2014年06月14日

No.261 危険なプロット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.261   14.6.14配信
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★ あやしくミステリアスに、不遜に ★

作品はこちら
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タイトル:『危険なプロット』
製作:フランス/2012年
原題:Dans la maison 英語題:In the House

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、
   エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウアー
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■STORY&COMMENT
高校のフランス語教師のジェルマン。生徒達に作文の宿題を出すが、「ピザを食べてテレビをみた」「親に携帯を取り上げられた」……、真面目に取り組む気持ちもなく内容もくだらない作文の山に辟易としていた。しかし、クロードという生徒の作文だけは違う。しっかりとした文章構成、文末に「続く」とまで書かれ、先の気になる内容、ジェルマンはクロードの文才に惹かれ、個人授業をするようになる。
クラスメートの家庭に入り込み、生活を皮肉に観察し、やがて家庭の秘密まで暴き、家庭の中を少しずつ引っかき回していく様を書いていくクロード。ジェルマンは文才を伸ばしたいというだけでなく、続きが読みたい欲望にもかられて、クロードとの物語づくりにのめり込んでいく。


ジェルマンが初めて読んで驚くクロードの作文は、数学が苦手な同級生ラファエルの家に宿題を手伝いに行った日のことが書かれている。

夏のあいだ、彼の家を眺めていて一度入ってみたかった、数学の宿題はもちろん口実だ
入ってみたいと想像していた家の中を歩き回り、観察する
彼の母と顔を合わせて、「中産階級の女の香り」と皮肉る

同級生やその母親を皮肉な目線で見て、うそをついて入り込んだことを臆面もなく表明する。そんな不遜な内容だ。
しかし、不遜だからこそ、読む方はつい惹かれる。「続く」の一言に、楽しみにさえしてしまう。

そして、善良でごく普通の生徒であるラファエルと、ブロンドの美しいクロードという対照的な様子も、あやしさを醸し出し、眺める者に居心地の悪さや何かが起こるかもしれないという思いを起こさせる。美しい上に、人の心を見透かすかのようなクロードの目線も気持ちがざわつく。

「続く」の後に提出された二度目の作文では、

ラファエルに合わせて、いかにも若者の会話をしてみたこと
インテリアに熱中するラファエルの母の俗っぽさを描き、体型を「中産階級の曲線」と表現したり

と、皮肉な視線は続き、

続く作文では、バスケが好きでどことなく脳天気な父親が登場。仕事で関係しているために中国に詳しいことを会話のはしばしにはさむ、通俗性が描かれる。

どこにでもある普通の家庭、脳天気でこぢんまりとした通俗的な生活を、斜に構えた皮肉な目線で描いていく。
教師であるジェルマンも、観客も、そんな通俗的な普通の家庭を小バカににした目線に、どことなく共感し、その背徳からも、もっともっと読みたいと思ってしまう。だいたいこんなフランス映画を喜んで観る輩は、少なからずそんな意地悪な目線を持ってるんだと思う、うん。

そしてとある事情からラファエルの家に遊びに行けなくなって、「あの家に入らなければ書けない」と家に上がり込むことになぜか執着するクロード。その目的のわからない執着もあやしく感じられる。

どこまで深く入り込んでいくのか、どこまで辛辣に目線を向けるのか、そしてそんな風に他人の家に入り込んで、どうしても作文を書きたいクロードの目的は……と、不遜に背徳的に観客の目をそらさせない、あやしわがたまらなくおもしろい作品である。

■COLUMN
人間というのはなんと言葉に支配されて生きているのだろう。

この作品で、ずっしりきたのはそのことだ。

クロードが書いた作文の内容は、クロードによる朗読に合わせて映像化されて描かれるが、結局のところ、作文に書かれたことが真実なのか否かは、わからない。クロードとジェルマンが話し合い、作文を練り直す過程で、ああでもないこうでもないと、内容が変えられるシーンもあって、明らかにフィクションと知らされるところもあるが、実際のところ、クロードとラファエル家族に何があったのかは、ミステリアスに放置されるままだ。
ひょっとしたら最初から最後までフィクションかもしれないし、最初は本当のことが書かれていたけれど、だんだんフィクションが混じったのかもしれない。

うすうすそれを感じていながらも、ジェルマンはクロードの作文に書かれたことを本当のことと受け取り、ラファエルを見ていて、クロードの作文で表現された世界の中で、ラファエル一家を認識する。

実際に見たわけでないことも、言葉で聞かされてイメージを作り出し、それはやがて自分自身の現実の世界に影響を及ぼしていく。
この作品のラストの状況も、果たして、クロードの紡ぎ出す「言葉」がなかったら、こうなっていなかったのではないか。

実際に見ないことも言葉では表現できて、他者の経験を私たちは共有できる。形に見えないものも、言葉は表現できて、その言葉を使ってさらに私たちは形で表せないことを思考できる。
しかし、気づくと、言葉で紡ぎ出した、現実とは少しずつ違った世界を見て、世界をそれとして行動していることがあるかもしれない。

言葉の背徳とあやしさを考えたくなる作品でもある。

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★DVDとブルーレイ
『危険なプロット』(初回限定版)筒スリーブケース仕様
¥ 3,036
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ラベル:フランス
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2014年04月20日

No.260 タイピスト!

