2010年05月31日

No.230 ウェディング・ベルを鳴らせ!

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欧 州 映 画 紀 行
              No.230   10.05.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 日頃使わない、感情と感覚の筋肉を、鍛えてみませんか ★

作品はこちら
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タイトル:『ウェディング・ベルを鳴らせ!』
製作:セルビア、フランス/2007年
原題:Zavet 英語題:Promise Me This

監督・脚本:エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)
出演:ウロシュ・ミロヴァノヴィッチ、マリヤ・ペトロニイェヴィッチ、
   リリャナ・ブラゴイェヴィッチ、ストリボール・クストリッツァ、
   ミキ・マノイロヴィッチ、アレクサンダル・ベルチェク
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■STORY&COMMENT
田舎で暮らす少年ツァーネは祖父と二人暮らし。自分の死後のツァーネを思っ
た祖父は、ツァーネに牛と3つの約束を持たせて町へ送り出した。1.牛を売っ
てイコンを買ってくる 2.何かお土産を買う 3.花嫁を見つけてくる 
町にやってきたツァーネは、美しく元気なヤスナに出会って一目惚れ、しかし
ヤスナは母の借金のカタにヤクザに売られようとしていて……。
ギャングとの闘いに勝ち、ヤスナを助けて結婚することができるのか。

バカ騒ぎです。下品です。上のストーリー説明、特に気にしないが正解です。
巨匠と呼ばれるようになると、こういうバカなことをやっても大真面目に受け
止めてもらえるという好例。
その分、緻密な心理描写がどうのこうのと言わないでも、後先考えず、結ばれ
る愛を手放しで祝福。その恍惚がストレートに伝わってくる。

発明家の祖父のいろいろな仕掛けで、やってくる人々がいちいち落とし穴に落
ちる。家やら窓やらが崩れる。クライマックスでは頭突きで建物を壊しちゃう
とか。ギャグマンガをそのまま映画にしたようなシーンがいくつも出てくる。

とても真面目な人は腹を立てるかもしれないから、そういう人にはあんまりお
すすめしない。それから、映画に描かれているところまでが限界で、この場で
文字で説明してしまうと本当に下品になるから説明はしないけれど、人によっ
てはそれだけで拒否なんじゃないかと思う場面もあるから、注意。

ストーリーはスピード感で駆け抜けて、色やイメージや、頭を使わないギャグ
に、刹那的に反応すればいい映画なんじゃないかと思う。
ま、正直に言うと、クストリッツァ作品では『アンダーグラウンド』とか『ラ
イフ・イズ・ミラクル』
とか、大騒ぎのなかにも、政治や社会への皮肉がこめ
られた作品の方が好みではある。
しかし、理屈をこねるんじゃなく、音や色や映像やシーンの展開で、観客の感
覚を刺激して、ふだん使わない感覚と感情の「筋肉」を使わせてくれるところ
はさすが。決して、下品で直接的なギャグを並べただけの映画じゃない。

日常では使わない感情の筋肉を刺激してくれて、この世界に酔ったように楽し
める。酔った世界は観る人それぞれが構築していい。自由に、身をゆだねて、
浸ってください。

■COLUMN
前も書いたかもしれないけれど、私は実に暗い子供時代を送っていて(今も根
は暗いですが)、マンガ『ドクタースランプ』を読んで、どうしてこんなふう
に、笑ってあっけらかんと暮らせないんだろうかと涙するような子供だった。

それなりに人生の荒波をくぐり抜けた(笑)せいか、もうそれほどナイーブで
もない大人だけれど、「このあっけらかんとした世界」にどうしてもあこがれ
てしまう気持ちは健在だ。
「後は野となれ山となれ」とさえ考えないほどに、とりあえず行動し、物が壊
れようが、人が転がろうが、気にしない。まあ、何とかなる。
そんな世界は、もちろん現実的ではない。しかし、私の気持ちの中でのリアリ
ティはむくむくと獲得していくのである。

何をやるにも石橋を叩いて叩いて叩いていた棒がすっかり壊れてしまって前に
進めなくなる、極度の小心者の私だが、何にも考えずにとりあえず飛び込んで
しまいたいなー、と思う瞬間があって、いやそれは小心者故かもしれないが、
ここ最近は特にそれを感じる。

「とにかくやってみれば?」そんな背中を押してくれる何かを待っているのか
もしれない。このちょいと卑怯な小心者に、「何とかなるって」の勢いをもた
らしてくれる。この映画はそんな力を持っている。
迷っていることがある人、日常のささいなイライラが積み重なって息が苦しく
なってる人、ひょっとしたら、意外な出口を作ってくれるかもしれない作品!


おまけ
この作品で私が特に気に入った点、二点。

1.麦わら帽子からのぞくポニーテール、かわいい!
ヒロイン・ヤスナは、麦わら帽子に穴をあけて、ポニーテールの髪をそこから
出してかぶっている。
とっても愛らしくて、清楚でセクシーで、かつ元気に見える(ヤスナの姿形に
影響されてるけれど)。
ポニーテールができるほど髪の長い人はぜひやってみてください。

2.音楽!
クストリッツァ作品では、かつて、ゴラン・ブレゴヴィッチという、今もヨー
ロッパ映画界で活躍する作曲家が参加することが多く、その頃も好きだった。
本作の音楽は、ツァーネを助けてくれる祖父の親友の孫役で出演もしている、
監督の息子、ストリボール・クストリッツァが担当。バルカンの伝統的な哀愁
漂うメロディに、テクノをプラスした重厚にはじけたサントラ、私はずいぶん
聴き倒した。おすすめ。
http://amzn.to/a35bUQ

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★コメントくださった方へご返信

・おおくぼ さま
『夏時間の庭』、気に入ってくださって、私もとってもうれしく思います!
ここのところ、観る映画の数ががたっと減っている私ですが、期待に応えられ
るよう、いろいろな作品に触れていくようにしますね。

・にゃんたろう さま
エリック・ロメール、今年は亡くなった年ということで、特集上映を組む施設
や名画座がいくつかあるようです。レンタルでは観られないものも多いので、
ぜひチェックしてみてくださいね。

★DVD
『ウェディング・ベルを鳴らせ!』¥3,264

サウンドトラック『Promise Me This』 ¥3,734

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価格は2010年5月31日現在のAmazonでの価格です。

★次回配信予定
6月の半ばくらいには時間ができるのではないかと思います。
その頃には「ほぼ週刊」といえるくらいには出すつもりです。
不定期でごめんなさい。

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日常のまぬけな話、意味のない独り言ばかりですが、
けっこう毎日つぶやいていますので、お気軽にフォローください。
映画の話を期待している方は失望してすぐにいなくなってしまうようなのです
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感想、質問、リクエストなど、なんでもお待ちしております。

編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/about.html
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一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
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2010年05月16日

No.229 我が至上の愛〜アストレとセラドン〜

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.229   10.05.16配信
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うわーお、2か月近くお休みしちゃったんですねえ。ごめんなさい。
しばらくはこんなぼちぼちなペース、6月半ばには従来のペースになるのではな
いかと、希望を込めて思っております。

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★ 恋は滑稽で愛らしい ★

作品はこちら
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タイトル:『我が至上の愛 〜アストレとセラドン〜』
製作:フランス・イタリア・スペイン/2007年
原題:Les amours d'Astrée et de Céladon
英語題:Romance of Astrea and Celadon

監督・脚色:エリック・ロメール(Eric Rohmer)
出演:アンディ・ジレ、ステファニー・クレイヤンクール、セシル・カッセル、
   セルジュ・レンコ
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■STORY&COMMENT
5世紀のフランス・ロワール地方。羊飼いのアストレは、恋人のセラドンが他の
女に心を移したと誤解し、セラドンに「もう自分の前に現れないで」と告げる。
絶望したセラドンは川に飛び込み、流されニンフ(精霊)たちに助けられる。
村ではセラドンは死んだと思われ、一方セラドンはニンフに惚れられ城から逃
れられず。純粋に思い合う恋人たちの行く末は……

久しぶりの配信なのに、コアな作品を選んでしまった。ごめんなさい。
エリック・ロメールという人は、このメルマガで何度か書いているように、私
が最も敬愛する映画作家で、彼はこの1月に亡くなった。追悼として彼の作品を
取り上げたいと今年に入ってずっと思っていて、追悼ならば、と、最新&遺作
となったこの作品を、今回選んだ。

「コア」と表現するのは2点の理由から。
1点は、たぶんレンタル店には置かれていない、ということ。ごめんね。
もう1点は、ストーリーが現代の感覚で観ると不自然ともいえる時代劇であるこ
と。ヨーロッパ映画やミニシアターが好きでよく観るよ、という人を「一般」
と定義してもなお、一般受けはしないだろうと思う。

でもでもしかし。好きな監督の最後の作品というひいき目ももちろん入っての
ことだが、それでもやっぱり私はこの作品が好きだ。
「どんなところが好きなんだい?」そんな質問に答えて語るのが、今回のメル
マガ、だと思っていただければ。好きなところはいろいろあるんだけれど、そ
れを全部語り出すと、ものすごい量になるので、1点に絞って。「恋の滑稽さと
愛らしさ」についてだ。

恋人が他の女に心を移したと思えば嘆くのは当然、怒るのもすねるのも当然。
しかし、そこから「もう自分の前に姿を現すな」と頑なに拒み続けるのも、そ
れを真に受けて、それならいっそ死んでしまおう、なんていうのは、本人たち
にしてみれば真剣でも、ハタから見れば滑稽だ。
さらに、セラドンは、命が助かった後も「自分の前に姿を現すな」という愛す
る人の命令に意地でも忠実であろうとする。
その頑固さは微笑ましくて声に出して笑ってしまうほどなのだけれど、もちろ
ん、それは我が身を振り返ればきっと、同じような滑稽なことを何度もやって
きただろう。だけども、結局その滑稽さが当事者にも傍観者にも愛おしいんだ。

おとぎ話に近いから、現代的な意味でのすれ違いにやきもきするってことはな
いんだけれど、その分、純粋に「恋」が見える。相手に忠誠を誓うこと。相手
を思うこと。ときには嫉妬すること。
現代人を描くと、仕事とか暮らしとか、恋以外のいろいろなものの情景を含め
なくてはリアリティがない。そしてそれがドラマとして面白くもする。しかし、
5世紀の羊飼いたちの物語ならば、自然のなかで羊を追い、歌い、楽器を奏で、
詩を吟じ、思う人を思い笑って涙を流す。感情だけをクローズアップした描き
方が可能になるのだ。そして、それ故の面白さも生まれる。

アストレとセラドンを取り巻く人々は、頑固で滑稽な恋人たちに、ちょっと手
こずりながらも、突き放さないで寄り添う。話を聞き、気持ちを受け止め、見
守る。説得する。恋にはそういう人とのつながりもあったっけ。そういう美し
さも思いしらせてくれる。周りの人たちも、愛とは何ぞやを昼間から語り、歌
い、奏で、日々を暮らしている(ように見える)。

そしてもうひとつ。ちょっと話は横に逸れるが、『クレールの膝』という作品
でロメールは、「膝をなでる」という行為がそんなにもエロティックにどきど
きさせるのだということを教えてくれた。今作品では、「性別がはっきりしな
い者同士の愛撫」がこんなにもエロティックさを増すことを教えてくれた。
「ネタバレ」になるので全ては説明できないけれど、ラストの長い長い愛撫は、
男女じゃないかも!というスパイスがあるから余分にエロティックだ。

明るい自然の風景のなかにある純粋な意味で愛らしい恋をご堪能あれ!

■COLUMN
17世紀に書かれた、5世紀のロワール地方を舞台にした小説の映画化。これがこ
の作品のプロフィールだ。
ロワール地方の自然をそのまま映し出したかったが、現代の現地は自然が失わ
れてしまっていたため、3年かけてロケ地を探し、オーベルニュ地方でロケを行っ
たそうだ。

アフレコを嫌う監督は、この自然の風景のなか、自然の音が鳴るなかで、その
まま俳優たちに演技をさせ、セリフを録音した。
登場人物たちの会話の背景に、鳥の声、衣服をバタバタさせる風の音、そんな
「自然」の音がふんだんに耳に届き、その場に自分がいるような「自然」さを
感じられる。私は特に風の音が聞こえるところが好きだ。

また、ロメールによると、原作小説には、この5世紀の時代への誤解、別の時代
との混同などが見られるという。
映画化するにあたり、現代解明されている5世紀の風俗を入れるのではなく、
17世紀当時に、5世紀頃の風俗と想像していたものを採用したそうだ。衣装等は、
17世紀の版画などに登場する5世紀の風俗を参考にしているという。

その衣装だが、男性のものはともかくとして、女性たちが着ている、中間色の
布を組み合わせた色遣い、身体をしめつけず、ゆったりと着こなすスタイル、
今、街で着てても「かわいい〜」と言われそうな雰囲気だ。「森ガール」が着
ててもおかしくないと思う(あんまり知らないんだけど)。

「森ガール」とは違うけれど、私は、ラクであんまり身体の線を出さないぞろ
ぞろ長い服が好きなので、ああいう服着たいなあと、本気で思う。自然がいっ
ぱいのところでなくてもいい。この季節、あんな服を着て風にバタバタと吹か
れてみたら、気持ちがいいだろうなあ。

★★★
ロメール作品、追悼の年として、今年中にもう1本取り上げられたら、と考えて
います。読者の皆様のなかで、これが好きだから取り上げて、もしくはこれを
観たことがないから気になっている、というようなものがあったら、教えてく
ださい。
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もちろん、その他のリクエスト、感想もぜひ!!

