2009年06月26日

No.211 人生に乾杯! (新作)

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欧 州 映 画 紀 行
                No.211   09.06.26配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ スローなギャング映画はいかがですか ★

作品はこちら
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タイトル:『人生に乾杯!』
製作:ハンガリー/2007年
原題:Konyec 英語題:不明

監督:ガーボル・ロホニ(Gábor Rohonyi)
出演:エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ、
   ユーディト・シェル、ゾルターン・シュミエド
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■STORY&COMMENT
81歳の夫エミルと70歳の妻ヘディ。社会主義が崩壊したハンガリーでは、年寄
りが年金では暮らしていけず、家賃を払うのにも苦労し、毎日取り立てから逃
げている。かつて運命的な出会いをした二人だが、苦しい生活のなかですっか
りぎすぎすしている。
ついに二人の思い出のイヤリングが借金の形にとられたとき、エミルは郵便局
で強盗することを決心する。不思議な老人カップルギャングの誕生だ。

共産党幹部の運転手をしていたエミルの愛車は、1950年代のチャイカ。そんな
車を走らせて、「カーチェイス」ぽいこともある映画なのだけど、老人を描い
た作品らしい、どことなーくスローな感じがいい。

生活苦から強盗を思いつくエミルだが、要求のつきつけ方は紳士的。
テレビのニュースで夫の行動を知り、一度は警察に協力するヘディは、途中で
警察を振り切って共に逃避行の道を歩む。
「こんな生活には耐えられないから、強盗してやる!」てな感じでの、夫婦の
「決心の瞬間」や「社会への憤り」はなし、そろーりと黙って強盗をやりはじ
めた夫に、あらためて夫にかっこよさを認めて、おもむろにくっついていっしょ
に行動する妻。ふつうのクライム・ムービーには絶対に見られない独特の雰囲
気の「スロー」だ。

ギスギスしていた関係も、二人に目的ができた今、昔のようにいたわり合い、
思いやり合う関係に変化する。逃避行の合間に仲睦まじく会話をする様子には、
盛り上がるシーンでもないのにホロリとくる。
そうするうちに、ささいな言い合いや、焼きもちやらも復活して、自然で平和
な夫婦の生活がすっかりなじむ。逃走中の二人ということを忘れそうなほどに、
円熟の暮らしが見える。

強盗とスローな老夫婦、タイミングの悪い警察、「老人の生活の苦しさを世に
知らしめてくれた!」と二人を応援する世論など、コミカルなエピソード群に、
二人を追う警察官のロマンスと、ちょっぴり意外なオチが加わって、飽きのこ
ない娯楽作品にできあがっている。

でも、単なる娯楽作品じゃない。長く長く人生をともにしたカップルならでは
の関係が沁みいる。
重くはないけれど軽いともいいきれない。ちょっとした「ひっかかり」を心に
残してくれる作品である。

■COLUMN
外国の映画を観て、その国の風土を垣間見るのが、このメルマガのテーマでも
ある。
ハンガリーの映画というと、今までに、このメルマガでは『カフェ・ブダペス
ト』
『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』という2作を取り上げたことが
あって、たぶんこの『人生に乾杯!』が3作目のハンガリー映画だ。そのなかで、
ハンガリーローカルの雰囲気が最も薄いのが、この映画だ。

外国映画を観るときには、文化や風土の違いだけじゃなく、遠い国と自分が慣
れ親しんだ国との共通点を見つけることにも、楽しみがある。この映画は、
「ハンガリーって、こんな国なんだ」という驚きや興味よりも、「ああ、どこ
もいっしょだね」とうなずいて楽しむところが目立つ。

もちろん、「社会主義が崩壊した」という特殊事情は、年金を管理する役人が
無能だったという日本のしょぼい特殊事情とは比べものにもならないが、「年
金だけでは暮らせない」という不安が現実のものになっていることは、この国
でも同じだ。年金の問題は、役人たちが記録をしっかりつけていたとしても、
制度として崩壊しそうであることで、そうした社会保障費に困っていることは
どこの国でも同じだろう。

そして、国を騒がせる犯罪がテレビで逐一報じられ、その感想を一般の人たち
がインタビューで語り、世論が作られていく、こんな社会もどこの国にも共通
のことだ。
ヘディが近所の友だちといっしょに見るクイズ番組は、「ミリオネア」。
日本ではみのもんたの司会でおなじみの、世界共通のクイズ番組だ。

東欧の異国情緒を求めるのも、お門違いではないが、いまやEU加盟国であるハ
ンガリーは、グローバルに共通な課題をかかえ、「世界のどこの国にも似てい
る」国のひとつである。おそらく作り手は「世界共通のテーマ」であることを
意識して作ったんじゃないか。だからこそこんな極東の国まで、この映画が届
いたのかもしれない。

とはいえ。
逃避行の物語はロードムービーでもあり、ハンガリーの風景を眺める楽しみに
は事欠かない作品。外国の景色がお好きな人にもおすすめ。

■INFORMATION
☆新作映画です。
東京・シネスイッチ銀座、愛知・名演小劇場、山口・シアター・ゼロにて
公開中。全国順次公開予定。
公式サイト: http://www.alcine-terran.com/kanpai/index.html

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☆次回配信のおしらせ
マガジンスタンド「まぐまぐ!」がシステムリニューアルのため、
7月1日〜3日まで、配信機能を停止します。
それに便乗し(?)来週はこのメルマガも配信をお休みします。

次は7月9日(木)にお届けする予定です。
ここのところ毎週金曜に配信がずれていたので、その「ずれ」も直せれば。
それでは、また次回をお楽しみに。
よろしくお願いします!

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感想、質問、リクエストなど、なんでもお待ちしております。

編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/about.html
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一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

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ラベル:東欧
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2009年06月19日

No.210 奇人たちの晩餐会

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.210   09.06.19配信
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★ 罪悪感が笑いのスパイス ★

作品はこちら
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タイトル:『奇人たちの晩餐会』
製作:フランス/1998年
原題:Le dîner de cons 英語題:The Dinner Game

監督・脚本:フランシス・ヴェベール(Francis Veber)
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、カトリーヌ・フロ、
   ダニエル・プレヴォスト、フランシス・ユステール、
   アレクサンドラ・ヴァンダヌート
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■STORY&COMMENT
出版業で成功しているピエール・プロシャン。「バカ」を探し出してきて仲間
と笑いものにする晩餐会が毎水曜の楽しみだ。
今回の「バカ」はマッチ棒細工が大好きなフランソワ・ピニョン。晩餐会当日、
プロシャンは、ぎっくり腰で動けなくなり、さらに妻が愛想を尽かして家を出
るという憂き目にも遭い、自宅でピニョンと過ごすことに。
ピニョンと、彼に振り回されっぱなしのプロシャンのやりとりが楽しいコメディ。

最近DVDになったラフマニノフの映画で書くことを予定していたのだけれど、観
てみたら、あんまり私の好みではなかったので、急遽、なんかないかなと探し
て、CSチャンネルでやっていたこの作品に。
実をいうと、この作品、公開された頃に観たとき、面白いは面白いけれど、ど
うも根本のところでノレなかったのだ。だから、今までメルマガでも取り上げ
てこなかったのだけれど、今回改めて観てみたら、なーんのひっかかりもなく
楽しめた。

この「バカ」フランソワ・ピニョンは、
・熱中すると話がとまらなくなる
・そして、熱中すると直前の会話やできごともすっかり忘れる
・今風にいうと「空気を読めない」、人が迷惑がる可能性を察知しない
・根は善人かもしれないがとにかく間が悪くておせっかい
等の性質を持ち合わせていて、

腰痛のプロシャンを助けようとしてよけいひどいことになったり、出て行った
妻のことで役に立とうとして、これ以上ない最悪の結果を引き出したり、キャ
ラクターの立ったよくできたシチュエーションコメディだ。

この作品の肝は、もちろん、このピニョンのキャラクターだが、それに付随す
る要素として、人の罪悪感を刺激するブラックさがある。

本人は何の自覚もしていないちょっと変わった人を集めてきて、こっそりバカ
にして楽しむという悪趣味なプロシャンを見せられて、観客は軽く嫌悪感を抱
く。豪奢な家や金持ちの趣味ゴルフ(フランスでは日本ほど一般的なスポーツ
ではない)と、装置もしっかり揃う。
だが、ピニョンが登場して、実際にいろいろかき回してくれると、「こいつホ
ントにバカだ」と、「バカ」呼ばわりすることも果たして間違いじゃない、と
いう気がしてくる。
だから、知らず知らずのうち、プロシャンの悪趣味に観客は参加させられるわ
けだ。鼻持ちならない金持ちの道楽の共犯となって、奥の方にある罪悪感がチ
リチリとする。

この作品で生まれる笑いは、そういうギリギリのバランスのところに作られて
いる。おかしいところは、罪悪感が手伝ってさらにおかしく、しかし、それに
耐えられなければ、「なんだか笑えない」となることもあるだろう。

前に観たとき、なんで私はノレなかったかというと、きっと、罪悪感に耐えら
れなかったのだろう。ピニョンを演ずるジャック・ヴィルレが、あまりに自然
で、なんだかピニョンに本気でイライラしてきてしまったから、笑うよりも、
実は日常生活で誰かを「バカ」呼ばわりする己の姿を見せられたようで、辛く
なったのかも。
現在の私は、ちょっと成長して心が広くなったんだろうか。罪悪感のチリチリ
を片腹に感じながらも、それをブラックな味付けとして、楽しく吹き出しつづ
けた。

物語は最終的に、観客が最初にいだいた嫌悪感を裏切らない。「バカ」はバカ
にされるだけじゃなくちゃんと反撃する。そして、その後のオチもしっかり。
鬱陶しい梅雨時は、笑って元気を取り戻す、てのもおすすめです。

■COLUMN
フランシス・ヴェベール監督にとって、「フランソワ・ピニョン」という名は、
大切なものらしい。脚本も書くヴェベールの作品には「フランソワ・ピニョン」
という登場人物がたびたび出てくる。
同じキャラクターというわけではなく、それぞれの物語でそれぞれのキャラク
ターを持っているのだが、名前は同じ。

このメルマガで以前取り上げた『メルシィ!人生』で、ゲイと偽って、世間体
を気にする会社から、リストラ撤回を勝ち取ろうとする主人公が、フランソワ・
ピニョンだった。
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film006.html

ピニョンが出てくる作品は、私もこの2作しか観たことがないのだが、世間で
はちっとも相手にされない冴えない人物なのだけれど、周りを巻き込んでいつ
の間にかその事件の主役になるようなキャラクターが共通項としてあるんじゃ
ないかと思う。


『奇人たちの晩餐会』は、「バカ」をバカにするブラックな面を持っているが、
その底には、世間ではとるにたらないと評価されそうな小さな庶民への優しい
眼差しがある。
だから、ヴェベールファンは、「フランソワ・ピニョン」という登場人物の名
前を聞いただけで、ワクワクするのだろう。

同じ名前だけれどキャラクターは別、という使い方は、他ではあんまり思い当
たらないけれど、そういうのも面白い「シリーズ化」だと思う。

■INFORMATION
☆DVD
奇人たちの晩餐会 リマスター版 [DVD]
価格:¥ 3,587(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00009V9FA/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2009年06月12日

No.209 画家と庭師とカンパーニュ

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.209   09.06.12配信
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★ ゆったり田園風景 ゆっくり友情 ★

作品はこちら
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タイトル:『画家と庭師とカンパーニュ 』
製作:フランス/2007年
原題:Dialogue avec mon jardinier 
英語題:Conversations with My Gardener

監督・共同脚本:ジャン・ベッケル(Jean Becker)
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジャン=ピエール・ダルッサン
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■STORY&COMMENT
パリで成功した画家が、生まれ故郷に戻って新しい暮らしをはじめた。庭師の
募集にやってきたのは、偶然にも小学校の同級生。再会を喜び、すぐに意気投
合し、数十年ぶりの友情を築いてゆく。

故郷は早くに飛び出し、パリで芸術家仲間と暮らし、財産も築いた画家は、自
らの浮気癖のせいでただいま妻と離婚調停中。かたや庭師は、ずっと同じ村で
過ごし、中学を出て国鉄職員として働き妻とつつましく暮らしてきて、退職し
た今、念願の庭師となった。

生活感覚や常識の違う者同士、懐かしさで仲よくなっても、やがてその関係に
暗雲がたちこめるのか……、なーんて構えて見ていたのだけれど、そんな展開
には、ちっともならなかった。
ちょっと前に紹介した『ぼくの大切なともだち』で、ダニエル・オートゥイユ
が友情というものを理解しない男を演じていたことにひきずられていたのかも
しれない。それとも、人間の暗い面を見ることばかりに慣れてしまったのか。

もちろん、互いの境遇や環境の違いで会話がすれ違うところはたくさんある。
一方が一方を理解できなくて、言い争いになることもある。たとえば、顧客に
注文された絵を描いていて辟易している<芸術家の苦悩>を理解しない庭師。
たとえば、失業した娘婿のことで悩む庭師に対し、<いまこの時代に労働者階
級が再就職することの難しさ>を理解できない画家。
だけれど、それは、何かが決定的に変わってしまうすれ違いにはならない。フ
ランス人の友人らしく、言いたいことを言ってけんかになっても、それはその
場だけのこととなる。

邦題だと『画家と庭師とカンパーニュ』と、主人公二人と繰り広げられる舞台
が並列した形になっているけれど、原題は「うち(私)の庭師との会話」。二
人の関係というよりも、画家の目線で観て、二人の会話を楽しむのが合ってい
るのだろう。事実、出てくるシーンはすべて画家の行動を追ったもの。画家が
いなくて庭師のいるシーンはなく、田舎でもパリでもいつも画家のいるところ
だけが物語に登場する、画家目線の物語だ。

庭師は、念願だった庭師を退職後のアルバイトにできたことがうれしい、とい
う変化があるが、地に足をつけつつましく家族と暮らす生活は、基本的に変わ
らない。しかし画家は、スノッブなパリの芸術家を庭師に聞いた話を引用して
やりこめ、修復不可能に見えた夫婦の関係も自分が少しずつ他人を気遣うこと
をきっかけにして変わっていく。
人生もすっかり完成したかに見えるときに訪れる、柔らかい変化が心にしっく
りくる作品。

■COLUMN
たまたま睡眠不足の日に観たことも影響し、途中、少し眠くなるところもあっ
た。けれど、それは、退屈なのとは違う。田舎ののんびりした景色と、友情を
復活させた二人の雰囲気がなんともゆったりして、リラックスを呼ぶからだ。

夏を前に、どこか緑のあふれた空気のいいところに行きたいな、と思っている
人は、いい旅行気分を味わえる。
また、自分の故郷が木々ざわめく田園ならば、夏を前に、帰省時期を決めたい
な、なんて気分になる人もいるだろう。

私の育った町は、空気をいっぱいに吸い込みたくなるような田園風景ではない
けれど、決して都会ってわけでもない、中途半端な故郷だ。19歳でその故郷を
離れた私が、この映画で妙に「あるある」と共感したのは、庭師がふいに口に
する同級生や友人の名前に、画家が反応できないところだ。

たまの帰省で会う小・中学校の同級生は、小学校の教師をしている。昔の同級
生が父兄にいるとか、昔教えてくれた先生が上司になったとか、いついつの隣
のクラスの誰々が非常勤で働きに来たとか、そんな話をよくしてくれる。いろ
いろと繰り出される名前を、私は把握するのに何秒かタイムラグがあって、そ
の名前から昔の思い出をたぐりよせるのに、けっこう苦労する。

あるひとところにずっと住んでいると、記憶がずっとひと揃いで続く。住む場
所を変えると、自分でも気づかないうちに、思い出は断絶されてどこかに追い
やられている。いいとか、悪いとかいうことではないのだが、すぐにピンとこ
ない名前たちに、そんな記憶の差を思うことがある。

大きな変化があるわけではないゆったりした物語は、観る人によって、さまざ
まに捉えられそうだ。今、緑を欲している人には緑を、故郷を懐かしむ人には
故郷のあたたかさを、旧友を思う人には旧友の心強さを。夫婦関係に苦しむ人
には仲直りの道筋、てものある。
みたいものを、みせてもらい、考えさせてもらい、のんびりと観るのが合って
る作品かな。

■INFORMATION
☆DVD
画家と庭師とカンパーニュ [DVD]
価格:¥ 3,775(定価:¥ 4,980)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001S8SFHS/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

☆コメントくくださった方へお返事
〇 さま
ありがとうございます。最後の一言コメントは、楽しみにしてくださる方が実
は多く、私も最も力を入れるコーナーで……というのはウソ、これからも気楽
に近況報告を続けていきます。たまに忘れますが。(このコーナー、blog版や
サイトのバックナンバーにはありません。ごめんなさい)。
ラッキョもいいですねえ。おいしいものができたら教えてください!