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欧 州 映 画 紀 行
            No.260   14.4.20配信
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★ タイプ早打ちはスポ根で ★

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タイトル:『タイピスト!』
製作:フランス/2012年
原題:Populaire 英語題:Populaire

監督・共同脚本:レジス・ロワンサル(Régis Roinsard)
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、
   ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ
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■STORY&COMMENT
1950年代フランス。田舎で親の勧める縁談を蹴って都会に出てきたローズは、時の花形職業“秘書”の面接を受ける。採用されたものの、ドジで不器用、決して秘書向きとは言えないローズは1週間でクビの危機に。雇い主のルイは、雇い続ける条件として、タイプの早打ち大会出場を提案する。ローズの唯一の長所・「1本指でタイプの早打ちができる」ことに注目し、ローズと組んでタイプの競技大会で優勝する野望を抱いたのだ。
初出場であっさり敗退したローズだったが、その後、ルイは“雇い主”兼“鬼コーチ”と化して、厳しいトレーニングが始まる……

ルイのローズへの特訓ぶりは、スポ根のそれ。そしてコーチと選手の間に恋が芽生えて、あんまり細かいこといっちゃあ野暮野暮、頭を空っぽにして笑って楽しもうよ、という正統派のスポ根&ラブコメディである。

レジス・ロワンサル監督は、たまたま観たタイプライターの歴史に関するドキュメンタリーで、早打ち大会の様子を見て、興味を持って調査をしたのだそうだ。大きな競技場で観客を集めて行われた大会の記録や、実際の出場者に聞いた、出場へのプレッシャー、ライバルに鋭い視線を向けて威嚇したことなどから、当時の興奮を再現したという。
そんな取材によって描かれた「タイピング大会とその出場者の生活」は、厳しいスポーツの訓練そのもの。皆がラジオにかじりついて地元の出場者の戦況を見守ることも、社会進出する女性のアイコンとして、優勝者がマスコミにもてはやされ人気者になって、なんて構造も、オリンピックで活躍したスポーツ選手のようだ。

原題「Populaire」は、タイプライターメーカーの名前であると同時に、熱しやすく冷めやすい大衆から受ける儚い人気の有り様への、皮肉が少々含まれているのかもしれない。

秘書の面接に行くのに、ばっちり可愛らしくおしゃれをしていって、「秘書っていうのは、髪をひっつめメガネをかけて地味な格好をしていないと採用されない」なんてウワサに慌てふためく(でも、一人だけ可愛らしいから、ルイはうっかり採用しちゃったわけだけど)、ローズが次々と繰り出す50年代ファッションも楽しい。

■COLUMN
2013年の夏に東京で公開された映画。最近は映画館に映画を観に行くこともめったになくなった私が、ちょっと時間ができたしと、友人を誘ってウキウキと観に行こうとした、思い出の(!?)作品だ。
当日、私は体調を悪くしてしまって行けなくなってしまったのだが、ネットで座席をすでに予約してしまっていたから、「お願いっ、私の分も楽しんできて!」と友人を送り出して観られずじまい。DVD化を待ち望んでいた因縁の(!?)作品でもある。

観てきた友人は、感想を詳しく話してくれて、「いい映画を紹介してくれてありがと〜」と言ってくれて一安心だった私だが、そうしていい感想も聞いたこととも相まって「観に行けなかった映画」の評価は、観ないうちにむくむくと膨れあがり、大作品になっていた。

今回、実際に観てみたら、予想以上に「おバカ」な映画だった。それはもちろんいい意味で、観に行けなかったから何となく「いい(つまり《良心的な》)作品」に膨れあがっていたイメージは、実際の作品のはちきれるポップさに壊された。可愛らしくシンプルにマンガチックに、ささやかな幸せと感情の機微がが散りばめられていた。

ほんとは、桜が咲いてぽわーんと暖かくなって、口元がゆるむ頃に観るのがぴったりの映画のように思う。ちょっと季節が遅れて、ゴールデンウィークももうすぐ、むしろ初夏に近いこの頃だけど、連休近きぽわわんとした空気の中で、ぜひ、ポップな正統派スポ根ラブコメを楽しんで!

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★DVDとブルーレイ
『タイピスト!』Blu-rayコレクターズ・エディション (初回限定生産)
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ラベル:フランス
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2014年03月11日

3年後の3月11日の私、いつも「私」

3月11日ということで、新聞やテレビで特集が組まれたり、
SNSでは、各自が「あの日」を振り返ったり、それぞれ震災が起きた日とその後に思いを持つ日です。

ただ、私は、当日電車の中にいて、そんなに大きな揺れだとは思わず、
家族と離ればなれになるようなこともなく、ケアをしなければならない子供もおらず、
地震後にも、輪番停電もまわってこなかったし、通勤で困ることもなかったし、
3月11日が「私にとって」特別な日として記憶に残っていないのです。
当日のことは、この記事に書いてあります。

もちろん、そのとき何していたかはよく覚えていますが、
それとて、地震の後はしばらくは、人と会えば「あのとき何していました?」と尋ね合うのが習慣になっていて、記憶がしっかり定着したからであって、それがなければ忘れてしまったのではないかとも思います。

2011年に「私にとって」特別な出来事なら、
突発性難聴にかかって大変だったこと(この辺りに書いています)や、
暮れに幼なじみの友人が亡くなったことです。

そして、その後、2012年の終わり頃には、また別の病気をして、そのまま現在に至り、
ここ日頃、私の興味は、だいたい自分の体調にばかり向いています。

というわけで前置きが長くなったけれど、
こうして多くの人々が、大きな災害にそれぞれ思いを馳せている日でも、
私の興味はつねに自分の体調のことにしか向きません。
3月11日は、
そのちまちました自分、
つねに「私」のことばかりに忙しく、他のことに思いを向ける余裕がないでくの坊ぶりが、
情けなくなる日と、なっているように思います。

そんな「私」にばかり忙しい私が、自分のblogを読み返して思うこと。

上にリンクを貼った「3月11日の私」という記事の中で、私は、
「どうか、一刻も早く平穏な毎日を迎えられますように。」と被害に遭った方に向けて書いています。

いろいろなことが混乱していたあの頃には、一刻も早く平穏が訪れることは大切だったでしょう。
しかし、3年が経って平穏が意味するものとは、
急性期の復興が進んで頭打ちになり、望む復興にまでたどりつかないうちに、
じぐじぐと前にも後ろにも進まない慢性的な厄難安定状態とはなっていないでしょうか。

混乱して次々と降りかかる難を逃れ、何とかやっていくのに精一杯なときには、むしろ、
「ここを乗り越えられたら」と、その先を想像することができます。
しかし、何とかなりつつも決してうまくいっているわけではない状態が安定して長く続いていると、
「いつか今を振り返ったとき、そんな時期もあったねえと話せる」ことが想像できない、
永遠にじわじわと沈み続ける、底なし沼の厄難に思えます。

