2015年10月11日

No.264.48 ご無沙汰特別号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.264.48   15.10.12配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

ご無沙汰しております。配信しなくっちゃ、しなくっちゃと思いながら、なかなか体勢が整わず、前回の配信から早5か月近く、ひょえーー。
半年配信しないと、「まぐまぐ」さんから休刊だったか廃刊だったかの扱いにされてしまうので、取り急ぎ、時間稼ぎ…じゃなくご挨拶がてら特別号の配信です。(「メルマ!」の規則はわからない)

私の近況といえば、最近引っ越しをいたしまして、ずいぶん長い間過ごしていた街を離れて、新しい生活がはじまりました。といっても同じ東京都内、電車で15分くらいの距離なので、生活ががらりと変わったというわけではありませんけど。

かつて配信した中で、引っ越しにまつわるお話はなかったかしらんと、考えてみましたが、ちょっと思いつかず。ただ、ラストが引っ越しシーンで、その引っ越しシーンが、キラキラとまだ見ぬ未来への期待に満ちていた映画を1本思いだしました。いきなりラストから語るというのも少々無粋ですが、このメルマガの記念すべき0号『猫が行方不明』の回です。

当時、「まぐまぐ」でメルマガを始める場合は、「ウェブサイト」を開設して、そこに、配信するメルマガのサンプルとなる原稿を掲載して、承認を受けるというシステムでした。2004年当時は、ブログなんてお手軽なものはありませんでしたから、「ゼロからできるホームページ」的な本を最初の10ページくらい読んで、サイトを作ってなんとか承認にこぎつけたのです。私のサイト作りの知識はそこで止まっています。

なので、この号はメルマガの最初の原稿ではありますが、一度も配信はしていないものです。
今読むと、ずいぶんとカタいというか、どう書いたらよいのか緊張して書いている感じがひしひしと伝わってきて、とても居心地が悪いですね。
あれやこれや、時が経つうちに、人生全体にずいぶん捨て鉢になってきたこの頃、愛する街を記憶にとどめたいなんて、もう言えないだろうな、そんな初々しさも。

小ネタとしては、今ではフランス映画の大スターとなったロマン・デュリスがまだ無名の頃、ちゃらいドラマーの役で登場しています。
そして、この映画ができた頃、この原稿を書いた頃には、想像もできないほどに、ITのサービスが進んだ現在、監督のセドリック・クラピッシュのInstagram(写真投稿のSNS)はおすすめですよ。
https://instagram.com/cedklap/


今週の作品はこちら
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タイトル:「猫が行方不明」
制作国:フランス/1995年
スタッフ
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ギャランス・クラヴェル、ジヌディヌ・スレアム、ルネ・ル・カルム
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■STORY
パリ11区の古いアパルトマン。クロエはゲイの友達と部屋をシェアして暮らしている。メイクアップ・アーティストと肩書きはカッコイイけれど、仕事の内実は理不尽にこき使われる下働きだ。そんな彼女も今年は3年ぶりに夏のバカンスを楽しめる。目下の心配事は、旅立つ前に、飼い猫“グリグリ”を預かってくれる人を見つけなくてはならないこと。人づてに聞いて見つけた猫好きの老婦人マダム・ルネにグリグリを預け、いざ、海へ。楽しいバカンスを過ごしてパリへ戻ってみると…、グリグリが行方不明! 気っ風のいいマダム・ルネも、「猫に逃げられるなんてはじめてだ」とすっかり意気消沈してしまっている。マダム・ルネのお仲間の老婦人部隊、近所の若者衆が動員され、グリグリ探しがはじまる。

■COMMENT
「いなくなった猫を探す」。シンプルな物語だけれど、そこに表れる微妙な心理がおもしろい。

今まで何の交流もなかった近所の人々といっしょに行動をするうちに、クロエには見慣れた風景が少しずつ違って見えはじめる。周囲にいろんな人がいることや、自分が案外孤独を抱えていることに気づくのだ。職場でも、プライベートでも、何かが足りないような気がしている人、自分自身のちょっとしたことに気づけないでいる人は、自分自身を含めてまわりにたくさんいるのでは? だから、見ている側はクロエや彼女のまわりの人物にに感情移入もできるし、「こういう人いるいる」と楽しむのもいい。ユーモアあふれる会話には思わず吹き出すことも。

私はなぜだか、猫探し友だちとなった老婦人が、用事もなくクロエに電話してしまいクロエに煙たがられるシーンに、共感を覚えた。老婦人は新しい友人に何となく話したかっただけ。笑っちゃうような、笑い事では済まされないような、もどかしさを孕んだ共感。おばあさま方から見たら充分に今どきの若い人である私には、それをうるさがるクロエの気持ちも身にしみてわかってしまうのだ。

舞台となったパリ11区、下町風情のあった地区がファッショナブルに変貌していく途上の風景は、観光旅行とはまた違ったパリの街を垣間見られる。「地上げ」で次々と住民が追い出されたり、いつかの日本の都会の風景にも似ている。
原題“Chacun cherche son chat”(“シャカンシェルシュソンシャ”早口言葉っぽい)は「皆それぞれ自分の猫を探している」の意。見る人も自分の探しものに気づくことができるやもしれない。果たしてグリグリは見つかるのか、は見てのお楽しみ。


■COLUMN
「猫が行方不明」でも、「この店は、前は楽器店だったのよ」などと言いながら街を歩くシーンが登場するが、街はいつも姿を変えている。しょっちゅう歩いて見慣れた街なのに、ある日「あれれ、こんなとこにこんな店あったっけ」と思うことがしばしばだ。そしてその次に来るのは「前、何だっけ?」。
なくなった店が、何十年も続いていたおそば屋さんだったりしたら、「おじさん、やめちゃったのねー」と感慨にも浸れる。だが、その記憶もなじみつつある新しい風景に駆逐されてしまうかも知れない。ここ2年で4軒目だね、なんてところなら、間違いなく、前の店を覚えてはいない。
そんなことを繰り返しているうちに、感覚が鈍くなり、何ヶ月かで入れ替わる風景など、最初から記憶にとどめなくなる。忘れたのではなく、最初から目に入れてすらいない。よくも悪くも街は次々変化する。変化は止められなくても、自分が愛する街なら、記憶にくらいはきちんととどめておきたい、と思う。

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★DVDはどれも中古でプレミアムがついて高いですが、一応。

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2015年05月17日

No.264 100歳の華麗なる冒険

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欧 州 映 画 紀 行
               No.264   15.05.17配信
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★ 百年の荒唐無稽 ★

