2012年10月11日

No.251 ミケランジェロの暗号

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欧 州 映 画 紀 行
               No.251   12.10.11配信
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★ 「完全なる悪」にならない塩梅 ★

作品はこちら
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タイトル:『ミケランジェロの暗号』
製作:オーストリア/2010年
原題:Mein bester Feind 英語題:My Best Enemy

監督・共同脚本:ヴォルフガング・ムルンベルガー(Wolfgang Murnberger)
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、ゲオルク・フリードリヒ、
   ウーズラ・シュトラウス、マルト・ケラー、ウド・ザメル
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■STORY&COMMENT
1938年、ウィーン。画廊を営むユダヤ人のカウフマン家は、ミケランジェロの
素描を隠し持っていた。ムッソリーニがイタリアの至宝と取り戻したがり、ナ
チスはそれを差し出すことを外交の切り札にしようと企む。
カウフマン家の息子ヴィクトルと、兄弟同然に育った使用人の息子ルディとの
長年の関係が、ユダヤ人ヴィクトルとナチス党員ルディとの関係となって、ド
ラマティックな「至宝のミケランジェロ争奪戦」となる。

幼なじみの親友同士が敵対者となって、ミケランジェロを巡った冒険活劇が繰
り広げられる。ナチスとユダヤ人の対決という緊迫の中から「ウソでごまかす、
ウソをごまかすシチュエーション」を生み出して、ときにシチュエーションコ
メディのような状況を見せながら、あっちに転びこっちに転びの、ハラハラと
するテンポのいいドラマになっている。

正直なところ、ホロコーストをこういうエンターテイメントのネタにしてもい
いんだろうか、という背徳感がつきまとって、心底楽しめないところもあるの
だけれど、それよりは、シーソーゲーム的な展開に、この後どうなるんだろう、
という気持ちが勝つ。
それだけに、終盤で訪れた「そこでもう1回逆転があるのか」というところは、
もうちょっと引っぱって、しつこくしてもよかったんじゃないかと思う(観て
ない人にはなんのこっちゃ、ですね)。
と、考えると、物語が動き出す前、前半の回想シーンは、もう少し短くして、
早めに「テンポのいいドラマ」にする方がよかったんじゃないのかな、とも。

こういうことって、二度以上観ないとわからないことも多い。そういう意味で
も、機会があったらもう一度観てみたい。
特に後半は「続きは?続きは?」と急かしたくなって、私のような臆病者は、
「怖いよう」と度々ディスクを止めながらの鑑賞になるようなサスペンス。そ
んなストーリーを欲しているときにぜひ。

なお、『ミケランジェロの暗号』という邦題からは、美術作品に隠された暗号
を読み解く知的ミステリーのイメージも漂うが、ミケランジェロの作品自体に
は隠された某かは特になく、インテリ諸氏のプライドと好奇心をくすぐるよう
な知的・謎解き要素はあまりない。

■COLUMN
エンターテイメントとして、痛快に「面白かった」といえるには、いろいろな
条件があるものだと思う。
上に書いた、「ホロコースト」をこうやって消費してもよいのか、考えてしま
うことも、エンターテイメントを成り立たせることを阻む要因だし、良い・悪
いという単純な構図以外のところでぐじぐじしてしまうこともそう。そして、
あまりにも単純過ぎてばかみたいになってしまうと、やっぱり「面白い」と言
いたくなくなってしまう。

ナチス党員となって、カウフマン一家を苦しめるルディはもちろん悪役だけれ
ど、小さい頃から、家族同然に過ごしたヴィクトルとルディは、どこか腐れ縁
的な友情を抱きながら敵対する。それが、原題(と英語題)の「マイ・ベスト・
エニミー」の由縁だろう。

カウフマン一家がルディとその親によくしていたことは本当で、ヴィクトルと
ルディが兄弟のように仲よく育ってきたのもきっと本当だ。
しかし、裕福な人を使う側が、使われる側の屈折に気づかないなんてことはよ
くある話で、ヴィクトルは小さい頃から仲よくしてきた友人と心底から思って
いても、ルディの側から見れば、どんなによくしてくれても「使用人の息子」
以上にはなれないことが屈辱でもあったのかもしれない。

そんな立場の人が、時代の雰囲気を感じとってナチス党員となり、社会でのし
上がっていこうとするのは、当然のなりゆきでもあるだろう。
その辺りの葛藤や屈折をもう少し絡めて、ルディを本当に悪役扱いしてもいい
のか、観客が悩むくらいのめんどくさい話になるのもいいんじゃないかと、私
は思うけれど、だけどもそうしてしまったら、痛快なエンターテイメント性は
失われてしまうし、これでちょうどいいのかもしれない。

ただ、作品の随所に、ルディを手放しでつまはじきにできないような要素は散
りばめられていて、作り手の意図としても、きっと、「完全なる悪」としたく
ないところがあるのじゃないかと思う。
結末も、完全な悪ではなくベスト・エニミーだよ、という救済になってるよう
に私には感じられる。だからといって、「時代が二人を引き裂いた」なんてい
う湿っぽい社会性からも周到に遠ざけられ、痛快さを保っている。

うん、ヴィクトルとルディの関係性を、ああでもない、こうでもないと考えな
がら書いていたら、わかってきた。
いろいろ引っ掛かかるところはあったんだけども、小難しくもならず、頭がか
らっぽな勧善懲悪にもならず、映画的リアリティとして、ちょうどよいバラン
スで作られている作品なのだろう。

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★DVD
『ミケランジェロの暗号』(DVD)¥3,114
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★コメントくださった方へご返信
Tanno さま
「見たい気になった」とのお言葉、ありがとうございます。
「みてもつまんないよ」という映画はやっぱり取り上げないわけで、
その映画が「タイプ」である人には、ちゃんと「みたい」と思ってもらえるよ
うに!と願いながら書いているので、何よりのお言葉です。
みたい作品を見つけるのに、今後とも役立てていただければ幸いです!