じゅんこ おおくぼ さま
『家族の肖像』は、いろいろな角度から楽しめる要素がつまっています。ご覧
になったら、またぜひ感想を聞かせてくださいね。

kaede さま
映画の使用言語の件、そうなんですよね。言葉が伝えるのは意味だけではなく
て、音や雰囲気も含まれていますから、やっぱり、その物語の風土として現地
語、実際にそこで使うであろう言語の方が、しっくりくると思います。

※コメントへのお返事は、原則として、次号でこうした形になります。
メールで返事をご希望の方は、メールアドレスと「返事はメールで」の一言を。

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2009年06月05日

No.208 家族の肖像

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欧 州 映 画 紀 行
                No.208   09.06.05配信
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★ 生身の人間相手に夢を見られるのなら、悲劇ってだけじゃない ★

作品はこちら
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タイトル:『家族の肖像』
製作:イタリア・フランス/1978年
原題:Gruppo di famiglia in un interno  英語題:Conversation Piece

監督:ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)
出演:バート・ランカスター、ヘルムート・バーガー、ドミニク・サンダ、
   クラウディア・カルディナーレ、シルヴァーナ・マンガーノ
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■STORY&COMMENT
ローマの大きなアパルトマンに家政婦を雇って、静かに自分の世界に閉じこもっ
て暮らす老教授。そんな教授のもとに、2階を借りたいという母娘が現れる。
断る教授を強引に説き伏せ、この母ビアンカと娘リエッタは2階に住むことに
してしまう。
リエッタの婚約者、ビアンカの愛人コンラッド、価値観の違う住人と隣人(上
下だが)となり、戸惑い辟易する教授だが、コンラッドが、絵画を理解し、モー
ツァルトを愛し、芸術について造詣が深いことを知って、彼を見る目が変わっ
てくる。

ひっそり暮らしている老教授のところに、騒がしい間借り人がやってきて、教
授の生活が変わっていく。筋立てはシンプルなのだけれど、実はいくつも要素
があって、(たとえば、「世代のギャップ」「貴族の暮らしと考え方」「親子」
「家族」「ヨーロッパと新世界」などなど)どこを中心に観るのか、どこを中
心に語るのか、という選択はきっと無数にあるだろう。
きっとヴィスコンティが好きな人というのは、その辺が楽しくてたまらないん
じゃないかな。

言い訳じゃないけれど、私は生半可な映画ファンなので、そんなに広がったこ
とを言えるわけじゃない。いちばんシンプルなところ、老教授の「家族」への
憧れの話にとどめる。

貴族階級でインテリ、家族はなく、好きなものに囲まれて、静かに暮らしてい
る老教授(名前は最後まで明かされない)は、自分のテリトリーを守り、自分
の人生に満足しているように見える。
しかし、カンバセーションピースと呼ばれる家族の肖像画を好んで集め、身の
回りに飾っているところからして、こっそり「家族」に憧れているのだろう。

だから、はじめは迷惑に思っていた騒がしい間借り人たちに、そのうちに「家
族」の情で接しようとする。コンラッドに対しては、「自分の知識を託せる息
子」くらいの気持ちを抱く。
教授の頭には、別れた妻や母の思い出がフラッシュバックし、闖入者たちの存
在は、確実に教授の生活にも考え方にも影響を与えていく。
老人は、実生活で実現できなかった「家族を持つ」を今ここで現実のものにで
きるかと、うっかり思ってしまったのだ。ことあるごとに、教授は心ざわめく。

しかしそうして、家族なんだと思って腹をくくったころ、この「家族」は崩壊
の方向へ急激に向かっていく。世捨て人が、もう一度人を信じて関わっていこ
うとしたときのこと。所詮は教授の幻想に過ぎなかったのか、家族として理解
することは無理だったのか。

物語は悲劇なのだけれど、私には悲劇だけじゃない気がしてならない。老年に
さしかかったとき、理解不足だろうが幻想だろうが、生身の人間相手に家族を
夢見たことは、よかったんじゃないだろうか。ここで言うような「古き良き理
想の家族」が、物心ついた頃にはある意味すでに崩壊していた世代だから、そ
う思うのかもしれないけれど。
家族と感じたり、息子と呼びたい人ができるのは、晩年のすてきなできごと。
私にはそう思える。

■COLUMN
この『家族の肖像』は、このメルマガで取り上げるものとしては、例外的だ。
新しめの作品を取り上げることが多いのに、この作品はちとクラシックという
こともあるが、もう一つ、私には、現地語で話している作品を取り上げたい、
という思い・優先順位がある。

『家族の肖像』は、舞台はローマという設定だが、登場人物は皆英語で話す。
本国イタリアで公開したときは、イタリア語の吹き替えだったらしい。

外国の映画を観るときは、その国の言葉も音で楽しみたいから、東欧の話なの
に英語だったりすると、がっかりしてしまう。
といっても、外国語を聞いてもわからないから、ひょっとすると、田舎の話な
のに皆標準語で話しているとか、リアリティのないことはいっぱいあるのかも
しれない。だから、「現地語第一」なんて考えていても怪しいもんだが、まあ、
とにかく、そういう映画の方が好きなのだ。
(もちろん、全編英語でも面白い作品はたくさんあるし、今回の『家族の肖像』
もそのひとつである)

グローバル化が進むと、いろんな国の俳優が集まって映画を作ることは今後もっ
と多くなるだろう(『家族の肖像』も、そういう形で共通語の英語が選択され
ているのだと思う)。

どっちみち、字幕や吹き替えで、それぞれの国の言葉で理解するんだから、世
界中から最高峰の俳優を集めて、世界の共通語である英語で製作すればいい。
英語なら、翻訳なしに理解できる人の数も多い。
その考え方もわかるけれど、なんだか私はつまらない。
世界には、こんな響きの言葉を話している人たちがいる。そんなことを無意識
に感じることだけでも、価値あることだと、私は思うんだけどなあ。

■INFORMATION
☆DVD
家族の肖像 デジタル・リマスター 無修正完全版 [DVD]
価格:¥ 4,311(定価:¥ 5,040)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000CEVWP6/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2009年05月21日

No.207 ベティの小さな秘密

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欧 州 映 画 紀 行
               No.207   09.05.21.配信
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★ 大人になったから、わかる。あのときの子どもの気持ち ★

作品はこちら
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タイトル:『ベティの小さな秘密 』

製作:フランス/2006年
原題:Je m'appelle Elisabeth 英語題:Call Me Elisabeth

監督・共同脚本:ジャン=ピエール・アメリス(Jean-Pierre Améris)
出演:アルバ=ガイア・クラゲード・ベルージ、ステファーヌ・フレス、
   ヨランド・モロー、マリア・デ・メディロス、バンジャマン・ラモン
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■STORY&COMMENT
ちょっと昔のフランスの片田舎。10歳のベティは、大好きな姉が寄宿舎に入っ
てしまい、両親は不仲でけんかが絶えず、孤独になっていた。
ある日、父が院長を務める精神病院から患者が逃げ出した。その患者・イヴォ
ンに出会ったベティは、こっそり納屋にかくまうことにする。寂しい思いをし
ていたベティ。イヴォンに淡い恋心を抱くようになって……。

ベティの身にはいろんなことが起こって、とっても大きな冒険をしたように感
じる。けれど、ここで流れている時間は、姉が寄宿舎へと発ち、「週末には帰っ
てくるから」と言って帰ってくるまでの1週間弱のこと。
そんな短い間にいろんなことがはじまって、終わって、成長する、子どものと
きならではの時間の経過だと思う。
吸い込まれそうで、何かが出てきそうで怖かった暗闇や、何となく異世界に引
き込まれそうな扉、思うようにまわりの人がかまってくれない孤独、両親のケ
ンカの声が絶望的に不安に落とし込んだこと。子どものときに味わったなつか
しくて、ちょっと痛い感覚があふれている。

子どもが主人公の子ども映画のように、(少なくともパッケージはそんな雰囲
気に)なっているけれど、子どもが観てもこの感覚はきっと伝わらないだろう。
この作品は、もう子どもじゃなくなった大人こそがわかる、子どもならではの
気持ちを、ていねいに映し出す。

こっそり隠れながらかくまってあげるイヴォンや、新しい恋人のところへ行こ
うとする母、飼いたいと頼んでいるのに、父が話を聞いてくれないから、安楽
死処分になりそうな犬、などなど。どうやって、どこにこの物語は帰着するん
だろうと、心配になりながら経過を見守っていた私だったが、最終的にはいろ
んなあれこれが、ほのめかしながらも観客の想像にゆだねてあって、その辺り
も、お子ちゃまに甘くない大人の映画だね、と気に入った。

木々が光にきらめく、晩夏の田舎の景色も美しい。そんな画面のきれいさも含
めて、大人だからこそ楽しめる子どもの映画、いい陽気が外へと誘い出すよう
な休日に、大人はむしろ家でテレビに向かって、ぜひ。

■COLUMN
「もう子どもは終わった」と新しい生活に胸をふくらませて寄宿舎へと行って
しまう姉を、ベティは寂しく見送るしかできない。姉のアニエスは、ちょうど
思春期、「もう子どもじゃない」と威張ってみせることのできる年頃で、ベティ
自身がそれを気づいているかどうかはわからないけれど、ベティをずいぶん子
ども扱いしている。
アニエスは「もう子どもじゃないもん」と強がれる年で、ベティは「もう子ど
もじゃないもん」と言えることに憧れる子どもだ。

それを象徴的に表しているのが、「ベティ」という呼び名。だれもかれも(つ
まり、両親、姉、学校の友だち、みんなが)ベティと呼ぶけれど、ベティ自身
は、「エリザベート」と名前で呼んでほしい。そして、それが一人前と認めら
れることの証でもある。
だから「ベティ」と名乗りながらも、イヴォンには「エリザベート」と呼んで
ほしいと言う。

原題の「Je m'appelle Elisabeth」は、直訳すると「私(の名前)はエリザベー
ト」という意味だけれど、セリフの文脈としては、英語題の「エリザベートと
呼んで」、が近い。
1週間弱という短い期間に、悲しいことや勇気を振り絞ることを体験するベティ。
そのしめくくりとして「エリザベートと呼んで」という彼女の気持ちを考える
と、『ベティの小さな秘密』なんて脳天気な邦題をつけられてしまったことが
なんだか気の毒になってしまった。

「私はエリザベート」じゃあ、どこかの王女か皇后みたいで重い感じがしてし
まう、日本で公開するなら、『ベティの小さな秘密』で間違いないとは思う。
(タイトルは大事なキャッチコピーだから)

でも、この作品に関しては、タイトルにするほどにベティ=エリザベートにとっ
て大切な呼び名の意味がすぽっと抜け落ちかねないから、うーん、もったいな、
と思う。「翻訳する」って難しいなあ。

■INFORMATION
★DVD
ベティの小さな秘密 [DVD]
価格:¥ 3,161(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001P2QRK4/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントくださった方にお返事
kaede さま
メルマガご登録以来、実際に紹介作品を観てくださってありがとうございます。
宅配レンタル、私は未体験ですが、全国どこでも同じ在庫で、メジャー作品も
マイナー作品もあって便利そうですね。
今回の作品は、ご興味と少し違うかもしれませんが、いろいろな作品を取り上
げていきますので、また、おつき合い、どうぞよろしくお願いします!

※上記のクリックからのコメントへのお返事は、基本的に、次回配信号誌面で
こうした形でいたします。
返事をメールで欲しい方は、メールアドレスと返事はメールで、の一言を。

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編集・発行:あんどうちよ
筆者について http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/about.html

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2009年05月14日

No.206 ぼくの大切なともだち

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欧 州 映 画 紀 行
              No.206   09.05.14配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 面倒で、悲しくて、苦しくて。でも人と関わるのはやめられない ★

作品はこちら
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タイトル:『ぼくの大切なともだち』
製作:フランス/2006年
原題:Mon meilleur ami 英語題:My Best Friend

監督・共同脚本:パトリス・ルコント(Patrice Leconte)
出演:ダニエル・オートゥイユ、ダニー・ブーン、ジュリー・ガイエ
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
舞台はパリ。美術商のフランソワは、顧客の葬式で参列者が少なかったと嘲笑っ
て話していたら、仲間に「君のときはもっと少ない。友だちがいないのだから
きっとゼロだ」と言われた。
その指摘に憤慨したフランソワは、10日以内に“親友”を連れてくると、賭け
をすることに。
“友だち”だと思う人を訪問してみるが、“友だち”の何たるかをわかってい
ないフランソワは的外れなことばかり。カフェで、いきなり、「皆の勘定を持
とう」と叫べば、誰かが友だちになるに違いない、なんて思うありさまだ。
誰にでも気さくに話しかけるタクシー運転手ブリュノに、「友だちのつくり方」
をレクチャーしてもらうことにする。

ビジネスの仲間が口をそろえて「友だちがいない」と評するフランソワは、自
己中心的で、他人に対する思いやりがすっかり欠如している。
そういうイヤな男が主人公なのだが、この男を「必死に親友をつくろうともが
く」という設定に押し込めると、友だちがつくれないのは「かわいげのある幼
児性」、もがく姿は「コミカル」になって、不快感はまったくない。

「友だちのつくり方」を教えているブリュノは、フランソワを「友だち」とし
て心配したり、世話を焼いたり思いやったりしはじめるのだが、フランソワの
方はさっぱりそのことに気づかない。
「恋のように」というと語弊があるかもしれないが、一対一の人間関係には、
どうしたって「恋のように」相手の反応に敏感になったり、他方の無関心に失
望したり、報われない思いをもてあましたり、そんなことが起こる。

賭けだから必死に“友だち”をつくっている、いつまでも気づかないフランソ
ワと、ふつうに誠実に接するブリュノ、二人に本当に友情は生まれるのか、は
観てのお楽しみ。
ラストまで観ると、ちょっと悲しくて、ちょっと温まって、人間関係って面倒
でやっぱり面倒で、でも結局、そこがいいんだよね、と、うすうす気づきなが
らも面と向かっては言葉にできない“真理”を、誰かに伝えたくなる。

