくれた中年だ。
そんなある日、まだこっそり愛している最初の妻と顔を合わせることになり、
悩む彼のもとに突然カントナが姿を現すようになったのだ。

細部にはこだわらないで、軽く軽く観られる楽しいコメディ。「しょぼくれて
るあなたも人生は変わるよ、変えられるよ、ただちょっとの勇気を持てば」と
いう、「よくある」と言っちゃあ身も蓋もないかもしれないが、安心して観ら
れる「人生好転コメディ」だ。
「労働者仲間」の絆が大活躍するというケン・ローチらしい希望の在り方も、
あり得ないと言えばそれまでだけれど、そういうことがあってもいいんじゃな
い?と笑顔で言えるすがすがしさがある。

このままでよくはないだろうとは思っているけれど、なんだかんだと言い訳を
しながら行動できないでいる多くの人にとって、主人公を応援する気持ちも、
主人公の気持ちを考えることもたやすく生まれてくる作品だろう。

ただ、変わりたいけど変われないでいる多くの人と、エリックが異なっている
のは「信心」のようなものだ。ここでいう信心とは宗教ではなくて、エリック・
カントナという絶対的に尊敬する人がいるということ。
夜な夜なポスターに話しかけているうちに、カントナが現れるのだが、そんな
カントナと会話できるのは、エリックが絶対的にカントナを敬愛しているから
だ。だから、おそらく、この作品をみて、「よし、自分もちょっと勇気をもっ
て踏みだそう」なんて思っても、実は何かへの「信心」がないと難しいってこ
となのかもしれない。
前述のケン・ローチにとっての「労働者仲間」への信心も似たようなものだ。

うんうん、そうだね、言い訳ばかりしていないで、ちょっとがんばって一歩踏
み出したら、何かが変わるかもしれないね、というさわやかな後味のなかでも、
「私にはそこまでの信心が何かあるだろうか」と考えないでもいいことを考え
てしまった。

カントナの現役時代のスーパープレイ集が随所に。サッカーファンはそれだけ
でも楽しめるだろう。同時に、サッカーをよく知らなくても物語を楽しむのに
はなんの支障もないですよ。

■COLUMN
何かをしようと思ってもなかなか実行できなくて、そんな自分を変えたいけれ
ど変えられない。それぞれ個人のなかで程度や目指すものは違うだろうけれど、
たいていの人がそんなことを考えているだろう。(そして自分以外の人は決意
を実行にうつせるすごい人に見えてたりする)
こういう映画が成り立つってことは同じ思いを皆が共有しているんだろう。

私も間違いなくそういう人の仲間なんだけれど、それがどこかで屈折してこじ
らせていていけないなあ、と最近思う。
私の問題というのは、「言い訳」を、自分で自分を非難して痛めつけて、「こ
ういう風にツラくあたってるんだから赦される」に見つけてるところだ。

的外れかもしれないので、「なんとなく想像できる」程度の話で、話半分に聞
いていただきたいのだけれども。
たとえば、そんなことで命を落とすわけではない傷を手首につける人がいて、
いっぱい食べちゃったことを後悔して後で食べた物を吐く人がいる。
そんな人たちは、そうやって自分を罰していれば、ダメな自分でもそこにいて
もいいような気がしちゃうんじゃないかな、と思う。手首を切って人の注目を
浴びたいのよ、なんて非難も受けるけど、本人はダメな自分を罰してるってと
ころもあるんじゃないかな。太りたくないから食べる物を減らしたい、て場合、
吐き気でいやな思いをすることが食べてしまった罪滅ぼしになってるんじゃな
いかなあ、と私は想像するのだ。
そうやって自分を罰することで赦されて、やっと何かのバランスを勝ち得て暮
らしていける。

私は現実に体は痛めつけないけれど、心の中で自分を罵倒して精神的に痛めつ
ける。
できないこと、実行ができないこと、を、ちゃんとこんなに責めたんだからOK。
「これでよし」て思ってないんだから、ちゃんと罰を与えているから大丈夫で
しょう、赦してもらえるでしょう。そうやって心の中で自分を自分で痛めつけ
て相殺しようとする。

いったい誰から赦してもらいたいんだか。

それはそれで私の身の守り方ではある。
身を守ることは大事だけど。
長い目で見ていいことないのね。自分自身の非難に奮起するんじゃなくてただ
ただ疲弊して、自信はどんどんなくなるし、卑屈になるし。自尊心もなくなっ
ていって、その割にはけちくさいプライドばかりが鼻につくようになる。

これをしたんだから相殺みたいな、足し算や引き算、もしくは自分との取り引
きめいた考えは、続けないほうがいいんだろう。
自分がどこまで変われるのか、「変わらなきゃ」より「変わっていくのが楽し
みだな」とのんびり構えるくらいがちょうどいいのかな。

ややこしいコラムを書いてしまったけれど、映画はほんとうに、さらりと軽く
あったかいハッピーエンドのお話ですよ。

---------------
★DVD
『エリックを探して』¥3,243
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価格は2011年10月2日現在のアマゾンでの価格です。
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★コメントくださった方へご返信
・渋木 さま
ほんとにお久しぶりです。音沙汰なくてすみません。
「楽しみです」と声をかけてくださるのがとてもうれしくて、それに応えたい
なあといつも思ってはいるのですけど。
おっしゃる通り無理せずマイペースで配信していきますので、これからもよろ
しくお願いしますね!

・meik さま
素敵な感想をありがとうございました。読んでくださった方が、私の気持ちと
どこかで波長が合う瞬間があるんだなあと思うと、書くのがまた楽しくなりま
す。
気が向いたらぜひまた感想を送ってくださいね。波長が合うときばかりでもな
いでしょう、「今日のはなんか違うー」ていう感想でも、いろいろ聞きたいなー
と思っています。

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2011年09月24日

No.243 クリーン

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欧 州 映 画 紀 行
               No.243   11.09.24配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 寛容は得難く、抱き難く、だけどやっぱり必要 ★

作品はこちら
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タイトル:『クリーン』
製作:フランス・カナダ・イギリス/2004年
原題:Clean 

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)
出演:マギー・チャン、ニック・ノルティ、ベアトリス・ダル、
   ジャンヌ・バリバール、ジェームズ・デニス
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
ロック歌手のリーを夫にもつエミリー。リーの活躍が芳しくないのは、ヤク中
の妻がいるせいだと周囲から批判され、荒れていた。そんな折、リーが薬物の
多量摂取で命を落とし、エミリーは薬物所持で逮捕、半年の刑務所生活に。夫
も仕事もなくしての再出発。リーの両親に預けている息子のジェイに会うため
に、生活を変えることを決心するが……

ちょっと不思議な映画だった。
「エミリーに同情させるためのしかけ」がさっぱりないんだな。

観客は冒頭で、あんまり趣味のよくないメイクのエミリーに出会い、リーのマ
ネジャーや仲間が「あの女といっしょじゃリーはだめだ」と話しているのを聞
く。それが本当のことなのか、むしろ周りのやっかみや無理解なのか、わから
ない。やむを得ない事情があったのか、それもわからない。
周りは、リーの死はエミリーのせいだと思う。観客は、口論の後、エミリーが
モーテルを飛び出して不在中にリーが死んだことは知っているけれど、それが
間接的にどの程度にエミリーに責任があることなのか、判断できない。
才能あるミュージシャンをつぶしたロクでもない女だと言われれば、そうなん
じゃないかと思う。

こういう話の場合、ふつうは、エクスキューズがつく。
いや、周りはこう言ってるけれど、エミリーには実はもっと辛い事情があって
ね、過去にこんなことがあってね。など。
そういうものは一切ない。
リーと出会う前、エミリーはパリでケーブルTVの音楽番組に出演して人気者だっ
たらしい。刑務所を出た後にエミリーが移り住むパリでの旧友との会話から、
それはわかる。しかし、情状酌量の余地をもたらす過去も、周りの知らない特
別な事情も、提示されない。

リーの両親のもとにいるジェイに会いたいからと、クスリ(この場合は麻薬で
はないのか、処方せんを偽造すると手に入るクスリらしい)をやめようと思う
けれどもなかなかやめられず、親戚に世話されたウエイトレスの仕事は態度が
悪くてクビ。彼女のファッションセンスからは考えられないような地味な服の
売り子の仕事にありつくも、「刑務所みたい」と文句ばかり。
こと日本人の感覚だと、ここで地味な仕事でも心を入れ替えて励んで「地味で
真っ当な人生」を選ぶ姿にほだされたりするのが定番だったりするんだけども、
エミリーにはそういう傾向がさっぱりない。

作り手はそうやってエミリーを見せたりもしないし、そういうエミリーに同情
してもらおうともしない。わざとなのか、ふつうの感覚で作るとそうなったの
か、それとも本当はそういうしかけはあるのに、私が気づいていないだけなの
か。
たぶん、「わがままで地道な努力をする様子のないエミリーにイライラしてまっ
たく感情移入できなかった」という人も多いんじゃないかと思う。

それでもね、「リーにそばにいてほしい」とふいに泣きじゃくる姿や、ジェイ
に会いたくて慣れない頼み事をする姿に、私は涙が出てしまうことが何度かあっ
た。

たぶん、こういうことだ。
やむを得ない事情があったから、ほんとは彼女はしっかりしてるから、自分に
合わない仕事でもがまんしてやったから。
そういう条件付きで救済されるんじゃない。弱いしなんかいろいろ呆れるほど
ダメだし、わがままだし、だけどそれでも人は認められていいんだ。そういう
寛容がきっと必要なのだ。

寛容にならないといけないな、と思うと同時に、弱くてなんかホントにいろい
ろダメで自分勝手な人間の一人として、弱くてダメでも私は希望を持って生き
てもいいのかもしれないと、励まされた。きっと私はいろんな寛容に支えられ
てきて、きっとこれからも寛容に助けられるだろう、と都合よくね。

この寛容を具現化する存在として出てくるのがリーの父。あのお父さんがいな
かったらどうにもならなかったなあ、とちょっと都合よく「いい人物」過ぎる
気もしたけど、効いている存在だった。

書ききれなかったけれど、カナダ、ロンドン、パリ、移り変わる町の風景を眺
めるのも楽しい作品。

■COLUMN
何かのきっかけがあったかなかったか、最近ふと思ったこと「世の中をよくす
るには『ググれボケ』をなくさなきゃ」。
「よい世の中」て何だよ、とそんな定義も必要だというのはごもっともな指摘
だろうけど、そこはちょっと置いといて。
一応説明すると「ググる」というのは、「グーグルで検索する」を短くした言
葉で、グーグルに限らずインターネットで検索して調べるということ。自分で
ちょっと検索すればわかることを他人に聞くな、と、何でも人に尋ねる人に投
げつける言葉として「ググれボケ」とか「ググれカス」とかいう表現がある。

確かに、ちょっと調べればすぐわかることをすぐに人に聞く人(しかもインター
ネットにつながっている)を見ると私もなんでだろうなあ、と思っていたし、
実際いろいろ尋ねられて、その尋ねられたことを全部ググって答えているとき
なんかは、そっちでググればいいじゃん、と閉口したこともある。
でもここ最近、「まずは自分でググる」がまるで普遍的なマナーのように定着
するのを見ると、ボケだのカスだのがつかなくても、「ググれ」なんてケチな
こと言わないで教えてあげればいいのに、と思うようになった。