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『アストレとセラドン 我が至上の愛』¥3,791
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価格は2010年5月16日現在のAmazonでの価格です。

★次回配信予定
今月中には必ず配信します。
エミール・クストリッツァ監督の『ウェディングベルを鳴らせ』を予定。この
くらいの予告をしないと、また出さなくなってしまうかも。
私は公開時に映画館で観て以来ですが、パワーたっぷりのバカ騒ぎの狂乱を、
もう一度観て書くのを楽しみにしています。

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2010年03月25日

No.228 夏時間の庭

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欧 州 映 画 紀 行
               No.228   10.03.25配信
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ご無沙汰しております。久々の配信です。

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★ 時が流れ、移ろうさびしさと美しさ ★

作品はこちら
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タイトル:『夏時間の庭』
製作:フランス/2007年
原題:L'heure d'été 英語題:Summer Hours

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)
出演:ジュリエット・ビノシュ、シャルル・ベルリング、ジェレミー・レニエ、
   エディット・スコブ
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■STORY&COMMENT
パリ郊外。緑と木漏れ日あふれる広い庭で、家族が食事をしている。ここは大
画家であった叔父の作品と財産を守りながら静かに暮らすエディットの屋敷。
夏には誕生祝いを兼ねて、エディットの子どもたち3人が集まってくる。
エディットは、自分の死後は、美術品や屋敷はすべて売って、子どもたち、孫
たちには自分たちの人生を歩いて欲しいと思う。しかし長兄フレデリックは、
代々受け継いでいくのだと、主張する。

フランス映画を観ていると、ほんとうによくみんな庭にテーブルを出して食事
する。皆で、あるいは少人数で、庭で食事して、そこでの会話がそのままドラ
マになる。そんなシーンを持つ作品を集めて一ジャンルにしたっていいんじゃ
ないかと思うのだけれど、これはそんな映画だ。

ただ、幸せそうな三代の家族の食事が見られるのは、前半の前半くらいまで。
エディットが亡くなって、3人の子どもたちの意見が食い違うところからが本当
のドラマの始まりだ。
といっても、財産争いだとか、骨肉のなんとかじゃない。
静かに家族のそれぞれの変化、時の経過を思わせ、一抹のさびしさと、一抹の
可笑しさと、苦笑を含んだあきらめと、もどかしさを含んだ親愛と、そんなも
のがないまぜになって、観客一人ひとりに別個の感情を湧かせる。
だから、言い訳する訳じゃないが、こういう映画だよ、と説明しづらい。注目
するところも一人ひとりきっと違って、それをまた、おそらく、皆、自分の経
験と混ぜて何かを「感じる」んじゃないかと思うのだ。

普通の家庭を築いて2人の子どものいる長兄フレデリックは、母から受け継いだ
思い出とともに、調度品も、叔父の作品も、ずっと一族で受け継いでいこうと
する。アメリカで雑貨のデザイナーとして活躍し、アメリカ人男性と結婚しよ
うとしているアドリエンヌ、成功を夢見て渡った上海に完全に生活の拠点を移
そうとする末のジェレミーは、毎年遊びに来られるわけでもないし、この広い
屋敷は使えないという。
ジェレミーは、上海に家族で住む家を買おうと考えていて、まとまったお金が
あればとてもありがたい。アメリカンスクールに通っている子どもたちは大学
はアメリカと決めているらしい。

フランスの土地に足をつけて暮らすフレデリックは、皆が当然、屋敷に愛着を
持ち、思い出の品々を宝としたがるだろうと思いこんでいたから、母が生前に
語ったように本当に作品も屋敷もすべて売りに出すことになるとは思っていな
かった。そのショックは大きく、売りに出そうと言う下の2人も、ショックを受
けさせたことに、辛さを感じている。
一つ一つの局面の描写は決して長くない。しかし、簡単には割り切れない、容
易にそれと指し示せない感情がめぐる人の心を、どのシーンでも繊細に描写す
る。

エディットの孫にあたる、フレデリックの娘シルヴィーのエピソードが、最後
につけ加えられているところがいい。自分には決定権のない「家の問題」にうっ
すらいらつく思春期と、「夏の思い出」を子どもらしく大切にする素直さの間
で宙ぶらりんになる彼女の姿に、三代の時の流れがいっそうリアルに感じられ
るのだ。

■COLUMN
この映画、それが見たくて観たんだよ、という人もたくさんいるだろう。オル
セー美術館全面協力により、登場する家具や、絵画、花器など、「本物」の「
美術品」が使われている。架空の画家「ポール・ベルティエ」は、自らが大芸
術家であり、当時の目利きであり、同世代画家のよき理解者であったらしい。

美術館に展示されているような(そして、映画の最後にはその展示されている
状態で登場する)家具や調度品が、実際に生活に使われている物として見られ
る、そのことだけでも、この作品を観る価値はある。

その豪華さ贅沢さに感心しながら、この物語のなかで、結局美術品を手放して
しまう兄弟たちは、もう、価値ある美術品を生活で使うような時代には生きら
れない現代人ということなのかな、という思いにもとらわれる。
それは同時に、より名をなしたアーティストが、「本物の」目利きとして、同
時代の良き物を発掘し、別のアーティストを評価し、その人たちの生活がアー
ティスティックで上質だとされる古き良き時代がもう来ないということでもあ
るのではないか。

フランスという自他共に「芸術の国」だとする国でさえ、生活のなかに美が生
きるよりも、美術館という箱に収まることが普通になる。アドリエンヌの生き
方もジェレミーの生き方も、どちらもいいなと思うし、現実を考えれば私も、
実利を選ぶだろうと思う。
だけれど、どこかに、大画家で目利きの「ポール・ベルティエ」の世界が実在
してもいいんじゃないかと、無責任に一流の美しさに憧れる自分もいる。


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★DVD
『夏時間の庭』¥4,446

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★次回配信予定
週刊にはしたいのですが、するつもりなんですが、
予告する度に、それが1週間後に「ウソ」に変わっちゃうので心苦しく。
でも来週は出せるんじゃないかと……(含・希望)

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2010年02月11日

No.227 それでも恋するバルセロナ

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欧 州 映 画 紀 行
               No.227   10.02.11配信
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★ ふんだんに盛り込まれた対話劇 ★

作品はこちら
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タイトル:『それでも恋するバルセロナ』
製作:スペイン・アメリカ/2008年
原題:Vicky Cristina Barcelona

監督・脚本:ウディ・アレン(Woody Allen)
出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、スカーレット・ヨハンソン、
   レベッカ・ホール
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■STORY&COMMENT
このところヨーロッパでの活躍が続くウディ・アレンが、スペインで撮った作
品。
ヴィッキーとクリスティーナは親友同士。価値観も感覚もよく似ているけれど、
恋愛観は正反対だ。ヴィッキーは安定と堅実を求め一流ビジネスマンと婚約中。
クリスティーナは恋に刺激を求めている。
ヴィッキーが論文を書くためにバルセロナの親戚の家に滞在することになり、
クリスティーナもそれに同行してバカンスを楽しむことになった。
クリスティーナはさっそくプレイボーイの画家フアン・アントニオに恋をし、
彼のエキセントリックな元妻が戻ってきて大騒ぎの恋模様が……

おおかたの人の日常とはちょっとずれてる恋模様を、アハアハと笑いながら眺
めて、さらに、バルセロナの色彩豊かな観光スポットをそこかしこで見ながら、
「あー、面白かった」と言った直後にすっかり内容を忘れてしまえる、後味さっ
ぱりの楽しい作品だ。
これは褒めてる。余韻たっぷりにいつまでもああでもないこうでもないと考え
られる作品もいいけれど、観ているあいだはじゅうぶん楽しめて、終わっても
後を引かないのも、作品の持つりっぱな個性と能力だ。
ただし客観的にそう言えるかどうかは自信がない。「いや、そんなことはない。
終わってからもいろいろ考えて余韻がいっぱいだったよ」という人もいるかも
しれない。これは私個人の感じ方だ。

この作品が特徴的なのは、ストーリーの大半がナレーションで進められること
だ。
クリスティーナがフアン・アントニオに惚れ、それに反対していたヴィッキー
も誘惑されたらうっかり心を奪われて、元妻マリア・エレーナが入り込んで、
という顛末も、そのときどきのヴィッキーとクリスティーナの心情も、ナレー
ションで進む。
だからこの映画はつまらないという意見をネット上で多く見たけれど、私はこ
このところが面白いと思う。おそらくこの作品の肝は全体を通すストーリーで
はなく、いくつもの「対話劇」だ。

画家に誘われ ほいほい ついていこうとするクリスティーナをヴィッキーがた
しなめる。ヴィッキーの棘のある言葉を のらりくらり とかわすフアン・アン
トニオ。クリスティーナ、フアン・アントニオ、マリア・エレーナの三角関係
の緊張などなど。
ナレーションでストーリーは早々と進められ、観客がゆっくりと見せてもらえ
るのは、登場人物の対話シーンだ。話の展開に合わせて、対話はその都度違う
シチュエーションに設定される。つまり、この作品の中で繰り広げられる対話
劇は、緻密に状況を設定された短いシチュエーションコメディがいくつもある
ようなもの。
緊張に満ちているもの。みんながみんなそれぞれに滑稽な場合。対立具合が可
笑しいもの。人間の力関係の変化やら、状況によるズレやら、楽しむポイント
はきっとそれぞれだ。
短編対話劇を、いくつも欲張って観たような気になる。この映画ではぜひ「対
話」に注目を。

■COLUMN
堅実・安定を望みながら、肝心なところで安定に甘んじられなくなるヴィッキー、
他の人とはちょっと違う人生を歩みたくてずっと「自分探し」を続けるクリス
ティーナ、女がいないと調子が出ないフアン・アントニオ、夫を刺して別れて
おきながら、何かあると結局舞い戻ってくるエキセントリックなマリア・エレー
ナ。
ちょっとずつ大げさに描くキャラクター設定も魅力だ。

私自身が親近感を覚えるのはクリスティーナだ。
自分がわかるのは「それはいやだ」ということだけ。ああでもない、こうでも
ないと自分の世界や自分のあり方を探し続ける。人から提示されるものは、そ
れは自分の歩む道じゃないと反射的に思う。
芸術家につい惚れるのも、「芸術家」のようなセンス勝負で生きる存在に憧れ
るけれど自分ではそれができない埋め合わせのようにも見える。

私も「ちょっと違う」ことがどこかかっこいいなー、と思って、「安易」「あ
りがち」なものは全部「そんなの違うもーん」と避けて、じゃあお前は一体何
だと問われたら、答えるほどの中身がない、てところがある。そしてそれは、
あんまり認めたくない実情と隠れたコンプレックスでもある。

「そんなレールに乗っちまったら、つまんないところにしか到着しないじゃな
いか」と、避けて避けて選り好んだ末、選択と決定をできないでいるうちに、
レールどころかバス停すら見えないところで(心象風景として)細々といま暮
らしている私は、「クリスティーナ、「ちょっと違う」を続けるのも適当なと
こにしておいた方がいいよー」と思う。
けれど、きっとそれ以前に私に足りないのは、クリスティーナのような行動力
であって、あれだけアクティブに動ける彼女なら大丈夫かいな、てことも考え
る。

さて、この登場人物のなかに、皆さんのなりたい人はいますか。それともこう
いう輩だけとは関わりたくない、なんてのがいますか。

■INFORMATION
★おことわり
今回のCOLUMN欄を書くにあたっては、中島みゆきの楽曲「線路の外の風景」
(アルバム『転生』所収)から発想を得ているのではないかと思います。自分
でもよくわからないのですが、書いたものを眺めるとたぶんそうじゃないかと。
参考:http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND367/index.html

★今後の配信予定
「不定期気が向いたとき配信」となっていてごめんなさい!!
来週木曜の配信は現時点では難しそうです。
その次の木曜、2月25日頃の配信が目標です。

★DVD情報
『それでも恋するバルセロナ』2,923円
アフィリエイトリンクです。
価格は2月11日現在のAmazonでの価格です。

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2010年01月14日

No.226 そして、私たちは愛に帰る

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欧 州 映 画 紀 行
              No.226   10.01.14配信
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2010年、最初の配信です。
ここのところ映画を観たりメルマガを書いたりする時間がとれず、
不定期配信となってしまいごめんなさい。
いつもいつも「週刊」を目指してはいるのです。
今年も気長におつき合い下されば! よろしくお願いします。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 憎悪のち 許しと再生 ★

作品はこちら
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タイトル:『そして、私たちは愛に帰る』
製作:ドイツ・トルコ・イタリア/2007年
原題:Auf der anderen Seite 英語題:The Edge of Heaven

監督・脚本:ファティ・アキン(Fatih Akin)
出演:バーキ・ダヴラク、トゥンジェル・クルティズ、
   ヌルギュル・イェシルチャイ、ハンナ・シグラ、ヌルセル・キョセ、
   パトリシア・ジオクロースカ
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■STORY&COMMENT
ドイツ・ブレーメン。トルコ系移民のアリは、引退した後、トルコからの出稼
ぎ娼婦イェテルを囲って暮らしている。ある日、口論になってアリはイェテル
を突き飛ばした拍子に殺してしまう。
娘に仕送りを続けている話を聞いていたアリの息子ネジャットは、娘のアイテ
ンを探しにトルコへ発つ。
ドイツとトルコ、3組の親子をめぐる、死と憎悪と許しの物語。

取り上げようかどうしようか迷った。正直にいうとそんなに気に入った作品で
はない。
この監督はあり得ないようなメロドラマ的設定や偶然の出会いやすれ違いで物
語を盛り上げる作風で(いくつかしか観ていないので、そうじゃないものもあ
るのかもしれない)、まあ、今回も、びっくりするような偶然とすれ違いがいっ
ぱいだったけれど、メロドラマっぽい、と文句をつけてもそこはしかたがない。

むしろ、メロドラマっぽい仕立てを、それっぽい格調あるものにしようとして
いるところが、ちょっと中途半端に思えてしまったのだ。
自らもドイツに生まれたトルコ系移民2世である監督の、思い入れが詰まりすぎ
てしまったのかな、という気もする。

しかし、憎んだ人間を許し、再生する人と再生する関係の物語には、素直に涙
したことも事実。素直に涙した自分の心の動きってどんなもんだろう、そして、
なぜ世の人がこの物語に心を動かすのかな、なんてことを考えてみようと思っ
た。

殺人者となった父を憎むネジャットは、その贖罪としてトルコでアイテンを探
す。同時にトルコ系だがずっとドイツで過ごしてきた自分のルーツを見つめる
旅でもある。アイテンを見つけるまでと、生活の拠点もほぼ移し、彼には、ド
イツとトルコとの間で引き裂かれた自分の存在を「何とかする」気持ちもあっ
たのだろう。

ネタバレになってしまうのであまり詳しいことは言えないけれど、アイテンを
追ってトルコに向かうドイツ人はもう一人いて、この人にはアイテンを許せな
い訳がある。
人が死に、すれ違いがあり、関係やら家族やら、友人関係やら、いろいろぶっ
壊れたあと、許しと平安は訪れる。再生の場面そのものは描かれないけれど、
すべて壊れたあとに、ゆっくりと生まれ変わり、関係を再構築し、人生の新し
い場面が始まっていく、それをじゅうぶんに予感させる終盤は、カタルシスと
いう言葉がふさわしいだろう。

もちろん再生することと許しがあることそのものへの感動はある。しかしどう
も私の涙はそれだけじゃない。
誰かと許し合うとき、腹をくくって話そうとするとき、人は本音をぶつけて、
心の底からの気持ちを伝え、相手は心の底からそれを受け止める。たぶん、私
が涙してしまうのは、その様子が美しいからだ。そして、誰かにそんなふうに
ぶつかりたいと思う。ディープな人との関係を恋しいと思う故の涙だったんじゃ
ないか、そう自分では考えた。
あくまでも、<私の場合>。世の人の場合までは、結局、考え及ばずだった。

■COLUMN
ここ何年か、たぶん今世紀に入って少ししてから、グローバルにつながる世界
の物語、そして怒りや恨みを鎮め、運命を受け入れる物語が目立つように思う。
これは単なるイメージ、印象なので、具体的にこういう作品がそうと指摘でき
なくて申し訳ないのだけれども。(もうちょっと時間があったら、探して具体
的に挙げるのだけど……ごめんなさい。)
おそらく、ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んだテロからはじまる、
全世界を包んだ憎悪と報復の連鎖が、背景にあるのだと思う。

憎悪の連鎖は何も生み出さないし、憎み続けることをやめ、許す物語は心にひ
びく。こんな時代のなか、何かの可能性を信じさせてくれる。
私も、世界で起きていることも、個人と個人のあいだに起きていることも、最
終的に許し許されるところへ向かえば理想だと思う。
物語には理想を見せてほしい。救いを用意してほしい。

ただ、そういう物語が偏在してしまうのも、なんか違うんじゃないかと思う。
なぜなら、悲しいことに、許しはそんなに偏在していないからだ。
理想が現実になることは難しいからこそ、物語に人は理想を託す。だけれど物
語が描いて見せることで、人を励ますことができるのは理想だけじゃない。
とんでもなくみっともないことや、救いのない悲しさがあって、じたばたのの
たうちまわって、何も解決できなくて、そのまま憎しみや怠惰や恨み辛みが生
活にとけ込んでいくこともある。
そういう「負」を描くことは、憎む感情自体が間違っているわけじゃないと、
「負」の感情に苦しむ人を励ますことができるはずだ。