■COLUMN
“友だち”って何、というような話になったとき、ブリュノは「何か悩みがあ
るとき、午前3時に電話をできる相手は?」とフランソワに尋ねる。もちろん
そんな相手はいないフランソワだが、「悩みはない」と切って捨てる。ブリュ
ノは、「ああ、じゃあそんな相手がないことが悩みだ」とちゃかし半分に話を
しめくくる。
話が進むにつれてわかってくるのは、ブリュノにだってそんな相手はいないっ
てことだ。

“友だち”の何たるかは人並みにわかっているし、フランソワのような態度が
友だちをつくらないことも知っているブリュノだが、友だちがそんなにいない
ことではフランソワと同じ。フランソワと違うのは、そんな自分をはじめから
わかっていることで、その分、ブリュノはフランソワよりもずっと孤独を感じ
ている。

そんなブリュノは、多くの観客にとって自分を投影できるキャラクターだろう。
「午前3時の電話」という具体例にこだわるわけではないが、実際、それに恩
に着ず恩に着せずできる関係(恋人相手ではなく)を持てる人は少ないはずだ。
若い頃にはそれができても、互いに仕事を持ち、家庭を持ち、するうちに、そ
んなことはできなくなっていく。

仕事関係での“知り合い”じゃなく、学生時代の“知り合い”じゃなく、
“友だち”、そして“親友”と言える人がいるのか。
温かいヒューマンコメディの裏では、厳しい問いを自分につきつけることにも
なる。性別で分けたくはないけれど、特に働き盛りの男性にとっては、痛い問
いにもなるんじゃないかな。

上から評するような態度じゃあ「ずるい」かもしれないから、じゃあ、私はど
うなのかってことを一言。
もともと知り合いの人数も少ない上に、マメさがなくて、筋金入りの出不精で
つき合いの悪い私は、友だちはとっても少ない。葬儀に出席したとき、「私が
死んでも、こんなに人も弔電も集まらないよ」とかなり真剣に焦ったこともあ
る。午前3時には、電話もメールも、誰にもきっとできない。常識的な時間で
も、突然用事もなく、電話やメールしたら、マズいんじゃないかと、悩むに違
いない。

だから、フランソワの言動を微笑ましく思う私に、「それを笑ってられるのか
い」と内なる声が聞こえて痛かったのは事実だ。
けれど、別の方角からの内なる声は「きっと、何言ってるの、私がいるでしょ、
俺がいるだろ、といっしょに笑ってくれる輩、数人がいるじゃないか」と言う。
ああ、私の勘違いじゃなければいいのだけれど。

■INFORMATION
★DVD
ぼくの大切なともだち (完全受注5,000本限定生産)
価格:¥ 4,053(定価:¥ 4,725)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001EULZSQ/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2009年05月03日

No.205 この自由な世界で

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.205   09.05.03配信
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また不定期刊になっていまい、申し訳ありません。

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★ みんなの幸いはどこにある ★

作品はこちら
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タイトル:『この自由な世界で』
製作:イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン/2007年
原題:It's a Free World... 

監督:ケン・ローチ(Ken Loach)
出演:カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス、
   レズワフ・ジュリック、ジョー・シフリート、コリン・コフリン、
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
移民の職業斡旋会社に勤めていたアンジーは、理不尽な理由で解雇されてしま
う。雇われる立場に限界を感じ、前の会社への怒りも手伝って、表も裏も知り
尽くした職業斡旋ビジネスをはじめることにする。
自分がはい上がるため、シングルマザーとして息子を守るため。移民労働者た
ちに日雇い仕事を斡旋する仕事は、虐げられた者が、より弱い立場の人を虐げ
る構図を見せはじめ……

連休いかがお過ごしでしょうか。せっかくゴールデンで、ウィークなのに、おっ
と、ウィークは関係なかった、ずいぶん重たい作品を選んでしまいました。
でも、ま、2008年夏に日本公開されたこの作品は、今の方が、日本にいる人た
ちに響くかもしれず。こんな長い休みのときに、ちょっと世の中考えさせられ
るのも、悪くはないでしょう。

急に思い立ち、資金もないところから起ち上げた商売だが、アンジーは持ち前
の行動力と交渉力で、つぎつぎと顧客を増やしていく。
幸せになりたい、まともな暮らしをしたい、その思いを仕事への情熱にかえた
彼女の働きぶりは、成功した女性起業家のドキュメンタリーにも出てきそうだ。

アンジーの情熱は、国から逃げてきて、しかし亡命を認められない不法滞在者
を助けて仕事を斡旋する、という危ない方向へ向かってしまう。はじめは人助
けのつもりだった。
法律に触れることをするのは危険だ。しかし、本当に危険なのは、「助けよう」
という思いがだんだんずれて、仕事を成功させるためなら、弱い人たちの思い
も立場も踏みつけにしても仕方ない、不正もやむなし、という方向へ行くこと
だ。
「自由」の名の下に、自分の力でつかみとったならば、許されると信じてしま
うことだ。つかみとるも踏みつけられるも、すべては「自己責任」とでもいわ
んばかりに。

労働運動の応援にも熱心なケン・ローチ監督のメッセージはおそらく、アンジー
をたしなめる彼女の父の言葉に凝縮されている。そのメッセージの伝え方がい
ささか直接すぎるかな、もう少し「ほのめかす」感じがあってもいいんじゃな
いかとも、思うけれど、アンジーの行動の是非をゆっくり考えるには、父娘の
話し合いのシーンは必見だろう。
この映画で何かの答えが出ることはない。けれど、世の中の問題を考えてみた
いときに、ぜひ。

■COLUMN
「癒し」や「癒される」という言葉が流行り、定着して、もう長い。始めの頃
は(10年、もう少し前かな)、確か「ヒーリング」が爆発的に流行って、その
後「癒し」に落ち着いたような記憶がある。

「ヒーリング」なり「癒し」なりが流行るってことは、それだけみんな傷つい
ていて、マイナスの状態を「癒されて」ゼロあるいはプラスにしたいって、
思っているのだろう。
たいていの人が傷ついて「癒し」を求めてるってことは、それだけ、誰かを傷
つけてる人がいるということ。ということは、私もさんざんいろんなところで
人を傷つけてるんだろうか。と、ふと思った。そんなつもりはないのだけれど。

親は自分の子が学校で「いじめられていないか」は心配するけれど、「誰かを
いじめてやしないか」を心配することは少ないという。それを責めようとはまっ
たく思わないが、一般に「いじめ」は一人を大勢がいじめたり、無視したりす
ることが多いから、いじめの被害者よりも加害者の方が人数は多いはず、だか
ら、「誰かをいじめてやしないか」という心配の方が確率としては当たるだろ
う。そういう方向の心配を皆がしたなら、ひょっとしたら何かが変わるかもし
れないとも思う。

それといっしょで、自分がいかに傷ついたか、よりも、自分が人を傷つけてや
しないか、心を配ったなら、何かがスムーズになるかもしれない、と反省する。

だが、人が傷つくときには、必ずしも「傷つける」「傷つけられる」の1対1
で傷つくわけではない。むしろ、そういうはっきりした関係があるのは少数で、
もやもやとした怒りや、もやもやとした疲れや、小さいことの積み重ねで、結
果として「疲れて傷ついた自分」がそこにいる場合が多いだろう。

イライラや怒りが充満するところでは、アブない証券を少ーしずつ金融商品に
混ぜ込んで世の中に分散させているうちに、とてつもないダメージを世界に与
えるように、ちょっとしたイライラを、ちょっとした怒りを、少ーしずつ態度
や言葉に混ぜ込んで、傍らの人にぶつけているうちに、とてつもないダメージ
を周りに与えるということになりかねない。

見知らぬ人を含めたみんなのことを、ちょっと考えて、自分が何かをやらかし
てしまう怖さに、気を配って、みんなが、ハッピーになれたら、いいのにね。
そんな草の根の心配りではどうにもならないところに、進んでしまっているの
かも、しれないけれど。

■INFORMATION
☆DVD
この自由な世界で
価格:¥ 3,043(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001Q2HO28/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

☆コメントをくださった方へお返事
・melk さま
豪華で派手な映画もよいのですが、静かに、普通の人々の普通の生活を、じっ
くり見せてくれる作品が、やっぱり、私も大好きです。
そんな作品をこれからも探していきたいと思っています。
前号の『マルタのやさしい刺繍』ぜひぜひ、DVDでも観てみてくださいね。

・kaede さま
いらっしゃいませ〜。
>どんなふうにしてこういう映画を見つけるのですか?
うーん、レンタル店で眺めて面白そうなものをってこともあるし、blogなどで
の評判や、あと、公開していたときの新聞などでの評が頭に残っていたりもし
ますね。前に観たことのあって気に入った監督のものだと、またその次の作品
も追っかけたり。いろいろです。
リクエストなどもお待ちしてますので、気になる作品があったら、どうぞ教え
てくださいね!
一応、レンタル店で見つけやすいものを選んでいるつもりですが、そうじゃな
かったときは、許してください〜。

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2009年04月23日

No.204 マルタのやさしい刺繍

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欧 州 映 画 紀 行
            No.204   09.04.23配信
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★ 心に秘めた挑戦を、きっとあと押ししてくれる ★

作品はこちら
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タイトル:『マルタのやさしい刺繍』
製作:スイス/2006年
原題:Die Herbstzeitlosen 英語題:Late Bloomers

監督・原案:ベティナ・オベルリ(Bettina Oberli)
出演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナー、
   アンネマリー・デューリンガー、モニカ・グブザー、
   ハンスペーター・ミュラー=ドロサート
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■STORY&COMMENT
「おばあさん」たちの人生の再出発を描く心あたたまるコメディ。
夫を亡くしてからというものマルタはふさぎこむ一方。友人たちも心配するが、
本人は、一向に元気を出さない。しかし、ふとしたきっかけから、若い頃やっ
ていた裁縫と刺繍を再開しようと思いつく。彼女が昔作っていて、店を出すこ
とも夢見ていたそれは「ランジェリー」。
元気を出せと励ましていた友人も、息子も、「いい年してそんな破廉恥な」と
「ランジェリーショップ」には大反対で……。

「再出発」の物語は、観た後の気分がいい。
大々的な人生のリセットとまではいかなくても、何か新しいことをはじめたい
とか、生活をどこか変えたいとか、昔の趣味を再開しようとか、誰でも何かし
ら「自分の変革」を考えているもので、「再出発」に成功する物語は、皆それ
ぞれ自分のペースで感情移入しやすくて共感もしやすいのだろう。

さらに、この作品は、80歳の女性が主人公ということあって、「もう30過ぎた
し」「40超えちゃってるからどうにも」なーんて、甘っちょろい諦めを漂わせ
てる人たちを、しっかり激励してくれるところも爽快だ。

そして、この作品がするっと心に入ってくる要因のもう一つは、マルタの再出
発が、周りの人にも影響を及ぼすこと。1人の友人を除いて、誰もが反対する
マルタのランジェリーショップだが、マルタの姿を見て、周りの友人はしだい
に理解を示し、その理解はその人自身の変革へとつながっていくことだ。

フリーダは老人ホームでの生活に慣れず、ホーム内に友人もなく問題入居者扱
いされていたが、マルタのランジェリーショップの手伝いを考えるうちに、自
分に好意を持ってくれている男性の存在に気づく。
夫の介護に明け暮れ息子に邪険にされるハンニは、運転免許の取得に挑戦し自
立を目指す。

マルタは、映画の最初には完全にすねた老人だったけれど、昔の仕事の楽しさ
を思い出してからはとんとん拍子に、自分自身の変革はむしろ簡単だった。
難しいのは、その変革を他人にも理解してもらうことで、マルタの変化が少し
ずつ連鎖的に周りの人の幸福や変化を呼ぶさまが、すがすがしい。

誤解を恐れずにあえてサブカルな言い方で説明すれば。
友人や神父である保守的な息子などの「敵キャラ」が少しずつ味方になっていっ
て、最後に、意地悪と邪魔ばかりする地元の権力者が、ボスキャラとして残るっ
ていう構造が、物語に容易に入り込める要素になっている。

作ってみようと思いつつそのままになってたあの料理、挑戦しようかな。
サボり続けてたblogの更新、久々にしてみようかな。
そんなささやかな挑戦でも、人間、誰かにあと押しされたらうれしいもの。
ささやかなのも、大胆なのも、あなたの挑戦をきっと応援してくれる、あたた
かな一作だ。

■COLUMN
スイスのエメンタール地方の景色が美しい。
春の明るい陽気はやってきたけれど、目にするのは東京の雑踏ばかりの私にとっ
て、草木の青々とした映像は、深呼吸したい気分にさせてくれる。

ただ、こういうのんびりした佇まいの田舎にこそ、偏見や変化を阻む狭量な考
え方が巣くってるんだなあ、とコワくも感じる。

風俗店を経営するとか、そこで働くっていうなら、まあ、驚きや戸惑いはわか
るけれど、オリジナルのランジェリーを作るとか、その店を開くって、私が慣
れ親しんだ感覚だと「破廉恥」ていうようなことでもない。
(その辺り、以前に取り上げた『やわらかい手』の、孫の治療代を稼ぐために
風俗店のバイトを始めるマギーなら、周りのパニックがよく理解できる)
舞台として、同じメンバーが長い間同じように暮らし続けてきた田舎の村じゃ
ないと成立しない物語だ。

夫の頼みでランジェリーや洋服の仕立ての仕事を辞めたマルタ、夫が許してく
れなかったから運転免許の取得を諦めていたハンニ。
「年齢に関係なく新しいことはできる」というテーマは、この小さな村の狭い
ところで抑圧されて生きてきた女たちの長年の悔しさに立脚している。

地方に都会の風習や文化が入り込んで、同化させられる形で「変わる」ことが
あり、それが地方色がなくなると批判のもとにもなる。
田舎の町が変わるとき、こうやって中から、一人ひとりの心が変わる形なら、
息の長い、その土地に根付いた「変化」になるかなあ。

■INFORMATION
★DVD
マルタのやさしい刺繍 [DVD]
価格:¥ 2,925(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001QYK8LK/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントくださった方へ、お返事

・keicoco さま
配信を気に入ってくださって、本当にありがとうございます。
そういうお言葉、とっても励みになるのです。それで十分ですもの、DVDのこと
までお気になさらずに!
ドイツによくご訪問とのこと、うらやましい! 今度どこかに行かれたら、ぜ
ひ感想などお知らせくださいね。

・Bruno さま
>原題名の劇場の座席(開幕直前に今の席よりもモット見えやすい席に
>移る人がいるこれは人間の性なのです)と言う題名にしびれました

なるほど。もっと、もっと、と、どこまでも求めて「不満足」になる人間。
監督の興味深い人間観察ですね。
マルセイユを、楽しんでいらしてください!!

・tentpapa さま
楽しみにしているとのお言葉、ありがとうございます。
もっと楽しみにしていただけるように、がんばっていきます。


上記リンクからいただいたコメントへのお返事は、
原則として、このように次の配信誌上での掲載となります。
メールでの返事をご希望の方は、
メールアドレスと「返事はメールで」の一言を入れてください。

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お便り待ってます!

