2017年08月15日

No.267 偉大なるマルグリット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.267   17.08.15配信
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週末は、おうちで映画鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
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★ 人にはいろんな側面があるもので ★

作品はこちら
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タイトル:『偉大なるマルグリット』
製作:フランス/2015年
原題:Marguerite 

監督・共同脚本:グザヴィエ・ジャノリ( Xavier Giannoli )
出演:カトリーヌ・フロ、アンドレ・マルコン、ミシェル・フォー、
   クリスタ・テレ、ドゥニ・ムプンガ、シルヴァン・デュエード
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■STORY&COMMENT
1920年、フランス。パリ郊外にあるマルグリット・デュモン男爵夫人の邸宅では、貴族達が集まって、チャリティーのサロン音楽会が開かれていた。トリを務める主役のマルグリットは、衣装にもオリジナルで凝って堂々の登場をするが、実はひどい音痴だ。出席する貴族たちは真実を伏せて拍手喝采する。知らぬは本人ばかりなり。

ある日、このサロン音楽会に忍び込んでいた、辛辣な批評をすることで知られる新聞記者のボーモンは、この音痴に驚きながらも、大金持ちのマルグリットに近づくため、「心をわし掴みにする声」と大絶賛の評を寄せる。
この批評に喜び、自らボーモンに会いに行ったマルグリット。新しい友人ができたことをきっかけに世界が広がり、本格的に歌を学んで、パリでリサイタルを開きたいという希望を持つようになるが……

マルグリットの音痴はどこでバレるのか、ひょっとして音痴でもリサイタルは大成功してしまうのか。そんな風に先行きが気になり、単純に筋を追う楽しみがたっぷりある作品。そして同時に、マルグリットをはじめとする、登場人物たちに抱く印象が、ストーリーが進むにつれ少しずつ変わっていって、人のいろんな側面を観察できるところも面白い。

「お金持ちの貴族が音痴のくせに自分だけいい気分で歌っちゃって」とマルグリットを最初は意地悪な目で見てしまうのだが、マルグリットが純粋に歌を愛し、オペラを愛して、嬉々としてオペラの登場人物になりきった写真を撮っているところなど見ていると、ただただかわいらしく、応援する気持ちになってしまう。
そんな気持ちの変化は、はじめは利用したくて皮肉を込めた絶賛記事を書いたボーモンにも表れる。

マルグリットの夫ジョルジュは、妻の音痴を陰で皆が笑っているのが恥ずかしく、音楽会の日にはいつも車が故障したことにして歌の時間には遅れてくる。さらに、妻の歌やオペラごっこに辟易して、浮気中。事なかれ主義の貴族なのだろうと眺めていると、この人もだんだん変わってきて、最後には冒頭とはまったく異なった印象を残してくれる。

マルグリットに忠実な使用人マテルボスは、オペラ写真撮影、音楽会の準備と献身的につきあい、歌を学びたい、リサイタルを開きたいという彼女の夢の実現にも、影に日なたに精一杯協力する。しかしこの人も最後にはまったく別の側面が見えて、ちょっと苦い。

ラストは、「フランス映画」らしく、観客に「ああ、この後どうなったのだろう!」と思わせてその後を託す。それがいつまでも続く鑑賞後の余韻となっている。

■COLUMN
結末がわかっていることを前提に話したい、そうしたらもっと語れることがあるのに、と思う映画があるが、これはそんな映画のひとつだ。
上にも書いたように、最後まで観ると、登場人物の印象も変わるし、最後まで観た頭でもう一度最初から観たならきっと思うところも違ってくるかもしれない。「ネタバレ」できないのはちょっと不便だと思う。

結局、マルグリットが自分は歌が壊滅的に下手である、と気づくのか否か、は観てのお楽しみとして、ただひとつ言えることは、結末まで観ても、果たして真実を告げる方がよいのか、それとも自分が信じているように楽しんで歌を続ける方がよいのか、それは簡単に決めることができないということだ。
本人にとって、という意味でも、周りにとって、という意味でも、何がよいことなのか、断言することは難しい。この後どうなったのだろう。と同時に、どうするのがよいのだろう。と、ああでもない、こうでもない、と考え尽くせる映画だ。

歌が題材だけに、全編に散りばめられた音楽、そして1920年パリのアーティストたちの退廃的なムードなど、ストーリー以外の楽しみの面もしっかり用意されている映画だが、その中で、あれはどうやっていたのだろう、と特に思うのは、マルグリットの下手な歌だ。
演ずるカトリーヌ・フロ本人が本当にあれを歌っていたのか、耳をふさぎたくなるキャンキャンとした音痴っぷりは、誰がどうやってつくりこんだのか。歌を下手に歌うのって案外難しいもので、上手に下手さを出さなければなかなか表現できないものじゃないかと思う。
「どの辺でどう音を外しているからこの壊滅的な下手さが出てる」なんてところも含めて、いろいろに考えを巡らせたくなる要素だ。

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★DVDなど

『偉大なるマルグリット』DVD ¥3,280
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2016年12月25日

No.266.16 言い訳号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.266.16   16.12.25配信
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と、はじめてみたものの、今回はなかなか配信できないことの言い訳をぎっしりつめた言い訳号。
映画作品の紹介もなし。ごめんなさい。

前回の配信から半年経ってしまって、2016年も暮れようとしてる。
こんなに配信できないなら潔くやめてしまったらいいんじゃないかとも、よく思うのだけれど、映画を観てああでもないこうでもないと書きつけられる場所を持っておけることは自分でもうれしく、何もわざわざやめることもないんじゃないかね、と思う。しかし配信はなかなかできない。時は過ぎていく。
本日は、なんでそんなことになってしまっているのか、言い訳をさせていただく回である。

2012年の秋頃から、なーんだか長距離を歩けないという事態になった。ちょっと歩くとすぐに足が棒になる。
病院では、筋肉がすぐに疲れる自己免疫疾患の可能性が高いと言われるが、検査をしても「そうだ」と言い切れる結果が出ず、今に至るまで結局診断には至らず、治療法もない。

四肢の筋肉がすぐに疲れてしまい、階段をのぼったり長距離を歩いたり急いで歩いたりすると、足を前に運べないような疲労感に襲われる。腕の調子が悪い日には、じゃがいもの皮をむくだけで腕立て伏せをしたかのように腕が疲れる。
そして、全身がとにかく疲れる。午前中は比較的よいのだが、時間が遅くなればなるほど体がだるくなって、夜にはほとんど起きていられないから、夜型だったのが、今やすっかり朝型に。たいしたことをしなくても毎日ギリギリまで体力を使ってしまうから、最低9時間くらいは眠れなくとも寝転んでいないと体がもたない。