作品はこちら
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タイトル:『100歳の華麗なる冒険』
製作:スウェーデン/2013年
原題:Hundraåringen som klev ut genom fönstret och försvann
英語題:The Centenarian Who Climbed Out the Window and Vanished

監督・共同脚色:フェリックス・ハーングレン(Felix Herngren)
出演:ロバート・グスタフソン、イヴァル・ヴィクランデル、
   ダーヴィッド・ヴィーベリ、ミア・シャーリンゲル、
   イェンス・フルテン
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■STORY&COMMENT
スウェーデンの田舎町。アランは老人ホームで100歳を迎えた。ホームの職員たちが忙しく誕生日パーティーの準備をする中、一人部屋で考え事をするアランだったが、ふと思い立ち、部屋の窓から抜け出してあてのない旅をはじめる。
行き着いたバスターミナル。風体のよくない若者にスーツケースを持たされるが、発車ベルに急かされてアランはそのままバスに乗ってしまう。しかし、このスーツケース、どうも大変なシロモノらしく、ギャングに追われる身に……

いやいや、賛辞としての「荒唐無稽」がたっぷりつまった楽しい映画だった。何度も声を出して笑ってしまった。

消えたスーツケースを追って、少々頭の足らないギャングたちが、アランの行方を必死に探し回る、その展開と交互に、アランが生まれてからこれまでの人生を振り返るシーンが挟まれていく。
はじめは、「100歳になって認知や判断が遅くなったおじいちゃん」くらいに思っていたところが、その人生を振り返るや、スペイン内戦、第二次世界大戦、東西冷戦、現代史のあらゆる重要なシーンに、ひょんなことからひょこひょことひょうひょうと顔を出す仰天な人生なのだ。

ギャングとの追いかけっこにしろ、アランの生涯にしろ、そこで繰り広げられるユーモアは、かなりブラックだ。だから観客を選ぶ作品だとも思うが、私は、ここまで荒唐無稽にスケールを広げてくれるおかげで、散りばめられたブラックなシーンを楽しく笑い飛ばせた。

原作本はスウェーデンでミリオンセラー、40ヵ国以上で800万部売れた新人作家の小説だそうだ。日本でも売れ行きが好調で、翻訳しているのは、難解な作品の翻訳を好むという、あの柳瀬尚紀氏だというから、原作本も読んでみようかと思っている。
映画の中では、時間の進みがおかしくないかなと思われるところがあって、それが映画用に短縮した結果なのか、それとも、そのくらいのゆがみはユーモアの一部として描かれていたのか、気になるところもあるから。

■COLUMN

ブラックユーモアが満載と言ったが、スウェーデン語がわかったら、もっともっとブラック度はきついのではないかと想像する。

それが、ただの悪ふざけに終わっていないのは、アランが生まれてからの100年の歴史を振り返るという設定が、観る者の知的好奇心を刺激することが大きいだろう。
今ここにある時代とダイレクトにつながっている現代史は、無条件に人の行いの愚かさや哀しさに思いを馳せやすい。当のアランはまったくそんなものは纏っていないし、時の権力者の描かれ方は滑稽そのものなのだが、100年の歴史絵巻にはそこはかとないペーソスさえ感じられる。
観客は、繰り広げられる歴史に、自分の中にある知識や感情を何となく重ねて、そこに哀しみや皮肉を見て、時に教訓さえ引き出すことができるかもしれない。
うまく作られた物語装置だと思う。

テンポよく進む悪ふざけたっぷりのコメディにガハハと笑いつつ、知的好奇心をくすぐられながら、自分なりに思う歴史の哀感に浸れる、お得な一本だ。

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★DVDとブルーレイ、原作本

『100歳の華麗なる冒険』DVD ¥3,051
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『100歳の華麗なる冒険』Blu-ray ¥3,754
http://amzn.to/1GejOWT

原作本『窓から逃げた100歳老人』¥1,620
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価格は2015年5月16日現在のアマゾンでの価格です。
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2015年01月07日

No.263 ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区

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欧 州 映 画 紀 行
             No.263   15.01.06配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
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★ 難しきヨーロッパ、楽しきヨーロッパ ★

作品はこちら
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タイトル:『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
製作:ポルトガル/2012年
原題:Centro Histórico 英語題:不明

監督:アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)
   ペドロ・コスタ(Pedro Costa)
   ビクトル・エリセ(Víctor Erice)
   マノエル・ド・オリヴェイラ(Manoel de Oliveira)
出演:イルッカ・コイヴラ
   ヴェントゥーラ、アントニオ・サントス、
   リカルド・トレパ
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■STORY&COMMENT
ヨーロッパの名監督4人によるオムニバス作品。

EUには、指定された1年間、集中的に各種文化プログラムを展開する「欧州文化首都」という事業がある。2012年、ポルトガル北西部の小さな町「ギマランイス」が指定都市となり、この事業の一環として制作された映画である。
ギマランイスは、1143年にポルトガル王国が誕生した際の初代国王アフォンソ1世の生地で、最初の首都、ポルトガル発祥の地と呼ばれる。謎の邦題はここからつけられたらしい。

ギマランイスは、古都らしい趣きのある街並みが旧市街に残されていて、これは世界遺産にも登録されている。
この町の文化事業の一環で作られた映画であれば、雰囲気ある街並みをふんだんに使った作品となりそうなものだが、そうはいかない。それが「ヨーロッパ」らしさでもあるだろうか。

1話目は、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督による『バーテンダー』。向かいのよく流行っているカフェが気になる、古くさいカフェの主人の物語。一言の台詞もないけれど、どことなくおかしさが漂う。この作品には、カフェのある古い街並みが見える。
私は知らなかったが、カウリスマキ監督は長年ポルトガルに住んでいるのだそうだ。

2話目は、ポルトガルのペドロ・コスタ監督の『スウィート・エクソシスト』。4つの中で最も不思議な作品。監督は、ギマランイスをテーマにいかにギマランイスで撮らないかにこだわったといい、シーンの大半は、精神(おそらく)病院のエレベーター。移民の男が、兵士(の亡霊)と語り合う会話劇だ。独裁体制を終わらせた1974年のカーネーション革命がテーマになり、ポルトガルと一人の貧しい男の歴史を振り返るような内容だ。ポルトガルの歴史をもう少し知っていたら、楽しめそうなのだけれど。