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2012年10月05日

No.250 パリ20区、僕たちのクラス

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欧 州 映 画 紀 行
               No.250   12.10.04配信
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★ それ以上でも、それ以下でもなく ★

作品はこちら
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タイトル:『パリ20区、僕たちのクラス』
製作:フランス/2008年
原題:Entre les murs 英語題:The Class

監督・共同脚本:(Laurent Cantet)
出演:フランソワ・ベゴドー(原作と共同脚本も)
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■STORY&COMMENT
様々な民族が混じり合って暮らすパリ20区。中学校の教室。様々な出身国、民
族の生徒たち24人のクラスで、教師フランソワは担任兼フランス語教師。新学
期がはじまったこのクラスで、毎日の生徒の反発、相互理解、いろいろある1年
を追う。

この作品、いい加減に風の噂を捉えていて、ドキュメンタリーだと思いこんで
いた。だいぶ前にWOWOWで録画をしておいたのを、何となく観だしたら、
「あれ、これはドキュメンタリーじゃないよな」と(生徒の成績について引き
継ぐ様子を映すところや、カメラの近さなどから)。観ながら手元のiPhoneで
検索したところ、フィクションであり、自分の教師体験をもとに書かれた小説
が原作で、その原作者のフランソワ・ベゴドーが主役の教師フランソワ役をやっ
ているらしいことがわかった。
だから、ドキュメンタリー並みに「学校現場の現状」を捉えていることは確か
で、観る人が「ドキュメンタリー?」と錯覚してくれるならそれが狙いでもあ
るんだろう。
実際、物語っぽくない、伏線もなんにもない、とりとめのない会話を淡々と映
し出し、地元の中学校で希望者を募って、7カ月のワークショップを通じて選ば
れたという生徒役は、白目剥いて寝ていたり、おしゃべりしていたり、ごくご
く自然に悪気のない不真面目な生徒たちを演じていて、本当に中学校のクラス
を覗いている気分になる。

教師モノというと、「熱血」「反発する生徒を粘り強く導いて最後は心を開か
せる」「自由を礼賛する教師が抑圧された生徒たちを解き放つ」など、とにか
く熱さを思い浮かべるけれど(私の教師モノのイメージは大昔の金八先生かロ
ビン・ウイリアムズの『いまを生きる』あたりで止まっているので、ひょっと
したら今は違うのかもしれない)、この作品はもっとクールダウンしている印
象だ。
いや、フランソワだって、退学処分を受けそうな生徒を擁護したり、書き言葉
としてのフランス語を正しく使うことに意味を見出せない子どもたちに、身近
なこと、自分のことを書かせて、「正しいフランス語」を使って表現すること
を一生懸命工夫して教えたり、実に誠実に仕事ぶりだなあと思う。

誠実に「フランス語教師」という仕事をしようとする人のやり方を淡々と映し
出し、生徒には反発やら退学危機やらが訪れるけれど、涙涙で打ち解けたり、
職を賭した熱意により職員会議を説得したり、というような場面はない。
ときにはちょっと失敗もしながら、誠実に真剣に自分の仕事をする人のその現
場を表現した、それ以上でもそれ以下でもない。それ以上熱くもそれ以上冷た
くもない、そんな物語だ。

私のこの説明で、観たくなっていただけるか、今書きながら、「そりゃあ難し
いかもなあ」と思っているところだけれど、他の作品ではなかなか味わえない
クールな観察ができるフィクション。新鮮な気持ちで楽しめる作品だと思う。

■COLUMN
「学校の教師というのは、お給料はあまりよくないけれど、自分の時間はとれ
る職業。収入が低くても自分の時間がほしい人が就く」と、フランス語の個人
レッスンをしてくれていた女性に教えてもらったことがある。彼女自身、外国
人にフランス語を教えながら(資格を持っているので)、中学校か高校で英語
を教えてもいた。そのかたわら、自分自身の学術研究も続けていて、その話を
聞いた頃、アメリカで研究をするための奨学金をとろうとがんばっている最中
だった。

この作品の原作者で主役であるフランソワ・ベゴドーは、2年間実際に中学校で
フランス語教師を勤めていて、そのかたわら(かどうかわからないけれど)執
筆活動をはじめて、ヒットした三作目『教室へ』がこの映画の原作だそうだ。
そんなプロフィールから、「作家になりたくて、執筆時間のとれる教師をして
いたのかな」なんて勝手な想像をしてしまう。日本だと予備校教師とか塾の先
生なんかにいそうなイメージ。

フランソワがどういうつもりで教師をやっていたか、はどっちでもいいことだ
けれど、この極めてドキュメンタリーっぽい作品の、メイキングや、フランソ
ワ自身の教育に関する考えや、実際のフランスの学校現場がどうなのかってい
うことには興味がある。
たとえば、作品中、教員の成績会議に、生徒代表として、2人の生徒が出席して
いる。そんな試みがほんとにされているのか、それに近いものは実際にあるの
か、知りたいところだ。実際にはないのなら、原作者の理想が反映されている
んだろうし、その辺の考え方も聞いてみたい。

また、演じた中学生たちが参加した7カ月のワークショップでは、どんなことを
したのか、ドキュメンタリーと見紛うばかりの自然な演技・態度を、生徒役た
ちがどうやって身につけていったのか、そんなことにも興味がある。