最後に許しと平安が訪れて、涙して終わるのもよいけれど、そんなことは受け
入れられないと、もっともっと抗い続ける物語があってもいいと思う。
だって、憎み続けることは悲しいけれど、憎むことも精一杯やって、どこかで
認めなければ絶対に許しも平安も訪れない。最終的な寛容にばかりスポットを
あてていると、どこかで無理が出る気がするんだな。人を救うはずの物語が、
「許せよ」と強制する圧力になったり。

だから、憎しみや恨みや、運命なんて受け入れてやらないぜと抗することにス
ポットをあてる物語が、もうちょっとあってもいいと思う。バランスとして。
辛い、だろうけれど、そんな物語を受け止めるのは。

■INFORMATION
私がいちばん好きな映画監督であるエリック・ロメールが亡くなりました。
彼の死去に寄せ、blogに短い文章を書きました。よかったら読んでください。
http://mille-feuilles.seesaa.net/article/138112418.html


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★コメントくださった方への返事

おおくぼ さま
こちらこそ、ありがとうございます。
私のコラムをきっかけに何かを感じてくださったことに感謝します。

渋木 さま
「メルマガだけ読んで映画の方を観てなくて」て、けっこういろんな方にいわ
れます(笑)。もちろん映画も観てもらえるとうれしいですが、それより私の
文章で心落ち着く、なんて言ってくださることが本当に心に響きます。

みなさまからいただくコメントには、いつもいつも励まされていますが、
前回いただいたこのお二人からのコメントに、いつも以上に力づけられました。
返事が遅くなってしまいごめんなさい。
今後もおつきあいいただけると嬉しく思います。

※コメントへの返事は、基本的に次の配信中でいたします。
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★DVD
『そして、私たちは愛に帰る』¥3,161


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編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/about.html
日々のつぶやき・twitter: http://twitter.com/chiyo_a

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Copyright(C)2004-2010 Chiyo ANDO

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2009年12月13日

No.225 偶然

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欧 州 映 画 紀 行
               No.225   09.12.13配信
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お久しぶりです。不定期配信になっていてごめんなさい。
どうぞ、このメルマガのこと、忘れないでくださいね。

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★ 起こり得たすべての可能性に敬意を払って ★

作品はこちら
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タイトル:『偶然』
製作:ポーランド/1982年
原題:Przypadek 英語題:Blind Chance

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ(Krzysztof Kieślowski)
出演:ボグスワフ・リンダ、タデウシュ・ウォムニッキ、Z・ザパシェビッチ
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■STORY&COMMENT
医師を目指す学生ヴィテクは、父が死の直前に「もう医者にならなくていい」
と言いのこしたことに衝撃を受け、進むべき道がわからなくなっている。
そんな折に、ヴィテクは急いでワルシャワへ向かう…… ワルシャワに向かう
列車に飛び乗ろうとして、「列車に乗れた場合」「警備員にとめられた場合」
「乗り損なった場合」から、まったく違う人生になる、3つの物語が描かれる。

以前紹介した『ラン・ローラ・ラン』などは、この映画が下敷きになっている
のだろう。ある分岐点から枝分かれして、全然別の結末にたどり着くという構
成だ。
ワルシャワ行きの列車に乗ろうとするシーンからはじまる3つの物語は、それぞ
れ別の目的でヴィテクがパリ行きの飛行機に乗ろうとするシーンを結末とする。
別の人生を歩んでいた場合には出会って親密になった人々が、通りすがりの人
として空港に姿を現す遊び(皮肉?)がおもしろい。

列車に乗れた場合には、共産党に入党し、警備員に静止された場合には、地下
組織に、乗り損なったら休学を撤回してまた医師の道を歩む。いずれの人生に
おいても、ヴィテクには、「父の不在」がのしかかり、枝分かれした人生にお
ける「父のような存在」たる人との関係が、その人生を左右することになる。
どの人生がいちばんいいのか。それを考えてこの作品を観ると、辛い鑑賞とな
りそうだ。

この作品の本質とはずれるのだけれど、私はこれを観ながら、可能性の無限さ
と、現実の貴重さというのを強く思った。

現実に、列車に乗るか乗らないかで、その先がまったく別のものになるほどの
転機というのは存在しないかもしれない。
しかし、可能性としては、あんなこと、こんなこと、今の人生からかけ離れて
いるようなことも、絶対に起こらなかったとは言い切れない。

今、私の人生に起こっている全てのことは、そうしたいくつもの可能性がすべ
てなくなって、たった一つ現実として「自分の人生」たり得ているもの。
ひょっとしたら出会ったかもしれない人、愛したかもしれない人、あるいは仕
事になったかもしれないもの、もしかしたら大事な趣味になったかもしれない
こと、等々いろいろな可能性を潰して潰して反故にして、今がある。

現実にはならなかったけれど、あるいは起こったかもしれない、すべての可能
性に敬意を払うなら、今あるこの現実の人生を、意地でも大事にしないといけ
ないなあ、と思うんだ。

■COLUMN
上のようなこと(すべての可能性に敬意を払って現実を生きなくっちゃ)を考
えたのは、私の仕事からの連想だ。

私はいろいろな文章を書くことを仕事にしているのだが、自分の名前を出して
書くような作家さんではないので、どんな仕事をするにしても、そもそも私が
書くという必然性がない。
もちろん、書いてと依頼してくれる人は、ある程度「私」を信用して頼んでく
れるわけだけど、日程が合わなかったら断るしかなくって、その場合は誰か他
の人が書く。誰が書いても、一定の水準が保たれていれば問題ない。

文章を書いていると、それがどんな内容でも、ある程度そのなかにのめり込む
ものだ。一生懸命書くし、一生懸命よりよくしようと思う。そうしてのめり込
んでいると、何が起こるかって、今かかえてるその原稿がどんどん「絶対的」
なものに思えてくるのだ。書き上げて、読み直して、推敲して、とやっている
うちに、最もできた形のような気がしてくるのだ。

しかし、実際は全然そうではなくて、その形になるまでには、入れたかったけ
れど字数の関係や論点がわかりにくくなるからと、どっちを残そうかな、と迷っ
てバッサリ切った内容もあり、紹介するエピソードは、そのエピソード自体の
大切さ・面白さよりも、他のページの記事と重ならないように選択することも
ある。
書いていくうちに決して必然ではない無数の選択をして、いくつもの分岐点で
何らかの選択をして、“たまたま”その形になっているだけだ。
前述のように、そもそも私が書く必然性がないのだから、他の人が書いたなら
ば、ということも考慮すればさらに、無数の可能性が追加される。

ものを作り上げることは、無数にあった数々の可能性を潰して潰して1つに絞
ることだ。どこかで道をそれて、もっと素敵な可能性から遠ざかったかもしれ
ない。そんな素敵な何かを退けて、結果を1つ世に送り出す。

何かを書くときには、いつも、退けた無数の可能性の成仏を願って、私がたど
り着くことのできなかった結果に敬意を払わないといけない、と思っている。
そして、それは、きっと人生全体でも同じことなんだろな。
あり得なかったことに思いを馳せるのは難しい。だけれど、それをたまには思
いださないと、今あるこの現実に責任を持てないかな、と思う。


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『キェシロフスキ初期作品集II 偶然/殺人に関する短いフィルム』¥4,935

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タグ:東欧
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2009年11月19日

No.224 幸せになるための恋のレシピ

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欧 州 映 画 紀 行
               No.224   09.11.19配信
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一週間お休みしちゃいました。ごめんなさい。
何事もなかったように今週もはじまるメルマガです。

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★ 笑顔のこぼれる風景は、いい。 ★

作品はこちら
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タイトル:『幸せになるための恋のレシピ』
製作:フランス/2007年
原題:Ensemble, c'est tout 英語題:Hunting and Gathering

監督・脚本:クロード・ベリ(Claude Berri)
出演:オドレイ・トトゥ、ギョーム・カネ、ロラン・ストーケル、
   フランソワーズ・ベルタン、アラン・サッシュ
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■STORY&COMMENT
舞台はパリ。そうそう悪い家の出ではないらしい、掃除婦をしているカミーユ
は、同じアパルトマンに住む貴族のフィリベール、その同居人フランクと知り
合い、ひょんなことから彼らと同居することになる。親切で上品なフィリベー
ルと違って、フランクは、毎日別の女の子を部屋に連れ込んでがさつ。カミー
ユとフランクの相性は最悪だが……。

軽くふわっと楽しめるラブコメディ。「貴族」という設定のフィリベールをは
じめ、男2人と女1人の共同生活がさらっと始まるところ等、こんなことあった
らいいだろうけど絶対にないだろうな、という「おとぎ話」の空気、いい感じ
の現実感のなさが楽しい。
登場人物の誰かにどっぷり感情移入して観るよりは、ハタからちょいと変わっ
た人たちを眺めてるスタンスがいいんじゃないかな。あくまでも軽ーく、軽ー
く、スマートに観るといい。

カミーユとフランクが、最終的に恋におちることは分かり切っていることなの
だけれど、なかなか二人に接点ができなかったり、フランクの祖母を介して二
人が間接的に信頼関係を作ったり、一筋縄でいかないストーリー展開だ。この
辺りは、あっさり自然に見せているけれど、意外に手が込んでいる、といった
ところ。

吃音のフィリベール、仕事のこと家族のこと女のこと、いろんなことにイライ
ラしっぱなしだったフランク、人を信じられず、まともに恋できなくて茶化し
てごまかしちゃうカミーユ、それぞれが、少しずつ人生をいい方に回し出して、
笑顔が増えていく変化の様子がいい。

映画論や映像論、ドラマツルギーのどうやらこうやら論も楽しいけれど、そう
いうことぜーんぶうっちゃって、皆がこうやって笑い合っている風景は、難し
いこと抜きに、いいね。それだけでこちらもハッピーになれる。
そんな映画。息抜きに、ちょっと落ち込んだときに、どうぞ。夜中に頭を空っ
ぽにして、なんてのもいい。
腐れ縁の異性と、恋人になるかそれともこのまま悪友でいるか、なんて瀬戸際
にいる人以外は、楽しい他人事のおしゃれなラブコメで楽しめると、思います
よ。

■COLUMN
この邦題、何度見ても覚えられない。実は今もまだ覚えていない。
「幸せ(になるため……)」「レシピ」は、最近の「ミニシアター系」につけ
られるタイトルキーワードの王道らしい。
ちょっと検索してみたところで、
『幸せになるためのイタリア語講座』
『マーサの幸せレシピ 』
『幸せのレシピ』
『幸せになるための27のドレス』
『恋するレシピ 〜理想のオトコの作り方〜』などなど。

そりゃ、誰だって幸せになりたいし、「方程式」なんて言われるよりは、「レ
シピ」と言われる方が、人間くさいコツと、魔法の一振りの両方がある気がし
て、説得力があるんだろう。

映画を売る人たちは、売れないとしょうがないから、注目してもらうための大
切なコピーとして、邦題をつくる。ときには、原題とかけ離れたものにする。
売れないと元も子もないことは、私にもよくわかる。だから、あんまり邦題の
悪口は言わない。そのときの事情を考慮した上でせいいっぱい「いい方向」に
向けた結果だと思っている。
だけれど、原題から遠く離れるのはよいとしても、内容からも遠ざかることが
しばしばだと、「あんまりじゃないかよ」と疑問も呈したくなる。

この作品には、王道の「幸せ」と「レシピ」に加えて、女性が好むだろう映画
にとりあえずつける魔法の言葉「恋」までついているから、そのタイトルといっ
たら、すっかり没個性だ。

劇場未公開の作品だから、「公開時に見逃した〜」という客は見込めない。得
体の知れない作品じゃあ見向きもしてもらえないから、「レシピ」「幸せ」
「恋」と、どこかで聞いたようなアイテムで飾りつけて「ほら、これはあなた
が観るべきジャンルの映画なんですよ」と訴えかけようとした結果がこのタイ
トルだと思う。
そうせざるを得ない事情もわからんではない。お店でDVDを手にとってもらうに
は致し方なかったのかもしれない。

けどね、それで少なくとも無視されることはなくなって、客の注目をちょっと
でも惹くことができて発売当初の面目を保っても、この没個性のタイトルでは、
きっとこの先埋もれてしまう。結局、目先の利益のために、作品を埋もれさせ
ることになるんじゃないだろうか。

「レシピ」は、何かを得られそうでおしゃれで、耳馴染みが良くて、便利な言
葉かもしれない。
だけど。
「レシピ」とか「処方箋」とかでひとまとめに解決策が浮かばないような、誰
かの物語をヒーコラ描くのが映画ってもんでしょ。
一人、二人、あるいは数人の人生や心や生活を、ひとつひとつ、個別に描くの
が映画でしょ。それを指して、とりあえず「レシピ」なんてくっつけてると、
いつか、映画を売る人たちが、映画を見失っちゃうような気がするんだ。

もう新しい表現を考え出してもいいんじゃないかな。

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★コメントくださった方への返事
尾崎 さま
情報ありがとうございます。イングランドの名門家系の逸話も知っていると、
映画もいっそう楽しくなりそうですね!