さっぱり配信ができないことの主な理由はこの体の状態なのだが、脚や腕の筋肉がすぐ疲れる病気だからといって、家でDVDで映画を観て座ってパソコンでメルマガを出すことが、なんでできなくなるの? と、読者諸氏は思うかもしれない。思うよね。

発症直後の頃に比べると今はだいぶ歩けるようになっているが、依然困っているのが、「活動できる量がとにかく少ない」ということだ。「時間がない」とも言い換えられる。
たとえれば、病気になる前の活動できる量を100とすると、今は40くらいしかない状態。(活動する量なので睡眠と休息はすでに抜いて考えている)
日々のやることというのは、食い扶持を稼ぐ仕事、やらなきゃ生活が滞るような家事など、必要度Aクラスのもの、友人とお茶を飲むとか、日常的な趣味とか、仕事用の勉強とか、必要度Bクラスのもの、時間があればやりたいような旅行や大型レジャーのCクラスのもの、とまあ、その人なりにいろんな優先順位があると思う。
活動量が元気なときの4割くらししかない今、その中に必要度Aのもの(ほとんどは仕事)を詰め込むと、もう活動の余地は残らない。
だから、仕事と睡眠と休息だけを繰り返すのに必死で、たまに仕事がひまになって、40の中に仕事以外のものを入れられるようになったら、必要度Aの中でずっと積み残しているもの(たとえばたまには自分で料理をしようとか、部屋が荒れているから掃除をしようとか)をやって、だいたい休日は終わる。
もうちょっと余裕が出たら、友人とお茶を飲む時間と体力ができるかも。映画も観られるかも。だが、メルマガを書くところまでたどり着くには、相当なヒマが必要で、2016年の後半は特に、仕事だけでほとんど毎日40をフル稼働していて、映画を観るというところにもまるで至らなかった。

病気で映画が観られないわけではない。しかし、日々の生活の中で映画を観るということを取り入れることが極めて困難な場合、結局それは「できない」と同義だよ、と私はよくいじけてみる。

そうして仕事ばかりの生活を4年も続けていると、自分の幅がどんどん狭くなる。自分でもいろんな場面でそれを自覚する。映画はしばらく観ていないと、なんていう映画が世の中にあるのかもわからないし、知らない俳優、監督も増える。「どうせ観られない」といじけている身には、情報だけには触れておこう、なんていうのもわりと辛くて、映画にどんどん疎くなる。
読書も、サッカー観戦も(テレビ観戦含め)、芝居を観ることも「毎日の40」の中に入れられないものは、私からどんどん縁遠いものになる。

そんなこんなで、仕事しかしていなくて、好きな映画を語ることも、面白かった本を人に教えることもできなくなっていることは、自分でもさみしいし、ちょっとした劣等感にもつながっている。
病気を治す手立てがない以上、この状態はあと何年も何十年も続くだろう。つまらんことだなあ、と思う。つまらん人間のまま、ただ40の中に仕事を詰め込んでただただ暮らすんだろうと思う。
そんな中で、すっぱりメルマガをやめてしまうのもひとつの手だけれど、でもいつか、また、映画を観て、あることないこと、じゃない、あれやこれやと思うことを書いて配信することがたまーにでもできたら、いいよね、と思う。この場所を残しておくことは、私の小さな希望なのだ。


というわけで、長々書いたが、これでもだいぶん手短に説明した、私がさっぱりメルマガを書けないことと、そのくせしつこく廃刊や休刊にはしないことの、言い訳である。
読者の皆さま。もしも気が向いたら、映画を観てメルマガを書くということを、もーうちょっと定期的にやれるのを、待っていてくださればとてもうれしい、です。


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2016年06月19日

No.266 パレードへようこそ

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欧 州 映 画 紀 行   No.266  16.06.20配信
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★ 闘い抗う人々に拍手を ★

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タイトル:『パレードへようこそ』
製作:イギリス/2014年
原題:Pride 

監督:マシュー・ウォーチャス( Matthew Warchus)
出演:ベン・シュネッツァー、ジョセフ・ギルガン、フェイ・マーセイ、
   ジョージ・マッケイ、ドミニク・ウェスト、アンドリュー・スコット、
   ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、パディ・コンシダイン、
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■STORY&COMMENT
1984年サッチャー政権下のイギリス。
炭坑の閉鎖に抗議して、炭鉱夫のストライキが長期化していた。そのニュースを見ていたゲイのマークは、デモなどで警察・公権力と闘う自分達と重ね合わせ、敵が同じ者同士、支援しようと、ゲイ・パレードで募金活動を行った。
本格的に活動をスタートさせようと、支援組織LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)を立ち上げて仲間の参加を募るが、集まったメンバーは9人だけ。さらに、寄付金を送ろうと全国炭坑労働組合に電話をしても、「レズビアン&ゲイ」と名乗ると相手にされない。
そこで、炭鉱に直接電話をしてみたところから、ロンドンのLGSMメンバーと、ウェールズの炭鉱町ディライスの人々との交流が始まり、事が動き出していく。

「男らしさ」が大事にされる炭鉱夫の集まる組合。はじめはLGSMの支援を受けるか否かで紛糾、混乱する。
このあたりの偏見を打ち破るのに難航するのかな、と思ったが、最初の障壁は、下世話な好奇心の助けも含めて、メンバー達が会って話をしているうちに案外すんなりと打ち解けて、数人だけがどうしても受け入れようとしない、という格好。こんなに早く仲良くなってしまって、物語としてはどうするんだ、と心配になったほど。
実話だというから、最初のとっかかりが実際にはもっと大変だったのかもしれないけれども。

物語としてどうしたかというと、ひとつには、LGSMと炭鉱組合という団体同士のメインストーリーの脇に、個人の事情とその解決・成長が描かれるサイドストーリーがちょろちょろと用意された群像劇的しかけをしたこと。

ゲイゆえに家族と仲が悪く、実家のあるウェールズをどうしても訪れられなかったゲシンや、保守的で過保護な家庭から自立できずにいたジョーの他、炭鉱町では概ね中年の女性たちがゲイやレズビアンに寛大で、LGSMのメンバーに感化されてどんどん活動的になってゆく。それに引きずられて、ダンスの得意なLGSMメンバーから習って女性にモテるようになる炭鉱夫も出てくる。
と、異世界の人が出会うことによる人の変化や成長が、そこかしこに見られて飽きが来ない。痛快と言ってもいい。

そしてもうひとつは、そうして個人の交流の中で育まれた友情も、外からの様々な圧力で、一筋縄ではいかない現実を見せること。社会現象として世の中で様々に取り沙汰されるストライキが大本にある以上、外からの好奇の目も、世の流れによる絡め取られも、避けられはしない。