ちょっとした調べ物を全部丸投げしてくる人や、何度も教えたことを何度も聞
いてくるどうしようもない人もいるだろう。人間関係のある職場というものを
持たない私には計り知れないような苦労をしている人もいるのだろう。
でもね、「ググれ」も「ググろう」も、なるべく言う(思う)頻度を減らして
いくほうがいいと思うのだ。

知らないことはべつに悪いことじゃないし、「いまさら聞けない」みないな恥
ずかしさは、本来はなくてもいいことだ。知らないことを知りたいと思う人が
いたら、知っている人、調べる術を持っている人は、ちょっと時間と労力を使っ
て教えたらいいじゃないか。「ググれ」「ググろう」「ググったら?」どんな
表現を選んでもこれは一種の関係の拒絶だ。自分が知らないことを自分で調べ
ない弱さや怠惰を嘲笑して拒絶するよりも、そこは寛容に受け入れて、調べる
能力を持っている人は、そのチカラをちょっとだけ分けてあげたらいい。少な
くとも、そこには小さいけれどある関係ができる。誰かとのあいだにつながり
ができる。拒絶を重ねるよりも関係を重ねて、持ってるチカラを分け合える方
が、世の中はよくなると思う。

受け入れる方はちょっとしんどいところもあると思う。自分のキャパシティを
超えて寛容を発揮する必要はまったくないけれど、弱いことにも怠惰なことに
も自分勝手も、ある程度は受け入れようよ。
弱くて怠惰でなんかいろいろダメな私のわがままみたいなモンでもあるけれど、
みんなそんなに偉かあないんだから、お互いに寛容に受け入れて、受け入れら
れての方がいいことがあるよ。きっと。


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『クリーン』DVD
¥4,402
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2011年07月08日

No.242.50 お知らせ号


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欧 州 映 画 紀 行
              No.242.50   11.07.08配信
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…………
さて、本日は臨時お知らせ号です。

欧州映画紀行のサイトURLが変わりました。

新しいURLは、
http://oushueiga.net/

ずっと借りていたinfoseekのホームページサービスがなくなることとなり、
これを機にドメインを取得いたしましたー。パチパチ。
oushueiga.net 。。。
いやまあ、たいそうなドメインにしたものですね。
欧州映画を専門にされてるちゃんとした皆さんごめんなさい。
短い方がいいかなーと思ったんですもの。

で、これを機にサイトをリニューアル! 
といきたいところだったのですが、
いまだに、シンプルで懐かしいデザインはそのままです。
リニューアルは来年くらいを目標に。

サイトの引っ越しだけで力尽き
滞っているバックナンバーの更新も、まだまだです。

でも気分は確かにあらたまりました。
もう少しメルマガに力を入れられるようになるかな。

中身は変わっていませんが、
よかったらどうぞ、サイトで昔のレビューでもお読みください。

それだけではさびしいので近況報告&映画のお話

6月の中旬頃から突発性難聴という病気になりました。
片耳の聴力が下がったり、耳鳴りがしたり、音の聞こえ方が変になる病気です。
聴力が正常になるのに2週間ちょっとかかりました。
自分の感覚では、音の聞こえ方の不自然なところが少し残っている感じです。

ふだんではわからない「音の聞き方」や「言葉の捕まえ方」について
感じたり考えたりできたこともあって、面白い体験でもありました。
せっかくなので、この体験や音の聞こえ方について、自分のメモのためにも
文章にまとめておきたいと思います。

こちらは、来週中にblogにUp予定。
興味のある方はblog( http://mille-feuilles.seesaa.net/ )をのぞいてみて
ください。
予告しちゃったから逃げられないっ(笑)。

音や耳を、いつもより、やたらと意識する日が続きました。
というわけで、
今まで書いたレビューのなかから、そんなテーマの作品を紹介します。


『ビヨンド・サイレンス』
ドイツ/1996年/カロリーヌ・リンク監督
ろう者の両親を持つ少女が、クラリネットに興味を持ち、本格的に勉強しよう
とするが、音を聞くことのできない父がよい顔をしない。親と自分の夢のあい
だでぶつかりながらも、自分の道を模索している姿がすがすがしい。


『リード・マイ・リップス』
フランス/2001年/ジャック・オディアール監督
難聴で補聴器が必須のカルラは孤独に暮らす事務職。アシスタントで雇った前
科のある男との出会いで彼女は少しずつ世界を広げていく。読唇術を小道具に
使う小気味よいサスペンス。綿密な脚本と心理描写が面白い。


『音のない世界で』
フランス/1992年/ニコラ・フィリベール監督
ファンの多いフィリベール監督のドキュメンタリー。多くのろう者にインタビュー
し、その言葉や生活を映し出す。ナレーション等による説明はない。文化の違
う人々の生活を知るような楽しさを味わえる作品。


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2011年05月12日

No.242 セラフィーヌの庭

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欧 州 映 画 紀 行
               No.242   11.05.12配信
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★ やりきれなさをどこへ ★

作品はこちら
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タイトル:『セラフィーヌの庭』
製作:フランス、ベルギー、ドイツ/2008年
原題:Séraphine 

監督・共同脚本:マルタン・プロヴォスト(Martin Provost)
出演:ヨランド・モロー セラフィーヌ、ウルリッヒ・トゥクール、
   アンヌ・ベネント
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
1912年、パリ郊外サンリス。家政婦のセラフィーヌは、辛い仕事を終えると、
草原で木や花に話しかけて悲しみをいやし、アパートに籠もって黙々と絵を描
いていた。そんなある日、彼女の働く家にドイツ人画商ヴィルヘルム・ウーデ
が間借りする。偶然、セラフィーヌの絵を見て、彼女の才能を直感したウーデ
は、セラフィーヌに製作活動の援助を申し出る。絵の道に入るかと思えたセラ
フィーヌだが、1914年、第一次世界大戦がはじまり、ウーデは止むなくフラン
スを離れることになり、彼女の絵を世に出す夢も途絶えてしまう。

セラフィーヌは実在する素朴派の作家とのこと。何の予備知識もなしに観たわ
たしは、フィクションかと思っていたのだけれど、彼女を見出すウーデがアン
リ・ルソーを応援する画商だという描写のあたりで、ああ、実在の人の話なん
だ、と気づいた。
ちょっと話がはしょっている(最終的にずいぶんカットしたんじゃないかな)
ところもあるけれど、戦争や恐慌で、ちょっとずつボタンを掛け違っていく割
りきれなさや悲しさが、じわじわ伝わってくるいい物語だと思う。

セラフィーヌは貧しくて、人からさげすまれる中年の下働きの家政婦。辛いと
植物に話しかけている。貧しく画材も買えないから、植物や生活のなかで使う
ものから自分で工夫して画材を作る。頭は弱そうだけれど絵を描くときには鬼
気迫るものもある。修道院で働いていたこともあって聖歌を歌うのが好き。絵
を描くことは天使から啓示を受けたという。
このキャラクター設定がどこまで実物と同じなのかはわからない。純粋で不遇
な根っからの芸術家という役柄は、セラフィーヌを演じたヨランド・モローの
はまり役だと思う。他の人ではまったく違う映画になっていただろうし、彼女
に断られていたらどうするつもりだったんだろう、と思う。

たださげすまれていた彼女の人生が、ウーデによって才能を認められ絵画とと
もに彩られるのは、観ていてうれしい。けれど結果としてそれによって彼女の
人生が危うくなっていくのは辛い。いったい何が幸せなのか、そんなことをた
め息混じりに考えてしまう作品だ。


■COLUMN
「やりきれない」という言葉をしばしば聞く。ためしに辞書で調べると、「が
まんできない、耐えられない」と書いてある。
実際に使われている時には、たぶん、語感が似ている「やるかたない」や「や
るせない」(心のわだかまりを晴らす方法がない)と混じって、がまんできな
くてすごく怒っている、悲しんでいるというより、どこに怒りや悲しみをぶつ
けてよいのかわからず、諦念混じりに感情の行き先を滞らせて耐えていなけれ
ばならないイメージで使われているように思う。

この映画はこの「やりきれない」という言葉がぴったりだと思う。その要因は
2つある。

1つは、最初にセラフィーヌがウーデと出会ったときには、第1次世界大戦の影
響を受け、その次に交流できたときには、世界恐慌の影響を受ける、という誰
のせいでもないことに人生を翻弄されたこと。戦争にしろ恐慌にしろ人の所業
だから誰かのせいなのだけれど、うねりとして大きすぎ、小さな個人にはどう
にもできないことだ。

もう1つは、セラフィーヌの気性だ。純粋で思いこみが強くて、家政婦や下働
きばかりで虐げられてきたせいもあって社会経験が足りず、状況を正確に把握
することができない。恐慌の影響にしろ、絵が認められて浮かれるときにしろ、
常識的な判断がセラフィーヌにできたならば、その後の悲劇は回避できただろ
う。
しかし、他の人ではまねできない彼女独特の世界は、彼女の純粋さや世間一般
の常識に縛られないが故のものともいえる。冷静で常識的な判断ができるくら
いなら、世間を驚かせた彼女の作品はそもそも生まれなかったのかもしれない。
誰が悪いわけでもないものがここにもある。

どうしたらよかったのか。
ウーデとその妹など、彼女を助けた人たちの手のさしのべ方が間違っていたの
か。もっと誰かが彼女につきっきりでいたなら、何か状況は変えられたのか。
仮にそうだとしても(そうとは思えないけれど)世の中の流れは変えられない。

観終わると、やりきれない「?」がいくつも浮かぶ。

彼女の絵の才能がまだ知られていない頃、ウーデが部屋で頭を抱えているのを
見たセラフィーヌは、「悲しいときは森で植物に話しかけるといいですよ」と
アドバイスする。
どうにもやりきれない気持ちになったところには、しばしば画面に見られる草
木の景色がやさしい。どこに持っていったらよいのかわからない怒りや悲しみ
を、植物たちなら確かにすーっと吸い取ってくれるかもしれないと思える。自
然の描写が希望を残す、映像も美しい作品だ。

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2011年03月31日

No.241 17歳の肖像

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欧 州 映 画 紀 行
               No.241   11.03.31配信
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毎回このメルマガを読んでくださっている方の中には、
この度の大震災で被災された方、ご家族や近しい方が被災された方も
いらっしゃるかと存じます。
亡くなられた方のご冥福をお祈りし、行方不明になられている方、
今、日常の生活を奪われている方が一刻もはやく平穏な生活に戻られることを
お祈りしております。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ほんとの教育って? ★

作品はこちら
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タイトル:『17歳の肖像』
製作:イギリス/2009年
原題:An Education 

監督:ロネ・シェルフィグ(Lone Scherfig)
出演:キャリー・マリガン、ピーター・サースガード、ドミニク・クーパー、
   ロザムンド・パイク、オリヴィア・ウィリアムズ
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■STORY&COMMENT
1961年、ロンドンの郊外。もうすぐ17歳になるジェニーはオックスフォード大
学進学を目指す優等生だ。勉強のプレッシャーと退屈さに苛まれながら、自室
ではシャンソンを聴き、文化と自由のあふれるパリへの憧れを募らせていた。
そんなある日、倍以上年の離れたデイヴィッドに出会う。教養あふれ楽しい会
話のできるデイヴィッドにすっかり恋をしてしまい……

私は知らないが、リン・バーバーというジャーナリストが自分の若い頃を振り
返った手記が原作だという。正直にいうと「だから実話っておもしろくないん
だよ」が私の最初の感想。その部分的な「おもしろくなさ」は後で説明すると
して、せっかく美しくて頭のよい女の子が、危ないプレイボーイの手におちて
いく様子は、居たたまれなくてハラハラして、引き込まれた作品だった。