MTさま(melma!のコメント蘭にメッセージくださった方)
映画を複数回観るの、大好きです。一度観た映画も、ストーリーを知った上で
観ると、また別の面白さがみえてくることって、ありますよね。

コメントへの返事は、基本的に次の配信中でいたします。
メールで返事をご希望の方は、アドレスとその旨お書きください。
(melma!サイトからの投稿は別)

★DVD
『幸せになるための恋のレシピ』¥2,977

価格は2009年11月19日現在のAmazonでの価格です。

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2009年11月06日

No.223 ある公爵夫人の生涯

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欧 州 映 画 紀 行
                No.223   09.11.06配信
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★ いつの時代も女が自由と居場所を求めている ★

作品はこちら
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タイトル:『ある公爵夫人の生涯 』
製作:イギリス・イタリア・フランス/2008年
原題:The Duchess

監督・共同脚本:ソウル・ディブ(Saul Dibb)
出演:キーラ・ナイトレイ、レイフ・ファインズ、
   シャーロット・ランプリング、ドミニク・クーパー、
   ヘイリー・アトウェル
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■STORY&COMMENT
18世紀後半イギリス。スペンサー家の娘ジョージアナは17歳で名門貴族デヴォ
ンジャー公爵と結婚する。公爵は世継ぎを作ることにしか興味がなく、結婚生
活に失望するジョージアナ。しかし機知に富んだ彼女は、社交界で注目を浴び
て、自分の居場所を見つけていく。
子を産んでも女の子続き。夫に無視されるなか、政治家を目指す昔なじみのチャー
ルズと再会し……

実在の人物の伝記が原作である。歴史にはあまり詳しくないのだけれど、イギ
リスではポピュラーな「歴史上の人物」なのかな。実際の話より作り物(本物
と思えるように上手く作り込まれた)が好きな私は、あまり期待しないで観た
のだけれど、ジョージアナの行く末をいちいちハラハラして眺められる、いい
ストーリーだった。最終的な収まり方なんかについては、ホントいうと「だか
らホントの話ってつまんないっ」と思わなくもないんだけど。

幸せな結婚生活を夢見て嫁いだはよいが、現実に絶望する、という話は、まま
ならぬ時代の定番中の定番の物語である。子どもを産める産めないはすべて女
の責任、しかも男を産めなきゃ義務を果たしたことにならない、なんてひどい
時代だ。もっとも現在だって、家によってはそれに近いことは起こるし、産ん
でこそ女(妻)という考え方も根強い。

結婚初夜、服を脱がせる面倒くささに「女の服はどうしてこう複雑なんだ」と
いぶかる公爵と、「これが女の表現なんです」と説明するジョージアナ、そし
て公爵は、人が何かを表現する、ということの意味をまったく解さない。この
ことが象徴するように、「つまらない」公爵と「魅力的な」ジョージアナは対
照的だ。
夫が退屈だと席を立ってしまう政治談義も、ジョージアナは興味深く聞き、男
たちを相手に堂々と議論をふっかけたりする。その機転とセンスで、社交界の
ファッションリーダー、つねにその動向が注目される夫人として、彼女はその
才能を開かせる。

旧態依然とした男に対し、自分の才で自分の居場所を確保するジョージアナと
いうキャラクターは、現在の女性が(もちろん男性でも)スムーズに感情移入
できる。あと数年でフランス革命が起きる時、自由を尊ぶ時代の雰囲気ともマッ
チする。

昔なじみのチャールズは、自由を訴えて選挙に出る。ジョージアナは有力支持
者として彼を支える。自由を訴え、個性を奪われた家から引きずり出そうとす
る恋人は、新時代の救世主にもなぞらえられる。
こうして見ると自由の新風はいつも時代にも吹くらしい。それは、自由はいつ
も足りたくて、人が欲するからだろうか。

ただ男の子を産むことだけを求められ、自分にも娘にも興味を抱かない。そん
な夫と暮らしていて、紛れもない「自分」を愛してくれる人に出会ったら、こ
ろっといっちゃうよね、うーん、わかる。
と、同時に、多くの人に注目され、ファッションセンスも抜群で華のあるジョー
ジアナは、私にはまぶし過ぎて、彼女の親友(ネタバレになるから多くは言わ
ないが、いろんな関係である)、エリザベスの生き方に、私はより興味を持っ
た。

コスチューム好きな方はヨーロッパ時代劇特有の豪華な衣装をめいっぱい堪能
できるだろう。そして私は、こういう時代物では、お城の前に広々開けた庭を
見るのが大好きだ。

■COLUMN
スペンサー家とは、ダイアナ妃の出身家系で、この映画に登場する三角関係は、
ダイアナ妃とチャールズ皇太子とカミラ夫人を連想するように描かれている、
らしい。「スペンサー家」という名前でピンとこなかった私はちっとも思いつ
かなかったんだけれど。

チャールズ皇太子がカミラ夫人と結婚したとき、これは見方を変えたら、「大
恋愛の成就」、「貫く純愛」だよと思ったけれど、ダイアナ妃とカミラ夫人の
あまりの人気のギャップに、決してそうは思ってもらえない結婚のようだった。

悪者にされる人にも、それなりの理屈があるもので、悪者側から事態を見れば、
そうじゃないときに比べて同情の余地があったり、むしろそれが正しくて当然
と思えたり、どうしてもそうなってしまう不可抗力がうかがえたりするものだ。
ふつう、人は忙しいから、とりあえず何となく中立っぽい立場、何となく常識っ
ぽい立場からものを見て、いかにもひどい人を「ひどい奴だ」とし、何か被害
を受けた人を「かわいそうに」と、判断をする。
それはそれで問題はないのだけれど、いつも、そればかりなら、見方が硬直し、
物事の後ろに隠れているものが見えなくなるかもしれない。

そういうとき、悪人側からものを見せたり、とるに足らない人の側から世界を
見せたりできる「物語」の力は大きいと思う。
日常暮らしていてはあまりできない、視点の移動を「感情移入」という装置を
使っていとも簡単に実現するのだ。想像力は世界を変える原動力。「物語」は、
世界を前進させ、ちょっとでもよくするのに、決して欠かすことのできないも
のだと思う。

この映画、もしも別の視点から眺めるとしたら私は、デヴォンジャー公爵の側
から見てみたい。妻に関心をはらわず、世間体ばかりを気にする貴族の、孤独
や不器用さや人知れない悩みが垣間見られるかもしれない。

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★コメントくださった方へお返事
尾崎 さま
『4分間のピアニスト』、ピアノを習ってらっしゃった方なら、さらにいろんな
角度から楽しめる映画だと思いますよ。ぜひぜひご覧になってください!

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★DVD
『ある公爵夫人の生涯 』 ¥2,880(09年11月6日現在のAmazon価格)

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2009年10月30日

No.222 4分間のピアニスト

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.222   09.10.30配信
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作品はこちら
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タイトル:『4分間のピアニスト』
製作:ドイツ/2006年
原題:Vier Minuten 英語題:4 Minutes

監督・脚本:クリス・クラウス(Chris Kraus)
出演:モニカ・ブライブトロイ、ハンナー・ヘルツシュプルング、
   スヴェン・ピッピッヒ
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■STORY&COMMENT
刑務所でピアノ教師として働くクリューガーは、ジェニーという札付きの受刑
者にピアノの才能を見出す。ジェニーは子どもの頃からピアニストとして将来
を期待されていたが、さまざまなことが原因で道を踏み外したのだった。クリュー
ガーが彼女をコンクールに出すよう周りを説得し特訓がはじまった。

ちょっと前の作品。最初は映画館で観たのだけれど、その時は確か、ピアノシー
ンの映像があまり好きになれなかった。最近、この作品の音だけをたまたま聴
いて、「お、実はいい感じ?」と、もう一度観てみることにした。

相変わらず、いちばん盛り上がるピアノ映像のところに、どうも乗れなかった
のだけれど(曲はいいんですよ!)、内容を知ってて観ていると、ピアノ教師
とすぐに暴力をふるいたがる受刑者という二人の女性の心理劇が綿密に作られ
ている様を堪能することができた。

幼い頃からコンクールでよい成績を残しながら、刑務所で札付きとなっている
ジェニーのかかえるもの、優れた演奏家でありながら孤独に過ごし、刑務所で
ピアノを教えるクリューガーがかかえる過去、クラシック以外を低俗なものと
一切受けつけないクリューガーと、誰にもじゃまされない「自分の音楽」を持っ
ているらしいジェニー。二人がぶつかりながら、思いがけず接近し、融和する
かと思えば突然また壊れる。

作り手がここで披露する綿密さというのは、決して二人の事情を明らかにする
のでなく、さらに互いのいだく感情をクリアに伝えるのではない。綿密に、わ
かりそうでわからず、想像するか諦めるしかないところに、観る者を追い込ん
でいく。
その追い込みは二人の間の緊張をよく伝え、さらに、クリューガーの興味が自
分からジェニーに移ってしまったと嫉妬するクラシックファンの看守、やっか
んでリンチを加えようとする他の受刑者が絡み、物語は緊迫を増す。

高度に緊迫を張りめぐらせて迎える最後のピアノシーンは、緊張した分を昇華
させる唯一のシーンと言ってもいい。だから、あまり難しく考えずに、用意さ
れたクライマックスには心をゆだねて観るのがおすすめ。
(音と動作が微妙にずれているとか、あの身体の位置と動きからその音出るか
なとか、重箱の隅はつついたらいかんと、ついつついちゃった私は思う)
容赦ない人間のぶつかり合いが、とにかく印象的な一作である。


■COLUMN
近頃、私の生活はなんだか複雑になってきている。
昔はシンプルだったのだ。
「好きなもの」と「嫌いなもの」がはっきりしていて、疲れたときや落ち込ん
だときにはたっぷり寝てゴロゴロして、好きな歌手の歌を一日中聴いて、好き
な映画をくり返し観れば生活は立て直った。
そのくり返しで生きていれば、つたないながらも生活は形になった。

しかし数年かけて事情は変化し、近頃になって、これはなんだかいろいろ難し
くなってきたな、と頭を抱えている。

基本的にしつこくのめり込む方なので、一度好きになったものは、その後ずーっ
と好き。だから好きな歌手も好きな映画も私の中で持続している。違うのは、
他にも好きなものがあるってことで、特に変化したのは、昔は身体を動かすこ
とが大嫌いだったけれど、今は割と好きってところだ。
晴れた休日は、だから、昼まで寝てゴロゴロするのか、起きてサイクリングに
行くのか迷わないといけなくなった。
身体を動かしたいなってときには、自転車にしようか泳ごうかクライミングジ
ムに行こうか、選択しないといけない。

少数の好きな作家をしつこくくり返し読んでいれば満足だったものを、「エン
タメ」と括られる作家も読んでみようと思い、実用書の類も視野に入れるよう
になって、読書生活は複雑化する。

すべてがそんな具合に、やりたいこと、見てみたいことが積み重なっていく。
その上、仕事までしなきゃいけないってんだから大変だ。この仕事だって、昔
は無条件に「嫌なもの」と位置づけてシンプルだったんだけれど、これが最近
そうでもない。遊んでるよりずっと楽しいとはいわないけれど、仕事に熱を傾
けることは心地よいと思う。

きっと昔よりも私の世界は広がっていて、それはきっと誰に話したって歓迎さ
れて祝福されることなんだろう。だけれど、広がった世界は同時に、やりきれ
なかった事柄ばかりを心に積み上げて、人生を少しずつ辛くする。
辛さが降り積もるとたまに、心が今よりも閉じていてシンプルだった頃に戻り
たい、と思うことがある。

だけど、一度開けちゃった世界の扉は、めったなことでは閉じないんだなあ。

ジェニーとクリューガーの二人が出会ってピアノをはじめるまでは、ある意味
で安定していたのだと思う。ジェニーは暴力的で看守たちにも他の受刑者にも
目を付けられる問題受刑者として。クリューガーは、悔恨をかかえこんで、静
かに孤独に、音楽(クラシック限定)だけに興味をいだいて暮らす老女として。
しかし、二人は出会ってぶつかり、新しい世界を開いてしまう。ジェニーは自
分の音楽を形にすることや、もう一度誰かを好きになったり信頼したりするこ
とに目覚め、クリューガーは、音楽だけでなく人に興味を持つこと、思い出の
外の人間関係に触れることに。

それで散々二人は傷つくけれど、この二人は開けてしまった世界の扉を閉じる
ことはないだろう。

シンプルだった頃も悪くはない。だけど、流れにまかせて自分が変わること、
そして、たとえ、長続きしなくても、中途半端で終わっても、やってみたこと
のなかった何かをやってみるのは、それよりずっといい。

昔よりもちょっと複雑な今に、戸惑いながらも、扉は閉ざさずきっとこのペー
スでえっちらおっちらやっていくんだろうと、引いて自分を眺めるこの頃の私
である。

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編集・発行:あんどうちよ
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2009年10月22日

No.221 ワン・デイ・イン・ヨーロッパ

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欧 州 映 画 紀 行
               No.221   09.10.22配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 旅の緊張感と楽しさと寂しさを ★

作品はこちら
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タイトル:『ワン・デイ・イン・ヨーロッパ』
製作:ドイツ・スペイン/2005年
原題:One Day in Europe 

監督・脚本:ハネス・シュテーア(Hannes Stöhr)
出演:ミーガン・ゲイ、ルドミラ・ツヴェートコヴァ、フロリアン・ルーカス、
   エルダル・イルディズ、ペーター・シェラー、ミゲル・デ・リラ、
   ラシダ・ブラクニ、ボリス・アルキエア
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■STORY&COMMENT
サッカーのチャンピオンズリーグ決勝戦「ガラタサライ対デポルティボ・ラ・
コルーニャ」が行われる1日を舞台にヨーロッパ4都市で繰り広げられる4つの
物語。
決勝戦が舞台のモスクワ、2チームの本拠地イスタンブール、サンティアゴ・デ・
コンポステーラ、それにベルリンがそれぞれの舞台。どのエピソードも、その
地を訪れる外国人の旅行者が主人公となり、強盗にまつわる物語が繰り広げら
れる。
ちなみにこの決勝戦は架空の試合(本物だったら、ヨーロッパの頂上クラブを
決める試合としてはちと地味すぎるかな)。

サッカーの大きな試合の日を舞台にしているけれど、サッカー自体は話にはそ
れほど関係ない。サポーターが闊歩している、テレビの前で皆が応援している、
など、「ふだんとは違う日」の演出と、ある1つのイベントを通じて遠いところ
の都市が結ばれるイメージの呼び覚ましのアイテムになっている。

旅行者の浮き足だった感覚と、所在ない感覚、お決まりの警察の不親切な態度、
そして、旅へと誘われる異国の景色(ただしモスクワはそれほどでも!)、大
きなドラマはないけれど、おかしさと哀しさの同居したかわいいオムニバスだ。
ロシアのイギリス人、トルコのドイツ人、スペインのハンガリー人、ドイツの
フランス人、どの話も気が利いているのだけれど、私はトルコで狂言強盗をす
るドイツの若者の話が好き。
狂言がいつばれてしまうんだろう、という適度なサスペンスと、最終的にサッ
カーが人をつなぐあったかさが心地よい。

もうひとつ、私がこの作品でとっても気に入ったところは、とても笑うような
場面ではないところで、思わず吹き出すようなセリフやシーンがあること。緊
張感と、それがほどけた落差で小さなことで笑ってしまう、旅での精神状態が
再現されるような気がして。
それも頻発するんではなくて、忘れた頃に、たまにそんなシーンがくるところ、
品がいい。
たとえば、強盗にあったイギリス女性が、モスクワのおばさんに電話を借りよ
うと「telephone、telephone」と言ってもなかなか通じないから、とりあえず、
「フォーン、スキー」て言ってみるシーン。言ってる本人は大真面目だから、
よぶんにおかしい。

旅先の緊張と、ちょっと心細い気持ち、異国で浮き立つ気持ちと、それらを併
せ持った旅人たちの少し笑える所業、とるに足らないといえばそんなもんだけ
れど、かわいく趣のある作品。疲れて異国に心を飛ばしたい夜にどうぞ。

■COLUMN
もう、ずーいぶん旅に行っていない。
もともとひどい出不精で、休みになればゆっくり寝て、本でも読んで映画でも
観て、とだらだらした日常を拡大して過ごすのが私のお決まりだから、日帰り
で別の町に遊びに行くことも滅多にない。

それでも以前は、1年に1回くらいは、どこか他の土地に物見遊山に出かけるこ
とはあったと思うけれど、ここ3年くらい、帰省と仕事を除くと本当にどこにも
旅行に行っていないのではないかと思う。

出不精に加えて、仕事の都合でまとまった時間のとれるタイミングが前もって
わからず、旅行の計画が立てにくいこともあって、どこか別の土地へ遊びに行
くことが、どうしても後回しになる。だけれど、1泊2泊の旅に思い立って出か
けることくらい、できないことじゃない。誰かのせいでも仕事の都合でもなく、
流行り言葉(?)で言えば「努力不足・自己責任」てやつかな。
そのくせ、誰かが旅行に行った話を聞けば「いいなあいいなあ、あたし最近ど
こにも行ってないよー、いいなあ」を連発するのだから世話はない。
でも、旅の土産話を聞かせてくれる人は、「いいなあ」と言われて気分は害さ
ないでしょ。だから持ちつ持たれつなの。

今年のはじめにパスポートが切れたときも、「いつでも旅に出られるようにし
ておきたい」なんて言いながら、どうせどこにも行かないままに有効期限ばか
りが消費されるのが悔しくて、そのままになっている。
でも、やっぱり、旅立ちのときって、ふと突然やってくることもあるから、パ
スポートくらいは作っておこうか、どうしようか、と、今年はずっと迷ったま
まに“ぐずぐず”だ。
試しに新しいパスポートにしたなら、どこにも行かずともせめて“ぐずぐず”
だけは治まるか、ほんのちょっとでも心が軽くなるか、なんて思っている。

こんなぐずぐず出不精には、パスポート取得のため電車で15分弱の都庁に行く
のも、一仕事であるんだけども。

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★DVD
『ワン・デイ・イン・ヨーロッパ』¥3,990
http://bit.ly/38kX4n
短いURLにしていますがAmazonの商品ページにリンクしています。

★コメントくださった方へお返事
・ポポンタ・パンチョス さま
おお!マイケル・ナイマン、お好きですかー。前回の作品をきっかけに、ナイ
マン参加の映画をもっとチェックしようかと思っています。「ゼッタイオスス
メ」があったら、ぜひ教えてくださいね!