炭鉱という産業がその後どうなったのか、2016年にいる私たちは悲しい事実をいくつも知っている。しかしそんな知識の気取りはどうでもよくなるほどに、逆境を生き抜き、行動を続ける人々のさわやかさに、拍手を送りたくなる作品だ。

■COLUMN
古いものも含めて、ここのところちょっとイギリスの映画を意識して観ていた。なぜかというと、「宣伝」のためである。

この春から、私の夫が「紅茶」の通信販売を始めたのだ。ティーブレンダーさんと組んで開発した、誰でも手軽においしく入れられるオリジナルブレンド紅茶を売る「犬猫紅茶店」。
なんで犬猫? と興味を持たれた方は、
http://dogcat-teahouse.shop-pro.jp/?mode=f2
この辺りをご参照いただければ幸いです。

私たち夫婦は、大学の「紅茶倶楽部」という紅茶をいろいろ飲み歩くだけというサークルで出会い、我が家の食卓にはつねに紅茶があった。そんな夫婦だ。
私の方はそれほど紅茶に詳しくもこだわってもいないが、そんなに高くなく、気取ることなく、おいしい紅茶が飲めたらいいな、とはいつも思っていて、犬猫紅茶店の紅茶は、まさにそんな紅茶だと思う。この事業が何とか続いて、私もこの紅茶を飲み続けられたらいいなと思っている。

というわけで、紅茶といえばイギリスの映画でしょう。と、何か紅茶の出てくるイギリス映画はないかな、なんて思っていたわけで。

この『パレードにようこそ』にも紅茶は出てこないにしろ、マークの部屋には、かわいいティーポットがちらりと写ったり、生活の中に紅茶が根づいていることはわかる。
しかし「イギリス映画=紅茶」というイメージは、いわゆるイギリスの上流階級が優雅に茶器をテーブルに広げて楽しむステレオタイプに支えられているもので、はたと気づくと、そんな古き良きブリティッシュの文化を見せるイギリス映画というものがあまりないのだなと思う。

じゃあ今のイギリス映画ってどんなものが描かれるんだろうというと、この作品に出てくるような、労働者から体制、階級への反発、マイノリティの闘いだろうか。最近観た『キングスマン』というスパイ映画、というかブラックユーモアとパロディ(オマージュ?)満載のおバカ映画で頭を空っぽにして楽しめるものだったが、この中でも、貴族趣味にいつまでもこだわるスノッブな貴族への、底辺から這い上がってくる者の逆襲がスパイスとして使われていた。

私の印象に残る「紅茶」が効果的に使われていた映画といえば、『シーズンチケット』(昔、このメルマガでも取り上げた。 http://oushueiga.net/back/film045.html )。
今回再見をしたかったがレンタルでも配信でも見つからなかったため、うろ覚えだが、この作品中の誰からも相手にされない不良少年が、自分の最高の思い出として語る言葉だ。
「スタジアムで父と一緒にサッカーを観てた。寒くて震えていると父がコートを掛けてくれて、ハーフタイムにはミルクたっぷりの温かい紅茶を買ってくれる。砂糖は二つ。あったかくておいしかった」

紅茶の象徴する物理的・精神的両面での温かさとおいしさをこんなに素直にわかりやすく表現している映画は他に知らない。ちなみに、父親にひたすら殴られて育った少年には、本当のところ家族の良き思い出など何もなく、友人から聞いて気に入っている話を自分の思い出として語ったのだ。少年が知ることのない「家族の温かさ」は、紅茶に託されて語られた。
そしてこれも、家は貧しく親からは暴力を振るわれ、学校からもドロップアウトした少年が好きなサッカーチームの試合を観たいと世の中と闘う物語だ。

イギリス映画で優雅に紅茶を飲むシーンなんかにかこつけて、紅茶の宣伝ができるかな、なんて私の浅ましい考えは打ち壊されたが、それは同時に、果たして私の好きな「紅茶」とはそういう「ハイソなブリティッシュネス」のイメージと同時にあるものなのか、というテーマにも突き当たることだった。

前述の通り、私はおいしい紅茶じゃなきゃ飲みたくないが、そんなに高いお金を出す気はないし、たまには優雅なティーパーティも素敵だけれど、やっぱり基本は気取らず気軽に気負わず紅茶をガブガブとやりたい。
だから、階級の格差に苦しめられる人々や、世間や体制と闘い抗う人の手に、紅茶がさりげなく持たれているような、そんなイギリス映画がもっともっと観られたらなあと、そしてそれをうちの紅茶片手に観たいもんだと、そんな風に思っている。

犬猫紅茶店 http://dogcat-teahouse.shop-pro.jp/
犬猫紅茶店広報室(blog) http://inunekotea.com/

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★DVDなど

『パレードへようこそ』DVD ¥2,963
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(iTunesストアでは標準画質で¥300でした)

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2016年01月28日

No.265 彼は秘密の女ともだち

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            No.265   16.01.28配信
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★ 女性とは。女性性とは。 ★

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タイトル:『彼は秘密の女ともだち』
製作:フランス/2014年
原題:Une nouvelle amie 英語題:The New Girlfriend

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、
   ラファエル・ペルソナーズ、イジルド・ル・ベスコ
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■STORY&COMMENT
クレールは、子供の頃からいっしょに過ごしてきた親友のローラを亡くして哀しみに暮れていた。残された夫のダヴィッドと生まれて間もない娘を護ると約束したクレールが、二人の様子を見に家を訪ねると、そこにはウィッグををつけ、ローラの服を着て赤ん坊をあやすダヴィッドの姿が。
「このことはローラも知っていたこと。女性の服を着たい」と打ち明けられ、戸惑うも、女装するダヴィッドを「ヴィルジニア」と名づけて、夫には内緒で「女同士の友情」を育んでいく。

ダヴィッドを演じるのは、現在のフランス映画には欠かせないロマン・デュリス。だんだん女装(特にメイク)がうまくなってはいくものの、ちょうどよい塩梅の「どうみても男性の女装姿」を、化けすぎずによく表現している。ダヴィッドとして普通の男性としてふるまうときと、ヴィルジニアになっているとき、その違いは、服装やメイクだけでなく、ちょっとしたしぐさにも表れる。眺めていて、女性っぽさというのは、そういうところから見えるのね、と改めて気づいたりも。

クレールは一度は理解して仲よく女友達として出かけたりするとはいえ、夫にダヴィッドと浮気しているのではないかと疑われて釈明することになれば、
「女装よりもゲイのがマシ!」とゲイだとごまかすことにして、結局女装のことは言い出せず、本当に受け入れることは、簡単には進まない。