スペインのビクトル・エリセ監督の『割れたガラス』が3話目。かつてはヨーロッパ第2の紡績工場として発展したが今は「割れた窓ガラス工場」と呼ばれる工場跡地で、その工場で働いていた人々が自身の人生や工場での体験を語る。
4つの中では私はこれがいちばん好き。「ポルトガルでの映画のテスト」とされ、オーディションのように「普通の人々」が何でもない普通の人生の一コマを話す。人にはそれぞれ色んな人生があるという当たり前のことが、ズドンと響いて、この「オーディション(カメラテスト)」から、さらに新しい映画が作られたら、ぜひ観てみたいと思う。

4話目にはポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラが登場。『征服者、征服さる』は、ギマランイス地区への観光客へのガイド風景が描かれる。
町の一角にあるカフェから、狭苦しいエレベーターで内なる声を聞き、往時の人生を眺める旅から、明るい外の世界、しかも「観光」というわかりやすい風景に一気に連れ出される、きれいな4話構成だ。ただの観光風景にならないユーモアが「町を描く」作品としてうまく締められている。

■COLUMN
メルマガを書くことはもちろん、映画を観ることからもすっかり遠ざかってしまっているこの頃。
「メルマガもそろそろ新しいのを書きたいな、何かいい映画はあるだろうか」とレンタル店へ向かったが、棚を見ても、何を観たらよいのかさっぱりわからないのだ。頻繁に観ていたときなら、タイトルで「ああこれこれ」と内容やら出演者やら、どこか情報が頭に残っていてピンとくることもある。公開時に話題になっていたことを思いだすこともある。しかし最近は、映画公開の話題からも離れてしまっていて、ぼんやりとした情報も頭に残っていない。

とりあえず「ミニシアター」の棚で見つけたこの作品、観たことのある監督名が並んだ「オムニバス」(ペドロ・コスタ監督だけは初だったが)、EUの文化事業で撮られたという「欧州っぽさ」が、すっかりご無沙汰したメルマガ筆者の映画リハビリにはいいんじゃないかと選んでみた。

このチョイス、ギマランイスという未知の町を知ることになり、そしてだからといってその町の風景をふんだんに見せられるわけじゃない「ヨーロッパ映画」の非単純さ、そしてそれについてあれこれ考えることができたという点で当たりだった。
ただ、軽く流して楽しめる簡単な作品ではないことは事実。ああだこうだと考えすぎたところもあって、「リハビリ」のレベルには少しハードだったともいえる。ストーリーでぐいぐい引っぱって行かれる作品を観た方が、「リハビリ」にはふさわしかったかもとも思う。

ともあれ、この作品、そうそうたくさん町が映っているわけでもないのではあるが、やっぱりこの舞台(テーマ)の町を強く意識させる、そのギマランイスという町を知るのにもよし、オムニバスの楽しみ、4つの個性ある作品から、ウマの合う監督を探すのにもよし。
そして、この作品全体で、私が最も気に入ったのは、てんでバラバラに見える4作品が、最後の『征服者、征服さる』を観て、グレン・グールド演奏のなぜか知らないが『イタリア協奏曲』がかかるエンドロールに入ると、うまい流れを見せた4作品に思えて、心がスルッと開放される気になるところ。

理屈抜きで楽しみたいときには向かないけれど、小理屈をこねたいときには、ぜひ。

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★DVD
『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』
¥ 3,427
http://amzn.to/1BtSSPB

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2014年09月06日

No.262 風にそよぐ草

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欧 州 映 画 紀 行
               No.262   14.09.06配信
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★ タイトルに込められた意志とは ★

作品はこちら
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タイトル:『風にそよぐ草』
製作:フランス・イタリア/2009年
原題:Les herbes folles 英語題:Wild grass

監督・脚本:アラン・レネ(Alain Resnais)
出演:サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、アンヌ・コンシニ、
   エマニュエル・ドゥヴォス、マチュー・アマルリック
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■STORY&COMMENT
マルグリットは靴屋で楽しい買い物をした帰りに、バッグをひったくられた。その、お金が抜かれて捨てられていた財布を拾ったのは、初老の男性・ジョルジュだ。ジョルジュは、中にあった自家用機操縦免許証の写真を見て、その
「マルグリット・ミュイール」という女性に惹かれ、人となりを勝手に妄想しはじめる。
電話帳で調べて直接連絡しようか、警察に届けようか、いろいろ考えあぐねて警察に届け、マルグリットからは、お礼の電話がかかってくる。すっかりいろいろな妄想をしていたジョルジュは、「お礼だけ」の事務的な電話にがっかりして無礼に電話を切ってしまう。それを後悔して今度は手紙を届けることにして……

今年亡くなった、アラン・レネ監督の作品。そんなに多くの作品を観ているわけではないけれど、作品ごとにスタイルやトーンが変わって、面白い映画作家だと思っている。
それだけに、今度は何をやってきているんだろうと、身構えながら観てしまう作家でもある。
この『風にそよぐ草』も、真面目にやってんだか、人をからかってんだか、なんだろう、これは。という「なんだかちょっと変わった作品」というのが、第一印象。

まず、脇役が豪華すぎる。
ジョルジュが財布を届けたときに応対して、その後ジョルジュの行きすぎた行動を注意しにくる警官がマチュー・アマルリック。マルグリットの親友の同僚がエマニュエル・ドゥヴォス、物静かで美しいジョルジュの妻がアンヌ・コンシニ。こんな豪華な役者を使ってるんだから、重要な絡み方をするんじゃないかと、邪推してしまう。邪推する方が悪いんだけれど。

その上、この皆60年代の生まれである脇役が、マルグリット役のサビーヌ・アゼマとジョルジュ役のアンドレ・デュソリエ(二人とも40年代生まれ)と同じ世代のように描かれては、フランス映画をよく観る者にとっては人間関係の把握が難しい。どうもアラン・レネさんは、ご自分の奥様であるサビーヌ・アゼマがものすごく若い人だと思っているフシがある。

ジョルジュには、どうやら前科があるらしいことがほのめかされるが、詳しいことは明らかにされない。そんなジョルジュが、財布を拾った相手にストーカーじみた行動をしはじめるのだから、何か恐ろしいことになるのかと思いきや、はじめは困っていたマルグリットも何だか気になるようになってしまう、その物語展開も、人を食ったように思えて「真面目にやってんだろうか、いやそりゃあ真面目にやってるんだよね」と、気になるから原作の小説も読んでしまった。