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2009年10月15日

No.220 僕がいない場所

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欧 州 映 画 紀 行
            No.220   09.10.15配信
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 愛が欲しいのは大人も同じ ★

作品はこちら
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タイトル:『僕がいない場所』
製作:ポーランド/2005年
原題:Jestem 英語題:I Am

監督・脚本:ドロタ・ケンジェルザヴスカ(Dorota Kedzierzawska)
出演:ピョトル・ヤギェルスキ、アグニェシカ・ナゴジツカ、
   バジア・シュカルバ、エディタ・ユゴフスカ
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■STORY&COMMENT
孤児院にいるクンデルは、詩人を夢見る繊細な少年。友だちとも教師ともう
まくいかず、孤児院を抜け出し母のもとへと逃げ込む。しかし町中の男をベッ
ドにひきずりこむことに忙しい母は完全に育児放棄している。
置き去りにされた船に住み着き、くず鉄を集めて一人で生きることにしたク
ンデルだが、近所の裕福な家の少女と交流するようになり……

クンデルに興味を持って船に遊びにやってくる少女は、美人で成績のよい姉
に比べて自分は容姿も頭もイマイチ、だから家でも学校でも孤独で、同じよ
うに孤独を抱えるクンデルに親近感を覚えている。
現代の子どもの孤独を描いた秀作ということに、映画の宣伝文句ではなって
いるけれど、「子どもを描いた映画」という感じはあまりしなかった。
これは、私がそう感じたというだけで、他の人がどう感じるのかは、わから
ない。

大人からの愛に飢え、同年代の子どもからのいじめに怯え。それって、子ど
も特有のことではなくて、大人も同じだ。愛されたい人に愛されず、愛して
くれているはずの人の愛も保証されず、誰かにかまってほしいけれど、みん
な自分の生活がいそがしい。相手にしてくれる人は、悪意を持ってからかっ
てくる奴ばかり。

クンデルのように自他共に認める完全な孤独でなくとも、人間関係への不全
感や不安感、自分がひょっとしたら要らないんじゃないかという思いを抱え
る人は案外多い。私もその一人で、何かある度に首をもたげてくるそんな不
全感を、画面のクンデルにシンクロさせながら観て、ポロッと涙がこぼれる
ところもあった。
「人との関係」に敏感な人ほど、「子どもの物語」というより「自分の物語」
と捉える傾向が強いんじゃないかと思う。

「人との関係」にこの物語自体がとてもセンシティブになっていることは、
物語の展開のしかたにも現れている。
いわゆる「ヨーロッパ映画っぽい」淡々と少年の生活を映し出す起伏の少な
い物語だが、ここで少し話が動いてくな、というところに、必ず、誰かとの
コミュニケーションがある。
ずっと否定されることが日常だったところに、肯定や心配の言葉がかけられ
る、少年を覚えていて誰と認めてくれる、そんなところから前半のクンデル
の物語は動き、やがて一人の生活がなじんでくる頃、物語を動かすのは、信
頼や期待のあとにもたらされる他者からの拒否や否定だ。

信頼や期待のあとの孤独の方が、相対的には辛い。孤独を描こうとすると、
他者との関係や、関係を変化を捉えるようになる、てことだろうか。

ここに描かれている「孤独」、観る人によって感じ方は異なるだろう。どう
感じたか、観たらぜひ感想を教えてくださいね!

■COLUMN
この作品、世界的な知名度ではたぶん、監督より、監督の夫である撮影監督
兼プロデューサーより、音楽担当のマイケル・ナイマンがいちばんだろう。

私は今まで、マイケル・ナイマンの音楽を、特別好きだとも、特別気に入ら
ないとも、感じたことはなかったのだけれど、この作品の音楽は、とっても
面白いなと思う。
クンデルの心情を表すんであれば、もっと暗くどんよりとした曲がきそうな
ところ、田舎町のすさんだ風景を音楽にするんなら、もっとさびしくなりそ
うなところ、素朴で優しいピアノの音が響く。画面にくり広げられる物語か
らしたら、ちょっと脳天気に思えそうなほど。

でも、それは物語と合わないというのではなくて、物語へのひとつの解釈、
あるいは働きかけのように感じる。
以下はあくまでも私が感じたことだけれど、クンデルにあるいはあったかも
しれない輝く少年時代を連想させたり、クンデルが味わう現実のそばにある、
ふつうの生活を思わせたり、悲しい思いをそっと拾い上げるかのように音が
鳴ったり。ストーリーや映像で描ききれない世界を、音楽で描いているよう
に、私には思える。

音楽という要素を足すことで、作品の層が厚く、作品世界が深くなっている、
そんな印象を持った。マイケル・ナイマンの関わった作品を、もうちょっと
意識的に観てみようかな、なんてことも、今考えている。

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『僕がいない場所』¥4,935
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2009年10月08日

No.219 PARIS-パリ-

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欧 州 映 画 紀 行
               No.219   09.10.08配信
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すっかり間があいてしまいました。ごめんなさい。
一応週刊を目指しているのですが、急に時間がなくなると、
このようにパッタリ配信が滞ることも。
blog版 http://mille-feuilles.seesaa.net/ では、
お休みのお知らせをしたり、身辺雑記を書くこともあります。
twitterもやってます。 http://twitter.com/chiyo_a

今後も週刊の「つもり」で書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。

★ もう、これが群像劇の決定版てことで ★

作品はこちら
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タイトル:『PARIS-パリ-』
製作:フランス/2008年
原題:Paris 

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:ジュリエット・ビノシュ、ロマン・デュリス、ファブリス・ルキーニ、
   アルベール・デュポンテル、フランソワ・クリュゼ

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■STORY&COMMENT
心臓病で余命わずかと診断されたダンサーのピエール。彼を案じて同居する姉
エリーズは子どもを3人抱えるシングルマザー、もう自分に恋なんかできない
と思っている。歴史学者のロランは、自分の講義を受ける美しい学生レティシ
アに一目惚れしてストーカーまがいのアプローチをしてしまう。
その他、商店の人、通りすがりの人、同僚、などなど。濃かったり薄かったり、
いろんな関わりをする人々の群像劇。

いろんな人にスポットが当たって、エピソードも数々あるから、自分に近い立
場、キャラクターの人、自分が好感を持てる人、など、感情移入する人を選べ
るし、ちょっと引いた位置から、おかしくて哀しくて愛しい人間の所作を眺め
るのもいい。

たくさんの人にスポットがあたるけれど、「主役」と呼んで差し支えないのが、
上記ストーリー説明で出した3人だ。いずれも現状に自己不全感を持ちながら、
何もできなかったり、知らず知らずのうちに諦めたりしている。みんなにとっ
ての「私たち」だ。

私が特に好きなのは、ファブリス・ルキーニが演ずる大学の歴史の先生ロラン。
彼が「パリという都市」の歴史を方々で講義するシーンがあって、このキャラ
クターがタイトルの『PARIS』の骨組みをつくる役割も担っている。
教養番組に出演するほど、仕事では順調に見えるロランだが、テレビ出演自体
が俗っぽいかと怯え、私生活は独身で孤独、家族の中で自分だけが失敗者だと
思いこむ。
そんなロランが講義中に教室にいた女学生に一目惚れ。盗み聞きした電話番号
に匿名でショートメッセージを送るのを日課にしてしまう。彼女からすれば気
持ちが悪い。話だけ聞いたら私もきっと嫌悪感を催すだろう。けれど、彼の側
から観れば、それにはある程度の必然がある。しょうがない、がんばれ、と、
観客たる私は思う。
こういう物語は、ふつうなら理解できないような、幾人もの他人の事情や気持
ちに気を向けることができるから楽しい。

孤独で人づきあいの悪いロランが、実はダンスがすごく上手いというシーンが
あるのだけれど、これによく似たシーンが前に取り上げた『親密すぎるうちあ
け話』
にもあった。ファブリス・ルキーニが、ダンスを披露するのが好きなん
だろうな。

話がそれた。ダンスといえば、ダンスパーティでは、無理無理、踊れない、と
引っ込み思案のエリーズが、好きな人の前で、すごくノリよくチャーミングに
踊るシーンも印象的だった。
何が印象的って、「できないできない」って言いつつ、「私なんか私なんか」っ
て言いつつ、実は、楽しい人、歌や踊りだってやってみたら上手、魅力的、なー
んてこと、現実世界でもよくあるな、と思って。私だってそんな「実は」なと
こ、あるかも、しれない……、んー、あるかな、何とは聞かないでね。

他人の事情を垣間見て、数々の他人がかわいい存在になる作品。
人を好きになりたい秋の夜に、おすすめですよ。

■COLUMN
私がなんかそんな気がする、と思うだけなので、勘違いかもしれないのだけれ
ど、ある時期、4、5年前から、複数の人にスポットをあてて、複数の主役が
いる、その登場人物は、家族同士のこともあれば単なる知り合いのこともあり、
知り合いですらなかったり、でも当人の知らないところでつながっていたり、
という「群像劇」と呼ばれるタイプの物語が増えてきたように思う。(「群像
劇」の定義はそれだけではないと思うけど)

私が思うに、それらは、2001年の9.11以降、より正確にいうと9.11をきっかけ
にアメリカがとった行動に対する反発のなかで、他者に対する「寛容」や文化
や歴史の違う人々の「存在」そういう人々との「つながり」に敏感になること
を大切だと考えた人が、群像劇を採用したからのことじゃないだろうか。
2001年から、さまざまな事件を経て、みんながいろいろ思考して、物語を作り
企画し、完成した作品として世に出てくるのが2004年、2005年くらい。で、少
し遅れて作品が日本に入ってくると。
役所広司や菊地凛子が出演して日本も舞台となった『バベル』なども、そんな
時代の雰囲気をよく表した作品じゃないかな。知らないところでグローバルに
人はつながっているんだよ、と。

その性質上、群像劇は、特定のすごいヒーローやヒロインを登場させるわけで
はなく、ふつうの人の内面を描き出すことになる。そんなタイプの物語が私は
もともと好きなんだけれど、ここのところあまりにも多いので、ちょっと食傷
気味でもあった。
群像劇の観てて楽しいところは、感情移入をさまざまにできるという点にもあ
るが、それより大きいのは、そこに登場する誰のことも、観客がいちばんよく
知っている、というところにあると思う。当人の微妙な感情もよく理解でき、
他の登場人物が、その事情や感情を知らないが故のすれ違いもわかり、そうなっ
たいきさつもすべて、その物語世界で起こったことは、観客だけが仔細に把握
できる。
その全能感が爽快なのだけれど、あんまりそういう作品が多くなると、全能感
は陳腐に感じられるのだ。

このクラピッシュ監督は、それ以前から、なんでもない普通の人たちを複数な
らべた群像劇を得意とする人で、『百貨店大百科』では「皆が主役」が映画の
テーマそのものでもあったし、同じく群像劇を得意とする映画作家アニエス・
ジャウイ+ジャン=ピエール・バクリと組んだ『家族の気分』も、ある親族に
スポットをあて、一人に固定せずに、登場人物それぞれの内面を仔細に描いた
作品だ。

そんなクラピッシュが、ずっと好きで舞台にしてきた「パリ」の名を冠して作っ
たこの作品、都会のちょっと孤独な人々の群像劇の決定版として、食傷気味だっ
た一連の群像劇ブームに一度終止符を打つってことでいいんじゃないのかな、
と思う。
それくらい、群像劇タイプのお手本であり、複数の人を描いても全然散漫にな
らない物語も魅力的だ。

ていっても、人の想像力なんて、誰かの創造力が簡単に超えてくれて「このあ
いだあんなこと言って、すいませんでした!」て作品が、きっとまだまだ出て
くるんだ。それを楽しみに待ってます。

■INFORMATION
★DVD
『PARIS-パリ- (通常版)』定価:3990円(10月8日現在のアマゾン価格:3192円)
http://bit.ly/2qrMut
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2009年09月03日

No.218 愛おしき隣人

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欧 州 映 画 紀 行
                No.218   09.09.03配信
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★ 私たちはみな、外とつながるドアとともにいる ★

作品はこちら
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タイトル:『愛おしき隣人』
製作:スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク・ノルウェー/2007年
原題:Du levande 英語題:You, the Living

監督・脚本:ロイ・アンダーソン(Roy Andersson)
出演:ジェシカ・ルンドベリ、エリック・ベックマン、
   エリザベート・ヘランダー、ビヨルン・エングルンド
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■STORY&COMMENT
ストーリー……、といえるものはない。ある街の住人たちを映す短いスケッチ
の集合だ。
たとえば、夫とケンカしてちっとも仕事にならない学校の先生、誰も私を理解
してくれないとクダを巻く女、いかに虚しい仕事かを語る精神科医、ロックミュー
ジシャンを追っかけ恋する女の子、などなど。

以前に、同じ監督のデビュー作『スウェーディッシュ・ラブストーリー』の回
で私は、若い恋人たちの背景に、うまくいかない人生をひきずりながら、呪い
嘆いている多くの大人たちのことを書いた。
言ってみればそういう人たちが何人も何組も出てくるのが、この作品だ。違う
のは、『スウェーディッシュ…』のときには、そんな人たちが本当に悲しく見
えたけれど、この作品ではもっとユーモラスにかわいく映されることだ。

一つひとつのスケッチ、エピソードは、面白いなと思うもの、共感できるもの、
人それぞれ生まれてくるだろう。もちろんその土台はあるものとして、この作
品の肝は、そのスケッチを映し出す「画」にある。

いくつかの例外を除いて、ある部屋の人、風景が、固定されたカメラで長ーく
捉えられる。フレームに映し出されたシーンは絵画的。私は、エドワード・ホッ
パーの絵を思いだすところがいくつかあった。(短絡的かも?)
長く同じカットが続くから、それを眺めていると、そこで話し動く人だけでな
くて、奥にある無造作に積み上げられた物や、周りの装飾品、後ろにいる人に
も目がいく。単純にインテリアとして興味深かったり、小道具としての存在感
が心をかき立てられたり、ずいぶん凝って作っているなあ、と、気に入った画
は何度も何度も、いろんな<部分>を注目して観たくなる。