「女装」をめぐるコミカルなドラマかとなんとなく思っていたが、後半から物語はだんだんと、男女のアイデンティティ、愛の形、重いテーマがずっしりと横たわるようになる。
どこに着地するのだろうと気を揉んで観ていたら、ラストは「ああそうなるんだ」と、宿題をつきつけられた気分だった。

■COLUMN
もう昨年のことになるが、近所の名画座で、この映画と『ボヴァリー夫人とパン屋』の二本立てが上映されていて観た作品だ。二本とも面白く気に入ったのだけれど、今回この作品の方を取り上げたのは、DVDリリースがもうすぐらしいから。

この二本立てを観に行ったのは、なんとなく「ファブリス・ルキーニが主演してるらしいボヴァリー夫人…」が目当てで、あまり事前に情報を仕入れていなかった。
その状態でこの作品を観ていたら、ふと、「これってペドロ・アルモドバル監督だっけ?」と錯覚しかけた。性別をめぐるテーマや、死から物語がはじまる展開、葬儀のシーンなどは『オール・アバウト・マイ・マザー』を彷彿とさせ、『トーク・トゥ・ハー』を連想させるシーンもある。

私は細かいところまではわからないけれど、オゾン監督はわりと他の映画の引用をわかりやすく入れ込んでくることがあり、両監督の作品をよく知っている人なら、もっといろいろと引用や目くばせを見つけることができるんじゃないだろうか。

そんな男/女、同性愛/異性愛、その固定観念を疑ったり、その境界を考えたり、なんてテーマの作品といっていいと思うが、いや、だからこそなのかもしれないが、「女性」の描き方が平板なんじゃないかなとも思う。

クレールとヴィルジニアの女同士の買い物は、あまりにもステレオタイプの女同士の買い物だし(もちろん、物語としてあそこにステレオタイプすぎる女同士の買い物が入ることが必要なのはわかる、が)、ヴィルジニアにつき合ううちに、だんだんと華やかな雰囲気になっていくクレールの描き方も、いい意味に普通でとっつきやすい姿のクレールの方が、友達になれそうな感じがするのに、きらびやかさが女性の「是」なのかと思う。(子供の頃から、ブロンドのローラの横で引き立て役のようにも見えたクレールの変貌というのが、物語として面白いことはわかる、が)

昔から洋服にあまり興味がなく、いわゆる「女同士の買い物」がいまいち得意ではない私は、それが「女性」なのかねえ、なんてちょっとすねてしまうのだ。
自分自身の女性性や男性性に、考えを向けざるを得なくなる、そんな作品。


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2015年10月11日

No.264.48 ご無沙汰特別号

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               No.264.48   15.10.12配信
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ご無沙汰しております。配信しなくっちゃ、しなくっちゃと思いながら、なかなか体勢が整わず、前回の配信から早5か月近く、ひょえーー。
半年配信しないと、「まぐまぐ」さんから休刊だったか廃刊だったかの扱いにされてしまうので、取り急ぎ、時間稼ぎ…じゃなくご挨拶がてら特別号の配信です。(「メルマ!」の規則はわからない)

私の近況といえば、最近引っ越しをいたしまして、ずいぶん長い間過ごしていた街を離れて、新しい生活がはじまりました。といっても同じ東京都内、電車で15分くらいの距離なので、生活ががらりと変わったというわけではありませんけど。

かつて配信した中で、引っ越しにまつわるお話はなかったかしらんと、考えてみましたが、ちょっと思いつかず。ただ、ラストが引っ越しシーンで、その引っ越しシーンが、キラキラとまだ見ぬ未来への期待に満ちていた映画を1本思いだしました。いきなりラストから語るというのも少々無粋ですが、このメルマガの記念すべき0号『猫が行方不明』の回です。

当時、「まぐまぐ」でメルマガを始める場合は、「ウェブサイト」を開設して、そこに、配信するメルマガのサンプルとなる原稿を掲載して、承認を受けるというシステムでした。2004年当時は、ブログなんてお手軽なものはありませんでしたから、「ゼロからできるホームページ」的な本を最初の10ページくらい読んで、サイトを作ってなんとか承認にこぎつけたのです。私のサイト作りの知識はそこで止まっています。

なので、この号はメルマガの最初の原稿ではありますが、一度も配信はしていないものです。
今読むと、ずいぶんとカタいというか、どう書いたらよいのか緊張して書いている感じがひしひしと伝わってきて、とても居心地が悪いですね。
あれやこれや、時が経つうちに、人生全体にずいぶん捨て鉢になってきたこの頃、愛する街を記憶にとどめたいなんて、もう言えないだろうな、そんな初々しさも。

小ネタとしては、今ではフランス映画の大スターとなったロマン・デュリスがまだ無名の頃、ちゃらいドラマーの役で登場しています。
そして、この映画ができた頃、この原稿を書いた頃には、想像もできないほどに、ITのサービスが進んだ現在、監督のセドリック・クラピッシュのInstagram(写真投稿のSNS)はおすすめですよ。
https://instagram.com/cedklap/


今週の作品はこちら
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タイトル:「猫が行方不明」
制作国:フランス/1995年
スタッフ
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ギャランス・クラヴェル、ジヌディヌ・スレアム、ルネ・ル・カルム
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■STORY
パリ11区の古いアパルトマン。クロエはゲイの友達と部屋をシェアして暮らしている。メイクアップ・アーティストと肩書きはカッコイイけれど、仕事の内実は理不尽にこき使われる下働きだ。そんな彼女も今年は3年ぶりに夏のバカンスを楽しめる。目下の心配事は、旅立つ前に、飼い猫“グリグリ”を預かってくれる人を見つけなくてはならないこと。人づてに聞いて見つけた猫好きの老婦人マダム・ルネにグリグリを預け、いざ、海へ。楽しいバカンスを過ごしてパリへ戻ってみると…、グリグリが行方不明! 気っ風のいいマダム・ルネも、「猫に逃げられるなんてはじめてだ」とすっかり意気消沈してしまっている。マダム・ルネのお仲間の老婦人部隊、近所の若者衆が動員され、グリグリ探しがはじまる。

■COMMENT
「いなくなった猫を探す」。シンプルな物語だけれど、そこに表れる微妙な心理がおもしろい。

今まで何の交流もなかった近所の人々といっしょに行動をするうちに、クロエには見慣れた風景が少しずつ違って見えはじめる。周囲にいろんな人がいることや、自分が案外孤独を抱えていることに気づくのだ。職場でも、プライベートでも、何かが足りないような気がしている人、自分自身のちょっとしたことに気づけないでいる人は、自分自身を含めてまわりにたくさんいるのでは? だから、見ている側はクロエや彼女のまわりの人物にに感情移入もできるし、「こういう人いるいる」と楽しむのもいい。ユーモアあふれる会話には思わず吹き出すことも。