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2009年04月11日

No.203 モンテーニュ通りのカフェ

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欧 州 映 画 紀 行
               No.203   09.04.11配信
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★ デザートみたいに気軽にハッピー ★

作品はこちら
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タイトル:『モンテーニュ通りのカフェ 』
製作:フランス/2006年
原題:Fauteuils d'orchestre 
英語題:Orchestra Seats  もしくは Avenue Montaigne

監督・共同脚本:ダニエル・トンプソン(Danièle Thompson)
出演:セシル・ドゥ・フランス、ヴァレリー・ルメルシェ、
   アルベール・デュポンテル、クロード・ブラッスール、
   クリストファー・トンプソン(共同脚本)、ダニ、ラウラ・モランテ
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
パリ、モンテーニュ通り。豪奢なブティックが建ち並ぶ高級なエリアに、シャ
ンゼリゼ劇場はある。向かいのカフェ・ド・テアトルは、劇場の関係者やこの
地区で働く人がやってくる、名物カフェだ。
田舎からパリにやってきたジェシカは、運良くこのカフェで給仕の職を得る。
カフェと彼女を中心に、劇場に集う人々を描く群像劇。

軽くてかわいい、ティータイムでもディナーの後でも楽しめるデザートのよう
な作品。
観る人の境遇にもよると思うけれど、自分の人生を振り返っちゃったり、人の
業とか存在の切なさとかを考えたり、てことはなしに、「あー、おいしかったー」
とにっこりさっぱりハッピーになれる。
そこが正直に言えば物足りなくもあるけれど、プチハッピーを間違いなく感じ
られる作品としておすすめだ。

シャンゼリゼ劇場で、芝居の初日を待つ女優カトリーヌは、昼メロが好評で人
気も収入も十分だが、そんな低俗なものより映画に出演したい。元夫の演出の
今回の芝居も、なんだかパッとしなくてストレスがたまっている。

有名ピアニストのジャン=フランソワは、堅苦しいコンサートよりも、病院や
刑務所の訪問など音楽に縁遠い人に音楽を届ける活動にシフトしたいと考えて
いて、マネージャーでもある妻との関係が壊れかかっている。

長年かかって収集した美術品コレクションをすべてオークションにかけようよ
しているジャックは、妻に先立たれ今は若い愛人がいる。不仲の息子は、愛人
のことと母の気に入りだった作品まで売ることが不満だ。

いろいろな人がいろいろな用事で集う劇場には、社会的地位や名声がありなが
らも何かがうまくいかなくて、欲求不満を抱えた人がいる。そんな人たちの、
人生の再出発を優しく見守る。

バラバラに進行するそれぞれの「不満な人々」だが、カフェ給仕ジェシカが、
それぞれにちょっと影響を与えて、それぞれの物語をつなぎ合わせる役目をし
ている。
ジェシカを演ずるセシル・ドゥ・フランスは、私にはどうも演技がくどい印象
があったのだけれど、この作品では、心の底から明るくて、でもその明るさに
嫌みやうるささがない、「太陽のような」女の子を好演していたと思う。


■COLUMN
おそらく意識的に舞台である「パリ」の街を見せようとしている映画。空から
の映像や、劇場の屋上から見た街の風景、エッフェル塔を入れたシーンなどが
ところどころに差し込まれる。
「映画を観て旅行した気分になろう」のこのメルマガに、ぴったりの作品でも
ある。

ここに登場するシャンゼリゼ劇場や、その向かいのカフェは実在のもので、全
面協力によるオールロケだったのだろうか。詳しいことはわからなかったけれ
ど、「本物の場所」があることがドキュメンタリーぽくてリアリティを作って
いると思う。

グーグルのストリートビューで見てみると、ジェシカが働いているカフェが、
ここ
。ぐるっとまわって通りの斜め向かいに、シャンゼリゼ劇場がある。
最近は映画なんか観なくたって、これだけでけっこう行った気になれてしまう
んだなあ。

シャンゼリゼ劇場は、芝居やコンサートが開かれ、作品中ではオークション会
場にもなる、複合文化施設。東京でいうと、渋谷のBunkamuraみたいなところか
な。小さめの劇場も大ホールも美術館も映画館もあって、シャンゼリゼ劇場よ
りも規模は大きいのかもしれない。
Bunkamuraには、毎日たくさんの「観客」が訪れる。私が観客として訪れるとき
のことを思い出してみると、たとえば、シアターコクーンに芝居を観に行った
ときに、そのとき同じ芝居を観る別の観客とは、ある種の一体感を持てるけれ
ど、同じ日にオーチャードホールのバレエやオーケストラに訪れた観客のこと
なんか気にしない。逆もしかり。

そういうことを考えてたら、こうした複合施設にやってくるお客さんの群像劇
てなものを、観てみたいなと思う。
劇場の舞台上にもドラマはあるけれど、それにやってくる観客もそれぞれドラ
マを背負ってる。辛さをおして観に来た人もいるだろうし、うきうきとデート
を楽しむ人もいるだろう。
つかの間の空間を共にする人々のうちの何人かにスポットをあてたら、きっと
おもしろいものができるんじゃないかなあ。

■INFORMATION
★DVD
モンテーニュ通りのカフェ [DVD]
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001FZSSOY/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2009年04月03日

No.202 汚れた血

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欧 州 映 画 紀 行
                No.202   09.04.03配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ タイプじゃないんだけどね。ほんとは。 ★

作品はこちら
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タイトル:『汚れた血』
製作:フランス/1986年
原題:Mauvais sang 英語題:The Night Is Young

監督:レオス・カラックス(Leos Carax)
出演:ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ、
   ミシェル・ピッコリ、ジュリー・デルピー
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■STORY&COMMENT
20世紀末のパリ。父が死んで身寄りのなくなったアレックスは、倦怠感とやり
直したい気持ちとが交錯し、いらついていた。父の仲間のマルクが金に困り、
父以上の金庫破りの腕をもつアレックスに目をつけた。
「愛のないセックス」で伝染する病「STBO」が流行し、新薬開発が待たれる折、
たった1社ウィルスの分離に成功した製薬会社があった。そこからウィルスを
盗み出して横流ししようというのだ。
アレックスは、計画よりもマルクの若い情婦アンナに惹かれて仲間に加わるこ
とになる。

私は、脚本とか物語の構造がまず気になる方で、「演劇的」と揶揄されかねな
い言葉ばかりで構成されるような映画が好きだ。映像としては、あんまりアッ
プを多用されるのは苦手で、固定されたフレームにリアルに人の所作が見える
のがいい。
この作品ときたら、不安になるほどのアップが特に冒頭にたくさん使われ(そ
れは、主人公アレックスの抱く不安といらいらを感じさせてくれるんだけれど)、
物語は、フィルム・ノワールの焼き直しのようなもの。

ことごとく「タイプ」から外れているんだけれど、そういうことはどうでもい
いと思わせる力強さがあって、なーんだか惹きつけられてしまう。
若きジュリエット・ビノシュ演ずるアンナの、思わずつばを飲み込んでしまう
ような真っ赤なセーター、別のシーンには、闇のなかに映える真っ青なガウン。
色遣いだけでも、そのシーンのその画を観られてよかった、と思う。強引な惹
きつけ方そのものが魅力で、目が離せない。

どういう話とか、ストーリーがどこへいくのか、とか、どっちでもよくなって
しまう。

脚本の流れとか組み立てなどを、私はふだん気にする。けれど、この映画では、
瞬間的に、「うっ」とくるセリフにやられて、その瞬間の美があれば、それで
いいか、と思わされてしまう。

例えば、「疾走する愛」。
この映画で最も有名なシーンに、デヴィッド・ボウイの「モダン・ラブ」を背
景に、アレックスが疾走するというのがある。ラストにも、アンナが疾走(と
は言えない感じの走りだけれど)するシーンがあって、走ることはここでの重
要なモチーフだ。
そんなこの作品で、アレックスがアンナに言う「疾走する愛を信じる?」とい
うセリフはいつまでも頭に残るだろうと思う。

「疾走する愛」って、わかるような気もするけれど、なんのことだかよくわか
らなくて、でもなんかかっこいいから、いつか「これこそ疾走する愛だ」て思っ
たときに使おう、と思う。

原題の Mauvais sang は、ランボーの詩の題名からとったという。
うちにあった小林秀雄訳では「悪胤」と訳されていた。自分に流れる血を呪い、
若いいらいらを募らせている詩だった(かなり乱暴なまとめ方です)。

ランボーが死んだ年をそろそろ越えようかという私は、アレックスやアンナ、
アレックスに捨てられるリーズの若さはもうないな、と思う。
夜中に町を疾走すること、シェービングクリームをかけ合って遊ぶこと、今日
寝るところをその場で決めること、バイクでひたすら追いかけること。疾走す
る愛を思うこと。

全然「タイプ」じゃないのについつい気になって、いつもと違う自分の憧れに
さえ気づかされる。私にとっては、好きというより「不思議な」作品だ。

■COLUMN
86年に製作されたこの映画の舞台は、20世紀末のパリ=近未来という設定になっ
ている。20世紀末は、現在の私たちにとって、とっくに近過去になっているわ
けだけど、だからといって、私たちはこれを近過去と捉えるわけじゃない。
近未来は、時が経っても永遠に近未来だ。

もちろん、その物語にもよることだけれど、「近未来」という設定は、実際に
時間が進んだところではなく、過去にはなく今にもなく、しかし今生きている
私たちがごっそりそこに存在しているかもしれないある世界を意味する設定だ
と思う。
そういう意味では時間が進んだのではなく、時間がちょっとねじれたところ。

「近未来」の世界には、何かしら不安な要素があって、もしかしたら私たちが
陥ってしまう少し怖い世界、と表されることもある。
携帯電話なんてないどころか、受話器にコードがついていて、必死でコードを
ひっぱるこの作品の近未来では、不思議な病が人を脅かし、ハレー彗星の影響
で夜が異常に暑く、その割には別のところには雪が降る異常気象が起こる。

ハレー彗星、滅びを予感させる病、ほとんど通行人のいない暗い町、これらは、
よく考えてみると「世紀末」的な世界でもある。
80年代には、「世紀末」と「近未来」が一致していて、強力なタッグを組んで
独特の世界を作ることが可能だった。
しかし今は、近未来に世紀末はなく、世紀末といえば、ちょっとなつかしいほ
のぼのささえ湛える始末。

世紀末=近未来というアイテムを失った21世紀初頭の物語は、何か新たな道具
を作り出さなきゃならない。なきゃならんってことはないかもしれないが、やっ
ぱり新しい何かは作り出したいし、きっと物語の作り手は新しい何かを探すだ
ろう。どんなものが出てくるのか、定番の手法として後世にも引き継がれるも
のがあるのか。とっても楽しみだ。

■INFORMATION
★DVD
汚れた血
価格:¥ 1,974(定価:¥ 2,625)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000OIOL8A/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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2009年03月26日

No.201 アンダーグラウンド

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欧 州 映 画 紀 行
               No.201   09.03.26配信
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ずいぶん久しぶりの配信になります。お待たせして申し訳ありません。
出したい出したいと思いつつ、
私が書くスピードよりも、時の過ぎるスピードのが早くって……
体調悪くしていたとか、映画がイヤになったとかではありません。
今後はまた、週刊ペースで発行します(そのつもり)から、
どうぞよろしくお願いします。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ どこにも視点を置かないならば ★

作品はこちら
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タイトル:『アンダーグラウンド』
製作:フランス・ドイツ・ハンガリー/1995年
原題:Underground 

監督・共同脚本:エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)
出演:ミキ・マノイロヴィッチ、ラザル・リストフスキー、
   ミリャナ・ヤコヴィッチ、スラヴコ・スティマチ
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■STORY&COMMENT
昔々、あるところに国があった……
第二次世界大戦から90年代前半の内戦まで。ユーゴスラビアの歴史50年をたど
る壮大叙事詩。

1941年、ユーゴがナチスドイツに占領される第二次世界大戦中、祖国を守る共
産党員・ナチス護送車を襲う義賊として名を馳せたマルコとクロ。
戦火のなか追っ手から逃れるため、マルコは、クロや仲間を祖父の家の地下室
にかくまっていた。しかし戦争が終わって、自分が共産党内で出世し、クロが
恋いこがれる女優のナタリアをこっそり横取りした後、地下室の住人には戦争
の終結を伏せ、そのまま地下に閉じこめる。
大統領の右腕マルコは、地下の住人にレジスタンス運動が続いていると思いこ
ませて武器を製造させ、その武器をさばいて儲ける、武器商人という裏の顔を
持つようになる。

エミール・クストリッツァは、新しいのが封切られると必ず観に行く、お気に
入りの監督の一人だ。ゴールデン・ウィークに新作の公開と聞いてちょっとう
れしくなって、クストリッツァ作品を取り上げることにした。
本来ならこの『アンダーグラウンド』は、真っ先に書いていてもおかしくない
作品なのに、ずっと取り上げないままだった。理由は簡単。この作品のこと書
くの難しいんだもん。
でもね、メルマガ書きには難しいと思っても挑戦しなきゃいけない時がある。
それが、“今”なんだよーと武者震いする今号である。

この作品は、ストーリーをどこか伝えづらいと思っていた。そして、登場人物
のことも伝えづらいと思っていた。仲間をだますマルコなんて、ストーリー説
明をすればひどい人間だけれど、別に極悪人というわけじゃない、じゃあ根が
いい奴かというと、決してそうじゃない。直情的なクロにしても、とりあえず
自分の面倒をみてくれる男にくっついてみせるナタリアにしても、いい奴でも
ないが、どうしようもない悪人にもならない。

人にもよるし、物語の種類にもよるが、登場人物の誰かに感情移入させたり、
そこまでいかなくても、登場人物の気持ちを察して泣かせたりドキドキさせた
り、多くの映画は、そうやって人を引きつける。
この作品のストーリーの伝えがたさは、そういう物語ではないせいだ。ここで
観客が感情移入させられるのは、人ではなく歴史物語そのものだと思う。
誰かを中心に物語は展開しない。ストーリーテラーのような役回りを担う登場
人物もいない。それはきっと、主役は「歴史」であり「昔々あったある国、あ
るいはユーゴスラビア」であるから。

地下世界に、世界中をつなぐトンネルがある壮大なセットの虚構を用意してみ
せながら、かつてのニュースフィルムに、登場人物を合成する「チープな」歴
史と物語の融合を見せ、古典的なベタギャグで強引に笑わせたと思うと、息を
のむように美しいシーンを続ける。
現実も虚構も史実も、美も醜もごちゃ混ぜにかき混ぜ、短調と長調が混在した
はじけるバルカンブラスと、グロテスクと壮麗がいっしょになった美術もとも
に、善も悪もひっくり返ったか意味をなくした世界を作り出す。それが、そこ
で3時間展開されて感情移入させられてしまう「歴史=物語」。

何もかもがぐちゃぐちゃに混沌に混ぜられて、世界はできる。時が経つと歴史
になる。
こっちから、あっちから、誰かの人生を中心に置いて、いろいろな形の物語を
人は描く。しかし、誰かの視点ではなく、どの立場の何かではなく、歴史物語
そのものを見せるとしたら、こんな風に、混ぜられ、ひっくり返り、何が虚で
何が実か、わからなくさせないといけないのだろう。

視点のありかがわからなくなるくらいまで引いて、結果的に、歴史物語自体の
なかに観客は入り込む。距離感までもがひっくり返ったかのようだ。
おかげで、昔々あったこの国、この歴史を、それはそれは愛おしく思うんだ。
そういう作品を、言葉でなんとかするのは難しい。でも、ちょっとはなんとか、
この物語を伝えることができたろうか。