私は、映画作品やそれをつくった人について、舞台裏を知りたいとか、実際の
人柄を見てみたいとか、人に比べて思わない方だけれど、この作品ばかりは、
さまざまな次元・場面で「ちょっと、それ実際はどうなのよ」と思わされた。
なかなか評するのが難しい、やっかいな作品なのだけれど、「好奇心を刺激す
る」という点では間違いないと思う。

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2012年09月19日

物語をたどる

ロマン・ポランスキーの『ゴーストライター』を観ました。
多くの自伝を手がけた実績を持つゴーストライター(代わりに執筆する人)に、イギリス元首相の自伝を書く仕事が舞い込んだ。破格の値段だと編集者も大喜びだけど、前任者が事故死(?)していたり、不穏な雰囲気も……というサスペンス。

原作は映画公開前くらいに読んでいて、映画を観ている間中「どんな話だっけ?」と物語の筋を復習することばかりになってしまい、映画として楽しめたかどうかは、疑問でした。
映画のせいなのか、自分のせいなのか。
「知っているから」というのが大きいのだと思いますが、結末は文字で読んだときのがずっと怖かったですね。映像になってしまうとずいぶん軽くなるように思いました。

そんなわけで、いまひとつ楽しめなかったけれど、島の荒涼とした風景は好み。あの映像は物語の筋とは関係なく眺めているのがいい気分でした。

物語を復習するといえば……
新作が出ると、必ずってわけじゃないけれど、たいていは読む中島京子さんの、『宇宙エンジン』という聞いたことのない作品が文庫で出ていたので購入したところ、読んだことある作品でした。がっくし、しながらも、1ページ目で気づく私、エライ!と思ったけれど、なんのことはない、なんで1ページ目で気づいたかって、1ページ目の本文に、文庫になる前のタイトルである「エ/ン/ジ/ン」という言葉が載ってたから。

タイトル変更で「騙された」って気もしないでもないけれど、せっかくだから再読することに。
この再読、なんだかとっても不思議な感覚で、読むと、どのページも「ああ、読んだ読んだ」と思うのだけれど、先は思い出せない。初読(っていいますかね)のときにはいい加減に読んでたんだな、という言い方もできるけれど、楽しい再読になりそうです。
全部読んだら、初めて読んだ時のことも思い出すかしら。

新しいメルマガ、『パリ20区、僕たちのクラス』という作品で書こうと準備はしているのですが、なかなか書く事やら考える事がまとまりません。
だいぶ前に録画してハードディスクに入っていたのをこのあいだ観て、ちょっとびっくりしたんです。何となくの噂で私はこの作品をドキュメンタリーなんだと思っていたのだけど、観はじめて数分で、あ、これはドキュメンタリーじゃないよな、と。急いで手元のiPhoneで検索して、ドキュメンタリータッチだけれど完全なフィクションだということを知りました。
ドキュメンタリーとそうじゃないものの差ってどこにあるのかな、なんてところに考えも飛んだ鑑賞でしたが、まあ、それは置いておいて、近々に書き上げます。

思いついたことをつらつら。久しぶりのblogでした。
posted by chiyo at 22:22| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画メルマガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月27日

No.249 フランス、幸せのメソッド

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欧 州 映 画 紀 行
            No.249   12.07.26配信
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★ 無理解と不寛容と住む世界の壁の向こうに ★

作品はこちら
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タイトル:『フランス、幸せのメソッド』
製作:フランス/2011年
原題:Ma part du gâteau 英語題:My Piece of the Pie

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:カリン・ヴィアール、ジル・ルルーシュ、オドレイ・ラミー、
   ジャン=ピエール・マルタンス、ラファエル・ゴダン
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■STORY&COMMENT
長年働いていた工場が倒産し、失業してしまったシングルマザーのフランス。
ショックのあまり自殺未遂騒ぎを起こしてしまう。工場の仲間や家族に支えら
れ、奮起してパリで家政婦の仕事に就くことに。働く先は、羽振りの良い金融
トレーダー、ステファンの家。
大金持ちの金融屋で独身貴族のステファンと、工場労働者で3人の娘を一人で育
てるフランス。価値観も住む世界も違うけれど、しだいに妙にウマが合って……

いったい、誰だ。こんな脳天気な邦題つけたヤツは。

この映画では最終的に誰も幸せになんかならないし、むしろ世の中が無理解と
不寛容とでできていることを噛みしめるような作品だ。その噛みしめたところ
から、観客が心のなかで、無理解はほんとうに無理解で終わるしかないのか、
幸せには一筋縄ではいかないいろいろな形があるんでないのか、などと考える
ことは可能だし、たとえばフランスの達観したような笑顔でストップするラス
トの画から、希望を見出すことも、作り手の希望を受け取って欲しいとのメッ
セージを読み取ることもできる。
だがしかし、厚かましくもタイトルで表現することじゃあないだろう。

と、まあ文句はここまで。

ステファンというのは実に鼻持ちならないヤツで、お金は持っているから気前
はいいが、「人の心」ってものをさっぱりわかっていない。で、「わかりやす
い悪役」かと思いきや、そういうわけじゃなく、フランスのなんでも素直にぶ
つかっていく人柄に触れて、ステファンのキャラクターは、ちょっとずつ変化
していく。もしくは、観客には変化が訪れているように見える。
ステファンのように「人の心なんて知ったことか」な人も、金融界の上っ面の
人間関係に心を疲弊させてたりするわけで、出会うはずのなかった「住む世界
の違う」人が出会ったことによる素敵な化学変化が起きるのか……なんてワク
ワクとその後の進展を見守っていると。