3年が経過した今(それは1年でも2年でも同じだとは思いますが)、
平穏に安定した厄難が永遠に続くのではなく、「何かが変わる」と信じられますようにと私は祈っています。

posted by chiyo at 19:39| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 身辺雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月22日

No.259 クリスマス・ストーリー

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欧 州 映 画 紀 行
            No.259   13.12.22配信
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★ それぞれがそれぞれに抱えて生きているそれぞれ ★

作品はこちら
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タイトル:『クリスマス・ストーリー』
製作:フランス/2008年
原題:Un conte de Noël 英語題:A Christmas Tale

監督・共同脚本:アルノー・デプレシャン(Arnaud Desplechin)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルシヨン、アンヌ・コンシニ、
マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、イポリット・ジラルド、
エマニュエル・ドゥヴォス、キアラ・マストロヤンニ、ロラン・カペリュート、
エミール・ベルリング、フランソワーズ・ベルタン
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■STORY&COMMENT
フランス北部、ベルギー国境に近い街ルーベ。子供たちは独立し、仲よく二人で暮らす夫アベルと妻ジュノン。子供は4人いたが、長男のジョゼフが白血病を患い、家族の誰も適合しなくて骨髄移植ができず、7歳で亡くなるという悲劇があった。40年ほど経ったいま、今度はジュノンが白血病を宣告される。子供や孫たちは、骨髄が適合するかの検査を続々と受けることに。そして、いろいろと折り合いが悪くバラバラだった家族は、クリスマスに、そして母の病に向けて、久しぶりに実家に集まってくる。

劇作家として成功する長女のエリザベート、ファミリーの問題児であるアンリ、繊細で優しい末っ子のイヴァン。アンリは昔から母ジュノンと折り合いが悪く、双方共に嫌いだと言ってはばからず、6年前の金銭トラブルから、エリザベートの頼みでアンリは一家から追放されている。エリザベートの息子ポールは、精神を病んでいて、昔から内気で繊細だったイヴァンは、自分にはポールの気持ちがわかると力になりたい様子。
ジョゼフが骨髄移植を受けられずに亡くなったことが影を落としているのか、各人の憎しみやわだかまりが家族に渦巻いている。そして今新たに、母の白血病と、骨髄移植の適合者はいるのか、という不安とプレッシャーがかかり……という状況。文字にするとずいぶん粘度の高いドロドロのように思えるけれど、それがそういうのとは違うのだ。

はじめは、こんな問題児が家族にいたらそりゃあ大変だろうなあとアンリを見て思うけれど、エリザベートの頑なさも、しばらく眺めていると、あれはあれで窮屈だし、ちょいと行き過ぎているんじゃないかい? と思えて、子供の好き嫌いをはっきり口にするジュノンもすごいが、それに普通に応じているアンリもそれはそれですごいと思う。
はじめて家族と顔を合わせて、「病気、悪いんですか?」とあっけらかんと尋ねる、アンリの恋人も肝がすわっているというかマイペースで、アンリの骨髄なんか移植したらよくないんでは?と本人に尋ねる父アベルも相当だ。

端から見ていれば、一人ひとりが、それぞれ少しずつ(大幅にと言ってもいいけれど)逸脱していて、それでうまくいっていないけれど、かといって壊滅状態ではない。
「皆が本心を隠して仲良しの振りをしている」のであれば、それは前述の粘度の高いドロドロになるのかもしれない。しかし、この作品では、受け止めたくないものは受け止めたくない頑固さで、それぞれ自分のスタイルと意志を貫いて、それぞれが抱え込むドロドロが、各自の中だけにあって他と混ざり合わないために、全体がドロドロにはならないのだ。

何度か、登場人物達が観客に向かって、自分の状況や考えていることを説明する演出シーンがあるけれど、それもこの作品世界を象徴している。それぞれちょっとずつ逸脱した頑固な個人が、孤独と負のあれやこれやを抱えながら、前を向いて生きていく。

果たしてこの家族が仲直りをするか、ジュノンの治療は成功するのか、そういうあれやこれやが解決することを期待して観てはいけない。大きな事件も小さな事件も、それぞれ個人の生きているうちに起こってそれぞれが抱えていく事柄。そしてそれが、ものによっては家族や知人で共有するものになるときもある。そんな一場面を切り取った作品だ。


■COLUMN
ちょっと前の作品。公開当時観たいなあと思いつつ、そのままになってしまっていたのを、レンタル店に行ったら見かけて思いだした。「クリスマス」などシーズン物の扱いをされる映画は、こんな形で後々にも再会できるからいい。

今年(にはじまったことではないけれど)は、メルマガからも、そもそも映画を観るということからも、すっかり遠ざかってしまった1年だった。その主な原因は健康に恵まれなかったことであり、それは今後もしばらく続きそうで、メルマガを続けて行こうか、一度区切りをつけて身軽(というか気軽の方が合っているかな)になろうか、迷った日々でもあった。
年の暮れも押し迫り、たまたま時間と体力に余裕ができて、「何とか今年のうちに1回くらいは出そう」「クリスマス物なんだからクリスマス前に出そう」と、こうして1本書いてみれば、やっぱり映画を観てああだこうだと何かを書くのは楽しくて、こういう場所があるのなら、わざわざそれを手放すこともないよなあとも思う。

健康に恵まれなかったといっても、あまりわかりやすい類の体調の崩し方ではないこともあり、体調そのものだけでなく、今の自分の状況を人に理解されないということに自分で勝手に悩んでいたりもした。
(たとえば、仕事で出張に出かけているくせに、誰かに誘われると「体調が悪くてあんまり外出ができない」と断ったり←意味わからないでしょー(笑))

この『クリスマス・ストーリー』には、それぞれ自分では重大で、苦しいことだけれど、端から見たら「そんな風にしなくてもいいのに」「もうちょっと歩み寄ればいいのに」と思えるようなことを、頑固に抱え続けている人々がたくさん出てくる。彼らを見ていると、理解されようとか考えることは要らないなあと思う。
自分の状況は自分のものであって、それを正確に把握される必要はないし、「意味わからない」と思われようが「なんじゃそりゃ」と思われようが、私は私でそれぞれ抱えているもののなかでできることをしていくしかないわけで、周りは、理解しなくってもいいから、ある程度受け止めて「ふーん」としておいてくれるならそれでいいや、なんてことを思ったのだ。

デプレシャン作品は、「フランス映画っぽいフランス映画」であって、ここに見られる人間関係はお国柄といってしまえばそれまでだけれど、心の持ちようとして、この作品からヒントをもらえてような気もしている。

あまりにも発行間隔が空いてしまって、廃刊措置を講じられない程度に、書けるときには書いていくつもりです。来年もよろしくお願いいたします!