私はなぜだか、猫探し友だちとなった老婦人が、用事もなくクロエに電話してしまいクロエに煙たがられるシーンに、共感を覚えた。老婦人は新しい友人に何となく話したかっただけ。笑っちゃうような、笑い事では済まされないような、もどかしさを孕んだ共感。おばあさま方から見たら充分に今どきの若い人である私には、それをうるさがるクロエの気持ちも身にしみてわかってしまうのだ。

舞台となったパリ11区、下町風情のあった地区がファッショナブルに変貌していく途上の風景は、観光旅行とはまた違ったパリの街を垣間見られる。「地上げ」で次々と住民が追い出されたり、いつかの日本の都会の風景にも似ている。
原題“Chacun cherche son chat”(“シャカンシェルシュソンシャ”早口言葉っぽい)は「皆それぞれ自分の猫を探している」の意。見る人も自分の探しものに気づくことができるやもしれない。果たしてグリグリは見つかるのか、は見てのお楽しみ。


■COLUMN
「猫が行方不明」でも、「この店は、前は楽器店だったのよ」などと言いながら街を歩くシーンが登場するが、街はいつも姿を変えている。しょっちゅう歩いて見慣れた街なのに、ある日「あれれ、こんなとこにこんな店あったっけ」と思うことがしばしばだ。そしてその次に来るのは「前、何だっけ?」。
なくなった店が、何十年も続いていたおそば屋さんだったりしたら、「おじさん、やめちゃったのねー」と感慨にも浸れる。だが、その記憶もなじみつつある新しい風景に駆逐されてしまうかも知れない。ここ2年で4軒目だね、なんてところなら、間違いなく、前の店を覚えてはいない。
そんなことを繰り返しているうちに、感覚が鈍くなり、何ヶ月かで入れ替わる風景など、最初から記憶にとどめなくなる。忘れたのではなく、最初から目に入れてすらいない。よくも悪くも街は次々変化する。変化は止められなくても、自分が愛する街なら、記憶にくらいはきちんととどめておきたい、と思う。

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2015年05月17日

No.264 100歳の華麗なる冒険

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欧 州 映 画 紀 行
               No.264   15.05.17配信
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★ 百年の荒唐無稽 ★

作品はこちら
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タイトル:『100歳の華麗なる冒険』
製作:スウェーデン/2013年
原題:Hundraåringen som klev ut genom fönstret och försvann
英語題:The Centenarian Who Climbed Out the Window and Vanished

監督・共同脚色:フェリックス・ハーングレン(Felix Herngren)
出演:ロバート・グスタフソン、イヴァル・ヴィクランデル、
   ダーヴィッド・ヴィーベリ、ミア・シャーリンゲル、
   イェンス・フルテン
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■STORY&COMMENT
スウェーデンの田舎町。アランは老人ホームで100歳を迎えた。ホームの職員たちが忙しく誕生日パーティーの準備をする中、一人部屋で考え事をするアランだったが、ふと思い立ち、部屋の窓から抜け出してあてのない旅をはじめる。
行き着いたバスターミナル。風体のよくない若者にスーツケースを持たされるが、発車ベルに急かされてアランはそのままバスに乗ってしまう。しかし、このスーツケース、どうも大変なシロモノらしく、ギャングに追われる身に……

いやいや、賛辞としての「荒唐無稽」がたっぷりつまった楽しい映画だった。何度も声を出して笑ってしまった。

消えたスーツケースを追って、少々頭の足らないギャングたちが、アランの行方を必死に探し回る、その展開と交互に、アランが生まれてからこれまでの人生を振り返るシーンが挟まれていく。
はじめは、「100歳になって認知や判断が遅くなったおじいちゃん」くらいに思っていたところが、その人生を振り返るや、スペイン内戦、第二次世界大戦、東西冷戦、現代史のあらゆる重要なシーンに、ひょんなことからひょこひょことひょうひょうと顔を出す仰天な人生なのだ。

ギャングとの追いかけっこにしろ、アランの生涯にしろ、そこで繰り広げられるユーモアは、かなりブラックだ。だから観客を選ぶ作品だとも思うが、私は、ここまで荒唐無稽にスケールを広げてくれるおかげで、散りばめられたブラックなシーンを楽しく笑い飛ばせた。

原作本はスウェーデンでミリオンセラー、40ヵ国以上で800万部売れた新人作家の小説だそうだ。日本でも売れ行きが好調で、翻訳しているのは、難解な作品の翻訳を好むという、あの柳瀬尚紀氏だというから、原作本も読んでみようかと思っている。
映画の中では、時間の進みがおかしくないかなと思われるところがあって、それが映画用に短縮した結果なのか、それとも、そのくらいのゆがみはユーモアの一部として描かれていたのか、気になるところもあるから。

■COLUMN

ブラックユーモアが満載と言ったが、スウェーデン語がわかったら、もっともっとブラック度はきついのではないかと想像する。

それが、ただの悪ふざけに終わっていないのは、アランが生まれてからの100年の歴史を振り返るという設定が、観る者の知的好奇心を刺激することが大きいだろう。
今ここにある時代とダイレクトにつながっている現代史は、無条件に人の行いの愚かさや哀しさに思いを馳せやすい。当のアランはまったくそんなものは纏っていないし、時の権力者の描かれ方は滑稽そのものなのだが、100年の歴史絵巻にはそこはかとないペーソスさえ感じられる。
観客は、繰り広げられる歴史に、自分の中にある知識や感情を何となく重ねて、そこに哀しみや皮肉を見て、時に教訓さえ引き出すことができるかもしれない。
うまく作られた物語装置だと思う。

テンポよく進む悪ふざけたっぷりのコメディにガハハと笑いつつ、知的好奇心をくすぐられながら、自分なりに思う歴史の哀感に浸れる、お得な一本だ。

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★DVDとブルーレイ、原作本

『100歳の華麗なる冒険』DVD ¥3,051
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『100歳の華麗なる冒険』Blu-ray ¥3,754
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原作本『窓から逃げた100歳老人』¥1,620
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2015年01月07日

No.263 ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区

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欧 州 映 画 紀 行
             No.263   15.01.06配信
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★ 難しきヨーロッパ、楽しきヨーロッパ ★

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タイトル:『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
製作:ポルトガル/2012年
原題:Centro Histórico 英語題:不明