そううまくはいかないんだ。

途中から事態は急展開。ああ、世界の両極端の住人はやっぱり理解し合えない
のか。世界で分ける大きなパイを、取り分多く持っていった者が全てを動かす
のか。

ネタバレせぬよう、皆までは言うまい。
「住む世界は違えていた方が平和だ」、「大金持ちと親しくなれるなんて浅は
かな夢を抱くフランスはバカだ」、「それでも連帯は美しい」
いろいろなメッセージを受け取る、もしくは自分のなかから呼び覚ますことが
できる作品だ。
各場面、細かい心の動きがよく伝わってくる、ていねいな描き方が終始心地よ
い。

誤解のないようにつけ加えておくと、決して重苦しい作品じゃない。コミカル
な場面がふんだんにあって、どの登場人物も人間くさくて、楽しめる一品。
私にとっては『しあわせの雨傘』『美しき運命の傷痕』なんかが印象的だけ
ど、カリン・ヴィアールという女優さんはずいぶん器用なんだなあ、とこれを
観てさらに印象を新たにした。

■COLUMN
セドリック・クラピッシュという監督さんは、かなり好きで、新しい作品がやっ
てくるとだいたい観ている。脚本も自分で書くことが多い映画作家で、どうし
ても物語の筋やら会話やらに重点を置いて観てしまう私としては、脚本のファ
ンなのかもしれない。

毎度毎度、コミカルに、でも人間心理を掘り下げるように描く作品群は、私の
好きなタイプの典型と言っていい。外国の作品だと、ヴィヴィッドにその風俗
や社会状況がわからないこともあって、こちらが気づけない細部があるだろう
と思うけれど、この人の作品は、ちょっとした喜劇を描いていながら、割と社
会状況を意識した内容が多いように思う。

『百貨店大百科』では傾いたデパートの再建をテーマに、『猫が行方不明』
はちょっと孤独で心を閉ざしがちな都会の「カタカナ職業」女性が、地域の人
たちとの交流やネットワークに楽しさを見出し『スパニッシュ・アパートメ
ント』
では、ひとつになるヨーロッパを描き出す。

どれも経済ニュースやひょっとしたら「白書」やらのネタになりそうなもので、
一人ひとりの身近な生活に影響を与える「社会」をつねに考えているのだろう。
その分、私などは、改めて考えるとずいぶん身につまされることも多い。『ス
パニッシュ・アパートメント』の続編『ロシアン・ドールズ』では、しがない
ライターになった主人公が、世の変化に合わせて英語で書かなくちゃならなく
なっていて、しがないライターで英語のできない私はビクビクするわけで。

仲間の手助け、人と人との力の合わせ方、なんかも、クラピッシュが「それで
も信じている」というものなんだろう。『猫が行方不明』でご近所のネットワー
クで主人公が変わることも、『百貨店大百科』でも、デパートの再建案の基本
は従業員が家族であり仲間でありして職場を活性化することだった。
この『フランス、幸せのメソッド』では、内容としては少ないけれど、要のと
ころで効くのは「フランスが勤めていた工場の仲間の力」だ。

みんなで力を合わせたり、人とうまいことつき合うのが下手だから、一人マイ
ペースの時間をつくりやすいフリーランスをやっている私は、こういうのもひ
じょうに身につまされる。ピンチのときに助けてくれる仲間、何はともあれ味
方になってくれる仲間……、私には未知の領域。

社会の閉塞がいろいろ言われているけれど、こんな社会を生き抜いていくには、
そうだね、ご近所、職場、など、物理的に近いところにいる人の力が、確かに
必要なのかもしれない。むむ、この先、どうする? 己を省みて己の明日を思
う私だ。


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2012年05月22日

久々の映画館『さあ帰ろう、ペダルをこいで』

去年、耳の病気をして以来、
大きな音が苦手で、映画館からはすっかり足が遠ざかっていた私。

「大きな音」といっても音源との距離とか、いろんな要素が加わるもので、
スピーカーを使う頻度が低い演劇は観られても、
音はすべてスピーカーで聞こえるところは不快に感じる、なんてことがあって、
映画館で映画を観るのはちょっと怖かったのだ。

もともと、DVDで観られる映画は家で観ればいいや、という出不精でもあり、
「映画館で映画鑑賞再開に挑戦」とは思えないでいた。

のだけれど。

日常生活で耳栓が手放せなかったのが、最近はどこに行くのもわりに平気になったので、
ふと時間ができたから思い立って、
公開がアナウンスされたときから興味を持っていた映画を観てきた。

「音」の方は、シーンによっては、耳をかばわないと辛いところはあったけれど、基本的には大丈夫。
約1年ぶりの映画館、楽しめましたよ。

観てきた作品は『さあ帰ろう、ペダルをこいで』

『アンダーグラウンド』『ウェディング・ベルを鳴らせ!』などエミール・クストリッツァ作品、『美しき運命の傷痕』『やわらかい手』等、ヨーロッパ各国の映画に出演するミキ・マイノロヴィッチが、今度はブルガリアの映画、というのに興味を持って、さらに、ドイツから自転車で故郷に向かう、というプロットが気に入って、観たいと思った。

ブルガリアからの移民アレックスは自動車事故で父母を亡くしてしまう。
一報を聞いてブルガリアから祖父が駆けつけるが、
アレックスは記憶をなくしてしまっていて祖父のこともわからない。
やがて記憶は取り戻さずとも信頼関係ができてくると、
祖父はアレックスにタンデム自転車(二人前後でこぐ自転車)でブルガリアに帰ろうと誘う。
ペダルをこぎこぎ行く道は、自分の来た道を思い出す道でもある。
アレックスが記憶を取り戻していくと、観客は、いっしょにこの家族に起こったドラマを知ることになる。

共産主義、タンデム、ロードムービー、バックギャモン、地続きのヨーロッパ……、
いろんなアイテムが散りばめられて、ちょっとずつ考えさせられるところもありながら、
すっきり娯楽として楽しめる作品。
いろいろ八方ふさがりでもなーんだか何とかなるかもしれないな、と心を軽くもしてくれる。
ネガティブ思考全開の私でさえそう思えるんだから、お墨付きだ。