そしたら、これが驚くほど原作に忠実。いくつか省かれているシーンはあるけれど、突き放されたような結末も、前科のほのめかし方も原作通りだった。

ちょっと変わった恋愛を、切なく描くというには、心理描写がわかりにくい。
日本のプロモーションでは、中年の男女にふいに訪れた素敵な恋愛のように宣伝されていたようだけれど、それもちょっと違う。
邦題にはさわやかな風が吹いているけれど、原題は(直訳すれば)「狂った草」。生い茂った雑草を意味する。映画の冒頭には、アスファルトの割れ目から生えている草が映し出され、本来なら生えない場所からどうしようもなく生えてくる様子は、どうしようもなくわき出してしまう感情や、正しい場所に収まって生きられない人生を、表しているようだ。

原作は、「できごと」くらいの平板なタイトルであり、かなり原作に忠実に作っているのに、このタイトルだけは大幅にトーンを変えた、そこには作り手の意志表明を感じる。

結末をどう解釈するのか、これはたぶん観る人によって違う。普通じゃない
「狂った」恋愛は、考え始めれば底なし沼に沈んでいくような悲劇性と、他人事だからなんだか笑ってしまう喜劇性が同居していて、「○○な映画を観た」とすっきり言えない落ちつかなさがある。
だけどその分、いつまでもいつまでも、ああでもないこうでもないと考えてしまう、尾を引く映画である。

■COLUMN
上の原稿が長くなったので、少しだけ。
アマチュア飛行家であるマルグリットの操縦する飛行機から眺める草原のグリーン、空のブルー、町の映画館のネオン、場面ごとにメインテーマが異なって見せているところも面白い。「美しい」映像というよりは「面白い」と私は感じた「映像美」である。

決して全体の統一感がないというのではなく、いろいろなスタイルとトーンで映画を作り続けたレネの「スタイル」らしく、舞台の背景やセットが変わって場面が転換するように、個々のシーンを、異なるトーンとスタイルで作り込んでいる。何度も観ればその度に発見がありそうだ。

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★DVD
『風にそよぐ草』
¥ 4,213
http://amzn.to/WtkmE1

価格は2014年9月6日現在のアマゾンでの価格です。
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2014年06月14日

No.261 危険なプロット

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欧 州 映 画 紀 行
             No.261   14.6.14配信
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★ あやしくミステリアスに、不遜に ★

作品はこちら
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タイトル:『危険なプロット』
製作:フランス/2012年
原題:Dans la maison 英語題:In the House

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、
   エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウアー
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■STORY&COMMENT
高校のフランス語教師のジェルマン。生徒達に作文の宿題を出すが、「ピザを食べてテレビをみた」「親に携帯を取り上げられた」……、真面目に取り組む気持ちもなく内容もくだらない作文の山に辟易としていた。しかし、クロードという生徒の作文だけは違う。しっかりとした文章構成、文末に「続く」とまで書かれ、先の気になる内容、ジェルマンはクロードの文才に惹かれ、個人授業をするようになる。
クラスメートの家庭に入り込み、生活を皮肉に観察し、やがて家庭の秘密まで暴き、家庭の中を少しずつ引っかき回していく様を書いていくクロード。ジェルマンは文才を伸ばしたいというだけでなく、続きが読みたい欲望にもかられて、クロードとの物語づくりにのめり込んでいく。


ジェルマンが初めて読んで驚くクロードの作文は、数学が苦手な同級生ラファエルの家に宿題を手伝いに行った日のことが書かれている。

夏のあいだ、彼の家を眺めていて一度入ってみたかった、数学の宿題はもちろん口実だ
入ってみたいと想像していた家の中を歩き回り、観察する
彼の母と顔を合わせて、「中産階級の女の香り」と皮肉る

同級生やその母親を皮肉な目線で見て、うそをついて入り込んだことを臆面もなく表明する。そんな不遜な内容だ。
しかし、不遜だからこそ、読む方はつい惹かれる。「続く」の一言に、楽しみにさえしてしまう。

そして、善良でごく普通の生徒であるラファエルと、ブロンドの美しいクロードという対照的な様子も、あやしさを醸し出し、眺める者に居心地の悪さや何かが起こるかもしれないという思いを起こさせる。美しい上に、人の心を見透かすかのようなクロードの目線も気持ちがざわつく。

「続く」の後に提出された二度目の作文では、

ラファエルに合わせて、いかにも若者の会話をしてみたこと
インテリアに熱中するラファエルの母の俗っぽさを描き、体型を「中産階級の曲線」と表現したり

と、皮肉な視線は続き、

続く作文では、バスケが好きでどことなく脳天気な父親が登場。仕事で関係しているために中国に詳しいことを会話のはしばしにはさむ、通俗性が描かれる。

どこにでもある普通の家庭、脳天気でこぢんまりとした通俗的な生活を、斜に構えた皮肉な目線で描いていく。
教師であるジェルマンも、観客も、そんな通俗的な普通の家庭を小バカににした目線に、どことなく共感し、その背徳からも、もっともっと読みたいと思ってしまう。だいたいこんなフランス映画を喜んで観る輩は、少なからずそんな意地悪な目線を持ってるんだと思う、うん。

そしてとある事情からラファエルの家に遊びに行けなくなって、「あの家に入らなければ書けない」と家に上がり込むことになぜか執着するクロード。その目的のわからない執着もあやしく感じられる。

どこまで深く入り込んでいくのか、どこまで辛辣に目線を向けるのか、そしてそんな風に他人の家に入り込んで、どうしても作文を書きたいクロードの目的は……と、不遜に背徳的に観客の目をそらさせない、あやしわがたまらなくおもしろい作品である。

■COLUMN
人間というのはなんと言葉に支配されて生きているのだろう。

この作品で、ずっしりきたのはそのことだ。

クロードが書いた作文の内容は、クロードによる朗読に合わせて映像化されて描かれるが、結局のところ、作文に書かれたことが真実なのか否かは、わからない。クロードとジェルマンが話し合い、作文を練り直す過程で、ああでもないこうでもないと、内容が変えられるシーンもあって、明らかにフィクションと知らされるところもあるが、実際のところ、クロードとラファエル家族に何があったのかは、ミステリアスに放置されるままだ。
ひょっとしたら最初から最後までフィクションかもしれないし、最初は本当のことが書かれていたけれど、だんだんフィクションが混じったのかもしれない。

うすうすそれを感じていながらも、ジェルマンはクロードの作文に書かれたことを本当のことと受け取り、ラファエルを見ていて、クロードの作文で表現された世界の中で、ラファエル一家を認識する。

実際に見たわけでないことも、言葉で聞かされてイメージを作り出し、それはやがて自分自身の現実の世界に影響を及ぼしていく。
この作品のラストの状況も、果たして、クロードの紡ぎ出す「言葉」がなかったら、こうなっていなかったのではないか。

実際に見ないことも言葉では表現できて、他者の経験を私たちは共有できる。形に見えないものも、言葉は表現できて、その言葉を使ってさらに私たちは形で表せないことを思考できる。
しかし、気づくと、言葉で紡ぎ出した、現実とは少しずつ違った世界を見て、世界をそれとして行動していることがあるかもしれない。

言葉の背徳とあやしさを考えたくなる作品でもある。

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★DVDとブルーレイ
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2014年04月20日

No.260 タイピスト!