「オックスフォードに入るためのことなら、何でもやればよい。チェロもその
一つ。だがフランスの歌なんか聴くんじゃない。苦手なラテン語をもっと勉強
しろ」厳しい父親のもと、窮屈な毎日を送っていたジェニーは、デイヴィッド
と時を過ごすことに夢中になる。
クラシックやジャズへの造詣が深く、美術作品についても自説を語れ、何でも
ないおしゃべりも洗練されている。友人カップルの女性はおしゃれの手ほどき
をしてくれる。コンサートに出かけ、一流のレストランやバーで食事を楽しん
で。年齢を重ねて会話のうまいデイヴィッドは、両親ともすぐに打ち解けて、
彼らの警戒心を解いてジェニーをあれやこれやと連れ出す。

私の17歳の頃はもっともっと子どもっぽかっただろうと思うけれど、19か20歳
の頃だったら、と考えたら、ああ確かに夢中になってしまうかもなあ。こんな
ヨーロッパの映画を観て文章を書くメルマガを発行してる私。当然、若い頃は
特に文化的自意識が強くて「文化的に洗練されている」ことは絶対に必要なこ
とだった。そんな「洗練されている人」から認められ愛されることも、うれし
くてしかたのないことだっただろう。
多少アヤシイことには目をつぶり、背伸びを続けてソフィストケイトされた世
界の住人になることで頭の中はいっぱいになるジェニーの心はよくわかる。バ
カな女の子だな、という反応もあるだろうけれど、私は他人事と切って捨てら
れない。

もう何年かしたら自由へと拓いていく鬱屈した自体の雰囲気、ファッションも
あわせて楽しみながら、少女の皮肉な成長をドキドキしながら眺める。ジェニー
の行く末が怖くて、それを眺めている自分の視線がイジワルにも感じられる。
不思議な感覚で楽しめる作品だと思う。

■COLUMN
デイヴィッドと仲睦まじくなるにつれて、当然、成績もあやしくなり、学校で
はお金持ちの大人の男とアバンチュールを楽しんでいるとすっかりウワサの的
となり女生徒たちは大騒ぎ。目をかけていた教師は心配して忠告する。

すっかり大人になった気分のジェニーはぶ厚いレンズのメガネをかけた教師に
威張りくさった言葉を浴びせる。
「勉強勉強と努力を重ねた末にたどり着く人生は、つまらない勉強をまた教え
ることなのか。私はジャズを聞き美しい物を見て、勉強した。そんな洗練され
た物を味わう人生のがいい」まあ、全然言葉通りではないのだけれど、こんな
感じだ。
勉強して教養を身につけるよりも、現場でいい物美しい物良質な物を実際に味
わう方が教養になるだろう。勉強するよりも、容姿とふるまいを磨いて、それ
だけの洗練されたものに触れられる人(=金持ち)と結婚する方がどれだけ幸
せで教養高いことか、とも言いたいようだ。

校長にも啖呵を切る。「今後私のような疑問を持つ生徒は必ず出てくるだろう。
それに学校はきちんとした答えを出すべきだ」。

生意気な若者の失礼な物言いなのだが、私も、地味な勉強を続けることに、同
じように疑問を持つ生徒は確かに出てくるだろうと思うし、若者を育てる教育
者はそれに対して納得できることを答えようと努力して当然だと思う。
今現在の日本だって、どっちかと言ったら、女の子は「見る目」を養ってそれ
なりの男と出会うことを重視して、そうするようにいざなっているじゃないか。

ジェニーが生意気に教師に立ち向かったシーンはとても印象的だが、結局、こ
の作品は少女の疑問に答えていない。
結末を言わなくてはいけなくなるので、なぜ「答えていない」と思うのか、を
説明できなくて歯がゆいのだが、せっかく面白い視点があるのにそれを回収し
きれていなくてもったいないと、私は思う。

この作品の原題は『An Education』。
直接的には、男に夢中になった少女が、その経験から受けた教育という意味だ
ろう。副次的には、教養や美意識、センスが身についた、デイヴィッドから受
けた教育があり、ジェニーが疑問を持ちお高くとまって鼻で笑った学校の教育
がある。
せっかく多重的に「教育」を入れ込んでいるのだから「教育て何?」という裏
テーマもきっちり組み立てて欲しかった。完全にフィクションならば、テーマ
を優先してエピソードを作り出すこともできるけれど、実話なら仕方がない。

「だから実話っておもしろくないんだよ」という最初の感想の正体はこれだ。

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2011年01月28日

No.240 オーケストラ!


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欧 州 映 画 紀 行
               No.240   10.01.28配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 私の忸怩たるエッセンスを載せ、願いよ、届け ★

作品はこちら
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タイトル:『オーケストラ!』
製作:フランス・イタリア・ルーマニア・ベルギー・ロシア/2009年
原題:Le concert 英語題:The Concert

監督・共同脚本:ラデュ・ミヘイレアニュ(Radu Mihaileanu)
出演:アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、
   ミュウ=ミュウ、ドミトリー・ナザロフ
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■STORY&COMMENT
ロシアの名門オーケストラ・ボリショイ交響楽団で、かつて天才指揮者と言わ
れていたアンドレイは、今や楽団の掃除係。30年前、共産主義政権がユダヤ人
演奏者を排斥する決定をしたことに反対して、職を追われてしまったのだ。
ある日、掃除中に、2週間後の演奏会に急遽ボリショイ交響楽団を招きたいとい
うパリからのFAXを見つけたアンドレイは、楽団を追われた仲間を集めて、「ボ
リショイ交響楽団」をよそおってパリへ演奏しにいく計画を立てる……

軽ーく軽ーく笑えるネタが連続して流れるその底に、がつんと重い「事情」が
横たわる、重さと軽さを両方を観客にプレゼントしながら、最後はすーっと昇
華して感涙を誘う。由緒正しいヨーロッパスタイルの映画だ。

ユダヤ人の大追放が、音楽家として職場を奪われることになったことは、映画
の最初には明かされない。そのせいもあって、悲壮感とは無縁に、どうもうだ
つの上がらない人たちが、偽楽団をしたててるよ、というスピード感のあるコ
メディとしてすんなり物語の世界に入れる。

救急車の運転手、のみの市の商売人、音楽の仕事を追われて行き着いた先の仕
事には、さしてまじめに取り組めなくて落ちぶれている昔の仲間達。彼らを探
し出して、説得するところから始まり、その都度降りかかってくる困難を何と
かはねのけはねのけ、いや、それが苦労話ではなく、全部笑い話で何とかして
いく。
シチュエーションコメディというのとは少し違うのだろうけれど、その都度は
まり込む困難、難題のシチュエーションそれ自体を観客は笑い、それを何とか
する(または何とかなっちゃう)様子を見て吹き出す。

最終的にパリに行くことができて、演奏も成功することは、言ったところでネ
タバレとはならないだろう。そのための過程を楽しむ作品だから。
人が集まったら今度は出国できるか怪しく、パリまでたどり着いたら、急ごし
らえ楽団員たちは遊びやら商売やらでリハーサルに現れない、などなど、次か
ら次へと難題が現れ、笑いながらもハラハラがやまない。
アンドレイがぜひ共演したいと願うヴァイオリンのソリスト、アンヌ=マリー・
ジャケが、いったい何者なのか、という謎解き要素も途中くわわって、最後ま
で、落ちないスピード感で引っぱって行かれる。

ハラハラした分も、バカ騒ぎに笑った分も、全部最後のチャイコフスキーに凝
縮されて、「ああよかったね、よかったよ」と、無意味に隣の観客と笑い合い
たい気分になる。たとえ、一人で鑑賞していてもね。

■COLUMN
いっちばん最初の印象は、正直言って、
「楽しくていい映画、でも真剣に感動するにはリアリティがないよねー」
だった。
だって30年も音楽から離れていた人たちが急ごしらえで集まっても実際はさー、
(その他、出国方法などあり得ないことはいろいろ!)と思ったのだ。

だけれど、DVDの特権をフル活用し、クライマックスの演奏シーンをもう一度再
生していて考えが変わっていった。

確かに、この映画で起きたことが実現可能かという意味では、そうじゃないだ
ろう。
でも映画のリアリティには、その事が本当に起こるらしいリアリティもあれば、
その結末を本気で喜べるか、とか、共感できるか、とか、自分のこととして入
り込めるか、など物語としてのリアリティもある。その作品の持つパワーといっ
てもいいだろうか。
そういう意味で、「楽しくていい映画、そして真剣に感動するだけのリアリティ
がある」。

30年もの間、政府によって仕事を奪われる重く苦しい事態を下敷きにするこの
作品は、「願いのかたまり」だと思う。自身もルーマニアからの亡命者である
監督は、むくわれない多くの人の過去と現在と未来が、少しでもよい方向へ向
くようにと、願いをこめているんじゃないか。

笑いとユーモアで吹き飛ばしたかのように見えても、決して吹き飛ぶことはな
いやるせなさを、ほんの少しでも揮発させようという願い、祈り。

「自分がこうしたい、こうなりますように」ではなく、他者に向ける願いや祈
りは、ともすると無私のものと思われやすい。だが、災害や事故、戦争など、
遠くの見知らぬ誰かに向けるものにしろ、近しい誰かに向けるものにしろ、そ
こには必ず、自分の思いや自分の事情が載せられるものだ。
自分の境遇との重ね合わせ、共感、仲間意識、傍観者でしかいられないことへ
の焦り、あの日うまく話せなかった後悔、贖罪、償い、心配、期待……etc.

自分のエッセンスを載せた願いや祈りは、現実にはあり得ないような、夢のよ
うな話にこそ、託しやすい。そうあったらいいなと信じたい気持ちと、願い祈
る気持ちが相乗効果で膨らむからだ。
ユーモアも笑いも、それ自体として楽しく面白く、夢のような展開と結果もそ
れ自体として楽しくうれしく、だが同時に、そんな展開だから自然に願いと祈
りをぶつけ信頼できる装置でもある。

あり得ない夢のように、みんな楽しく笑えますように。願いと祈りを託せるリ
アリティをもった映画は、作り手の願いにさらに観た人皆の願いを載せて、大
きな願いのかたまりになる。
おぞましい過去から続いた今と未来が、よい方へ向きますよう、忘れてはいけ
ないことが忘れ去られることのないよう。

人の思いを載せられる映画は、他愛ない笑い話の連続でも、実現不可能なあり
得ない展開でも、人の心のリアリティが、ある。

---------------

★DVD
『オーケストラ!』スペシャル・エディション(2枚組) DVD
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2010年12月30日

No.239 ウディ・アレンの 夢と犯罪

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欧 州 映 画 紀 行
             No.239   10.12.30配信
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★ 夢と欲望 堅実と強欲 紙一重のこわさ ★

作品はこちら
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タイトル:『ウディ・アレンの 夢と犯罪』
(レンタルソフトタイトル:カサンドラズ・ドリーム 夢と犯罪)
製作:イギリス/2007年
原題:Cassandra's Dream  

監督:ウディ・アレン(Woody Allen)
出演:ユアン・マクレガー、コリン・ファレル、ヘイリー・アトウェル、
   サリー・ホーキンス、トム・ウィルキンソン
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
ウディ・アレン監督がロンドンを舞台につくった第三弾。ロンドン南部に暮ら
す労働者階級のイアンとテリーの兄弟。兄イアンは、父のレストランを手伝い
ながら投資家を目指している。自動車修理工の弟テリーは恋人とマイホームで
暮らすことを夢見ている。
テリーがドッグレースで大穴を当て、兄弟はかねてから欲しかった小型クルー
ザーを共同購入する。イアンは舞台女優アンジェラと恋をし、人生を共にした
いと思う。そんな矢先、テリーがポーカーで大負けをして多額の借金をしてし
まい……