豪快で常人ばなれして、強くて優しい、って祖父の役がミキ・マイノロヴィッチにぴったりだった。
バックギャモンのルールがわかんないのが、残念だな。知ってて観たらもっと面白いだろうに。


『さあ帰ろう、ペダルをこいで』
2008年 ブルガリア/ドイツ/ハンガリー/スロヴェニア/セルビア
監督・共同脚本:ステファン・コマンダレフ
出演:ミキ・マノイロヴィッチ、カルロ・リューベック

公式ホームページ:http://www.kaerou.net/
上映中:シネマート新宿、シネマート心斎橋
6月2日から:元町映画館(兵庫)

posted by chiyo at 22:53| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | その他映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

No.248 君を想って海をゆく

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               No.248   12.05.21配信
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★ 寛容ははるか彼方か ★

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タイトル:『君を想って海をゆく』
製作:フランス/2009年
原題:Welcome 

監督・共同脚本:フィリップ・リオレ(Philippe Lioret)
出演:ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、オドレイ・ダナ、
   デリヤ・エヴェルディ、ティエリ・ゴダール、セリム・アクグル
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■STORY&COMMENT
フランス北端の街カレ。4000キロを歩いてここにたどりついたイラク国籍の17
歳ビラルは、クルド難民だ。家族と共にロンドンに移住した恋人に会うため、
密航を試みるが失敗。カレの難民キャンプに足止めされてしまう。それなら、
泳いで渡ろうと、ビラルは、市民プールで水泳指導をしているシモンに出会い
コーチを受けることにする。
やがて、ビラルの目的に気づいたシモンは思いとどまるよう説得するが……。

「題名に偽りあり」の典型。いや、ビラルは恋人のミナに会うため、ドーバー
海峡を渡ろうとするんだから、確かに「君を想って海をゆく」わけだけど、タ
イトルがそれでは、恋愛映画みたいじゃないか。

この映画のテーマは、難民をめぐる寛容や不寛容についてだ。国を追われては
るばるやってきた難民たちを、やっかいもの扱いし、収容キャンプのような場
所に隔離し抑圧する行政と、そこで起きていることをよく見ず考えず、関わり
たくないと思うふつうの市民たちの実態、そして、うっかり1人の難民と関わっ
たばかりに、その実態を見て悩み、行動に移さざるを得なくなった主人公シモ
ンの心の変化を描くものだ。

「めんどうなことには関わりたくない」ごく普通の中年であるシモンの心の変
化には、おおまかにいって(かなりおおざっぱないい方だが)、2種類ある。
両方人との交わりに関することだが、1つは愛情について。妻のマリオンと離
婚調停中であるシモンは、結婚の失敗で心が荒んでいる。ビラルの純粋に恋人
を想う気持ちに影響されて、愛することの大切さを思い出し、硬直していた心
が少しずつほぐれていく。
もう1つは、他人を助けることについて。難民になど関心を持っていなかった
シモンが、実際に1人の少年と真正面から関わって、少なくとも自分のできるこ
とはやろうと考える。

そのマリオンは難民支援のボランティアをしていて、その活動に興味が持てな
いシモンとのあいだに溝があった。ある映画情報サイトのあらすじ欄では、ビ
ラルのコーチを引き受けるのは離婚調停中の妻に認めてもらえるのではないか、
と思ってのこと、とあったけれど、そういうわけじゃないと、私は思う。
「レッスン料を払うなら教えるよ」というごく普通のコーチのスタンスから、
その熱心さに、ビラル個人に興味を覚え、その背景や実情を見て、考えるよう
になったということじゃないのかなあ。たぶん、水泳には興味があるけれどそ
れ以外のことには興味がない「仕事人間」から、しだいに変化したのだろう。

原題の「Welcome」とは、シモンの家にビラルがいるのを見て、警察に通報する
隣人の家の玄関マットに書かれた文字である。

■COLUMN
このメルマガ、だらだらと書いていたわけだけど、その書いている途中に、た
またま観た映画も、少し時代は違うが、難民と彼らへの不寛容が描かれていて
(こちらの作品については近日中にblogでご報告するつもり)、地続きにいろ
いろな背景のある国があるヨーロッパでは、よそから逃れてきて滞留する人々
はつねに「今ここにある問題」なのだと思った。もちろん日本だって同様の問
題がいつだってあるのが。

圧政や戦争から逃れてくる人に同情することはできても、実際に役立つように
手をさしのべることは簡単なことではない。シモンの妻のように、ボランティ
ア活動という形で、自分の時間や体を使うことができる人はなかなかいない。
そして、その活動が当局によって禁止されるとあれば、それでもやろうという
人はさらに少なくなる。
このカレでの難民の問題は、事実にもとづいているらしいが、まずは国の政策
に寛容さがなくなりつつあるということだろう。そして、「レジスタンス」の
伝統を誇りに思うフランスでも、逃げてきた人々に手を貸すことは難しい。

「寛容さ」などと上から評しているけれど、同情だけではない本当に役に立つ
何かを、難民に対してできるかと考えれば、私にも無理じゃないかと思う。カ
レのように取り締まられる難民が大勢いる街にいたとして、やはり見て見ぬふ
りをしたり、「私にはなにもできないし」とため息をつくだけの一般人となる
だろう。
見知らぬ異国の人々に寛容でありたいと願っても、その実現はずっと遠い。

