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欧 州 映 画 紀 行
No.255 13.01.10配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
★ まぜこぜの人間模様を間近に眺める快楽 ★
作品はこちら
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タイトル:
『君のいないサマーデイズ』製作:フランス/2010年
原題:Les peties mouchoirs 英語題:Little White Lies
監督・脚本:ギョーム・カネ(Guillaume Canet)
出演:フランソワ・クリュゼ、マリオン・コティヤール、ブノワ・マジメル、
ジル・ルルーシュ、ジャン・デュジャルダン、ロラン・ラフィット
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■STORY&COMMENT
毎年そろってバカンスに出かける旧知の仲間たち。家族がいれば配偶者や子ど
もたちもいっしょに。恋人がいればいっしょに。そんな彼らだが、今年の夏は
仲間の一人が交通事故で重傷を負って入院してしまった。
「少しでもそばにいたい」「でも集中治療室で面会できるわけじゃない」など
など意見が分かれ、「じゃあ1カ月の予定を半分にしよう」との折衷案で、海辺
へ繰り出す……。
前回、年末にとりあげたギョーム・カネ監督作品、引き続き。
昔はね、同じ監督の作品は1年、少なくとも半年は取り上げない、なーんて縛り
をつくってこのメルマガやってたもんですよ。最近じゃ、同じ監督だろうが同
じ国の作品が続こうが、出すことが第一!
おまけにバカンス映画ということで、季節外れではあるけれど、とても気に入っ
たから、ぜひ取り上げたいと思った。
と思ったものの、ちょっとこれで書くのは難しい。ストーリーらしいストーリー
はないし、群像劇で登場人物の関係がわかりにくいところも多い。ネットで検
索してみると「何がいいたいのかわからなかった」「あの結末はなんだ」といっ
た文句も見かけた。まあ、その意見もよくわかる。おまけに2時間30分以上とい
う観はじめるのに覚悟のいる長さ。
その長さに怯んだ私だったけれど、「半分ずつか3回に分けて観ればいいか」と
再生ボタンを押して、いやいや、全然中断なんてしようと思わず一気に観ちゃっ
たんだ。
レストラン経営で成功したマックスは、バカンスの別荘や食費を提供して皆を
招待する形になっているが、しじゅう「仕事人間」特有のイライラを振りまい
ている。そのイライラには実は、数日前にヴァンサンから「君の手が好きだ」
とゲイのような(本人はゲイではない、と言っているが)告白を受けたせいも
含まれる。マックスとヴァンサンはケンカでもしたのかと、仲間たちは気にし
始める。
マリーは、どうやら事故で入院中のリュドとつきあっていたことがあるらしい。
しかし今は、いろんな男をとっかえひっかえの生活だ。
エリックは、恋人のレアが来ないことを皆には「仕事が忙しくて遅れてる」と
説明するけれど、実はうまくいっていないらしい。
アントワーヌは崩壊危機の恋人からのメールを皆に見せて「他の人には内緒」
と相談しまくっている。
それらのちょっとしたイライラや隠しごとは、夏のバカンスのバカ騒ぎにかき
消されたり、いつまでもくすぶっていたり。バカンスを過ごすうちに解決され
るものもあれば、なあなあになっているものもあるし、ひょっとしたらより悪
く着地したか?というものもあって、一方できっといい方に向かっていくんだ
ろうな、と希望を指し示して終わるものもある。
何かがはじまって、何かが終わって、という整然とした物語とはかけ離れてい
るから「何がいいたいの?」という感想も出てくるだろう。
でも、じたばたしてる人間たちの姿を間近で眺めているのが私にはとても心地
よい。整然としないからこそ、彼ら一人ひとりに愛着がわく。
彼らが何をしている人なのか、関係性がわかりづらくて入り込みづらいという
感想も見かけたけれど、長年の友人関係って、仕事を何しているとか、今誰と
つき合っているとか、そういうことをいちいち気にしないというか、そのこと
でいちいち関係が変わらないものじゃないだろうか。そんな関係性を、これま
た間近で眺めているのが楽しかった。
苦くて辛いものもあるのだけれど、最後に集った彼らの一人ひとりを見て、自
分のなかの何かが洗われたように、彼らと等しい涙を流したように、錯覚でき
る作品だった。
■COLUMN
この作品を観ていて思いだした映画がある。『愛する者よ、列車に乗れ』とい
うパトリス・シェロー監督の1998年の映画だ。
カリスマ性のあった画家が死去し、その遺言に従って葬儀に赴く縁者たちが、
列車の中、葬儀の会場でと、いろいろに人間模様を展開する。ぐちゃぐちゃと
した群像劇で1本通ったストーリーがなく、登場人物の関係を把握するのが難し
く、でも観ていると最後に不思議な開放感と高揚感につつまれる作品だった。
DVDが発売されたらすぐ買いたいくらいには好きなのだけど、やっぱりこの作品
も「訳わからん」といわれて評判はよくなかったように思う。というわけで
DVDが出ることはないんだろうなあ。テレビで放映していたのを録画したものは、
あのDVDがごっちゃりと入っている棚にはあるはず、だけど。
……話がそれた。
この作品を思い出したのは、上述のように作品スタイルや観た後の感じが似て
いること。もう一つは、テレビで放映されたこれを観ていたら、出演者のクレ
ジットに「ギョーム・カネ」と出てきて、「え、どこに出てたの?」と慌てて
戻して確認したことの印象が妙に強く残っていたからだ。
結局「ヒッチハイクの若者」という、今の状況を第三者に説明してわかりやす
くするシーンをつけ加えるために作られたようなチョイ役で出演していて、そ
のころ彼はまだ駆け出しだったのだろう。私がテレビで観たそのときには、す
でに主役を張る有名俳優だったから、驚いたのだ。
なかなか観られる機会は少ないと思うけれど、『愛する者よ、列車に乗れ』、
この『君のいないサマーデイズ』を気に入った人はきっと気に入るんじゃない
かと思う。
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編集・発行:あんどうちよ
筆者について
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