監督:アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)
   ペドロ・コスタ(Pedro Costa)
   ビクトル・エリセ(Víctor Erice)
   マノエル・ド・オリヴェイラ(Manoel de Oliveira)
出演:イルッカ・コイヴラ
   ヴェントゥーラ、アントニオ・サントス、
   リカルド・トレパ
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■STORY&COMMENT
ヨーロッパの名監督4人によるオムニバス作品。

EUには、指定された1年間、集中的に各種文化プログラムを展開する「欧州文化首都」という事業がある。2012年、ポルトガル北西部の小さな町「ギマランイス」が指定都市となり、この事業の一環として制作された映画である。
ギマランイスは、1143年にポルトガル王国が誕生した際の初代国王アフォンソ1世の生地で、最初の首都、ポルトガル発祥の地と呼ばれる。謎の邦題はここからつけられたらしい。

ギマランイスは、古都らしい趣きのある街並みが旧市街に残されていて、これは世界遺産にも登録されている。
この町の文化事業の一環で作られた映画であれば、雰囲気ある街並みをふんだんに使った作品となりそうなものだが、そうはいかない。それが「ヨーロッパ」らしさでもあるだろうか。

1話目は、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督による『バーテンダー』。向かいのよく流行っているカフェが気になる、古くさいカフェの主人の物語。一言の台詞もないけれど、どことなくおかしさが漂う。この作品には、カフェのある古い街並みが見える。
私は知らなかったが、カウリスマキ監督は長年ポルトガルに住んでいるのだそうだ。

2話目は、ポルトガルのペドロ・コスタ監督の『スウィート・エクソシスト』。4つの中で最も不思議な作品。監督は、ギマランイスをテーマにいかにギマランイスで撮らないかにこだわったといい、シーンの大半は、精神(おそらく)病院のエレベーター。移民の男が、兵士(の亡霊)と語り合う会話劇だ。独裁体制を終わらせた1974年のカーネーション革命がテーマになり、ポルトガルと一人の貧しい男の歴史を振り返るような内容だ。ポルトガルの歴史をもう少し知っていたら、楽しめそうなのだけれど。

スペインのビクトル・エリセ監督の『割れたガラス』が3話目。かつてはヨーロッパ第2の紡績工場として発展したが今は「割れた窓ガラス工場」と呼ばれる工場跡地で、その工場で働いていた人々が自身の人生や工場での体験を語る。
4つの中では私はこれがいちばん好き。「ポルトガルでの映画のテスト」とされ、オーディションのように「普通の人々」が何でもない普通の人生の一コマを話す。人にはそれぞれ色んな人生があるという当たり前のことが、ズドンと響いて、この「オーディション(カメラテスト)」から、さらに新しい映画が作られたら、ぜひ観てみたいと思う。

4話目にはポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラが登場。『征服者、征服さる』は、ギマランイス地区への観光客へのガイド風景が描かれる。
町の一角にあるカフェから、狭苦しいエレベーターで内なる声を聞き、往時の人生を眺める旅から、明るい外の世界、しかも「観光」というわかりやすい風景に一気に連れ出される、きれいな4話構成だ。ただの観光風景にならないユーモアが「町を描く」作品としてうまく締められている。

■COLUMN
メルマガを書くことはもちろん、映画を観ることからもすっかり遠ざかってしまっているこの頃。
「メルマガもそろそろ新しいのを書きたいな、何かいい映画はあるだろうか」とレンタル店へ向かったが、棚を見ても、何を観たらよいのかさっぱりわからないのだ。頻繁に観ていたときなら、タイトルで「ああこれこれ」と内容やら出演者やら、どこか情報が頭に残っていてピンとくることもある。公開時に話題になっていたことを思いだすこともある。しかし最近は、映画公開の話題からも離れてしまっていて、ぼんやりとした情報も頭に残っていない。

とりあえず「ミニシアター」の棚で見つけたこの作品、観たことのある監督名が並んだ「オムニバス」(ペドロ・コスタ監督だけは初だったが)、EUの文化事業で撮られたという「欧州っぽさ」が、すっかりご無沙汰したメルマガ筆者の映画リハビリにはいいんじゃないかと選んでみた。

このチョイス、ギマランイスという未知の町を知ることになり、そしてだからといってその町の風景をふんだんに見せられるわけじゃない「ヨーロッパ映画」の非単純さ、そしてそれについてあれこれ考えることができたという点で当たりだった。
ただ、軽く流して楽しめる簡単な作品ではないことは事実。ああだこうだと考えすぎたところもあって、「リハビリ」のレベルには少しハードだったともいえる。ストーリーでぐいぐい引っぱって行かれる作品を観た方が、「リハビリ」にはふさわしかったかもとも思う。

ともあれ、この作品、そうそうたくさん町が映っているわけでもないのではあるが、やっぱりこの舞台(テーマ)の町を強く意識させる、そのギマランイスという町を知るのにもよし、オムニバスの楽しみ、4つの個性ある作品から、ウマの合う監督を探すのにもよし。
そして、この作品全体で、私が最も気に入ったのは、てんでバラバラに見える4作品が、最後の『征服者、征服さる』を観て、グレン・グールド演奏のなぜか知らないが『イタリア協奏曲』がかかるエンドロールに入ると、うまい流れを見せた4作品に思えて、心がスルッと開放される気になるところ。

理屈抜きで楽しみたいときには向かないけれど、小理屈をこねたいときには、ぜひ。

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★DVD
『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
¥ 3,427
http://amzn.to/1BtSSPB

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2014年09月06日

No.262 風にそよぐ草

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欧 州 映 画 紀 行
               No.262   14.09.06配信
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★ タイトルに込められた意志とは ★

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タイトル:『風にそよぐ草』
製作:フランス・イタリア/2009年
原題:Les herbes folles 英語題:Wild grass

監督・脚本:アラン・レネ(Alain Resnais)
出演:サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、アンヌ・コンシニ、
   エマニュエル・ドゥヴォス、マチュー・アマルリック
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■STORY&COMMENT
マルグリットは靴屋で楽しい買い物をした帰りに、バッグをひったくられた。その、お金が抜かれて捨てられていた財布を拾ったのは、初老の男性・ジョルジュだ。ジョルジュは、中にあった自家用機操縦免許証の写真を見て、その
「マルグリット・ミュイール」という女性に惹かれ、人となりを勝手に妄想しはじめる。
電話帳で調べて直接連絡しようか、警察に届けようか、いろいろ考えあぐねて警察に届け、マルグリットからは、お礼の電話がかかってくる。すっかりいろいろな妄想をしていたジョルジュは、「お礼だけ」の事務的な電話にがっかりして無礼に電話を切ってしまう。それを後悔して今度は手紙を届けることにして……