地続きに人が移動し、圧政や戦争だけでなく失業や貧困からも逃れて人がやっ
てくるヨーロッパでは、今、経済危機によって、各国はEUに加盟する隣人への
寛容な手続きを求められている。個人の具体的な行動ではなくとも崩壊しそう
な国を自分の国が経済支援することを認めなくてはならないこともあるだろう。
ギリシャ人だって大変かもしれないが、うちだって大変。
大半の市民の考えはそんなだろう。私でもきっとそんな反応だろう。
それなりに苦しくて追い詰められている人が、より追い詰められている人を支
えていく、そんな社会になっていくんだろうか、出口はどちらに? 糸口はい
かに? と答えの出ないことを考えさせられる、ここ数日だ。


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2012年03月29日

No.247 ソフィアの夜明け

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欧 州 映 画 紀 行
               No.247   12.03.29配信
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★ どこかで見たような、しかしどこにもなかったような ★

作品はこちら
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タイトル:『ソフィアの夜明け』
製作:ブルガリア/2009年
原題:Iztochni piesi 英語題:Eastern Plays

監督・脚本:カメン・カレフ(Kamen Kalev)
出演:フリスト・フリストフ、オヴァネス・ドゥロシャン、
   サーデット・ウシュル・アクソイ、ニコリナ・ヤンチェヴァ
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■STORY&COMMENT
ブルガリアのソフィア。38歳のイツォは木工技師。アーティストとしては挫折
中で薬物から抜け出すべく治療を受けている。ある日、トルコ人家族が若者グ
ループに集団で襲われているところを助けに入った。その一団には、しばらく
会っていなかった17歳の弟ゲオルギの姿が見えた。
閉塞感たっぷりの日常のなかでもがく人々が、そこに風穴をあける何かを見つ
け出せるのか。淡々と小さな変化を追う物語。

ブルガリアの映画というのは、ここで取り上げるのがはじめてだと思う。「ブ
ルガリア」らしい景色を観ようと思うならば、あまりおすすめはできないだろ
う。ローカルな特色よりも、とりあえず今日明日食べることには困っていない
けれど、自分の置かれた状況にも自分自身にも納得できずにいる「現代の都会
の閉塞感」が画面の大半を占めているからだ。グローバルに共通の景色だ。
ただし、それは、たとえばパリのエッフェル塔やロンドンのタワーブリッジな
ど、その都市といったらコレというような観光名所を知らないために、アイコ
ンとなるようなものが映りこんでいても「ソフィアだ」と認識できないだけか
もしれないけれど。

アートの世界でうまくいかない、薬物から抜け出すのが辛くてつい昼間からビー
ルを飲んで、恋人ともなんだかうまくいかないイツォ。家ではうるさくいわれ、
気が進まずとも仲間の集団に入らなくてはやっていけないゲオルギ。外国人を
襲う若者集団が裏では右寄りの政治家に操られているということなども含めて、
ストーリーや要素というのは、正直にいって、どことは定かでないけれどどこ
かで見たような気がするようなものでもあった。

そうは言ってもなんだか「ああ二番煎じ」と切って捨てられはしない魅力がこ
の作品にはあって、それは何だろうなあと考えていたんだけれど、「ああこれ
だ!」という答えには出会わない。
「こういうことなのかもしれないなあ」というものを言えば、
ひとつには、イツォが助けたトルコ人家族の娘ウシュルに惹かれていったり、
イツォとゲオルギが少しずつ家族らしく交わっていくなど、どうしようもない
閉塞感からに風穴があいていく希望がすがすがしいということ。ただ、閉塞感
に満ちた映画というのは、たいていそこから生まれゆく希望が描かれるもので、
決定的な理由ではないだろう。だから、より大きな要素は次のところにある。

描いている日常風景が、とても自然で、会話シーンもことさらに物語の展開を
進めるようなものではない。日常のごくありきたりのシーンが多い。ドキュメ
ンタリーを撮るかのように、たまたま切り取った日常の風景に、どこにでもい
る誰かがいるような印象を受ける。
その自然なシーンを度々目にして、登場人物の事情が少しずつわかっていくに
つれ、なんとなく映画のなかの彼らに話しかけたくなるんだな。家でのごちゃ
ごちゃに嫌気がさしている若いゲオルギにも、ついビールを飲んでるイツォに
も、異国での出会いに両親から理解を示してもらえないウシュルにも。「それ
はさー」なんておせっかいをして介入したくなってしまう。

そんな自分の日常に重ね合わせられる感覚、話しかけたくなるリアルさが、
「どこにでもある映画」にはならなかった理由かなー。

■COLUMN
自意識過剰といわれそうだけれど、自分の生活が映画のように(ここでいう映
画というのは、この作品に近いような、ドキュメンタリーのように何でもない
日常を切り取った映像)誰かに見られていたらどんな感想を持たれるんだろう、
と思う。

だいたい私も現代の閉塞感のなかで何かが違う、何とかしたいと思いながら何
もできずにいる脆弱な都会人で、私のような生活は誰にとってもろくなもんじゃ
ないだろうと思うけれど、人と話すと、私にとっては何でもないことが「いい
なあ」と言われることだったりする。
それは、全部を見ないでたまたまある部分を切り取って見るからでしょ。内情
もいっしょに見たらそんなことないでしょ。なんて当人は思うこともある。早
い話が、「あたしだってラクしてばっかりじゃないのよ、のほほんとしてるばっ
かりじゃないのよ」と小さく憤慨しているのだ。
だから、もうちょっとありのままの生活を人が見たなら、どう思うんだろう、
と考えるわけだ。

そう考えはじめると、不思議なもの。
「いいなあ」と無責任に(と当人は思うわけだ)言われるのがちょっぴり心外
だからこそ、映画みたいにもっと私の冴えない生活が他人にさらされたらその
つまらなさがわかってもらえるだろう、と発想していたのが、「つまらない」
と思われるより、ほんのちょっとでも、部分的でも「いいなあ」と思われると
ころがないかなあ、と考える。