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欧 州 映 画 紀 行
            No.260   14.4.20配信
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★ タイプ早打ちはスポ根で ★

作品はこちら
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タイトル:『タイピスト!』
製作:フランス/2012年
原題:Populaire 英語題:Populaire

監督・共同脚本:レジス・ロワンサル(Régis Roinsard)
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、
   ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ
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■STORY&COMMENT
1950年代フランス。田舎で親の勧める縁談を蹴って都会に出てきたローズは、時の花形職業“秘書”の面接を受ける。採用されたものの、ドジで不器用、決して秘書向きとは言えないローズは1週間でクビの危機に。雇い主のルイは、雇い続ける条件として、タイプの早打ち大会出場を提案する。ローズの唯一の長所・「1本指でタイプの早打ちができる」ことに注目し、ローズと組んでタイプの競技大会で優勝する野望を抱いたのだ。
初出場であっさり敗退したローズだったが、その後、ルイは“雇い主”兼“鬼コーチ”と化して、厳しいトレーニングが始まる……

ルイのローズへの特訓ぶりは、スポ根のそれ。そしてコーチと選手の間に恋が芽生えて、あんまり細かいこといっちゃあ野暮野暮、頭を空っぽにして笑って楽しもうよ、という正統派のスポ根&ラブコメディである。

レジス・ロワンサル監督は、たまたま観たタイプライターの歴史に関するドキュメンタリーで、早打ち大会の様子を見て、興味を持って調査をしたのだそうだ。大きな競技場で観客を集めて行われた大会の記録や、実際の出場者に聞いた、出場へのプレッシャー、ライバルに鋭い視線を向けて威嚇したことなどから、当時の興奮を再現したという。
そんな取材によって描かれた「タイピング大会とその出場者の生活」は、厳しいスポーツの訓練そのもの。皆がラジオにかじりついて地元の出場者の戦況を見守ることも、社会進出する女性のアイコンとして、優勝者がマスコミにもてはやされ人気者になって、なんて構造も、オリンピックで活躍したスポーツ選手のようだ。

原題「Populaire」は、タイプライターメーカーの名前であると同時に、熱しやすく冷めやすい大衆から受ける儚い人気の有り様への、皮肉が少々含まれているのかもしれない。

秘書の面接に行くのに、ばっちり可愛らしくおしゃれをしていって、「秘書っていうのは、髪をひっつめメガネをかけて地味な格好をしていないと採用されない」なんてウワサに慌てふためく(でも、一人だけ可愛らしいから、ルイはうっかり採用しちゃったわけだけど)、ローズが次々と繰り出す50年代ファッションも楽しい。

■COLUMN
2013年の夏に東京で公開された映画。最近は映画館に映画を観に行くこともめったになくなった私が、ちょっと時間ができたしと、友人を誘ってウキウキと観に行こうとした、思い出の(!?)作品だ。
当日、私は体調を悪くしてしまって行けなくなってしまったのだが、ネットで座席をすでに予約してしまっていたから、「お願いっ、私の分も楽しんできて!」と友人を送り出して観られずじまい。DVD化を待ち望んでいた因縁の(!?)作品でもある。

観てきた友人は、感想を詳しく話してくれて、「いい映画を紹介してくれてありがと〜」と言ってくれて一安心だった私だが、そうしていい感想も聞いたこととも相まって「観に行けなかった映画」の評価は、観ないうちにむくむくと膨れあがり、大作品になっていた。

今回、実際に観てみたら、予想以上に「おバカ」な映画だった。それはもちろんいい意味で、観に行けなかったから何となく「いい(つまり《良心的な》)作品」に膨れあがっていたイメージは、実際の作品のはちきれるポップさに壊された。可愛らしくシンプルにマンガチックに、ささやかな幸せと感情の機微がが散りばめられていた。

ほんとは、桜が咲いてぽわーんと暖かくなって、口元がゆるむ頃に観るのがぴったりの映画のように思う。ちょっと季節が遅れて、ゴールデンウィークももうすぐ、むしろ初夏に近いこの頃だけど、連休近きぽわわんとした空気の中で、ぜひ、ポップな正統派スポ根ラブコメを楽しんで!

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2014年03月11日

3年後の3月11日の私、いつも「私」

3月11日ということで、新聞やテレビで特集が組まれたり、
SNSでは、各自が「あの日」を振り返ったり、それぞれ震災が起きた日とその後に思いを持つ日です。

ただ、私は、当日電車の中にいて、そんなに大きな揺れだとは思わず、
家族と離ればなれになるようなこともなく、ケアをしなければならない子供もおらず、
地震後にも、輪番停電もまわってこなかったし、通勤で困ることもなかったし、
3月11日が「私にとって」特別な日として記憶に残っていないのです。
当日のことは、この記事に書いてあります。

もちろん、そのとき何していたかはよく覚えていますが、
それとて、地震の後はしばらくは、人と会えば「あのとき何していました?」と尋ね合うのが習慣になっていて、記憶がしっかり定着したからであって、それがなければ忘れてしまったのではないかとも思います。

2011年に「私にとって」特別な出来事なら、
突発性難聴にかかって大変だったこと(この辺りに書いています)や、
暮れに幼なじみの友人が亡くなったことです。

そして、その後、2012年の終わり頃には、また別の病気をして、そのまま現在に至り、
ここ日頃、私の興味は、だいたい自分の体調にばかり向いています。

というわけで前置きが長くなったけれど、
こうして多くの人々が、大きな災害にそれぞれ思いを馳せている日でも、
私の興味はつねに自分の体調のことにしか向きません。
3月11日は、
そのちまちました自分、
つねに「私」のことばかりに忙しく、他のことに思いを向ける余裕がないでくの坊ぶりが、
情けなくなる日と、なっているように思います。