ところで、前にフランスで、この作品の5時間くらいある「完全版」をテレビ
で観たことがある。あれをもう一度観たいと思っているのだけれど、その後出
会うことがない。何か情報をお持ちの方、ぜひ教えてください。

■COLUMN
手元の公開時のパンフレットから推察して、この映画を最初に観たのは1996年
の春。確か渋谷のシネマライズという映画館だったと思う。

その頃の私は、サッカーにハマっていた。今もハマっているから、正確にいう
と、その1年ちょっと前あたりが、私がサッカーにハマった最初だった。
サッカーにハマったのは、Jリーグにやってきたユーゴスラビア人選手に魅了さ
れたからで、サッカーからつながって、その頃は同時に、ユーゴスラビアにも
ハマっていた。だから、この映画を「ユーゴ物、絶対観なくっちゃ」で観たの
か、映画への興味が先だっていたのか、定かではない。

だがとにかく、基本的に歴史に無知な私が、にわかにユーゴスラビアの現代史
に詳しくなって、ユーゴの内戦のことにとても興味を持っていた時期だった。
だから、最初に観たときは、「ユーゴ、ユーゴ、ユーゴの歴史映画だぞー」の
頭ですっかり傾いていた記憶がある。
今思うと、その頃は、どこかで、ユーゴを知らない人にこの映画は難しいと思
いこんでいたように思う。

今回、改めて観て思った。
この映画は、ユーゴの歴史なんてなにも知らなくても受け入れられる。
なるほど「昔々、あるところに国があった」。
ユーゴでなくても、どこかの国でいい。マルコのようなずるい男がいてクロの
ような直情的な乱暴者がいてナタリアのような小ずるい女がいる。そういう国
を自分のイメージで作り上げることだって可能だ。
そして、その方がずっといい観方な気がする。

知識があるということは、時に、素直に楽しむことを阻害するかもしれない。
ちょっとばかし知識があっても、そこで内にも外にも威張っちゃだめだ。そん
な自戒を頭に浮かべている。

■INFORMATION
★本日紹介作品のDVD(あちゃー、プレミアムがついちゃってるなー)
アンダーグラウンド [DVD]
価格:¥ 14,800(定価:¥ 4,935)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005LJV6/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

DVDは高すぎるので、サントラをどうぞ。書いている間、私も聴いていました。
アンダーグラウンド サウンドトラック
価格:¥ 1,992(定価:¥ 2,243)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00006JOP6/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★コメントくださった方にお返事
のんびりお返事でごめんなさい!!

・kkurihara さま
裁判員制度、ホントに、「真の狙い」てやつを、
勘ぐりたくなってしまいますよね。

・yuyu さま
応援ありがとうございます!
とっても力になります。

★配信できないでいる間、blog版の方には、
他愛もない日常を書いていました。
よかったら、のぞいてみてください。
http://mille-feuilles.seesaa.net/

★今回の記事、よかったと思われたら、どうぞクリックを! コメントも!
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ラベル:東欧
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2009年02月06日

No.200 12人の怒れる男

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.200   09.02.05配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 密室からセカイへはばたく想像力 ★

作品はこちら
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タイトル:『12人の怒れる男 』

製作:ロシア/2007年
原題:12 

監督・共同脚本・出演:ニキータ・ミハルコフ(Nikita Mikhalkov)
出演:セルゲイ・マコヴェツキー、セルゲイ・ガルマッシュ、
   ヴァレンティン・ガフト、アレクセイ・ペトレンコ、
   ユーリ・ストヤノフ、セルゲイ・ガザロフ、ミハイル・イェフレモフ、
   アレクセイ・ゴルブノフ、セルゲイ・アルツィバシェフ、
   ヴィクトル・ヴェルズビツキー、ロマン・マディアノフ
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■STORY&COMMENT
名高いアメリカ映画『十二人の怒れる男』を、舞台を現代のロシアに移して
「リメイク」。
養父であるロシア人将校を殺害した疑いをかけられたチェチェン人の少年。終
身刑を求刑され、あとは12人の陪審員が評決を出すばかりだ。状況証拠から少
年の有罪は明らかだと考えられ、話し合いはすぐに終わると思われたが、1人
の陪審員が、「無罪」に投票し……

誰もが有罪だと思って、ちゃっちゃと有罪を決めてとっとと帰ろうと思ってい
るところに、「話し合おう」と面倒なことを言い出す奴がいる。仕方なく話し
合いを続行する陪審員たちは、やがて意外な真実を突き止めるに至る。
オリジナルを観たことがない人も、有名だから、うわさからでも話の筋は知っ
ているだろう。だから、ここではあえて、「筋」には注目しない。

オリジナルよりもずいぶん長い上映時間となったこのロシア版では、陪審員一
人ひとりが、折りに触れて、身の上話や思い出話をするところが印象に残る。

ふるまいの面倒な奴、どうもしゃべり方がいけすかない奴、いろいろなタイプ
の他人が集まるところ。なんだって、そんな他人に自分の話をしてしまうのか。
案外、互いに名乗らない他人だからこそ、自分や自分の身内のディープな話を
してしまうんだろうか。

陪審員たちの身の上話は、その一つひとつを短編小説として切り出すことがで
きるかのように、話として面白く、ドラマがある。かといって、その話ばかり
が印象に残って、映画全体を食ってしまうようなことはないのだけれど、いわ
ばそれらは「さりげない」濃厚さで心に届く。

陪審員たちの話を聞きながら、いまこの目の前にいる他人が背負ったものに、
想像力を働かせる。その身に起きたことを、想像力を働かせて思い浮かべてみ
る。
密室に閉じこめられた12人は、互いの話を聞きながら、その狭い部屋から、他
人の人生に、外で起きている(起きた)ことに、気持ちの上で深くコミットし
ていくようになる。

そうした彼らが話し合い、見知らぬチェチェン人のガキの人生にコミットした
とき、結末は、オリジナルと少し異なり、現代ならではのスパイスが加えられ
ている。
他者の人生に想像力を働かせ、セカイで起きていることを思うことは、悲しい
事実でいっぱいのこのセカイを、ほんのちょっとでも何とかできる一つの方法。
そう、勇気づけられる。

度々インサートされる、<チェチェンの実情>のエピソード映像は、観客が、
セカイへの想像力をたくましくするもう一要素である。「チェチェン」って、
よく聞くけど何が起こってるの? て疑問にも「少し」答えてくれる。

■COLUMN
陪審員モノといえば、言及しないわけにいかないのが、日本の裁判員制度だ。
法務省のホームページに行ったら、裁判員制度導入の目的について、こんなこ
とが書いてあった。

「国民のみなさんが裁判に参加することによって、国民のみなさんの視点、感
覚が、裁判の内容に反映されることになります。
その結果、裁判が身近になり、国民のみなさんの司法に対する理解と信頼が深
まることが期待されています。
そして、国民のみなさんが、自分を取り巻く社会について考えることにつなが
り、より良い社会への第一歩となることが期待されています。」

ということは、法務省は、現在の裁判は国民の視点が反映されていなくて、国
民の司法への信頼がなくて、そのせいで国民が取り巻く社会を考えられない、
と考えているってことになる。
けれど、法務省とか、司法に携わっている人がそんな(殊勝な)ことを考えて
いるとはさっぱり思えないんだなあ。

裁判を身近にしたいというなら、小学校の社会見学で裁判傍聴を必須にすると
か、実際的な方法が他にあると思う。誰かが裁判員に選ばれて、自分の知らな
いところで評議しても、その誰かにとって重大トピックになるだけで、選ばれ
なかった大多数にとって他人事であることは変わらないんじゃないだろうか。

だから、本当のところなんで日本で裁判員制度をはじめようとしているのか、
本音の部分でも建前の部分でも、わかったようなわからないような話で、ちょっ
と気味が悪いと思う。

この制度、うまくいくんだろうか。うまくいったかどうかは、どうやって測る
んだろうか。要観察ってところかなあ。

■SPECIAL
前号で予告した、200回記念特別大企画!
豪勢なことをしようかと考えましたが、
スポンサーがついているわけでもなく、
地味〜にこそこそとやってるメルマガですから。
映画チケットとかDVDのプレゼントなんかもできなくってですね。

結局何やるかといったら、ここはコンセプト通り地味〜に。

そういうこともやってみたことなかったので、
今まで取り上げた作品のなかでも、
ワタクシが特に特にお勧めする最強欧州映画20選!! てなことを、
やってみることにしました。

しかしながら。
これよかったな、これよかったな、てセレクトしてたら、軽く120作品は超え、
20作品に限るのはなかなか難しい作業でした。

20に絞るにあたっては、同じ監督の作品は2つ以上選ばないようにしてます。
作品は好きでも、今現在、レンタルも購入もちょっと難しくなっている場合、
泣く泣く除外した作品というのもあります。
また、迷ったときに、自分のレビューがどっちかと言えば気に入っている、と
いうのを選んでいる場合もあります。
フランス作品ばかりにならないように、ということも考えました。

ということをやるうち、一体、20に絞って発表することにどんな意味があるん
だい? という内なる声も度々聞こえてきたわけですが、せっかくの思いつき
ですからね。初志貫徹。
昔の自分のレビューを読み直して苦笑したりと、面白い経験もできました。
気が向いたら、リストの作品、めぐってみてください。

【『欧州映画紀行』選・これがお勧め欧州映画20本】

NO.3 『黒猫・白猫』   2004年5月27日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film003.html

NO.5 『マドモワゼル 24時間の恋人』   2004年6月10日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film005.html

NO.23 『ミツバチのささやき』   2004年10月14日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film023.html

NO.33 『ディーバ 』  2004年12月23日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film033.html

NO.34 『しあわせな孤独』   2005年1月13日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film034.html

NO.45 『シーズンチケット 』  2005年4月7日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film045.html

NO.46 『ふたりのベロニカ 』  2005年4月14日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film046.html

NO.53 『スパニッシュ・アパートメント』  2005年6月16日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film053.html

NO.60 『みんな誰かの愛しい人 』  2005年8月4日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film060.html

NO.71 『ウェルカム・トゥ・サラエボ 』  2005年11月3日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film071.html

NO.75 『キッチン・ストーリー』   2005年12月1日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film075.html

NO.77 『ベルリン、僕らの革命 』  2006年1月12日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film077.html

NO.82 『やさしくキスをして』   2006年3月2日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film082.html

NO.112 『美しき運命の傷痕 』  2006年11月16日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film112.html

NO.122 『親密すぎるうちあけ話 』  2007年2月22日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film122.html

NO.128 『明日へのチケット』   2007年5月3日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film128.html

NO.141 『善き人のためのソナタ 』  2007年8月23日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film141.html

NO.142 『人生は、奇跡の詩』   2007年8月30日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film142.html

NO.174 『僕のピアノコンチェルト』  2008年5月22日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film174.html

NO.199 『木と市長と文化会館 または七つの偶然』  2009年1月18日発行
http://mille-feuilles.hp.infoseek.co.jp/cinema/back/film199.html

■INFORMATION
★DVD
12人の怒れる男 [DVD]
価格:¥ 3,324(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001ISEMP2/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★配信予定
最近、あんまり時間がなくって、週1ペースの発行ができません。
ごめんなさい。
「目指せ週刊、無理なら隔週ね」くらいの気持ちでやってます。
よろしくお願いします。

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2009年01月18日

No.199 木と市長と文化会館 または七つの偶然

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.199   09.01.18配信
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★ 対話たちの呼ぶ人恋しさと、スクリーンをそよぐ風 ★

作品はこちら
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タイトル:『木と市長と文化会館 または七つの偶然』
製作:フランス/1993年
原題:L'arbre, le maire et la médiathèque ou les sept hasards
英語題:The Tree, the Mayor and the Mediatheque

監督・脚本:エリック・ロメール(Eric Rohmer)
出演:パスカル・グレゴリー、ファブリス・ルキーニ、アリエル・ドンバール、
   クレマンティーヌ・アムルー、フランソワ=マリー・バニエ、
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■STORY&COMMENT
パリの南西、ロワール地方の小さな村の市長ジュリアンは、国からとった助成
金で、野っ原に文化会館を建設しようと考えていた。
ジュリアンの恋人の小説家ベレニス、偶然出会ったジャーナリスト、ブランディー
ヌ、老齢の木を切って文化会館を建設することに反対する地元の小学校教師マ
ルク、などなど、多くの人が関わるうちに、文化会館計画は、思わぬ方へ。

「もしも、統一地方選の前に社会党の支持率が下がらなければ」「もしも、雑
誌記者のブランディーヌが留守電のプラグを抜かなかったら」、などなど、
「もしも」ではじまる短い文章ではじまる7つの章で構成される。

ちょっとした偶然に左右されて物事が動いたり、変化したりする流れが用意さ
れているけれど、偶然性がテーマというわけではない。
ジャーナリストと市長の会話のなかには、政治談義がたくさん登場するけれど、
政治がテーマでもない。
老齢の柳の木を守るか、文化会館を建設するか、という対立はあるけれど、エ
コロジーが主題になっているわけでもない。

何がテーマというのでなく、何の動きを追うのでなく、ひきつけられるのは、
あらゆる章のあらゆる場面で登場人物たちの繰り広げる対話の一つひとつだ。
「左派」を自認する割りに、領主だった先祖の大きなお屋敷に住む市長ジュリ
アン、田舎より断然都会を愛していて、環境問題はテクノロジーがすべて解決
するでしょう、と語る彼の恋人のベレニス。二人ともある程度ありがちで、紋
切り型で、でも、それが、憎めなくてチャーミングだ。

文化会館建設に反対する小学校教師マルクも、反対ばかりして行動しない環境
派の紋切り型なのだけれど、そこが「んふっ」と笑いを誘うおかしさ。観客は、
その紋切り型を上から見るんじゃない、対等で身近な隣人を微笑ましく思うよ
うに眺めることができる。

現代の日本と同じだね、と苦笑してしまうような「国中に道路を張り巡らして
いる」話や、「都会と田舎の関係」やら、新しい施設の建物の善し悪しやら、
知的な好奇心を持っている人なら誰でも、カフェや酒場の与太話でできたらい
いだろうなー、と思うようなネタの数々。

おしゃべり好きな登場人物にあてられて、人恋しくなるやもしれない。
くだらなくて、おしゃれで、かわいらしい対話たちは、何度も繰り返し観たく
なる魔力を持っている。

■COLUMN
何度かこのメルマガでも書いている、私の好きな映画作家エリック・ロメール。
今回取り上げたのは、ロメール作品のなかでも、私が初めて観て「絶対この人
好きっ」と虜になった作品だ。
その頃は、それほど映画好きというわけでもなかった。実を言えば、「体系的
に観てない」「誰もが知ってる話題の作品を知らない」などの理由で、今でも
ホントに「映画好き」なのかどうかも怪しい私ではあるけれど、映画を頻繁に
観る習慣を持つきっかけになった作品でもある。

前回、ロメール作品を取り上げたのは、1年ちょっと前の2007年12月21日、
『冬物語』らしい。バックナンバーページで検索をしてみると。
この時のコラム欄を読むと、ロメールが最新作を最後に引退を表明したことを
語っていて、自分で書いておきながら、すっかり内容なんて忘れていた私は、
「へー、こんな前にそんなことを書いていたんだ」と驚く。
何しろ、1年ちょっと経ってまたロメール作品を取り上げるタイミングが今に
なったのも、ロメールの引退絡みなのだ。