そうすると、この生活を誰かがカメラを回して見ているとしたら、と考えるこ
とは悪いことじゃないように思える。ちょっぴりでも、ある一面でも「いいな
あ」と思ってもらえるような生活にしたいな、と上向きに考えられるから。

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メルマガ版ではこの欄を入れないで配信してしまったっ……
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『ソフィアの夜明け』¥ 3,024
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posted by chiyo at 20:01| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画メルマガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月05日

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(ただし本の方)

映画が話題になっている『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
小説の方を読んだ。

風のウワサで(映画の方のウワサだと思う)、
<「9.11」で父を亡くした息子の感動秘話>
と聞いていたので、
一般的に感動秘話にはあまり関心がなく、
特に「9.11」のニューヨーク市民の感動秘話には(例外はたくさんあるだろうけれど)興味を持てず、
父と息子的なものは、さっぱりピンとこない私に、向いた物語ではないのだろうと思っていた。

でも、映画云々の前に、原作の小説はとても評判がよいらしいことを
これもなんとなく風のウワサで聞いたので読んでみたわけだ。

一言。食わず嫌いしなくてよかった。

いわゆる「父と息子」譚ではなくって、
「父と息子」を含んだ
三代にわたる一族の物語。
ドイツからの移民であるおばあちゃんの話、
そしてその息子であり、テロで死んでしまうパパ、
ユーモラスな生意気さで語りながら、
主人公は大好きなパパを突然亡くしてしまった悲しみを抱えきれずに抱える。

第二次世界大戦、テロ、たくさんの書きつけられた手紙、紙に書かれた文字、
理不尽に燃える炎とその炎をますます大きくする紙、
それぞれが抱えきれずに抱える悲しみ。
共通のイメージが三代を貫いて、読み進むにつれてあっちの物語と、
こっちの物語が円環を作っていく様子が気持ちがいい。

あっちの物語とこっちの物語が一族のタペストリーのように織り込まれていくうちに、
抱えきれずにいた悲しみを少しずつ消化していく少年の成長も、
読む労力に足るというのも変な言い方だけれど、「読みがい」があるというか、
生意気な主人公のようにいえば読むレゾンデートルがあるというか。なんじゃそりゃ。

写真をはさみこんだり、行間がどんどん狭くなって字が重なっていく手帳を
そのまま活字で表したり、そういうビジュアルのしかけも、うまくはまってる。

そういう視覚的な見せ方も、視点や時間空間を移しての群像劇的な要素も、
確かに必ず誰かが映画にしたくなる物語だと思う。

願わくば、もうちょっと長いといいな。
この倍くらいの量があっていもいい。
500ページくらいあったと思うけれど、それでも途中でずいぶんはしょった感じがする。
その分、エピソードを直接書くんじゃなくて、誰かに報告する、告白する、という形で見せるという
ヴァリエーションが増えて厚みがあるという点はあるけれども。

おじいちゃんの40年にはもっと肉付けがあってもいいし、
おばあちゃんのお姉さんやお父さんのことも、もっと知りたいかなあ。
ママの話ももうちょっと聞きたい。
いや、それじゃあバランスが悪くなるか。うーん。

いい時間を過ごさせてもらった小説。読もうか迷ってる人がいたらおすすめ。


posted by chiyo at 23:10| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月05日

インプットとアウトプット

毎度おなじみ
ご無沙汰しております。

2012年、ぽんぽんと2号続けてメルマガの発行できたので、
お、こりゃあ今年はひょっとしていいペースで書けるかしらんと思っていたら、
またすっかり時間が経ってしまいました。

確か、前回のメルマガ、『しあわせの雨傘』を書いていたときだと思います。
なかなかうまいこと考えにまとまりがつかないし、
言葉が出てこなくて、原稿がちっとも進まなかったのです。
埒があかないから、ぷいっと原稿は放っておいて、しばらく寝かせておくことにしました。

で、ぜーんぜん関係ない本を読んでたら、急に、件の映画について言いたいこと、
こんなことを書いたらいいんじゃないか、ってなことが頭の中にあふれてきたんです。

「書けない書けない」と無理にひねり出そうとしても書けないもので、
何かべつのものを自分のなかに入れたら、いろんな思いが出てきたわけです。
思えばその前も、仕事で原稿を量産していて、何かをインプットするひまがなく、
ただただ時間に追われるままにひたすらひねり出してアウトプットを続けていたわけで、
そういうことをずっと続けていると、言葉もアイディアもすっかり出てこなくなるんでしょう。

ひねり出しても出てこないときには、なんでもいいから入れてみる。
できれば、ひねり出そうとするものにまるで関係なくても自分の好きなもの。
そんなことを思ったのでした。

なんて「創作のヒ・ミ・ツ」めいたことを言ってるわりには、
『しあわせの雨傘』は、結局あんまりうまく書けなかったなあとぐじぐじしてるのですが。


さてさて、
次にとりあげる予定の映画。
観たのはずいぶん前なので、果たしてちゃんと思いだして書けるかどうか、
自信がないのですが、
『君を想って海をゆく』
『ソフィアの夜明け』
この2作を準備中です。

『君を想って海をゆく』
恋人のいるイギリスまで英仏海峡を泳いで渡ろうというお話だから、
うーん、確かに君を想って海をゆく(犬じゃないですよ)けど、
そういう話だと思って観ると、もっともっと複雑で社会問題の絡むお話だし、うーん。
てな作品。

『ソフィアの夜明け』
ブルガリア映画ははじめてじゃないかしら。
都会に暮らす若者の閉塞感が画面からあふれる雰囲気は、
どこかでしばしば見かけたな、というのは否めないのだけれど、
観た後も、じんわりくる作品でした。