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★DVD
『クリスマス・ストーリー』(DVD)¥ 3,573
http://amzn.to/1cmC2HG

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2013年08月23日

No.258 ブラック・ブレッド

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欧 州 映 画 紀 行
             No.258   13.8.23配信
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★ きゅうきゅうとした生活に苛立つ人に ★

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タイトル:『ブラック・ブレッド』
製作:スペイン・フランス/2010年
原題:Pa negre 英語題:Black Bread

監督・脚色:アグスティー・ビジャロンガ(Agustí Villaronga)
出演:フランセスク・クルメ、ノラ・ナバス、ルジェ・カザマジョ、
   マリナ・コマス、セルジ・ロペス
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■STORY&COMMENT
1940年代、内戦直後のスペイン・カタルーニャ。少年クレットとその父が荷馬車の事故で死に、クレットの友だちのアンドレウは、クレットが息絶えるのを目撃する。
警察の捜査では殺人事件とされ、左翼運動に関わっていて、以前から目をつけられていたアンドレウの父ファリオルが容疑者となる。
追及を逃れるため父は身を隠し、母は工場で働いて生活費を稼がねばならず、アンドレウは祖母の家に預けられることとなる。
貧しくも、大好きな父と母と、ささやかに夢を見ながら暮らしていたアンドレウだが、大人の事情や目論見に巻き込まれて……

WOWOWで放送されていたものを観たのだが、「スペイン内戦かー、かなり重い社会派ドラマなのかなー」と怖ごわ観てみた。

冒頭から、目をつぶりたくなるような殺人シーンがいきなり始まるけれど、クレットが息絶える前に、アンドレウに「ピトルリウア……」と謎の言葉を残して、さっそくミステリーに引き込まれるから、「これはテンポのいいサスペンスかな」と思って身を乗り出す私。
やがて、祖母の家に預けられ、葉っぱの間から陽の光がこぼれるような森の中、いとこたちと学校に通うアンドレウの姿は、親が窮状にありながらも、少年の夏休み映画のような雰囲気さえ醸し出す。いとこの一人、大人びた少女・ヌリアがアンドレウを気に入った様子には、少年と少女の出会いの夏休みみたいな印象もあった。

が、田舎の村が抱える秘密、大人たちが隠してきた事情、ヌリアの生きる術、そんなものが少しずつ少しずつ明らかになるにつれ、「かなり重い社会派ドラマ」よりさらに思いもしない方向に、重く重く、湿っぽく社会や人間の矛盾、業、辛さをつきつけられることとなった。

というわけで、前置きのような話ばかりが長くなってしまったが、わかりやすくて爽快な物語を欲している時、ドキドキハラハラを楽しみたい時におすすめできる作品ではない。
観終わったらずぶんと沈める時間と心のよゆうがあるときにどうぞ。

「スペイン内戦」ときけばその土地のその時代の特殊な物語と思ってしまう。もちろんそういう部分はたくさんあるし、時代状況への知識や感覚が十分でないために、いまひとつ理解ができていないのだろうなと残念に思うところも多い。
だが、この作品で胸に迫ってくるのは、どこの時代でもどんな境遇でも多かれ少なかれ共有できる大人のもがく姿だ。

社会をよりよくしようと理想を胸に抱き、同時に、医者になりたがる息子(アンドレウ)に将来を手に入れさせようと、貧困から何とか這い上がろうとする父の生き方は、貧乏なアカのバカなやり口と笑うこともできよう。しかし、何かしらやりたいことを持ちながら、何かしら理想とする生き方を持ちながら、生活するためにはその通りには動けぬきゅうきゅうとした気持ちを抱いた人なら、誰もが思い当たる葛藤の生き方だ。

きゅうきゅうとした思いを持ちながら日々を暮らす人には、その源は何か、理想とは何だったのか、思いを馳せるきっかけとなる作品だろう。

■COLUMN
原題の「Pa negre」は、黒パン、ブラック・ブレッドを意味するカタルーニャ語だそうだ。この作品は、内戦後、スペイン国内で長く弾圧されたカタルーニャ語でつくられた映画だ。さらに、国内の映画賞をとり、カタルーニャ語作品としてはじめて、アカデミー賞外国語部門スペイン代表に選ばれた作品だという。

スペイン語とカタルーニャ語の違いがわからないために、きっと作品の大事なポイントをたくさん見逃してしまっているだろうことも気になるところ。
カタルーニャ語の名前が多いせいか、キャストのカタカナ表記も、調べるところによって違っていて、何がより実際の音に近いのか、よくわからないので、このメルマガでは作品の日本語公式サイトの表記に合わせた。
カタルーニャ語であることが大切な作品ならば、そうした表記にはできる限り気に掛けたいと思う。が、普通の(といっていいのかさえわからないが)スペイン語の知識もないから、できる限りのことはほとんどないのだけれど。

というのは、横道にそれた話だが、その公式サイトの情報によれば、当時のスペインでは、パンの色が階級別に分かれていて、都市部か田舎かでも違っていたそうだ。大麦、トウモロコシ、キビ、ドングリなど、小麦以外に混ぜモノをした黒色のパンは、貧者の食べ物であり、精製された小麦粉を作った白パンは地主など富裕層しか食べられなかった。
本作のなかにも、アンドレウがおやつを食べさせてもらうのに、白パンを食べようとして怒られる場面がある。