ちょっと頭のよい兄、頭はそれほどでもないけれど優しい弟、仲の良い兄弟だ。
兄は投資でなんとかエグゼクティブ層に入り込むことに憧れていて、弟はつつ
ましやかな幸せを望んでいるように見えながら、ギャンブルで熱くなる癖に周
りは少し心配している。
そんな兄弟がちょっとした歯車が狂って、犯罪に加担していく心理サスペンス
だ。

こわい。

何がこわいって、多額の借金を背負って、人殺しを頼まれる羽目になる、どん
どん追い詰められる様子。
そして、そもそも、兄も弟も望んだことは、よくありがちな陳腐な幸せだ。し
かし、ちょっとしたことで、こんなに追い詰められた状況ができあがる。そん
な人生の皮肉もこわい。
観てる側の心理をいえば、明らかに悪い方に向かっていく兄弟に、気持ち的に
は肩入れしたいが、すれば自分がもろともに悪い奴になる。道徳や倫理観をど
こかで試されている気もする。
だからといってクールに誰にも肩入れせずに観ればいかにも孤独に取り残され、
映画を観るということそのものが苦痛にさえなる。

観客の心理をあやつるという面で、あー、うまいよなあと思ったのは、テリー
のギャンブルシーン。負けが込んで熱くなってその場で借金しながら賭けを続
けるテリーの姿を見て、こっち(観客)は、「おいおい、それはやめないと、
だめだめ」と良識持って心配する。で、次のシーンは翌日。「いい流れがきて
最終的に大勝ちした」という報告をしているシーンがやってくる。
テリーのギャンブルの結末はすべてそうで、負けるところをさんざん見せられ
てハラハラさせておいて、それでも結局はなんとかどうもうまく治まってるら
しい、という形で語られる。そういうシーンがいくつか続くと「ああそんなも
んなのかな、大丈夫なんだな」と傍観している側も思っちゃう。その安心が伏
線のようになって、後の窮地の怖さを増してると思う。

年末年始、はでじゃないけれどしめつけられるような緊張を味わいたい方はぜ
ひ。ただ、心理劇として、しくしくと迫ってくる怖さは一級品だけれど、ミス
テリーとしては、まあ、穴だらけ。だから、そっちに重きを置いて観たらだめ
ですよ。

■COLUMN
このあいだ美容院で話していたら、なんの話からか、お金にガツガツすること
なさそうだもんねー、人を蹴落としてなんて考えないでしょ。なんてことを言
われた。
個人的な話をするわけじゃないので、よく知っているわけではないけれど、長
く通っている美容院で、なんとなく気心が知れてる美容師さん。そういう人か
ら見るとそう映るらしい。
「だけど、人を蹴落としてでもお金もうけるタイプですよね、て言われて肯定
する人もいないと思うけどね」と答えながら「人を蹴落としてお金をもうけら
れるってどんな状況だろう」と考えた。

私だってお金欲しいし、フリーランスだから安定とはほど遠くって、とれると
きにはとっておかなきゃ、な気持ちや、無駄なお金は絶対払わないぞって気持
ちは強いから、決して他の人と比べてがめつくないってことはないと思う。

金に執着しそうに見えるか否かは、性質よりも環境に左右されるんじゃないか。

私はたまたま、誰かを押しのければお金持ちの道が開けるような環境にいない
し(そういう人がどれくらいいるのかわからないけど)、ちょいと頭を使えば
上手に富を手に入れられるような方法も知らないから、そうはならない。
でも、そんな機会があれば、案外わからないんじゃないかな。
ギリギリ食っていけるだけあれば平気、と言えるほど強くないもの。

労働者階級のレストランなんかから抜け出してスマートなビジネスマンになり
たいイアンも、つい賭け事に熱くなるテリーも、高価なアクセサリーが大好き
なイアンの恋人、贅沢でなくても庭のある家で子どもを育てたいと願うテリー
の恋人、お金持ちの兄が自慢でいつも夫と比べている兄弟の母。
この作品に出てくる人は、みんなちょっとずつ「お金が要ること」に無意識に
執着していて、そこがちょっと大げさに映るように描かれる。

でも、この人たちがことさらにお金好きというわけでもない。現代に生きる人
なら誰でも持つささいで他愛のない欲望だと思う。

「がめつい」「お金好き」「拝金主義」「贅沢」「足るを知らない」どう他人
が評価するかは、欲望の源よりも、それを実現するために何を為すかで決まる
だろうか。

「お金にこだわること」はどこまでが「堅実」でどこからが「品がない」なの
か。基準は人にも状況にもよるだろう。きっと考えても答えが出ないんだろう
けれど、そんなことをついついいつまでも考えちゃうもんだよなと、思う年の
暮れ。お金で神経をすり減らさない年を迎えられますように。

---------------
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★すっかり配信をさぼった1年でしたが、(今数えたら今日が14回目でした)お
世話になりました。以前のように週1回は無理かも知れませんが、来年はもう少
したくさん観て書こうと思います。
2011年もどうぞよろしくお願いいたします。皆さまよいお年をお迎えください!
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編集・発行:あんどうちよ
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2010年12月20日

No.238 シャネル&ストラヴィンスキー

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欧 州 映 画 紀 行
              No.238   10.12.20配信
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たーーいへーーんに、ご無沙汰しております。
ヨーロッパの映画を紹介いたしますメールマガジン「欧州映画紀行」です。
みなさん、お元気でいらっしゃいましたか? 
前の配信から時間が経ったので、「まぐまぐ」さんからは、
最近、発行してないけどどうしたんですか? てなメールもいただいてしまい。
だからってわけではないのですが、久しぶりの配信です。

★ 流れから読むでなく、ただそこにある感情を凝縮して ★

作品はこちら
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タイトル:『シャネル&ストラヴィンスキー』
製作:フランス/2009年
原題:Coco Chanel & Igor Stravinsky 

監督・共同脚本:ヤン・クーネン(Jan Kounen)
出演:アナ・ムグラリス、マッツ・ミケルセン、
   アナトール・トーブマン、エレーナ・モロゾーワ
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
1913年パリ。ストラヴィンスキー「春の祭典」の初演は、あまりにも革新的で
受け入れられずヤジが飛び交った。観客の中にいた、ココ・シャネルはその新
しいスタイルに共鳴していた。
それから7年。有名デザイナーとなったシャネルは、家族と共にパリで亡命生活
を送るストラヴィンスキーと出会う。彼の才能に惚れ込んでいたシャネルは、
住まいの提供と経済的援助を申し出る。同じ屋敷に暮らすうち、二人は恋に落
ちて……。

シャネルが主人公となる映画がトントンと同時期に作られた。どういう事情な
のか、調べ損ねたのだけれど、そんな「シャネル物」のひとつ。作曲家ストラ
ヴィンスキーとの情事を題材にした作品だ。
ココ・シャネルとストラヴィンスキーが恋愛関係にあったことは事実だが、そ
う何度もくり返し関係を続けたわけではなく、その点はフィクションらしい。

切り口はいろいろあると思うのだけど、私がこの作品でいちばん心に残ったの
は、物語の「流れのなさ」だ。
これは、私がそう感じた、というだけで、作り手の意図とは全く違うかもしれ
ない。

ココ・シャネルとストラヴィンスキーは、惹かれ合って一度寝た後、逢瀬を重
ねていくのだが、その重ね方に、時の流れを感じないのだ。たとえば、一度目
よりも二度目が親密に、三度目には軽口を叩くこともあるとか、そんな流れ、
二人の心の移り変わりを今ひとつ感じられない。
そうした描き方に、はじめは違和感があったのだが、だんだんと、こうして、
流れや組み立てとは関係なく、<その場>、<その時>の感情をクローズアッ
プするのが面白いところだと思うようになった。

もちろん、破局に近い頃には、シャネルの冷たい拒否があり、二人の恋愛のは
じまりから終わりに向かう流れはある。しかし、二人のシーンは刹那的に捉え
られ、過去も未来もなく、<その時>をぎゅっと凝縮して捉えられている。前
のできごと、周りのできごとから必然的にもたらされる何かではなく、その瞬
間に存在する感情をぐっと差し出している。
前に伏線があって、次にこのシーンで誰かの気持ちを理解するということが、
ない、とは言わないけれど、ほとんどない。

誤解を恐れずにいえば、なんなら、ひとつひとつのできごとをシャッフルして
ランダムに並べたって、作品としてまとまるんじゃないか。
二人の情事だけじゃない。たとえば、ストラヴィンスキーの妻が、二人の関係
に気づきながら、考え事をするとき、ひたすらその時の不快な気持ちを、表情
のアップでぎゅっと凝縮して伝えられる。それは、心の移り変わりや、経緯の
流れを汲んで伝わるものじゃなく、<今その人が抱えるもの>として、ぎゅっ
と提示されるもの。

いわゆる「感情移入」をしたがる観客には、ちょっとドライな印象を与えるん
じゃないかと思う。感情移入は、物語の組み立てで、一つ一つの台詞に意味が
のって、なされるものだから。
でも、こんな描き方も面白い。感情を、移り変わりでなく、そのもの「生」で
捉えると、こんな風になるのかいね、というのが、私が見るところの、作品の
大きな魅力だ。

■COLUMN
こうした実在の人物を扱う作品に出会うと、残念なのが己の知識のなさである。

モードに詳しければ、シャネルの逸話やシャネル役のアナ・ムグラリスの衣装
について、作品を重厚に見られるような豆知識をプレゼントできるし、クラシッ
ク音楽に詳しければ、「春の祭典」初演の逸話、初演以外での「春の祭典」、
現代における「春の祭典」についてや、ストラヴィンスキーのここには出てこ
ないエピソードを語ることもできるだろう。

いや、しかし悲しいことに、私はどっちにも造詣深くあらず。

特に、「春の祭典」初演の再現シーンは、この作品のもう一つのテーマといっ
てもいいくらいに力を入れたものだろう。ニジンスキーの斬新なバレエ振り付
け、アースカラーの地味な衣装、不協和音と観客の野次と足踏みの合わさった
音。
作品の冒頭、まだ観る側のテンションがじゅうぶんに上がりきらないうちにやっ
てくる、スケールの大きな「春の祭典」初演シーン。ちょっと心して気持ちを
高ぶらせて集中して観るといいと思う。

うんちく、雑学、感想、解釈……もっと語れたらかっこいいのにねえ。

「欧州映画紀行」発行者としては、それだけではいかにもつまらない。
今までに紹介した作品から、今回の作品とリンクして考えられるような話を二
つ、おまけにくっつけよう。

まずはその「春の祭典」。
ベルリン・フィルが、子どもたち(思春期にあたる子どもも含め)を集める教
育プロジェクトを描いたドキュメント『ベルリン・フィルと子どもたち』では、
総勢250人の子どもが、「春の祭典」を踊る。まったくやる気のなかった子ども
もいるなか、しだいに表情に変化が生まれ、ひとつのプロジェクトとして演し
物がかたまっていくさまには、高揚感も覚える。広い意味でアートの力を見せ
てくれる作品だ。
http://mille-feuilles-hp.web.infoseek.co.jp/cinema/back/film086.html