2作品とも、現代的なテーマである「国と国の交わり」が絡んでます。

いつ頃と告知はできませんが、
近いうちに、配信する予定です。



posted by chiyo at 20:15| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 身辺雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月19日

No.246 しあわせの雨傘

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欧 州 映 画 紀 行
              No.246   12.01.19配信
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★ きっと現実にはならないんであろう「リアリティ」 ★

作品はこちら
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タイトル:『しあわせの雨傘』
製作:フランス/2010年
原題:Potiche 

監督・脚色:フランソワ・オゾン(François Ozon)
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、
   ファブリス・ルキーニ、カリン・ヴィアール、
   ジュディット・ゴドレーシュ、ジェレミー・レニエ
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■STORY&COMMENT
1977年、フランス、地方のとある町。スザンヌは、雨傘メーカーを経営する夫
のロベールと暮らすブルジョワ主婦。優雅な毎日だが亭主関白な夫におとなし
く従うだけの日々には納得できていないところもあった。そんなある日、工場
でストライキが起こり、ロベールと労働者側の対立がエスカレートし、ロベー
ルは心臓発作で倒れてしまう。急遽代理で経営者となったスザンヌは意外にも
労働者たちのハートを掴み、業績を大幅に改善させることに成功する。そんな
矢先に、ロベールが退院して……

とーっても小気味よいコメディだった。

赤い「これこそジャージ」みたいなジャージでジョギングして、出会った森の
動物たちをネタに詩を書くのが趣味だったスザンヌが、夫の病気をきっかけに
どんどんと会社を動かしていくのかと思えば、そう簡単にはコトは進まず。あっ
ちに傾きこっちに傾きのストーリー展開も楽しく、「保守的」に見えた人が実
はさにあらず、「進歩派・革新派」に見えた人がこちらはこちらでさにあらず、
そんな皮肉めいたキャラクターの現れ方も面白い。

これは人にもよるかもしれないが、ロベールにしろ、息子と娘にしろ、左翼の
市長パパンにしろ、誰一人憎まれるような悪人でも、かわいそうにと同情され
るような人にもならないところもいい。ぐじぐじしなくてすっきり笑える。
スザンヌの世間知らずらしい天真爛漫さも、嫌みがない。
そして「いやいやそんなことないだろう」と眺めながらも、あれ、ひょっとし
たらこんなことも現実に起こるかな、と一抹の思いがかすめるような、「ほど
よく」大げさな展開が、私は好みだ。

原題の「Potiche」は実用性のない飾り用の花瓶や壺のことで、転じて「お飾り
の妻」の意味なのだそうだ。そんなアイデンティティがなく、娘からも「ママ
みたいになりたくない」なんて言われていたスザンヌが自分自身の力で生き生
きとできる居場所を作っていく。これを小気味よく感じるのは私が女性だから
なのかもしれない。男性陣は皆どこか情けなさを醸し出すのは、オゾンの好み
なのか。
「男女の違い」をことさら言うのは、ほんとは私の信条ではないのだけれど、
この映画に関していえば、男性が見ても引っかかりなく楽しめるのかな、てと
ころが興味ある。よかったら、男性の感想を聞かせてください(もちろん女性
からの感想もね)。


■COLUMN
ありそうでなさそう、いやないだろうけど、あるかもしれない、いやいや……、
そんな絶妙なリアリティをもつ物語が私は好みだ。上に書いた「ほどよく」大
げさ、というのも、そのひとつ。いやそんなことにはならないだろう、と思う
けれど、ああ、そうなったら面白いよね、いいよね、という心地よい大げさ。

と、書いて考えたのだけれど、よく人は、自分にとって面白いか面白くないか
を「リアリティ」という言葉を使って表すように思う。軽々しく「人」と一般
化したらいけないかもしれないが、少なくとも私はそういうことがある。
ここでいう「リアリティ」というのは現実になるかどうかの可能性ではなく、
ドラマとして、「作り事のお話として」どれだけそれを本気で信じられるか、
というような意味だ。
現実っぽいかどうか、ではなく、それをいかに信じられるか、つまり、ストー
リーの展開にどれだけ引き込まれるかどうか、というような意味。だったら最
初からそういえばいいのだろうけれど、それを「リアリティ」という言葉に託
したくなるのは、ひとつには「引き込まれた」ていう個人の主観っぽい言い方
より、「ドラマの持つリアリティ」なんて言う方が、客観的でちゃんとしてそ
うだから。
もうひとつは、そうやって引き込まれる展開というのは、ひとつひとつのセリ
フ、その応酬、俳優の声や表情、などなど、物語を積み重ねていくあいだに、
取りこぼさず、その都度本当らしさを守りながら、作品を進めていって生み出
されるものだからだ。
こう言って、こう答えて、こんな顔になって、だから、この結果になる……、い
ちいち納得するというより、いちいち引っかかることなく、するりと心に入っ
てくる。

それはたとえば、とても個性的な登場人物が普通の人は言わない/やらないよ
うな突飛なことを言い出した場合も含む。それは、人物描写の積み重ねが、突
飛なことも「その人ならそういうことを言う/やるかも」「さもありなん、あっ
たら面白い」に感じさせて生まれるリアリティだ。

フィクションのリアリティは、必ずしもそれが現実に起こるかどうかではなく、
そう信じさせてくれるか、そうなったら面白いと思えるか、が基準になると思
う。
私だけじゃなく、そういう意味でフィクションについて「リアリティ」を使う
人って、注意して観察するとけっこういるんじゃないかと思うんだけどな。


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★DVD
『しあわせの雨傘』(DVD)¥3,683
コレクターズ・エディション<2枚組>
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http://amzn.to/AhMb9F
コレクターズ・エディション<1枚組>

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