黒パン=貧しい、田舎
白パン=お金持ち、都会
という図式は、子どもの頃に『アルプスの少女ハイジ』で覚えたように思う。都会からハイジがおばあさんのために白パンをお土産にするのだけれど硬くなってしまっていて、なんてエピソードはなかっただろうか。

そんな風に、パンの色を決められる人生は悔しい。
食べ物で目に見えぬ階級が露わになることは、「ルール化」されていないだけで現代にだってある。
興味深いのは、最近はむしろ、お金があって健康に気を遣う人は、そんなのっぺりと精製されたものを避けて、雑穀の入った田舎パンを好んで食べることだ。きっと技術の進歩によって、昔の黒パンと今の黒パンでは、食べやすさもおいしさもまったく違うのだろう。玄米や雑穀米を好んで食すことも同じだ。

昔のように、白は誰、黒は誰、と決められるのではなく、現代では、選択肢について、持つ者と持たざる者がいる。好みや気分や健康への気遣いに応じて、白でも黒でもおいしさや健康面で選択肢を持っている人と、経済的に、あるいは健康面やグルメ面での知識に乏しい選択肢を持たない人だ。

黒パンを食す層と白パンを食す層との間に対話を持つことは、以前は難しかった。アンドレウのように、黒パンの世界から白パンの世界へ向かう選択肢が目の前にやってくる人はほとんどいなかった。
その断絶は、今も変わらないのではないかと思う。
いろいろな色やタイプのパン・ご飯を好きに選べる世界と、画一的なひとつの穀物加工製品のイメージしかない世界と。

生きる世界ってなんだろう。そんなことも考える作品だった。

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『ブラック・ブレッド』(DVD)¥ 3,009
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2013年06月27日

No.257 屋根裏部屋のマリアたち

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            No.257   13.06.27配信
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★ 慣れきった世界から飛び出すと ★

作品はこちら
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タイトル:『屋根裏部屋のマリアたち』
製作:フランス/2010年
原題:Les femmes du 6ème étage 英語題:The Women on the 6th Floor

監督・共同脚本:フィリップ・ル・ゲ(Philippe Le Guay)
出演:ファブリス・ルキーニ、サンドリーヌ・キベルラン、
   ナタリア・ベルベケ
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■STORY&COMMENT
1962年、パリ。ジャン=ルイ・シュベールは、証券会社を経営する中年男。会社も住まいも祖父の代から受け継いで、ずっとそこに住み、そこで仕事をしている。ある日、先代から仕えていたメイドが妻のシュザンヌと折り合いが悪くて辞め、新たに若いスペイン人マリアがメイドとしてやってきた。その頃パリの上流家庭では、内戦の影響もあって大勢働きにきていたスペイン人が勤勉と評判だったのだ。
建物の最上階、屋根裏部屋には使用人が住む風習がまだ残っていた頃。シュベール家の住む建物の屋根裏部屋には、マリアをはじめ、近隣で働く同郷のスペイン人メイドが、仲よく共同生活をしていた。

半熟卵が完璧にゆでられていれば一日機嫌のよいシュベール氏。3分半きっかり、完璧に半熟卵をゆでるマリアの仕事ぶりにすっかり気をよくし、妻には内緒で高額の給料に承諾、彼の中でマリアの存在がどんどん大きくなっていく。

マリアが気にかかる彼は、スペイン人メイドたちが共同で使うトイレがつまっていると知れば、自腹で修理を頼んでやり、心にもかけなかった「スペイン内戦」について知ろうとする。
メイドたちの間では、ムッシュー・シュベールはすっかり人気者になって、親から継いだ会社と住まいから出たことのないシュベールにとっては、この新しい仲間との時間が楽しく大切なものとなっていく。

彼の変化は微笑ましく気持ちがいいのだけれど、観ていると心配になってくるんだなあ。いくらシュベールが心底親切心からメイドたちと関わってなにくれと世話をしても、所詮、住む世界が違う。子どもの頃からの習慣も、常識も、感覚も何もかも違う。
急速に仲よくなって楽しいときには目に見えなかった、あらかじめの断絶が、今露わになるか、今にお金持ちのだんなさまから無邪気に貧乏人を傷つける言葉が出てくるかと、いちいち心配が沸いてくる。
何不自由なく暮らしていた資産家が、ふとしたことで目を向けた弱者たちへの優しいまなざしが、決して計算ずくのものではなく、本心から向けられた美しいものだとわかるから、よけいに観ていると心配になってくるのだ。

マリアに抱く中年のかわいらしい恋心も、それが純粋な気持ちだとわかるからよけいに、それ以上深入りしたら傷つくよ、とハラハラする。

果たして私の心配がどうなるか、は、ぜひ自分の目で見届けて。
多少体調の悪い時に観ても、鑑賞後にぐったりしてしまうようなことはない、ということだけつけ加えておこう。

■COLUMN
気圧の変化で風が生まれて空気が流れるように、物語はなにがしかの不均衡がそこにないことには、動き出さないものだ。だから、何らかの形でバランスのとれない「ギャップ」が存在することは、映画作品の常だ。

そのなかでも、この作品は「ギャップ」を面白く見せてくれていると思う。
資産家と使用人というわかりやすいギャップ、そしてそのギャップを超えて別世界の人が関わり合う面白さはまずこの作品の肝だけれど、それだけでなく、たとえば夫婦間のギャップがある。

シュベール氏の妻シュザンヌは、夫の女の好みをすっかり勘違いしていて、いわゆる「セクシー美女」が近づいていることに的外れな心配をしている。夫婦の間の勝手な思いこみが生み出すギャップだけれど、こういうことって、夫婦に限らず、恋人、友人、いろんな人間関係でよくあることなんじゃないかな。あの人は自分のこういうところを気に入っているに違いないってのが、実際はそうでもなかったり。
自分の身の回りの人間関係を点検したい気分になる。

シュペール氏にとって、心地よい居場所がずいぶん違っていたというのも自分自身の認識のギャップだろう。祖父の代から同じ家でずーっと住んできて、そういうもんだと思っていたけれど、フロアを屋上に移して、メイドたちとわいわいやりながら、小さな自室を持ててはじめて、自分の居場所とはこういうものだったと感じる。