その同じコラム欄で私は、その最後の作品を日本で観ることができないんじゃ
ないか、と事が決まってもいないのに嘆いてみせているが、最後の作品『我が
至上の愛 〜アストレとセラドン〜』が、今週末1月17日から公開中だ(銀座テ
アトルシネマ、全国順次公開)。15日の朝日新聞にも、ロメールの引退作とし
てカラーで大きく紹介されていた。
そんなこともあって、今週ロメール作品を取り上げたわけだ。

観られないんじゃないかと嘆いていた割に、私は、春にフランス映画祭で、一
足先に『アストレとセラドン』を観た。
引退を決めている作品とは思えないほど、もしくは、引退を決意しているから
こそ、まるで若返ったかのように、みずみずしい1コマ1コマが印象的で、ア
マチュアっぽいシンプルさを湛えた作品だった。

でもね。
17世紀の小説をほぼそのまま使ったという韻を踏んだセリフや、絶対的な貞節
というテーマ。「フランス映画がスキ!」なんて平気で言っちゃう映画ファン
を含めても、正直なところ、一般の人が観て楽しめるんだろうか、と私はちょっ
と心配だ。別にロメールファンではないフランス映画好きにこれを勧めるかっ
つうと、あんまり自信はない。
私は、ロメールファンとして、「ああ、ああ、ロメールだよ。巨匠しかこんな
作品は作れないよ」と、やたらにんまりと愉しんでしまうのだけれど、それは
やっぱり「マニア的」「オタク的」な視点だろうし。

ただ、1つだけ。
今回の『木と市長と文化会館』との関連で言ってみよう。
「現代的」な主人公たちがおしゃべりしまくるこれと、古典劇(5世紀ローマ
時代が舞台)である最新作とでは、もちろん作品のタイプが違う。
しかし、現場で音も映像も撮って、基本的に物語の進行と撮影の順序を同じに
する手法をとるロメール式は、二つの作品の印象を似通わせるのも事実だ。

今回、『木と市長と文化会館』を改めて観て、そっくりだ、と感じたのが、
「空気と風」だ。『木と市長……』の木々と野原と木漏れ日のある美しい田舎
の風景と、『アストレと……』の5世紀の風景としてロケ地となった手つかず
の自然が繰り出す風景と、その映像には、どちらも美しい空気の動きがある。
そこに吹く風を、まるでこの身に受けたような気になり、その空気の香りを吸
い込んだような気分になる。

スクリーンから風を感じる。それは楽しくて美しい体験。そして、自信を持っ
て勧められるポイントだと、思っている。

■INFORMATION
★DVD
エリック・ロメール コレクション 木と市長と文化会館 [DVD]
価格:¥ 4,489(定価:¥ 5,040)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000MEXAMO/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★次号のお知らせ
次号はついに、キリのいい200号。記念の大企画が進行中、ご期待あれ!
(ウソです。あんまり期待しないでください)

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お便り待ってます!

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2009年01月10日

No.198 スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.198   09.01.10配信
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2009年最初の配信です。今年もどうぞよろしくお願いします。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 「人生」以前の、あの恋 ★

作品はこちら
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タイトル:『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー 』
製作:スウェーデン/1970年
原題:En Kärlekshistoria 英語題:A Swedish Love Story

監督・脚本:ロイ・アンダーソン(Roy Andersson)
出演:ロルフ・ソールマン、アン=ソフィ・シーリン
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■STORY&COMMENT
療養施設に祖父の見舞いに行ったペールは、同じく家族の見舞いに来た少女ア
ニカに目を奪われる。アニカもペールを気にしていたようだが、言葉を交わす
ことはなかった。後日、街で再会した二人。ぎこちなく、せつなく、甘くて優
しい恋がはじまる。

『愛おしき隣人』という映画が公開された記念に、同監督の「衝撃の長編デビュー
作」デジタルリマスター、ノーカットでDVD発売された。その『愛おしき隣人』
も観ていないし、カルト的人気を誇るらしい『散歩する惑星』も知らない。監
督の作風はよく知らず、少年少女の淡い恋物語というふれこみだけで観てみた。

ここのところ、ラブストーリーらしいラブストーリーは取り上げてなかったし、
久しぶりに恋を満喫するぞ。生活の心配も、将来の心配も、もっといえば、明
日も昨日もなく、今その目の前の恋愛だけに埋没できる、若い日の恋。いやー、
せつなくなるぞ、と身構えたら、ちょっと違ってた。

ささいなことで「もう会わない」とか「もう嫌われた」とか、そもそも話しか
けることすらできなくてなかなか「はじまれない」とか。
若い日特有の揺れや、慣れてないが故のかわいいぎこちなさ、不安。恋一色に
なる日常。
若い日を思い出してせつなくなるような感覚は確かに味わえる。なつかしいよ
うな、うらやましいような。
私が肩すかしをくらったように思ったのは、若い日のしめつけられるような恋
が描かれていないからではなく、それが確かに描かれているのに、そこにどっ
ぷり感情移入して浸れないからだ。

この作品には、ペールとアニカの恋愛以外に、二人の家族の様子を語ることに
かなりの時間がさかれている。人生をすねたり、絶望して、ケンカの絶えない
アニカの両親、結婚できなかったことにコンプレックスを抱いた叔母、孤独な
ものの居場所はないからと、療養所から出たがらないペールの祖父。うまくい
かない人生を引きずった大人たちが幾人も、幾度も現れる。
それは特別な大人ではなく、どこにでもいる人生が大変な大人たちだ。

それらを背景に、幼い恋愛を眺めれば、こんなに一途に相手を求めても、やが
てはここに取り込まれる、もしくは、この大人たちもかつては若いカップルだっ
たんだ、なんて「その後」や、「昔」を連想してしまう。時の流れを悲しく思っ
てしまうのだ。

幼い二人の「人生」はまだはじまっていない。折り合いをつけて、折り合いを
つけられなくて嘆いて、みじめさを泣き笑い、呪い、日々をやり過ごす「人生」
は、まだはじまっていない。

ひょっとしたら、同じく「人生」以前にいる若い人たちがこの映画を観たら、
しょぼくれた大人の世界はただの風景にしか映らず、生き生きと愛し合い、笑
い合い、不安に涙する少年少女の姿だけにどっぷりと浸れるのかもしれない。

「人生」に足を踏み入れて、早……、はて、私はいつからあの恋人たちのよう
には振る舞えなくなってしまったのか。もう何年になるのやら。若いって、い
いことだろうか。怖いことだろうか。それともそれは、単に時の流れでしかな
いのか。
幼い二人の恋よりも、大人の「人生」の嘆きの方がリアルに感じてしまう私は
うろうろとそんなことを考えた。

■COLUMN
「こういう映画かなー」と思って観たら何だか違った、私はそんなことをよく
メルマガに書いている気がする。

あまり期待していなかったけれど、観たらよかったよー、とか、楽しみにして
たのにガッカリ! とか、そういう映画へのコメントはよく聞くけれど、「こ
ういう思いになるこういう映画だと思ってたら違っていた」て、具体的な思い
違いを言う人はあまり見かけないから、ひょっとしたら、私が特殊なのだろう
か。それとも、皆それなりに、映画に勝手にイメージを抱いて観ることはある
のだろうか。

たとえば、あんな人だろうか、いやきっとこんな人。会う前にすーっかり想像
をふくらませてイメージを作り上げて、やってきた見合い相手がイメージと違
う、と言われても、相手は困るに違いない。お見合いしたことないからよくわ
からないけれど。ネットで知り合って気が合った異性に実際に会うときなんか
もそう? いや、これもやったことないからわからない。

まあ、とにかく、勝手な想像で勝手に思いこまれても、相手は困るだろう。私
が相手の立場でもそう思う。
それと同じで、映画だって、勝手にイメージを持って、そのイメージにはまる
つもりで観られても困るだろうね。

でも、同時に私はこうも思う。
その勝手だったかもしれないイメージを持ってたからこそ、生まれる視点だっ
てあるんだよね。
今回、大人の「人生」と、そこにまだ絡め取られてない若い二人を見たのも、
「さあて少年少女のしめつけられるような恋愛に浸かるぞ」、と準備した私だ
からこそ、だと思う。
そう見て、そしてそれをここに書きつけることが、ホントにハッピーであるか
どうかは別の問題かもしれないが。

先入観は、あってもなくても、何かに影響する。どっちを選ぶかは、好みかな、
性格かな。

■INFORMATION
★おことわり
若い日の一途な恋愛が「人生」以前のもの、という発想は、
橋本治『失楽園の向こう側』(小学館文庫)からヒントを得ています。
ただし、この本の中では、「若い日の恋愛」と「人生」を対比させているわけ
ではなく、世代に関係なく「人生をまだ共有していない、愛し合う二人」とい
う状態を語っています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4094080740/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★DVD
スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー
価格:¥ 3,960(定価:¥ 4,935)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001EO99OO/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントくださった方にお返事
愛国者 さま

くだらない無駄話を読ませてしまってすみません!
なるべく作品のことを直接語るようには心がけますが、
作品から連想したことや、作品と私との関わりなど、
いろいろと考えを巡らしたことを書くのが、
いわば、このメルマガのコンセプトのようにもなっていますので、
きっと、無駄話は、今後もやめないと思います。
ご了解いただければ、うれしく存じます。

★1月の配信予定
週1ペースを守るつもりですが、
少し不定期になるかもしれません。
少し長い正月ボケだと思っていただければ(笑)。

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お便り待ってます!

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2008年12月31日

No.197 美しき諍い女

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欧 州 映 画 紀 行
             No.197   08.12.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 1対1の対峙がさまざまに 描いても描かれても 描き描かれなくても ★

作品はこちら
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タイトル:『美しき諍い女』
製作:フランス・スイス/1991年
原題:La belle noiseuse 英語題:不明(仏語題をそのまま使う模様)

監督・共同脚本:ジャック・リヴェット(Jacques Rivette)
出演:ミシェル・ピッコリ、ジェーン・バーキン、エマニュエル・ベアール、
   マリアンヌ・ドニクール
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■STORY&COMMENT
大画家フレンホーフェルの家に招かれた若き画家ニコラと恋人のマリアンヌ。
フレンホーフェルは、マリアンヌに会って、10年前に断念した大作「美しき諍
い女」を、彼女をモデルにまた再開しようと考える。
夫の仕事の再会を喜びながらも、元々モデルをつとめていて胸中複雑な妻のリ
ズ、恋人にモデルをさせることにしたのに、画家との関係を疑って苦しむニコ
ラ、そして、嫌がって始めたものの、描かれることの魅力から離れられなくなっ
ていくマリアンヌ。
それぞれの思いを抱えて、大作の製作は再開される。

どこのレビューを見ても、「4時間が長くない」ことに触れられる。私はCS放
送のシネフィルイマジカで観たのだけれど、その作品紹介でも、4時間の長さ
を感じさせないと言っていた。
とは言っても、冷静に考えて、4時間弱、236分は長いよ。どれくらい長いかと
言ったら、1分に1回撞く除夜の鐘なら煩悩の数は236回。煩悩が一周回って戻っ
てきそうだ。あ、でも、ヴァチカンも新時代に合わせて、新七つの大罪を発表
したらしいし、除夜の鐘も、社会の動きに合わせて256回とか、512回とかにす
るといいかもねえ。
あら失礼。話がそれた。

この作品は特に長いけれど、ジャック・リヴェットの作品はいつだって長い。
観るのに相当の覚悟がいって、おうちでDVDファンの私も、この人の作品は、映
画館に入っちゃわないと絶対に観られないと思っている。長い作品を制覇する
方法は、強制的に自分を閉じこめちゃうことだ。
そうそう、友だちに借りたゴダールの映画史なんて、いまだ1巻目しか観てな
いもの。Mさんごめんよ〜。
お、失礼。またもや話がそれた。年末スペシャル(?)でちょっとおかしい。
話を戻すと、普通なら映画館でずっぷり座席に身を沈めなくっちゃ難しそうな
環境が、この年末年始にはやってくる。4時間くらいぶっ続けでDVDを眺めてい
ても大丈夫そうな、この可処分時間、この空気、周囲の寛容。

その空気に誘われてかもしれないけれど、私もこの4時間弱、そんなに長いと
感じなかった。
ああ、やっとのこと話が始まる。今回のメルマガのテーマは、何故に私は『美
しき諍い女』を長いと感じなかったか、である。

大半がアトリエでの画家とモデルの対峙であるこの映画が、長く単調にならな
い理由の一つは、1対1のあらゆる関係が引きつけ続けるから。
反発、動揺、嫌悪、興味、モデルのマリアンヌは、くるくると感情を変え、2
人の間の緊張感は、つねに違った趣で観客を画面に留め置く、描く/描かれる
という関係は同じでも、求められるままにポーズをとっていたマリアンヌが、
いつしか萎えかけた画家をむしろ支配する、スリリングな展開もいい。
マリアンヌがそこから抜けられなくなってように、観客もそこにいて、完成し
た絵を観なけりゃならないと、どうやったって逃れられなくなる。

気詰まりな薄暗いアトリエの物語から視線がそれて、庭のテーブルや、光の入
り込むテラスにシーンが移ることもある。見た目の明るさにほっとできるかと
思うけれど、ここにも必ず誰かと誰かの1対1の関係の物語が存在する。ニコ
ラとリズ、リズと使用人の娘、リズと画商、ニコラとその妹、などなど。穏や
かなものもあれど、多くは、何ならそのままその物語を推し進めたっていいん
じゃないかと思うような、濃厚で重い1対1の関係だ。一見それているかの話
にも、いろんな1対1の見本市、目が離せない。

そして、アトリエでの作業は、ふだん「完成形」しか観ないものの、製作途中
を垣間見る、野次馬根性、のぞき趣味も刺激する。
筆の音、木炭の音、キャンバスをこする音だけで画が見えないときには、「ど
んな絵? どんな絵?」と「もっと見たい」を刺激され、画家しか映らないと
きには、「マリアンヌはどんなポーズを?」と、やっぱり「もっと見たい」。

モデルは画家と冒険に出て、己の中の中まで露わにされると、ここでは言われ
る。そこに夢中になる、観客も、ほんのちょっぴり、露わにされる危険で甘い
感覚に襲われる。そこから逃げられない4時間。むしろ、もっと長くたってよ
かったと、思う。

■COLUMN
この作品、昔観たはずだけれど、そのときに観たのはひょっとしたら短時間バー
ジョンだったかもしれない。あんまり記憶が定かではないのだけれど、いちば
ん、「あれ?」と思ったのはマリアンヌ役のエマニュエル・ベアール。
自分の体に相当の自信があるんだろな、というのは昔から変わらないこと。た
だ、久々に、若い頃(といっても、もうこの時点で27歳くらい)のエマニュエ
ル・ベアールを見たら「若さ」にあふれてるんだろう、と思って身構えて観た
ら、何だか、そうでもない。

素朴さという意味では、「昔の姿だね」と言えなくもない。けれど、今の方が
むしろ「ベビーフェイス」になってないかな。大きくてたれた目、どうしても
目を引くアヒル口。メイクなどを含めた流行のせいもあるのかもしれない。
でも、彼女の顔は、ただ美しいというより特徴的な個性的な顔(だと私は思う)
なので、流行の顔というのも今ひとつピンとこない。

ミッキーマウスは、生まれた頃の姿から、目が大きく丸みのある顔に「進化」
して社会に適応した(漫画やアニメの主人公は往々にしてこういう進化をする)
という説があるらしいけれど、エマニュエル・ベアールにも、この「人に好か
れるため」の進化が起きたように思う。
91年の本作のベアールは、なんだか普通だけれど、現在の彼女は、ずっと人の
心に印象づける、あえていえばアニメチックな顔、表情をしてる。機会があっ
たら、見比べてみてくださいな。

■INFORMATION
★DVD
美しき諍い女 無修正版 [DVD]
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00006S25S/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★2009年の予定
1月、少し不定期になるかもしれません。
予定はただいま考え中です。

☆☆2008年1年間、
「欧州映画紀行」におつきあいいただき、
ありがとうございました!!☆☆
2009年もどうぞよろしくお願いいたします。


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お便り待ってます!