今年亡くなった、アラン・レネ監督の作品。そんなに多くの作品を観ているわけではないけれど、作品ごとにスタイルやトーンが変わって、面白い映画作家だと思っている。
それだけに、今度は何をやってきているんだろうと、身構えながら観てしまう作家でもある。
この『風にそよぐ草』も、真面目にやってんだか、人をからかってんだか、なんだろう、これは。という「なんだかちょっと変わった作品」というのが、第一印象。

まず、脇役が豪華すぎる。
ジョルジュが財布を届けたときに応対して、その後ジョルジュの行きすぎた行動を注意しにくる警官がマチュー・アマルリック。マルグリットの親友の同僚がエマニュエル・ドゥヴォス、物静かで美しいジョルジュの妻がアンヌ・コンシニ。こんな豪華な役者を使ってるんだから、重要な絡み方をするんじゃないかと、邪推してしまう。邪推する方が悪いんだけれど。

その上、この皆60年代の生まれである脇役が、マルグリット役のサビーヌ・アゼマとジョルジュ役のアンドレ・デュソリエ(二人とも40年代生まれ)と同じ世代のように描かれては、フランス映画をよく観る者にとっては人間関係の把握が難しい。どうもアラン・レネさんは、ご自分の奥様であるサビーヌ・アゼマがものすごく若い人だと思っているフシがある。

ジョルジュには、どうやら前科があるらしいことがほのめかされるが、詳しいことは明らかにされない。そんなジョルジュが、財布を拾った相手にストーカーじみた行動をしはじめるのだから、何か恐ろしいことになるのかと思いきや、はじめは困っていたマルグリットも何だか気になるようになってしまう、その物語展開も、人を食ったように思えて「真面目にやってんだろうか、いやそりゃあ真面目にやってるんだよね」と、気になるから原作の小説も読んでしまった。

そしたら、これが驚くほど原作に忠実。いくつか省かれているシーンはあるけれど、突き放されたような結末も、前科のほのめかし方も原作通りだった。

ちょっと変わった恋愛を、切なく描くというには、心理描写がわかりにくい。
日本のプロモーションでは、中年の男女にふいに訪れた素敵な恋愛のように宣伝されていたようだけれど、それもちょっと違う。
邦題にはさわやかな風が吹いているけれど、原題は(直訳すれば)「狂った草」。生い茂った雑草を意味する。映画の冒頭には、アスファルトの割れ目から生えている草が映し出され、本来なら生えない場所からどうしようもなく生えてくる様子は、どうしようもなくわき出してしまう感情や、正しい場所に収まって生きられない人生を、表しているようだ。

原作は、「できごと」くらいの平板なタイトルであり、かなり原作に忠実に作っているのに、このタイトルだけは大幅にトーンを変えた、そこには作り手の意志表明を感じる。

結末をどう解釈するのか、これはたぶん観る人によって違う。普通じゃない
「狂った」恋愛は、考え始めれば底なし沼に沈んでいくような悲劇性と、他人事だからなんだか笑ってしまう喜劇性が同居していて、「○○な映画を観た」とすっきり言えない落ちつかなさがある。
だけどその分、いつまでもいつまでも、ああでもないこうでもないと考えてしまう、尾を引く映画である。

■COLUMN
上の原稿が長くなったので、少しだけ。
アマチュア飛行家であるマルグリットの操縦する飛行機から眺める草原のグリーン、空のブルー、町の映画館のネオン、場面ごとにメインテーマが異なって見せているところも面白い。「美しい」映像というよりは「面白い」と私は感じた「映像美」である。

決して全体の統一感がないというのではなく、いろいろなスタイルとトーンで映画を作り続けたレネの「スタイル」らしく、舞台の背景やセットが変わって場面が転換するように、個々のシーンを、異なるトーンとスタイルで作り込んでいる。何度も観ればその度に発見がありそうだ。

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★DVD
『風にそよぐ草』
¥ 4,213
http://amzn.to/WtkmE1

価格は2014年9月6日現在のアマゾンでの価格です。
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2014年06月14日

No.261 危険なプロット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.261   14.6.14配信
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★ あやしくミステリアスに、不遜に ★

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タイトル:『危険なプロット』
製作:フランス/2012年
原題:Dans la maison 英語題:In the House

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、
   エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウアー
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■STORY&COMMENT
高校のフランス語教師のジェルマン。生徒達に作文の宿題を出すが、「ピザを食べてテレビをみた」「親に携帯を取り上げられた」……、真面目に取り組む気持ちもなく内容もくだらない作文の山に辟易としていた。しかし、クロードという生徒の作文だけは違う。しっかりとした文章構成、文末に「続く」とまで書かれ、先の気になる内容、ジェルマンはクロードの文才に惹かれ、個人授業をするようになる。
クラスメートの家庭に入り込み、生活を皮肉に観察し、やがて家庭の秘密まで暴き、家庭の中を少しずつ引っかき回していく様を書いていくクロード。ジェルマンは文才を伸ばしたいというだけでなく、続きが読みたい欲望にもかられて、クロードとの物語づくりにのめり込んでいく。


ジェルマンが初めて読んで驚くクロードの作文は、数学が苦手な同級生ラファエルの家に宿題を手伝いに行った日のことが書かれている。

夏のあいだ、彼の家を眺めていて一度入ってみたかった、数学の宿題はもちろん口実だ
入ってみたいと想像していた家の中を歩き回り、観察する
彼の母と顔を合わせて、「中産階級の女の香り」と皮肉る

同級生やその母親を皮肉な目線で見て、うそをついて入り込んだことを臆面もなく表明する。そんな不遜な内容だ。
しかし、不遜だからこそ、読む方はつい惹かれる。「続く」の一言に、楽しみにさえしてしまう。

そして、善良でごく普通の生徒であるラファエルと、ブロンドの美しいクロードという対照的な様子も、あやしさを醸し出し、眺める者に居心地の悪さや何かが起こるかもしれないという思いを起こさせる。美しい上に、人の心を見透かすかのようなクロードの目線も気持ちがざわつく。

「続く」の後に提出された二度目の作文では、

ラファエルに合わせて、いかにも若者の会話をしてみたこと
インテリアに熱中するラファエルの母の俗っぽさを描き、体型を「中産階級の曲線」と表現したり

と、皮肉な視線は続き、

続く作文では、バスケが好きでどことなく脳天気な父親が登場。仕事で関係しているために中国に詳しいことを会話のはしばしにはさむ、通俗性が描かれる。

どこにでもある普通の家庭、脳天気でこぢんまりとした通俗的な生活を、斜に構えた皮肉な目線で描いていく。
教師であるジェルマンも、観客も、そんな通俗的な普通の家庭を小バカににした目線に、どことなく共感し、その背徳からも、もっともっと読みたいと思ってしまう。だいたいこんなフランス映画を喜んで観る輩は、少なからずそんな意地悪な目線を持ってるんだと思う、うん。