この一連の画のなかで、私が気に入っているのは、画面の奥の方にや、横っちょ
にある、「ドア」だ。
ドアじゃない場合もある。単なる通り道だったり、隣の部屋だったり、階段だっ
たり、ということもある。その向こうに人がいて声をかけてくる場合もあるし、
単に、その登場人物がいる空間とは別の空間として見えているだけの場合もあ
る。
そんなわけでいろんな場合があるけれど、私には、疲れてうまくいかない人生
の傍らには、別の世界と関わる可能性があることの象徴に見えたのだ。

その人の世界には、誰かが入ってくる、誰かの声が届く。その可能性がある。
観客たる私も、誰かの人生にコミットできるかもしれない。他の空間に出かけ
ていくこともできる。いかにやりきれない人生も、そこに、こもりっきりには
ならない。別の空間から風が吹き、別の流れが生まれる。そこから出かけて、
別の流れを作り出すこともできる。

奥の方に見えるドアや別の空間や、他人たちは、みんなが一人ぽっちじゃなく
生きていることを伝えている。
だから、ちょっとだけ不穏なものが示されるラストシーンのようなことになら
ないで、と、私は願ってる。

■COLUMN
映画の中でくり返し登場する場所にカウンターバーがある。入り口の方から映
した画、奥の方から入り口を見る角度、そのシーンによって映す角度が異なっ
て、バーの全体像がわかってくる趣向も楽しい。

バーのシーンは、いつもラストオーダーの時間帯だ。「ラストオーダーだよ」
とバーテンダーが鐘を鳴らすと、皆、最後の一杯を注文しにカウンターに集まっ
てくる。夜な夜な日常の憂さを晴らす者たちの、最後の小さなあがきのようで
微笑ましい描写だ。

「ラストオーダーを告げられる」。
地方で高校生をやっていた頃なんかには、それほど夜遊びもできず、そんなシ
チュエーションに憧れたものだったけれど、大人になって相当経った今、私は、
ラストオーダーに、「寂しい」とまではいかない、「きゅんっ」とくすぐった
い気分を覚える。

いっぱいおしゃべりしたけれど、まだ、何か肝心なことを言っていない気がす
る、けれどもうラスト・オーダーか。きゅんっ。
まだもうちょっと飲めそうなんだけど。そうかラストオーダーだし、もう帰ろっ
か。まだ飲めそうなくらいがちょうどいいよ(笑)。きゅんっ。
次の店行こうか、ねえねえ、みんなまだ飲んでいける? 明日早いの? きゅ
んっ。

肝心なことは、次に会ったらきっと思いだすよ、まだ飲めそうでも、健康な体
で日常に帰還しようね。
寂しいと言い切るほどではないけれど、確かに名残惜しく、
もっともっとと駄々をこねるほどではないけれど、別れのあいさつを切り出す
間が一瞬遅れる。
くすぐったい胸の内をのみこんで、帰路の人となり、そして、性懲りもなく次
に告げられるラストオーダーでも、やっぱりちょっとくすぐったいのだろう。

バーテンダーはラストオーダーを告げるとともに言う。
「また明日があるよ」。
そうだね、また明日がある。明日も人生はつづく。うんざりするほどの日常と、
ちょっとの驚きや楽しみものせて、明日もラストのオーダーをできるだろう。
くすぐったい「きゅんっ」も愛おしく、人生は明日もつづく。

■INFORMATION
☆DVD
『愛おしき隣人』定価:4,935円 アマゾン価格 3,909円(9月3日現在)
http://bit.ly/3UuZeQ
短いURLにしていますが、アマゾンの商品ページにリンクしています。

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melk さま
おっ、色鉛筆ファン仲間ですね!
購入はふみとどまっても、まだわくわくできるのが、色鉛筆のいいところ、で
すよねっ。(と自分に言い聞かせています)

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2009年08月22日

No.217 アヴリルの恋

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欧 州 映 画 紀 行
               No.217   09.08.22配信
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週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 純粋に「気持ち」そのものをすくい上げるのなら ★

作品はこちら
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タイトル:『アヴリルの恋』
製作:フランス/2006年
原題:Avril 英語題:April in Love

監督・脚本:ジェラール・ユスターシュ=マチュー(Gérald Hustache-Mathieu)
出演:ソフィー・カントン、ミュウ=ミュウ、ニコラ・デュヴォシェル、
   クレマン・シボニー、リショー・ヴァル
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
赤ん坊の時に修道院に捨てられて、そこでそのまま育ったアヴリルは20歳。こ
れから2週間、礼拝堂にこもって断食して建物を清める儀式を終えると、正式
に修道女となる。
しかし、先輩修道女に、アヴリルが捨てられていたとき、双子の男の子がいた
という事実を伝えられ、アヴリルは礼拝堂を抜け出し、まだ見ぬ兄弟に会いに
行く。

外の世界に出たことのなかったアヴリルは、行き倒れになりそうなところを、
たまたま通りかかったピエールに助け出される。ピエールが運転手を買って出
て、兄弟捜しは難なく成功。兄弟のダヴィッドと、その恋人のジム、4人の休
暇が、アヴリルの新しい人生のはじまりだ。

偶然出会うピエールがやたらにいい人だったり、はじめに“ぎくしゃく”があ
るにせよ、ダヴィッドも恋人のジムもすごくいい人だ。
何も知らないアヴリルにとって、外の世界は危険がいっぱい。そのなかで、あ
ぶない目にもすごく悲しい目にも遭わずに、新しい人生を切り開くきっかけが
できたのは、そんなあり得ないいい人との出会いのおかげで。それが不自然だ
という批判はあるだろう。
だけれど、私はこれを不自然とは思えない。この物語が伝える肝は、このいい
人づくしの設定だから、伝わるものなのだ。

『アヴリルの恋』は、純粋に「気持ち」を抽出することに挑戦している映画だ
と思う。
異性に惹かれる気持ち、初めてのことに戸惑う気持ち、人との摩擦にたじろぐ
気持ち、自分の心を解き放ったら気持ちのいいこと。
特に恋心なんて、実際に初恋をする年齢では、すでに、自分をよく見せようと
か、どんな服を着ようか、てささいなことも含めた<企み>にあふれてしまっ
ていて、恋を描くとは、そんな<企み>やそれが成功したり失敗したりの一喜
一憂を描くことと同義になりやすい。

そうした恋の周囲のできごとではなく、恋する心を抽出するのなら。
外の世界に触れたことがなく、唯一の恋の相手は幼い頃に読んでもらった『名
犬ジョリィ』のセバスチャン、しかし、ちゃんと恋できる肉体も持っていると
いう特殊なヒロインに、彼女を決定的に傷つけることのない外の人を作る必要
がある。

ゲイのカップルにも特に驚かない、賛美歌しか知らない世界から抜け出て、ポッ
プな音楽に体を乗せる、波が冷たく怖かった海にも自由に体をゆだねる。スポ
ンジのように周りの状況や新しい行動様式を吸収していく様子は、まるで子ど
もの柔軟性を持つようだ。

周りを気にするとか、人の思惑のバランスをとるとか、余分な作業とは無縁の
純粋に「核」である気持ちをダイレクトにすくい上げる。そうすることで、恋
心だけじゃなく、戸惑いも、楽しみも、いっそう強くピュアに、観る者に響く。
最近、人を信じられなくなっている人に、あえて勧めたくなる一作だ。

ところで、いい人づくしの登場人物のなかで、唯一、悪を押しつけられている
のが、双子であることを隠し、母の存在を隠し、アヴリルを自分好みの聖女に
仕立てんとする修道院の院長だ。
この院長のおかげで、物語の終盤は、トーンが変わっていっきょに目を離せな
い展開となる。それは、いい人ばかりに囲まれて新しい人生を決意したアヴリ
ルが、現実に自分の人生を歩もうとする時の痛みなのか。ラストシーンをどう
捉えるかは、人によるだろう。余韻も楽しみに。


■COLUMN
アヴリルは、絵を描くのが得意。本を白く塗りつぶしてスケッチブックにして、
毎夜こっそり絵を描いている。
そんなアヴリルを偶然道で助けたのが、画材店の配達人であるピエールだ。ア
ヴリルはその画材店の色見本をもらったことがあり、この色が好き、と色の名
前をいくつも挙げてみせる。青系の色を挙げるアヴリルに対し、赤系の色を次
々と挙げるピエール。絵が好き、色が好き、とわかるこの時、お互いに好感を
抱いた。
やがて恋に発展する二人の関係には、この出会いのきっかけとなった「色」が
ずっと後にも重要なキーになる。

絵心のさっぱりない私、図工や美術の時間は大嫌いだったが、「色鉛筆」は大
好きだ。アヴリルとピエールが出し合うような、神秘的なネーミングをされた
色、微妙な濃淡の違いの別々の色、などなど、36とか48とか、多色セットの色
鉛筆を見るとわくわくしてしまう。
どのみち使う用事はないのだけれど、デフォルトの並び方をちょっと変えてみ
たり、系統の違う色を1本置きに配置してみたり、うーん、愉し。そんなこと
だけで、東京〜名古屋の新幹線車中は退屈しないんじゃないかな。
色数が多くなくても、色鉛筆セットというだけで気になって、文房具店のセー
ルのワゴンに12色の色鉛筆セットが放り込まれていると素通りできない。

そんな私だから、ちょっと前に500色色鉛筆なるものが売り出されているのを見
たときには、「うわ、これはすごい、ほしぃー」と思ったが、どっちみち並べ
て楽しむだけ(使いたかったら、とっとく用と使う用の2セット買わなきゃ)、
もったいないから、やめておこうと、あまり詳細も見ないことにした。
あれの評判はどうなんだろう。

いろいろな色があること、その色に素敵な名前がついていることを、おもしろ
がって、おもしろがることを理解してくれて、いっしょに呪文のような色たち
を唱えてくれたなら。そんな人には私もきっと、一挙に好感を持つだろうなあ。
小さな小さな琴線って、日頃は気にもとめてないけれど、きっとみんなそれぞ
れ、いろいろ、持っている。

■INFORMATION
★DVD
『アヴリルの恋』定価:3990円(8月22日現在のアマゾン価格:2925円)
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2009年08月13日

No.216 森の生活

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欧 州 映 画 紀 行
               No.216   09.08.13配信
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★ 深い森で何かに化かされたら ★

作品はこちら
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タイトル:『森の生活』
製作:リトアニア・ドイツ/2006年
原題:You Am I 

監督・脚本:クリスティヨナス・ヴィルジューナス(Kristijonas Vildziunas)
出演:アンドリウス・ビアロブジェスキ、ユルガ・ユタイテ、
   ミコラス・ヴィルジューナス、レナータ・ヴェベリーテ・ロマン
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
建築家のバロナスは、仕事が傾いて、そして恐らく人づきあいも嫌って、森に
移住してきた。リカンベント自転車に乗って、のんびりと。森では木の上に、
板を張り屋根をつけるツリーハウスを手作りして住む。
ある日、若者たちが近所の別荘へやってきた。にぎやかな声につられて、バロ
ナスはのぞきにいくと……

不思議な映画だった。ストーリーは、あるようなないような、よくわからない。
面白いかというと、「うーん」。
だけども、ずっと後を引く。何かをしていても、どこかのシーンがふっと頭を
よぎる。観たのは1週間前だけれど、なんだか頭に残ってしょうがない。

ふつうに人と関わって暮らしていくのが嫌になったらしい建築家が、リカンベ
ントで森にやってきて、森の入り口で昔の恋人らしき女と会い、森に入って生
活をはじめる。ツリーハウスがだんだんできてくる。
高い木々と木漏れ日と、バロナスの生活をつらつらと眺め、清流の音になごん
む淡々とした映画のように思う。

しかし、その淡々と描かれていたはずの現実のなかに、幻影か寓話の何かか、
と思われるものが差し込まれる。
それは、バロナスの前に現れる木を切るなと言うアフリカンや、途中、物語に
入り込む、別荘にやってきた若者たちのうちの一人が書いているという小説の
内容だ。

そうした寓話的な何か、隠喩的な何かを、つかめるかな、と思うとするっと遠
くへ行ってしまう、何かつかめるかと思って拳を握れば空を切る。要するに、
そこに示される意味をわかるかと思って考えようとすると、何かにたどりつく
ようで、やっぱりわからない。

深い森に迷い込んだ、何かに化かされたと思えば、そんな体験もありかもしれ
ない。話はよくわからないけれど、どこかで惹きつけられる作品だ。

ところで、私がこの映画のなかで、いちばん気になって、好きだと思ったもの
は、頻繁にあらわれる、人の真正面からのショットだ。
田舎の村を通って森へと進むバロナスの背景には、自宅の庭で写真撮影のよう
に並んでまっすぐに前を見ている家族たちがいる。
別荘の東屋を舞台に見立てて遊ぶ若者たちを、客席のど真ん中から眺めるかの
ようにまっすぐ捉える。
黙ってたたずむ人物をまっすぐに捉えれば、逆にまっすぐに見つめ返されるよ
うな視線が、長くなると落ち着かない。一体何を見ているのかと、こちらもまっ
すぐ見つめ返す(思わず後ろを振り返りたくもなる)。

日常の生活で、人をそんなにまっすぐに見ることはふだんはなくて、ふつうの
映画でも、そんなまっすぐなショットが多く見られることはない。映像が心に
働きかける力を改めて思った。

※「リカンベント」が頭にぱっと思い浮かばない方は、こちらを。

※「ツリーハウス」にピンと来ない方は、こちらを。

■COLUMN
リトアニアの映画である。映画は年に数本しか製作されず、この作品が日本へ
のはじめての紹介になるそうだ。とあれば、欧州映画紀行としては、観てみな
きゃなるまい。

と、あまり深く考えずに取り上げることに決めたけれど、なんだかやっかいな
ものを観ちゃったな。
まあ、年に数本しか製作されないというなら、それが<アート系>になるのも
必然。予想できたはずのことだ。ここに出ている俳優は、じゃあふだんは何を
しているんだろう。舞台に立っているんだろうか、映画がない国はあっても演
劇のない国はきっとないから。なんて思ったけれど、答えはわからない。
「リトアニアナビ」( http://litabi.com/ )というホームページに行ってみ
たけれど、映画やテレビや演劇の情報は載っていなかった。

はじめてのリトアニア映画、ということで「リトアニア」の習俗や景色を、つ
い期待するが、森にツリーハウスを作る男が主人公、リトアニアの一般的習俗
を見ようというのは間違い。そして、森に縁の深い人ならば、森の特徴にも細
かく目を配れるのだろうが、「都市」のささいな違いに気づく感受性はあって
も、「森」の独自性に反応する感受性を、私は持っていない。
ともかく、きっと国境を越えても続くであろうこの森に、国境を引いて「どこ
の国」なんて言うことがばかばかしくもなってくる。

それでも、若者の集う別荘の造りや、はじめて聞くリトアニア語の響きに、見
知らぬ異国を感じる楽しみがある。リトアニア語は、ロシア語やクストリッツァ
の映画でおなじみのセルビア語などに、響きは似ている。知らない言語を、同
じくよく知らない言語の「響きに似ている」なんて感じる判断基準はどこにあ
るんだろう、なんて思考をぷかぷか浮かせてみる。
バルト三国、エストニア、ラトビア、リトアニア、並びは50音順、と意味のな
い暗記だけしか頭に残っていなかった私を、ちょっとリトアニアに近づけてく
れた作品だったと思う。