そして、自分の居場所を見つけ、新しい仲間たちを持った楽しさでまわりが見えなくなっているとはいえ、そういう変化に、家族や周囲の人たちがついてこられないことにシュペール氏自身さっぱり頓着しない、意識のギャップも、はたで眺める観客にとってはとても面白い。

ギャップのあれこれは、埋めたりもできるし、そのままにしておいてもそれを行動の原動力にすることもできる。ふと穴があいて、人生の中に流れ込んで、動き出した風に乗ることを気分よく見せてくれる作品でもある。

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『屋根裏部屋のマリアたち』(DVD)¥ 3,243
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2013年05月10日

No.256 最強のふたり

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欧 州 映 画 紀 行
             No.256   13.05.10配信
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お久しぶりでございます。
あまりにも配信がないので「まぐまぐ!」さんにも二度ほど、配信しないと廃
刊にするぞと怒られ、だからというのではないのですけれども、4カ月ぶりくら
いの配信でしょうか。確かに間があきすぎですね。
もう少し、頻度を高めるように頑張りますが、基本は「ポツポツとたまに配信」
となりそうです。ごめんなさい。

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★ よき化学変化のバランスは ★

作品はこちら
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タイトル:『最強のふたり』
製作:フランス/2011年
原題:Intouchables 英語題:Untouchable

監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
     (Eric Toledano, Olivier Nakache)
出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、
   アンヌ・ル・ニ、オドレイ・フルーロ
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■STORY&COMMENT
パラグライダーの事故で、首から下が麻痺してしまったフィリップ。大富豪で
ある彼は、使用人を雇い、生活の介助を受けながら暮らしている。新しい介護
人を募集したところ、面接には多くの資格者の中に混じって、失業手当をもら
うために面接を受けたアフリカ系の青年ドリスがいた。
まったく採用される気のない態度のドリスに興味をもって、フィリップは気ま
ぐれに彼を採用する。介護の経験はなく、鳴っている電話をそのまま差し出す
気づかいの抜けたドリスだが、周囲の腫れ物にさわるような態度にうんざり気
味のフィリップはドリスを気に入って、仲の良い友人同士になっていく。

ずいぶんヒットしたらしい作品。皆さんもうご覧になったかしら。DVDの発売か
らもちょっと時間が経ってしまって、今さら感もあるし、私が特に何かコメン
トすることももうないよなあ、と思うのだけれど、だって私はー昨日観たんだ
もん。
すがすがしくて、嫌みがなくて、みんなが気持ちよくなれる作品で、そういう
万人受けするものは、毒のなさが物足りなくなることもあるけれど、フィリッ
プの偏屈ぶり(と、特筆するほどのものでもないか)と、障害者だからと言っ
て遠慮しないドリスのジョークが、小気味よさを補っている。

基本的には、「ボーイ・ミーツ・ガール」じゃないが、世界の違う二人の出会
いの物語。育ってきた環境がまったく違い、趣味も異なる、暮らす世界の違う
二人が出会って化学変化を起こす(どこか鬱屈していたフィリップが外に開か
れていくにつれ、当の二人以外の周りの人たちも少しずつ変わっていったり)。
この映画がヒットするということは、そんな物語が、多くの支持を受けるのだ
なあと改めて思う。出会った二人の変化の様子を眺めるのは心地よく、自分自
身にも何かの突破口が開かれる気分にしてくれる。
そして、そんなにも親しくウマが合う人に会えることへの、多くの人の憧れも
感じる。もちろん私自身も。

何となく、お金はあるけれど障害があってモノトーンな暮らしだったフィリッ
プに、新しい風と彩りが吹き込まれた、という視点から考えてしまいがちだけ
れど、貧しい暮らしの中で複雑な家庭環境に苦しみ、刑務所に入っていたドリ
スが、世の中や世間の人に受け入れられていく物語でもある。よき「化学変化」
は、どちらかに偏るアンバランスではきれいには起きないものなのだろう。


■COLUMN
実話にもとづく話と冒頭で書かれ、作品の最後には、モデルとなったふたりの
映像がはさみこまれる。
何となくこの実話の強調がしっくりこない感じがして、ちょっと調べてみた。
しっくりこないというのは、「事実は小説より奇なり」みたいな大きな出来事
が起こったわけではなく、事実であることを強調することにあまり意味を感じ
なかったから。ひょっとしたらもともと人々に知られている人がモデルになっ
ているということが重要なのかな、という気がした。

調べた結果、といってもWikipedia程度で作品プロフィールはすぐに探すことが
できた。フィリップのモデルであるフィリップ・ポッゾ・ディ・ボルゴ氏が介
助人のアブデル・ヤスミン・セロー氏とのことを本にしたため、それをきっか
けにテレビのドキュメンタリー番組で2度ほどふたりが取り上げられ、そのドキュ
メンタリーをこの作品の監督が観たことをきっかけに、映画制作されたらしい。
だから、フランスでは有名人ではなくとも、「ああ、この人たちテレビでみた
ことあるー」くらいの人ではあるのかもしれない。
もともとの本も、現在では映画の1シーンを表紙に飾って売られている。

そのドキュメンタリー番組の引用をところどころはさみながら、最新の映像や
インタビューを交えたドキュメンタリー番組も新たにつくられ放送されたよう
だ。
『最強のふたり』が完成し、モデルとなったふたりがシャンゼリゼの劇場に作
品を観に行って(劇場の前では取材陣がおおぜいカメラを構えて撮影タイムが
ある)、出演者と会談する様子や、フィリップの家のブドウ畑、祖父の住んで
いた屋敷などが登場するその番組の動画は、合法的にアップされたものかどう
か確認ができなかったけれど、以下のURLで観られる。
https://www.youtube.com/watch?v=pvvVORUCVLg

