欧 州 映 画 紀 行
No.252 12.11.29配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
★ 復讐心のわき起こるときを散りばめて ★
作品はこちら
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タイトル:『未来を生きる君たちへ』
製作:デンマーク・スウェーデン/2010年
原題:Hævnen 英語題:In a Better World
監督・原案:スザンネ・ビア(Susanne Bier)
出演:ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム、
ウルリク・トムセン、ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン、
マルクス・リゴード
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■STORY&COMMENT
デンマーク。少年エリアスがひどいイジメに遭っている学校に、母を亡くして
祖母の家に引っ越したクリスチャンが転校してくる。イジメを目の当たりにし
たクリスチャンは、イジメの首謀者に報復して二度とやらないと約束させ、二
人は仲よくなる。
アフリカ難民キャンプ。エリアスの父アントンが医療活動に従事している。そ
こでは「ビッグマン」というならず者に妊婦の腹が切り裂かれて運ばれてくる
という事件が続発している。
やり過ぎの報復を学校からたしなめられ、クリスチャンの父は復讐の連鎖は愚
かだと諭す。しかしクリスチャンは、やり返さねばだめだと反発する。
難民キャンプには、ならず者「ビッグマン」が運ばれてくる。アントンを慕っ
ていた難民達は、「あいつを治療するなんて正気か」と不満を叫ぶ。
一時帰国したアントンが、エリアスと弟、クリスチャンを連れて遊びに出かけ
ると、ヤクザ者に絡まれる。クリスチャンは相手の素性を調べて、やり返すべ
きだと説得しようとする。
原題は、「復讐」という意味だそうだ。
イジメへの報復、大勢をふみにじったモンスターのような人間への憎しみ、絡
まれたらやり返せとまっすぐな目で見つめるクリスチャン。さらに母の死に関
してクリスチャンが抱えているらしき父へのわだかまり、別居状態のエリアス
の両親。場所を変え、形やスケールを変え、さまざまな復讐心や憎しみ・恨み
の気持ちが登場し、「私たちはどうすればよいのか」という普遍的なテーマが
展開する。
スザンネ・ビア(以前はビエールと表記されていたが)作品は、以前にも『し
あわせな孤独』『アフターウェディング』を取り上げたことがある。この監督
の作品は、必ず大きな問題をつきつけられて考え込まされることになる、体調
の悪いときには観たくないタイプの映画だ。そして、その考え込むことという
のは、観客一人ひとりが元から持っている考えや経験や気持ちを揺さぶってく
るからで、結局映画の方では面倒なものをつきつけるだけつきつけて、つきつ
けっぱなし、ということが多い。
そのやり方を「ずるい」と感じて、またメロドラマばりの設定に辟易して、1回
観ると当分いいやと思う、そんな映画作家でもある。だが、決して無視できな
いやっかいな作品をつきつけてくる……以下ループ。
今回も、憎しみという気持ちをどうするのか、報復は憎しみの連鎖に過ぎない
のか、じゃあ泣き寝入りすることが賢いのか、クリスチャンの父がいうように
復讐することは愚かな戦争を始めることにつながるのか。重い普遍的なテーマ
が並び、仲よくなった少年二人の仲を切り裂くような出来事が起こったときに
は「こんなに重苦しいところに行っちゃってどうするんだ」と信じられない気
持ちになった。
が。
終盤、なぜか「母を亡くして傷ついて人を信じられなくなった少年の再生の物
語」に集約して、難民キャンプでの報復や、やられたらやりかえすべきなのか
といったテーマはどこかに行ってしまう。
正直なところ肩すかしくらったようで「何だそれ」という気持ちなのだけれど、
その分、未来を感じられる登場人物の変化に涙して解放される気分は得られて、
スザンネ・ビア作品を観た後特有の、「なんかイヤなものを観てしまった」感
がなく、某かが解決されて気分の高揚する満足感がある。
今までの傾向から勝手に身構えた私が悪いかもしれない。
傷ついた少年の心が、誰かを信じて生きる力を取り戻したことに喜びながら、
今度は観客側が、周辺にあったやっかいで普遍的な問題を考える力を持とうよ、
とそういうことかな。
やっかいな問題をつきつけることと、映画としての収まりのよさと、バランス
をとった結果がこの作品なのかなあ。ちょっと納得いかないんだけどね。
■COLUMN
上記コメントが長くなりすぎたので、コラムはほんの少し。
エリアスと仲よくなりそうな転校生として自身も標的になりそうになり、いじ
め集団の首謀者に対して行うクリスチャンの報復行為は、けっこうヘビーな暴
力沙汰。もちろん映画のなかでも親が呼び出されて騒ぎになるわけだが、日本
だったらもうちょっと大騒ぎになって、問題行動を起こす生徒として監視され
るくらいじゃないか、あるいはもうこの学校には通えないとか。
さらに、町のヤクザ者の素性を調べて報復するクリスチャンの行為は、子ども
のいたずらは軽く超えたレベルのもので、もうちょっと大事になってもおかし
くないんじゃないかと思うが、そうはならない。
外国人たる私は、デンマークがこうした社会体制なのか、これは映画のなかの
できごと、作り手の発想と若干のご都合主義が入ってのことなのか、わからな
い。
根拠はないけれど、それぞれ半々なんじゃないかな、と思っている。
タイトルが「復讐」であり、数々の復讐したくなる行為を散りばめた作品では、
その次に作り手と観客は必然的に「ゆるし」について考えていくことになる。
クリスチャンのやったことを「取り返しのつかないこと」にせず、再生、やり
直しを静かに促していくのは、数々の散りばめた復讐したくなる行為への直接
の答えを出すわけではなくとも、数々のゆるしを必要とする行為を散りばめ、
寛容について考えさせてくれることだとも思う。
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