統計をとった訳ではないけれど、日本はおそらく、ずいぶんといろいろな国の
映画に触れる環境のととのった国だと思う。気楽に外国のいぶきを感じられる
環境に感謝して、出不精者は、今日も画面に映る異国の風景に、思考を飛ばし
てみる。

■INFORMATION
☆DVD
『森の生活』¥3,990円
http://bit.ly/15ia95
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タグ:東欧
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2009年08月03日

N0.215 正しい恋愛小説の作り方

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欧 州 映 画 紀 行
               No.215   09.08.03配信
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観る時間と書く時間が取れなくて、遅れた配信です。ごめんなさい。

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★ 夢のような恋愛を、夢みたっていいじゃない ★

作品はこちら
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タイトル:『正しい恋愛小説の作り方』
製作:フランス/2006年
原題:Toi et moi 英語題:You and Me

監督・共同脚本:ジュリー・ロープ=キュルヴァル(Julie Lopes-Curval)
出演:マリオン・コティヤール、ジュリー・ドパルデュー、
   ジョナサン・ザッカイ、エリック・ベルジェ、シャンタル・ロビー
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■STORY&COMMENT
通俗的な恋愛小説を書く姉アリアンヌと、オーケストラでチェロを弾く妹レナ。
アリアンヌは、銀行員の恋人ファリドと、将来をともにしたいと思っているけ
れど、どうも乗り気ではなさそうな彼にいらいらを募らせている。
同棲中の教師のフランソワと将来の話もするレナは、ロンドンへの演奏旅行で
出会ったマルクと、いい雰囲気に。アリアンヌを慕うスペイン人青年も現れ、
姉妹の恋模様はいかに……

劇場未公開作品で、ポップでおバカなパッケージ。軽い映画を観たい気分だっ
たから、ハズレならそれでもいいや、と思って観たら、意外と好みの作品だっ
た。
ちょっとベタだけど、声に出して笑えるコミカルなせりふ運びと、恋愛中の
「かわいらしさ」と「みっともなさ」の同居した姿の描写、そして、軽くてシ
ンプルなラブコメと思いきや、その予想を裏切る展開のあるところ。

姉妹にはそれぞれ相手がいて、その相手の欠点や難点がわかりやすく示されて、
新しい人が二人ともに接近する。おお、これは安心して観られるラブコメの王
道、笑ってハラハラしてハッピーエンド? とはじめは思った。
けれど、そうはいかない、ちょっと込み入った恋愛と人生の妙を見せてくれる
「フランス映画気質」が私は好きだ。

この映画がコミカルな雰囲気を出している大きな要素に、アリアンヌの書く小
説がある。アリアンヌは「トワエモワ」(これが原題)という雑誌に、「ロマ
ン=フォト」というジャンルの恋愛小説を書いている。
ちょうどマンガのようなコマ割りで、登場人物を仰々しい背景と仰々しい衣装
とで写真に撮って登場させる。内容はハーレークイン的な恋愛物なのだが、こ
のストーリーを考えるのに、アリアンヌは、自分やレナや自分の恋人やらを写
真のモデルのように妄想しているのだ。

だから、この映画に出てくる人たちは「劇中劇」のように、ロマン=フォトの
登場人物も静止画で演ずるわけで、その陳腐でかつ夢のような話のなかで、笑っ
ちゃうような衣装をつけている。

その滑稽な妄想が、この作品のカラーを作り、がっちり物語の芯に絡むうちに、
あるテーマが見え隠れする。夢のようにできすぎた恋愛なんてないけれど、やっ
ぱりそんなできすぎた恋愛を望んでしまう甘っちょろい夢を、みんな持ち続け
たくて、現実はどうあれ、甘い夢や妄想を持って生きたっていいんじゃないか
な。
ちょっぴり急に展開する、観客に解釈の余地を残したラストで、私はそんなこ
とを考えた。

■COLUMN
不器用で、自信にちょっぴり欠けていて、人とのコミュニケーションをうまく
こなせない人には、結構な確率で人は共感する。

妹のチェリスト・レナを演じたのは、マリオン・コティヤール。エディット・
ピアフ役で世界的な女優となった彼女は、目鼻立ちがはっきりしていることも
あって、強い女、はっきりした女の役が多いイメージがある。
でも、この作品では、うぶで気が弱くて、気になる人(ロンドンで出会ったマ
ルク)に、素直に近づくことができない、ぐずぐずした女の子をイメージぴっ
たりに演じている。

姉のアリアンヌは、ハデで、とんちんかんな対応や勘違いが多いけれど、基本
的にいい人で憎めないキャラクターだ。
乱暴に言ってしまうと、姉の方は、物語をひっかきまわして面白くしてくれる
キャラクターで、妹の方は、多くの人が感情移入できるキャラクターなんじゃ
ないかと思う。別に誰にも感情移入なんかしなくったって、もちろん映画は楽
しいけれどもね。

妹レナは、プロのチェリストではあるけれど、ソロの演奏なんてとんでもない
と思いこんで自分を閉じこめている。気になる人に真正面からぶつかれない割
に、矛盾するかのように大胆にもなって、やっぱりその後、ぐずぐずする。
それらは作り手が意識的に用意した感情移入のポイントだと思う。

なぜなら、不器用で、自信にちょっぴり欠けていて、人とのコミュニケーショ
ンをうまくこなせない人には、結構な確率で人は共感するから。

誰かとたまたま少し深い話になったとき、よく驚くことがある。
「人間関係をうまくわったっていくのが下手なこと筋金入り」と自分を評価し
ている私だけれど、そんな私自身のことを相手に話せば、「私もね」と、「人
間関係、コミュニケーションが苦手」と自認しているという人がいかに多いか。
傍目には、なめらかな会話とそつのない笑顔と周りへのサービス精神で、人と
スマートに接しているようにしか見えない人がだ。

と、ここまで書いて、それは、私とちょっと本音を解き放ち合うような人たち
の性質かな、とも思うけれど、まあ、一般化してもそんなに大きくは外れてな
いだろう。

きっと、皆それぞれ、人間関係対処における苦手な部分というのを、ぐいーん
と肥大化して、「苦手だよ、下手だよ」と心で思っているのだろう。人との関
わり方というのは、誰にとっても、大きくて、かつ繊細な問題だからだ。

映画を観て自分が共感するところを冷静に観察してみると、今の自分の問題
(少なくとも自分が問題だと自分について思っているところ)が浮き彫りにさ
れる。怖いような。おもしろいような。
私はそんな風に観察してみたら、我ながらちと、イタかった。

■INFORMATION
☆DVD
『正しい恋愛小説の作り方』¥3,990
http://bit.ly/14iTRy
短いURLにしていますが、Amazonの商品ページにリンクしています。

☆コメントくださった方にお返事
melk さま
「打ちひしがれ仲間」がいてよかった(笑)。
このメルマガが何かの役に立ってくれるのなら、書き手としてそんなうれしい
ことはありません。こちらこそありがとうございました。

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☆次回予定
次の配信は8月13日(木)の予定です。(早いなー、もうお盆ですね)

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2009年07月23日

No.214 ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

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欧 州 映 画 紀 行
                No.214   09.07.23配信
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★ 人が映画に求めるものをたくさんつめて ★

作品はこちら
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タイトル:『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』
製作:ドイツ/1997年
原題:Knockin' on Heaven's Door  

監督・共同脚本:トーマス・ヤーン(Thomas Jahn)
出演:ティル・シュヴァイガー(脚本も)、ヤン・ヨーゼフ・リーファース
   ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ、モーリッツ・ブライブトロイ
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
脳腫瘍と骨肉腫で、それぞれ余命わずかと診断されたマーティンとルディは、
病院で同室となった。ちょっとワル風なマーティンと、ちょい文学青年風なル
ディ。ミスマッチなようで何だか意気投合した二人は、病院を抜け出して、盗
んだベンツで海を見る旅に出る。旅の資金は強盗で調達。警察に追われさらに
ベンツを取り返そうとするギャングにも追われ、最後の旅はいかに。

わりと有名な作品で、今さらな感も少々。TSUTAYAさんで名作映画100本100円と
いうキャンペーンをやっていて、その対象作品だったのがチョイスのきっかけ。
ワンコインはありがたやってことでレンタルしてきた。いつまでキャンペーン
が続くのかわからないけれど、興味のある方はお近くのTSUTAYAへ。
http://www.tsutaya.co.jp/cam/09sm/100.html?other=09smtp01

たとえるなら、夜中にたまたまテレビでやっているのを横目で見かけたら、うっ
かり最後まで観てしまって翌日寝不足になりそうな作品だ。
人が映画に求めるものがしっかり入っている。10年以上経ってもファンが多く、
レンタル店の「名作100選」にも入る由縁だろう。

求めるものって?
ユーモアと笑いとスピード感と、スリルと友情と涙。そんなところかな。
ストーリーは明快、本にたとえれば、次は、次は、とページを急ぎめくってし
まうような期待の持たせ方があって、わかりやすい笑いがあるかと思えば、底
には死が間近という悲しみが流れ、死の間際にかたく結ばれた友情が心をとか
す。絵に描いたような銃撃戦はあるけれど(死を間近にした二人をのぞけば)
死者は出ない。

特に、スピード感が私には心地よい。場面の移り変わりでは、説明的なシーン
が排除されて、トラブルにしろスムーズな逃避行にしろ、事態がトントン進ん
でいく。数日を生き急ぐ二人のスピードを観ながら体感するようだ。
二人の過去やら仕事やら、人となりをほとんど見せない脚本も、ただ今この時
を海を見るために走る二人の置かれた状況を、観客に味わわせてくれている。

ご都合主義とか、追う側がバカばかりとか、そういうことを言っちゃだめ。
天国へ続くドアのノブに手をかけた二人の、いってみれば奇跡的なファンタジー
なのだから、硬派なミステリーを観るような心構えは捨てて、設定に素直にのっ
て、運命に身を任すこと。理屈ではなくて人の根源的な感情を刺激してくれる。

■COLUMN
「将来の不安を感じるという人が8割」なんてニュースを聞くと、「え、2割
は不安じゃないの? 何で?」と思ってしまう私だが、この映画を観ていて、
先がないとわかったなら、むしろ不安は消せるのだろうか、と考えた。

でも問題は、実際に先があるかないかではないんだろうな。
ちょっと立ち止まってもう少し考えてみたら、そんな結論に至った。

雑誌「小説トリッパー」 の橋本治インタビューに、「今日がどうやって明日に
つながるかについては考えず、『あんまり変わらない明日しかないよな』と思っ
たままで、『さらに、じゃあ』と十年後や二十年後を見てしまう」から、若い
人が絶望的になりやすい、という話があった。

もうそんなに若い人じゃない私だが、この指摘はしっくりくる。
「絶望」とまでは言わなくとも、しょっちゅうそんな風に、十年、二十年が経っ
た結果だけをぼんやり思い浮かべ、頼りない己の未来を見てため息をついてい
る。
「うっかり明後日くらいのことを考えそうになったら、『まだ、今日や明日の
こともやってないんだから』」と橋本氏本人は考えるようにしているそうだ。

明日は今日の次にしかこなくて、明後日は明日の次にしかこない。一年後の未
来は、突然それとして存在するのではなく、毎日を積み重ねた先にしかやって
こない。
だから、とりあえず今ここにある今日のことをしっかりやることが、不安なが
らも現実に生きていく方法なのだ。わかっているけれど、ついすっ飛ばして、
「今のまま一年経った場合」を想像して打ちひしがれる。

マーティンとルディは、未来には死しかないから(それは、どんな私たちでも
同じことなのだけれど)、当面の「今日」を一生懸命に生きるしかなくて、ひ
たすら海を目指す物騒なドライブができた。

二人と違って、おそらく十年後も生きているだろう私は、とにかくすっ飛ばし
て十年後を考えるんじゃなくて、当面の「今日」を考えれば、少しは不安のお
化けに苦しめられることもなくなるかもしれない。明日は今日の次にしかやっ
てこない。今日のことをやったら、明日を考えよう。明後日まではあまり考え
ないように。
それは無計画とは違う。一歩一歩、現実の未来を自分で作っていく作法なのだ。

■INFORMATION
★DVD
『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』¥3,161
(デジタルニューマスター版スペシャル・エディション)
http://bit.ly/8Uco7
短いURLにしていますが、Amazonの商品ページにつながります。

★文中に引用の雑誌
「小説 TRIPPER (トリッパー) 2009年 6/30号」¥900
http://bit.ly/ipLYH

★コメントくださった方にお返事
kaede さま
アレルギーで苦しんでらっしゃるとのこと、お見舞い申し上げます。いろいろ
なことが複合的に影響して症状につながっていくこともあるでしょう。「自分
に素直に」「自分らしく」ってことで、少しずつ良い方へ動いていくのではな
いでしょうか。そうなるよう、お祈りしております。
スサンネ・ビアの作品は、自分の深いところにある何かをえぐられるようで、
相手にするには体力・精神力が要るな、と、私は観る度に思います。

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2009年07月16日

No.213 ホルテンさんのはじめての冒険

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欧 州 映 画 紀 行
                No.213   09.07.16配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 定年後、苦みとユーモアと、ホントの再出発 ★

作品はこちら
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タイトル:『ホルテンさんのはじめての冒険』
製作:ノルウェー/2007年
原題:O' Horten 英語題:O'Horten

監督・脚本・制作:ベント・ハーメル(Bent Hamer)
出演:ボード・オーヴェ、ギタ・ナービュ、ビョルン・フローバルグ
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■STORY&COMMENT
毎日、規則正しく出勤して仕事をしてつつましく暮らすオッド・ホルテンは、
ノルウェー鉄道の真面目な運転士。67歳の定年を迎えることになり、同僚が送
別会を開いてくれた。その送別会で、ちょっとリズムが狂ったことで、翌日の
最後の乗務に遅刻をしてしまう。そのまま退職を迎えたホルテンは、生活のリ
ズムを失い、どこか不安定に毎日を過ごしていく。

久々に、パッケージの雰囲気や作品説明に先入観を持たされて、観る方向を間
違えてしまった。前半はなんだかもったいない観方をしてしまったなあ。
これを読む皆さんは、どうぞあらぬ方向の物語を構えて観てしまわぬよう。
宣伝上は、真面目一筋のホルテンさんが退職のその日に遅刻したことから、変
な人やおかしなことに巻き込まれていく<ほんわかコメディ>ってな紹介のし
かたなのだが、本当は、この作品はもっと苦い。

ベント・ハーメル監督は、このメルマガでも『卵の番人』『キッチン・ストー
リー』
を紹介したことがあるが、少しとぼけた、抑えめの笑いを織り込むのが
特徴的な作風。確かに、コミカルなシーンはたくさんあるけれど、その前提と
なっているホルテンの世界は、定年を迎えた男の悲哀と不安定だ。

もう仕事に行かないでもいいのに、いつまでも制服を着ることをやめられない、
サウナでうっかり寝てしまう。そこで女物の靴を拝借してくる。
年金暮らしが始まるいま、好きなヨットを売りに出さなくてはならない。馴染
みの知り合いの死を知る。老いが迫っている不安は小さくない。
定年後の彼の生活を眺めてから思えば、遅刻をしてしまうのも、最後の勤務が
近づいて不安定になった心の表れだったのかもしれない。
そして、鉄道に人生を捧げてきたのに、初めての遅刻をした朝、列車はホルテ
ンを置いてこともなげに出発していく、そのことに、ひょっとしたら彼はショッ
クを受けたのかもしれない。