おそらく、作品全体が「実話」なのではなく、要所要所のエピソードを入れつ
つ、きれいにオチのつくコメディにしたのだろうと思う。そして、きっとモデ
ルであるフィリップ・ポッゾ・ディ・ボルゴ氏もそのようなものを望んだのだ
ろう。

最後に1つ。話は変わるが、この作品のことを考えていて、少し前に読んだ本
のことを思い出した。脳性麻痺患者であり小児科医である作者が、自らの経験
から、身体について、介助し/されることや幼い頃から受けてきたリハビリに
ついて綴ったものだ。身体の持つ/感じる「官能」という視点から書かれた刺
激的な本だった。
『リハビリの夜』熊谷晋一郎
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2013年03月04日

本を買うことと読むことのあいだ

暮れにKindleを入手、「データを買って読む」というスタイルも特別なことではなくて日常的な読書の手段のひとつになってきた。で、気になってきたことがひとつある。

欲しい本が出てきたり、SNSやWeb上で面白い本の話題を見つけると、とりあえずAmazonで検索してカートに入れて、「欲しい本メモ」がわりにしているのだけれど(その後、リアル書店で買う場合もある、他のネット書店で買うこともある、図書館で借りることもある、図書館の予約を入れてカートにも残しておいて、なかなか回ってこないなあ、買うかなあ、なんてのもやる……もういいって?)、Kindleは、カートがなくて1Clickですぐに買うという買い方しかない。

しかたがないので、Kindle本は「ほしい物リスト」に登録してメモしているけれど(正しい使い方はこっちなのかもしれないね)、どうもしっくりこない。なんでこの「カートがないこと」にこんなに戸惑うんだろうと考えていたら、「本を買う」ということと「本を読む」ということが別の「楽しみ」として私の中に成立しているからじゃないかと思い当たった。

もちろん本は読むために買う訳なんだけども、買ってきて(配送されてきて)、積んで「おー、読むのが楽しみだー」と楽しむときってのがあって、その前の段階として、「購入候補」の本の中から、「どれにしようかなあ、やっぱりこれはいち早く読みたいよねえ、季節的にはこれとこれかなー」と、選ぶ楽しみがある。

欲しい本を表示させて、即Kindleに送って読むってのは、その楽しみの分が減っちゃうような気がするわけで。
Amazonでは「1分以内にKindleで ○○○ をお読みいただけます。」なんて宣伝文句も出てくるわけだけど、ちょっと時間をかけて買うのを楽しんで、読書タイムになったら本を読んで楽しむ、なんてペースがまだまだ私の習慣らしい。
「新幹線に乗る前に駅の本屋さんで今から読む本を選ぶ」ようなシチュエーションでしか、私には「買う→即読む」てことがなかったのだろう。
そういえば、これはまだKindleを買う前に、移動中に持ってた本を読み切ってしまって、退屈して、iPhoneで200円くらいで短編を落として便利だったことがある。そういうある種の慌ただしさを連想させてしまうのかもしれない。とはいえ、まあ、「買う→即読む」のペースの「本の買い物」にもすぐに慣れるのだろうと思う。


そんなこんなで、「今読む本を今ダウンロード」というスタイルは、私がしょっちゅうやってる「積ん読」を避けるスタイルでもある。しかし本屋さんとしては「積ん読」してもらわないと困るところもあるんだろう。
Kindle本は期間限定の値下げなんてのもやってて、「今は読む時間ないけど、安くなってるし、今のうちに買っとこう」という罠(?)をしかけはじめた。買ったけどまだ読み切っていない本がセールで大幅に値下がりしていると、妙に損した気分になって、「いつ買ったら得か」ていうジリジリした焦燥感が本の買い物に持ち込まれるのも、なんだか落ち着かないと思う。これもそのうちに慣れるだろうか。

そういう周辺のあれやこれやじゃなくて、購入を考えている人にとって大事な話題といえば、Kindleの読み心地。
それについては、1冊の本をはじめから終わりまで読み切るのには、紙の本の感覚と全然変わらないと思う。ただ、途中でちょっと前の方の内容を確認したくなったようなとき、数ページをペラペラめくって戻って読む、というようなことがしづらい。このあたりがもうちょっと使い易くなってくれると、持ち運びが重くなくて暗いところでも読めて、紙の本の便利さを超えるんじゃないかなあ。


posted by chiyo at 18:15| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月03日

おうちでフランス映画祭

2月17日まで、ネット配信で最新フランス映画が観られる
「My French Film Festival」開催中。
日本語字幕もついてます。

出不精な私には嬉しい企画。という割にはまだ1本しか観ていないのだけど、
主演がカリン・ヴィヤールなら面白そう! と選んだ
『Parlez-moi de vous』(やさしい語りで)
とてもよかった。おすすめです。

素顔は謎につつまれたラジオの人気パーソナリティ・メリナは、
誰にもかかわらずにひっそりと暮らしている。潔癖症で人と握手をするときも手袋を外さない。
そんな彼女が、興信所に頼んで探し当てた生みの母に、素性を隠して近づいて、
リスナーの悩みには歯切れのよいアドバイスを送っておきながら、
素顔では自分の内にこもっていた彼女の身に、少しずつ変化が……

母娘再会の感動ドラマは期待したらダメですよ。
自分の内にこもりきって、自分をひたすら守ってる彼女には、
私は自然に感情移入してしまって、
結末は少し苦めだけれど、
苦めだからこそ、鑑賞後にしみじみと浸ったり、
今後に希望が持てるように思えたのでした。

「My French Film Festival」のサイトからだと、
長編のレンタルは1.99€(230円くらい)で、見始めてから72時間見られるのだけど、
「王政時代のネット回線でも使ってるのか!」てくらいにブチブチ切れてストレスがたまるので、
iTunesストアから長編1本300円(見始めてから48時間以内)で借りる方が快適です。
(iTunesのアカウントがあれば)映画祭の利用登録をする必要もありません。

今は、2本目の『De bon matin』(早朝に)を観ているところ。
これも、ジャン=ピエール・ダルッサン主演なら面白いかも。で選びました。



posted by chiyo at 13:04| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | その他映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月10日