そんな「私」にばかり忙しい私が、自分のblogを読み返して思うこと。

上にリンクを貼った「3月11日の私」という記事の中で、私は、
「どうか、一刻も早く平穏な毎日を迎えられますように。」と被害に遭った方に向けて書いています。

いろいろなことが混乱していたあの頃には、一刻も早く平穏が訪れることは大切だったでしょう。
しかし、3年が経って平穏が意味するものとは、
急性期の復興が進んで頭打ちになり、望む復興にまでたどりつかないうちに、
じぐじぐと前にも後ろにも進まない慢性的な厄難安定状態とはなっていないでしょうか。

混乱して次々と降りかかる難を逃れ、何とかやっていくのに精一杯なときには、むしろ、
「ここを乗り越えられたら」と、その先を想像することができます。
しかし、何とかなりつつも決してうまくいっているわけではない状態が安定して長く続いていると、
「いつか今を振り返ったとき、そんな時期もあったねえと話せる」ことが想像できない、
永遠にじわじわと沈み続ける、底なし沼の厄難に思えます。

3年が経過した今(それは1年でも2年でも同じだとは思いますが)、
平穏に安定した厄難が永遠に続くのではなく、「何かが変わる」と信じられますようにと私は祈っています。

posted by chiyo at 19:39| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 身辺雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月22日

No.259 クリスマス・ストーリー

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欧 州 映 画 紀 行
            No.259   13.12.22配信
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★ それぞれがそれぞれに抱えて生きているそれぞれ ★

作品はこちら
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タイトル:『クリスマス・ストーリー』
製作:フランス/2008年
原題:Un conte de Noël 英語題:A Christmas Tale

監督・共同脚本:アルノー・デプレシャン(Arnaud Desplechin)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルシヨン、アンヌ・コンシニ、
マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、イポリット・ジラルド、
エマニュエル・ドゥヴォス、キアラ・マストロヤンニ、ロラン・カペリュート、
エミール・ベルリング、フランソワーズ・ベルタン
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■STORY&COMMENT
フランス北部、ベルギー国境に近い街ルーベ。子供たちは独立し、仲よく二人で暮らす夫アベルと妻ジュノン。子供は4人いたが、長男のジョゼフが白血病を患い、家族の誰も適合しなくて骨髄移植ができず、7歳で亡くなるという悲劇があった。40年ほど経ったいま、今度はジュノンが白血病を宣告される。子供や孫たちは、骨髄が適合するかの検査を続々と受けることに。そして、いろいろと折り合いが悪くバラバラだった家族は、クリスマスに、そして母の病に向けて、久しぶりに実家に集まってくる。

劇作家として成功する長女のエリザベート、ファミリーの問題児であるアンリ、繊細で優しい末っ子のイヴァン。アンリは昔から母ジュノンと折り合いが悪く、双方共に嫌いだと言ってはばからず、6年前の金銭トラブルから、エリザベートの頼みでアンリは一家から追放されている。エリザベートの息子ポールは、精神を病んでいて、昔から内気で繊細だったイヴァンは、自分にはポールの気持ちがわかると力になりたい様子。
ジョゼフが骨髄移植を受けられずに亡くなったことが影を落としているのか、各人の憎しみやわだかまりが家族に渦巻いている。そして今新たに、母の白血病と、骨髄移植の適合者はいるのか、という不安とプレッシャーがかかり……という状況。文字にするとずいぶん粘度の高いドロドロのように思えるけれど、それがそういうのとは違うのだ。

はじめは、こんな問題児が家族にいたらそりゃあ大変だろうなあとアンリを見て思うけれど、エリザベートの頑なさも、しばらく眺めていると、あれはあれで窮屈だし、ちょいと行き過ぎているんじゃないかい? と思えて、子供の好き嫌いをはっきり口にするジュノンもすごいが、それに普通に応じているアンリもそれはそれですごいと思う。
はじめて家族と顔を合わせて、「病気、悪いんですか?」とあっけらかんと尋ねる、アンリの恋人も肝がすわっているというかマイペースで、アンリの骨髄なんか移植したらよくないんでは?と本人に尋ねる父アベルも相当だ。

端から見ていれば、一人ひとりが、それぞれ少しずつ(大幅にと言ってもいいけれど)逸脱していて、それでうまくいっていないけれど、かといって壊滅状態ではない。
「皆が本心を隠して仲良しの振りをしている」のであれば、それは前述の粘度の高いドロドロになるのかもしれない。しかし、この作品では、受け止めたくないものは受け止めたくない頑固さで、それぞれ自分のスタイルと意志を貫いて、それぞれが抱え込むドロドロが、各自の中だけにあって他と混ざり合わないために、全体がドロドロにはならないのだ。

何度か、登場人物達が観客に向かって、自分の状況や考えていることを説明する演出シーンがあるけれど、それもこの作品世界を象徴している。それぞれちょっとずつ逸脱した頑固な個人が、孤独と負のあれやこれやを抱えながら、前を向いて生きていく。

果たしてこの家族が仲直りをするか、ジュノンの治療は成功するのか、そういうあれやこれやが解決することを期待して観てはいけない。大きな事件も小さな事件も、それぞれ個人の生きているうちに起こってそれぞれが抱えていく事柄。そしてそれが、ものによっては家族や知人で共有するものになるときもある。そんな一場面を切り取った作品だ。


■COLUMN
ちょっと前の作品。公開当時観たいなあと思いつつ、そのままになってしまっていたのを、レンタル店に行ったら見かけて思いだした。「クリスマス」などシーズン物の扱いをされる映画は、こんな形で後々にも再会できるからいい。

今年(にはじまったことではないけれど)は、メルマガからも、そもそも映画を観るということからも、すっかり遠ざかってしまった1年だった。その主な原因は健康に恵まれなかったことであり、それは今後もしばらく続きそうで、メルマガを続けて行こうか、一度区切りをつけて身軽(というか気軽の方が合っているかな)になろうか、迷った日々でもあった。
年の暮れも押し迫り、たまたま時間と体力に余裕ができて、「何とか今年のうちに1回くらいは出そう」「クリスマス物なんだからクリスマス前に出そう」と、こうして1本書いてみれば、やっぱり映画を観てああだこうだと何かを書くのは楽しくて、こういう場所があるのなら、わざわざそれを手放すこともないよなあとも思う。

健康に恵まれなかったといっても、あまりわかりやすい類の体調の崩し方ではないこともあり、体調そのものだけでなく、今の自分の状況を人に理解されないということに自分で勝手に悩んでいたりもした。
(たとえば、仕事で出張に出かけているくせに、誰かに誘われると「体調が悪くてあんまり外出ができない」と断ったり←意味わからないでしょー(笑))