急に職を離れて、安定を欠いた男の様子が、ゆっくりしんしんと迫ってくる。
ときにユーモアを混ぜながら、ときに苦みを散らしながら。
これは、ひとしきりもがき、少しばかりずれた日常を過ごしながら、新しい生
活を見出していく、初老の男の物語だ。

同年代の貴兄はもちろん、いま何かがどうもうまく行っていない人、生活のリ
ズムがつかめない人、何かにつけてもう遅すぎると感じている人。そんな人々
の背中を“ポンと”じゃなく“じわじわ”押してくれる作品だと思う。

■COLUMN
主人公オッド・ホルテンは、定年後という新しい生活に慣れずに、不思議な行
動をとったり、身の置き所がなくなったりしている。40年間、自分というもの
を疑いなく歩んできた人が「自分」の存在に困っている。
自己が送っている新生活への、一種のアレルギー反応みたいなものだろうか。

ところで私は、今年に入ってから、じんましんに悩まされている。1か月以上続
くじんましんは「慢性」と呼ばれるそうで、何が原因なのかは、たいていわか
らず、ストレスのせいにされて「気長につき合っていきましょうね」となる。
毎日アレルギー止めの薬をのんでいれば、少しかゆいところが体の何か所かに
出るだけで、かゆくて眠れないことも、集中力を保てないこともなく、日常生
活には特に問題ない。

そんなに困っているわけじゃないけれど、眠れなくなっちゃった夜なんかには、
ふつふつ考える。

アレルギーというのは「自己」と「非自己」を認識するシステムが狂った状態
で、異物が入ってきたときに「非自己侵入! 非自己侵入!」と体が大騒ぎす
ることだ。
体が特定の「非自己」に対して暴走するならば、その「非自己」を避けるか、
その暴走を食い止めるか、するのが、二大「アレルギー症状の防ぎ方」だ。
私のじんましんの場合、何が体の暴走なのかわからないので、暴走を食い止め
る薬をのむことでずっとお茶を濁している。
ふと考えてみたら、花粉症の薬をのんでいた期間もあり、今年、都合5ヶ月間く
らいは、アレルギーの薬をのんでいることになる(花粉症とじんましんは薬が
同じ)。それって、あるべき私なんだろうか。

メロンを食べると口がひりひりするので、なるべく食べないようにしているけ
れど、このあいだ食べたら何ともなかった、のは、安いメロンもどきだったか
らか、薬をのんでるからか。メロンを食べても平気なのは、それは本当に「私」
なんだろうか。
体の暴走をやわらげて、本来あるような体の状態をつくることが「あるべき私」
なのか、それとも暴走状態も「自己」の可能性のひとつとして認めてあげるの
が「あるべき私」なのか、考えているとどんどんわからなくなる。

もしも私の体がところどころかゆくなる原因が「ストレス」だとすれば、私の
生活の中に、体が暴走するようなどうしても耐えられない「非自己」があるっ
てことだから、それを取り除こうという選択肢もあるだろう。
なのに、花粉症のときも、マスクをするだの、衣類についているのをはたくだ
の、そういう「原因物質を取り除く」(めんどくさい)対処法は一切やらず、
全面的に薬で解決してきた私だ。
そろそろ、ちょっと違うアレルギーの対処法を探してもいいかな。
ホルテンのように、右往左往して、ちょっと取り乱して、ちょっと調子を狂わ
せてでも、別の「私のありかた」を探ってみようかと思う。

■INFORMATION
★DVD
『ホルテンさんのはじめての冒険』3,465円
http://bit.ly/1ayPuD
短いURLにしていますが、Amazonの商品ページにリンクしています。

★コメントくださった方にお返事
☆しばっち さま

ありがとうございます! 今後も興味深く思ってくださるよう、いろいろ考え
て書いていきますね。

☆渋木 さま

こちらこそありがとうございます。楽しく見ていただけることが、本当に励み
になります!

コメントへのお返事は、原則として次配信で、このような形になります。
メールでの返事をご希望の方はアドレスと「返事はメールで」の一言を。

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2009年07月09日

No.212 永遠のこどもたち

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欧 州 映 画 紀 行
               No.212   09.07.09配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 見えないものを信じることとは ★

作品はこちら
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タイトル:『永遠のこどもたち』
製作:スペイン・メキシコ/2007年
原題:El orfanato 英語題:The Orphanage

監督:J・A・バヨナ(Juan Antonio Bayona)
出演:ベレン・ルエダ、フェルナンド・カヨ、ロジェール・プリンセプ、
   ジェラルディン・チャップリン
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■STORY&COMMENT
孤児院で育ち、里親に引き取られたラウラは、現在は結婚し息子が一人。閉鎖
されていたその孤児院を買い取り、障害を持つ子どもの施設にするため準備を
進めている。空想上の「友だち」と遊ぶ息子シモンが心配だが、順調な毎日だ。
しかし開園パーティの途中、シモンが突然姿を消してしまう。シモンを捜索す
るなかで、過去に封じられた秘密が明らかになっていく……。
『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ製作。

ホラーとかミステリーとか、スピリチュアルとかミステリアスホラーとか、い
ろんなうたい文句があって、どんな話なのか、なんだか想像がつかずに観たら、
まあ確かに、そういう要素が全部からんでいる話だった。
でも、怖いシーンやびっくりするシーンはあるけれど、「ホラー」ではないと
思う。ホラーっぽい雰囲気は全体に満ちてるけれども。

要素が大きく二つあって、一つは、幽霊なのか生き霊なのか精霊なのか、目に
見えない何かの存在があること。そしてもう一つは、現実としてシモンがいな
くなるという事件が起こること。

前者の話は、たとえば、空想癖のあるシモンが、現実にいる友だちであるかの
ように、大人には見えない「友だち」のことや、その影響で、シモンがいなく
なった後のラウラも、見えない何かに動かされているような気持ちになって、
実際に不思議な体験をいくつもすることなど。シモンが何ヶ月経っても見つか
らず、霊媒師に依頼するところもそれだ。
後者の話は、現実問題としてシモンはどこへ行ってしまったのか、ということ
で、「ジャンル」で分ければこれが「ミステリー」の要素になる。

ラウラは、母として息子の感覚に同化していくように、シモンの「友だち」を
感じとるようになって、シモンはきっとその「友だち」に連れ去られたに違い
ないと思い始め、霊媒師を呼んできて、夫と対立する。

「霊」モノ(?)が好きな人にとっては、特に問題ないのだろうけれど、私は、
「霊」とか「見えちゃう」とかいった「ネタ」があまり好きな方ではないので、
この辺りで、これで霊媒で事件解決とか、そういうことになったらどうしよう
かと、着地点を心配してしまった。だが、平行線であるかのように見えた、
「霊」の要素と「ミステリー」な要素が、最後にすっと結ばれ、そこでドラマ
としての高揚感が最高潮に達して、一種のカタルシスを迎えるという、うまい
ストーリー運びだった。ラストでは細かい整合性は気にならなくなってしまう。

そんなわけで、謎解き要素もあるから、あまり詳しくは語らないけれど、DVDな
ら、全部わかってから、前の場面を復習できるという楽しみ方ができる。そん
な観方もおすすめな作品だ。

■COLUMN
上に書いたように、私は「霊」関連はほとんど信じない。ラウラの夫のように、
霊媒師一行がいれば「人の弱みにつけこむ奴ら」と言うタイプだと思う。

じゃあ、目に見えないものは信じないかというと、そうじゃない。
人の怨念が、「怨」じゃなくても、人の強い思いが、現実の何かに作用するこ
とは、あっさり信じてたりする。

だから、「霊媒師」なんて怪しいと思いながら、霊媒師がラウラに言う「あま
りに大きい悲しみは、その場所に傷を残していくんだ」ということに対しては、
「ああそういうことならわかる気がする」と思う。案外簡単にだまされるタイ
プかもしれない。

たとえば過去に悲しい事件の起きた歴史的スポットに行き、その場所でそこで
流された血を見、上げられた悲鳴を聞くように感じることは、おかしなことじゃ
ない。大きな悲しみがその場所に傷を残しているから、その場所でその思いを
受け取ることができる。そんなことはあるわけはなく、非科学的なのだけれど、
それを信じる想像力は、人間の大切なものだと思う。

まあ、だますだまされるの話はおいといて、この「信じる」と「信じない」の
違いってなんだろうと思うと、見えないものを見えないままに信じるか、見え
ないものを見えると言い張るか、じゃないだろうか。

悲しい事実の現場でこそ、その事件に思いを馳せられることはあっても、そこ
で写真を撮ると何かが写るとか、ビデオを回したら悲鳴が入っていただとか、
そういう話になると、人の尊い想像力も踏みつけにすることでさえあると感じ
る。

誰かを思いやったり応援したりするのも「人の思いが現実の何かに作用する」
と想像すること。それは妄想でしかないのだけれど、そう信じることは益のな
いことじゃない。
「明日は大事な試験だ、試合だ」「今は仕事が大変らしい」そんな肉親や友人
や家族や恋人を思いやって、うまくやれよと、くじけるなと、遠くから祈るこ
とは、確かに本当のところ現実を変えたりはしないだろう。
だけれど、相手に電話したりメールしたり会って話したりして、かけた言葉の
分しか影響しないのだと、思いたくはない。遠くから思いを馳せることが、思
いを飛ばすことが、あの人の力になりますようにと、信じて祈ることは、やっ
ぱり人間の大切なものだと思う。

そこんところを、「ほら、私が念を送ったことにより、このように波長が……」
なんてやられはじめると、そりゃ違うと思う。
思いの力を信じることは、そんな「証明」をしてもらわなくても、言うまでも
なく、大事で有力なものなんだ。そういう結論が合ってるかな。

■INFORMATION
★DVD
『永遠のこどもたち』¥3,161
http://bit.ly/3qW1St
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2009年06月26日

No.211 人生に乾杯! (新作)

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欧 州 映 画 紀 行
                No.211   09.06.26配信
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★ スローなギャング映画はいかがですか ★

作品はこちら
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タイトル:『人生に乾杯!』
製作:ハンガリー/2007年
原題:Konyec 英語題:不明

監督:ガーボル・ロホニ(Gábor Rohonyi)
出演:エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ、
   ユーディト・シェル、ゾルターン・シュミエド
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■STORY&COMMENT
81歳の夫エミルと70歳の妻ヘディ。社会主義が崩壊したハンガリーでは、年寄
りが年金では暮らしていけず、家賃を払うのにも苦労し、毎日取り立てから逃
げている。かつて運命的な出会いをした二人だが、苦しい生活のなかですっか
りぎすぎすしている。
ついに二人の思い出のイヤリングが借金の形にとられたとき、エミルは郵便局
で強盗することを決心する。不思議な老人カップルギャングの誕生だ。

共産党幹部の運転手をしていたエミルの愛車は、1950年代のチャイカ。そんな
車を走らせて、「カーチェイス」ぽいこともある映画なのだけど、老人を描い
た作品らしい、どことなーくスローな感じがいい。

生活苦から強盗を思いつくエミルだが、要求のつきつけ方は紳士的。
テレビのニュースで夫の行動を知り、一度は警察に協力するヘディは、途中で
警察を振り切って共に逃避行の道を歩む。
「こんな生活には耐えられないから、強盗してやる!」てな感じでの、夫婦の
「決心の瞬間」や「社会への憤り」はなし、そろーりと黙って強盗をやりはじ
めた夫に、あらためて夫にかっこよさを認めて、おもむろにくっついていっしょ
に行動する妻。ふつうのクライム・ムービーには絶対に見られない独特の雰囲
気の「スロー」だ。

ギスギスしていた関係も、二人に目的ができた今、昔のようにいたわり合い、
思いやり合う関係に変化する。逃避行の合間に仲睦まじく会話をする様子には、
盛り上がるシーンでもないのにホロリとくる。
そうするうちに、ささいな言い合いや、焼きもちやらも復活して、自然で平和
な夫婦の生活がすっかりなじむ。逃走中の二人ということを忘れそうなほどに、
円熟の暮らしが見える。

強盗とスローな老夫婦、タイミングの悪い警察、「老人の生活の苦しさを世に
知らしめてくれた!」と二人を応援する世論など、コミカルなエピソード群に、
二人を追う警察官のロマンスと、ちょっぴり意外なオチが加わって、飽きのこ
ない娯楽作品にできあがっている。

でも、単なる娯楽作品じゃない。長く長く人生をともにしたカップルならでは
の関係が沁みいる。
重くはないけれど軽いともいいきれない。ちょっとした「ひっかかり」を心に
残してくれる作品である。

■COLUMN
外国の映画を観て、その国の風土を垣間見るのが、このメルマガのテーマでも
ある。
ハンガリーの映画というと、今までに、このメルマガでは『カフェ・ブダペス
ト』
『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』という2作を取り上げたことが
あって、たぶんこの『人生に乾杯!』が3作目のハンガリー映画だ。そのなかで、
ハンガリーローカルの雰囲気が最も薄いのが、この映画だ。

外国映画を観るときには、文化や風土の違いだけじゃなく、遠い国と自分が慣
れ親しんだ国との共通点を見つけることにも、楽しみがある。この映画は、
「ハンガリーって、こんな国なんだ」という驚きや興味よりも、「ああ、どこ
もいっしょだね」とうなずいて楽しむところが目立つ。

もちろん、「社会主義が崩壊した」という特殊事情は、年金を管理する役人が
無能だったという日本のしょぼい特殊事情とは比べものにもならないが、「年
金だけでは暮らせない」という不安が現実のものになっていることは、この国
でも同じだ。年金の問題は、役人たちが記録をしっかりつけていたとしても、
制度として崩壊しそうであることで、そうした社会保障費に困っていることは
どこの国でも同じだろう。

そして、国を騒がせる犯罪がテレビで逐一報じられ、その感想を一般の人たち
がインタビューで語り、世論が作られていく、こんな社会もどこの国にも共通
のことだ。
ヘディが近所の友だちといっしょに見るクイズ番組は、「ミリオネア」。
日本ではみのもんたの司会でおなじみの、世界共通のクイズ番組だ。

東欧の異国情緒を求めるのも、お門違いではないが、いまやEU加盟国であるハ
ンガリーは、グローバルに共通な課題をかかえ、「世界のどこの国にも似てい
る」国のひとつである。おそらく作り手は「世界共通のテーマ」であることを
意識して作ったんじゃないか。だからこそこんな極東の国まで、この映画が届
いたのかもしれない。

とはいえ。
逃避行の物語はロードムービーでもあり、ハンガリーの風景を眺める楽しみに
は事欠かない作品。外国の景色がお好きな人にもおすすめ。

■INFORMATION
☆新作映画です。
東京・シネスイッチ銀座、愛知・名演小劇場、山口・シアター・ゼロにて
公開中。全国順次公開予定。
公式サイト: http://www.alcine-terran.com/kanpai/index.html

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☆次回配信のおしらせ
マガジンスタンド「まぐまぐ!」がシステムリニューアルのため、
7月1日〜3日まで、配信機能を停止します。
それに便乗し(?)来週はこのメルマガも配信をお休みします。

次は7月9日(木)にお届けする予定です。
ここのところ毎週金曜に配信がずれていたので、その「ずれ」も直せれば。
それでは、また次回をお楽しみに。
よろしくお願いします!

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