No.255 君のいないサマーデイズ

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欧 州 映 画 紀 行
              No.255   13.01.10配信
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★ まぜこぜの人間模様を間近に眺める快楽 ★

作品はこちら
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タイトル:『君のいないサマーデイズ』
製作:フランス/2010年
原題:Les peties mouchoirs 英語題:Little White Lies

監督・脚本:ギョーム・カネ(Guillaume Canet)
出演:フランソワ・クリュゼ、マリオン・コティヤール、ブノワ・マジメル、
   ジル・ルルーシュ、ジャン・デュジャルダン、ロラン・ラフィット
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■STORY&COMMENT
毎年そろってバカンスに出かける旧知の仲間たち。家族がいれば配偶者や子ど
もたちもいっしょに。恋人がいればいっしょに。そんな彼らだが、今年の夏は
仲間の一人が交通事故で重傷を負って入院してしまった。
「少しでもそばにいたい」「でも集中治療室で面会できるわけじゃない」など
など意見が分かれ、「じゃあ1カ月の予定を半分にしよう」との折衷案で、海辺
へ繰り出す……。

前回、年末にとりあげたギョーム・カネ監督作品、引き続き。
昔はね、同じ監督の作品は1年、少なくとも半年は取り上げない、なーんて縛り
をつくってこのメルマガやってたもんですよ。最近じゃ、同じ監督だろうが同
じ国の作品が続こうが、出すことが第一! 

おまけにバカンス映画ということで、季節外れではあるけれど、とても気に入っ
たから、ぜひ取り上げたいと思った。
と思ったものの、ちょっとこれで書くのは難しい。ストーリーらしいストーリー
はないし、群像劇で登場人物の関係がわかりにくいところも多い。ネットで検
索してみると「何がいいたいのかわからなかった」「あの結末はなんだ」といっ
た文句も見かけた。まあ、その意見もよくわかる。おまけに2時間30分以上とい
う観はじめるのに覚悟のいる長さ。
その長さに怯んだ私だったけれど、「半分ずつか3回に分けて観ればいいか」と
再生ボタンを押して、いやいや、全然中断なんてしようと思わず一気に観ちゃっ
たんだ。

レストラン経営で成功したマックスは、バカンスの別荘や食費を提供して皆を
招待する形になっているが、しじゅう「仕事人間」特有のイライラを振りまい
ている。そのイライラには実は、数日前にヴァンサンから「君の手が好きだ」
とゲイのような(本人はゲイではない、と言っているが)告白を受けたせいも
含まれる。マックスとヴァンサンはケンカでもしたのかと、仲間たちは気にし
始める。
マリーは、どうやら事故で入院中のリュドとつきあっていたことがあるらしい。
しかし今は、いろんな男をとっかえひっかえの生活だ。
エリックは、恋人のレアが来ないことを皆には「仕事が忙しくて遅れてる」と
説明するけれど、実はうまくいっていないらしい。
アントワーヌは崩壊危機の恋人からのメールを皆に見せて「他の人には内緒」
と相談しまくっている。

それらのちょっとしたイライラや隠しごとは、夏のバカンスのバカ騒ぎにかき
消されたり、いつまでもくすぶっていたり。バカンスを過ごすうちに解決され
るものもあれば、なあなあになっているものもあるし、ひょっとしたらより悪
く着地したか?というものもあって、一方できっといい方に向かっていくんだ
ろうな、と希望を指し示して終わるものもある。
何かがはじまって、何かが終わって、という整然とした物語とはかけ離れてい
るから「何がいいたいの?」という感想も出てくるだろう。

でも、じたばたしてる人間たちの姿を間近で眺めているのが私にはとても心地
よい。整然としないからこそ、彼ら一人ひとりに愛着がわく。
彼らが何をしている人なのか、関係性がわかりづらくて入り込みづらいという
感想も見かけたけれど、長年の友人関係って、仕事を何しているとか、今誰と
つき合っているとか、そういうことをいちいち気にしないというか、そのこと
でいちいち関係が変わらないものじゃないだろうか。そんな関係性を、これま
た間近で眺めているのが楽しかった。
苦くて辛いものもあるのだけれど、最後に集った彼らの一人ひとりを見て、自
分のなかの何かが洗われたように、彼らと等しい涙を流したように、錯覚でき
る作品だった。

■COLUMN
この作品を観ていて思いだした映画がある。『愛する者よ、列車に乗れ』とい
うパトリス・シェロー監督の1998年の映画だ。

カリスマ性のあった画家が死去し、その遺言に従って葬儀に赴く縁者たちが、
列車の中、葬儀の会場でと、いろいろに人間模様を展開する。ぐちゃぐちゃと
した群像劇で1本通ったストーリーがなく、登場人物の関係を把握するのが難し
く、でも観ていると最後に不思議な開放感と高揚感につつまれる作品だった。

DVDが発売されたらすぐ買いたいくらいには好きなのだけど、やっぱりこの作品
も「訳わからん」といわれて評判はよくなかったように思う。というわけで
DVDが出ることはないんだろうなあ。テレビで放映していたのを録画したものは、
あのDVDがごっちゃりと入っている棚にはあるはず、だけど。

……話がそれた。
この作品を思い出したのは、上述のように作品スタイルや観た後の感じが似て
いること。もう一つは、テレビで放映されたこれを観ていたら、出演者のクレ
ジットに「ギョーム・カネ」と出てきて、「え、どこに出てたの?」と慌てて
戻して確認したことの印象が妙に強く残っていたからだ。
結局「ヒッチハイクの若者」という、今の状況を第三者に説明してわかりやす
くするシーンをつけ加えるために作られたようなチョイ役で出演していて、そ
のころ彼はまだ駆け出しだったのだろう。私がテレビで観たそのときには、す
でに主役を張る有名俳優だったから、驚いたのだ。

なかなか観られる機会は少ないと思うけれど、『愛する者よ、列車に乗れ』、
この『君のいないサマーデイズ』を気に入った人はきっと気に入るんじゃない
かと思う。

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★DVD
『君のいないサマーデイズ』(DVD)¥3,182
http://amzn.to/VEv840

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