そしてとある事情からラファエルの家に遊びに行けなくなって、「あの家に入らなければ書けない」と家に上がり込むことになぜか執着するクロード。その目的のわからない執着もあやしく感じられる。

どこまで深く入り込んでいくのか、どこまで辛辣に目線を向けるのか、そしてそんな風に他人の家に入り込んで、どうしても作文を書きたいクロードの目的は……と、不遜に背徳的に観客の目をそらさせない、あやしわがたまらなくおもしろい作品である。

■COLUMN
人間というのはなんと言葉に支配されて生きているのだろう。

この作品で、ずっしりきたのはそのことだ。

クロードが書いた作文の内容は、クロードによる朗読に合わせて映像化されて描かれるが、結局のところ、作文に書かれたことが真実なのか否かは、わからない。クロードとジェルマンが話し合い、作文を練り直す過程で、ああでもないこうでもないと、内容が変えられるシーンもあって、明らかにフィクションと知らされるところもあるが、実際のところ、クロードとラファエル家族に何があったのかは、ミステリアスに放置されるままだ。
ひょっとしたら最初から最後までフィクションかもしれないし、最初は本当のことが書かれていたけれど、だんだんフィクションが混じったのかもしれない。

うすうすそれを感じていながらも、ジェルマンはクロードの作文に書かれたことを本当のことと受け取り、ラファエルを見ていて、クロードの作文で表現された世界の中で、ラファエル一家を認識する。

実際に見たわけでないことも、言葉で聞かされてイメージを作り出し、それはやがて自分自身の現実の世界に影響を及ぼしていく。
この作品のラストの状況も、果たして、クロードの紡ぎ出す「言葉」がなかったら、こうなっていなかったのではないか。

実際に見ないことも言葉では表現できて、他者の経験を私たちは共有できる。形に見えないものも、言葉は表現できて、その言葉を使ってさらに私たちは形で表せないことを思考できる。
しかし、気づくと、言葉で紡ぎ出した、現実とは少しずつ違った世界を見て、世界をそれとして行動していることがあるかもしれない。

言葉の背徳とあやしさを考えたくなる作品でもある。

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★DVDとブルーレイ
『危険なプロット』(初回限定版)筒スリーブケース仕様
¥ 3,036
http://amzn.to/1lknyGJ

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2014年04月20日

No.260 タイピスト!

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            No.260   14.4.20配信
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★ タイプ早打ちはスポ根で ★

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タイトル:『タイピスト!』
製作:フランス/2012年
原題:Populaire 英語題:Populaire

監督・共同脚本:レジス・ロワンサル(Régis Roinsard)
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、
   ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ
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■STORY&COMMENT
1950年代フランス。田舎で親の勧める縁談を蹴って都会に出てきたローズは、時の花形職業“秘書”の面接を受ける。採用されたものの、ドジで不器用、決して秘書向きとは言えないローズは1週間でクビの危機に。雇い主のルイは、雇い続ける条件として、タイプの早打ち大会出場を提案する。ローズの唯一の長所・「1本指でタイプの早打ちができる」ことに注目し、ローズと組んでタイプの競技大会で優勝する野望を抱いたのだ。
初出場であっさり敗退したローズだったが、その後、ルイは“雇い主”兼“鬼コーチ”と化して、厳しいトレーニングが始まる……

ルイのローズへの特訓ぶりは、スポ根のそれ。そしてコーチと選手の間に恋が芽生えて、あんまり細かいこといっちゃあ野暮野暮、頭を空っぽにして笑って楽しもうよ、という正統派のスポ根&ラブコメディである。

レジス・ロワンサル監督は、たまたま観たタイプライターの歴史に関するドキュメンタリーで、早打ち大会の様子を見て、興味を持って調査をしたのだそうだ。大きな競技場で観客を集めて行われた大会の記録や、実際の出場者に聞いた、出場へのプレッシャー、ライバルに鋭い視線を向けて威嚇したことなどから、当時の興奮を再現したという。
そんな取材によって描かれた「タイピング大会とその出場者の生活」は、厳しいスポーツの訓練そのもの。皆がラジオにかじりついて地元の出場者の戦況を見守ることも、社会進出する女性のアイコンとして、優勝者がマスコミにもてはやされ人気者になって、なんて構造も、オリンピックで活躍したスポーツ選手のようだ。

原題「Populaire」は、タイプライターメーカーの名前であると同時に、熱しやすく冷めやすい大衆から受ける儚い人気の有り様への、皮肉が少々含まれているのかもしれない。

秘書の面接に行くのに、ばっちり可愛らしくおしゃれをしていって、「秘書っていうのは、髪をひっつめメガネをかけて地味な格好をしていないと採用されない」なんてウワサに慌てふためく(でも、一人だけ可愛らしいから、ルイはうっかり採用しちゃったわけだけど)、ローズが次々と繰り出す50年代ファッションも楽しい。

■COLUMN
2013年の夏に東京で公開された映画。最近は映画館に映画を観に行くこともめったになくなった私が、ちょっと時間ができたしと、友人を誘ってウキウキと観に行こうとした、思い出の(!?)作品だ。
当日、私は体調を悪くしてしまって行けなくなってしまったのだが、ネットで座席をすでに予約してしまっていたから、「お願いっ、私の分も楽しんできて!」と友人を送り出して観られずじまい。DVD化を待ち望んでいた因縁の(!?)作品でもある。

観てきた友人は、感想を詳しく話してくれて、「いい映画を紹介してくれてありがと〜」と言ってくれて一安心だった私だが、そうしていい感想も聞いたこととも相まって「観に行けなかった映画」の評価は、観ないうちにむくむくと膨れあがり、大作品になっていた。

今回、実際に観てみたら、予想以上に「おバカ」な映画だった。それはもちろんいい意味で、観に行けなかったから何となく「いい(つまり《良心的な》)作品」に膨れあがっていたイメージは、実際の作品のはちきれるポップさに壊された。可愛らしくシンプルにマンガチックに、ささやかな幸せと感情の機微がが散りばめられていた。

ほんとは、桜が咲いてぽわーんと暖かくなって、口元がゆるむ頃に観るのがぴったりの映画のように思う。ちょっと季節が遅れて、ゴールデンウィークももうすぐ、むしろ初夏に近いこの頃だけど、連休近きぽわわんとした空気の中で、ぜひ、ポップな正統派スポ根ラブコメを楽しんで!

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