もう一つは、ストラヴィンスキーを演じたマッツ・ミケルセンについて。
お気に入りの俳優というのが、それほどいない私だが、このデンマーク人マッ
ツ・ミケルセンは気に入りの俳優と言えるだろう。ふだんは観ない「007」シリー
ズに、この人が悪役で出演したから(『007/カジノ・ロワイヤル 』)とわざ
わざ観る程度には好きな俳優だ。
この俳優を初めて観たのは、『しあわせな孤独』というデンマーク映画だ。自
分の気持ちをどうにもできず、新しい恋人にはまってしまう医師の役がぴった
り合っていた。冷血な悪役よりも、女にずぶずぶはまっちゃうインテリ役をや
るこの人が私は好きだなあ。
http://mille-feuilles-hp.web.infoseek.co.jp/cinema/back/film034.html

---------------
★DVD
『シャネル&ストラヴィンスキー』¥ 3,263
http://amzn.to/gOj5w6

[Blu-ray] http://amzn.to/g9btBa ¥ 4,361

価格は2010年12月20日現在のアマゾンでの価格です。
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★未定ではありますが、年内にもう1本配信したいと思っています。
最近、ちょっと映画鑑賞から遠ざかっていたので、情報に疎くなっておりまし
て。とりあげてほしい作品があったら、ぜひリクエストをお願いします。
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感想、質問、リクエストなど、なんでもお待ちしております。

編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/about.html
日々のつぶやき・twitter: http://twitter.com/chiyo_a

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2010 Chiyo ANDO

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2010年10月28日

No.237 ずっとあなたを愛してる

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欧 州 映 画 紀 行
               No.237   10.10.28配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 笑顔の増えていく風景 ★

作品はこちら
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タイトル:『ずっとあなたを愛してる』
製作:フランス/2008年
原題:Il y a longtemps que je t'aime 英語題:I've Loved You So Long

監督・脚本:フィリップ・クローデル(Philippe Claudel)
出演:クリスティン・スコット・トーマス、エルザ・ジルベルスタイン、
   セルジュ・アザナヴィシウス、ロラン・グレヴィル、
   フレデリック・ピエロ、リズ・セギュール、ジャン=クロード・アルノー
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■STORY&COMMENT
15年の刑期を終えて出所したジュリエットを妹のレアが迎えに来た。ぎこちな
く再会の挨拶を交わし、レアの家に向かう。レアは夫と二人のベトナムからの
養女、夫の父と暮らす。
ジュリエットの罪は自分の幼い息子を殺したこと。レアは両親に姉との断絶を
命じられていた。納得できないまま成長したレアは長年の音信不通を埋めよう
とするが、ジュリエットは心を閉ざしたままだ。

刑期を終えて出てきた知り合いというものが私にはいないので、通常どのよう
な状態になるのか、よくわからない。だが、その真相をほとんど語らないまま
に息子殺しで刑に服し出所してきた人を、周りが気味悪がったり、警戒したり
することは想像に難くない。
本人に面と向かっては言わないものの、レアの夫リュックは、義姉の滞在を快
く思わず、ジュリエットがやってきてからというもの、寝室では言い争いが絶
えない。
そんな状況の中でレアがあえてしばらく家に滞在させようというのは、きっと
運のいいことであるのだろうけれど、ジュリエットはそのレアに対してさえ、
微笑もうとはしない。

レアに姉がいるというのは周りにも言っていなかったので、同僚や友人達は興
味津々にジュリエットが今まで何をしていたのか尋ねようとする。ジュリエッ
トはますます殻にこもり孤独に振る舞う。

観客も、この物語がどちらに行くのか、どちらってのはつまり、ジュリエット
が新しくつつましくも温かい人生を歩む方に行くのか、それとも実はやっぱり
殺人鬼でまた新たな悲劇を起こすのか、てことだけども、不安を抱きながら観
ることになる。
レアの娘プチ・リスが「日記を読んで」とせがむところに急に怒鳴りつけると
ころではどうなっちゃうんだろうと、こわごわ物陰から観たくなってしまった。

だから、この部分も本当は言わない方が面白く観られるんだけれど、言わない
と何も書けなくなってしまうから「ネタバレ」すると。
これは、そんなにもすさんで、心を開かずにいるジュリエットが、少しずつ少
しずつ、がちがちになってる心をとかし、不安を解体し、笑顔を増やしていく
物語だ。
はじめは彼女を怖がったり、存在を怪しんでいたプチ・リスもピアノを教えて
もらったり、本を読んでもらったりを喜び、なついていく。もしくは、プチ・
リスがなついていったから、ジュリエットの回復も助けられたとも言える。プ
チ・リスが日記を取り出したときに、なぜあんなにも怒ったのか、それは終盤
でわかる。

その終盤では、ジュリエットがなぜ自分の息子を殺してしまったのか、も判明
する。
正直言うと、その種明かしはちょっと納得いかない。そういう事情ならば、殺
めて自分の中にしまい込んで、周囲を何年も辛い思いをさせることはなかった
のではないか、他の方法があったのではないかと思って。でも、人はいつも合
理的な行動をするわけではないだろう。
種明かしがどうであれ、少しずつ心を開いて、穏やかな佇まいと楽しい笑顔を
増やしていく、ジュリエットの変化の美しさが損なわれるものではない。

■COLUMN
人が再生して少しずつ上向きになっていく物語は好きだ。少しずつ崩壊していっ
て最後めちゃくちゃになる物語もいいいけれど、その場合にも主人公は前を向
いて歩いていって終わって欲しいと思う(たとえば風と共に去りぬのように)。
もちろん例外もあるけどね。

きっと多くの人がそんな物語が好きだと思うけれど、それは己を投影させやす
いからだろう。一歩引いて「面白い」と言っているよりも、己にも降りかかり
うることと思ったら物語に愛着がわく。

そして人は、どんな幸せな今を歩んでいようとも、つねに新しいスタートが切
れたら、新しい何かに出会えたら、新しい自分になれたら、と思っているから
だ。成長する自分と言い換えてもいい。新しい人生の一歩を踏み出した人を眺
めるのはすがすがしい。こういう物語への自己投影が心地よいのは、新しい成
長を夢想できるからだ。
もちろん他の要素もあるけどね。

私が今どうしても切りたい新しいスタートは、「もっと時間を」!「もっと要
領よく」!
メルマガが滞りがちなのにも表れるように、今、私はなんだか時間が足りない。
主に仕事が立て込んでることが多いからだけれど、深夜まで仕事をしていたり、
土日も働いているわりに、そうそう儲かっているわけでもなし。
世の中には家事をこなし、子を育て、かつ毎日働いている人だっていくらでも
いるのに、家事はほっぽりだし、子なし、なのに好きな映画ひとつ本一冊読め
ずに、ひーこら仕事をしている私は、まあ要するにやることが遅くて要領が悪
いだけなんだが、こりゃあ何とかしないといけないな、と。

根がダラダラしていて、土日がきっちり休めなくても、夜に仕事が食い込んで
も、毎日少しずつ自分で調整ができる方がいいと、フリーで働くスタイルは合っ
てたはずなんだけども、その「自分で調整」てやつができなくなってるのだ。
ダラダラメンタリティで何とかなってる間はいいけれど、それがストレスにな
るんなら、ちょっと考えた方がいい。読んだことないビジネス書でも読んで、
「仕事の効率的なやりかた」とか「時間マネジメント術」とか学んだ方がいい
のかな、と思いながら、結局、どうすっか、と天を仰いでいるだけのテイタラ
ク。

何とかしなけりゃな、と思うのは、健康に生活し続けるため、というのもある
んだけれど、何より「焦り」からだろう。好きなはずの映画を観たり、本を読
んだり、それについて何かを書いたり、それをしないでいるうちに、好きなは
ずのものをこぼしてなくしてしまうのではないか、好きと言うのもおかしいほ
どに無知になるのではないか、そんな不安が強い。
そんな不安に陥るたびに、人間そうそう、好きなものや大切なものをきれいさっ
ぱり落っことしはしないさ、と自分をなぐさめる。

ジュリエットも、彼女はまったく新しい誰かに変わったわけじゃない。15年の
刑務所生活、出所してからの出会い、そうしたもので変わったところはあるだ
ろうけれど、元来持っていた彼女の聡明さ、神経の細やかさを取り戻して、そ
こをベースに彼女はちょっとずつ変化したのだ。

思うように自分が変わるのは難しいのかもしれないけれど、ま、少しずつ。う
まいこと自分の好きなものとよい関係を築けるだけのコツを見つけられたらな。
そんな近況です。今後ともよろしく!

---------------
★DVD
『ずっとあなたを愛してる』¥3,559

価格は2010年10月27日現在のアマゾンでの価格です。
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タグ:フランス
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2010年09月13日

No.236 倫敦から来た男

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欧 州 映 画 紀 行
               No.236   10.09.13配信
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すっかり気が向いたときに配信するメルマガとなっていてすみません。
どうぞお気軽に気が向いたときに読んでいただければ、と思います。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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★ 不安と緊張の伝染するメタリックなモノクロ ★

作品はこちら
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タイトル:『倫敦(ロンドン)から来た男』
製作:ハンガリー・ドイツ・フランス/2007年
原題:A Londoni férfi  英語題:The Man from London

監督・共同脚本:タル・ベーラ(Béla Tarr)
共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン、ボーク・エリカ、
   デルジ・ヤーノシュ、レーナールト・イシュトヴァーン
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■STORY&COMMENT
大型客船が出入りする港。船を下りた客たちは、向かいに着く鉄道に乗り換え
ていく。その鉄道の制御所で夜勤をするマロワンは、ある日、男たちが言い争
い、一人が海に突き落とされるところを目撃してしまう。突き落とされた男が
持っていたトランクを海から引き上げてみると、中には札束が……。
平凡な庶民がうっかり大金を手にしてしまったために、心理的に追い詰められ
る様子を描く。
原作は『メグレ警視』シリーズなどで知られるジョルジュ・シムノンの小説。

モノクロ映画である。白黒の映像は、往時に使われたものとのイメージから、
懐かしい感情や、レトロで人間らしい感覚を呼び起こすことがある。しかし、
この作品の白黒は、DVDで観ている影響も大きいだろうが、懐かしさよりも、メ
タリックな、つんと冷えたイメージが強い。そこに、ものや人間を正面から、
時には真後ろから、じっとなめ回すようにする視線がプラスされて、冷たく硬
い視線がしつこくまとわりつく、不思議な質感の映像だ。

そんな質感は、内容の「ハードボイルドな雰囲気」という前提とともに、明ら
かに犯罪が絡んでいる金を拾ってしまった主人公の心理を描き出すために選ば
れたのだろう。
金を手に入れると、何か力を持ったような気になる。勤め先で意に染まぬ使わ
れ方をする娘を連れ帰ろうと考えるのは、金があるならそこまで大きく出たっ
ていいだろうと、マロワンに勇気を持たせるのか。
しかし、海に仲間を突き落としたらしい男が家までつけてきたことに気づくと、
不安と緊張に押しつぶされそうになって、家族にあたり散らす。ロンドンから
腕利きの刑事がやってきて、もはや犯人が捕まるのも時間の問題だと思うと、
またもや少し気が大きくなって娘に高価な毛皮を買ってやる。だが、腕利きの
刑事が尋問にやってくれば、新たな不安が生まれ……
マロワンの動揺の振り幅が大きいから、トランクを拾ってからずいぶんな時間
が経ったように思いがちだが、ほんの2日ほどのできごとだ。