この『クリスマス・ストーリー』には、それぞれ自分では重大で、苦しいことだけれど、端から見たら「そんな風にしなくてもいいのに」「もうちょっと歩み寄ればいいのに」と思えるようなことを、頑固に抱え続けている人々がたくさん出てくる。彼らを見ていると、理解されようとか考えることは要らないなあと思う。
自分の状況は自分のものであって、それを正確に把握される必要はないし、「意味わからない」と思われようが「なんじゃそりゃ」と思われようが、私は私でそれぞれ抱えているもののなかでできることをしていくしかないわけで、周りは、理解しなくってもいいから、ある程度受け止めて「ふーん」としておいてくれるならそれでいいや、なんてことを思ったのだ。

デプレシャン作品は、「フランス映画っぽいフランス映画」であって、ここに見られる人間関係はお国柄といってしまえばそれまでだけれど、心の持ちようとして、この作品からヒントをもらえてような気もしている。

あまりにも発行間隔が空いてしまって、廃刊措置を講じられない程度に、書けるときには書いていくつもりです。来年もよろしくお願いいたします!

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★DVD
『クリスマス・ストーリー』(DVD)¥ 3,573
http://amzn.to/1cmC2HG

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2013年08月23日

No.258 ブラック・ブレッド

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欧 州 映 画 紀 行
             No.258   13.8.23配信
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★ きゅうきゅうとした生活に苛立つ人に ★

作品はこちら
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タイトル:『ブラック・ブレッド』
製作:スペイン・フランス/2010年
原題:Pa negre 英語題:Black Bread

監督・脚色:アグスティー・ビジャロンガ(Agustí Villaronga)
出演:フランセスク・クルメ、ノラ・ナバス、ルジェ・カザマジョ、
   マリナ・コマス、セルジ・ロペス
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■STORY&COMMENT
1940年代、内戦直後のスペイン・カタルーニャ。少年クレットとその父が荷馬車の事故で死に、クレットの友だちのアンドレウは、クレットが息絶えるのを目撃する。
警察の捜査では殺人事件とされ、左翼運動に関わっていて、以前から目をつけられていたアンドレウの父ファリオルが容疑者となる。
追及を逃れるため父は身を隠し、母は工場で働いて生活費を稼がねばならず、アンドレウは祖母の家に預けられることとなる。
貧しくも、大好きな父と母と、ささやかに夢を見ながら暮らしていたアンドレウだが、大人の事情や目論見に巻き込まれて……

WOWOWで放送されていたものを観たのだが、「スペイン内戦かー、かなり重い社会派ドラマなのかなー」と怖ごわ観てみた。

冒頭から、目をつぶりたくなるような殺人シーンがいきなり始まるけれど、クレットが息絶える前に、アンドレウに「ピトルリウア……」と謎の言葉を残して、さっそくミステリーに引き込まれるから、「これはテンポのいいサスペンスかな」と思って身を乗り出す私。
やがて、祖母の家に預けられ、葉っぱの間から陽の光がこぼれるような森の中、いとこたちと学校に通うアンドレウの姿は、親が窮状にありながらも、少年の夏休み映画のような雰囲気さえ醸し出す。いとこの一人、大人びた少女・ヌリアがアンドレウを気に入った様子には、少年と少女の出会いの夏休みみたいな印象もあった。

が、田舎の村が抱える秘密、大人たちが隠してきた事情、ヌリアの生きる術、そんなものが少しずつ少しずつ明らかになるにつれ、「かなり重い社会派ドラマ」よりさらに思いもしない方向に、重く重く、湿っぽく社会や人間の矛盾、業、辛さをつきつけられることとなった。

というわけで、前置きのような話ばかりが長くなってしまったが、わかりやすくて爽快な物語を欲している時、ドキドキハラハラを楽しみたい時におすすめできる作品ではない。
観終わったらずぶんと沈める時間と心のよゆうがあるときにどうぞ。

「スペイン内戦」ときけばその土地のその時代の特殊な物語と思ってしまう。もちろんそういう部分はたくさんあるし、時代状況への知識や感覚が十分でないために、いまひとつ理解ができていないのだろうなと残念に思うところも多い。
だが、この作品で胸に迫ってくるのは、どこの時代でもどんな境遇でも多かれ少なかれ共有できる大人のもがく姿だ。

社会をよりよくしようと理想を胸に抱き、同時に、医者になりたがる息子(アンドレウ)に将来を手に入れさせようと、貧困から何とか這い上がろうとする父の生き方は、貧乏なアカのバカなやり口と笑うこともできよう。しかし、何かしらやりたいことを持ちながら、何かしら理想とする生き方を持ちながら、生活するためにはその通りには動けぬきゅうきゅうとした気持ちを抱いた人なら、誰もが思い当たる葛藤の生き方だ。

きゅうきゅうとした思いを持ちながら日々を暮らす人には、その源は何か、理想とは何だったのか、思いを馳せるきっかけとなる作品だろう。

■COLUMN
原題の「Pa negre」は、黒パン、ブラック・ブレッドを意味するカタルーニャ語だそうだ。この作品は、内戦後、スペイン国内で長く弾圧されたカタルーニャ語でつくられた映画だ。さらに、国内の映画賞をとり、カタルーニャ語作品としてはじめて、アカデミー賞外国語部門スペイン代表に選ばれた作品だという。

スペイン語とカタルーニャ語の違いがわからないために、きっと作品の大事なポイントをたくさん見逃してしまっているだろうことも気になるところ。
カタルーニャ語の名前が多いせいか、キャストのカタカナ表記も、調べるところによって違っていて、何がより実際の音に近いのか、よくわからないので、このメルマガでは作品の日本語公式サイトの表記に合わせた。
カタルーニャ語であることが大切な作品ならば、そうした表記にはできる限り気に掛けたいと思う。が、普通の(といっていいのかさえわからないが)スペイン語の知識もないから、できる限りのことはほとんどないのだけれど。

というのは、横道にそれた話だが、その公式サイトの情報によれば、当時のスペインでは、パンの色が階級別に分かれていて、都市部か田舎かでも違っていたそうだ。大麦、トウモロコシ、キビ、ドングリなど、小麦以外に混ぜモノをした黒色のパンは、貧者の食べ物であり、精製された小麦粉を作った白パンは地主など富裕層しか食べられなかった。
本作のなかにも、アンドレウがおやつを食べさせてもらうのに、白パンを食べようとして怒られる場面がある。