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2008年12月25日

No.196 つぐない

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欧 州 映 画 紀 行
              No.196   08.12.25配信
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★ 起きたことはなかったことにはならない世界で生きるには ★

作品はこちら
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タイトル:『つぐない』
製作:イギリス/2007年
原題:Atonement 

監督:ジョー・ライト(Joe Wright)
出演:キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、シアーシャ・ローナン、
   ロモーラ・ガライ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
1935年、イングランド。タリス家の屋敷では、休暇で帰ってくる長兄を、小説
家志望の末妹ブライオニーが、自作の劇で歓迎しようと準備していた。一方、
姉のセシーリアは、ふとしたきっかけで、冷たくあたっていた使用人の息子ロ
ビーを愛している自分自身を悟る。
ロビーにほのかな恋心を抱いていたブライオニーはまだ13歳。たまたま窓から
見た二人の光景を理解することができず、嫉妬心を抱き、その日屋敷で起きた
事件の犯人をロビーに仕立ててしまう。

愛を確かめ合った瞬間に離ればなれになった一組の恋人と、姉の人生を狂わせ
てしまった妹のつぐないの人生の物語。

セシーリアとブライオニー、それぞれの心理描写、屋敷で起きる事件の緊迫感、
身分違いの恋、戦争で引き裂かれる愛し合う者たち、人も土地も荒廃する戦場。
そして嫉妬と誤解によって狂う運命。見どころがつまった作品だから、どこか
ら語ったものか、迷う。どこをとっても1本2本、書けそうな厚みだ。
やっぱり、タイトルたる「つぐない」を考えてみようか。

13歳で人を陥れ、取り返しのつかないことをしてしまったブライオニーが、大
人に近づくにつれ自分のしたことの何たるかを知り、行う「つぐない」の一つ
は、大学には行かずに看護師の訓練を受けること。もう一つは自分の犯した罪
を告白する小説を書くこと。すなわちこの物語はブライオニーの「つぐない」
そのものだ。

人は取り返しのつかないことをしてしまったときに、それをつぐなうことがで
きるのか。
死んだ人間は帰ってこないし、当事者が生きていても、引き裂かれた関係はも
うどうにもならない。そこまで大きな事でなくとも、口に出してしまった言葉
はもう引っ込まないし、傷ついた心が元のまっさらな状態を取り戻すこともな
い。

取り返しをつかないことをしてしまった者は、元に戻せよと全てを返せよと、
ののしられる。しかし、時は再び同じところを巡らず、起きたことはなかった
ことにならない以上、「つぐなう」ことができるとすれば、そのしたこととは
別のところで何かをするくらいだ。

ブライオニーの行為を自己満足だとしりぞけることはたやすい。でも、そもそ
も「つぐなう」行為は、直接的には何の成果もないことを、内外からわきあが
る「起こったことをなかったことにしろ」と言う声に抗って、ただひたすら行
うこと。「一体その行為が何になった?」と問えば、しりぞけることしかでき
ない。

たまたま最近、アガサ・クリスティーの自伝を読む用事があって、それで知っ
たのだが、戦争がはじまると、救援・看護講習を女たちはこぞって受けるのだ
そうだ。
少し時代は違うけれど同じイギリス、看護の訓練を受けることは、いちばん身
近にあって、身を投じやすい「人の役に立つこと」だったのだろう。

人の役に立っても、他の誰かを勇気づけても、告白して物語を作っても、そこ
に美しいストーリーを描いても、もう永遠にブライオニーは傷つけた心を修復
することはできない。それでも、もう取り返しがつかなくなった後の世界を生
きる者には、そうしてある今この世界を、少しはマシにするくらいしか、つぐ
なう方法はない。 のかねえ。
木枯らしに身を縮めながら考えた。

■COLUMN
蜂の羽音で心の動揺を表現したり、BGMにタイプライターの音を重ねて、緊迫感
を表したり、音の演出が興味深い。
特に、全編に「ついてまわる」タイプライターの音は、最後まで観れば、この
物語をしたためながらつぐなおうとするブライオニーが、各シーンに寄り添っ
ていたともとれる。シーンの緊張感とともに、何かに追いかけられるような怖
さをぬぐい切れない演出だ。

昨今、パソコンでメールを書いたり文書を作成したりする毎日を送る人は珍し
くなかろうが、私は一応、文章を書くことを仕事にしているので、ふつうのひ
とより「タイピング」をする時間は長いと思う。

「タイピング」と名は残っても、往時のタイプライターと、今のパソコンのキー
ボードでは全然違う。押すのに入れる力も違えば、指を動かす距離も違う。そ
して、あのカシャンカシャンパシッと響く音はまったくない。
毎日毎日タイピングをしていて、あの音がしていたら、きっと夢までついてく
るに違いない。そんな生活じゃなくてよかったよ、技術の進歩はすごいもの。
と思いながら、ふと気づく。

私のキーの打ち方にあるクセを見つけた。すごく集中した末、もしくはすごく
苦しんだ末に文章を書いた時には、どうしても打ち方が強く荒くなり、そして
特に、リターンを押す右の小指もしくは、薬指に変えて打つときの打ち方がや
たらに強くなることがある。もちろんあのタイプライターの音の比じゃない。
しかし、ほとんど音が気にならない他のキーに比べずいぶん大きく、カショカ
ショカショのペシンッとなる音は、気になり出すと耳に残り、そういう打ち方
をするときはその直前までコロリと忘れていた時だから、自分のキーの打ち方
にびっくりさえする。

やたら苦しんで書いた後に、またあのキーボードの音に夢までついて追いかけ
られる気がする。
今回のメルマガは、いつもよりちょっと余分に迷って、余分に考え込んで、余
分に時間をかけた。ああ、さまよえるタイピングの怨念よ、キーボードの音の
お化けとなって、夢にまで入り込んでこないでおくれ。

■INFORMATION
★DVD
つぐない
価格:¥ 3,411(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001CPPU4S/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★年末年始の予定
未定です。すみません。
このままお休みに入ってしまおうか、それとも、
1週間後は1月1日。年内にもう1本出して、お正月は休もうかなー。
とも思っていますが、まだ決まってません。
サプライズ発行(?)もお楽しみに。

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お便り待ってます!

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2008年12月18日

No.195 プライスレス 素敵な恋の見つけ方

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欧 州 映 画 紀 行
                No.195   08.12.18配信
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★ いざ行かん、ウソのない世界へ!? ★

作品はこちら
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タイトル:『プライスレス 素敵な恋の見つけ方』
製作:フランス/2007年
原題:Hors de prix 英語題:Priceless

監督・共同脚本:ピエール・サルヴァドーリ(Pierre Salvadori)
出演:オドレイ・トトゥ、ガド・エルマレ、マリー=クリスティーヌ・アダム、
   ヴァーノン・ドブチェフ
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■STORY&COMMENT
イレーヌは、高級ホテルでお金持ちをひっかけて、玉の輿を狙う小悪魔美女。
ホテルでウェイターをするジャンは、ちょっとしたことから、イレーヌに富豪
だと勘違いされ、夢のような一晩を過ごす。すっかり夢中になったジャンだが、
正体がバレたら、イレーヌにはとっとと逃げられてしまう。
お人好しのジャンは、金持ちにしか興味がないイレーヌを追っかけるが、相手
にされない上に、有り金をむしられて無一文に。仕方なく選んだ道は、高級ホ
テルで未亡人相手にジゴロをすること!

惜しげも恥ずかしげもなく物欲全開で、お金持ちにたかるイレーヌが、不思議
といやらしくなくて、カラリと楽しいコメディになっている。
気弱でいたって真っ当で要領の悪いジャンが、必死で貢いでいるときには「あ
あ、バカな男だなあ」とハラハラ半分哀れみ半分で眺めて、「どうするんだろ
う、この先」なんて心配にもなったけれど、無一文になった後の「ジゴロ編」
になると、一気に痛快さとスピード感が増す。

イレーヌは、金持ちへの接し方を「先輩」としてジャンに伝授し、「同志」の
ようなつながりを持った二人の心は急接近していく。と、お決まりのラブ・コ
メディ。
ありがちといえば、ありがちだけれど、寒空の下、色とりどりに輝くイルミネー
ションとショーウィンドウに、欺瞞とウソを見ながらも「きれいねー」と白い
息を吐く、クリスマス前の雰囲気にぴったりのコメディだと思う。
こんな季節には、ありがちなプレゼントにこそ心が溶けちゃうってもんです。

ゴージャスでセクシーなドレスやアクセサリーや靴などなどを、鑑賞させてく
れるきらびやかさを保ちながら、お金さえ払えばどんな人間でも丁重にもてな
してもらえる「高級リゾートホテル」へのチラリとした皮肉も見える。
おしゃれで、難しいことは考えずに楽しめる一作。

■COLUMN
ホテルの喫茶室で、ジャンが忙しく働いているところにイレーヌが入ってくる。
従業員だとバレたくないジャンは、急いで蝶ネクタイを外し、その場で客のフ
リをする。同僚は「何やってんだ」と言い、もちろん客たちは、ウェイターだ
と思っているから、指を鳴らして呼びつける。その状況で、必死に取り繕って
「ウェイターじゃない」を正当化する涙ぐましい努力が可笑しいシーンだ。

ウソを必死に取り繕うのはコメディの常套手段だが、私がこの場面で「同じじゃ
ん、同じじゃん」と、思い出したのは『3番テーブルの客』。
前世紀末にフジテレビの深夜にやっていた番組だけれど、ご存じの方はいるだ
ろうか。三谷幸喜の書く脚本を、毎週1人ずつ、演出を別の人が担当し、演出
次第で芝居(ドラマ)がまったく別のものになるのを楽しむ番組だ。

その脚本というのが、とあるティールームでの小さな出来事を扱ったもの。ティー
ルームにある女が入ってくると、ウェイターの男が焦りはじめる。女は男の元
妻。男はミュージシャンを目指していたが挫折して、ここでウェイターをして
いる。しかし別れた妻に見栄を張りたくて、向かいのホールの「ビビ萩原」の
コンサートに出演するんだと、ウソをつく。他の客から呼びつけられても客の
フリをし、同僚からは不審がられるなか、必死でつじつまを合わせる。
で、実は元妻こそが、その「ビビ萩原」で、女は元夫の小さな見栄を優しく黙
認していた、というオチがついている。

シンプルな筋立てだけれど、笑いどころとしんみりしたオチがうまくできてい
て、いい脚本だったと思う。後年制作された三谷の映画『THE 有頂天ホテル』
での支配人の見栄っ張りネタは、ほとんどこの『3番テーブルの客』にすでに
あったものだった気もする(批判じゃないっすよ)。
毎週、スタンダードな演出やら、奇をてらった演出やら、気に入るもの、気に
入らないものはあったけれど、演出でこんなにも印象が変わる、という実験は
とても面白かった。

最終回には「解答編」として、三谷と長年組んできた演出家の山田和也が演出
する回が用意されていた。そして私は、この放送を観逃した。その後、再放送
かなにかも、録画を失敗したとかそういうことで観逃し、けっこう最近になっ
て、CS放送で一挙放送というときにも、最終回は観逃した。
そんなこんなで、「解答編」というのをいまだに観ることができていない。

この稿を書くにあたって調べてみたら、横浜市の放送ライブラリーというとこ
ろで観られると、Wikipediaに書いてあった。行ってみるのもいいかなあ。でも、
もう今さら観ないで、幻にしておく方がいいかな、という思いもあり。迷う年
の瀬。

■INFORMATION
★DVD
プライスレス~素敵な恋の見つけ方~ [DVD]
価格:¥ 3,152(定価:¥ 3,990)
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2008年12月11日

No.194 譜めくりの女

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欧 州 映 画 紀 行
             No.194   08.12.11配信
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バタバタしているうちに、すっかり時は過ぎ、
2週間休んでしまいました。すみません。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 果たして恨みが怖いだけの映画だったのか ★

作品はこちら
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タイトル:『譜めくりの女』
原題:La tourneuse de pages 英語題:The Page Turner

監督:ドゥニ・デルクール(Denis Dercourt)
出演:カトリーヌ・フロ、デボラ・フランソワ、パスカル・グレゴリー、
   グザヴィエ・ドゥ・ギュボン、クロティルド・モレ
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■STORY&COMMENT
少女メラニーは、ピアニストになるのが夢だった。万全の準備で迎えたはずの
音楽学校の試験。演奏中、審査員ピアニスト・アリアーヌのちょっとした行動
に動揺したメラニーは、以降の演奏がめちゃめちゃになってしまう。
これをきっかけにピアノへの思いを断ち切ったメラニーは、アリアーヌへの憎
悪を胸に秘めて美しく成長し、ある日、アリアーヌに近づいていく。

何でこんな作品作ったんだろうか。観終わったらしばし考え込んでしまった。

何かの作品説明に「周到に練られた復讐計画でアリアーヌに近づいていく」な
んてことも書かれていた。でも、私には、メラニーの行動は計画的なものには
見えなくて、行き当たりばったりにその場の気分でじわじわと意地悪をしかけ
ているように思う。
もし、周到な復讐をコワゴワ観る映画だっていうなら、私も戸惑わない。人間
の怖さとか、もっと単純にスリルとか、そういうものを味わえばいい。
確かに、その姿からは想像できない冷酷で残忍な一面を持ったメラニーが、ア
リアーヌにじわじわと近づいていくスリルや怖さを存分に味わって、怖くて、
ちと後味のワルい映画を堪能できた。のは、確かにそう。
でも、そのことよりも私の頭の中には、何で? 何で? ひょっとしてこーゆー
こと? と、?がいっぱい。そちらの印象のが強い。

で、できあがりに不満ってわけじゃないけど、第一声は、何でこんな作品作っ
たんだろうか。

アリアーヌがメラニーに並々ならない恨みを持たれてしまうのは、実技試験で
演奏中に、アリアーヌが頼まれたサインに少し応じていた、という些細なこと。
他人から見ればりっぱな逆恨みなわけだ。
人間、他人が見てもわからなかくても自分にとって大事なものはあるわけで、
それを台無しにされれば、間違っていようが、理屈に合わなかろうが、不当だ
ろうが、相手を恨むこともある。だから逆恨みがおかしいとは思わないんだけ
れど、少女時代の逆恨みを、大人になってもずっと変わらず育ててるところが、
腑に落ちない。恨み続けるってのはパワーの要ることで、どこかで自分の思い
に折り合いをつける方が、本人にとってずっと楽なはずだ。