やばい荷物を拾って自分のものにしようかと欲が働いたばかりに、平穏な暮ら
しを失ってしまう様子からは、見ているこちらにも不安と緊張が感染する。
138分とやや長めの上映時間の、かなり序盤から不安と緊張にさらされて、ここ
からどうなるのだろうと、ハラハラしたのだが、少しずつ状況と感情が異なり
ながら、全編そんな調子だった。
追い詰められる心理を冷たくしつこく描き出す世界、興味のある人はぜひ。

物語から少し離れたことを言えば、私は、斜めからじっとものを見る、真後ろ
からじっと人を捉える、そんな決してふだんはないであろう視線が気に入った。
通常は無理なことだと思うけれど、(社会生活があるので)こんなものの見方、
捉える視線を手にしたならば、いつもの世界がまったく別に見えるんじゃない
か、一度やってみたいと思った。
しかし、そんな決してふだんはないような視線があるから、平凡な生活が急に
追い詰められる主人公の切迫した状態が伝わるんであって、上の感想も決して、
物語から離れたものではないんだなあ。


■COLUMN
拾いもの。
怪しいアタッシュケースを見つけたこともないし、竹藪をつついたら札束が出
てきたこともない。1000円、2000円といったちょっとしたお金はもちろん、駅
で定期券を駅員さんに預けたことがあるくらいで、拾いものとはおそらく縁が
ない。
今まででいちばん面白い「見つけもの」は、空き地のど真ん中に落ちていたボ
ウリングのボールだろう。「なんでこんなところにボウリング」としばし眺め
ていたけれど、持ち帰るのも重いし、昨今のように、写真を撮ってTwitterで
「不思議な落とし物w」なんてつぶやくこともできないので、何ともできずにそ
のまま放置して通り過ぎてしまった。
私の友人には、なぜか通り道に捨てられた猫が置かれていたり、瀕死の犬が目
の前に倒れていたりするという人もいるので(彼女はその度拾う)、拾いもの
には縁がないままでいいとも思う。

そうは言っても大きな大きな拾いもの。やっぱり一度はしてみたい。
川っぺりを散歩していたら、現金入りのアタッシュケースとか、犬を散歩させ
ていたら(ちなみに犬は飼ってない)ここ掘れワンワンと言われて掘ってみた
ら大判小判がざっくざくとか?
ああ、拾いものに縁なき者の悲しい発想の貧困さよ!

札束はきっと重量があるし、それを持って警察まで行くのは大変。まずはその
場で写真を撮ってお巡りさんを呼んでくるが正解か? しかしその間に忽然と
姿を消していたら?(そういうものだ、映画やドラマでは)
大金取得となるとインタビューを求められる?しかし、後々自分のものになっ
たときに、身元がバレるとあぶないから、インタビューは断ろう、モザイク入
れるとかもナシだ!

……と、ないことないこと、あるはずないことばかり。妄想は続く。
大きな拾いもの、マロワンのように隠れてがめようとしなくても、やっぱりし
ないに超したことはないみたい。
この数分の妄想ですっかり疲れた私が保証しよう。

うっかり大金を拾ったときの心の準備、してますか〜?


---------------
★DVD
『倫敦(ロンドン)から来た男』¥4,454

価格は2010年9月12日現在のアマゾンでの価格です。
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★コメントくださった方へご返信
みほ さま
すーっかり遅れた返事で申し訳ありません。
これを読んでくださってるとよいのですが。
当blogを見つけてくださってありがとうございます。
『ウェディング・ベルを鳴らせ!』は、音楽も気に入ってくださったとのこと。
うれしいです。
最近、私は映画を観る時間がとれなくて困っています。
みほさまのおすすめ作品がありましたら、どうぞ教えてくださいね。

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2010年08月01日

No.235 ロルナの祈り

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欧 州 映 画 紀 行
               No.235   10.08.01配信
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★ 変わりゆくもの、それを見つめる心もやはり変わりゆく ★

作品はこちら
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タイトル:『ロルナの祈り』
製作:ベルギー、フランス、イタリア/2008年
原題:Le silence de Lorna 英語題:Lorna's Silence

監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
     (Jean-Pierre Dardenne、Luc Dardenne)
出演:アルタ・ドブロシ、ジェレミー・レニエ、
   ファブリツィオ・ロンジョーネ、アウバン・ウカイ、
   モルガン・マリンヌ、オリヴィエ・グルメ
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
アルバニア移民のロルナは、ベルギーで偽装結婚をする。闇ブローカーの手が
ける偽装結婚は、麻薬中毒の患者を金で釣って結婚、国籍が取れたところで、
薬物中毒を装って「夫」を殺し未亡人になったら、ベルギー国籍を欲しがって
いるロシア人と金をとって偽装結婚する、という仕組みだ。
同郷の恋人とベルギーで幸せに暮らす夢を見るロルナだが、偽の妻に子供のよ
うにすがりながら、薬物中毒から抜け出そうとする「夫」クローディを見捨て
ることができなくなってくる……

映画にもいろいろなジャンルがあるけれど、「ドラマ」と呼ばれるジャンルの
作品に共通する楽しみ(のひとつ)は、登場人物の変化を眺めることだ。
実際の人生でだって、よくも悪くも、人は変化するものだけれど、一般的にそ
の変化はとてもゆっくりで、ある時点である過去を振り返って、思えば変わっ
たもんだな、と思うもの。しかし、映画というのは、2時間ほどの時間に凝縮し
てその変化を堪能することができる。
成長であっても、別れを呼ぶものであっても、どこか寂しいものであっても、
人は人の変化を見るのが基本的に好きなんだと、私は思っている。

国籍を得るための手段として、「どうせ底辺のヤクチュー」として、蔑んでい
た相手を、しだいに「人」と認め、ブローカーのボスに、「何も殺すことはな
いじゃないか、離婚するだけじゃだめなのか」と頼みこむ。そこからさらに、
彼女は大きな変化をするのだが。
ロルナがどう変わっていくのか、がこの映画の大きな楽しみで、それを言って
しまうと、この映画を観る楽しみが半減してしまうから、どんな変化が起こる
のか、これ以上、詳しくは言わない。しかし、この映画を語ろうと思うと、変
化した末のロルナに注目しないと何も言ったことにならない。ということで、
重箱の隅をつつくような話になってしまうけど、映画全体のことじゃなく、な
ぜ、ロルナは、ヤクチューのクローディに親近感を抱くようになったのか。を
考えてみる。

というのは、この作品についてネットで情報を探していたら、「なんであれほ
ど邪険にしてた相手に情がわくのかわからない」という意見があり、私は、特
に疑問に思わずに一緒にいるうちに情が湧いたんだな、と素直に受け入れてし
まっていたから、「へー、そういう疑問があるんだな」と面白く感じたのだ。
で、どうしてだろう、と考えてみることにした。

もちろん理由はひとつではないし、言葉で説明できない部分もたくさんある。

ただ、一つ、きっとこれだろうと思える要素は、だらしのない、意志の弱いヤ
クチューだったクローディが自分の力で薬を断とうと決めたことだと思う。
その様子を見てから、ロルナの態度は少しずつ変わる。貧しい国を抜け出して、
幸せになろうと行動した自分に重ね合わせたのか、意思をもって動こうとする
様子に、一人の人間として意識する気になれたのか。

クローディが変わることで、そばにいたロルナも変わる、変化と変化が共鳴し
合うさまは美しい。DVDのジャケットにもなっている、ロルナの見せたことのな
いようなかわいらしい笑顔が、その美しい変化を象徴的に表している。

ラストはずいぶんと観客の想像力を必要とし、その結末にはあまり納得のいか
ない人もいるかもしれない。しかし、人が変わっていくことを見つめることが
好きな人ならば、必ず得るもののある作品だと思う。

■COLUMN
パッと思い出すところでは、ジェラール・ドパルデューが主演した『グリーン・
カード』(調べたらもう20年も前の映画だった)など、偽装結婚を小道具とし
て使う作品は、少なからずあるんじゃないか。

なぜかといえば、「見つかってしまうかも」という映画には絶好のサスペンス
の要素を付け加えられ、かつ、ルール違反であっても、必ずしも道徳に背いて
いるものではない場合が多いので、観客の共感を得やすい。
国や制度を欺く行為ではあるけれど、貧しいところから抜け出て、やってきた
国でまじめに働いて社会に貢献するのであれば、別に誰も損はしないから。観
客としてはやってもいい(しかたのない)ルール違反と考え、そういうルール
違反をせざるを得ない状況にある登場人物の弱さを応援したくなるというもの
だ。

ただし、このロルナについていえば、国籍をとったら相手を殺してしまい、そ
の次には国籍の欲しい金持ちから金をむしりとろうと国籍を売買するような組
織の駒として動いているのだから、身勝手さが目立つ。
だからこそ、彼女がクローディを一人の人間として認め、ヤクチューから抜け
出すことに力を貸し、同時に殺さないでと懇願する変化を見て、観客は応援す
る。善なる側へ、手放しで応援できる側へ、やっておいで、と。

しかし、こっち側へ呼んだロルナは、また別の方向へ変わっていく。偽装結婚
が、やがて偽装でなくなるような幸せな愛の物語では終わらない。その変化を
戸惑いながら観客は見つめ、ここにもう一つ、観客の心情の変化との共鳴が起
こる。
クローディの変化、ロルナの変化を静かに見守りながら、彼らへの自分自身の
心情の変化に、心を傾けながら観てみるのもいい。

---------
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2010年07月22日

No.234 アンナと過ごした4日間

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欧 州 映 画 紀 行
                
        No.234   10.07.22配信
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★ どこを観ても何かを考えてしまう ★

作品はこちら
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タイトル:『アンナと過ごした4日間』
製作:ポーランド・フランス/2008年
原題:Cztery noce z Anna 英語題:Four Nights with Anna

監督・共同脚本:イエジー・スコリモフスキ(Jerzy Skolimowski)
出演:アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
ポーランドの田舎町。病院の火葬場で働くレオンは、年老いた祖母と2人暮ら
しだ。
レオンには数年前、レイプ事件を偶然目撃、濡れ衣を着せられ犯人にされてし
まった過去がある。その時の被害者・看護師アンナに恋に落ちてしまうレオン
だが、正面から愛を打ち明けることはできず、自宅から双眼鏡で彼女の部屋を
覗くことしかできない。やがて、アンナへの恋心が高まり、アンナの家への侵
入を企てる…

難しい映画だったなあ。
何が難しかったかというと、
物語の中心にいる朴訥な主人公に、あんまり感情移入できない、かといって、
「気持ち悪い」としりぞけることもできない。
ふだんだったらこの作品でメルマガを書くのはやめようと、別の作品を選ぶと
ころ、ここでこれを観なかったことにしてはいけないんじゃないかと思う。
面白いかとか、好きかとかいった判断をするのなら、そんなに面白くも好きで
もない。でも、これを観てしまった以上、これについて何かを考える必要があ
るし、語る必要もあるだろうと、重くのしかかってくる。そんな感じだ。

戦争や、なかなか揺るがない社会の仕組みや、そうした大きな「世界の問題」
が絡むようなときも、好き嫌いではなくこのことを考えないといけないだろう
と思うことはあるけれど、今回の作品はそうしたタイプでもなく個人の物語で
あることが、このもやもやをどう説明したらいいのかわからなくなる、「難し
い」理由のひとつだ。