黒パン=貧しい、田舎
白パン=お金持ち、都会
という図式は、子どもの頃に『アルプスの少女ハイジ』で覚えたように思う。都会からハイジがおばあさんのために白パンをお土産にするのだけれど硬くなってしまっていて、なんてエピソードはなかっただろうか。

そんな風に、パンの色を決められる人生は悔しい。
食べ物で目に見えぬ階級が露わになることは、「ルール化」されていないだけで現代にだってある。
興味深いのは、最近はむしろ、お金があって健康に気を遣う人は、そんなのっぺりと精製されたものを避けて、雑穀の入った田舎パンを好んで食べることだ。きっと技術の進歩によって、昔の黒パンと今の黒パンでは、食べやすさもおいしさもまったく違うのだろう。玄米や雑穀米を好んで食すことも同じだ。

昔のように、白は誰、黒は誰、と決められるのではなく、現代では、選択肢について、持つ者と持たざる者がいる。好みや気分や健康への気遣いに応じて、白でも黒でもおいしさや健康面で選択肢を持っている人と、経済的に、あるいは健康面やグルメ面での知識に乏しい選択肢を持たない人だ。

黒パンを食す層と白パンを食す層との間に対話を持つことは、以前は難しかった。アンドレウのように、黒パンの世界から白パンの世界へ向かう選択肢が目の前にやってくる人はほとんどいなかった。
その断絶は、今も変わらないのではないかと思う。
いろいろな色やタイプのパン・ご飯を好きに選べる世界と、画一的なひとつの穀物加工製品のイメージしかない世界と。

生きる世界ってなんだろう。そんなことも考える作品だった。

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2013年06月27日

No.257 屋根裏部屋のマリアたち

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            No.257   13.06.27配信
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★ 慣れきった世界から飛び出すと ★

作品はこちら
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タイトル:『屋根裏部屋のマリアたち』
製作:フランス/2010年
原題:Les femmes du 6ème étage 英語題:The Women on the 6th Floor

監督・共同脚本:フィリップ・ル・ゲ(Philippe Le Guay)
出演:ファブリス・ルキーニ、サンドリーヌ・キベルラン、
   ナタリア・ベルベケ
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■STORY&COMMENT
1962年、パリ。ジャン=ルイ・シュベールは、証券会社を経営する中年男。会社も住まいも祖父の代から受け継いで、ずっとそこに住み、そこで仕事をしている。ある日、先代から仕えていたメイドが妻のシュザンヌと折り合いが悪くて辞め、新たに若いスペイン人マリアがメイドとしてやってきた。その頃パリの上流家庭では、内戦の影響もあって大勢働きにきていたスペイン人が勤勉と評判だったのだ。
建物の最上階、屋根裏部屋には使用人が住む風習がまだ残っていた頃。シュベール家の住む建物の屋根裏部屋には、マリアをはじめ、近隣で働く同郷のスペイン人メイドが、仲よく共同生活をしていた。

半熟卵が完璧にゆでられていれば一日機嫌のよいシュベール氏。3分半きっかり、完璧に半熟卵をゆでるマリアの仕事ぶりにすっかり気をよくし、妻には内緒で高額の給料に承諾、彼の中でマリアの存在がどんどん大きくなっていく。

マリアが気にかかる彼は、スペイン人メイドたちが共同で使うトイレがつまっていると知れば、自腹で修理を頼んでやり、心にもかけなかった「スペイン内戦」について知ろうとする。
メイドたちの間では、ムッシュー・シュベールはすっかり人気者になって、親から継いだ会社と住まいから出たことのないシュベールにとっては、この新しい仲間との時間が楽しく大切なものとなっていく。

彼の変化は微笑ましく気持ちがいいのだけれど、観ていると心配になってくるんだなあ。いくらシュベールが心底親切心からメイドたちと関わってなにくれと世話をしても、所詮、住む世界が違う。子どもの頃からの習慣も、常識も、感覚も何もかも違う。
急速に仲よくなって楽しいときには目に見えなかった、あらかじめの断絶が、今露わになるか、今にお金持ちのだんなさまから無邪気に貧乏人を傷つける言葉が出てくるかと、いちいち心配が沸いてくる。
何不自由なく暮らしていた資産家が、ふとしたことで目を向けた弱者たちへの優しいまなざしが、決して計算ずくのものではなく、本心から向けられた美しいものだとわかるから、よけいに観ていると心配になってくるのだ。

マリアに抱く中年のかわいらしい恋心も、それが純粋な気持ちだとわかるからよけいに、それ以上深入りしたら傷つくよ、とハラハラする。

果たして私の心配がどうなるか、は、ぜひ自分の目で見届けて。
多少体調の悪い時に観ても、鑑賞後にぐったりしてしまうようなことはない、ということだけつけ加えておこう。

■COLUMN
気圧の変化で風が生まれて空気が流れるように、物語はなにがしかの不均衡がそこにないことには、動き出さないものだ。だから、何らかの形でバランスのとれない「ギャップ」が存在することは、映画作品の常だ。

そのなかでも、この作品は「ギャップ」を面白く見せてくれていると思う。
資産家と使用人というわかりやすいギャップ、そしてそのギャップを超えて別世界の人が関わり合う面白さはまずこの作品の肝だけれど、それだけでなく、たとえば夫婦間のギャップがある。

シュベール氏の妻シュザンヌは、夫の女の好みをすっかり勘違いしていて、いわゆる「セクシー美女」が近づいていることに的外れな心配をしている。夫婦の間の勝手な思いこみが生み出すギャップだけれど、こういうことって、夫婦に限らず、恋人、友人、いろんな人間関係でよくあることなんじゃないかな。あの人は自分のこういうところを気に入っているに違いないってのが、実際はそうでもなかったり。
自分の身の回りの人間関係を点検したい気分になる。

シュペール氏にとって、心地よい居場所がずいぶん違っていたというのも自分自身の認識のギャップだろう。祖父の代から同じ家でずーっと住んできて、そういうもんだと思っていたけれど、フロアを屋上に移して、メイドたちとわいわいやりながら、小さな自室を持ててはじめて、自分の居場所とはこういうものだったと感じる。

そして、自分の居場所を見つけ、新しい仲間たちを持った楽しさでまわりが見えなくなっているとはいえ、そういう変化に、家族や周囲の人たちがついてこられないことにシュペール氏自身さっぱり頓着しない、意識のギャップも、はたで眺める観客にとってはとても面白い。

ギャップのあれこれは、埋めたりもできるし、そのままにしておいてもそれを行動の原動力にすることもできる。ふと穴があいて、人生の中に流れ込んで、動き出した風に乗ることを気分よく見せてくれる作品でもある。

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