本当なら、音楽の道に進めなかった悲しみや、それを誰かのせいにする辛さは、
時とともに薄れていくもの。それを両親なり、友人なりが薄れさせてあげられ
なかったんだろうか、と真面目に考え込んだ。
恨み続けるメラニーがいないとこの映画が成り立たないわけではあるから、そ
れを言い出したらきりがない、という部類のものかもしれない。

そして、アリアーヌの傍らで譜面のページをめくる「譜めくり」になって絶大
な信頼を勝ち得たメラニーは、どこか、アリアーヌを恨みだけではない目で見
ている気もする。そしてそのように解釈してしまったアリアーヌには、さらな
る悲劇が起こる。

ひょっとしたら、メラニーにとって、アリアーヌは少女の頃からの憧れの存在
だったのかもしれない。ただ冷徹に恨んで憎んで復讐をしてるのでなくて、彼
女には本当はアリアーヌに焦がれる心が同居していたのかもしれない。
そんな解釈もしたくなる。けれど、ラストを考えれば、そんな解釈も深読みに
過ぎぬとも言える。いろいろなところが、あーじゃないかこーじゃないかと、
気になってしかたがない。

結局のところ、「テーマ」は何だったんだろう、から、メラニーのホントの思
いは? メラニーはどうやって育ったの? などなど、どなたかと一緒に観て、
乾燥や解釈を語り合うのも良い作品だと思う。

■COLUMN
上で、ああでもない、こうでもない、と言ってみたけれど、復讐するメラニー
の不気味さや怖さを中心に描いていることは間違いない。怖さをクローズアッ
プするために、描き方が大げさにもなっているとは思うのだけれど、この作品
を観ていたら、人間ってとにかく理不尽にできていると思った。

アリアーヌは、りっぱなコンサートピアニストなのだけれど、最近は精神不安
定で、舞台でアガるようになってしまった。(余談だが、不安定になったきっ
かけはひき逃げに遭ったことだそうで、それってのは、誰が起こしたもの?と、
観客に勘ぐらせるところでもある)

本当に不安定なせいなのか、もともとそんな性格だったのか、はわからないけ
れど、ピアニストとしてりっぱな地位を築いているとは思えないほどに、アリ
アーヌは誰かすがれる人を持ちたがっている。
すがるんなら、旧知の人とか、本当に援助してくれる人にすればいいのに、そ
して、その人たちも、頼めば力になってくれそうなのに、生活にふいに入り込
んできたメラニーにすっかり入れ込んで、必要以上に依存する。

恋愛に似たもので(実際、そんな要素も入ってくる)、新しい刺激の方に吸い
寄せられてしまうのだろう。バランスを崩して、自分の力を信じることはでき
ないくせに、ハタから見たら何のあてにもならなさそうな小娘を全身全霊で信
じる力はメキメキと出てくる。メラニーさえ隣で楽譜をめくってくれれば、す
べてがうまくいくかのように思ってしまう。
安定を求めているはずのアリアーヌが求めるのは、新しい刺激で自分が高揚す
ること。ずいぶん矛盾しているけれど、人の心ってさっぱり理屈に合わないも
んなんだろう。

古くからの信頼できるものよりも、つい新しい刺激に吸い寄せられること、ほ
んのちょっとの気分の違いで、結果が大きくかわること、理屈では説明できな
いような反応をすること、etc.
怖いのは、そんな危ういところで人と関わり、人生を成り立たせている人間自
身ってことなのか。そう考えたら、メラニーの怖さだって、そんな人の世だか
らよ。とさらりと説明がついてしまうかもしれない。怖いなあ。

■INFORMATION

★DVD
譜めくりの女 デラックス版 [DVD]
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001EGJXY8/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントをくれた方へお返事
ポポンタ さま
盲人の方の、視覚以外の感覚や感性の豊かさって、驚かされますね。すてきな
エピソードの紹介、ありがとうございました〜!

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お便り待ってます!

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2008年11月20日

No.193 ミルコのひかり

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欧 州 映 画 紀 行
                 No.193   08.11.20配信
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★ あの日に憧れた、勇気と元気と歓喜の少年時代 ★

作品はこちら
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タイトル:『ミルコのひかり』
製作:イタリア/2005年
原題:Rosso come il cielo 英語題:Red Like the Sky

監督・共同脚本:クリスティアーノ・ボルトーネ(Cristiano Bortone)
出演:ルカ・カプリオッティ、シモーネ・グッリー、
   フランチェスカ・マトゥランツァ、パオロ・サッサネッリ
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■STORY&COMMENT
1971年、トスカーナ地方。元気な10歳の少年ミルコは、事故で視力を失ってし
まう。当時のイタリアの法律では盲人は普通小学校に通うことができなかった。
規律厳しい全寮制の学校に入れられ、ミルコは心を閉ざしてしまう。
ある日、古いテープレコーダーを学校で見つけたミルコは、さまざまな音を採
取・録音し、編集して音で構成する物語を作って楽しみ始めた。
しかし、規律を重んじる校長には、この趣味は理解されず……
イタリア映画界の第一線で活躍する音響技師をモデルにした、実話にもとづく
物語。

視力を失った少年が、音の世界に興味を抱き、しかもゆくゆくはその第一人者
になる話なんだから、「努力・苦労・感動」の清く正しき物語かと想像してい
た。けれど、実際は、無理解な大人の圧力にめげずに、好きなことをして、い
たずらもして、寮を抜け出し仲間と散歩、小さな恋も芽生える、少年の冒険譚
と説明する方が、喚起するイメージは近い。
それはそれでむろん「清く正しい」のだけれど。

私自身の子ども時代は、活発でもなかったし、小心者だからそうそういたずら
もできず、大人に隠れて子どもの世界を築いたりすることは少なかった。読書
好きなインドア派少女は、図書館で借りた子ども同士の冒険物語(ここで言う
「冒険」はいかだに乗るとか、怪物を退治しにいくとかじゃなくて、子どもだ
けの世界で、ちょっとした悪いことやワクワクで遊ぶということです、もちろ
ん)を読んでは、「いいなあ、どうしたらそんなことができるんだろ」とちょっ
ぴり憧れながらコタツで丸まっていた。

そういうかわいい憧れを追体験するような映画だった。
心を閉ざして学校にも慣れず、ガキ大将にいじめられてたミルコが、自分の編
み出した音集め遊びで、皆を仲間に引き入れてしまう痛快、親から叱られるこ
となんか怖がらず仲間との遊びを大切にするヒロイン、規律厳しいなかに、ちょっ
とイレギュラーに理解を示す個性的な先生。
ディープにしんしんと迫る感動よりも、かつて体験したような、憧れたような、
さわやかさが印象に残る。

「盲人に可能性はない、規律だけが彼らを救う」と、生徒から自由を奪う校長
は、もちろん悪役として描かれているのだけれど、彼を激しい糾弾で徹底的に
追い詰めてしまわない辺りも、気持ちの良いさわやかさの由縁だ。親子で鑑賞
もよいと思う。あと、DVDは、音声ガイドや、大きな文字の字幕を選択できるよ
うになっているから、視覚障がいをお持ちの方にもおすすめ。

■COLUMN
上では触れられなかったけれど、ミルコが採取する音と、その編集でできあが
る「音のドラマ」は、もちろんこの映画の肝だ。

作品中にはたとえば、バラバラに採取した「シャワーの音」(含しずくの音)
と、鳥の鳴き声を続けて編集すれば、驟雨と雨上がりの晴れ間、という物語が
できる、なんてところがある。もちろん、そう聞こえるように10歳のミルコが
「製作」しているわけだけれど、その本当はバラバラである音のつながりに、
「天候の変化」というイミを感じとるためには、「想像力」を共有していない
といけない。
映画の登場人物も、映画を観ている観客も、皆、同じ想像で、一連の音からそ
のイミを感じとれる。何気ないけれど、これってすごいことだと思う。
この音をこうつなげれば、相手はきっとこれを思い浮かべてくれるはずだ、と
信じてミルコは「音の物語」を作る。

相手の想像力を信じて託すことは、登場する「音の物語」だけでなくて、たと
えば映画ってものにも言える。ここでこの表情を映し出せば、観客はきっと、
やりきれない悲しさをわかってくれるだろう、雨の風景を映して、その後びしょ
濡れの人物を映せば、この人は雨に降られて濡れたんだろうと関連づけて考え
てくれるだろう、とか。
映画だけじゃなくて、小説も、演劇も、すべて作り手と受け手とが共有してい
る想像力を信じているから成り立つもの。ハンパない信頼関係の上に、作品を
作るってことは成り立ってるんだ。思案飛躍して、そんなことまでうろうろと
考えた。


■INFORMATION
★DVD
ミルコのひかり
価格:¥ 3,629(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00196P8UQ/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントをくれた方へお返事
レモン 様
ありがとうございます。楽しみにしてますって一言に、ホントに励まされるん
ですよ!

★またまた来週お休みするかも
なんだか最近、隔週刊のようになってますが、時間がうまくとれなかったら、
また来週お休みするかもしれません。どうか気長に待っていてください。

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お便り待ってます!


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2008年11月06日

No.192 厨房で逢いましょう

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欧 州 映 画 紀 行
              No.192   08.11.06配信
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★ 料理の映画と思いきや ★

作品はこちら
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タイトル:『厨房で逢いましょう』
製作:ドイツ・スイス/2006年
原題:Eden 英語題:おそらく原題に同じ

監督・脚本:ミヒャエル・ホーフマン(Michael Hofmann)
出演:ヨーゼフ・オステンドルフ、シャルロット・ロシ、
   デーヴィト・シュトリーゾフ、マックス・リュートリンガー
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■STORY&COMMENT
南ドイツ。料理一筋で人づきあいのできない天才シェフ・グレゴアが、平凡な
主婦エデンに好意を寄せた。彼の料理はエロティック・キュイジーヌと呼ばれ
る官能的なもの、食べた人間はその虜となってしまうと評判だ。ふとしたこと
がきっかけで、彼の料理を食したエデンは、やはりすっかり虜となってしまい、
厨房におしかけて、開発中の料理を定期的に食べるようになって……。

料理映画かと思ったら、そういうわけではなかった。
私は元来、「料理(食)」と「官能」というのがちっとも結びつかない性質で、
「料理の官能性」がテーマだったら、絶対に乗れないだろうと心配だったのだ
けど、その心配は無用だった。
グレゴアが完璧に料理したときの、客がソースまでしーっかりなめ回す様子を
はじめ、「虜になる」描写は、ちょっと大げさ。料理と官能が簡単に結びつく
人にとっては、その人のイメージできっと膨らますことができるし、結びつか
ない人は、笑いどころとして流すこともできる。料理や食は、重要だけれど、
テーマというわけではないアイテムというところか。

じゃあ、何の映画かというと、恋愛と人間関係、だと私は思う。
私が映画のはじまりからずっと気になっていたのは、独特の映像だ。この監督
の他の作品を知らないから、これがこの人のスタイルなのか、この作品での特
有のことなのかわからないけれど、暗くてコントラストをあえてはっきりさせ
ないところや、不自然と思われるほどの顔のアップの多用(でまたアップにし
ているわりに真ん中に顔を持ってこない)が、とにかく落ち着かない。

不器用なシェフのほのぼの恋愛騒動みたいなパッケージになっている割りに、
映像から受けるイメージは、落ち着かない状況と、個々の登場人物の精神的な
不安定さ。だから、このドラマ、不穏な方向へいくんじゃないのかな、と思っ
たら、やっぱりそんなんだった。ラストにはちゃんと救いが用意してあったけ
れど。

で、いま一度、物語を捉えてみれば、骨組みとなる話はシンプルだ。
料理しかできない巨漢シェフと、障害のある娘をかかえ、ちょっと横暴な夫と
その家族に窮屈さを感じながら暮らす女性。そのちょっと横暴な夫を含め、み
んな人生の上で何か問題を抱えていて、その問題が人との関係を密にしたり疎
にしたりする。

どの要素も、皆まで語らずに描いているから、人によって力点を置いて観ると
ころが分かれるだろう。もちろん、料理に注目する人もいるだろうし、おいし
い料理が五感を刺激して生きる活力を取り戻させることに、ダイナミックさを
感じる人もいるだろう。
私は、エデンの女らしいグレゴアを手玉にとる様子が気に入った。きっと、本
人は「手玉にとってる」つもりなんてこれっぽちもない。「お互い大好きな、
仲のいいお友達」で逢ったら楽しい。相手の好意を何となく感じとりながら、
無意識に、結果的にそれを利用する。(めちゃめちゃに高級で何ヶ月も先まで
予約がいっぱいのシェフの料理を、ちゃっかり毎週ただで食べてる)もちろん
そのつもりは本人にまったくない。相手の狂おしい好意を、上手に無害で安全
な好意とすりかえて受け止めて、にっこり無心に微笑んでみせる。

こういう女、イヤだなーと、思う人も多いだろう。コワイと思う人も。でも、
私はこの無意識な人の傷つけ方が、ドラマとして好きだ。そして、長年女をやっ
てきた身として、いくばくかの親近感も覚える。いけないかな。

■COLUMN
むかーし、むかし、子どもの頃に『チョコレート戦争』という本が好きだった。
内容はすっかり忘れたけれど、そこに出てくる「洋菓子の金泉堂」のシューク
リームやエクレアが、とてもとてもおいしそうで、一度そんなすごいお菓子を
食べてみたいと憧れていた。

もちろん架空のお菓子屋さんだから、いまだに食べたことはない。どんなにお
いしいんだろうと、想像するのみ。

大人が自分を律することできずにむしゃぶりついてしまうような料理って、ど
んなの? 食べると帰って夫を激しく誘いかけてしまう料理って、どんなの?
この作品に出てくるグレゴアの料理を観ていたら、突然、その幼い頃の憧れを
思い出した。

久しぶりに読んでみようかと、思ったけれど、今読んで、ちーっともおいしそ
うじゃなかったら、どうしよう。大事な「憧れの味」がひとつ消えてしまう。
そしたら興ざめだ。
いやいや、昔の憧れをまざまざと思い出して、何か特別な気分に浸れるかもし
れない。
思い出した直後はすぐにでも図書館に駆け込まんばかりの勢いだったのだが、
結局じくじくと、どうしようかなー、と思案している。

そうやって、憧れの味についていろいろ考えを巡らしているときがいちばん楽
しいのかもしれない。
しかも、この場合、「確かに憧れの味」と行き当たっても、その「味」は決し
てたどりつけない架空のもの。行き当たるのは憧れという自分の記憶のみ。あ
あ、何だか虚しいというか、おめでたいというか。


※「洋菓子の金泉堂」の名称は自力で思い出せなかったので、アマゾンにあっ
たレビューを参考にしました。

■INFORMATION
★DVD
厨房で逢いましょう
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00148S766/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントをくれた方へお返事
petit 様
そうなのです。伏線かな、と思ったのにつながらないと、続編とかあるんだろ
うか、この先さらに不穏な何かをもたらすサインだろーか、いやそれともみか
たが違ってただろか、と、余計なことをうろうろと考えちゃうもんです。

★ひょっとすると来週お休みするかもしれません。
今週末から来週にかけて、パタパタ忙しくするかもしれなくて、
時間がうまくとれなかった場合は、休刊します。
TSUTAYAさんが半額セールらしいので、できれば利用したいのですが(笑)。
時間がとれれば発行します。よろしくお願いします。

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