レオンがなぜ、アンナに正面から向かわず、覗いたり、夜中にこっそり部屋に
入り込んで彼女を眺めるだけのことをしているのか。とれたボタンを着け直し
てあげたりしてるのか。それを彼自身は愛だと思っているのだが、しかし部屋
に侵入して見つかりそうになったら隠れているのだから、それを「許されない
こと」という認識はあるはず。彼の言う愛とは、私たちの多くが言う愛とは別
のものなのか。
レオンのようなキャラクターは、コミュニケーション下手だから、アンナに話
しかけたり、誘ったりすることができなくて、陰から覗くだけになる、と解釈
しやすい。だけども、いろいろ考えていると、向き合って笑い合って話すこと
がそもそもレオンにとっては愛の目標ではなく、一方的に眺めることが愛なの
か、とも思える。
小さい頃から孤独に育ったから、他人と向き合うという選択肢が彼の中には用
意されていないのだ、とも。そう考えているうちに、穿ったことを考えても意
味がないんじゃないかな、とまた元に戻る。難しいね〜。


暗い色調の東欧の古い家屋、田舎の街並み、殺風景な取調室、映像の一つ一つ
が美しく、かつ、その中にきっと何かが示唆されているのではないかと、意味
を探したくなるようだ。その映像だけでも、感情移入云々なんてちっぽけなこ
とで、この作品から逃げたらいけないんじゃないの? と思わせる価値がある。

ただ、まだ物語の背景や設定を何も説明しないうちに、レオンが斧を買ったり、
火葬場で人の手を持っている映像を入れて、過度に怖いイメージを醸し出すの
はちょっとやり過ぎなんじゃないか。「映像が語るコトに注目しなきゃね」と
いう喚起にはなってるとは思うけれど。

■COLUMN
人見知りとか、コミュニケーション下手とか、人と会う機会が続くと疲れると
か、自意識過剰とか、後でいろんなことをくよくよ考えるとか(だんだん変わっ
てるな笑)そういった悩みに関することでは、たいていあてはまる自信がある。

とりあえず人づきあいを避けてしまう傾向にあるから、友だちも知り合いも少
ないし(多けれりゃいいってもんでもないですけどね)、仕事もしじゅう誰か
と空間をともにしなくていいフリーランスの形をとっている。

「人間関係」に括られることすべてに弱いとずっと思っていたのだけど、よく
考えると、そうでもないんだと、最近思う。
「コミュニケーションが苦手で」って言う人は(私を含めて)だいたい「コミュ
ニケーション上手」のイメージ像がワンパターンだ。
<誰とでもすぐにうち解けて、楽しい話をたくさんできて、ふだんからマメに
いろいろなところに顔を出して交友範囲が広くて、気安くものを頼める友人が
幾人もいる。屈託なく「人が好きなんです!」と笑える。>
だいたいそんなところだろうか。コミュニケーション上手な人のイメージ。そ
して、それに自分が少しも似ていないから、自分はコミュニケーション下手で
あると信じ込む、そんな傾向があるように思う。(私だけじゃありませんよう
に!)

でもね、当たり前のことだけれど、それら全部をできることが人づきあいの上
手な人ということじゃない。できるにしてもできないにしても、もっといろい
ろな形がある。

私の場合でいえば、初めて人に会って話すことは比較的苦にならない。仕事で
人に取材することもよくあるから、それが苦になっていると仕事にならない。
(ひょっとすると、仕事で知らない人としゃべる機会があるから、それが訓練
になっているということもあるかも)
ま、あんまりいろんな話題を振りまいて周りを和ませるとか、場を盛り上げる
とかいうことはできないので、相手にいづらい思いをさせたりすることはある
かもしれないから、その辺はごめんなさい。

きっと世の中には、「人と話すのが苦手」と感じていて、初対面の人と話すの
が苦痛でしかたない人もいるだろう。でもそんな人の中にも、職場でいろいろ
なタイプの同僚とうまくつきあっている人がいる。

私は職場を持った経験がとてもすくないこともあって、毎日同じ人と顔をつき
あわせて、同じ部屋で長時間仕事をして、しかもその人たちと雑談なんかもす
るというと、どうやっていいのかさっぱりわからない。毎日一緒じゃないなら、
他の人と協力し合うことはちっとも難しくはないんだけど。

あとは、めんどくさがりで小心者、出不精だから、新しく知り合った「この人
面白そうだな」て人と、より深く知り合う、仲良くなるってのも上手じゃない。
そして、初対面が平気とはいえ、大勢がいるパーティーでいろんな人と知り合
いになるなんてことはまずない。
声をかける、誘い出すことが下手なのだ。

映画から話がすっかりそれた。

私は子供の頃から、人との関係をうまく作れないと悩んでいたけれど、同じく
「人との関係をうまく作れない」と表現されて不自然のないレオンとは、下手
さの種類が違う。
程度の問題じゃなく種類の問題。

人間関係苦手、コミュニケーション下手、そう思っている人も、局面を仔細に
考えてみれば、案外苦もなくできていることと、とても苦手な種類のことがあ
る。苦手なところを肥大化させて、全体的にダメなような気がしているだけ。
コンプレックスってのは、そんなものだ。

レオンの姿に自分を重ね合わせるも、重ね合わせられないと思うも、よし。自
分ってのを見つめるのにも使える静かな映画だ。自分を見つめる見つめないは、
気分次第、お好みだけどね。

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2010年07月09日

No.233 抱擁のかけら

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.233   10.07.09配信
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★ シンプルな物語の多重な楽しみ ★

作品はこちら
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タイトル:『抱擁のかけら』
製作:スペイン/2009年
原題:Los abrazos rotos 英語題:Broken Embraces

監督:ペドロ・アルモドバル(Pedro Almodóvar)
出演:ペネロペ・クルス、ルイス・オマール、ブランカ・ポルティージョ、
   ホセ・ルイス・ゴメス、ルーベン・オチャンディアーノ、
   タマル・ノバス
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■STORY&COMMENT
2008年、マドリード。元映画監督で、目が見えなくなってからは脚本家として
活躍するハリー・ケインのもとに、ライ・Xと名乗る男が現れ、自分の監督す
る映画の脚本を依頼する。その男は、かつてのハリーの秘密を握っているらし
い。ハリー本人も、長年エージェントとして彼を支えるジュディットも、決し
て話そうとしない、14年前のある恋の物語が明かされていく。

現在(2008年)と、1994年の物語が、交互に入って映画は進んでいく。どんな
話なのか、まったく予備知識を持たずに観た私も、迷子になることはなかった
から、二つの時代を行き来する構成も特に複雑には感じないだろう。

簡単に言ってしまうと、94年の物語は富豪と映画監督と美しい女優の愛のもつ
れが描かれ、2008年の物語は、その愛の物語にあった不明部分がしだいに明ら
かにされ、同時にそのことによって人が再生していく。

物語としては特に珍しくなく、むしろどこにでもあるような恋物語。メロドラ
マにもありそうな設定だ。が、そのシンプルさ故に、多重な観方が楽しめるの
が、この作品の醍醐味じゃなかろうか。

多重な観方とは。
たとえば、ペネロペ・クルス演ずるレナの女優っぷり。いろんなウィッグをつ
けてみて、いろんなタイプのメイクをしてのカメラテストは、ペネロペのコス
プレショーみたいであり、男性でも女性でも、ペネロペファンなら、何度でも
観ていたいだろう。
そういうところから、「映画監督」の撮影対象を見つめる目を考えることもあ
りだ。映画撮影のシーンも少なからず出てくるから、映画の世界をのぞく楽し
みもある。撮る側と撮られる側の関係性を考えるのにもよく合う素材だ。
あるところで時間が止まってしまっていた人の人生が、再び息を吹き返す様子
は、何か長いわだかまりがあって苦しんでいる人にとって、大きなエネルギー
になるだろう。
そして、94年の愛の行方や、その詳細を隠そうとする当事者、突然現れた富豪
の息子(映画の脚本を依頼してきたライ・X)の企み等々、ミステリーに満ち
た展開と、ひとつひとつ紐解かれていく謎に心をゆだねるのもいい。

私が観て今回、いちばん心にささってきたことは、未来がなくて激しい愛の哀
しさだった。
予備知識なく観たけれど、2008年にレナの姿がない以上、94年の愛の物語は何
らかの形で終わっているはずで、富豪の愛人たるレナを愛した映画監督ハリー・
ケインと、富豪の愛人であるにもかかわらず、映画監督を愛してしまったレナ
は、ひたすら未来がなく、その愛は痛い。
見ていて痛々しく、ハラハラするのだが、その分、その愛は、肉も精神も鋭敏
で思いが凝縮され、見守っていると、その希有な痛さと鋭敏さが自分の心にも
移ったかのようになる。
そんな自分の心の動きが不思議だった。

物語がシンプルであるが故に、何度観ても、別の角度からの観方を楽しめる。
人によって注目点が違ってくる。
親しい人と批評をしあうのにも向いた作品。一人、自分の心の動きにつきあう
のにも、もちろん向いている。

■COLUMN
便宜上、というのも言い訳がましいが、上で物語のテーマと構造を「簡単に言っ
てしまっ」た。しかし、優れた物語というのは、こうした枠へのあてはめや、
簡単にまとめてしまうことを、拒否する力を持っているものだ。

この物語だって、あらすじだけ言ってしまえばよくある話だけれど、そう言っ
た瞬間、上の文章でも、今この文章でも、私の胸はチクチク痛み、「ごめんな
さい、そうじゃない、そうじゃないから、早く事情を説明させてくれ」とうめ
いている。

「よくあるこういうタイプ」、「あの話に似たあれ」、「こういうジャンルの
話」、そうしてタイプ分けしようとしても、どうしてもそれだけでは説明がで
きない。そう観客に思わせたら、その物語は下世話な言い方をすれば「勝ち」
である。
あらすじを説明して、「まあ要するにこういう話」と説明して心にちくちくこ
ないなら、きっとその物語はその人にとって面白くないか、大事でないか、ま
あ、そんなところだ。
よくある三角関係の物語と言い切ろうとした瞬間に、いやいや、それでは言い
切れない部分があって、と言葉を続けたくなる、これはレナとハリー(マテオ)、
エルネスト・マルテル(レナの愛人の富豪)の唯一無二の物語で、となんとか
その繊細な関係、特別な関係が伝わらないかと考える。物語は最低限、そうい
う感情がわいてこないと、「好き」にはなれない。

だから、すごーく好きな物語だったりすると、こういうレビューを書くときに、
むしろ歯切れが悪い。「こういうジャンル」とか「要するにこんなタイプ」と
まとめられてしまうことに逆らって、なんとか個別の物語のありかたを伝えよ
うとして、まとまらなくなる。言いたいことが沸いて出て、ばっさり内容を切
れなくなる。後で見返しても、下手なレビューだなーと思うのは、自分が入れ
込んでしまっている作品に多い。

おそらく、映画に限らず、物語というのは、最終的にそうやって観客や読者な
ど、受け手を巻き込んで、成立するものなんだろう。一般論では片づけられな
い。誰かの人生が、○○タイプと仕分けされて認識されるようなものではなく、
個別の唯一無二の何にも似ていないものであるように、その物語、その登場人
物の関係が、唯一無二のそれと感じられて、そう証言できる受け手が存在して
こそ、やっと物語はこの世に存在できるんだと思う。

だから、こういうレビューをやるのも、物語の成立や発展や再生や、新たな物
語の誕生に、少しは貢献してると、思ってるんだけどね、勝手に。

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タグ:スペイン
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2010年07月02日

No.232 レ・ブロンゼ/再会と友情に乾杯!

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欧 州 映 画 紀 行
               No.232   10.07.02配信
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★ みんなちょっとずつ悪人。笑って済まそう。 ★

作品はこちら
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タイトル:『レ・ブロンゼ/再会と友情に乾杯!』
製作:フランス/2006年
原題:Les bronzés 3: amis pour la vie 英語題:Friends Forever

監督:パトリス・ルコント(Patrice Leconte)
出演:ティエリー・レルミット、ジェラール・ジュニョ、
   ジョジアーヌ・バラスコ、ミシェル・ブラン、
   クリスチャン・クラヴィエ、マリ=アンヌ・シャゼル、
   オルネラ・ムーティ、ドミニク・ラヴァナン
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■STORY&COMMENT
パトリス・ルコントが、70年代後半に、リゾート地でのドタバタを描いて世に
出た『レ・ブロンゼ』シリーズが、同じメンバーで帰ってきた。すっかり中年
になったメンバーたちが再会し、またもや大騒ぎの物語がはじまる。

定期的にこういうジャンルの映画を紹介してる気がするけれど、「バカバカし
いコメディ」。深刻なドラマは脚本が粗いと(あくまで私の基準だけども)な
んだかのれないけれど、バカバカしくて、教訓もなんにもないようなコメディ
は多少何かが粗くても許せてしまう。

先行するシリーズ作品を私は観ていないので、前半はちょっと登場人物のキャ
ラクターを把握するのに時間がかかった。しかし、キャラクターをわかってい
ないと楽しめない、と思い込んで一生懸命把握しなくっちゃ、と思っていただ
けで、実際は、ぼーっと観てても難なく把握できるから、そんなに気にしない
でいい。

イタリアのリゾートホテルのオーナーとなった“ポペイ”のもとに、集まった
旧いリゾート仲間たち。
患者に訴えられ文無しになった美容整形医、アメリカで成功し、場違いなスタ
イルで闊歩する美容師、自分の犬が何より大事な奥様、などなどひじょうにわ
かりやすいキャラクターが繰り広げる、元妻を追いかける三角関係や、息子の
ゲイ問題、金持ちへのねたみ、下世話で誰でも吹き出せるドタバタの応酬だ。
洗練されているとは言いがたいけれど、こんな梅雨時のうっとおしい季節には、
難しいこと抜きにして笑える作品。
しかし、ダレることなく次から次へと新しい問題を起こしてテンポよく物語を
進めていく術は、隠れた「洗練」なのかもしれない。

脚本は出演者の何人かによる共同作業。昔の仲間が集まって、ワイワイ作った
んだろうと想像には難くない。楽しそうだと思うけれど、その雰囲気が内輪受
けだと感じる人がいるかな、ということも否定はできない。
絶対おすすめ、というほどではないけれど、気楽に笑って、すぐに忘れて明日
へ向かいたいあなたに!
(書いてて自分でも何言ってんだかよくわかんないけど)

■COLUMN
お国柄で片付けることはあまり好きではないのだけれど、フランスのコメディ、
(必ずしも笑う要素がなくても人間模様を描いた作品)というのの、面白くて
怖いところは、他人を意地悪に見つめる人の存在を隠さないところだ。

この映画の登場人物たちは、周りの人間の、うざいところや滑稽なところ、平
気でみな嫌がったり、めんどくさがったり、ときにはばかにしたりしている。
日本の作品だと、そこで、でも「ホニャララないいところはあるし」ていうよ
うなエクスキューズが、バカにされた側にも、バカにした側の性格描写にも付
け足されたりするのだが、そういういいわけめいたことがフランス人気質には
不要なんだろう。

もちろん、作品に表れる人間観と実際の生活が同じというわけではないから、
そこは、勝手にフランス人の現実を見たらいけないが。

親しい人に対しても「めんどくさいな」「うざいよ」と思うことはあって、そ
れでもその人のことは好きなんだけど、そんな嫌な面には意地悪な視線を向け
てしまう。また、親しくない人に対してもそれなりに悪く思ってはまあ、別に
そんなことは外に出さずに善人ヅラをして生活しているのが、私たちの日常。
それをことさらに「嫌な面」として出さずに日常として流したり笑ったりでき
る乾いた感覚が、いいなあと思う。笑ったまま後腐れなく終われる。
だけども、自分も人のことを日常的に批判がましく見てるかな、誰かからそう
やって見られてるかな、と思うとやっぱり怖い。
人を自然に描くってのは面白くて怖いことなんだと思う。

あ、いやそれにしても、「人を自然に描く」と評するにはこの映画、バカバカ
しい問題が多く起きすぎる。「人を自然に眺めて、それを大げさに凝縮して描
いた」が正しいかな。

それなりに悪人で度量が狭くて意地悪で、でも誰かに同じ意地悪を向けられた
らちょっと悲しい。
そんな弱い人は(つまり私のこと)どこかで、そんな小さい悪人ぶりを言い訳
しながら、謝りながら(誰にだろう?)毎日うじうじしてるから、善人である
ということを拠り所にしないで、みんなそこそこの悪人ぶりを共有できるなら、
ずいぶん楽だと思うんだ。

------
★前号の訂正とおわび
「まぐまぐ」でお読みの皆さんには、前号の「件名」で、
作品タイトルを間違って送付してしまいました。
彼女のはサビーヌ
となっていましたが、正しくは、もちろん
彼女の名はサビーヌ
です。ごめんなさい。

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2010年06月24日

No.231 彼女の名はサビーヌ

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欧 州 映 画 紀 行
                No.231   10.06.24配信
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★ 落ち着かないところも 印象に残るところも それが家族の視点 ★

作品はこちら
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タイトル:『彼女の名はサビーヌ』
製作:フランス/2007年
原題:Elle s'appelle Sabine  英語題:Her Name Is Sabine

監督・共同脚本:サンドリーヌ・ボネール(Sandrine Bonnaire)
出演:サビーヌ・ボネール
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■STORY&COMMENT
『灯台守の恋』『親密すぎるうちあけ話』など(作品セレクトは当メルマガで
取り上げているものにした)、女優として活躍するサンドリーヌ・ボネールが、
自閉症の妹サビーヌを、長年撮影したドキュメンタリー。

観客でいることにとても苦労する作品!

「扱いが難しい」とは家族が皆認識していたものの、普通に話し、普通にいっ
しょに旅行に行き、ピアノを弾いて楽しそうにしていたかつてのサビーヌと、
精神病院の入院を経て、30キロ太り、ただ怠惰に自分のこともできず、周りと
調和することもできず、自立して行動できなくなってしまった現在のサビーヌ。
まるで別人のような二人の姿が交互に映し出される。

もちそん、観る側が「苦労する」のは、その別人のようになってしまったサビー
ヌの昔と今を観なければならないことは辛い体験だ、ということが一つ。

もう一つは、何かを主張しているんじゃないかと思いがちな「ドキュメンタリー」
でありながら、「これ」という主張が見あたらないことだ。
サビーヌが子供の頃に「自閉症」への理解があれば。
サビーヌをきちんと診断できる医師がいたなら。
入院させるときに他の病院にしていたら。
もちろんそんな後悔は画面のなかからにじみ出てくる。

だけど、何かのメッセージや告発があるわけではなく、今と昔のサビーヌ、同
施設の他の入所者、その家族、介護士らをただ静かに見ている。そんな趣きが
強い。
それは、観客にとって少し居心地が悪い。何かを糾弾する映画なら、その糾弾
や批判に寄り添い、いっしょになって対象を非難してもよし、賛成できないな
ら、「違うだろう」と腕組みしてもよし。
意見表明がされているのなら、賛成、反対、どっちつかず、自分の立ち位置を
ある程度決めて観られるから、ラクなのだ。しかし、そうではなく、静かに情
景を映し出されるものには、あっちを見、こっちを感じ、観てる状態が安定し
なくて疲れる。

その安定しなさ具合は、観ている側の客観性がはがされるから起きるのだと、
私は思う。
客観的でいられるのは、冷静でいられることである。腕を組んでちょっと引い
て自分の意見を言うことができることだ。
誰かを声高に批判するのでなく、ただその人を見つめている。それは家族の視
点に他ならない。誰のせいともいえず、何が悪いとも言えず、迷いもありつつ
ただただ見つめる。この作品では、観客はこんな家族の視点に引き込まれて、
腕を組んで冷静に何かを言うようなことができなくなってしまう。

介護士や施設入居者の家族へのインタビューでは、行政の現状や、看護、介護
する側の意識など、「客観的事実」を多少垣間見ることができる。
しかし、大半は、客観的な視点じゃなく、安定した冷静な状態を捨て、家族が
家族に向けて注ぐ眼差しにつきあっていくのが、この作品を観るということ。

そんな観客を務めるのはちと辛いが、いい体験であることも間違いない。
サビーヌの姿はずっと目に焼きついていると思う。

■COLUMN
ドキュメンタリーって、自分の知らない事実を知ろうとか、社会の現実を考え
ようとか、変に身構えてしまう。ある年齢まで、虚構の物語に逃げ込むことに
忙しくて、ドキュメンタリーやルポルタージュの類をほとんど読んだり観たり
しなかったので、単にまだ「ドキュメンタリータッチ」に慣れていないのかも
しれない。
だから(なのか因果関係はよくわからないが)、こういう私的な目線にあふれ
たドキュメンタリーは、簡単に立ち位置が決まらないから落ち着かないけれど、
その分、観終わって振り返ると、とてもよかったなあと思う。事実を知らしめ
てくれるもの以上に、気持ちは入り込み、印象を深くする。

上に書いた「家族の視点」というのは、今私がそう名づけたのだけれど、具体
的に説明すれば、社会的な目的や、方向が特に定まらないということだ。誰か
を批判したいわけでも、誰かを告発したいわけでもない。「何を言いたいのか」
がはっきりしない視点だ。これは完全に勘だけど、そのように作ったのではな
く、どうしてもそうなってしまうものなんじゃないかと思う。

家族で起きたことというのは、家族に対しではなく外の誰かであっても、誰か
を糾弾すればその分、家族自身への批判としてかえってくる。
たとえば見抜けなかった医師を責めるならば、その医師を選んだこと、その医
師の後に別の医師に診せなかったこと。病院の対応を非難するなら、病院の選
択、そもそも病院に入れなければいけなかった家庭の事情、等々、何を言って
もすべて、最終的には家族同士が矛先を向け合うことにもなりかねない。

家族の一員として家族を題材にドキュメンタリー映画を撮るのなら、誰かを悪
者にするのではなく、社会に潜む問題点をえぐるのでなく、ただ、ひたすら静
かに家族の姿を見つめる、その方法しか、とれなかったんじゃないだろうかと。
家族だからこそできる静かな見つめ方、家族だからこそ誰も糾弾しないように
するならこうするしかない描き方。私が「家族の視点」と言ったのは、その二
つのことからである。

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★コメントくださった方へ返信

信田 さま
ヤスナ役の女優さん、ほんとうに魅力的な人ですね。「メジャー」な国の女優
さんなら、いつかどこかで再会することもあるでしょうが、セルビアの映画は
そんなに日本に入ってくるわけではないし、いつか会えるといいのですが…。
『おれは直角』、題名しか知りませんでしたが、機会を探して読んでみますね。
ありがとうございます!

★DVD
『彼女の名はサビーヌ』¥3,990

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価格は2010年6月24日現在のAmazonでの価格です。

★今後の予定
ちょっと時間に余裕ができてきたので、
もう少し短いスパンで発行できると思います。
即週刊に戻るのは難しいかも知れませんが、
なるべく週刊に近くなるようにします!

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